─プロローグ─
「850円になります」
「は、はい……」
俺は緊張しながら財布から金を取り出す。ふー。高校生にも普通に売ってくれるんだな、こういうの。
俺は薬局を出ると、外の薄暗い街灯の下で待っていた妹に声をかける。
「ま、待たせたな」
「ん……ちゃんと買って来た?」
「あ、ああ。で、でも本当にするのか?」
俺がびくついた声でそう尋ねると、桐乃からキツイ声が返る。
「いまさら何言ってんの? せっかくお母さん、今日は帰ってこなくなったんだから」
「……でもよ、こういうのってこんな風に勢いでやっちゃ駄目なんじゃねえか?」
「何よ。あんた、あたしが望むようにしてやるって言ったじゃん」
「そりゃ、言ったけどさあ……」
「もう、グズグズうるさいなあ。だってその調子だと、あんた明日になったらまた、言ってる事変わりそうなんだもん」
くっ……こいつめ。痛いところを……そりゃそうだろう。こんなの何日悩んだって、悩みすぎなんてこたあねえよ。
しかしそんな俺の気持ちとまったく逆の事を桐乃は言った。
「とにかく! ちゃんと今日のうちに、既成事実を作るの!」
そんな桐乃の宣言に、俺は頭を抱えながら、なぜこうなったのか、ここ数日の事を改めて思い出していた──
最終更新:2010年05月22日 23:09