第十章-第三幕- ハッピー・バース





とりあえず落ち着いてくれたネイに、勇者軍主力部隊一同は質問する。
『一体あんたは何をしに来たのか』と。それこそがロバートの、
いや全員の最大の疑問である。作戦がたった今終了したのを
知らなかったのは仕方ないにしても、これはいくら何でも唐突であった。
その真実と真相が今明かされようとしていた――
「そうそう、それだよ! この子にプレゼントを届けに来たの!」
嬉々として自らの息子を指差すネイ。
「これの事か?」
ロバートは押し付けられたストレンジャーソードを突き返す。
「人の話は最後までちゃんと聞きなさいって言ってるでしょ!」
ごん。
頭を拳骨で叩かれた。ちょっと鈍い音がした。
「ぬぅぉぉぉぉッ、痛い! 頭が割れる!?」
「ロバートさん、じっとして下さい!」
慌てて治癒の呪文詠唱を中断してしまったエナが窘めるが、
相当なパワーの拳骨である。常人なら死んでいておかしくない。
じっとしていろ、というのもどだい無理な相談である。

「ていうかあんたこそ人の話をちゃんと聞けよ!
 いきなり攻撃してきやがって!」
思わず反論するロブの口を、エリックが塞ぐ。
「あーもう落ち着けって。話が進まないから。
 で、一体何でまたプレゼントなんだ?」
「バースデープレゼントだよ!
 任務完了を見越してのお祝いも兼ねて!」
「……あ?」
ロバートとウォルフ王子、それからマリーとエリックが
間抜けな口をぽかんと開ける。呆れた表情だ。
「俺の誕生日は三ヶ月前に終わっとるわ! 何言ってんだ!」
「総帥……お疲れでしたらホテルを手配しますので」
「おいたわしや、総帥……こんな馬鹿息子がいるばかりに……」
「おい、ネイ? ボケるには早いぞ?」
四人揃って言いたい放題である。
「だーもう! 違うの! ロブ、あんた覚えてる?
 自分が四歳と五歳の時に、何を欲しがったのかを!?」
「うえ!? そんな前の!? 覚えてねーわー……」
それを聞き、ネイはパチンと指を鳴らす。

ざりっ、ざりっ。

近くの林から歩行音が聞こえる。獣のそれである。
「みゃ~……」
出てきたのは一匹の猫であった。しかし――
「うおっ、でかっ!?」
マンチカンの子猫? と思しきそれはサイズが尋常ではない。
軽く全長七メートル級である。紐がくくりつけられており、
その上には一個の籠が積載されていたりする。
「あんたが四歳の頃に『おっきな猫さんが欲しい』って言ったでしょ?
 勇者軍研究部の技術の粋を結集して生み出した遺伝子調整猫、
 その名もジャンボマンチカンの『ジャンボ』だよ!」
「いや誰もこんなデカいのよこせたぁ言ってねぇよ!?」
珍しくツッコミに回るロバート。
親子揃って非常識甚だしい連中であった。
「てか、その上の籠は何なんですか?」
アイゼンカグラが指摘する通り、籠はもぞもぞと揺れている。
「そっちは五歳の時に『弟か妹が欲しい』って言ったでしょ?
 なんとか頑張って出来た弟だよ。名前はジョゼフ。
 家にいる時は可愛がってあげてね!!」
ロバートが確認すると確かに赤ん坊――男児が乗っている。
「俺の……弟?」
「そう、弟。久しぶりの出産だから頑張っちゃったよー」
にこやかに微笑む母親。恥じらいは全く無いが、
それは言わないお約束というものであろうか。

「おい……弟。初めまして、だな?」
とか言いつつ、ロバートはジョゼフのほっぺたをつつく。
「ふぇっ」
知らない相手が出てきてびっくりしているのだろう。
ジョゼフは今にも泣きそうだ。
「うぉっ、馬鹿、泣くな。焦る……!」
慌てて抱き上げてゆすったりなだめたりしてみる。
初めてにしてはなかなかの手際である。
次第に落ち着き、泣くのをやめるジョゼフ。
「よしよし……」
なんとか泣かせるまいと、マリーやエナも手伝う。
なんだかんだ言っても、二人とも慣れていない。
故に無理があるのは仕方が無いだろう。
「まだまだだな、二人とも」
「しょうがないよ。まだ母親じゃないからね」
人の親という立場上のエリックとネイは笑う。

「にあー」
よちよち歩きだが、(主に大きさのせいで)異常な迫力のジャンボは、
さっそくアンリ姫に可愛がられていた。
「ロブは幸せ者なのじゃ。自らのためにここまで無茶をしてくれる
 御母堂殿がいるのじゃ。それはとても良い事じゃな? メゴ」
「いや、それはいいんですけど……ひょっとしてこの猫は
 もっと大きくなるのではないでしょうね……?」
その疑問にはネイが答える。
「研究部が言うにはそれは子猫だから、あと三メートルほど
 最終的には大きくなる見込みらしいね。どう、ロブ?」
「……これはウチの資産で飼うつもりか? 家が破産すんぞ」
「何言ってんのこの子は。全部経費に決まってるだろ?」
「より一層ダメじゃねーか!」
「ふぇー!」
大声を出したのでジョゼフが泣き出した。
「おっさん、パス!」
「ああもう、手際悪いなオイ! よしよーし」
エリックに任せて、安心してロバートは頭痛に悩む。
「嬉しいかい?」
「……律儀だよ、あんたは」
頭を抱えながらも、かろうじてロバートは答えた。
なんだかんだ言って約束を守ってもらって悪い気はしないのだ。
その答えに満足し、ネイはロバートの頭を撫でるのだった。
「ハッピー・バースだね、ジョゼフ?」
「あぅー」
エリックに抱かれて笑うジョゼフ。
悲しみを乗り越え、幸福へ至る道が出来るかどうか、
それはこれからの彼等自身にかかっているのだった。

「さあ、まずは任務終了の手続きだよ、アーム城へ帰ろう!」
「イエス・マム!」
ネイの宣言にロバート以下、一同が元気良く応じる。
まずはこれで一件落着であった。
勇者軍主力部隊は、任務を終え、帰路につく――



第2部へ続く>