つかう→セルフ

タイル張りされた廊下の上を、上条当麻が歩いていた。
彼の歩にはどこか力強さが感じられ、普段の無気力さ――窮地の女性を救う時を除く――は見られない。
故に、それは気まぐれな散歩などではなく、明確な目的を目指しての歩であった。

「ここか……」

目的の教室の前に立った上条はそう呟く。
ここだ。
ここにいるのだ。
ここにこそ、まだ見ぬ彼の親友……否、心友がいる。

(ふっ……会ったこともない相手なのに心友とは、上条さんも詩人だぜ……あれ? むしろナルシスト?)

廊下を歩く周囲の生徒の奇異の視線を受けながら、キザったらしくにやけていた上条はそのまま勝手に鬱モードへ。
そして出る。定番の台詞。

「不幸だー」

だがそれもまた、これから会う相手が心友であることを裏付ける要素に他ならない。

「……ふ、ふふふ……うふふふふ」

気持ちの悪い声を漏らしながら、上条は一つの知識を思い出す(上条は記憶喪失なので、どこで聞いた内容かまでは思い出せない)。
彼の右手……あらゆる幻想を打ち消す力を有するそれは、幻想殺しと呼ばれている。
異能の力であれば何でも消去可能な絶対の盾はしかし、
『【神様のご加護】などと呼ばれる【幸せ】をも打ち消してしまうのではないか』という仮説を持つ。
それが正しければ、上条は正に不幸。幸がないのである。

(だがしかしっ! 俺の不幸が幻想を殺すことで発生しているというのならっ――!!)

ぐっ、と教室の扉に手をかける。
この先にいるのだ。
この先に、同じ悩みを持つ友が。
自分と同じく異能の力を打ち消してしまうという能力を有している者が。
ならば俺たちは友達になれる! 同じ悩みを持つならそれは心の友! すなわち心友!!

「さーあご対面ですよマイフレンド! ワタクシ不可抗力不幸発生人間上条当麻と一緒にペロペロ傷を舐めあいま――」



「きゅーっ! 理刀にベタベタしないでよスイート!」
「あらキュート、あなたにわたくしをどうこうする権利はないし、あったとしても理刀の心を縛っていい道理はないのではなくて?」
「ふふっ、モテモテだな理刀。ところで今度、またペット自慢コンテストがあるそうだ。都合がつくなら一緒にいかないか?」
「あ、わたしも行きたいです春日センパーイ」
「そ、その、あの、もしよ、よければ、わ、わ、わた、わたしも一緒に、い、いい、行きた、い……」
にゃお~。

扉を開けたその先には、目的の人物――カオティック・リアルと呼ばれる全身幻想殺しの能力者、春日理刀なる少年がいた。
ただし、見目麗しい美少女たちに、超がつくほど友好的に囲まれながら、である。
加えて何故かドラゴンにまで懐かれていた。まさか人間形態(♀)にならねえだろうな。
そして、上条当麻は悟った。

(あーそっかー。自分で抱いた幻想ですら殺しちゃうんですねオレサマはー)

不幸中の幸い――「うわー、こんな幸いしかないなんてむしろ余計不幸だー」――にして、理刀たちは自分の登場に気づいていない。
邪魔になる前に立ち去ろう。これ以上、ここにいちゃいけない。俺の右手が、あの少年少女たちの幸せまで殺してしまってはいけない。
だから、俺は一人立ち去ろう。さらば友よ。幸せになれ。お前は俺のようにはなってくれるな――――。
上条当麻、ちょっと大人な負け犬の哀愁を背負った瞬間である。


なお、その日帰宅した上条が、居候のシスターにそのことを話した結果、
「とりあえず噛んどくねとうま」という淡白かつ過激なリアクションをとられたのはまた別の話である。


CAST

  • とある魔術の禁書目録
上条当麻
インデックス(居候シスター)

  • きゅーきゅーキュート!
春日理刀
(以下ヒロイン、上記台詞順に)
キュート・フォンターナ
スイート・フォンターナ
黒媛亜威
黒媛百香
美々津巴
シィちゃん(ドラゴン。現段階では性別不明)



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