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Mohikan meets girl 3話目

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nisina

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Mohikan meets girl 3話目



目を覚ますとそこは倉庫だった。


まだ頭に靄がかかったように意識がはっきりしない。
ぼうっとした頭でその女性は何が起こったかを考える。

学校が終わって帰り際に数人の男に突然囲まれて殴られた。
たったそれだけのことしか記憶にない。

「……今度は誘拐でもされたっぽい……ついてない……
 彼氏に振られた後にこれはないでしょう……」

誘拐された女性である地奈は、誰にも聞こえない程度の声で呟く。
周りに誘拐した男たちがいることは分かってる。
体を縛られ床に転がされていて、身動きの取りようがない。
猿轡はされてないのがせめてもの救いだろう。

「……不幸ね。でも……なんでこんなことに……。
 私、これからどうなっちゃうのだろう?」

つい最悪の事態を想像し、血の気が引く。
今の所、何もされてはいないようだが、だからと言って安心はできない。
相手は誘拐犯なのだから。目的が見えない。

身動き一つせずに思考を巡らせる地奈。
その地奈の周りにいる誘拐犯達は、地奈が目を覚ました事に気付かず動いている。
号令と怒号。まるで何か予想外のことが起きたかのような慌ただしさ。
そこで初めて何かがおかしいと思い、地奈は耳を澄ませる。
誘拐犯達の声が容易に耳に入ってくる。

「あの男がここに来ているだと? 尻尾連中はしくじったか」
「ああ、別の男と二人でだ。もう一人の男と二手に分かれたようだ」

誰かがここに向かっている?

「一人はまっすぐこっちに来るぞ。どうする?」
「馬鹿野郎! 一人で来るような馬鹿はいない。これは警察に通報されてる可能性が高いな。撤収だ!」

警察?

「女はどうします?」
「置いてけ! どうせ顔は見られてない。移動の邪魔になる!」
「依頼の件に違反しませんか?」
「契約内容は誘拐までだ。そっからは好きにしていいってこと。このまま置いていこうがかまわんだろう」
「了解した。撤収準備完了しました!」

誘拐犯達の足音があっという間に遠ざかり、辺りに人がいなくなった。
どうやら助けが来たらしい。
地奈は心の底から安堵し、息を吐いた。

「でも誰が? 警察じゃないとしたら誰なの?」

その疑問を言葉に出したとき、一人分の足音が聞こえてきた。

地奈はそこでようやく目を開け顔を向ける。
がらんとした廃棄倉庫。その中央部分にモヒカンが立っていた。
余りにも予想外の顔に思わず声が漏れる。

「あれ? 君は?」

その声が聞こえたのだろう。那賀は地奈に気付くと向かってくる

「あいつらに襲われてな。あんたを誘拐したと聞いたから一応助けに来た。
 すでに誘拐犯はいないようだな」

肩を竦めて話す那賀に対し、地奈は予想外な人物の登場に茫然とする。
那賀はあっさり縄を外すと一人つぶやく。

「しっかし誰もいないとはなあ。ちっ 先公のいう通りか……
 俺を襲ったことを後悔させてやりたかったんだがなあ」

心底悔しそうに呟いている那賀。
地奈はゆっくりと体を動かし調子を確かめ、まだ悔しそうにしている那賀に呆れたように話しかける。

「結構な人数がいたから一人で戦うのは無謀だと思うなあ」
「……何を言っている。正面から戦うなんてことは正義の味方がやることだ」
「つまり、罠を張っていたってこと?」

その言葉に頷くと「無駄になったがな」と呟きにたりと笑みを浮かべる。
地奈はそのチンピラそのもの表情に思わず吹き出した。

「あはは、その表情はないわよ。まるで雑魚チンピラよ」
「いーんだよ! 気にするな」

悪態を吐く那賀を見て、地奈は不思議と不安感が消えていることを感じた。
ようやく、助かったという実感がわいてくる。
その地奈の様子を確認すると、那賀は「さて」と前置きを言い、話し始める。

「こりゃ先公の言った通り警察に連絡しても面倒なだけだな。誘拐があったことすら分らない状態だ。
 へたすりゃ狂言誘拐する疑われる……お前、歩けるか?」
「うん。大丈夫……ありがと」

その地奈の礼の言葉に那賀はさっさと後ろを向くと歩き始める。
そのままいい加減に手を振りながら話した。

「ま、ついでだついで。さ、こんなしけたとこからおさらばするぞ。
 もうひとつ行くところがあるとか言ってここに連れてきた先公も行っちまったしな。
 あの先公、何を考えてやがる」
「……先生? いたの?」
「ああ、まあ、あれが考えてることはわからんしな。台ならわかるかもしれんが。
 ともかく帰るぞ。こんな埃っぽいとこ長居するもんじゃねぇ」
「うん。そうだね」

二人はそのまま倉庫から出た。
地奈は黙って那賀の後ろを歩いて行く。
その表情は那賀には見えない。
そのまま普通に日常へと帰って行った。


――数ヵ月後、この二人が恋人関係になったのは別の話。




「無事、逃げられたようですね?」

誘拐犯たちが逃走し、たどり着いたアジト。
そこには一人の男性が待ち構えるように立ち、声を掛けてくる。
誘拐犯は一瞬身構えるが、その姿を確認すると警戒を解いた。
それはこの国の裏稼業のプロのならば、一度は目にする人間だった。

俗に情報屋と呼ばれる人種だった。
そのなかでも特に異彩を放つ男だった。――余りにも普通すぎる男だという意味で。
その男は柔和な笑みを浮かべてただ立っている。

「よう……あんたか。根回し助かった。今回は警察に捕まる所だった」
「いやー、これもサービスの一つですから」

誘拐犯が謝意を示すと、男、大里巧は柔和な笑みのまま答える。
その笑みには一遍の不自然さがなく、故に今の殺伐としたアジトとは一線を画している。
余りにも自然体故に不自然な男に対し、誘拐犯は視線を鋭くする。

「はっ! そもそもあんたが介入してこなければ全てはつつがなく終わったんだがなぁ」

その仕事の邪魔をされた事に対する苛立ちを含んだ挑発の言葉に、しかし巧の笑みは変わらない。

「仕事の邪魔をしたのは謝りますよ。
 しかしですね、そもそもあなたみたいなプロが、この町で仕事をするのがルール違反ですからね。
 今回だけは大目に見ることにしますけどね」

その言葉に誘拐犯は舌打ちをし、それ以上の追及を止める。
代わりに別の疑問をぶつけることにする。

「しかし、あんたが人助けね。信じられんな」

この男は裏の人間でもある。ただ、正義感で動くわけがない。
そう推測し、誘拐犯はあえて疑問として口にだした。
その言葉に巧は軽く肩を竦ませる。

「なに、あの場を荒らして欲しくなかっただけですよ。
 変な噂が立ってしまうと、壊しがいのある生徒が入ってこなくなるじゃないですか。 
 ……あの町で人を壊していいのは私だけなんですよ?」

表情は笑みのまま。しかし、その言葉を聞いた瞬間、誘拐犯は身震いをする。
全てが変わらないはずなのに、目の前にいる人間が別の怪物に見えた。
巧の内側を、見てはならない物を見たときの感覚。
震える体を宥めつつ、誘拐犯は言葉をやっとのことで吐きだす。


「……まったく、あんたが敵じゃなくてよかったよ」
「ご謙遜を。全てに劣る私が君たちに敵うわけないですよ」
「それを臆面もなく言えるような奴は怖いものさ」
「はて、そうですかね? まあそう思ってもらえるならありがたいですよ」

そして、話は終わりだとばかりに巧は、背を向ける。
一歩だけ踏み出した所で、立ち止り、言葉だけを誘拐犯に向けた。

「ああ、一つ依頼を。これで今回の貸し借りはなしということで」
「借りなんてあったか? ……まあいい。それで何をさせたい?」
「今回の件の依頼人をそちらで処理しておいて下さい。手段は問いません」
「おいおい、依頼主を裏切れってか? こちとら信用で成り立ってんだぞ」

断ろうとする誘拐犯に巧は一言。

「私の依頼ですよ。その辺は大丈夫です」

そう言うと、巧は再び歩き出す。答えを聞こうともせずに巧はアジトから姿を消した。

「……まったく。情報屋ってのは怖えなぁ。分った。引き受ける。
だから、あんたもミスんなよ。あんたとは末長く付き合っていきたいのでな」

誘拐犯は一人ごち、次の"依頼"をこなすために動き始める。

そして闇から闇へ葬り去られた話が一つ。
この話が表に出ることはない。


終わり。


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