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新説Trick ster.
「むかしむかしのわすれもの」


 


船が、揺れる。
乗客の期待や、
不安や、
とにかく色んなものを抱え込んで、
その重さに耐え切れず。
ぐらぐら、ぐらぐらと
不安定な水の上
船が、揺れる。

 


Prologue~始まりはいつも不安定~
                   Part:sengan

 

事の始まりは、四年前に遡る。
或る日突然、南の海に島が現れた。本当に、突然と海底から海上へと島が浮上したのである。
其処に今まで島は存在していなかったらしいし、大昔の記録や文献にもそんな島があったことを載せているものはない、存在しなかった筈の島。
勿論世間は大騒ぎになったし、調査だ何だ、古代文明が何だと連日報道陣が真実かも分からぬ言葉を並べ立てていた。
・・・然し、そのお祭騒ぎも数日限りのものとなる。
ジャングルの奥地の部族でも名前を知っていそうな、巨大なゲーム会社「メガロカンパニー」の会長、ドン・カバリアが莫大な資金を用いてその島を買い取り、それに対する抗議の声も全て黙らせたのだった。
今度はその行為に対して世間が騒ぎ始めた頃、カバリアは自分の会社から有能な社員ばかりを選出し、あるプロジェクトを立ち上げる。
世間にも、報道関係にも秘密に薦められていたそれは、ご丁寧にも自分の名前を取って「カバリア島」と名付けた無人島を、巨大テーマパークにしてしまうこと。
『Virtual Game Project』・・・テーマパークを舞台とした仮装空間で、参加者にロールプレイングゲーム=RPGの登場人物になってもらおう、という何とも常人には理解しがたい壮大な企画。
会社の全財産を費やし、反対する社員を無視して、会長自ら指揮をしながら四年の月日をかけて、遂にそのプロジェクトは実を結ぶことになる。
カバリアの野心作、「トリックスター」・・・話題性もあり、ゲーマーは勿論、老若男女含めた誰もがオープンを待ち望んでいた。

―――然し、だ。
此処で話は、酷くややこしいものになってしまう。
トリックスターのオープンが間近に迫った或る日の昼頃、全世界にドン・カバリアが突然死した、という情報が流れた。
プロジェクトの進行に余程心血を注いでいたのだろう、原因は過労によるものではないか等と何処ぞの偉い医者が言っていた。
だが、同情や感慨や、哀しみに耽るよりも先に人間には気になってしまうことがある。
それはドン・カバリアの莫大な遺産の相続先・・・何事も大雑把で、変わり者だった彼は己の後継者を決めていなかったらしい。
社員に分け与えられるのか、それとも腹違いの弟にしてメガロカンパニーの副会長、ドン・ジュバンニに全て引き継がれるのか・・・
彼の親族や、会社の幹部連中による摩擦が起きるのではないかとの噂が囁かれたが、その答えは思ったよりも簡単に明かされることとなる。
カバリアの顧問弁護団が、彼から預かっていたホログラムデータを一般に向けて公開したのである。
黒服に眼鏡、何とも神経質な弁護人の一人がポットを起動させると、其処には相変わらずの不敵な笑みを浮かべた、ピエロ姿のカバリアが映っていた。

彼の遺言は簡潔に言うとこうなる。
遺産の一部、雀の涙程の金を弟のジュバンニに継がせること。
会社の者達に、己の渾身の作であるトリックスターの管理を頼んだということ。
そして、彼は遺産の相続先や己の後継者を決めていないこと。
遺産はテーマパークの中に隠されており、「最高のトリックスター」になれた者に莫大な財産を譲るということ。
最後に―――自分が死んだとしても、トリックスターが最高のヒット作になって欲しいと。参加者皆に楽しんで欲しいと。
こうして嵐の様に世間を騒がせた男は、最後までゲームに生き・・・ゲームの登場人物として、その生涯を終えたのだった。

テーマパークのオープンと共に、世界各地から参加者が集うことになった。
誰もが一攫千金を夢見、夢を現実とする為に。
それ故に、仕事を辞める者達が続出した。退職金で旅支度を整え、島へと旅立つ為である。
勿論各国経済面はこれで困ったことになってしまったし、この事態を収拾すべきお偉方も金で冒険者を雇い島へと派遣する始末。
カバリアの呪縛とも思えるこの現象を、報道陣は「トリックスターシンドローム」を名付けたのだった。
まさしく、トリックスターはオープン直後にも関わらず世間を揺るがすヒット作品となったのである。

 

「hey! 待たせたなアンタ、島が見えて来たぜ!」
紅いバンダナが目につく、軽薄な印象を感じさせる顔立ちの船乗りが不意に俺に声をかけ、思考を中断する。
あまりにも島に来たがる者が多すぎた為に運行を停止してしまった船を、無理を言って港から出して貰っていたのだった。
凭れ掛かっていた甲板の手すりから海を眺めると、・・・成程、島はもう間近に迫っていた。
「すいません、少し考え事をしていました」
「・・・おいおい、向こうについてまでそんな調子じゃ、命が幾つあっても足りないぜ?」
「そう、ですね・・・」
俺がこのゲームに参加したことに、深い意味や理由がある訳じゃない。
特に古代文明に興味や知識がある訳でも、傭兵をやってるからといって島で勝ち残れるだけの自信がある訳でもない。
だが、・・・退屈な生涯を続けて老いていくよりも、あのドン・カバリアの様に自分のやりたいことを為して死にたいと思った。
カバリア島に行くことに理由が必要なら・・・多分、そういうことなのだろう。
「Bye! それじゃ、元気でやれよっ」
「はい、有難う御座いました」
やがて船がコーラルビーチという、その名の通り珊瑚の様な白く綺麗な砂浜の続く海沿いの町へと停泊した。
日焼けした島の人間や、バレーコートを眺めながらブーツで砂浜を踏みしめると、明るく手を振る船乗りに軽く頭を下げた。
「オレは船乗りのミン、また島で会うこともあるだろうな。アンタの名前は?」
自分のやりたいこと、それが何なのかはまだ分からない。
だけど、そう、敢えて格好を付けて言ってみるとしたら
「ええと、俺の名前は――」
その答えこそが、俺の探すべき財宝だと・・・思っているんだ。

 

「センガン、です」

 


              To be continued.

 

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