俺があやせと最後に顔を会わせてから、5日間ほど経った。
偶然にも(むしろ運命?)3日間ほど立て続けに顔を会わせた俺とあやせだったが……まるきり良いことなんてなかったね。
だってよぅ……この3日間での出来事から得られたのって、この俺こと高坂京介があやせに嫌われてるっていう事実だけだぜッ!?
いや、まあ、その、ねぇ? 確かに悪いのは俺ですよ?
セクハラ紛いな発言とかしたし、ってか実際セクハラ発言もしましたけどっ! セクハラもしちゃいましたけどっ!!
……話が逸れたな。
まあ、それはともかく、だ。
なんとなく不思議な3日間から数日経った今日、桐乃に相談を持ちかけられた。
……どうでもいいんだが、これは桐乃曰く“相談”ではなく“愚痴”みたいなものらしい。
桐乃が言うには、「……最近、あやせの様子がちょっとヘン」なんだと。
へぇ…………って、その件は俺も身に覚えがあるぞ?
数日前に会ったとき、確かにあやせの挙動ヘンだったし。
もしかすると、いや、もしかしなくても、そのことと関係してるんじゃねぇかな。
……しかしまあ、だからと言ってそれをどうしろと言うのか。
「それが愚痴なら、俺がどうこうするような話じゃないだろ?」
俺がそう言うと、桐乃はジト目で睨んできた。
「べっつにぃ~? 初めからアンタなんかに期待してないしぃ~?」
“なんかに”ってのは余計だ! ああもう期待するだけ無駄だっつーのはわかってっけどもう少し敬ってくれたってバチは当たらないと思うんだよね俺はッ!!
……なんにせよ。 桐乃も多少は戸惑っているらしかった。(たぶん、多少どころかかなりだと思うが)
聞くところによるとあやせは、桐乃が話しかけても返事が曖昧だったり、ふとした時にぽけーっと上の空だったりするらしい。
ふむぅ……。
聞けば聞くほど、先日の状況と被っているように思える。
つーか、桐乃大好きなあやせが、桐乃を蔑ろにする光景なんてちょっと想像できないなぁ……。
まあ、あのあやせのことだ。 大切な親友を傷付けるような悪意ある行動を取ったりはしないだろう。
……それなら何故?
うーん……。
……これは憶測だが、無難なところで、悩み事とか抱えてるんじゃないだろうか?
俺の知る限り、あやせの性格なら悩み事があっても、桐乃には心配をかけまいと隠し通すと思うんだよな。
……もしかすると、隠そうとした結果がこうして裏目に出てるのかもしれんし。
ふと思ったんだが、そこらへんの思考は桐乃と似通ってるよな。 これが類友ってやつか?
だが、まあ……自分で憶測を挙げといてアレなんだが、全く別な理由ってのも多いにあり得ると思う。
あんな大人びたナリだから忘れそうになるけど、あやせたちはまだ中学生で、多感なお年頃ってやつなんだよな。
だから、えーと……。 ……それは、つまり…………。
腕を組んで真剣に考え込んでしまう俺。 そんな俺を見て、桐乃は不機嫌そうに眉をひそめた。
「……なんか、心当たりとかあるわけ?」
……何でそんな目で俺を睨むんですかねぇ? もう慣れたけどさ。
「いや……特にないな」
俺は素直にそう答え、外人風に肩を竦めた。
「……あっそ」
どこか投げやりに言い捨てて、桐乃は部屋を出ていった。
聞いてきたのはお前だってのになんだその態度はっ!? というツッコミは心の中で済ませた。
口にしたら確実に痛い目見るからな……。
そんな毎度恒例な理不尽っぷりに、俺はため息を漏らした。
……桐乃の愚痴に付き合うわけじゃないが、俺もあやせの挙動には引っ掛かるものを感じていた。
何か挙動不審というか……ともかく、あやせの行動に首を傾げていたわけで。
……。
…………いや……待てよ?
もしかすると俺は、その全容を知ってる(かもしれない)人物に一人心当たりがあるやもしれん。
そう、それは――
『……え、あやせちゃん?』
底抜けに天然体質な俺の幼馴染みだった。
なぜかあやせと仲の良い麻奈実なら、桐乃にできないような相談とか受けてるかもしれない、と踏んだ俺ってちょっと賢くね?
と、まあそれはどうでもいいのだが。
俺は、桐乃が部屋を出ていってからすぐに麻奈実に電話をかけていた。
「ああ。 なんか、うちの妹が心配しててな」
『ああ~、そっか。 桐乃ちゃんと仲良しなんだもんね、あやせちゃん』
ぽんっ、と手を叩いた仕草をする麻奈実、を想像した俺。
ベタなあいつのことだから本当にやってる気がする。
「それで、まあ、何か聞いてないか? あやせから」
と、軽いトーンで尋ねたのだが、
『ふぇっ!? えっ、えぇ~と、そのぉ……』
麻奈実からは、なんとなく気まずそうな反応が返ってきた。
……そんな答えづらいような質問か? これ。
「なんか聞いてるんだな? 麻奈実」
思わず追及しちまった。 ……さっきは桐乃を言い訳にしたけど、やっぱり気になってんのな、俺も。
それから一頻り“うぅ……”とか“これ言っちゃっていいのかなぁ……”とか呟いていた麻奈実が、ややトーンを落とした声で、
『……直接ね、会った方が良いと思うよ、わたしは』
………………え。
……………………“俺が”?
「……んと、桐乃とあやせが、だよな?」
『…………』
麻奈実は答えずに、黙り込んでしまった。
主語のない麻奈実の言葉に、俺は頭にいっぱいの?マークを浮かべながら、何やら得体の知れない緊張感に襲われていた。
「え、ま、麻奈実? どうしたってんだ、答えてくれよ……」
『………………』
たっぷり20秒くらい口を閉ざした麻奈実は、一言短くこう告げた。
『明日の17時に、交番近くのあの公園で』
――ブツン。
一方的に電話を切られた。
………………やばい。 なんか知らんけどっ、なんか知らんけどヤバ気な雰囲気だぞこれっ!
一体全体どうしてこんな流れになったっ!?
い、今さら混乱してもしょうがないんだけど。
いやでもやっぱり混乱するよなこの状況っ!?
…………麻奈実は、あいつは、最後になんて言った?
――明日の17時に、交番近くのあの公園で。
つまり、あやせとの会合のためによく訪れるあの公園、だよな?
これは、俺が行くべきなのか……? 桐乃が行くべきなんじゃ、いや、でも……???
……わっかんねー。
どうすりゃいいんだ、マジで……。
こんなとき自分の頭の悪さにとことん嫌気が差す。
俺は、麻奈実にどんな答えを求められてんだ? 正直なところ全くわからん……。
はぁぁぁぁぁぁぁぁ……。
俺は、麻奈実の残した意味深な言葉のせいで、一晩中頭を抱える羽目になった。
(続く)
最終更新:2010年08月02日 18:42