私に、力を……



「ああっ、それはダメです……」
「うーん、じゃあこれか?」

俺は頭と手を働かせながら沙織の意に沿うように探る。

「あっ、そうです、それがいいんですっ」
「じゃあここが繋がるように言うにはもちろん?」

質問というよりは確認といった風にしたり顔で言う。

「は、はい。ここに、入れてください……です」
「……だよな」

予期していた答えに俺は口の片側を吊り上げた。



「……ふぅ、これで今日の英文読解は終わるか。ありがとう、沙織」
「いえいえ、お兄様のためならお安い御用ですわ」

察しの通り、ここは沙織の部屋である。
いつぞやの週末に沙織との契りを交わした代償として親父のフルボッコを甘んじて受けた後、俺は毎週金曜の夕方から日曜にかけて沙織のマンションに世話になっている。
前にも書いたように俺の部屋は施錠できないわ家族はいるわでなかなかいちゃつけないのだ。特に桐乃には部屋に薄壁一枚で面している関係上、何があろうと一瞬でばれる。
流石に無理にがなり飛んでくる事は今更ないとは思うが、ややもすると「隣の部屋で兄貴がセクロスしてる……死にたい……」などとVIPに書き込まれるかも知れん。というかあいつならやりかねんのが恐ろしい。
最悪の場合三人で……

「どうかしましたか京介お兄様?」
「い、いや!詮ない事だ」

一瞬よぎったヤバい考えを必死に首を振って否定する。一体俺は何を考えているんだ!
そんなわけで、週末は沙織のところに通い妻よろしく通い夫しているのだ。
念のため言っておくと、沙織から往復の定期をポンと買われそうになったがやんわりと拒否させてもらった。俺とて沙織のヒモになりたくはない。無論そんなに金がある訳ではないが、俺にだってプライドがあるのだ。
ついでにこの件に関しては両親も認めてくれている。「本気で交際する覚悟があるのなら支援は厭わない」というスタンスのようだ。全く有り難い限りである。
桐乃は交際に関しては認めたものの、住み込みの件に関しては最後まで難色を示していたが。

そんなわけで、俺は沙織から合鍵を受け取り、日常生活における最低限のルールを定めて半同棲生活をしている。その一環が冒頭の「一日2時間一緒に勉強」なのである。
おっと、俺を爆発させるには第四の壁を破壊できなきゃ無理なんで注意な。

とはいえ如何せん高三と高一であり、いかに教えるのがうまい沙織といえども全く学んでいないことはどうしようもなく、現状は沙織の課題を復習がてら一緒に解いて、学年に関係ない英語だけは沙織に教えてもらうという形式を取っている。
必然的に俺の課題は自力で解いているのだが、どうしてもわからない所があるとやむなく麻奈実に連絡している。
これを沙織は露骨に嫌がるため、最近では三年の問題をも理解できるように闘志を燃やしているらしい。……凄い女だ。
しかし麻奈実はオタクっ娘に嫌われる宿命でも負っているのだろうか?

「……さて、今日は何で遊ぶ?」

勉強を切り上げて麦茶を一杯あおった後、沙織に題目を促した。といっても今日は金曜のもう7時だが。

「あ、実はやりたいゲームがあるんですよ」

そう言うと沙織はPSPを渡してきた。

「ガンダムVS.ガンダムNEXT PLUSです」
「ああ、これゲーセンにあるのの家庭用か。沙織が好きそうとは思ってた」

黒猫と一緒にゲーセンに寄ったときに百式が選べるのを見たから、という安直な理由だが。

「ゲームセンターで一人やると嫌でも人目を引いてしまうので家庭用で我慢していたのですが、京介兄様と一緒ならどこででもきっともっと楽しめると思うんです」

花が咲くような笑顔で見つめてくる。畜生かわいいなあ俺の彼女は!

「そんなこと言われたらやり込まざるを得ないな。どれどれっと」

PSPを起動させて機体選択画面に移る。ちなみに俺は今のところF91まで沙織に見せられていて、他はキャラ設定を知る程度だ。
「拙者はもちろん百式なので京介どのは初めてなら3000コストがよろしいでござるかな」

突然口調が変わったから驚いて振り向いたらバジーナ化していた。本当に切り替えの早いやっちゃ。


「んー、じゃあガンダムXかな」
「Xは初めてには敷居が高いような気がするでござるが……まあよいでござるか」
「どうしてだ?」
「標準的なライフルと標準的な機動性、そしてサテライトキャノンを持ったサテライトモード、迎撃向けの豊富な武装とやや特殊な機動性を持つディバイダーモードの二つが存在して、両方使いこなしてやっと真価を発揮できるのでござる」
「なら最初はサテライトモードだけで基本操作を覚えるか」
「悪くはないでござるな。でもどうしてXを?」
「いや、ガロードって特別な力はないのに一人の女の子を命を張って守ろうとする姿勢に憧れるなと思って」

歯止めがないと沙織には立て板に水のごとく言葉が流れてしまう。

「き、京介どの……さ、さあゲームを始めるでござるぞ」

お互い真っ赤になったままゲームに没頭し、気が付いたら10時を回っていた。

「あ、もうこんな時間か。大分慣れてきたし、これで明日ゲーセンで対戦できるかな」
「ネット対戦もいくらかやったでござるし、手も足も出ないってことはないと思うでござるよ」
「まあ沙織がかなーり強いからな……貴様このゲームやり込んでいるなッ!」
「答える必要はないでござる。……あの、京介さん」

眼鏡を外し、俯きながらか弱い声で沙織が。

「ティファに対するガロードみたいに、京介さんはくれるんです。私に、力を……」

同じような言葉でも時と状況で感動が増幅することってあるよな?今のはまさにそれだと思う。キュンと来た!

「そ、そんなのお互い様だろ、沙織がいるから俺も頑張れるんだよ。……ベッド、行こうか?」
「はい……」



(翌日、秋葉原にガロードとティファのごときコンビネーションを発揮するカップルが現れ、そのイチャつきオーラに周囲がドン引きしていたのは言うまでもない。)


  • 小ネタ

沙織バ「京介どの、ガンダムDXは使うのは寝る前にしてくだされ」
京介「え?別にいいけど……?」

~寝る前~
京介「ああっ、くそっやられた!」

DXティファ「ああっ、はっあぁっ、はあぁぁぁぁぁん!!」

京介「…………」
沙織「…………」
京介「…………沙織、抱いていいか」
沙織「いいですとも!(計画通り……!グッ)」





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最終更新:2010年08月22日 12:21
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