桐乃と黒猫と俺の萌え 01



桐乃と黒猫と俺の萌え



「ウププ、そんであんたそんなにしょぼん(´;ω;`)としちゃってんだー」
「うるさいわよビッチ」
「はいはい、あたしに当たんないでよねぇ。ザンネンデチター」
「ぐがががががががッ。フン、マル顔の分際で私を怒らせようとするなんて身の程知らずな人間ね」
「マル顔はステータスだっつてんでしょ!? クソ猫!」
とまあいつものように痴話喧嘩をしている桐乃と黒猫。
毎度のことなので俺もいちいち突っ込んだりはせず、二人の傍らでコーヒーを飲みながら『仲いいなー俺も混ぜてくんねえかな』と空恐ろしいことを一考して、『アホかおまえは!?』とセルフ突っ込みを入れている土曜日の午後。
ああ、すまんすまん。これだけじゃ分かんねえよな。
犬も食ったら丸一日は腹痛に悩まされそうなケンカをかれこれ三十分は見せ付けられて少々頭が呆けていたんだよ。
いやさー、俺たち三人は黒猫の小説について話をしていたところなんだ。
ちょっと時間を巻き戻して説明すると、午前中に俺と黒猫は新宿に出掛けていたのさ。
以前、桐乃の携帯小説を盗作した犯人(フェイトさん@貧乏)を探しだす目的で俺たちが出版社を訪れた際に、黒猫は自分の書いたマスケラの――二次創作っていうのか?――小説を持っていったんだが。
それを編集者の熊谷さんて人に批評してもらったことがあんだよ。そん時は黒猫が泣くほどの酷評だったが、『また持ってきてくれればアドバイスくらいはお手伝いします』との温かい申し出をしてくれた。
そういった経緯があって、黒猫は新しく書いた小説を熊谷さんに見てもらうからっつうことで、ついでに俺を誘って出掛けていたという次第だ。
アドバイスしてもらった結果は残念ながら芳しいものじゃなかった。
黒猫も賞賛は期待していなかったんだろう、粛々と熊谷さんのアドバイスを真摯に受け止め、最後に『ありがとうございました』と丁寧なお辞儀をしていたよ。
まあそれでも前よりは格段に良くなっていると言われていたんだけど、桐乃に負けず劣らずのプライド高い黒猫はくやしかったろうな。
んで、持ち込みが終わって帰る途中に桐乃から首尾を聞くメール飛んできて、詳しいことは家で話すということで、今俺の家、正確には桐乃の部屋でアドバイスされた内容を桐乃に聞かせていたというわけさ。
ちなみに、桐乃には俺たちが盗難騒ぎで動いたことは言いたくないんで適当に話をあわせておいた。
「だからー、あんたの小説暗いんだってば。もっと読者が読んでパーッとするようなストーリーにしなさいよ」
いつの間にかじゃれあいも落ち着いて、桐乃と黒猫は小説の内容について話始めていた。
でも桐乃よ、明るいって言うけどおまえの小説、男の俺からすればクソ女を相手にする悲惨な男の悲哀しか感じられなかったんだが?
蹴りが飛んでくるだろうから口には出さんけどね。
「フン、余計なお世話よ。私はこの物語が書きたかったんだから。後はどう読者に上手く読ませる気を起こさせるかが問題なの」
「そーですかー。でもアンタそれがダメだって言われたんでしょ?」
「残念ではあるけど、そうね。もう少し文章に流れのようなものをつけるべきと指摘されたわ」
「ふーん、そんなん適当に書いていれば勝手に出来そうだけどね」
「全く、難しいことを平然と言うわね。ムカつくわよあなた」
「ま、あたしってほら? 天才だから?」
「言ってなさい」

コーヒーを置いて、俺も会話に混ざることにした。
「熊谷さんも良くなっているって言っていたし、これからだって。実際、素人の俺が読んでも前のやつより出来がすげー良いと思ったしな」
「あんなのお世辞のようなものよ」
「そんなことねえって。次に行くときは絶対褒め言葉をもっと吐き出させるようなものにしようぜ」
「簡単に言ってくれるわね。文章もそうだけど、他に言われたことだってあるし」
黒猫は憮然としながら、ジュースを一口した。
「なんて言われたの?」
「忌々しいわ。私が想像させた登場人物を否定されたのよ。『萌え』が足りていないって」
そういえば言っていたな。『萌えが欲しいですね。もっとキュンキュンさせて下さい』とか。相変わらずあの豪鬼は変態じじいだった。
「萌えねー。あんたの小説に出てくる人物ってカタイ感じがするし、頷けるところはあるわね」
「ストーリー上、萌えなキャラなんて出せるワケないでしょう。それに、萌えと一口に言われてもよく分からないわ」
黒猫は「ふぅ」とため息をつく。
萌えねー。俺もよく分からんな。具体的にどういうのが萌えだと言われても説明がつけようがない。
とにかく可愛いらしい感じならそうなんじゃねえの?
俺がそんな愚にもつかない考えを巡らせていると、桐乃が何やらピンときたようで、
「考えるより、実際やってみればいいのよ」
「「やってみるって、何を?」」
俺と黒猫は同時に桐乃に聞く。
不敵な笑みを浮かべる桐乃だが、どーせ変なことを考えついてんだろう。
早くもイヤな汗がタラタラするのを感じる俺。
当然この予感は当たり、この後俺たち三人はとんでもないことをやらかすのであった。

「ほらほら、さっさと脱げ!」
「ちょッ、やめて、やめなさいってばっ」
「いいからいいから♪」
楽しそうに桐乃は黒猫のゴスロリファッションを剥ぎ取っていく。
えーと……何やってんのコイツ?
黒猫の小説のキャラには萌えが足りないという話をしていた俺たちに桐乃は『やってみればいい』と宣言した。
何をどうするのか分からないとハテナマークを出している俺と黒猫だったんだが。
次の瞬間、桐乃はベッドに腰掛けていた黒猫を押し倒して追い剥ぎのように服を毟りだしたのだった。
哀れ黒猫は上着を剥ぎ取られて、半袖のカットソー姿になる。
「あんたの服可愛いけど、いつも同じようなやつだし長袖でなーんか足りてないと思ってたんだー。後スカートもねっ」
言いながら桐乃は黒猫のスカートをめくり上げていく。
「や、やめて頂戴……や……だめ……」
抵抗する黒猫なんだが、恥ずかしいのか上半身を片手で隠すようにしているので両手を使われる桐乃になす術もなく、
「ふぅ……これで良し!」
脱がされて、はいないんだけどクリップのようなものでスカートの丈を超ミニの状態にされてしまった。
「あとついでにコレね」
総仕上げと言うように桐乃は黒猫のカチューシャを外していつぞや黒猫からもらったネコミミを頭へ装着させる。
「こ、これのどこが良しなのよ、あなた」
うむ、当然の言葉と俺も思う。
「だってさーあんた夏でもその暑苦しい格好でいるんだもん。たまにはこういう格好しなって」
「今は夏じゃないでしょう」
だよなー。
理由になっていない理由を言う桐乃に黒猫は当然の疑問を投げかける。
ちなみに部屋の中は肌寒い温度ではない。その証拠に桐乃はふとももを大きく露出したホットパンツとティーシャツというラフな部屋着をしている。
「それにどうしてこの格好が萌えと関係があるっていうの?」
黒猫が問うと桐乃は自身たっぷりに指差してこう答えた。
「絶対領域よ! ほらあんたのスカート、ちょうどギリギリのところにしてるっしょ?」
言われて見てみると、黒猫のスカートの丈は確かにふともものところ、風が吹けば見えるか見えないか、そんなぎりぎりになっていた。
うむぅ……白いふとももがとっても目に眩しい。
「あと、下にあわせて上も軽めにしないとね、バランス悪いじゃん」
なるほどーと頷きかける俺をよそに黒猫は涙目で桐乃に抗議した。
「わ、私を実験台にしないで頂戴。こ、こんな恥ずかしい格好……」
「えーでも、本人がやってみないとね。ウン、これは思ってた以上に……か、かわいいかも。く、くぅ~」
なにやら一人で身をよじっている桐乃。おそらく自分好みに可愛くアレンジした黒猫を見て内心悶えているんだろう。
実にけったいな妹である。
「あー、似合っているぞ? 黒猫」
赤くなってちぢこまっている黒猫へちょとだけ同情しながら俺は感想を述べた。
「み、見ないで頂戴」
「そうは言っても、もう見ちまってるわけだし。いや、マジで似合うよウン。なんかすげえ可愛い」
ピコピコ動いているネコミミと恥らっている黒猫がかなり愛らしく感じてお世辞抜きで俺はそう思った。
「先輩の莫迦……」
顔をしかめて、ぼそりと呟くが赤い顔には若干褒められた照れも混じっているみたいだ。
やっぱ女の子なんだよな。と当たり前のことを感じながら、その表情にドキリとする。

「ふん、デレデレしちゃって。キモ」
黒猫と会話している俺に桐乃から毒ナイフが飛んできた。
「べ、別にデレデレなんて! か、可愛いと思ったんだから正直に答えただけだっつの」
「あっそ。てっきりこいつのふともも見てハァハァしてんのかと思ったー」
ギクリ。
「ん、んなことねーっつの! 変なこと言うなよ」
「どうだか」
オーバーアクション気味に肩をすくめる桐乃。
ムカつくなー、上機嫌だったのがなんでいきなり逆走したように不機嫌になってんだよ?
「あんた、あたしの脚も見てスケベなこと考えてないでしょうね? いくらあたしの脚線美が間近にあるからってやめてよね」
「するわけねーだろバーカ。おまえの見るくらいなら黒猫の方がマシだっつうの」
よせば良いのに俺は桐乃の火に油を注いだ。
当然こいつは激昂するわな。
「な――なんですって!? チョーキモキモキモ!」
「まあビッチに比べれば私の魅力が勝るのは仕方が無いわね」
黒猫がさらに桐乃を挑発させるようなことを言う。
「な! こ、このクソね……! く、くううぅ」
途中で言いやめ、桐乃はなにやら一人でもがいている。
あー黒猫が可愛いから、罵倒出来ないってか? いつもは遠慮無しにズケズケ言うくせに自分で掘った穴に落ちてるようなもんだな、実にオバカさんな妹だ。
黒猫は桐乃の反応が面白いのか更に追撃を始めだした。
「あら、先輩も私も世の真理を言ったまでよ。ねえ、先輩? 妹よりも私の姿に惹かれてしまったのよね?」
クスクスと桐乃をからかいながら、俺に可愛く微笑んでくる黒猫。
ぐ、かなり可愛い。って、さっきまで恥らっていたおまえは何処へ消えたの!?
黒猫の態度に顔を赤らめてしまう俺はついうっかり、こくんと頷いてしまう。
それが桐乃の琴線に触れたのか、
「痛い!? ほ、ほまえ頬をつねるんじゃへえ!」
「うっさい! あんたがデレデレするからっ」
ひでえ。実にひでえ。
ちょっと女の子に見とれるだけなのも俺はしてはイカンというのか、この妹様は?
「……っふ。くやしいなら自分でもしてみれば? 萌えってやつを」
「こ、こいつの前で出来るわけないじゃん。シスコンだから目の色変えて飛びかかってきそうで怖いしィー」
「シスコンはおまへらろ! 俺は妹萌えなんはにゃ興味へえよ! ――い、痛い! 痛いす桐乃さん!?」
桐乃はますます眉間にシワをつくって頬をギュニニとつねくってきた。
くあー、いつものノリで突っ込んじまったよ、頬が痛ええ!
「こんの! そ、そこまで言うならやってやろうじゃん。見てなさい! あたしが本気になればバカ兄貴なんか、すぐにアホ面さげるっつうの!」
言うやいなや、桐乃は俺の頬をパチンと放して、ベッドの上で膝を立て髪をかきあげるしぐさをした。
どうやらモデルのようなポーズを取っているらしい。
実際、モデル業をやっていたことがあるだけあって、かなり様になっている。

「どうよ?」
「どうよって言われても……」
薄着で胸をそらしているので出るとこが出てて、目のやり場に困る。
でもそんなことを言えるわけねえだろ?
「ま、まあ良いんじゃねえの?」
煮え切らない返事をすると、
「嘘ばっか。さっきからあたしの胸見てるくせに。あ~これだからシスコンはやだやだ」
うぐ! 鋭いな、しっかり気づいてやがった。
てか分かっているなら見せてくんなよなあもう! 股間の一部が膨張を始めそうになるだろが!
「フフン」と桐乃は薄笑を浮かべて俺の反応に満足しているようだ。
「でもあなた、それって萌えとは違うんじゃない?」
黒猫の言うとおり、萌えってのとは方向性が別の気がする。どちらかといえば単にポーズをつけているだけっつうか。
その指摘を桐乃は黒猫の負け惜しみとでも取ったのか、
「そーお? ま、貧相なからだじゃこんなポーズ意味ないもんねー。萌え以前の問題とか? キヒヒ」
言わんでもいいことを言う。
「だ、誰が貧相ですってぇぇぇ~~~」
「さぁね~。しいてあげればネコミミつけてるゴスロリ女のこと?」
「この脳みそまで腐り落ちたスイーツがっ。フ、フフフ……。もう私は負の情動を抑えきれそうに無いわ」
わなわなと身震いしながら黒いオーラを纏いだす黒猫。
だがあいかわらず頭のネコミミは可愛いく動いているのであんまり怖くはない。
「落ち着けって黒猫。俺はそんなこと気にしねえし」
桐乃に襲いかかろうとする黒猫の前に割って入ってどうにかなだめようとする。
「どいて先輩、その妹殺せないわ」
「ぶっそうなこと言ってんじゃねえ!?」
「へへーん。家にこもってばっかだから育ち悪いんじゃなーい? 魅力が無いのが許されるのは小学生までだよねー。キャハハ」
「ぶっ殺すわよこのビッチが!」
うおっ! 今日初めてコイツの語尾に「!」が付いたよ。
桐乃も俺の背中に隠れて挑発すんじゃねえ! 俺が被害を受けるだろ!
俺を挟んでキャットファイトが始まるかと身をすくましたが、黒猫は「まあいいわ」と言って桐乃から視線を外した。
あれ? いつもと違うなーと思っていると黒猫は俺の顔にすっと手を差し伸べてきて、
「あなたのお兄さんは、胸なんて気にしないって言っているわよ?」
さすりさすりと、頬をなぞりながら俺に潤んだ瞳を向ける黒猫。
え!? ちょっと黒猫さん?
「なあに?」
「え、いやぁその……」
桐乃に飛びかかろうとしていたのを止めたので黒猫は至近距離にいる。
更に桐乃が丈を短くしたスカートから生えている白いふとももが俺の足に乗っかっているもんで心臓がバックんバックんしてきた。
チャームの魔法でもかけられたように俺はぽわーんと黒猫の顔から目が離せないでいると、

「ダ、ダメ!」
「うお?」
桐乃が俺の頭を鷲掴みにして無理やり黒猫の視線から外させた。
いや、でも外させたのはいいとしてこの柔らかい感触はなんだ?
「あ、あんた! あたしの――」
「あたしの? あたしのなんなのかしら?」
「こ、このぉ~……!」
二人は何やらまた言い合いをしているが、俺はそれを聞いているどころじゃなかった。
顔に感じる柔らかさって…………おっぱいだよな? …………桐乃の。
「ひゃっ……あん!」
慌てて掴まれている頭をもぞもぞと動かすと桐乃が変な声を出して俺を放す。壁にぶつかってゴン! 痛てーなおい。
「こ、このスケベ!」
「お、おまえが押し付けたんじゃねえかよ! ――ゴ、ゴホン。というかおまえら二人共、そろそろいい加減にしろ!」
俺は二人の実のないケンカに終止符を打つべく語気を強めて言い放った。
だが、そんな俺の言葉など聞いていないかのように二人は何やら顔を赤くして俺のからだの一部に視線を合わせている。
「それ膨らませてるくせに何言っちゃってんの、変態」
「いやらしい雄ね」
それ? 二人の視線を辿っていくと、俺の股間に行き着いた。
ズボンがおもいっきりテントを張っている。
「ちょ! 俺のリヴァイアサンが覚醒めている!?」
「い、妹の胸でそんなに――」「私に少し魅了されたからって――」
桐乃と黒猫が同時に台詞を吐く。次いで、「「え?」」とお互いの顔を見合わせた。
「「………………」」
な、なんだ? 不可視の火花が一瞬桐乃と黒猫の間に見えたような気がしたが?
数秒くらいだろうか。俺が当惑していると、桐乃が俺の方に向き直って「どっちなのよ?」と聞いてきた。
「ど、どっちって……?」
「ハ? 察し悪いわね。だからー、どっちであんたは、……こ、コレ大きくしたのよ?」
なんつーこと聞いてくんだおまえ!?
そんなもん答えられるわけねえだろ! 黒猫も言ってやれよ、このアホ妹にさあ?
と、俺は黒猫に視線を動かしたが、その黒猫も黙って俺の口が動くのを待っているようだった。
まるで「私を選ばなきゃ呪い殺すわよ」と言いたそうな目で。
もう一度桐乃に視線を戻すと、「あたしって答えないと、許さないから」と目を吊り上げている。
………………。
どうやら俺はいつの間にか修羅場のような状況に置かれているらしい。答えなければ、即バッドエンド。
どうしよう、どうすればいいの俺?
というか股間がいつの間に勃起したのか俺でも分かんねえんだよ。
黒猫が俺の頬を触っていたときか?
ふとももの感触は柔らかかったな……。それにめったに見せない微笑が間近にあって吸い込まれそうでかなりドキドキもんだった。
それとも桐乃のおっぱいに顔を埋めたときか?
うう、考えたくねえが顔に感じたあのムニュムニュは正直妹といえども……。なんだかいい匂いもさせてたし。
「どっちよ?」
桐乃が更に言葉を重ねてきた。
あーもう、考える時間も与えてくれねえのかよ! し、仕方ねえ。言うしかないなら言ってやるよ。
俺はおそるおそる口を開いた。





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最終更新:2010年09月30日 23:10
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