月明かりのあやせ



月明かりのあやせ



「はーい、じゃあ今日の撮影は終了でーす」
「お疲れ様でしたー」
撮影が終わってスタッフさんたちが後片付けを始める。
あやせや他のモデルの娘たちも「ふぅ」と仕事を終えて笑みを浮かべながら俺たちマネージャーの元へと戻ってきた。
「おつかれ、あやせ。長丁場だったから疲れたろう」
ほらよとドリンクを手渡して、木製の折りたたみ椅子を勧める。
「ありがとうございます、お兄さん! はぁ~疲れたー」
天使の笑顔を俺に向け、椅子に座って冷たいドリンクを口に運ぶあやせ。こくこくと美味しそうに鳴らす喉は汗が少し流れていてなんだか扇情的だ。
くぅぅ~~~~~~~、マジ来て良かったぁぁァァッ!
らぶりぃ~まいえんじゅえぇぇぇぇるあやせたんのこんな姿が見れるなんて、こんな山奥くんだりまでやってきた機会があったってなもんだよな!
そう、俺とあやせ(正確には撮影スタッフさんや他の事務所のモデルの子もいたがそれは置いとく)は避暑地としても有名な、山あいの高原に撮影のためやってきていた。
なぜそんなところへという説明には話は数日くらい前にさかのぼる。

その日俺は部屋で勉強をしていた。
夏休み、時計が午後三時を示していて俺の集中力もいい加減切れかけていた頃。
机のわきに置いていた携帯から着信音が鳴ったんで出てみると、
『……あ、出ちゃった。……どうも、こんにちはお兄さん』
携帯にかかってきた相手はあやせだった。
「あやせか、久しぶりだなー元気にしてたか?」
『え、ええ。おかげさまで……』
電話をかけてきたのにやけにぎこちない声。
なんだ? やけに歯切れ悪く話してんな、第一声が『出ちゃた』とか言ってたし。
電話かけてきたくせに俺が電話に出ると何か不都合でも?
『えと――あの、お兄さん。あさって辺りって……空いてたりしますか? いやもちろん忙しいですよね、うん忙しいなら仕方無い――』
「チョー暇だ!」
全力で答えました。
赤城と会う約束していたような気もするが、今それは気のせいに変わった。
なにやら俺の予定を聞いてくる辺り、俺の敏感な嗅覚がくんかくんかしちゃったもんね。
「いやーまさかオマエからデートの誘いがあるなんて夢にも思わなかったぜ」
『だ、誰がデートですか! 違います! どうしてわたしがお兄さんをデートに誘わなくちゃいけないんですかっ! ~~~~っもおぉぉぉぉ、だから電話したくなかったのにぃ』
「そうだな、駅前のデパートとかはどうだろ? あそこで飯食ったりなんかして」
『ださ! そのデートプランはどうかと思いますよお兄さん? そうですね、わたしが行きたいのは――って違います! 話を勝手に進めないでください!』
「冗談だ。で? もしかしてまた相談ごとか何かか?」
心底いやそうに嘆くあやせをなだめつつ俺は用件を聞きだした。
『えっと、実は来週わたし撮影でロケに行くことになってまして――』
あやせの話はこうだ。
一泊の泊り込みのロケ撮影――くだんの避暑地を雑誌で紹介することも含めて――をする企画があり、あやせもそれに参加することになっていた。
ところがあやせの担当マネージャーさんが急病になってしまい、尚且つ代わりをつとめてくれる手空きがいない。
そこで加奈子のマネージャーとして何度か手伝った実績もあり、あやせのお知り合いでもある俺に白羽の矢が立ったということらしい。
当然二つ返事でOKした俺。
不謹慎ではあるが急病になってくれたあやせのマネージャーさんにはすっげえ感謝だ!
いぃぃぃやっほぉぉおぉぉおぉ! あやせたんとお泊りだっぜえええ!
アルバイト代も出てあやせと一泊。こんなイベントまたと無いぜってなもんよ。
事務所の人にこまごまとあやせのスケジュールを聞いて、んで今日の朝ロケバスに揺られてやって来て、こうして撮影を見守っていたというわけさ。

――さて話を現在に戻そう。
「お兄さん、なんだか今日はやけに顔がニヤついていませんか?」
「そう見えるのはおまえが可愛いからさ☆」
「き、キモ! 気持ち悪いです! ふざけたことばかり言っていると許しませんよ!?」
手を交差させて俺の発言に心底引いているあやせ。
気持ち悪いってひでえな、いや自覚はしてるんだけど今の俺はそんなことではたいした精神ダメージを受けないハイテンション状態。
「じゃあどう言えば良かったんだ?」
「どうもしなくていいです! 喋らないで下さい、話しかけないで下さい!」
「それより、あやせ。体冷やさないようにタオルで汗拭きとっておけよ。山だとすぐ気温下がってくんだし」
「くぅぅ、喋らないでって言ってるのに! 言われなくてもちゃんと分かってます」
「はいタオル」
加奈子相手よりも十倍は近い手際良さで、すかさず用意していたタオルを手渡す。
「………………どうもです」
と、俺とあやせが(誰がなんと言おうと)睦まじく話していると女のマネージャーさんがやってきた。
あやせとは違う事務所の人だ。
今回は別の事務所のモデルも参加していて、このマネージャーさんがまとめ役をやってくれていたりする。
何度か仕事を共にした事があるんだろう。あやせとも知り合いなようでバスの中でも楽しげに話をしていたよ。
「あやせちゃん、お兄さんと仲がいいのね」
「な!? 仲なんて良くないですよ、すーぐ変なこと言うし、スケベだし変態だし!」
「あらぁそう? でもお兄さんと話しているときのあやせちゃん、とってもイキイキしてて楽しそうだけどぉ」
「楽しくなんてありません。今だって気持ち悪いこと言われてわたし怒ってたんですから」
「あらあら。お兄さん、妹が可愛いからってイケないことしちゃダ~メよぉ?」
「いやー可愛いあやせを見ているとついセクハラをしてしまうのが俺のクセって言うんですか? ライフワークみたいな――いっでぇえぇ!?」
「ふざけたこと言ってるんじゃねえですよ、バカお兄さん? そろそろ温厚なわたしでも本気で怒りますよ?」
ニコニコと笑いながら脇腹をおもいっきしつねくってきて、どこが温厚!?
「あやせ、おまえけっこう凶暴な? お兄ちゃんは感心しないぞ」
「誰のせいで凶暴になってるんですか、誰のせいで!」
「あはは、ほんと妬けちゃうくらい仲がいいわね」
俺と『妹のあやせ』の姿をみてマネージャーさんは楽しそうに笑う。
そうなんだ、ここでは俺とあやせは兄妹ということで通している。
ある程度顔見知りが集まるこの撮影スタッフにいきなり俺という異物が入り込む形を取る上で、あやせの兄として通したほうが皆もなんとなく安心するだろうという配慮からだった。
俺はそんなの気にもしないんだが、何しろ撮影チームには女性が多い。俺以外にはスタッフ二人が男性で後はカメラマンも含めて女性という構成だ。モデルの娘たちからすれば見知らぬ野郎がいたんじゃ撮影に集中出来ないってのもあんのかもね?
まあ理由はどうあれ今の俺はあやせのお兄ちゃん。俺たち兄妹が不仲なんて思われてたらそれこそ雰囲気悪くなるよな。
ちゃんとあやせとの兄妹仲が良好だと盛大にアピールしとかねえと!

「ええ、俺とあやせは小さい頃から今でもお風呂入るくらいの仲ですから!」
「ふざけんなセクハラやろうぉぉぉおおぉ! 土に還れぇぇええぇぇぇえ――――ッ!」
両手を組んでハンマーのように後頭部へ打ち下ろされて俺は土の味を味わわされた。
うう、良かれと思ってやったことなのに。
「ぐふぅ。すみませんごめんなさい、あやせさん。俺が悪かったです……」
「はぁはぁ……。フン、知りません!」
「ぷっ。ふふふ、ほんと仲良しさんね。あら、忘れるところだったわ。はいお兄さん、これ」
と、土に埋まった俺を助け起こしながらマネージャーさんは一枚の紙切れを渡してくる。
「これはなんすか?」
「今日泊まる場所の部屋割りね、ひとつのコテージで二人寝泊りすることになっているから」
ふ~ん。
コテージといってもピンきりだが、ここには小さなほったて小屋みたいなものがいくつか建てられておりキャンプ場みてえな感じだ。
それでも新しく建てられたばかりなのか、綺麗だしテントよりはよっぽど豪勢で、小屋の中にはバスルームからトイレ、キッチン。ネット回線まで用意されており、都会もんのお金を拝領するための設備が整っている。
こんな所まできて、自然を満喫しねえのもどうかとも思うが、ケチつけるより素直に楽しんだ方が楽しいのかもな。
で、俺の部屋はどこだ?
「え~とカメラマンさんはここで、モデルの娘はここで~」
念のために何かあったらいかんと俺は上からスタッフの人がどの部屋なのかを順番に目でなぞっていく。
顔を寄せてあやせが紙上に目を落とし「えっと、わたしの部屋どこですか?」と聞いてきた。
「ん~? えと、どこだろ。あ、あったあった」
「あ、はじっこのとこですね」
一番下にあやせの名前。
一部屋二人ずつで、あやせの名前の隣を確認してみると、
「…………俺?」
「へ? へぇぇええええ――――!? ちょ、ちょっと! どういうことですかお兄さん!?」
「ぐえ~~。首締めるなって! ど、どういうことっすかマネージャーさん?」
「同姓で割り振っていったらどうしても男性と女性で一人余っちゃうのぉ。でも良かったわぁ、あやせちゃんたちなら兄妹だしそんなこと気にしなくて良いものね」
驚いている俺とあやせを気にもとめないようにケロッとしているマネージャーさん。
「こ、こ、困ります! この人と一緒だなんて! イ――イ、イヤですわたし!」
顔を紅潮させて食って掛かるあやせにマネージャーさんは相変わらず気にしていない様子で。
「大丈夫よぉ、別に同じ布団に身を寄せて包まれ~なんて言ってないんだし。ちゃんとベッドはふたぁつあるらしいから」
「そ、そういう問題じゃなくてですね!?」
「兄妹なんだから気にしない気にしない。うちにも一人兄がいるけど、一緒の部屋で寝るくらいしょっちゅうよ。それじゃ、後で夕食だからそれまで自由に過ごしててねぇ」
あやせの全力の猛抗議を柳に風と受け流し、決まっちゃってることだからと告げるとマネージャーさんはさっさと行ってしまった。
言うこときかせるための有無を言わせない態度、さすがはプロといった感じがする。
というか単にあの人、天然ぽくね?
「そんなぁぁ~~~~」
俺がマネージャーさんの背中を見る横で、あやせはへたりと腰を落とし目の端に涙をためていた。

――午後十時。
夕食を食べ終えてミーティングを済ませた後、明日に備えて今日はさっさと寝ようということでそれぞれのコテージへと戻っていた。
「おーい、あやせ。風呂沸かしたぞ」
「ち、近づかないでください変態!」
「変態っておまえな……。いきなりベッドルームに引きこもって鍵まで閉めやがって、ひどくない?」
「いいえ! あなたみたいなスケベ野郎にはこれでも足りません!」
くそ~、さんざん言いやがるなこのアマ。
さすがにここまで拒絶されると悲しくなってくるぜ。
あやせの気持ちも分からんでもないけどよ、いきなり二人して一つ屋根の下に押し込まれてんだから潔癖なコイツとしてはイヤで仕方無いってところか?
元から俺のことを変態呼ばわりしているんだから、なおのこと心理状態は猛獣の檻に入れられた小動物の気分なのかもしれない。
「いいから風呂くらい入っとけよ」
「あなたがそばにいるのに、そんな危険行為するわけないでしょ! この痴漢、スケベ、ど変態ッ! 通報します!」
「してもねえのに、冤罪ふっかけてくんじゃねえ!」
可愛い女の子と一晩なんてかなりおいしいシチュエーションだが、こうまでヒステリックに騒がれると、おかしな気分なんて起きてこない。
やれやれだ。明日の撮影だってあるんだし、コイツもこんな調子じゃ良く眠れねえだろう。
「あやせ、俺がいるから駄目なのは分かった。一時間くらい外でも散歩してくっから、その間に湯船つからんくてもシャワーくらい浴びておけよ」
俺はつとめて素っ気のない口調で扉の向こう側に声をかけると外へ出て行った。
道沿いを歩きながら少し惜しいことしたかなとも考える。
でもよ、年下の子を不安がらせてしまうようなことは避けたい。
それに俺は今、あやせの仕事のマネージャーでもある。アルバイト代貰ってる分きっちりとあやせが満足して仕事に集中できるようにしなきゃなんねえよな。
いつものおふざけは隅に追いやって、あいつが困ってるんならと実はミーティングのときにも、部屋割り渡してきたマネージャーさんにどうにかしてくれってのは言ったんだけどさ。
他のコテージは埋まっちまってるし、人数も合わないから我慢してとニベも無く言われてしまった。
しょうがねえから俺は車で寝ると言おうとしたら、あやせは眉をひそめてはいたものの、『変なことしたら即通報します』と折れてくれた。
さすがに俺一人を車内へ追放するのには気が引けたのか、兄妹という設定上から変に意識しているようなことを悟られたくなかったのか、本心は分からない。
でもなんとなくだけどさ、たぶん前者だろうぜ。
いろいろ無茶な相談ごとを聞いたりしたこともあったが、あいつの言動を制御する根幹は相手を思いやってのことが多い。
俺のことはナメてやがってすぐに変態呼ばわりしてくるが、根は優しい女の子なんだよな、やっぱ。
「へっ。似たもん同士だよほんと」
――適当にぶらぶらと歩いて、頃合を見計うと俺はコテージへと戻ってきた。
置かれているシングルチェアに腰掛けると、ガチャとベッドルームのドアの隙間からあやせが顔をのぞかせた。
「あ……。お兄さん、お風呂頂きました。……ありがとうございます」
「おう、そか」
「はい。…………それと、さっきはちょっとだけ言い過ぎました。ごめんなさい」
さっきってのはいつのことだろう?
「なんのことだ?」
「何って……。さっきわたしお兄さんに痴漢とか言っちゃって」
「ああー。んなもんいちいち気にしねえって」
「そ、そうですか?」
「普段からおまえにゃ変態だのスケベだのさんざん言われ慣れてるからなー」
「む。お兄さんがいつもわたしに変なこと言ってくるからですっ」
「仕方がねえよ。おまえと会っているとなんか胸がドキドキしてくんだよね、俺ってば」
「ほーらまたそういうことを!」
っと、また調子に乗っちまったかな。
あやせはぷぅ~とリスのように頬を膨らませて睨まれてしまった。(←可愛い)
「悪かったよ。自重することにする」
「もう、いっつも冗談ばっかり。――そんなだからお兄さんがどう考えてるか分か………な………で…か」
なにやらボリュームが下がっていって後半が聞き取れなかったが。
ま、いっか。

話を変えることにして「あやせ、もう寝るんだろうけどさ――」と言うと途端にあやせは顔を真っ赤にしだすが、「俺、この椅子で寝るから。なんかあったら起こせ」そう続けると、
「え? あ、はい。分かりました」と素直に首肯した。
「もしかしてエッチなことでも考えたか?」
「バッ、バカ! 死んでください!」
バタンとドアが勢いよく閉まってしまった。
いかん、最後のは余計なこと過ぎたな。どうもあやせの顔見てるとついつい楽しくて軽口叩いちまうな俺。
椅子に腰を深く沈めてため息をする。固いが寝れないことはねえか。
と、閉まったドアがまた開いてあやせが出てきた。
ジャージとティーシャツというラフなスタイルだ。見慣れてない格好だったのでドキッと心臓の音が鳴ってしまう。
「どうしたんだ?」
「ちょっと喉が渇いたのでお茶買ってきます」
ツーンとすげなく答えるあやせ。
「あーしまった。用意すんの忘れてた。すまん」
「別にこれくらいのことは自分の管理内なので、気にしなくていいですよ」
「でもさ。――あ、俺が買ってきてやるよ。さっき最後に変なこと言ったお詫びも込めて」
「な、なんのことか知りません! 一人でいけますから。お兄さんはゆっくりしていてください」
そう言ってあやせはコテージを出て行った。
が、一分も経たないうちに戻ってくる。
「早ッ! つーか買ってこなかったのか?」
「………………その、道がすごく真っ暗で」
少し顔が蒼白くなっちまってるよ。
怖かったんだろうな、さっき歩いてて俺も思ったけど山の中だから外灯もほとんど無く建物から漏れる明かりなんてものも無い。俺たちが住んでいる街とは根本的に違う場所だ。
「分かった。俺が買ってくっから待ってな」
「で、でも!」
「いいからいいから、お茶で良いんだよな」
「ううぅぅ~~~~~~。……わ、わたしも行きますっ」
独りで待ってるのが怖いのかねぇ。
「別に怖がってなんていませんからね? 変な勘違いしないで下さい」
「はいはい」
「ほ、ほんとなんだから!」
どうやら俺に『怖がってんだなコイツ』と思われてるのがカンにでも触ったんだろうぜ。
あやせもついて来ると言い出して、俺たち二人は少し離れて設置されている自動販売機まで暗い夜道を歩き始めた。
「………………」
「………………」
じゃり、じゃり、と土音が鳴る道を歩いているが、あやせは黙りこくってしゃべってこない。
気まずい。今まであやせといてこんな空気になったことってねえよな。
「道、暗いな」
「……そうですね」
「足元気をつけろよ」
「……はい」
「こういうとこの自販機って普通のところより高いよな」
「…………」
う~~~~~~、さっきからつまんねえことしか言えてねえぞ?
あやせは顔を俯き加減にして俺の少し後ろをついてくる。
歩くのが早すぎなのかも知れないと、微妙に歩幅を縮めてもあやせはそれに合わせるように自分も歩幅を縮めるので位置は変わらず。
どゆこと!? 俺の横歩くのイヤなの!? 俺泣いちゃうよ?
そう思っていたら心を読んだようにあやせが心境を聞かせてくれた。

「こんなに暗いところ初めてなので……」
ああ、やっぱ怖いってことか。
独りで待っているのも、こうして暗い道を歩くのも怖いから、付かず離れず俺にバカにされないように少し後ろを歩いてるってことね。
「……ぷっ」
「な、なにがおかしいんですか?」
「いやー、なんでもねえよ」
「嘘。絶対わたしのことバカにしてます。」
「バカにはしてねえって。――でも、怖いものくらい誰にもあんだし隠す必要は無いと思うぜ?」
「隠してなんかいません! 怖くなんかも」
「じゃあ、俺少し先いってようかな」
「え!? ちょ、ちょっと待って! 待ってくださいお兄さん!」
速度を速めて距離を開けると、あやせは慌てて俺に追いすがり服の裾を掴んできた。
「やっぱ怖いんじゃねえか」
「イジワル! お兄さんなんてキライです!」
「わりぃ。でもさ、そんな怖がらなくてもいいだろ?」
「え?」
「とりあえず明日帰るまではマネージャーとして俺がついててやるからさ」
「……っ!? な、なんですかそれ? 全然かっこよくないです、キモチワルイです! 変態」
「気持ち悪いって……。相変わらずひでえなオマエ」
「フン。……………………マネージャーとしてですか……」
「あん? 声小さくて聞こえんかったわ」
「……っ。お兄さんのバカって言ったんです!」
なんだそりゃ。
そうこうする内にぽつんと置かれている自動販売機までやってくる。
ペットボトルのお茶を買って、さて戻ろうとしたとき。
「きゃ! お、おおおお兄さん!?」
「え!?」
自販機のそばの茂みが揺れてがさがさと音がしてくる。
さすがに俺もちょっとびびる。だって暗い草むらから何か近づいてきてんだよ! 動物か? 頭をよぎるのはイノシシとか熊とかおっかねえものばかり。
怖えよ、あやせのこと笑えねえぇぇ!?
それでもあやせの手を掴んで背中に隠し、即逃げの体勢で音が鳴る方を凝視する。
「――――――……………ッ!」
「…………あ」
俺たちの前に出てきたのは獰猛な動物ではなかった。
体長四十センチくらいの、見たことはないけど都会にも棲んでいたりするなかなか可愛い顔立ちの、
「タ、タヌキ……ですね」
「みたいだな」
は~~、驚かせやがって、このポンポコ野郎!
現れたタヌキはトテトテと近寄ってきてあやせの足元で鼻をスンスンならしている。
「か、可愛い――ッ!」
「餌付けでもされてんのか? 随分人懐っこいな」
「かもしれませんね。きゃん、くすぐったいよ。ゴメンね、わたし食べ物持ってないんだ」
膝を折ってタヌキの頭をスリスリしているあやせはさっきまで怖がっていたのはどこへやらであどけない笑顔を見せてくる。
……やっぱ可愛いなぁ、あやせたん。
タヌキ、よくやったぞ。俺も褒美に頭を撫でてやろう。
「ギャウッ!」
「うおっ! こいつ俺にはその態度かよ!?」
「くっ、あはははは。お兄さんおっかしい。ひょっとして怖いんですかぁ~?」
「ケッ。怖くねえよ! ちょっとびびっただけだっつうの」
「はいはい。怖いものくらい誰にもありますから隠す必要なんてありませんよー」
あやせは得意そうにさっきの俺の言葉を言い返してきた。
チッ。藪からタヌキって諺が無いか帰ったら辞書でも引いてみよう。
エサが貰えないと知ったのかタヌキはさっさと俺たちにしっぽを見せていなくなってしまった。

「戻るか」
「そうですね」
タヌキを見送った俺たちは自分たちのロッジへともと来た道を歩き出す。
「さっきより道が明るく見えませんか?」
「そういえばそうだな。――あぁ、上見てみろよあやせ」
俺が指を空へと向けて指し示すと、あやせは顔をあげて感嘆の声を漏らした。
「あ、月が出てきたんですね。うわぁ~綺麗」
「雲に隠れてたんだ。にしても街じゃあまり分からねえけど、月の明かりってすげえのな」
「さっきまで暗かったのに、道が光っているみたい」
「目が慣れてきたってのもあるかもな。これで怖くなくなったんじゃないか?」
「もう言わないでください! 自分だってさっきタヌキに驚いてたくせに」
「あー知らね知らね」
「ふふふ~ん、そんなこといってもダメですよ? わたしちゃんと覚えてるんだから」
軽口を叩き合いながら俺たちはロッジへと戻ってきた。
「携帯持って行けば良かったなぁ。写真撮りたかった」
「はは、明日も少し時間あるからそんときにちょっと探してみるか?」
「ですね! はぁ~楽しみです」
あやせは早くも明日のタヌキとの再開に心を向けているみてえだ。
子供っぽいなと思いつつもその顔を見ながら俺は嬉しいと思ったよ。この様子だと明日もあやせは気持良く仕事が出来そうだからな。
「――そうだ。俺、椅子で寝るけどさ、毛布ちょっと持ってっていいか?」
「はい、どうぞ」
ベッドルームに戻っていくあやせへ声をかけて部屋に入ると俺は使われていないベッドから毛布を取ろうとした。
そこで見慣れたものを発見する。
「これって防犯ブザーじゃねえか。おまえこんなとこまで持ってきてんのかよ」
手にとって俺に何度か使われたブザーを見ると、あやせが急に驚きの声をあげた。
「あ! そ、それは――」
あん? 何を驚いてるんだあやせは。
何の変哲もない丸っこい形の防犯ブザー。くるりと裏返しにしてみると、
「…………え? あ、あれ? 俺の……写真?」
「ダ、ダメ――ッ! み、見ないでください!」
俺が防犯ブザーの裏に貼られた自分の写真を目にするのと同時に、あやせが俺へと勢い込んで手を伸ばしてきた。
あやせはまるで隠していたものを必死に見られまいとするように慌てていて。
「おわっ、ちょ!?」
「か、返して! 返してください!」
もつれ合う足。
俺たちの体勢は崩れ、ボスンとベッドの上へと体を重なり合わせた。
時間が止まる。
「………………」
「………………」
俺の顔の上にはあやせの顔。
その表情は不安なのか泣きそうなのか眉根を寄せて目元を潤ませている。さっきまでの楽しく会話出来ていた空気も消え、代わりに張り詰めたような静寂が広がっていく。
一分か二分か。見つめ合ったままだったが、俺は意を決して口を開いた。

「…………あやせ。えと、なんで俺の……写真?」
俺の問いに顔を歪めて、何かを耐えているような表情を一瞬見せた後、あやせは俺の顔の横へと頭を沈め、両手で俺の肩を抱いた。
「………………そんなの、そんなの決まってるじゃないですか」
あやせは搾り出すように俺の耳に心を吐露し始めた。
「お兄さんは……。あまり親しく無かった頃も、わたしの相談ごとちゃんと聞いてくれて。色々からかって、スケベなことばっかり言ってきたりするけど。
 ……でも、ちゃんと最後にはわたしを嬉しくさせてくれます。――今日だって、マネージャーの仕事してくれて、さっきも背中で守ってくれて。わたしすごく嬉しかったんですよ?」
突然の告白に俺は心臓が急停止するかと思った。
だってよ、
「てっきりおまえには嫌われてるもんだと思ってた」
「キライなら、最初からお兄さんに相談ごとなんて頼むわけないです。今回のことだって。……どうしてそんなに鈍いんですか」
「いつも蹴り飛ばされていたから……かな?」
「バカ。お兄さんがわたしを困らせるようなこと言うからです」
「すまん」
「………………それ、どういう意味でですか?」
肩に置かれた手の力が強くなったのを感じた。体も震えている。
それが、緊張からきているもんだってのはすぐに分かったよ。服を通して心臓の大きな音も聞こえてくるしな。鈍感な俺でもさすがに気付く。
「おまえの気持ちに『すまん』なんて俺が言うわけねえだろ」
俺はあやせの顔をあげさせて正面で向き合い、あやせの秘めていた想いに答えた。
「マジ嬉しい。あやせ、ありがとな」
「…………お兄さん」
「ただ、突然でびっくりしてるってのもある。あやせ、俺――」
「いいです、その先は言わなくても。分かってますから」
そう言うとあやせは俺に顔を寄せてきて、
「……ちゅ。……ん、んん」
「あ、あやせ。……そんなことされたら」
「……ん、はぁ。されたらどうするんですか?」
「こうする」
両腕であやせの背を掴んで俺はくるりと体勢を入れ替えあやせをベッドの下に組み敷いた。
「……あやせ」
「……お兄さん」
気持ちは分かったんだ。あやせは俺に行為でも示した。これからすることに許可を求めるようなくだらないことはしない。
俺は静かに服を脱ぎ、次いであやせの服を脱がせた。
生まれたままの姿のあやせは大人として成熟してきている過程の肢体を俺に魅せてくる。
「は、恥ずかしいですお兄さん」
「俺だってちょっと恥ずかしいって」
「お兄さんはスケベだから平気なんじゃないですか? で、電気を消してください」
「ん、ああ」
部屋の横にスイッチをオフにすると部屋は暗闇に閉ざされた。
「あやせの体が見れないのは残念だな」
「恥ずかしいこと言わないで。お兄さんはやっぱり変態です」
「変態ってほどじゃねえとは思うが。ちぇ、減らず口だな」
俺は再びあやせの体を抱きしめ唇を重ねた。

「ちゅ、くちゅ……ん、はぁ。お兄さんの口の中、あたたかい……です」
「おまえの舌も熱い。口がヤケドしそうだ」
「ん、ふぁぁ……ちゅぷ、れろ……くちゅる、ちゅくちゅく……」
あやせの舌を吸い取るように味わうと途端に唾液が湧き出し口内を満たした。
「あむ、……お兄さんの、飲んで。ちゅ、ちゅぷりゅる……く、ん……こくこく」
俺のものを嚥下していく喉の音が重ねあわせている口伝いに振動となって脳を揺さぶって、いっそう俺は体が熱くなってきた。
少し体を曲げ、あやせの胸へと顔を埋める。
「ひゃ……お兄さん、そんな……あっ、んんぅ」
「胸、敏感なんだな」
「やだ、言わないで……ください」
胸の先端は早くも固くなっているようだ。
柔らかい乳房とともに口に含むとあやせは俺の頭尾を掴んで嬌声をあげた。
「やっ、あん……ひぅ、お兄さんやめっ……舐めるなんて……あっ、不潔です」
「不潔なわけねえって」
「んっんん……く、あん。そんな……ゃん、お兄さんの舌がぁ……あふ……わたしの、あっ、んん……吸ってぇ」
官能に身を包まれたあやせは頭上で甘い声を出している。
あやせのこんな声を聴いているだけでも、俺かなりヤバイかも。
さえずりに引き寄せられるようにもう一度俺はあやせにキスを交わし、手をあやせの下半身、少し膨らんでいる丘に手を伸ばす。
「ゃあ、あっ……あん……はぁ、ん、ふぅん……」
くちゅとした湿った感触。丘の谷間からは蜜のようにとろみのある愛液が染み出してきていた。
指を二本揃え、谷間全体を撫でさする。小さな突起部を指の腹でくるくると円を描くように愛撫して弱い力で摘むと、あやせは押し寄せてきている快感に必死に耐えているだろうか。俺の首にしがみついてくる。
「こんなのダメです、わたし、わたし……あ、ゃん……く、ふぁ、あっあっん」
「あやせ、俺のも触ってくれ」
あやせの手を取り、そっと俺の股間へと持っていくと、びくっと怯えたように手が跳ねたが、やがておそるおそる陰茎に指を添わせて拙く愛撫を始めてくれた。
「お兄さんのここ、とても熱いです。……はぁはぁ、それに固くて、なんだかぬるぬるしてて」
「あやせのココと同じだな」
「ひゃん……言わないでください、恥ずかしい。……ん、あぁ。ど、どうですか気持ち良いですか?」
「ああ、超良い。その先っぽの方とか撫でられると……くっ」
単調な指使いだが、濡れてきている亀頭を包んでにちゅにちゅと掌で擦り上げられていくと、電気が走るように腰から背骨を通って全身へと快感が流れてくる。
キスをして舌を絡ませ、お互いに吐く息を相手の口内に受け止めながら手淫を続けていると、むくむくとあやせの中へと入りたいという欲望が急速に肥大していく。
あやせの口内から舌を戻し、俺はあやせに膨れ上がった欲望を口にする。
「おまえの中に挿入するぞ」
「は、はい! わたし、その、頑張ります」
頑張りますって……。うん、よろしくお願いします……。
思いもよらず元気の良い返事に俺は吹き出しそうになるのを堪えながら、あやせの秘裂の中心にある男を受け入れるための穴へと陰茎を近づけた。
薄暗い闇の中で毛布を羽織ったままなので位置がなかなか定まらない。
「この辺か?」
「も、もう少し下だと思います。――あ、その、その辺かな? は、はい。そこで大丈夫です!」
またしても元気な回答。今度はこらえ切れず、
「ぶっ。くくく」
「え? わたし変なこと言いました!? お、おかしかったですか?」
「いや、すまん。なんか必死に教えてくれてんのが可愛かったからさ」
俺がそう言うとあやせは俺の下から口を尖らせてそっぽを向いてしまった。
暗いからあんま分かんねえけど、たぶん耳まで真っ赤になっちまっているんだろう
「ひどいです、お兄さん! こんなときにからかうなんて」
「わ、悪かった! 許してくれって。マジでおまえが可愛くて、ついな」
「も、もう誤魔化されません。許さないです」
「そこをなんとか」
「じゃ、じゃあ。あの……優しくしてくれたら、許してあげる……かも、です」
……こいつ、分かってて言ってないか?
そんな切なそうな声出されたら、今にも全力で抱きしめたくなるって言うのに。優しくなんて、そうするつもりではいるけどさ、今の一言は俺にとってかなり拷問に近いぞ?

俺はあやせの台詞で猛ってしまっている欲望をなんとか抑制しながら、膣奥へと自分のモノを侵入させていった。
「あ、くっ……あっは! ん、んんんぅぅ!?」
まだ少し挿入しただけだが、あやせは俺の背中に抱きついて、挿入されていく陰茎から与えられる痛みに耐えている。
長く苦しませないようにと一気に俺は残りをあやせの膣へと挿し込む。
「ひぃぅッ!? ぁ、はぁ……はぁ」
「全部、挿入った。……すまん、かえって痛がらせちまったかも」
「……ん、謝らないでください。わたし、お兄さんと、あっ、……はぁはぁ……嬉しいですから」
「俺もだ、あやせ」
安心させてやるように頭を撫でてあやせを落ち着かせると、腕に頬をこすり付けてきて嬉しそうに笑む。
頬が触れている腕に染み入るような温かさと愛しさが伝わってくるのを感じた。
「動いても……大丈夫です、から」
まだ少し苦しそうにしているようだし、無理しなくても良いと思うんだが。
俺が動かずに頭を撫で続けるとあやせはその手を取り、指をからめてこんなことを言った。
「お兄さんに、気持ちよくなってもらいたいです」
「ぐ……。それじゃ激しすぎたりしたら言えよ」
だから、どうしてそこまで可愛いこと言うかなコイツ。あやせ、今の台詞は卑怯すぎだぞ?
かけられた言葉に抑えられなくなり俺は抽送を開始し始めた。
「ん……んぁ、はぁ……あっ」
腰を引いてまた押し戻す。それだけの動きだが確実にそれは俺とあやせへ快感を伝えてくる。
俺のモノへ膣肉の一つ一つのヒダが吸い付き、じゅわぁと潤滑を良くするように愛液が溢れだす。
「くっ、あっあん……お兄……さんがわたしの中で、はぁ、動いて、る」
狭い膣内をごりごりとかき回し、自分の陰茎とあやせの膣内を摩擦していくとしびれるような感覚に陥っていった。
あやせも徐々に甘い声を漏らし始め、腰を前後させるたびに荒い息づかいをしながら頭を振って快感を受け止めているようだ。
じゅぷ、ちゅぱん、ちゅぱん。下半身から響いてくる卑猥な水音も俺たちの興奮に拍車をかけている。
「あやせ、気持ち良い。おまえの中すげえ気持ち良いからな、俺」
「……言わないで、あっん、ください。恥ずかしい……あっあっ! んっ……んん」
「気持ち良いのは気持ち良いんだから仕方ねえだろ」
「ば、ばかぁ。お兄さんなんて、やっ、あん……スケベな変態野郎です」
「そうかもしれねえ。んじゃもっとスケベになるぞ」
腰の動きを更に早くして、俺はあやせから貰う快感を強めた。
それに共鳴するようにあやせも声のトーンをあげて、身をくねらせ、握っている手に力を込めて痛いほどに握り締めてきた。
「きゃっ……お、お兄さん激し……はっ、んっんんん、あっあぁぁ。わ、わたし変です。ふわふわして体が……ひぃぅ、くぅん……浮いて、浮いてきちゃう」
「く……そろそろイく! あやせ、イくぞ!」
「はぃ、きてください。気持ちよくなってくだ……あぁあぁぁ、はぁはぁぁ……わたしも、わたしもお兄さんと!」
「イくッ! あやせ――ッ!」
限界近くまで抽送をし、絶頂の瞬間にあやせの膣から陰茎をずるりと抜くと俺はあやせのお腹へと精液を振りまいた。
「くぅっ、あっあぁぁ! わたし、わたしぃぃ! ん、くっんんん~~~~!?」
俺が精液を出すのと同時にあやせの体は痙攣し快楽の絶頂を極めたのだろう。痛いくらいに俺へとしがみついて、荒い息を吐く。
「はぁ……はぁ……。お兄さんの熱い、です。お腹熱くて……ん、んぁ……お兄さんと抱き合って、気持ち良いです」
「あやせ……」
俺は喜びを素直に言葉にしてくれているあやせに口付けを交わした。
自分も同じだと伝えるように。

――行為の後、俺たちはしばらく余韻にひたっていた。
あやせはベッドの横で座り込んで、窓の外から聴こえてくる虫の音に耳を澄ませているようだ。
月の明かりが窓から入って、あやせの顔がはっきりと分かる。
横顔は柔らかく穏やかで、俺はそれに見とれている。
こいつってやっぱ綺麗だよな――。
初めに会ったときは素直なお人良しで好印象。次に再会したときは、かなり怖えところもあるって知ってびびったっけ。
だけど根底には誰よりも優しい慈愛が満ちていることがすぐに分かった。
相談ごとされているときも、それは誰かの為ってのが多くてさ。
俺は辟易しながらも、実はその優しさに惹かれて相談に乗っていたのかもしれない。
「お兄さん」
窓の外を見ていたあやせが声をかけてきた。
「わたし、お兄さんのこと見ていたけど、こうなるなんて思ってもいませんでした。だから、不思議なんです。今はこうしているのも夢みたいで」
「そっか」
俺はどう言っていいのか分からず、気恥ずかしさにぽりぽりと頬を掻くばかり。
「…………お兄さん。街に帰ったら、もうわたしのマネージャーじゃなくなっちゃうんですね」
あやせは俯いて寂しそうに言う。
お、これなら分かる、簡単だ。
こんな顔しているコイツに俺がかける言葉なんて決まってる。
ただ、どうやらいつものように俺はあやせに調子に乗るクセが出てきたみたいで。
「あやせ。おまえってさ、俺に相談ごと頼んでくることあるだろ?」
「え? は、はい」
「たまには俺からの相談も聞いてくれよ」
「それはもちろん。良いですけど?」
話が変わったことに戸惑いつつもあやせは俺の相談ごとに乗ってくれると了承した。
んじゃ、遠慮なく言うかね。
「それじゃあ早速だけどさ。――この撮影終わったら、次に二人でどこへ行こうか、決めとこうぜ?」
誰かのための相談ごとじゃなく、俺とあやせ二人のための相談ごと。
「聞いてくれるんだろ?」
「~~~~っ。……かっこつけて、キモいです。お兄さんには似合ってないです!」
チッ。頑張ったんだぞ、そんな言わなくてもいいじゃねえかよ。

ふてくされながら俺は見つめる。
窓から入る月明り――
その柔らかい光に照らされていた、言葉と一致していないあやせの顔を。





タグ:

新垣 あやせ
+ タグ編集
  • タグ:
  • 新垣 あやせ

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

最終更新:2010年10月25日 00:01
ツールボックス

下から選んでください:

新しいページを作成する
ヘルプ / FAQ もご覧ください。