クンカの世界へようこそ!(下の上)


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分からないことだらけだった。

私のあの布切れに対する奇行。
この茶髪の女が入ってきた空間。
その女が要求した『パンツを嗅げ』という理解もしたくない言動。
「アタシの要求を呑んでチャラ。分かる?」
そして、何より分からないのは…

「!? な、何してるの私の右腕!静まって!」
私の意志に関わらず、汚らわしい暗黒物質に伸びかけている右腕。
もう何もかも分からない。分からないことだらけだった。

「きゃははは!こんな場面で邪気眼とかマジ救えないですけど!」
煩いわねビッチ!私だって必死なのよ…!
こんなことする必要はない。そう、そうなのよ。
私の行動を、この女はパンツの管理以上の行動だと言っているけど、
遜色のない異常行動だ。五十歩百歩、人にばれてはいけない事に変わりはない。
だったらこんな要求呑む必要なんて芥ほどもないのよ。
なのに…
「嫌、こんなの…」
私の思考なんて関係ないと言わんばかりに腕は伸びていく。
「な、なんで…」
どうしたっていうの私。これじゃ本当に変態…
もう消えてしまいたい気分だった。
視界の先にいる女の唇がかすかに動いたような気がしたが、
全く私の耳には届いていない。そんな余裕、ありはしなかった。
そして次に見えたのは、釣りあがる女の口の端。
今度は余裕のない私にも聞こえる、やけに明るい声がその唇から飛び出た。
「変態にはさっきのパンツ、物足りなかったでしょ?」
「っ!?」
「だってアンタが持ってたの、本当に新品なんだもん。
こっちはアンタのだーいスキな臭い付きよ。あー気色ワルっ」
私は正面に向けていた顔をふと足元に向ける。
そこには先ほどまで持っていた新品のパンツがあった。いつの間にか落としたのだろう。
結局この女が入ってきたので意識してなかったが、確かにこれは無臭だった。
どんなに近くで嗅いでも同じ。買ったばかりの真新しい匂い。
そんな素直な感想を抱くと同時に、僅かに、でも確かにもう一つの思いが私の中にあった。
混乱の中でうやむやになったが、この女の言葉は、否が応にも私に真実を突きつける。

私は先輩の匂いを感じれなかったことを、残念に感じていたんだわ…

「………」
心の中で、私を支えていたものに亀裂が入る音がする。
もう、諦めた方がいいのかもしれない。
勝手に動く右腕に全て任せればいいのかもしれない。
自分の中に確かに存在する欲望に、従っていいのかもしれない。
「………」
相変わらず伸び続ける右手。
その動きを、先ほどまでのように止めようとはもう思わなかった。
あと少しで、この女の持つパンツに触れる。
それで、もう全部終わるのよ…

私の様子が変わったのを感じたのか、彼女はもう勝ったと思ったのだろう。
先ほどまでとは違って囁きかけるように語りかけてくる。
「ほらほらほらぁ、さっさとしなさいよ…早くしないとぉ」
「………」
「あのバカきちゃうよ?」
「バカ……?」
「そ。アンタの愛しのせ・ん・ぱ・い♪」
「………せん…ぱい」
「そうそう、だからさっさと、ね?」
先輩が来る。そうか。これから彼が来るのか。
随分と遅いし、この状況をどうにかするのに必死で考えていなかった。
そう。早くしないと彼が来る。
この部屋に。私とゲームを作るために。
私と同じ時間を過ごしに。私とだけの時間に。
………
……

「駄目…やっぱり出来ないわ」
その言葉を言うと同時に、ようやく、私の右腕は止まった。

「はぁ!?な、何今さら言ってんの?
ここで止めてもアンタがどうしよもない変態ってことは変わんないのよ!?」
完全に勝ったと思っていた彼女は驚きを隠せずに言い放つ。
「…仕方ないことよ、好きにしなさい」
そうね。ここで止めても私が手を伸ばしたことは変わらないわ。
事実、この女の持っているものにも惹かれてしまった。
でも…
「私は今日、先輩の恋人としてここに来たの。
あなたの要求を呑んだら、私は彼に顔向けできないわ」
「っ!?」
彼は、私の初めての恋人。
彼にとっての私もそうだろう。ブラコン妹と地味子の二枚の盾があったのだから。
そんな二人が初めてこの部屋で過ごす時間に、余計な後ろめたさを持ち込めない。
私にとって大切な時間を壊したくない。
真っ直ぐに先輩のことを見れないで、
彼をがっかりさせるなんてことは絶対に許されない。
私が胸を張って、彼の恋人でいるために。
私の右手は、もう動かない。
「変態と罵るのなら勝手にすればいいわ。変態の何が悪いのよ」
まだこの場に現れない誰かさんのような台詞を吐き、
私はキッと彼女を見つめた。


「…なに開き直ってんの…マジ、キモいし…」
驚いた表情が、しばらくすると苦虫を噛み潰したようなものに変わる。
彼女はドスドスと私の方に近づき、私の足元にあった新品のパンツを拾った。
タンスまで歩いていき棚の中に強引に押し込む。
「…相変わらず、行動に品がない女ね」
「うっさい」
忌々しげに呟きながら、ドアの方へ向かっていく高坂桐乃。
ドアのノブに手をかけそのまま…出て行かなかった。
「今日は」
「っ…」
彼女の声に思わず身構える。どんな罵声だって受けてあげるわ。
でも、私の耳に入ってきた言葉はそんなものではなかった。
「お互い何も見なかった。
んで、アタシとアンタは今日いつもと同じような喧嘩をした。
だからアタシは外に出かける。なんか文句ある?」
「な、何…どういうつもり?せっかく…」
私の弱みを握ったのに。
「ばっかじゃん?アンタドM?」
私の心を読まれたかのような呆れ声が返ってくる。
「アンタが今日のことでビクビクしてたら、
あのキモい生き物がアタシに泣きついてくるし。
…猫は猫らしく素直ににゃんにゃんしてれば?」
すげなく答える彼女の、最後の言葉が切なげだったのは多分気のせいじゃない。
それでも、真っ直ぐに立つ彼女の後姿を見て思わずにはいられなかった。
本当に不愉快だわ。
いつも理解不能な行動、傲慢な言動、不快な態度。
なのに。

…どうしても憎めない。 本当に、不愉快。




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