クンカの世界へようこそ(下の下)


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「今日のところはあなたの言い分を聞いてあげてもいいわ。
最後のところだけは遠慮させてもらうけれど」
「どうだか。エロゲーだったらCG回収決まったようなもんよ」
そう言って彼女はノブを回す。今日はあなたの勝ち逃げね。
ドアを開け颯爽と去る彼女。
「うわらばっ!!」
訂正。彼女がドアを開けると外にいた何かにドアがぶつかった。
「ってー…
お前は俺にドアぶつけないといけない病気でもあんのかよ…」
鼻を押さえながら現れた人物は渦中の人、高坂京介だった。

「黒猫悪い!待たせた!」
先輩は部屋の中にいる私に気付くと、手を合わせて謝るポーズを取る。
彼が持っていた袋がゆらゆらと揺れた。
「な、なんでこんなに早く帰ってきてんの!?」
彼の妹は狼狽し、怒鳴りつける。
「その、なんだ…やっぱ黒猫を待たせるのも悪いと思ってな。
近場のコンビニ行ってきた。だから…」
先輩は私の方をチラッと見て、彼の妹に耳打ちする。
私に聞かれるのは都合が悪いのかしら。
でも、少しは事情が分かった。
あの女が何かしらを吹き込み先輩は買い物に行ったわけね。
どうりで遅いはずだわ。
このタイミングで彼が帰ってきたのは、誰かにとっては予想外だったみたいだけど。
ふと思案に耽っているうちに、兄妹の秘密の会話は終わったらしい。
片方はばつが悪い顔、もう片方は不機嫌そうな顔をしていた。
「…ってかもうそんなのいいし。アタシ外行くから」
「あ、おい!」
先輩の脇を潜り抜けようとする高坂桐乃。
しかし、彼女は先輩に腕を掴まれ、再び私の視界からいなくなることに失敗した。
「ちょ、まだなんか用あんの!?さわんなシスコン!」
「いや、俺も離したい…っていうか見なかったことにしたかったんだが…」
「は?何言ってんの?」
意味不明と怒る彼女に、先輩は脂汗を流しながら掠れた声で言った。

「お、お前…なんで俺のパンツ持ってんの?」


空気が凍る。
さ、最悪だわ…
このパンツはどこまでこの場を掻き回せば気が済むの…!
今度のゲームのラスボスを、穢れた布切れにしてしまいたくなるほどの邪悪だ。
「か、こ、っここ、これは」
パンツを片手に持つ女はがくがくと震えている。
彼女の頭の中は、パンツ補充をしていたあの時よりも混沌が広がっているに違いない。
「せ、先輩!それは…」
見かねて思わず声をかける。この事態を招いた責任の一端が私にもあるからだろうか。 
「そ、それは…?」
怯えた様子で先輩が話しかける。
ど、どうすればいいの…
大まかに言うならば…あなたのパンツで修羅場を繰り広げてました。
…酷すぎるわ。私なら卒倒する。
彼女を貶める言い訳も論外だ。借りを作っておいてそんな真似できない。
となると…道は一つしかないじゃない。
もともと私が背負うはずの業なんだもの。自分の不手際の始末は自分で…

「わ、私が」
「これはぁ!!!」
私の声を掻き消す大声が上がる。
驚き、声の方を見張るとそこにはギラついた眼。
『余計なことすんな!』
言葉を聞かずとも彼女の眼光はそう語っていた。
高坂桐乃は先輩の手を振りほどき、パンツを両手に持つ。
「アンタらがキモくてウザくてイラつくから…」
わなわなと震え、両手に力が込められる。
「おおお前、何をっ!?」
「や、やめなさい!」
それは、あなたの大事な…!

「ストレス解消にっっっ………使わせてもらうのよっ!!!」

咆哮と同時に真っ二つになるパンツ。
二人の女を振り回した欲望の布は、現所持者の手によって儚くも散った。


「俺が何したっていうんだ…」
部屋にはorzとうなだれた先輩と、呆然と立ち尽くした私が取り残される。
先輩を嘆かせている女は、パンツを破った後さっさとこの家を出ていってしまった。
「また喧嘩でもしたのか?」
「…そんなところよ」
そういう話ということになったものね。
「いくらイライラしてたからってよ…流石にいじけるぞ…
 ノーパン貴族になっちまうぞ…」
「先輩、落ち込みすぎて意味不明なこと口走っているわ」

うな垂れる先輩を見ながら、私はいけ好かない茶髪女のことを想った。
あれが、先輩から拝借したパンツならば。
自分のコレクションを自らの手で葬り、
大好きな兄を他の女と二人きりにさせたことになる。
…まさに踏んだり蹴ったり。間違いなく厄日だわ。
あの女が辛酸を嘗めるというのは、いつもなら胸がすくようなものだけど…
生憎、そういう気分じゃない。
今日は先輩と貴重な時間を過ごす予定だったけど、
このままでは素直にこの時間に浸れない。

「…今日のところは踏むだけにしてあげるかしら」
「踏むの!?」
四つんばいのまま顔を上げる先輩。
「独り言よ。あなたの趣味ならば、そうすることもやぶさかではないけれど」
「ねぇよそんな趣味!紛らわしいわ!てかそんな独り言初めて聞いたぞ!」
「いちいち煩い雄ね…」
どこまでも喧しい兄妹だわ。思わずため息が出る。
さて、さっさと借りを返しに行くかしら。
あの女と私の間にそういうものは必要ないもの。
「先輩、ゲーム制作はまた後日でもいいかしら」
「ん?ああ。別にいいが…じゃあ何するんだ?」
「そうね。せっかく犬みたいな格好をしているのだし、
今日は散歩でもしましょうか」


「しかしアイツがイラついてる時に行く場所っていってもなぁ。
 前はゲーセンにいたけど、今日もいるかは分からないぞ」
「心当たりがあるだけ十分よ」
並んで歩く先輩が難しい顔をしている。
私達が今いる場所は駅前の商店街。
学校から帰る途中で寄り道をしている学生や
夕食の買い物をしに来た主婦でにわかに賑わっている中を、
真っ直ぐ目的の場所に向かって進む。
「よしんばいたとしても…その…」
「気まずい?」
「まぁな。というか、どういう顔して会えばいいか分からん」
それはそうね。
パンツ引き裂き女と遭遇した時の対処法なんてどんな文献にも書いていないでしょうし。
「いずれにしろ家で会うのよ?一人より二人で会う方がまだマシだと思うけど」
「まぁそれはそうなんだが…」
未だにうーんと呻る先輩。
「…大丈夫よ。あなたはあの女の優しい兄さんだし、
気に食わないけど私は友人だもの。なるようになるわ」
「黒猫…」
きっとなるようになる。
今日あんな事が繰り広げられても、私達の仲は狂わなかったのだから。
そんなことを考えているうちに、私の視界に目的地のゲーセンが見える。
「…アレ、そうだよな?」
「ええ、見てすぐに分かる醜悪さだわ」
遠目からでも分かる。間違いない。
ゲーセンの目の前まで行くと、
私達の視線のすぐ先には一心不乱にバチを振り回し、太鼓○達人をプレイしている茶髪女。
「なんかデジャヴが…あ、おい」
立ち止まった先輩を尻目に、私は歩を進める。
ぶち切れ女子学生を見物していた人間の横を通り抜け、彼女の後ろに立った。
…私達がこんなところにいるって分かったらどういう顔をするかしら。
その顔を想像したら思わず笑みが浮かぶ。
彼女がプレイ中の曲が終わると同時に、
私は肩を揺らす無様な後姿に、心を揺さぶるであろう呪詛を投げかけた。

「お粗末なバチ捌きね。魅せプレイというのを教えてあげるわ」





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