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俺の妹の友達がこんなに可愛いわけがない

「あたしは槇島理華っていうんだ、よろしくね!」
 その言葉を発した女性は銀色の短髪、品の良さそうな服を着ている、有名ブランドみたいだけどそんなに嫌味な趣味ではない、確かに年はくってはいるが綺麗だと思う。
 沙織から話を聞いていたおばあさんか?成金趣味のような嫌なな感じはしない、むしろ気持ちのよい婆さんだ。
「お…、僕の名前は…」
「いいよw、そんなかしこまらなくてもさ、もしかして…高坂京介…君かな?」
 えっ?なんで俺の名前知ってんだ?急に名前を言われてやや面を食らう。
「はっ、はいっ、なんでぼっ、俺の事ご存知なんですか?」
「ああ~、やっぱりね…、近頃、沙織と会うとさ、よく喋るんだよ、あんたの事をさ……」
 そう言ってきししと笑うとお婆さんは沙織の方に目をやる。
「お婆様!そっ……、それは、別に今言う必要が無いと思いますわ……」
 思わぬ(?)御婆さんの発言に思わず口を挟む沙織。へ~、そんな俺の事を喋っていたのか、別に俺は悪いとは思わんがな…、緊張してんだろうか。
「初対面でなんだがあんたの事は京介でいいかい?」
「はいっ、全然構わないですよ」
 そのきびきびとした口調は嫌いではない、というかむしろ聞いていて気持ちが良い、なんかここらへんはやっぱり沙織の姉さんに雰囲気が似ているののだろうか……、第一に悪い人では無さそうだしな。
「それからあたしの事は「理華ちゃん」でいいからね!」
「ぶっ!」
その思わぬ言葉に新たに注いで貰った紅茶を吐く、…理華「ちゃん」って、もうそんな年でもないだろうに…
「あら、やっぱ変か…、じゃあ「理華さん」でいいや」
「はい…、わかりました、理華さん…」
 それを聞くと理華さんは「ふししし」と軽やかに笑う、なんかまったく年を感じない、そんな女性だった。
「ところで……」
 理華さんは少し神妙そうな顔つきを見せる・
「はい、なんですか?」
 俺はその表情を見て少し身構える。
「あんたら…、もうHしたの?」
「ぶぅ―!!!」
 今度は沙織がお茶を吹く!孫の前でなんてハレンチな質問するんだ、この婆さんは…。

一週間前…


 俺たちは恒例の高坂家で休日をいつもの4人で過ごしていた、みんなで喋ったり、お気に入りのアニメのブルーレイ
 を持ち込んで観賞したり、各々のオタク思考を議論したり、ゲームをしたり、それは極普通で極何処でもありそうな風景だ、俺はこの時間は好きだし、 もう俺にも「オタク」としての時間というのは皆と同様にかけがいの無いものになっているだろうな…
「やっぱあんたさ!何にもメルルの事分かってないでしょ!」
「あなたこそ、『漆黒』の良さを少しも理解しようとしないくせに…」
 桐乃はあいからず一押しアニメ「星くず☆うぃっちメルル」を黒猫に押し付けている、黒猫も負けじと自分が一押しする『マスケラ』 を引き合いに出して対抗している…、もういつもの見慣れた光景だ、なんかこうやって思いっきり自分が思っている事を口に出して喧嘩できるってのもいいもんだな。
 俺はいつものように沙織の方に目を向ける
「……」
 いつもなら沙織もそんな光景に「はいはい、そこまで!」という感じで大岡裁きをするんだけけれど…。
 今日の沙織はどこか様子がおかしかった。
「沙織?」
俺の声に沙織がびくっと姿勢を変えて俺の方に振り向く。
「なんでござるか?京介氏……、拙者、今ちょっとぼーっとしていまして、いや、申し訳ない…」
「いや…、別に謝らなくていいんだんけどさ、気にしないでくれ」
 なんかどこか体の調子でも悪いのか……、今日こいつが家に着てから少し様子がおかしいというか、普段のテンションが高いからかもしれないけど、やけに今日は静かだ。
「そういえばだけどさ…沙織に聞きたいんだけど~…」
 一通りに黒猫との舌戦を繰り広げ終わった我が妹、桐乃が声をかける。
「なんでござるか?キリリン氏」
「沙織、この前お見合いしたって言っていたでしょ?」
「うっ……、まぁ、そうでござるが、それがどうしたのでござるか?」
 なんだ、こいつ…、今、明らかに海老みてえに体仰け反らせたぞ!
「あらっ!本当にしたの?私はてっきりあの場を盛り上げる為の渾身のネタかとばかり思っていたけけれど」
 黒猫の言葉に俺もそう思っていた、だってまだ沙織は15歳だったけ…、確かにそうは思えないぐらい落ち着いているし、しっかりしている、でもそれでも早いだろ、沙織の親は一体何を考えてんだろうな…、金持ちの考える事はわからん。


「相手の人はどんな人だったの?」
「いやはや、なんと言いますでしょうか、普通に良い殿方でござった」
「また~、隠しちゃってさ~、顔はどんな感じだったの?イケメン?」
 そりぁ間違いなく俺たちと同じ人間の顔しているだろうよ!俺の妹ながらほんと女ってのは男の顔を気にするね、目と鼻と耳と口が
あれば万々歳だとお兄ちゃんは思うの。
「今風の顔というのもおかしいでござるが今思い出すと凛々しい顔つきでしたな~…」
「で…、どうだったの?」
 桐乃の追求は止まらない。
「いや、前も話ましたが拙者がこの服装でござったから相手が卒倒してしまって…」
「あ~、そんな事も言っていたわね…、確かにその秋葉原限定のような服装でお見合いになんか行きでもしたら誰でも卒倒すると思う わ」
黒猫は本に目をやりながらもからかうかのようにに答える。
「あんたのそのクイーン・オブ・ナイトメアだって同じようなもんじゃ~ん、廚二病コスプレ乙www」
「……っふ、私の黒い血であなた呪い殺される覚悟は出来てるでしょうね、それも三等親まで同じ苦しみを味わう事になる わ……、 覚悟しておいて頂戴」
「黒い血www、呪いってwww、ちょーウケるんですけど~↑」
 プルプルと震える黒猫に桐乃は腹を抱えて笑っている、俺もその三等親の中に入っているからできれば止めてくれ…。
 沙織の事だ、こいつの性格を考えてみるとあまり自慢などはしたがらないと思う、それにこの前行った沙織の家を見れば相当の金持ちっていうか俺が知っている中で最上位)ってのがいやでも判る。
 まぁ、相手の顔はともかくとして良い家柄のやつだったってのは想像できない事じゃない。
「お前らいい加減にしろ、で……、周りの反応はどうだったんだ?お前ら2人だけじゃなかったんだろ?」
 俺はハブとマングースのようににらみ合う桐乃と黒猫を引き離し、本題を沙織に戻す。。
「はいっ、いやはや…、大変でござった、拙者の母上も相手同様、卒倒しておりましたからな」
「その時点で既にお見合いとして成立しないと思うわ……」 
 黒猫のツッコミに同意した、そりゃ、そうだ、自分の娘がこんな風な格好をしてお見合いにこられたらさぞびっくりするわな…。
「でもさ~、相手イケメンだったんでしょ?連絡先ぐらい聞いたの?」
 桐乃がもったいないという表情で沙織に顔を向ける。
「はい、一応連絡先は交換しましたぞ」
 まぁ、そういう場だから建前上、交換せざる得ないかもしれないがな……、一番最初に俺達が初遭遇したSNSコミュニティ『オタクっ娘あつまれー』 でみたお前はかなりのインパクトもったを俺がこう言うのもなんだが……、もちろん今はなんの違和感さえ感じないが。

「あら、それは良かったじゃない、まだ刹那の希があって」
「まぁ、別にまた会いたいという訳でもござらん、ただ正装で会いに来てくれた殿方にいささか失礼ではござったかなとは思う所でご ざるが、でも……」
 黒猫の言葉を聴き終わると沙織が俺たちの方を見渡す。
「今はこうしてみなさんと一緒に過ごす時間が、拙者には一番大事でござる…」
沙織はさっき俺が考えていたことを口に出す、そうだよな、恋愛も必要だし、かならず通らなくてはいけない事だろうけど、こうやって友達と気軽に遊ぶ、一緒の時間を共有するってのも思春期の俺達にすれば大事だよな、絶対。
「あ…、あたしもあんた達との時間は別に嫌いじゃないけどね…」
 桐乃は髪を弄りながら顔をそっぽに向ける。
「ふふっ、素直に「好き」と答えれば済む話を」
 黒猫はその機微を見逃さない。
「うっ、うっさい!厨二病マスケラ大好き女!あっ…、あんたはどうなのよ!」
「私は好きよ、あなたのその子憎たらしい丸顔も含めて、この時間の全てが」
「なにっを~、人が気にしている事を~」
 桐乃と黒猫はまた喧嘩を始める、もうめんどくさいから好きにしてくれ、もう俺は止めん…。
 沙織はそんな2人を見て優しく微笑む、でも少しするとまた何か考え込むような表情を見せる、やはりなんかいつもと様子がおかしいな、こいつは人が悩んだり、落ち込んでいたりするとすぐ気づいて励ますくせに、自分がそうなっても周りに心配をかけまいと一人で抱え込んじまうじゃないか……、もし仮にそうだとしたらあまり良くないだろ、でもそういう奴なのかもしれん、槇島沙織というお嬢様は。
その日の集まりは無事、何事も無く(?)終わった。


 俺はその日の分かれたすぐ後に沙織に電話を掛けた。ちょっとあいつの表情も気になっていたし、どこかいつもとは違う、そんな俺の危機察知能力がビンビンと感じもしていたからだ、まぁ、大抵は俺がただしたいだけなんだが。
 別にそれが勘違いなら俺のいつもの余計なお節介で済むだろうし、何か沙織にあったら少しでも楽になれるように話を聞ければ良いなと真剣に思う、普段あいつが俺たちにしている事に比べたら全然大した事できないけどさ。
「どうしたでござるか?京介氏?」
 沙織が元気良く電話に出た
「おお、いや、別に大した用事でもないんだけどな…、今一人か?」
「はいっ!先程、黒猫氏とは別れまして今から駅に向かうところでござるが…、拙者なにか忘れ物でもしたのでしょうか?」
「いや違うんだ……、ちょっと今から会えねえな?もちろんこの後に予定がなければの話だが」
「え!いや…、別に時間は大丈夫でござるが…」
「じゃあ、今からそっちにいくわ、駅前で待ち合わせでいいか?」
「問題無いでござるよ」
「よっしゃ、ちょっと待ってろよ」
 俺はそういうと軽く上着を羽織って足早に駆け出した。


「すまねぇな、急に呼び止めちまって!」
 駅の近くのコーヒーショップに入る、ここなら少しはゆっくり話ができそうだ、うるさい妹も居ないし、こ憎たらしい後輩も居ない。
「別に結構でござるが…、京介氏…」
「なんだ?沙織」
 相変わらずのぐるぐる巻きの厚い眼鏡を少し下に向けて上目遣いしながら沙織がもじもじしている、何してんだ? こいつ…。
「まさか……、今から拙者に愛の告白を!!!」
 俺がそんな妹の友達を口説くような男に見えるのか!
「しねぇよ!誰がそんな大それた事をするか!!www」
「だってぇ……、みんなと別れた後に拙者だけ呼び出すなんて…」
「違うえよ!こらっ、お前頬を紅潮させるな!ひとさし指同士をくにょくにょさせるな!」
 まったく…、何を考えているんだ!ただ、まぁ、確かに無きにしもあらずだな、俺も急に呼び出しちまったからあまり強くつっこめな
い部分はあるんだからね……。
「もう…、京介お兄様ったら…、そうならそうと早く言えば要件を言えば良いものを…」
「お前が勝手に暴走するからいけないんだ…」

 俺はちょっとむすっとして腕を組む、っったく、今の中学生はなんというか……。
だけど少しは元気があるみたいで安心した、でもこいつ事だからやっぱ相手に悟らせまいとしているんだろうけど……。
「で拙者を呼び止めた京介氏の真相はなんでござろうか?」
 沙織は運ばれてきた紅茶を一口すする。
「お前さ、な~んか今日…あんまり元気なかったろ?」
「えっ!そ、そんな事ないでござるよ!拙者はいつだって元気もりもりでござる!」
 ぐっと両手を構えて力瘤をつくる。
「なんかさ…、表情だってうつろだったし、俺の言葉だって聞き逃していたぜ…。いつもなら何個耳があんだよ!お前は聖徳太子か! って突っ込みたを入れたいぐらいなのにさ…」
「えっ!あ~、今日は………、そう!今日はかなり寝不足でござってな!もうなんせユニコーンガンダムを作るのにちと熱を入れす  ぎてしまって…、いやっ、そりゃガノタにとっては最高の至福というのでしょうか…、というわけで気づいたら深夜遅くまで…」
 腕を胸の前で組み片方の指をピッと上に向け説明をする沙織、こいつの事だ、俺たちと合う前の日に限ってそんな体調を悪くするようなヘマな事はしないと思うのだが、普通に考えれば中学生が熱中して夜遅くまでというのはよくある事なんだろう。
「ほんとだな…?」
「本当で…ござる…」
 強い口調の後に語気が弱くなる…、なんか隠しているような気がするんだよな…、でももしかしたら男にはちょっと相談できない事かもしれない、それだとあまり問詰めても逆に沙織が可愛そうだ、俺の勘違いという可能性も大いにある。
「悪い、なんか尋問みたいになっちまったな、別にお前を問詰めようとか思っていないからさ…」
「いえいえ!そんな…」
 俺と沙織、お互い黙り込んでしまった、カチャカチャと喫茶店特有の無機質に食器が触れ合う音が喧騒の中に流れる。
「お前がちょっといつもとは違う感じだったからさ!悪いな、呼び止めちまってよ」
「そ!そんな事はないでござる!」
すごい勢いでぶんぶんと頭を振る沙織、おいおい、あんまり振ると眼鏡が飛ぶぞ、ちょっと素顔を見てみたいというのもあるがな。
 俺は一つ小さな咳払いをする。
「でもさ…、もし仮に悩み事があったら桐乃とか黒猫とかにでも言えよ…、あいつら、いつもはバカなことばっか言っているけどさ、 やっぱ友達が困っていたら助けようと思うにきまっているしさ…」
「でござるな……」
「それにお前ばっかりずるいんじゃねえか?人の悩みにはすぐに気づいて的確にアドバイスしやがって、それが沙織だけの特権とは思うなよな、たまには俺や桐乃、黒猫に素直に頼りやがれ」

 きっとそうだ…、桐乃や黒猫、あいつらだってもし沙織が困っていたら、悩みがあるって知ったら自分をも省みず沙織を助けると思う……、俺が助けを求めていてもあいつらは助けてくれるかどうかわからんが…。
「京介氏…」
 沙織の表情がゆるむ。
「毎回毎回お前ばっか回りに気を使いやがってさ…、たまには年相応の行動してみろよ」
「京介氏…、それは拙者が老けている、という意味にとって良いのでござるかな(`□´!!)」
決まったとばかりに自分に陶酔していた俺を尻目に沙織のおでこに怒りマークが浮かんでいる。いけね!なんか怒りスイッチを押してしまった気が…。
「いやっ、違うんだ!悪い!そういう意味じゃねえんだよ…!」
「じゃあどういう意味でござるか?」
「いや、もっと中学生らしく!というか」
 沙織のおでこにぴきっと十字マークが浮かび上がる、あれっ?これって俺、さらに火に油を注いでるんじゃねえ?
「すまん!沙織!許してくれ!」
 俺は両手を合わせて必死に頭を下げる、あの2人ならまだしも沙織にまで切れられた俺泣いちゃうよ(;_;)……、あれ、何にも反応がないぞ…。
「ぷぷぷっ…、あ~はっは!」
 沙織が腹を抱えて笑っている、悪かったな…、いつもの癖、というか絶対に桐乃と黒猫が悪い。
「は~、笑った笑った!すまなかったでざるよ、京介氏」
 ひとしきり笑うと沙織はぐっと俺の方に姿勢を正す。
「でも心配してくれて本当に…ありがとうでござる、京介氏」
「別にいいんだけどさ…、いつもの俺の余計なお節介炸裂ってやつだ、騒がせちまって悪かった」
 桐乃の事で事件が起きすぎていたかならな、余計な癖がついちまったのかもな、本当、人生は平凡に限るよ、まったく……。
「しかし、そういう事を言ってくれると言うことはいつも拙者を見ていてくれていた……、という事でござるかな?」
 沙織は意地悪そうな顔で俺を覗き込む。
「はいはい、そうですよ、どうせ俺はストーカー野郎ですよ!」
 もうなんとでも言ってくれ、ああ、早く帰って布団をギュってしたい、誰でもあるよね?そんな時。
「ふふっ、冗談でござる、でも……、拙者は嬉しいでござるよ……」
 そんな顔をするな…、いくら眼鏡を掛けていても俺はお前の家でその素顔を見ちまってるんだよ…、こいつ眼鏡を取るとマジで美人なんだよな…、アホでスケベな俺は勘違いしちまうだろが。
「まぁ、何事も無ければいいんだ、俺は帰る!呼び止めちまって悪かった、じゃまたな!」

 なんかこれ以上2人でいると変な気になりそうだったので俺は伝票を握り締め、席を立つ。
「京介氏!」
 照れるのを隠すように背を向けた俺に沙織のかすれた声が響いた、俺は後ろを振り返る。
「先程…、京介氏は拙者に年相応に行動しろ、と仰りましたな?」
「言ったけどそれがどうかしたか?」
 沙織はもじもじと指を絡ませる、眼鏡の下の表情は読み取れない、沙織は気合を入れるように立ち上がる。
「拙者の相談事……、やはり聞いてもらってもいいでしょうか?…」
「……」
 上目遣いで俺を見る沙織…。やっぱりなんかあるんじゃねえか……、俺は何も言わず元いた場所に座る。
「こんな俺でよければ言ってみな?お嬢様…」
 俺を誰だと思ってるいるんだ、沙織……、あの超がつく唯我独尊女、我が妹桐乃の、世間の一般から「失敗してもお前はよくやった」って言われそうな無茶な相談事をいつも聞いているんだぜ…、お前の相談事なんか屁でもねえよ…、っていうか素直に言ってくれて嬉しいなんて言えねえしさ、まぁ、その前にもう1杯熱いコーヒーのおかわりが欲しいね、店員さん。

「お見合いの話がまだ終わっていない、って事か?」
 そう言うと俺は先ほど店員さんに持ってきて貰った熱いコーヒーを一口すする。
「はいっ……」
 沙織はシュンと頭を下げる、やはりかなり深刻なようだ
「先ほど、拙者が高坂家で話をした事を覚えていらっしゃいますかな?」
「え~と、相手の男がお前の格好を見て卒倒しちまった、って話だったよな」
 確かに何度も思うが流石に自分のお見合いでこんなオタクルックの奴が来たらそうなうだろうな。
「その通りでござる、でも問題はそこから始まったでござるよ、京介氏」
「と、言うと?」
 そのことで家族と喧嘩でもしたとでも?俺は更にコーヒーを飲み込み。
「確かに殿方は卒倒はしてはしまったのでござるが、なんとかその場で復活したのです、拙者はそれでもうこのお見合いの話は無くなるだろうとタカを括っておりました所、相手の方がなかなか出来た方でしてな」
「ふむ」
「いろいろ拙者と話をしてくれましてな、拙者も少し落ち着いたでござるよ」
 まぁ、バジーナなら容姿はともかくとしてオタ話さえしなければ話は通じるからな
「良かったじゃねえか、相手の男がお前の容姿だけで判断していないって事だろ?それでどう困るって言うんだよ?」
「いや~(ノД`)」
 沙織は困った表情を見せる
「次回の顔合わせはバジーナスタイルではなく、『槇島沙織』で行かないといけないという事でござる……」
 ああ、なるほど、こいつの本来の姿「槇島沙織」の場合、まともに相手と話ができないぐらいに恥ずかしがり屋になっちまうんだよなあ、沙織が極端に嫌がるという事も頷ける。
「でも、この前はお前ん家に行った時に俺達に顔見せてたじゃねえか」
「あ、あれは、今までの京介氏達との類まれない時間があってこその結果でござる、あの時の『コスプレ』もかなりの勇気が必要でござった」
 あの時の様子を考えれば今回の『ほぼ初対面の男性とマンツーで会う』といのは確かに沙織にしてみれば難儀な話である。『槇島沙織』のチェンジした時もかなり緊張していたからな。
 あと、俺が一番聞きたい事がある。
「それと、一つ聞きたいんだけど、本気で結婚するわけでお見合いをしているわけではないんだよな?」
「いやいや、流石にそれなないでござるよ」
「そうか、それなら安心したよ」

 そうだよな、流石にこれで結婚って話なら沙織の嫌がるのは当然だろうな、まずは「お付き合い」をするって事なんだろう。
「今回のお見合いもお母様の提案でござってな、拙者の人見知りを心配してこういう機会を作ってくれるのでござるが~、ありがた迷惑と言いますでしょうか」
 なるほど、そういう沙織の性格があってのお見合話なんだな、心配するのはどこの親も同じという事か。
 多少、まともな話になってきて安心感が出てきた。
「お前としてはその相手の男ってのはどうなんだよ?」
「えっ、そんな話した事も無い男性を急にどうと仰られても拙者にはわからないでござるよ」
「でもまず話しないと相手の事なんかなんもわからねえだろう」
「う~、その通りでござるが……」
「理屈としてはわかるんだな」
「それは分かりますが・・・、拙者にはまだ早い気がするでござるよ…」
「う~ん、『友達の兄』として言わせてもらえば俺もそう思うがな」
「そうでござろう!」
「でもお前の親御さんの立場から言わせてもらえば心配はしているんだからしっかりやらないとな」
「京介氏は…、拙者に彼氏が出来てもいいでござるか?」
 はあ?それって、どういう意味だ?
「拙者…、拙者……は」
 ちょっ、ちょっと待て、何を言うつもりだ、沙織!
「拙者はオタクとしての自由時間が減るのが心底耐えられないのでござる!」
「それは俺にまったく関係ねええええ!」
 心配して損したぞ、まったく・・・。
「と、冗談はさておき」
「って結構、真剣な感じがしたけどな」
「やはり拙者にはキリリン氏や黒猫氏、京介氏と遊んでいる方がいいでござるもん…」
「おまえ、もしかして」
「なんでござるか?」
 沙織はびっくと肩を震わす。
「好きな奴でもいるのか?」
「えっ?いや、それは・・・、その、え~とでござるでござる・・・」
 沙織の顔が急に紅色に染まる。
「いいよ、隠さなくても、お前がそこまで拒否するってのはなんか理由はあると思ってさ」

 好きな人がいたらお見合いなんかしたくないのは当たり前だよな、沙織が親に嘘をついてまで相手の事を考えているなんてな、沙織に惚れられた相手は幸せだろうな、っていうかどこのどいつだ・・・、お兄さんは許しませんよ。
「好き・・・というか一緒にいたいというか、まだよくわからないでござるよ、子供の拙者には」
 沙織、それはもう好きなんだと思うのだが・・・、むかつくから言わないでおく。
「でもやっと理由がわかったからすっきりしたよ」
「・・・はい」
 しばしの沈黙が続く
「どうしてもお見合いはしたくなんだな?」
「はい・・・」
 じゃあ、俺のやる事は決まってる、なーに、至極簡単な事だ。
「俺には沙織の貸しがいくつあると思ってんだ?」
「えっ?それじゃあ」
「何をすればいいんだ?その解決方法はさ」
「あっ、ありがとうでござる、京介氏、恩に切るでござる」
「別にいいよ、俺が出来る範囲だがな」
「じゃあ、来週の日曜日に、その・・・・・・、拙者の彼氏になってほしいでござる!」
「へいへい、彼氏ね・・・って彼氏いいい?」
「正確には彼氏の演じて欲しいでござる」
「そうか、そうだよな、いや、そりゃ別に構わないけどさ、その理由はなんなんだ?」
「お見合いの後にお母様からなぜお見合いをそんなに嫌がるのか?と聞かれましてな・・・、拙者の意見をなかなか理解してもらえなかったでござる、それで『お付き合いしている人がいるわけではないでしょ?』と言われて・・・」
「お前はつい『いる』と言っちまった、それじゃあ連れて来なさい、って感じか?」
「認めたくないものでござるな…、自分自身の…若さ故の過ちというものを…」
「お前はただそのセリフが言いたいだけだろ!」
「面目ない・・・、その通りでござる」
「くっ・・・、まぁいい、ただ俺がお前に声を掛けずにいたらどうしていたんだ?」
「その時は、母上に素直に謝ろうと、もともとは拙者が子供のような嘘をついた事が原因ですから」
「そうか」
「はい」
 頭を下げてショボくれた沙織の頭に俺は手を添える

「沙織、俺に任せとけ!」
「京介氏・・・」
「お前の彼氏役ってのはいろんな意味で荷が重いとは思うけど、俺頑張るからさ」
「・・・拙者が母上に嘘をついた事は怒らないでござるか?」
「人間は嘘の一つや二つ誰でもつく、そうだろ?お前も母さんを騙そうとして嘘をついたわけじゃないし、その惚れた相手にも嘘をつきたくなかったんからだろ?嘘も方便さ」
 再び沙織の顔が火がついたように赤くなる。
「だから惚れた、というのは語弊が」
「それに、こういっちゃなんなんだが、俺はほっとしたんだ」
「えっ?」
「お前ってさ、今まで完璧超人だろ?懐の深さ、事の進め具合、周りへの気配り」
「そんな、別にただ拙者は当たり前の事をしただけでござる」
「そうだな、じゃあその嫌味の無い謙虚さも加えておこう」
「京介氏~」
「いや、ほんと完璧だよ、完璧、パーフェクトだった・・・、俺の中ではさ」
「褒めすぎでござる、そんな事言っても何も出さないでござる」
「結構だ、お世辞を言っているわけじゃねえ、なんにせよ、俺の中でのお前は完璧だった、だから俺はお前にいい意味で間違ったイメ ージを作っちまった」
「・・・・・・」
「それに加えてこの前のお前の家や素顔を見ちまって、ああこんな奴がこの世にいるのかと、こいつは俺とはまったく違う、違う世界 の人間なんだってさ、いやだねぇ、男のコンプレックスってのはさ」
「それは・・・」
「でも今日の話を聞いて、ちょっと安心しちまったよ、だってお前の悩みがどこにでも居そうな15歳の普通の女の子の悩みなんだも  んなwww、それに親にまでしょうもない嘘までついちまってさ」
「はい~」
「だから、ちょっと謝らせてくれ、すまん・・・」
「えっ!?ちょっと、なぜ京介氏が謝る必要が・・・」
「お前にへんなイメージを作ってしまったからさ、『沙織は俺とは違うんだ』、ってな」
「拙者はどこにでもいる普通の女の子、でござるよ、だから京介氏が手に届かななんて思うのは絶対におかしいでござるよ、京介氏に だって・・・・・・もし、もし、拙者と京介氏と付きったら拙者がもっと普通の女の子だって分かってもらえるでござる」

「えっ?」
「イヤ・・・・・・、例えば!例えばの話で、という事で!」
「わかってるよ、でけー声出すな!!」
「京介氏だって!!」

「・・・・・・」
「・・・・・・」

 しばしの沈黙の後、俺たちは恥ずかしそうにお互いを見つめ合う。
「今ので双方、手打ちという事でどうでござろう?」
「了解した、そうしてくれるとありがたい」
 俺と沙織は思わず笑い合う。
「じゃあ来週はよろしくお願いするでござるよ」
「ああ、任せとけって」
「ちなみに京介氏は名門高校に通う馬術部のエースという設定は如何でござろうか?」
「却下・・・・・・」
 さぁ、これから大変そうだぜ。



 。
「何が普通の女の子だよ、あいつは・・・」
 俺は沙織から教えてもらった住所へと向かった先で一般人の俺が目にしたのは、東京都心に造られた自然公園っていう感じのお屋敷だった。
 空に向かう龍のようにそびえ立つ様な門、でかい黒服の黒人ガードマンが出てこなったのが幸いだ。
 俺は恐る、恐るインターフォンを鳴らす。
「・・・・・・はい、どちら様でしょうか?」
 応答したのは若い女性の声だ。
「あの・・・、高坂と言うものですが」
 ひと呼吸置いてからインターフォンから声は響く。 
「高坂京介様ですね、お嬢様からお聞きしております、只今門をあけますのでどうぞお入りになってください」
 なるほど、これも自動なのね。
 鋼鉄の重そうな門扉が簡単に空いていく、俺は恐る恐る中に入る。

 おいおい・・・、門から自宅までどんぐらいあるんだよ・・・、いかにも貧乏人らしい発想をしながら俺は足を進める。
 しばし歩くとやっと大きなお屋敷についた、沙織ちゃんと出てきてくれよ~。
 玄関の前に到着するとすっとドアが少し空いた。
「京介さん?」
 恐る恐る沙織が顔を出す、お前が緊張すると俺まで緊張しちまうだろ。
「おっ、おう、沙織・・・・・・」
 いつものバジーナスタイルではない、袖の無い白いワンピース、品の良い綺麗な青いスカート、もちろんトレードマークのぐるぐる巻きの眼鏡はしていない、 美しい顔立ち、高校生とは思えないスタイル、2回目なのに緊張する俺。
「今日はわざわざお越しになって頂いてありがとうございます」
 深々と頭を下げる沙織。
「そんな事ねえよ」
 ああ~、今日は俺はこいつと彼氏彼女だからな~、どう喋っていいものか、お互いに事前にある程度は情報を交わしているし、作戦をねってはいるのだけどなんとも言えない気分だよな。
「立ち話もなんなのでどうぞ、中にお入りになってください」
「じゃあ、お邪魔します」
 でけええ!中に入ったら中吹き抜け、そして見た事もないような大きなシャンデリアが天井にどっしりと鎮座している。
 う~ん、大丈夫、まだ慌てる時間じゃないぞ、京介、この程度は沙織からの情報で分かっている。

「こちらです」
 俺は沙織の跡を歩く、普段は見ない沙織の後ろ姿、こいつこんなに足が長かったのか。
 それにしても部屋が何部屋あるのだろうか?ってか途中に召使いみたいな人達に会うと皆、頭を下げ、俺と沙織を見送る、マジ
で秋葉原以外で初めて生で本物のメイドさん見るよ、ってよく考えると秋葉原のメイドも嘘だなくだらない事を考えてみる。
「こちらです、どうぞ、お入りになってください」
 どれ位歩いただろう、沙織は大きな部屋のドアの横で立ち止まる。
 沙織から俺に向けられる視線、アイコンタクト、ここに沙織の母親がいる。
 俺はドアを軽くノックする。
「失礼します」
「どうぞ、お入りになってください」
 中から声は響く、落ち着いた綺麗な声だ、俺はドアを開ける。
 そこには和服を着た女性が座っていた、俺が足を進めるとすっと立ち上がり、頭を下げる。
「沙織の母の愛華です、今日はようこそお越しくださいました」
 ずっしりとした和服を着たこの女性が沙織の母親らしい、沙織に似た高い上背、顔は整った日本女性という美しい顔立ちだ、眼鏡
をかけているのがまた・・・
「あっ、初めまして、沙織さんとお付き合いをさせてもらっています、高坂京介です」
 俺もつられて深々と頭を下げる、今日はこんな感じでかなりを頭を下げそうだ。
「どうぞ、まずはこちらにお掛けになってください」
 召使いによってよく磨かれたであろう革のソファーに愛華さんは手を向ける。
「失礼します」
 応接間というには広すぎる部屋、そのソファに俺は恐る恐る腰をかける、沙織も俺の横に腰をかける、まぁ自分の家だかあ当たり前なのだがこの座り方がまた品が良い、音を立てずに実に上品だ。
「あっ、あのこれ良かったら食べてください」
 途中で買ってきたお土産は俺の知る中で最高級ブランド「ゴディバ」だが、このお屋敷を見てしまったあとだと焼け石に水という感が否めない、というかかえって失礼なのかと考えてしまう。
「あら、こちらかお誘いをしたのにかえってすいません、ありがたく頂きます」
 そういうと愛華さんはすっとよって寄って来たメイドにチョコを渡す。
「今日はわざわざ東京まで来て頂いてありがとうございます」
「いえ、僕も沙織さんの家へ伺ってみたいと思っていましたので」
「そうでしたか」





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