俺たちがこんなにゲキジョウなわけがない

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30、海岸・岩場
京介「俺は常々、普通や無難が一番いいって思って生きてきた。
なのに、あの日から全てが変わっちまった……」
京介と桐乃が並んで座っている。波の音が繰り返し聞こえる。
二人の後ろには防砂林が並んでいて、道があり、子供や漁師
が行き来している。
京介は場に似つかわしくない絹仕立ての着物を着ていて、
領民達の注目を浴びている。
桐乃「……」
桐乃は京介の言葉に涙を浮かべてジッと堪えている。
京介はそれに気づかない。
京介「いや、足を滑らせて溺れちまった俺がアホなんだろうさ。知っ
てっと思うけどよ、俺の弟の光輝は勉強も武芸もできて、顔もいい。
俺なんかよりずっと跡取りに向いてるんだ。そう思ってたから、まあ
ここでおっ死んでもしゃーねーかなーなんてちょっとは思ったんだ」
桐乃は京介の手を掴むと、イヤイヤするように首を振った。
京介、少し驚いて、桐乃を宥める為に頭に手を置く。
京介「いやちょっとだけだぜ? ちょっとだけ。俺だって死にたくねー
もん。だから一生懸命足掻いたね。でも、後から聞いたら、こういう
時は一回力を抜いた方が正解なんだってよ。まあ、お前は俺みたいに
間抜けじゃねーか」
桐乃、溺れた時の対処法に頷く。
京介「まあ、そん時の俺は一生懸命あがいたんだわ。手足バタバタさせ
て。でもちっとも助かりそうにない。水泳の練習もっとやっておけば
良かったって、あん時は思ったな。それで気づいたんだ。結局、俺っ
てヤツは何か一つでも真面目にやってきた訳じゃなかったんだって。
その癖、俺は弟に嫉妬してた。情け無いったらありゃしないぜ」
京介、桐乃から視線を外し、海を見る。
京介「そう思ったとき、アイツが俺を助けてくれた」
京介の「アイツ」という単語に、桐乃は嫉妬で眉を曲げる。
京介「溺れた経験から、俺はこれからもうちょっと頑張って生きようっ
て思ったんだ。まあ……助けてくれたアイツがスゲー可愛くて……ア
イツに振り向いて貰おうって下心もあるんだけどよ」
京介は照れ隠しに頭を掻く。

SE 大波の音

ナレーション「違うの! アンタを助けたのはあの黒いのじゃない! 
あたしなの! ……人魚の桐乃姫は何度も叫んだでござる。しかし、
魔女との取引で足の代わりに声を失った桐乃姫の言葉は、京介殿には
届かなかったのでござった」

胸元を掻きむしる桐乃に、京介は気づかずに続ける。
京介「こんなこと、お前にしか言えねーけどよ。アイツは……仏門に入っ
ちまった。色々頑張ったけど仕方ねぇか。初恋は実らないって言うしな」
桐乃、怒りで顔を真っ赤にして、京介の胸を叩く。
京介「俺に諦めるなって言ってるのか? けど、無理だ。俺は明日、隣の
国の姫さんと結婚しなきゃならねぇ。恋も大事だけど、国も大事なんだ」
桐乃、腕を振り切って京介の頬を叩く。

SE ビンタの音








「痛ってぇぇ~~!? 本気で叩くことねぇだろうが!!」
「はあ? うっさい、本気で叩かなきゃリアリティないじゃん!!」
舞台袖で待機していた黒猫が、妹に細波の音を出す小豆入りの箱を動かすのを止めさせるのが見えた。
稽古は一時中断。まあ中断させたのは俺だけどさ。
「きりりん氏、きりりん氏、確かにリアリティは大事でござるが、役者の顔はもっと大事でござる」
「こんな平々凡々の顔、そこら辺にいくらでも転がってるっての」
桜色の小袖に身を包んだ桐乃は腕組みをして、頬を膨らませた。
俺を平々凡々の顔と言うだけあって、この妹様の顔はこんな表情でも可愛らしい。
と、俺が部外者なら、つーか頬さえ叩かれてなかったら、思っただろう。
「京介氏も、まあそう怒らずに。きりりん氏もつい、役に入ってしまったのでござろう」
「そうそう、沙織わかってんじゃん。やっぱあたしってば、誰かさんと違って何でも出来ちゃうからさー」
「ふ……確かに、他の雌に尻尾を振って、自分を女として見てくれない男に対する嫉妬なんか
見事なぐらい感情移入できていたわよ。ハマり役だわ、人魚姫さん」
「なっ……は、はん! アンタも役になりきって頭剃ったらどう?
その鬱陶しい黒尽くめも、頭の反射で少しは明るく見えるんじゃない?」
いつものように喧嘩を始める桐乃と黒猫。
何だろう……この叩かれ損は。
「大丈夫ですか、お兄さん」
あやせたんが冷たいタオルを渡してくれたよ! やったね京ちゃん!!
「あの、お兄さん……」
「ん、ああ、気にすんなって。あれはアイツらのスキンシップみたいなもんなんだから」
喧嘩する桐乃を不安げに見るあやせに、俺は説明した。
というか、同じく二人の関係を知らない黒猫妹が涙目になってて、
流石に桐乃と黒猫も喧嘩を止めたようだ。
「つーかよぉ、加奈子の出番まだかよ?」
「そうでござるなぁ、じゃあシーン36の練習を始めるのは如何でござる?
黒猫氏~、拙者は隣国の姫役で舞台に上がるので、監督を頼むでござるよ」


なんで俺達が「大江戸版人魚姫」なんかを演じているかというと、話は少し前に遡る。
その日、いつものようにオタクっ娘三人が我が家に遊びに来ていた。
そしていつものように桐乃と黒猫が喧嘩を始め、俺と沙織は二人の仲裁に入ったわけだが
沙織の様子が少しおかしいと感じた俺は、頃合いを見計らって訊ねてみたんだ。
「人の心に踏み込むには、それなりの資格がいる……」
「友人という資格じゃ、ダメなのかよ? バジーナ大佐」
「私は大尉だよ。……ふう、どうして分かったのです?」
いつも思うが、メガネを外して急にお嬢様モードになるのは反則だ。
別に大した質問じゃないってのに、心臓がバクバクして答えが見つからなくなっちまう。
「い、いや、俺達って似たようなポジションだからじゃね? 今日も桐乃と黒猫の間に入ってさ。
そん時に、なんか沙織がいつもと違うなーって、まあ、そんな感じかな」
「そんなに優しくしないでくださいまし……過剰な期待に、甘えたくなるではありませんか」
「ふ…バジーナ……いや、沙織、俺に甘えにきたまえ」
とちょっと小粋なガノタトークの後、沙織は滔々と語り出した。

要約すると、姉との思い出の劇場が閉鎖されることになって、胸を痛めているらしい。
その劇場は小さな劇場で、町や市のちょっとしたイベントに使われていたりしたらしいのだが
昨今の不況の煽りで閉鎖されることに。それは仕方無いにしても、最後にその劇場に何かをしてあげたいのだそうだ。
その為に劇場の使用許可も取った。
しかし、何をすればいいのか分からない。予算はあるので、有名な劇団を呼んだり、コンサートを開いたり
そういう事はいくらでもできる。しかし、そうやって劇場に人が集まれば
それが劇場にとっていい最後であると、そう言い切っていいのだろうか?
沙織はそんな風に悩んでいたのだ。

そっから紆余曲折を経て、俺達素人が寄って集まって劇なんかやってみたりすることになった訳だ。
入場料? そんなのとれる訳がねーじゃん。俺達素人だぜ?
体裁としてはチャリティーというか、ボランティアというか、そういうことだ。
近所の小学校とかにチラシ配ったりしてよ、大道具なんかも色々手を尽くして安く仕上げた。
小道具なんかも、最近は100均でなんでも揃うしな。
素人とは言ったが、メンバーは結構華やかだ。何せ桐乃たちはモデルだし、黒猫や沙織も間違いなく美人だ。
麻奈実は家から和菓子持ってきて配ってくれるし、案外、当日は人が入ってくれるんじゃないかとちょっと期待したりしている。
そんな期待がある分、やっぱハンパな演技は見せられないってんで練習にも気合いが入るって訳だ。
桐乃のビンタも、まあそんな所かもな。
俺は舞台の上で熱演する桐乃達の声をBGMに、台本を捲って自分の台詞をもう一度確認した。

「桐乃っ! あんな男、桐乃には必要ない! 必要ないよ!!」
「つーかさー、マジありえなくね? 隣国のお姫様がちょっと美人だからって
あの馬鹿殿なんでノリノリで結婚しようとしてるワケ? 
あいつ、黒猫尼が好きだったんじゃ無かったじゃなかったのかよ? 誠氏ねってレベルじゃねーぞ」
「大丈夫だよ桐乃、あんな男、私が埋めてあげるから……また一緒に海で暮らそう? ね?
もう人間になんてならなくてもいいじゃない。そうでしょ?」
「魔女から魔法の短剣貰ってきたからよー。コイツでブスッとアイツ刺せば
お前は声と足が戻って、加奈子達と一緒に暮らせんだよ。
あ? 髪? うっさいなー、ちょうど切りたかっただけだっーの。
加奈子達の髪やったら短剣くれるって言うし、こういうのってアレだろ? Winwinってんだろ?」
「こうして、人魚の友達から桐乃姫は短剣を送られたのでござった」

しっかし、加奈子の言うとおり、この若殿ひでーヤツだな。
脚本の瀬菜は原作の人魚姫に少々のアレンジを加えたって言ってたが、
子供に見せんだから素直にディズニー版で良かったんじゃねーの?
あ、ちなみに瀬菜が最初に書き上げた段階では、登場人物全て男でした。もちろん設定変更したけどね!
「京介お兄様」
「ん、次は結婚式のシーンだな」
と、台本から顔を上げると、そこには天女にいました。
「京介お兄様?」
沙織さん、マジ天女。
結婚式なんだから白無垢が正しいんだろうが、それだと舞台映えしないってんで
色々黒猫が頑張った結果、天女が降臨してしまったというミラクル。
つーかもう天照大御神。
そりゃ俺だって、この女神様引っ張り出すためにゃ裸踊りしちゃうぜ。
「……いかん、こりゃ若殿のこと言えねーわ、俺」


結局、短剣を使わなかった桐乃は海の中に飛び込む。
閃光と同時に、舞台が変化した。
これは手前の海の絵をフラッシュペーパーっていう、マジックとかでよく使う紙に描いてあるんだ。
火を付けると一瞬で光って消える紙で、その下に描いてある雲の絵が現れる。
空に登った桐乃は、妖精のブリジットに告げられる。
「私達は空気の精になって、暑い国の人達に涼しい風を送ったり
花の香りをふりまいて人々を爽やかな気分にさせたりするんですよ。
そうやって善行を積めば、人間と同じ魂を授かることができるのです」
つまり、人魚姫はバットエンドなんだが、救いがある結末ってことだな。
っていうかブリジットちゃんのピクシー似合いすぎ。
いや、妖精の方だよ? グランパスの監督とか、ダガーもったガンダムとかじゃなくてね?
劇場の時計を見ると、結構いい時間だ。
もう閉鎖する劇場で、予定も入ってない為に、いくらでも稽古には使えるのだが
参加するみんなにはそれぞれ予定もある。今日の練習はここまでだろう。

.
.
講演まで一週間を切ったある日、俺は学校帰りに劇場を訪れていた。
今日はみんなの予定がつかないので稽古は休みだ。
舞台をやってみて分かったことが一つある。
確かに台本作ったり、道具揃えたり、衣装用意したり、演技の稽古したり、みんな大変だけど
なによりもこうやってみんなのスケジュールを合わせて予定を組むのが一番大変だということ。
言い出しっぺの沙織が監督で、俺はその助手みたいなポジションになってたから、それがよく分かった。
沙織は俺よか2つも年下なのに、ホントにスゲーよな。
夕日の色に染まる劇場を眺めながら、寒さにコートのボタンを閉じた。
「お一ついかがですか?」
頬にじんわりと温かな塊が押し付けられる。
「沙織…?」
制服姿の沙織が焼き芋を持って立っていた。


「沙織でも焼き芋食べたりするんだな」
「なんですか、それ?」
クスクスと上品に口を隠して、沙織は笑った。
それだけのことなのに、俺は照れて明後日の方向に顔を逸らしちまった。
だってよ、お嬢様モードの沙織は顔は超美人だし、身体はボン!キュ!ボン!だし、俺なんかより全然大人って思ってしまうんだが
それなのに中学生の制服着てるアンバランスさ! メラ系とヒャド系を融合させた結果、メドローアできちゃったよ、コレ!?
「焼き芋とか、俺らみたいなのの食べ物じゃんか」
「あら、ひどいですわ。京介お兄様は、こんなに美味しいものを独り占めしてらっしゃいますの?」
「いや、だからさ、沙織みたいなお嬢様でも焼き芋食べるんだなーって……アレ? 同じ事言ってる?」
「ふふ……だって美味しいじゃありませんか、焼き芋」
そりゃそうだ。美味いもんを美味いと思うのに、身分は関係ないか。
「この焼き芋だって、そこの角のお店で買ったものですもの。別に目黒で購入したわけじゃありませんよ」
「そいつはお後がよろしいようで」
俺達は暫く焼き芋を頬張って時間を過ごした。
そうやって並んで何も喋られないでいても苦にならないのは、麻奈実とコイツぐらいだ。
といっても、お嬢様モードのコイツにはメチャクチャドキドキするけどな。


「京介さん」
「ん?」
お兄様、ではなく沙織は俺の名前を呼んだ。
友人の兄ではなく、俺個人に何か言うことがあるのだろう、俺はそんな風に解釈した。
「ありがとうございます。色々と……」
「いきなりお礼を言われてもな。劇の事なら、俺は好きでやってるんだ。他の奴らも多分そうさ。
だから、そんなに畏まって感謝しなくていいし、その言葉は劇が成功した後で聞きたい」
「でも……私一人では、きっと出来なかったですもの。きっと、思いつきもしませんでしたわ」
「んな事はねーよ。俺は背中推しただけ」
焼き芋を食べ終わった俺は、クシャクシャと芋を包んでいたアルミホイルを潰した。
「そういやさ……お姉さんには劇の事、言ったのか?」
「え? お姉様に?」
「お姉さんとの思い出の場所なんだろ。声、かけてみたらどうだ?」
「海外にいるお姉様は忙しくて、こんな場所には来てくれな……」
「ストップ」
愁眉って言葉がある。
昔の中国に、西施っていう美人がいて、ソイツが胸に手を当てて愁いの顔で眉をひそめる様がスゲー可憐で評判だった。
そんなわけで、その地方の女の間で胸に手を当てて眉を曲げるポーズが流行ったんだが
そのポーズは西施がやるから可憐なんであって、他の女がやっても美しくは見えなかった、なんて話が由来だ。
何が言いたいかっていうと、沙織みたいな美女がやれば、苦しむ様でも充分見惚れちまうって事だ。
だからね、俺結構頑張ったんだぜ。だって、沙織が苦しんでるの放っておいていいわけないだろ?
「やってもいない内から弱気すぎるぜ。声かけるだけかけてみたって、いいじゃねぇか。
姉貴なんだろ? 向こうだって、お前から一言も無しにこんな事やってるって知ったら哀しむと思うぜ」
言ってから、俺は気づいた。
それが家族なら当たり前なんだ、と言えるようにまで、俺と桐乃の関係は回復したんだと。
ちょっと前の俺と桐乃のままだったら、俺の口からこんな言葉は出てなかったと思う。
アイツが何かしようと、俺には関係ないと思っていただろうし、俺に告げないことを哀しいとも思わなかったろうな。
「思い出の劇場が無くなるのが辛いぐらい、お前はお姉さんのことが好きなんだろ? 大切なんだろ?
そりゃ、今はちょっと疎遠になっちまったかも知れねえけどさ、そんな簡単に消えるもんじゃ無いだろ、姉妹の絆って」
冷え切ったと思っていた。
一緒に住んでるだけの、他人だと思っていた。
けど……それでも……
桐乃が俺を頼ってきた時、俺は……嬉しかったんだと思う。
桐乃に、コイツや、黒猫みたいな友達ができて、ホッとしたし
親父に桐乃の趣味がバレた時、全部俺が責任おっ被ったのは……
結局、俺はアイツとは他人なんかじゃなくて、
どんなに関係が冷え切っていても、アイツはやっぱり妹で、俺は兄貴で
俺がアイツの為に行動する理由なんて、それで充分だった。
「もし沙織が連絡して、音沙汰一つ無い、沙織が頑張ってるのがどうでもいい、そんな反応だってんなら
そいつは姉貴なんかじゃねえよ! そんな家族捨てちまえ! なんなら俺ん家の子になるか?」
……アレ? なんか勢い余っておかしなこと言ってねーか?
「そりゃウチはお前ン家みたいな金持ちじゃねえけどよ、絶対にお前に寂しい思いなんかさせねぇぜ!
俺がさせねぇ! 俺がお前の兄貴になってやる。なぁに、桐乃の無茶に散々つきあわされているんだ。
今更お前一人増えたところで、全っ然問題にならないね! むしろ自慢の妹が増えて鼻高々だ!!」
「きょ、京介さん……」
俺に肩を掴まれた沙織が、食べかけの焼き芋を地面に落とした。
「あ……わ、悪りぃ。驚かせちまったな。それに、お前のお姉さんのこと、勝手な想像で悪く言い過ぎた」
「いえ……私、京介さんの言うとおり、お姉様に連絡してみますわ」
イチョウの葉が舞い咲くような微笑みで、沙織は俺を見つめ返してきた。
ああ、やっぱり美人は愁いの表情なんかより、笑顔が一番だな。







一方その頃、桐乃は――

「アイツ、今日は予定無い筈なのになんであたしより帰るの遅いわけ?
ありえなくない? あたしがこうして一緒にエロゲやろうって部屋で待ってるのにさ。
それにしても、相変わらず殺風景な部屋よねー。あいつの没個性っぷりを象徴してるみたいな?
お前はエロゲの前髪主人公かっての! はーヤダヤダ、そんなんだから地味子ぐらいしか
構ってくれる女がいないのよ。他は妹のあたしぐらいじゃん? うわダサッ。
……遅いなぁ、兄貴。
ん……なんだろ、これ。……ああ、劇の衣装か。アイツ劇場に置かないで持ち帰ってるわけ?
そういえばマスケラのコスプレしてた時もノリノリだったし……部屋で着てポーズとってたりしてないよね?
うっわーキモっ! 超キモッ! 完全ラストサムライじゃん。ラストはオワタの意味だけどね。
……これ、カツラか……(キョロキョロ)……スンスン……うわっ、これ臭いキツっ!
帽子とかシャツの比じゃない。舞台練習で汗掻いているから? この兄臭、パンツレベルじゃん?
ランクで言ったらA級。もう魔界に帰ることが出来ないレベル。要・次元刀。
……待って、ってことはあたしの衣装も相当ヤバい感じ? いやいやいや、兄貴とあたしじゃ全然違うし。
兄貴が鉄人28号だとしたら、あたしは鉄人28号FXぐらいには改良されてるし、臭いも薄い。
け、けど、兄貴の臭いを嗅ぐことで、あたしの臭いを想像することはできるよね?
そ、そう、だからこれはあくまで、あたしの為。あたしが恥ずかしい思いをしたくないから、
だから兄貴の衣装を嗅ぐ。うん、大丈夫、何にもおかしな所はない。
よし、じゃあ……スンスン……スンスン……き、き、き、切り捨てゴメェェェェェェェェェン!!!
兄貴・ザ・侍キタコレ! 間違ったブシドーキタコレ!! 兄貴のマスラオ包んだ兄貴の袴!
袴の臭いで、墓場まで飛んでっちゃうっ!! キラッ☆ 流星にまたがって、兄貴に急降下ぁぁぁぁん!!
なにこの性感飛行! 兄貴何時の間に松本隆なみの作詞力身につけた? 超策士っ!
着物でチョンマゲなのに、兄貴の背中には羽根がある? それどんな厨二病!? きもっ
そうやって、あたしのこと見下ろしてるけど、わ、わかってんのよ、あんたの心の中、君に胸キュン状態だって!
はぁ…はぁ…ヤバイよ、侍兄貴ヤバイ、どれぐらいヤバイかっていうと、討ち入りしちゃうぐらいヤバイ
世界の中心で妹にチュウしちゃう忠臣蔵!みたいな斜め上の映画が中欧で注目されちゃったような状態!
スーンスーンスーン……はぁ、このなんとも言えない、兄貴サムライな臭い。例えるなら荒川の橋の下の臭い。
これを世界中に発進しちゃっていいわけ? 日本古来の精神としてANIKI紹介しちゃう? 新渡戸越えちゃう!?
台湾で国兄扱い受けちゃうの!? 共産党批判して京ちゃん党作っちゃう!? わ、わかってんのよ?
あんたの狙いなんて……そうやって人種的差別撤廃提案の中にこっそり兄妹婚を認めさせるつもりなんでしょ?!
と、とんだ侍よね。悪党、悪党でしょ? 千早(B72)城で籠城しちゃうんでしょ? 貧乳好きとかキモッ
そ、そりゃ胸は大きくないほうが着物は似合うけど? つまりアンタは妹に着物プレイをしたいわけ?
変態っ! 変態っ! な、なにが女性の着物の合わせ目は横からおっぱい揉みやすいようにできてるよ!!
あたしがアンタ以外に揉ませるわけないじゃん! めちゃくちゃガードするっての!
無理だかんね? 普通にやって、あたしは犯されないから! で、でも兄貴がもし大典太抜いたら?
兄貴の大典太があたしに迫ってきたら? 裂かれるっ! 着物も処女も簡単に裂かれちゃうっ!
兄貴の童子切で処女切られちゃうっ! 兄貴マジ鬼畜っ! 兄貴もう完全に鬼丸と化しちゃった!
あたし生死の狭間で兄貴の数珠丸膨れて精子命中! 三日月までトンじゃうっ!!
あたし乱れまくりっ! 花の乱っ!……ハァ……ハァ……あ、後始末しないと……
兄貴が帰ってくる前に……うぅん……その前にちょっとだけ……兄貴のベットで寝よう……」










誰も居ない舞台を、俺と沙織は歩いていた。
あの後、俺達は何となく別れたくなくて、
沙織は劇場の鍵を持っていたのを良いことに、誰もいない劇場に入ってみようと
そんな、子供みたいな好奇心を理由で中に入った。
暗い舞台で、客席側の通路にある非常口を示す緑色のランプだけが存在を示している。
「劇さ……上手くいくといいな」
前を歩く沙織に向かい、俺は語りかけた。
「ええ。きっと上手くいきますわ。黒猫さんもおっしゃっていた通り、皆さんはまり役ですもの」
「……俺、あんなに酷い男じゃないぞ?」
人魚姫の好意に気づかなかったり、尼に惚れてみたり、お姫様に鼻の下伸ばしたり……さ。
「私もそう思います。京介お兄様はもっと、酷いですもの」
「おい!?」
「あの若殿の倍はフラグ立ててるでござるよ?」
バジーナの口調になって沙織は話すが、メガネを掛け直したのだろうか?
あるいは、この暗がりなら、つまり自分を誰かに見られていないのなら
沙織のコスプレは、沙織の気持ち次第で着替え可能だったりするのか。
「後は……きりりん氏も、似てないでござるな」
「ああ、アイツなら声が出なくなっても、好きな奴には好きって絶対伝えるよな」
惚れた男が、自分を好きになってくれるまで待つなんて、桐乃とはかけ離れている。
「本当に……酷いお話……」
葉っぱの滴が地面に落ちたように、ポツリと沙織が呟いた。
「ちょっとだけ、救いがあるだろ。一流の悲劇より、三流の喜劇のほうが、俺は好きだぜ」
「……きりりんさんが人魚姫なら、きっと諦めないと思いますわ」
お嬢様の口調に戻った沙織が、舞台の中央で踊るようにターンをした。
「人間の世界で生きることも、好きな人から愛されることも、両方手に入れようとする筈ですわ」
「ん……確かにそうかもな」
尼や隣国の姫に身をひくなんて、桐乃には一番似合わない、か。
「でも……隣の国のお姫様だって、簡単には渡さないと……思いませんか?」
「姫さんが惚れるような男じゃねーって」
沙織が芝居がかった動きをして、ここが舞台で、俺もなんか俺じゃないような
そんな気分になっていたんだろうな……俺は沙織に近づくと、手を取って口付けをしていた。
「お姫様には、もっとマシな王子様がお似合いだ」
「私が待っているのは王子様ではないの、ごめんなさい。
私が待っているのは、私を外の世界へ連れ出してくれる人。
忍者でも、怪盗でも、構わないのですよ。でも、一つだけ、ダメなものがありますの」
「それは?」
「……お兄様。お兄様だけは、ダメ」
ピタリと、BGMが止んだ気がした。
元からそんなものはかかっていなかったんだが、今まで、この瞬間までは
宮廷に流れるような、オーケストラが奏でる音楽が、存在するような錯覚が確かにあって
俺は沙織の演技に付き合っていたんだ。
「だって……」
沙織の声だけが、劇場に残る。

「兄貴とは、結婚できないから」

それは告白だったのかも知れない。
十数分前の、「俺の妹になれ」といった事に対して、「妹はヤダ。恋人がいい」と。
ただ、そう受け取るにはあまりにも……
「誰の、真似だ……?」
答えたのは沙織ではなかった。
お嬢様の沙織でもなく、オタクの沙織でもなかった。
別の誰かを演じて、沙織は答えたんだ。
俺を「兄貴」と呼ぶ人物になって。
「沙織は、演技の才能はあるけど、シナリオの才能はないな。そいつはちょっとした超展開だぜ?」
俺の作り笑いには応じず、沙織は俺の横を通り過ぎていった。
「これは拙者の……ちょっとしたフェア精神でござるよ。情け無い恋敵に勝ってもしょうがないでござるからな。
まあその実……拙者が納得したいだけの、卑怯なフェア精神なのかも知れないでござるが」
クルリと、先ほどのターンより大分もたつき、時間をかけて沙織は振り返る。

「京介お兄様は厭。京介さんがいい……」

新雪の雪を踏んでしまうような、そんな儚げな声だった。
その声だけで、俺はどうしようもなく心をかき乱された。
この世にこんなに美しいものがあったなんて、知らなかった。
五感の内、たった一つ、聴覚だけで、
体中の骨が溶けてしまうほどに甘く、体中の肌に電気が走ったように痺れた。
電気がついてなくて良かった……顔が真っ赤で、とても見せられるもんじゃない
後で、この時について、同じ事を俺と沙織は言った。
ただ、二人の間に差違があったとすれば
俺は男の意地もあって、立ち続けていたが、沙織はその場に踞ってしまった。
その音に、何かあったのかと俺は慌てて駆け寄った。
「おい、沙織!? 大丈夫か……」
「いや……恥ずかしい……」
両手で顔を隠して、沙織は頭を振っていた。
元から恥ずかしがり屋の沙織だが、告白には相当の勇気を振り絞ったのだろう。
そんな事をさせた自分が、非道い罪人のような気がした。
「沙織……」
そして、それ以上に……その沙織の姿が愛おしかった。
今までに見た、どの沙織よりも、等身大の、俺より二つだけ年下の女の子だった。
「沙織っ!」
彼女の身体を抱きしめた時、胸の奥で何かがチクリと痛んだ。
丁寧に積み重ねてきたレンガ造りの家から、一つ石を抜いたように。
この石が無くなっても、家は崩れることはない。
だけど、この隙間から冷たい風が、家の中に入り続けるんだ……そんな事を考えた。
「京介…さん……」
これだけ近づけば、暗がりだろうと沙織の顔を覗くことができる。
そして、沙織の瞳が揺れているのが分かる。
きっと俺の心が揺れているから、こいつの心まで揺れちまってるんだろう。
「………」
その揺れが、奥に引っ込んでいこうとしていた。
すると、さっきまでの沙織まで居なくなって、
いつもの、気配りができる、俺より年下だってことをつい忘れちゃうような完璧な沙織になるんだ。
それでいいのか?
俺が抱きしめた沙織は、愛しいと思った沙織は、もっと弱さも持っていた少女じゃなかったのかよ?
それを隠しちまったのは、俺が怯んだからだ。
沙織との新しい関係を選択することで、失うものがあることに躊躇いを感じたからだ。
じゃあ、それを守れば俺は幸せなのか?
無理だ。
だって狂おしいぐらいに、想っちまった。沙織を好きになっちまった。
「悪りぃ……」
それは、この場にいない、ソイツに向けて放った言葉だった。
俺はその言葉の後に、沙織の唇を奪った。

.
.
「なあ桐乃、お前は俺と姫の結婚を祝ってくれるだろう?
人はこれを所詮は政略結婚というかも知れない。けど、俺は本当に姫を愛しているんだ。
それを祝ってくれる人がいないんじゃ、俺は喜べないんだ。
父上や弟も喜んではくれるだろうさ。けど、俺はお前に祝ってほしいんだ。
お前は俺の大切な……んぐ!?」
友人だから、とセリフが続く筈の所で、桐乃は俺の口を塞いだ。
……唇で。
ませたガキ共が、観客席で沸いているのがわかる。
「な、何を……」
俺が驚くよりはやく、桐乃は舞台袖へと賭け逃げていった。
混乱する中、黒猫が慌てて照明を落として場面切り替えをするように指示し、
あやせがドス黒いオーラで、俺を●そうとしているのが見えた。
……18年か。結構生きたな、俺。

兎に角、ひたすら土下座を繰り返し、
あやせから「劇が終わるまでお兄さんの命は預けておきますね」との言質を頂いた。
やったね! あと数十分だけ長生きできるよ!!
「……沙織、次は出番だぞ?」
花嫁衣装に身を包んだ沙織が、ソワソワと観客席を覗いていた。
理由は分かる。お姉さんを捜しているんだろう。
沙織から聞いた話では、舞台は「見に行きたい」とメールが帰ってきたそうだ。
だが、客席に沙織のお姉さんの姿はない。
しかしですね、恋人が妹にキスされても気にされてないってのはちょっと哀しーです、沙織さーん。


カラン……と、厳粛な音楽が流れるなかで、盃が沙織の手から零れた。
といっても、劇中で使用しているので、盃の中に酒が入っているわけじゃない。
「も、もうしわけありません。私、この日を楽しみにしていましたので……
緊張で粗相をしてしまいましたわ。京介様、ダメな妻だと思わないでくださいましね?」
アドリブで結婚式の演技を続ける沙織に、
俺は(上手い返しも思いつかなかったので)ただ頷き、演技を続けた。
沙織がミスをするなんて珍しい……そう思いながら、彼女の視線を追うと
劇場の入り口に、この場には似つかわしくない上品な服(とはいえ、場違いではない)に身を包んだ
妙齢の女性が立っていた。急いでいたのだろう、肩を上下に動かしている。
沙織と同じ、アッシュカラーの髪の毛と瞳。
これであの女性が沙織の姉じゃないとしたら、とんだミスリードだぜ。
「兄上、この度の祝言、誠にめでたく存じ上げます」
弟役の御鏡が、折り目ただしく礼をする。
いや、かえって浮いてるけどね!? その完璧な時代劇の演技!
「いやメデタイ! メデタイ! 美人の嫁さんもらえて、高s…京介は幸せもんだ!」
赤城の野郎は完全にバカ親だ。っていうかケツを観客側に向けるんじゃねぇ!
「京介様、これからも末永く可愛がってくださいませ」
と、沙織は俺の手を握り……
「ん!?!」
桐乃に続いて衆目の前で、俺の唇を奪っていきやがりました。いやん、もうお嫁にいけない。


その後、劇はまずまずの好評を得、終了し
俺は沙織のお姉さんと沙織と三人で少し話した後、打ち上げに合流した。
沙織のお姉さんとはあんまり話せなかったのが少し心残りだ。
初対面で緊張した事もあるが、向こうも忙しい時間を縫って駆けつけてくれたらしい。
俺なんかと違って、妹思いのいいお姉さんだ。
最後に「妹を頼みます」と言い残して帰っていった。魂抜けたね、そん時は。
んで、その打ち上げのカラオケボックスで
桐乃に「アレは演技だから勘違いしてんじゃないわよ!」と蹴り飛ばされ
黒猫に「本当に節操のない雄ね」と冷たく罵られ
あやせに「●んでください」とナイフとフォークを投げられ
加奈子に「ついでだから殴ってやんよ」とカエル飛びアッパーを食らい
麻奈実の「ごめんね、砂糖と塩間違っちゃったみたい」という和菓子を喉に詰められ
瀬菜にふっかけられた赤城に「お前はファーストキスじゃないから我慢してくれ」と×××され
劇の成功を喜びあった。
……うん、喜びあったんだよ、本当に。
沙織に膝に沈んだ俺をブリジットちゃんと黒猫妹にナデナデされたのが唯一の救いだったぜ。

「……って、桐乃さん、この領収書は一体?」
「今日の打ち上げ、アンタの奢りだから」
「どーやったらカラオケでこの額になるんだよ!」
「メニューの全品頼んだら?」
道理で皿が多いと思ったよ!
うう…近くにATMあったかな……
「言っとくけど、沙織にお金借りたら、アンタのこと一生ヒモって呼ぶから」
「借りねーよ!」
「んじゃ、あたし達は二次会のボウリングに行くから。あ、人数足りてるからアンタ達はこないでね」
「なっ…お前なぁっ!」
言いたいことだけ言って、俺の言い分は聞かずに出て行きやがったよ、ウチの妹様は。
俺は兎も角、沙織までハブっておかしいだろ。お前の友達だよ?!
今回の劇製作の主役っていっても過言じゃないんだぜ、沙織は!
「お兄さん、お兄さん…」
「あんだよ、御鏡…」
「これ、使ってください」
こっそり、輝きをもつカードを差し出すイケメン(外面)
「御鏡……悪いな、後で返すから」
「いいですよ。楽しかったですから」
くそっ…なにこのイケメン(中身)。この前はゴメンね。

「はぁ……」
「きりりんさん達に感謝ですわね」
「なんでだよ」
「京介さんと私に気を使ってくれたのだと思いますわ」
……そういう事なのか?
他の連中は兎も角、桐乃は俺に嫌がらせしたいだけなんじゃねーかなぁ……
つーかバレてんのね、俺達の関係。別に隠してた訳じゃないけど
劇に集中しなきゃいけないときにゴタゴタするのもアレだと思って、しいて発表もしてなかったが。
「京介さんはきりりんさんに対してだけはニブチンですわね」
「そーかぁ?」
「そうですわ…ぁんっ…」
質量をもつパイオツを、俺のテンタクラーロッドが揉みしだく。
うーん、何度揉んでも手から零れてしまう、圧倒的な物量。戦いは数だよ、兄貴。
「んっ…ダメですわ……こんな所で……」
「まだ使用時間残ってるから大丈夫だって」
沙織の服のボタンを外し、そのたわわな膨らみを外気に解放させる。
触り心地のよい、高級そうなブラも取っ払う。
ううん、今年のクランベリーは発色がよく、小ぶりだが瑞々しさがありますなぁ~ツンツン☆

「っぁ…ふぁっ……んっ…っぁ…」
「桐乃に蹴っ飛ばされた頬が痛てーんだよ。な? ナデナデしてくれよ」
沙織の15歳が持つには不相応な双丘に顔を埋め、擦りつける。
「京介さん…あっ…ぁっ……」
俺より背は高いし、肉感たっぷりな沙織ではあるが、それでも俺が抱えられないぐらい重たいわけじゃない。
沙織の胸を堪能しながら、そのくびれに腕を回し、場所を交換する。
カラオケボックスの安いソファに背を預け、沙織の身体を受けとめた。
「ん…じゅっ…ちゅるっ……ちゅっ…ちゅっ……」
体面座位の形になった俺達は、意馬心猿とばかりにお互いの唇を啜りあう。
「…っは…んふっ……ちゅるるっ…じゅぽっ…んぽっ……」
口膣に刺激を受ける度、沙織が身をよじる。
それに追従する沙織のバスト揺れ、もう艶福、艶福。
「もう…いやですわ、京介さんったら。私の胸ばっかり……私と私の胸と、どっちが好きですの?」
「お前に決まってるだろ」
ジト目(←ふつくしい)の沙織を宥めるため、髪を手で梳くと、くすぐったそうに身を縮めて俺に身体を預けてきた。
「じゃあ今回は許してあげますね」
そういって、あどけない少女の顔をちらつかせながら、一方で俺の胸元をはだけさせているのが沙織という女である。
「京介さんにお返しです……んっ…ちゅっ…ちゅっ…」
「ぁう…」
いやはや、年下の女の子に乳首舐められるというのも、乙なもんですなぁ……いや、Mじゃなくてね?
「ふふ…京介さん、可愛い……」
「ダイの大冒険、もとい、大の男に対してそりゃねーだろ」
これは挑発か? たけしの挑戦状なのか? よーし、受けてやろうじゃねぇか。
俺は沙織の背中に手を潜り込ませると、背筋を人差し指でそっと撫でた。
「ふぁんっ…やっ……そこ、ダメですわ……弱いの…っふ…知ってますのに……京介さんのいじわるっ…」
「ほらやっぱりな。お前の方が可愛いだろ?」
「…やぁっ…そんな…はんっ……可愛いだなんて……」
ウェーブのかかった浅鈍色の髪が崩れるほどに、俺の「可愛い」という言葉を否定する沙織。
まあ実際可愛いんだから、嘘は言ってないんだ。
けど、美人とは誉められても、可愛いとは言われ慣れてないのか、こうやって極度に恥ずかしがる。
その姿がまた愛らしいのなんのって……何この無限ループ。
「ああもう、俺の彼女は可愛いなぁ! 沙織は愛らしいなぁ!!」
「そ、そんな大声で叫ばないでくださいっ!」
「いいじゃんか、カラオケボックスなんだしさ。ボックスじゃなくても叫ぶけど」
「京介さんっ…んぐっ…ん…ふぁ……」
彼氏に反抗しちゃう悪い口は食べちゃうもんね。
とか言いつつ、ペロペロしながら沙織の服を脱がせる。俺も中々手慣れたもんです。
「こんなに固くして……京介さんのエッチ……」
あれー? 俺の下半身がスースーするぞー?
ザ・ワールドかキンググリムゾンでも食らったのか!?
くそー、俺がエッチだって? お前の方がとんだ淫乱娘じゃないですかヤダー
「ぁ…っん……こんなに脈うって……京介さんの……熱い……」
真珠のように白く長い指で俺のヴァジュラを絡め撫でる沙織。もう雷でちゃいますよ、その指使い?!
どこで覚えたの?! 今すぐにでもあるるかん操作できちゃう腕前ジャマイカン!
「んっ…ふぅ…っんぁ……はぁ…」
しかし、そのこなれた手つきの割りには、顔は恥じらいで染まっていて、
チラチラを俺と俺の息子を交互に見やっている。
その事を前に指摘したら、やはり恥ずかしいのもあるが、俺の反応を見て気持ちいい場所を探しているんだと。
まったく献身的なお嬢様だぜ。その上、真面目で学習能力が高いときたもんだから、俺は耐えるのに必死だ。
「ふぅ…ふぅ……先っぽからヌルヌルしたのが……んっ…止まりませんわ……」
熱っぽく語る沙織は、亀頭を親指の腹でやわやわと撫でて刺激しながらも
リズミカルに根本から手全体を使って肉棒をしごき続ける。

「ふふ…まだダメですよ、京介さん」
沙織は手を離すと、俺から離れ、姿勢を変え始めた。
「ん……何か企んでるな?」
俺に見透かされたのが嬉しいのか、沙織は口をωにして悪戯っ子の顔を見せた。
多分、これが一番ありのままの沙織なんじゃないかと思う。
相手に喜んで欲しいという健気さと、気づかれないのは寂しいという我が侭と、その二つを許して欲しいという甘えと
そんな子供のような無邪気さを、俺は大事にしてやりたいと思う。
今はエロ方面に発揮されてるけどね、その無邪気さ。
「ほぅら、京介さんの好きなおっぱいですよー」
手淫だけでもイッパイイッパイだった俺のハヌマーンを、二つの柔肉が包んでいた。
こ、これは、天に選ばれた女性のみが使えるという……双包肉安天圧(パイズリ)!?!?!
「馬鹿なっ、民明書房(おとこのこのおとも)でしか見たことがない絶技が、現実にっ!?」
床に膝を付いて高さを調節し、沙織は両手で自分の胸を押さえて上下に動かし始める。
「んっ…ふぅ…っん……どうですか? ……もっと強く挟んだ方が……」
「い、いやいい……丁度いい。……沙織の肌、なんでこんなにもっちりスベスベなんだ……気持ちよすぎる……」
「そ、そんな恥ずかしいですわ……んっ…で、でも…はぁっ……京介さんが喜んでいただけるなら……っぁ…嬉しいです」
グッ、グッ、としごき上げる度に微妙に乳圧を替えて刺激してくる沙織と目が合う。
すると少し照れたように上目遣いではにかんできて、精神的にも相当やられてしまう。
「沙織…沙織……」
「…っん…ふぁ……ビクビクしていますの……もう我慢できませんと、京介さんのが……おっしゃってますわ……はぁんっ…」
胸元に先走りの汁が垂れ、カラオケボックスの強めの照明がそれを淫靡に照らしていた。
沙織は自分の胸から出て存在を主張する俺の分身を、その形の良い、やや厚めの唇で包んだ。
「うおっ…沙織、それはヤバいっ……」
「じゅるっ…じゅぽっ…ぬぽっ……ぐちゅ…じゅっ…じゅっ…ちゅるるるる………」
沙織の口内で精製された熱い粘液が、俺の先走り汁と混じって泡を立てる。
飲み干せなかったそれが、沙織の口の隙間から零れて顎を伝った。
沙織には似合わない、その下品な様が俺の劣情をかき立てる。
「沙織っ…もう出るっ!!」
俺の宣言に、沙織は一際大きく頭を振って陰茎を飲み込むと、引っこ抜かれるんじゃないかと錯覚するほど強く吸入した。
「う…うあぁっ……」
体中の血管を鼠が走り回るような、悪寒にも似た悦楽を感じながら
俺は沙織の口の中へと白濁を撒き散らしていった。
「むぐっ…うぷっ…んっ…あほっ……ぇ……けほっ……」
その量に、始めこそ喉を鳴らしていた沙織だが、受けとめきれずに自分の胸へと精液を垂れ流してしまった。
「だ、大丈夫か、沙織?」
「けほっ…んっ……いつもより、多いですのね……」
「……案外冷静なのか?」
苦笑するが、誰かが置き忘れていったポケットテッシュを見つけて、引っ張り出すと沙織に渡す。
「ん……大丈夫ですわ」
しかし沙織は受け取らず、ペロリと舌なめずりをし口周りの精液を為取ると
コクコクと喉を馴らして嚥下していった。
「やっぱり…いつもより粘りが強いような気が致しますわ……」
「場所が場所だからじゃねーかな……はは…」
苦笑いしながら、俺は沙織の意見を肯定してやる。
本来そういうことのする用途ではない場所で、個室とはいえドアにはガラスがあり、
万が一何かのキッカケで店員が入ってくるかも知れず……などという要素に興奮しなかったかといえばNOだ。
「ふふ…京介さんの赤ちゃんの素がいっぱい……」
沙織は玩具を見つけた子猫のように、自分の身体にかかった精液を掬っては舐めている。
「んちゅ…ふっ…んっ……」
「すげ…」
乳首に垂れた精液を口にするために、自分の胸を持ち上げて吸い付いたのには、思わず声を上げてしまった。
マイリヴァイアサンも唸りを上げてしまった。
「沙織……今度は俺がお前を満足させてやるぜ」
サムズアップして白い歯を覗かせた俺に、沙織が郵便ポストかってぐらい真っ赤になる。
ば、ばか、なんか言った俺まで恥ずかしくなってきたじゃねーか。
上半身精液塗れの癖に、なんでそんな初々しい反応すんだよ。ちくしょー可愛いじゃねーか。

「こんにゃろ、足腰立たなくなるまで溺れさせてやる!」
沙織のすらっとした足を抱えると、そのまま持ち上げて、椅子の背まで押し付ける。
床じゃ可哀想だしな。もっとも、今日はここに沙織をホールドしちゃうぜ!
細かい刺繍が施された沙織のショーツは既にヌレヌレで、
早くひっぺ返して、俺のスプリガンをぶち込んで欲しいと嬌声を挙げていた。
「沙織……大好きだぜ。どこにだって、お前を連れて行ってやるからな。恋人として」
「京介さん……はい! よろしくお願いしますね」
じわりと、焼け石が投じられたお湯のように温かい気持ちが繋がり溢れていくのを感じた。
俺は沙織の一番奥へと、ゆっくりと肉槍を進めて……

「兄貴、ゴメン、ちょっと忘れ物!!」

盛大に開かれたカラオケボックスの扉の音に、俺達の時間は静止した。


「あ、あ、あ、アンタ、人の友達に何しちゃってくれてんのよー!!」
「アホかー! お前な、俺達二人を残したってことはそういうことだろうが!
忘れ物したとしても空気読みやがれっ!!」
「どこの世界にそういう事でここまでするって思うヤツがいるのよ! 
キモッ! 変態性欲兄貴っ! 盛り過ぎっ! アンタ前世は猿なの!?」
「お、お、おちついて、京介さん、きりりんさん……!」
「ウルセー! てめえはその猿の妹なんだよ! ざまーみろ!!」
「いいから、ソレしまえ! バカぁぁぁぁぁぁ!!!」
「はっ! いいぜ仕舞ってやる! 男のココが、一番収まる場所にな!!」
「きょ、京介さ…あんっ!!」
「なっ…なっ…なにしてんの変態ぃぃ!!」
「お前だって親父とお袋がこうやって生まれてきたんだよ! 現実を直視しやがれ!
俺は兄貴として妹に性教育をしてやってるだけだ、わははははははは!!!」
「死ねェェェーーーーーーーーー」
「わっ! バカっ、マイク投げるな……痛っ!!?」


嵐のように桐乃は去っていった。俺の頭にたんこぶを残して。
「だ、大丈夫ですか? 京介さん……」
「へ……まあ、これでアイツともまた普通の兄妹に戻れるかな」
色々歪な方法だったけどよ。
「京介さん、まさかワザとああいう態度を……」
「……まあ、ちょっと羨ましいって思ったからさ」
目を丸くする沙織に、力なく笑ってみせる。
「沙織とお姉さんがさ、やっぱ仲良くていいなって思った。
俺達も……喧嘩ばっかしてるけどさ、そういうの続けばいいって
欲張りだけど、思っちまったんだよな。誰の影響なんだか……」
俺と沙織が付き合うことで、俺と桐乃の関係が、桐乃と沙織の関係がギクシャクするのは厭だった。
昔の冷戦状態に戻るのなんか真っ平御免だ。
ま、そういうことだな。
「俺はアイツの兄貴だし、お前の彼氏なんだ。ずっとな」
フィナーレが終わって、アンコールが起きてもずっと、そいつだけは変わらない。
そう、俺は決めたんだ。
「……はい」
沙織は頷くと、俺のたんこぶを優しく撫でた。



おしまい

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最終更新:2010年12月05日 14:37
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