1スレ目616


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第二章


そうこうするうちに、俺達は飲食店の並ぶ大通りに出た。
「で、何食べるよ?」
桐乃にそう水を向けると、
「一応、行きたいところはあるんだけど……」
と、桐乃らしくない控えめな主張。
「じゃあ、そこにしようぜ。俺はどこでもいいし」
「ふうん。ま、あんたがそう言うなら、いいケド」

ってことでやってきたのは最近できた感じのまだ真新しい建物のカフェ。
「……ここで夕飯にするのか?」
なんか、ケーキとかパフェとかばっかりなんだけど……
「何よ。あんたがいいって言ったんじゃん。今さら文句言うワケ?」
「い、いや、言わねえよ」
仕方ねえ。ま、一応、スパゲティとかピラフとかくらい置いてあるだろう。
そうして店内に入ってみると、いかにも女子中高生が好きそうな内装。
メニューを開いても、やたらきらびやかな写真が並んでいる。
中でもひときわ目立ったのがでっかいパフェ。4~5人サイズくらいのでっかい奴が
何種類も並んでる。
「それ、ここの名物なの。ビッグパフェ。学校でも人気あるよ」
「……おまえ、まさかこれ頼んだりしないよな?」
そう言うと、桐乃から呆れたような返事が返る。
「ばかじゃん。そんなの二人で食べられるわけないっしょ」
まあ、確かに。



「注文するのはこっち」
そう言って桐乃が指差したのは、先ほどのパフェよりは一回り小さいが、
それでも下の方に載っている普通サイズの2、3倍はあろうかというパフェ。
色は少し渋めの、濃厚そうなチョコレートパフェだった。
「なんだ、これ……カップル限定パフェ?」
「そ。カップルじゃないと頼めないの」

なるほど、俺を連れてここに来た理由がわかったぜ。
桐乃の奴、これが食いたかったってわけね……
そうこうしてるうちに注文を聞きに来たウエイトレスに桐乃が注文をすませる。
「じゃあ、俺はこのカレーピラフを……」
と、俺が自分の分を注文しようとすると、
「あんた、そんなにたくさん食べれるの? ここのパフェって結構ボリュームあるよ?」
「へ? そのパフェ俺も食べんの?」
そういや、さっき、二人で食べられるわけないだろって言われたような……

「あったりまえじゃん。あ、ピラフはいいですから。あと、ドリンクバー二つ」
と、勝手に俺の注文をキャンセルする桐乃。
「お、おい、勝手な事すんなよ」
「パフェの後で余力があったら追加注文して食べていいから」
だとよ。まったく、ありがたいこった。



早速ドリンクバーにコーヒーを取りに行き、それをちょびちょび飲みつつ、
携帯をいじくる桐乃の様子をなんとはなしに見ている。
いったい、何を一生懸命やってるんやら。そう思っていると妹の方から説明してくれた。
「へへ。限定パフェ、これから食べるぞって自慢した。みんなまだ食べてないはずだから」
「……ふーん」
「あ、早速返信来た!」
正直、こんな事になるならやっぱ煮っ転がし食べたかったなあと思ってた俺だったが、
なんか、楽しそうな妹を見てると、ま、いっかって気になってきていた。
しかし、そんな時、俺の携帯が振動した。
「ゲ……!」
携帯をチェックするとあやせからメールが届いていた。
おそるおそる確認してみると……

『命知らずのお兄さんへ──
 どういうことですか! カップル限定パフェ食べたいとかって桐乃をムリやり付き合わせるとか!?
 そんなにパフェが食べたければ、いつも一緒のお姉さんと一緒に行けばいいんじゃないですか?
 以前の警告を忘れたわけじゃありませんよね? お兄さんがそんなに命知らずだったとは思いませんでした』

「ひええ……」
相変わらず怖い奴。
……ん? 俺が桐乃をムリやり……だと?




「あ、どんどん返信返ってくる。ふふ、みんなうらやましがってる~」
はしゃぐ妹に向かってちょっと訪ねてみる。
「なあ、それって、あやせにもメールしたのか?」
「へ? あったりまえじゃん。一番の親友だかんね」
その言葉は二人の関係の修復に関与した者としての誇らしさを俺に感じさせるものではあったが、
今はそれどころではない。

「ふーん。で、なんてメールしたわけ? まさか、バカ正直に兄貴と一緒にカップル限定パフェ食べに来たって書いたとか?」
「……書いたケド?」
忌々しい事に、俺の中で妹の可愛い表情BEST3に入る、きょとんとした顔で答える。
「おいおい、それって恥さらすようなもんじゃないのか? 彼氏がいないから兄貴を連れ出して……とか」
だって、たとえば、彼女同伴のクリスマスパーティに、彼女と偽って妹連れていくみたいなもんだろ?
もしそんなことしてそれがバレた日にゃ、恥ずかしくって学校行けなくなると思うんだがなあ。
ま、俺の知り合いにゃそんなシャレたパーティ企画できるような奴はいないけどな!

「あ、そこらへんなら大丈夫。甘党のあんたが、どうしてもこの店のパフェが食べたいけど、
一人じゃ入れないから一緒に行ってくれって私に泣いて頼み込んだって事にしてあるから」
「あ、なるほどね。……って、ちょっと待て! オイ、コラ!」
思わずノリツッコミをしてしまう。
「あ、万一、あやせとかと偶然会う機会があったら、ちゃんと話を合わせてよね」
いけしゃあしゃあとそんな事をのたまう桐乃。
「おまえ、それじゃ俺の立場はどーなんだよ!」
「いいじゃん。あたしの友達の間で、あんたがどう思われようと関係ないでしょ?」
「あるよ! 顔見知りもいるじゃねーか!」
「あんたって、結構見栄っ張りよね」
「おまえが言うんじゃねえっ!」
まったく、こいつは……



「と、とりあえず、あやせにだけでもちゃんと話しておいてくれよ」
「なーに? ……あんた、まさかあやせに気があるとか言うんじゃないでしょうね?」
鋭い眼光で睨みつけられる。こいつら、さすが親友同士、変なとこで似てやがんなあ。
「ちげーよ! あいつ、俺らの事、誤解してんだろ? ほ……ほら、近親……相姦がどうとか……さ」
思わず言いよどむ俺。そっか、俺がこいつをオカズにするって、近親相姦の一歩手前なんだよな……

「そんなの、あんたが自分で蒔いた種じゃん。でも、安心しなよ。ちゃんと説明して誤解は解いておいたから」
感謝してよね、と桐乃は締めくくる。
って、おまえのために蒔いてやった種だろ! おまえこそ感謝しやがれ! あと、その誤解、全然解けてないから!
そんなツッコミを心の中でしただけで、俺の気力は萎える。
いつもの事だし、まあ、いいかってちょっと考えてる自分が嫌だ。

そんなこんなしてるうちに、桐乃お待ちかねのカップル限定パフェが到着した。
すると、パフェを持ってきたウエイトレスがポケットから大きめのカメラを取り出して俺たちに向ける。
「はい、笑って下さい~」
「へ?」
俺が面食らっていると、桐乃が俺の胸倉を掴んで自分の方に寄せる。

パシャッ!

フラッシュがたかれたかと思うと、あっという間に店員は去って行った。

あまりに一瞬の事で、何がなんだかわからない俺に桐乃が言う。
「さ、食べるよ」



俺は気を取り直してパフェに視線を移す。
強めのチョコの香りが漂う、濃厚なチョコレートパフェ。異様に長いスプーンが二つ添えられている。
「パフェのスプーンって長えなあ……使いにくそ」
パフェなんて自分じゃもちろん頼んだ事ないし、麻奈美も頼まねえからほとんど初めて見るんだよな。
「……そりゃ、カップル専用パフェなんだから当然でしょ?」
と、桐乃。
「カップル専用だと、なんで長いんだよ?」
すると、眉間にシワを寄せた呆れ顔で、無知な兄貴を恥じ入るように顔を赤らめつつ桐乃が言う。

「も、もう、相変わらず勘が鈍いなあ。じゃあ、実際に使ってあげるから……見てなよね?」
すると桐乃はスプーンを手にとり、器用にパフェのアイスやクリーム、チョコレートソースなどをからめて
スプーンの上に、一口サイズのパフェを完成させる。

「い、いい? これは、こういう風に使うの……」

そう言って、対面に座る俺の方に向かってスプーンを突き出してくる。
「な、なんだよ?」
急な攻撃に身を引く俺。
「ほ、ほら! 早く、口を開けなさいよ!」
「な……!」
ま、まさかこれは……空気を読めないバカップルのみに許される、あの、ハイ、アーンって奴なのか?
「きょ、兄妹でこんな恥ずかしい事、出来るか!」
いや、兄妹でなくても、こんなことムリだ!



「バ、バカ! 兄妹とか大きい声で言うな! カップル専用パフェを、別個に黙々食べてる方がよほど恥ずかしいでしょ!」
そ、そうか? そういうものなのか?
「はやく……ンもう! 周りから見られてるじゃん……!」
桐乃が顔を真っ赤にしてそう訴える。きっと俺の顔も、同じように赤くなってるに違いない。
「わ、わかったよ……」
郷に入っては郷に従え。旅の恥は掻き捨て。
そんな言葉を頭の中で走らせながら、俺は桐乃の差し出したスプーンにかぶりつく。

「ど、どう? 美味しい?」
「あ、ああ……」
味なんてわからねえよ!

「ほんと? じゃ、じゃあ、あたしも食べてみよっかなあっ」
微妙に不自然な棒読みっぽい台詞を吐きながら、桐乃が再びスプーンでパフェをすくう。
そして、先ほど、俺の口の中に突っ込んだスプーンを、自分の口元へと持っていく。
(お、おい……!)
声にならない声を挙げつつ、スプーンが桐乃の口の中に飲み込まれていく様を見守る。
俺は、スプーンが加えられた桐乃の唇から目が離せなくなっていた。
「ほ、ほんとだ。美味しい……」
桐乃の口から出てきたスプーンには、桐乃の唾液とクリームが混じった後が残っている。
そして桐乃はそのスプーンの先と俺を交互に見つめながら……
「あんたも、もう一口……どう?」
その桐乃の言葉に、思わずのどを鳴らして唾を飲み込む俺。
「あ、ああ」
そう同意の言葉を述べると、再び、桐乃の口の中に入ったばかりのスプーンが、俺の口の中に運ばれる。
俺は、妹の唾液の味を感じ取ろうとスプーンを強くなめてみた。もちろん、良くは分からなかったが……
「ふう……」
俺は、一発抜いたような倦怠感と疲労感に襲われていた。
しかし、パフェはまだ、二人で三口食べただけ。ほとんど全くと言っていいほど減っていなかった。



「つ、次はそっちの番……」

脱力している間もなく、桐乃が突然そんな事を言ってくる。
一瞬、俺はその言葉の意味がわからなかったが、桐乃の視線がパフェに添えられた、
もう一本のスプーンに注がれているのを見て、ようやく理解した。

ま、まさか。俺にも今のと同じ事をやれと……?

いいだろう。ここまで来たら、もう後には引けない。
(なぜ後に引けないと思ったのかを冷静になってから思い出すと、また例の悪い癖が出ていたようだ)
俺はスプーンを不器用に操りながら、桐乃がやったのと同じようにスプーンの上に小ぶりなパフェを完成させる。
「ほ、ほら……」
おそるおそる、桐乃の口元めがけてスプーンを運ぶ。しかし口元までスプーンを寄せてみると、
どうもスプーンの上にパフェを乗っけすぎたらしく、桐乃の小さな口には収まりきらない感じだった。
「わ、悪い。すくい直す」
そう俺が言うと、桐乃は、
「い、いいよ。大丈夫」
と、答えて、口を精一杯大きく開いて俺のスプーンを咥え込もうとする。
しかし、やはり多すぎたのかちょっと苦しそうだ。
「あん……」
「だ、大丈夫か?」
「うん……」
桐乃はなんとかパフェを口の中に収め、口内でクチュクチュとさせながら、ようやくパフェをコクコクとのどを鳴らしながら飲み込んだ。
唇の端からトッピングのミルクソフトクリームが垂れている。こ、これはなんというか……
「も、もう一口いくか?」
思わず俺はそんな言葉を発していた。



そんなこんなで、パフェの4分の1くらいを食べさせっこした後、やはりこれでは埒があかないと、
結局、個別に黙々食べる事になってしまった。
味は確かに悪くなかったが、いかんせん量が多い。俺はピラフを追加することをやめた。

なんとか完食した後、口なおしの紅茶をドリンクバーで二人分いれてテーブルに戻ってくると、
桐乃がポラロイド写真らしき物に蛍光ペンで何やら書いていた。
「なんだ、それ?」
写真を除きこむと、それは先ほど撮られたらしい、俺と桐乃の写真だった。パフェを中心に、わたわたした俺の顔と、
小さくピースして可愛く笑う妹の顔が写っていた。コイツ、さすがに写りなれてやがるなあ。
俺がピースサインなんてしたら、きっと小学生のガキみたいな感じになっちまうに違いない……
写真の余白部分には、「美味しかった」とか「また来ます」とか、星だのなんだの、ゴテゴテ装飾付で書かれている。
「それ、どうすんの?」
「お店に飾ってもらうの。ほら」
そう言って桐乃が指し示した壁には、一枚の大きめのコルクボード。
そこには、「来店くださったらぶらぶ☆かっぷるの皆さん」と言う見出しの元、
先ほどのパフェを囲んで笑顔のカップルたちの写真が何枚も貼られていた。

「お、おい、それはマズくないか?」
俺は慌てて桐乃に問う。
「なんで?」
と、真顔で聞き返す桐乃。
「だ、だって。おまえ、学校の友達とかに誤解されたら困るんじゃないのか?」
「困んないって。仲のいい友達はみんなあんたの事、知ってるし」
ああ、こないだ家に来てた連中か……でも考えたら階段下でもつれあったとこ見られたりしてる分、余計、やばくね?
「いや、俺が言ってるのはだな……たとえば、おまえの事を、その……好きな男子とかがだな、
お前に、その、か……彼氏がいるって勘違いしたりしたら……その……まずくないか?」
俺はしどろもどろになりながら、桐乃に懸念を伝えた。



すると桐乃は、「別にィ」と一笑に付す。

「誤解されたらむしろ好都合。手紙もらったりコクられたりしょっちゅうだけど、正直、ウザくて困ってるし」
相変わらずの尊大な物言い。が、なぜかある意味、ほっとする。
「で、でも、中にはおまえが気に入る奴がいるかもしれないだろ?」
すると桐乃はケラケラと笑った。
「まさか! 同じ学校の男子なんてみんなガキっぽいし、興味ないって」
だとさ。まあ、確かに、中高生って女子の方が男子に比べると色々、大人びちゃいるが……
「私の友達、みんなそう言ってるよ。私とかも、恋愛対象になるのは……」

そこまで言って、桐乃は恥ずかしそうに目を伏せる。そして、上目遣いでチラチラとこちらを見ながらようやく言った。
「せいぜい、あ、あんたくらいの年から……カモ」
「そ、そっか」
な、なんだよ。その意味深っぽい言い方……またからかおうとしてんだな? そうだな?
俺は、それ以上、この件に触れるのをやめた。

それにしても、明日あたりにはあのコルクボードに、俺と桐乃の写真がカップルと称されて
貼り付けられているのだろうと想像すると、色々とむずがゆい気分になるのだった。

(第二章 終)

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