クリスマスの無聊ネタ 麻奈実×京介


クリスマスの無聊ネタ一発目 麻奈実×京介

「いつも悪いな。てーかこんな立派そうなケースに入れなくったって、お店の紙箱で良かったのに」
「えへへ、今年はちょーっと自信作だから、けーき用のきゃりー買っちゃったんだ」
 麻奈実がちょっと大き目のバッグを差し出してきた、ケーキの包装にしては豪華だなと思ってたら、そういうことか。
「……はは、洗って返すよ。なんか悪いな……ケンタッキーじゃ釣合わないな」
「ううん、私……けんたっきーの鳥さん美味しいから好きだよ……それに……きょうちゃんと……その、一緒なら……」
「ん? 何か言ったか」
 後半ボソボソと何か言ってたけど、聞き取れなかったぞ。おまえって昔から、時々独り言じみた話し方するよな……
そういうところもおばあちゃんぽいっつーの。
「ぷー……なんでもないー……」
「何急に膨れてるんだよ……おっと」
「あ、大丈夫? ……ごめんね、おじーちゃんが……」
 例年通りに今年も麻奈実の家のクリスマスパーティだったんだが、じーさんに無理やり飲まされてしまったシャンパンが
少し回ってしまったらしく、少し足元がおぼつかない。シャンパン程度で情け無いが、飲みなれないもんは仕方ないだろ。
 それを心配した麻奈実が家まで送ってくれるというので、ちょっと甘えてしまったが……よくよく考えたら、俺の家からの帰りどうするんだよ。
……酒が抜けるまでうちで休んで、また送っていくしかないか……。ひょっとして、これもジジイの企みじゃねえだろうな?
「気にすんな、今頃はじーさんも反省してるだろ」
「……た、多分」

 俺に酒を飲ませてしまったことがバレて、ばーさんやおじさんおばさんにこってり絞られている姿を見てしまっていると怒るに怒れない。
おばさんなんて、うちに電話までして謝って……こっちが逆に恐縮してしまうってもんだ。つうか受話器からおふくろの爆笑する声が聞こえてたし……
思春期の少年の心はちょっと傷ついたぞおふくろっ!
「まぁ、毎年ご馳走になってるんだし、酒の肴にされるくらい気にしねーって。それに……うちの家族もおまえんちのケーキのおかげで毎年助かってるからな」
 うちじゃ、物心付いたときからこいつのケーキをもらって食べてるんだけど、年々上手になってくるんだよな。最初にもらったときは……
うちのお袋が作ったケーキと変わらんレベルだったのに、今じゃそこらの市販ケーキよりずっと美味いんだから、その上達といったらたいしたものだ。

「そか、良かった……えと……それと……これ、ね」
 そう言ってもじもじしながら背中に隠していた紙包みを差し出してくる。
「……くりすますぷれぜんとだよ~。……びっくりした?」
 びっくりするも何も、バレバレだったぞ……隠せてなかったし。顔真っ赤にしてるけど、毎年なんだから今さら照れるような事じゃ無いだろ。
「おう……貰ってばっかで、なんか悪いな」
 そのへんを突っ込んだりからかうとまた膨れてしまうので、素直に受け取ってやる。や、こいつの膨れっ面も嫌いじゃないけど……あんまりやり過ぎると
アレだし、今日はクリスマスイブだしな。
「あ、開けてみて……?」
「ん……」
 軽いな……なんだろ? ガサガサと包みを開くと、中から手袋が出てきた。どうも、手編みっぽいな……去年の柄と同じだし。
……しまった……失敗したぜっ……だが、今更後悔しても仕方ない。
「えと、ね、そのきょうちゃんの手袋さんが、ちょっとほつれてたから……と思って、その、手芸の練習だからあんまり上手くないけど」
「そんなこことねーよ、手袋なんて難しいだろ……ありがとな」
 やべー……どうしよう……プレゼントは用意したけど……したけどっ!
「あ、あの……その、麻奈実」
「ん? なにー?」
「こっこれなん……いや、ナシでっ!」
「あっ」
 しまったっ! テンパって思わず出しちまったっ……。
「……いや、それはちょっとアレだ、やっぱなんかダサイプレゼントだから、いや、実は間違えた。うん、だから明日また渡す」
「……じ~」
 ……うっ……これは、我ながら苦しい……。ひっこめた包みを、麻奈実がじ~っと見ていやがる……。
「だからな」
「あ、桐乃ちゃん」
「何っ!?」

 思わず振り向いてしまったその刹那、俺の手から包みが奪われ……うそっ! その体でなんでそんな俊敏なのおまえ!

「うそだよーん……んしょ……あ……わわ、……えへへ……」

 あちゃあ……い、今更言い訳できないよなぁ……間違ったとか言いつつ、こいつ宛のカードとか(言っとくけど特別なことは何も書いて無いからな!)入れてるのに、
実は他人のだとか言っても無理だ……。というか、全部見透かされてるんだと思うと、言い繕うだけ無駄ってもんだ。
麻奈実が解いた包みの中から出てきたのは……その、去年買ってやったのと同じ柄の手袋で……つまるところ、去年図らずもペアルックもどきに
なってしまった、俺の首に今も巻かれているマフラーと同じ柄で……。

「ちっ……なんか文句あるのかよ」
「ううん? なーんにも~?」
 ニヤケ面がむかつくじゃねえか……地味子の分際で……!
「……こうしてやる」
「むにぇっ!?」
 にやけっ面がむかついたので、寒さで赤くなってるほっぺたを引っ張ってやる。
「ははー、ざまー……ね……」
 ……ええと……何目をつぶってらっしゃるんですか……背伸びとかしてるんですか……
「……」
「……」
「む」
「……んっ」
 ……なっ流された……流されたんだっ! 気の迷いだ! かかかかかか勘違いすんなっ!
 今のはキスじゃなくて、ただの口付けだからなっ! 接吻とも言うけど、キスじゃないんだぞ!
「きょ……きょうちゃ……」
「何でもないぞ? 何もしてないし、何もしないぞ、だから行くぞホラっ!」
「う……うん……わたしはいいよ……」
「そ、そうか、それは良かった。じゃあ行くぞ……」
 ガコッ!
「イテっ」
「きゃ」
 麻奈実の手を握って、踵を返す。慌てていたせいか、麻奈実が途惑ったせいか、道端の看板に足をぶつけてしまった。
痛え……なんでこんなとこに、つか何の看板……何、この「空室あり」……って……。く、クリスマスなんだから、場末とは言えもうちょっと営業頑張れよ!
というか俺ら、ホテルの前でこんなバカな真似してたのかっ! ラブホならそれらしく、入り口を分かりやすくしろ! 不倫カップルなんかに配慮してんじゃねぇ!

「……」
「……」
 な、何を立ち止まって、その、何、その顔……お、おまえ……ええと、そのだなっ何か、何か言わなきゃ! 最適な言い訳があるはずだ!

選択肢カモーン!!!  ……だりゃっ!  

「ケ……ケーキが痛んじゃうからな?」
「……ほ、保冷剤、入れててるから……」

 ……しっ……しまったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああああああああ! 選択肢ミスったああああああああああああ! なら仕方ない! 仕方ないんだ!
これはあくまでミスだ! だからしょうがないなっ!

「お、おう。じゃ、じやあ……」
「ん……」
 う、頷くなよ……その、か、可愛いじゃないか……気の迷いだ! 駄目だ俺! でも今更泊れるかぁぁぁぁ! いやっ……止まれるかっ! 
もう誰も俺を止められねえ!
「……」
「……ほ、ほら」
 いっ……いくぞ ……っ!


  ちゃっちゃっちゃらっちゃっちゃー♪

「ぬおえっ!?」
「ひょわっ!?」
なんてタイミングで鳴り出すんだこのクソ携帯! 叩っ切ってやるからそこに直れ!  ……しかもロックかよっ!
 ……切ったら麻奈実の方にかけてきやがる気だな! ……くっ……
「……なんだよ」
「あ、あんちゃん……声がマジ怖い……」
「用が無いなら切るぞ」
「いや、待って! 待ってってば! 凄くいい知らせ! 褒めて褒めて!」
 おまえへの褒美なんかキャメルクラッチ以外にねーよ。
「言うだけ言え……40秒を超えたら切るぞ」
「つ、冷たい……せっかく頑張ったのに俺」
「何をだ」
 もう切るか。
「こっちのアリバイはばっちり! 俺がねーちゃんの振りして2回風呂入って、もう寝たことにしてるから大丈夫だぜ!
ねーちゃんはもう帰ってきたことにしてあるから心配せ……」

 ブチ

切った。うん、切った。電源も切ったぞ。はあ……なんでこうなるんだろうな……。
た、助かったなんて思ってないよ? 残念だなんて思ってないぞ!?
「ま、麻奈実?」
「き、聞こえた……ごめんね、きょうちゃん……」
 はあ……まぁ、しょーがねえ……その……色々仕切りなおしだな。
「お、おう……その……とりあえず、ウチまで来いよ……ウチの親はいるけど……おまえの顔見たら、お袋も喜ぶし」
「うん……はぁ~……き、緊張した……」
 俺もだ……携帯が鳴ったときは死ぬかと思ったぜ。けど、ま、焦らなくて良いよな。ゆっくりで……その方が、俺たちらしいし。
「なあ、麻奈実、その、来年またさ……」
「『また』じゃいやかも……」
「……」
「でも、ちょっとだけ……待ってあげるね?」
 なんか、おまえに……勝てる気がしないよ……だけど……負け続けても良いかもしれないな。
「あ、ああ……」
「じゃ、……はい」
 さし出された手を、しっかりと握る。十年ぶりに握った幼馴染の手は……冷たいはずなのにとても温かくて照れくさくて……
つーか恥ずかしーから、この日のことは俺だけ……いや、ここだけの秘密にして墓まで持ってって……おまえも、誰にも言うんじゃねーぞ。

(おわり)





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最終更新:2010年12月26日 13:38
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