初夢の悪戯 01


「っ!?」

声にならない悲鳴と共に体が跳ねた。……夢……。
携帯電話の時計を見ると、まだ夜が明けるには早い。とても中途半端な時間。

「気持ち悪い…」

不快感の正体は、下着が吸っていた水分。…厭らしい。
こんな中途半端な時間に起きてしまっても仕方無いけれど、今眠ってしまうと
時間通り起きられない気がする。不快感も早く取り除きたい。

まだ寒く暗い室内で手早く着替えを済ませ、明かりを付ける。誰も起きていないわね。
ストーブも付けておいた方がいい。まだ眠っている妹達が寒がって布団から
出てきてくれない、なんて事になったら準備が遅れてしまう。

「喜んでくれるかしら…?」

未だ夢の中であろう、彼の事を想う。一昨日の夜、クローゼットを探っていた母が
渡してくれた振袖。クリーニングから帰ってきたばかりなのかタグがついていて
「彼氏君が喜ぶといいわね?」などとからかってきた為、結局その場では着なかった。

「…大丈夫、大丈夫よ」

そう自分に言い聞かせて身支度を始める。

もう少しで、初詣だ。




[初夢の悪戯]



「起きろ!」
「ごふっ!?」

今の見た?見たよな?よし、お前ら俺に同情しろ。そして羨んだ事を謝れ。
見た目可愛い妹なんていても良い事なんかちっともないからね。
特に、朝っぱらからこんな暴行を加えてくる妹なんてな。

「てめっ、今何時だと思って――」
「6時半!初詣行くんでしょ?さっさと用意して下りて来なさいよね!」
「…あー……」
「返事は”はい”!!!」
「ぐおっ!!」

新年早々なんでこんな暴行祭りなんだろうな。俺なにかしたっけ?
痛む脇腹を押えつつ起き上がる。今日は初詣に行く日、元旦だ。

「うー…さむ……」

部屋を出るとリビングから香ばしい匂いがしている。朝飯はもう出来てるらしい。
早いとこ準備を済ませて、家を出よう。






「初詣?」
「そうよ。行きましょう?」

昨晩の事だ。除夜の鐘をつきに行った後、スカイプで瑠璃と話していると
初詣に行かないかと誘われた。

「そうだなぁ…元旦だもんな。いいぜ」
「…あの子まで連れて来ないでよ?」
「桐乃か?」
「せっかくの元旦デートに、邪魔が入っては困るわ」
「お前…まぁ、そうするか」

友達にそんな事を言うのもどうかと思うが、それもそうだ。どうせなら2人で行きたい。
だがそうも上手くいかないのが、世の中ってヤツなんだ。

「初詣、私も行くから」
「桐乃!?いつからそこに?」
「ちょっと、聞かれていたの?」
「”あの時のコスプレ、なかなか可愛かったぞ”からよ!今会議通話にするからちょっと待ってなさいよね!」

思いっきり前からじゃねぇか……。盗み聞きなんてしやがって。
というよりも、俺の言葉だけで自分が除け者にされると察するのがすげぇ。

「はぁ…全く、鍵でも付けたらどうかしら?」
「早急に取り付けてぇ…」

そうこうしている内に呼び出し音が鳴る。

「で?私も行って良いのよね?」
「…駄目と言っても来るのでしょう?」
「何よ、いやなの?」

こうなってはどうにもならない。頑固さは親父譲り、勝てるわきゃねーだろ?
2人きりで行けないのは残念だが――まぁいいか。桐乃とは色々あったし、年末年始ぐらい仲良くしておきたい。
…ほら、分かるだろ?俺と瑠――黒猫が付き合い始めれば、そりゃあもう色々と…。

「もういいわ。聞かれていたのは此方も同じの様だし…」
「え?誰に聞かれてたの?」
「…下の妹よ」
「妹!?」

こいつ本当に妹って単語が出ると…。

「京介、もう2人きりは無理そうだから妹達も連れて行くことにするわ」
「そうだな、そうしてくれ」
「…ちゃんと守ってよ?」

妹を、だろ?桐乃を止められる自信は無いが、可愛い彼女の頼みなら最大限努力しよう。
ちなみに麻奈実から連絡は無かった。…そうだよ、色々あったんだよ。
大晦日の夜にそんなやり取りがあって、今に至るというわけだ。




「あ、そうだ。明けましておめでと…」
「…おう。今年もよろしくな」

さっきの暴行沙汰が嘘のように、新年の挨拶を交わす。
焼きあがった食パンが皿に乗っていて、まぁ…はやく食べろという事らしい。
親父とお袋はまだ寝ている。が、お袋は早く起こされることになるだろうな。
桐乃が着付けを手伝えと騒いでいるのが聞こえる。

俺も着替えておかねーと。まぁ袴とかは用意して無いんだけどね?
高坂家の長男の扱いは、かなりぞんざいなんだ。

「そんな所に突っ立って何をしている?」
「あ、親父。起きたのか」

かわいそうに。大晦日の昨日も遅くまで仕事に出ていた親父は、桐乃の声に叩き起こされたみたいだ。
それともお袋か?なんだか疲れてそうだな。

「ああ、それより挨拶は無いのか」
「おっと、明けましておめでとうございます」
「うむ。今年も…京介、お前は普段着で行くのか?」
「そりゃ用意が無かったんでな」
「全くお前というヤツは。五更さんとだろう?しっかりしろ」

俺にどうしろと…。いや正直言うと、少しくらいヨソイキな格好で行きたいよ?
けど用意が無いもんは仕方が――

「…仕方が無いな。俺のを貸そう」
「え!?いいって、親父も昼から出かけるだろ?」
「構わん。新年早々、お前がそれではみっともない。俺に恥を掻かせる気か」

なるほど納得だ。一家の長男が普段着で彼女と初詣ってのは、少々いただけない。
まぁ2人じゃないが。だが…

「サイズ合うかな…」
「心配はいらん。多少は合わせる事も出来る」

それなら安心だ。うちの親父は警察官で、例えるならゴリラに似ているくらいだ。
体格もめちゃめちゃ良い。羨ましくないけど。一方の俺は、自分で言うのもなんだが
かなり細身な方だ。袴のサイズが合わなそう、なんて心配になるのは当然である。

その後、騒がしく注文を付けまくっている桐乃の声をよそに
俺も親父に手伝ってもらい準備を始める。天気は晴天、良い空だ。






「桐乃のやつ、遅いな」

まだ準備が終わらないのか、桐乃は家から出てこない。
こちとら玄関先で10分くらい待ってるってのに…やっぱ中で待つか。
そう思ってドアノブに手をかけた瞬間、勢い良く扉が開いた。

「っぶね、気をつけろよ」
「あ、あんた待ってたの?」
「お前なぁ…」

ひでぇ…先に行っててよかったのか?日ごろの成果か、反射的にドアを受け止めた
左手の痛みを気にしつつも桐乃の姿を確かめる。

「…何よ?」
「…似合ってるぜ」

全体的に淡い桃色の振袖。細かい模様が美しく栄えている。桐乃らしい。
これで性格が良ければ文句無いんだけどなぁ…。

「げうっ!」
「今失礼な事考えてたでしょ!?」

凄まじく勘の良いヤツである。すかさず突きを繰り出してきやがった。

「チッ…さっさと行くわよ!」
「へいへい…」

時間を見ると8時40分過ぎ。少し急がないと遅れてしまう。
気持ち歩を早めつつ、待ち合わせている神社へと向かう。

「………ありがと…」
「ん?今なんか――」
「ふん!」
「うおっ!?」

早くしないと、着く前にノックアウトされそうだ。





9時ジャスト。俺たちは今近所にある神社にいる。
見当たらない瑠璃と、その妹達を探しているところである。

「やっぱ携帯には出ない?」
「あぁ、おかしいな…」
「あんたの格好見て帰っちゃったんじゃない?「あんな男と…恥ずかしい」って!」

毎度の事恐ろしく似ていた。お前何?瑠璃をインストール出来るの?
似ている分ダメージもでかい。まさかとは思うが…。

「そうね。こんなに近くに居る自分の彼女にも気付かないなんて、恥ずかしいわ」
「おま!居たならなんで――」
「あああんたその格好…!」
「あら、分かりやすく動揺しているわね?」

そりゃ桐乃も動揺するわ。俺全然気付かなかったもん。
すぐ後ろに立っていた瑠璃と…後ろに居るのは2人の妹だな。
そんな事よりも驚いたのは、瑠璃の振袖姿だ。

「夏コミの時といい今日といい、いつもと違う服だと気付いてもらえないのね~?」
「年明けから元気がよろしい事ね。早くナンパ待ちでもしたらどうかしら?このビッチ」

桐乃と話す時はあの調子だが、あの夏の白猫モードとその姿が重なる。
いやー、良いもん見たわ。今年は良い事が続いてくれそうだ。

「おーい、こんなとこで喧嘩すんなって…」
「おねえさま!けんかしちゃだめー!」

ほら見ろ、小さい妹にまで怒られたぞ。………あ。


「あれ?その子達って…」
「…私の妹よ」
「うっそ!?マジ!?」

あちゃー…。予想通り過ぎる反応をしやがった。周りの人がこっち見てるじゃねぇか。
つかお前も危ない誘拐犯みたいな顔すんな!そんなんしてると――

「近寄らないで!」

言わんこっちゃ無い。見た?瑠璃の動き。まるで子猫を庇う母猫だったよ!気持ちは凄く分かるけど。
確かに、今の桐乃に妹を近づけるのは賢明じゃない。猛獣に生肉を与えるようなもんだ。
生肉(妹)を隠された桐乃は不満をあらわにしている。

「そんなに邪険にしなくても…」
「今のあなたにこの子達を渡すのは賢明ではないわ」
「大丈夫だって!なんもしないから………うへへ」
「お前ほど説得力の無い言い訳をするやつは見たことねぇぞ!」

俺が話に割って入ると、露骨に嫌そうな反応を見せる。このまま瑠璃にくっついててもらうか…。

「あ、おにいさま!あけましておめでとうございます!」
「ん…あぁ、明けましておめでとう」
「なんであんたが普通に接してるの?」
「そりゃあ――」
「この子から見たらお兄さんだもの。ね?」
「はいー!」

少し前こいつの家に行った時、初めて会った瑠璃の家族がこの子だ。
すごい素直そうだろ?世の中にはこんな可愛い妹も居るんだな。
そんな事を考えていると、瑠璃まで不満そうな視線を――ああ、そうだった。

「明けましておめでとう、瑠璃」
「…おめでとう。今年もよろしくお願いするわ」

そこで改めて瑠璃の姿を見た。白い絹をベースに、青と紫の糸で唐草模様の刺繍が入っている。
袖が少し長いのか、妹の手を握っている反対の手は隠れていた。
少々古い印象を受けるが、元々が大和撫子という表現の似合う美人だ。
…今のこいつに迫られたら、抵抗のあったラブホとかあっさり入れちまいそうだな。

「似合ってるな。綺麗だぜ」
「あ、う、ありがとう…」

頬を染めて俯く。もう可愛くて仕方が無い。桐乃や瑠璃の妹達が見ている手前、抱きしめたり
出来ないのは残念だが、ホントに良いもん見れたぜ。

「あ、わかった!」
「ん?何がだ?」
「さっきから何かに似てると思ってたんだけど、雪女よ!妖怪雪女!」

なんちゅう例えをしてくれてんだお前は。そりゃ、長い黒髪に白い着物…手が出ないほど長い袖…。

「ブフッ…」
「なっ、笑わないで頂戴!」
「いやだって……」

確かにコスプレならものすごい完成度である。どこぞの妖怪喫茶とかで働けるんじゃないだろうか?
瑠璃の妹達も「おねえさまがゆきおんなになっちゃった!」「こら、騒ぐと氷付けにされちゃうわよ?」
などと言っている。瑠璃も怒るのをやめて

「そうね…我が氷雪の妖力、たっぷりと味あわせてあげようかしら?」

なんて袖で口元を隠しながら言うもんだから、いよいよ笑いが止まらなくなってくる。
さすがに人が多い場所でやるのは恥ずかしいのか、耳も赤くなってきているが。
ついでに言うと、瑠璃の妹2人も振袖姿なもんで小さい方が「座敷わらし」に見えてきた。

しかしなんだ。せっかく初詣に来たんだし、早くお参りを済ませておみくじといきたい。
そこそこ並んではいるが、俺たちも早く並んでしまった方がいい。

「さて、冗談はその辺にして並んじまおうぜ」
「そうね。…袴も似合うわ」
「お、おう…ありがとな」
「並ぶならさっさと並んでよ!」
「その前に手水舎よ?」



並んでいる間、ちゃっかり下の妹と仲良くなった桐乃をよそに、お賽銭箱の前に立つ。
一応この袴にはポケットと呼ぶべき物がついてはいるが、いまいち利便性に欠けるんだ。
財布を取り出すのに苦労していると、隣に居た瑠璃が口を開いた。

「ねぇ、五円玉持ってる?」
「ちょっと待ってろ。今財布を…」

ようやく取り出した財布の小銭入れを探ると、幸い2枚入っていた。

「ほら、これでいいか?」
「そうね、これは京介が投げて?」
「ん?いいけどなん――」
「いいから早くして頂戴」

良く分からんが、とりあえず五円玉を投げ「あ、ちょっと!」
なんだ?瑠璃に止められた。

「まずは会釈よ?さっきもそうだけど、正しい作法でなさい」
「お、おう…」

手水舎の事もだが、瑠璃は初詣の作法を結構詳しく知っていた。…鳥居くぐる時、礼しなかったな。
今も”2礼2拍手1礼”とやらについて説明されている。去年なんか思いっきり適当だったような…。

「しかしなんで五円玉なんだ?」
「…いいじゃない、別に。早く済ませましょう?」

そんな反応されたら余計気になるじゃんか…。

なんとかお参りを済ませ、妹の世話を焼いているであろう瑠璃を待つ。
どうも引っかかる。さっき五円玉に拘ってたけど、あれってどういう…。
お、戻ってきた。

「済んだか?」
「ええ」
「はいー!」

良い返事だ。桐乃は向こうで上の妹と仲良くなろうとしている。丁度年代的には話しやすいのかもしれない。
あの様子なら心配していた要素も(主に犯罪的な)無さそうだし、大丈夫か。

「おにいさまは、かみさまになにをおねがいしたんですか?」
「ああ。大学に受かりますようにってね」

そう、俺は受験生なんだ。学力と散々相談した結果決めた志望校に合格したい。切実に。
だがそれを聞くと、この子は何やら不満げな顔をし始めた。どうしたんだろう?
しきりに瑠璃と俺を見比べている。

「でもおねえさまは、おにいさまとけっこんしたいんじゃ―――」
「ばっ!何を言い出して……!!」
「え!?」

何を思ったかとんでもない事を口走ったぞ。お前一体何を教えたの?
そんな疑問を視線にのせ、慌てて妹の口をふさぐ瑠璃に投げかける。

「ち、ちちがうのよっ?」

何が違うってんだ。声が上ずってるじゃねぇか。

「あー、分かったから手を離してやれよ。苦しそうだぞ?」
「そそうねっ、変な事言うんじゃないわよ?」

瑠璃が手を離すと「ぷはあ」と息を吹き返す。隙を見てゆっくり聞き出してやるか。
「もう、くるしいです!」と脹れている子猫が、母猫から何を聞いたのかを。
おっと、忘れるところだった。おみくじおみくじ。

…向こうも結構並んでる。
桐乃も上の妹とコスメがどうのこうの話していて、なんだかおみくじという空気じゃない。
もうちょっとこのまま放って置くか。瑠璃にも聞きたいことがあるしな。
めずらしく下の妹を叱っている瑠璃を宥めつつ、どう切り出すか考えていた時だ。

「あ、桐乃!」

この声は、まさか…。

「あやせ!あけおめー!」
「今年もよろしくね、桐乃…その子は?」
「桐乃ちゃん、明けましておめでとう」

げっ、あやせだ。麻奈実までいる。数ヶ月前までの俺なら嬉しい展開だが、俺にも学習能力くらい
あるんだぜ?嫌な予感以外の何も感じられねぇ。早くこの場を離れよう。

「ん?ああ、あそこの雪女の妹よ」
「雪女?…げっ、お兄さん…」

………。麻奈実をさらっと流して質問に答える桐乃もアレだが、人を見るなり
「げっ」とか言う人もどうかと思うよ?…俺は良いんだよ、防衛本能だ。

「あ、きょうちゃん!」

麻奈実がこちらに気付いて駆け寄ってくる。

「きょうちゃん!明けましておめでとう!」
「おう…。明けましておめ―――」
「あら田村先輩。明けましておめでとうございます」

しまった、こっちにも不安要素が…!
俺たちが付き合い始めた時の一悶着で、瑠璃は麻奈実を以前にも増して
敵視するようになっていた。主にお泊りの件とか、ベッドの下の件が原因で。


麻奈実は麻奈実で「明けましておめでとう。可愛い振袖ねー、袖が少し長くない?」などと
妙な笑顔で言っている。あんなに怖い麻奈実見たこと無ぇぞ…。隣で様子を伺っていた
下の妹はおろおろし始めている。小さいうちからこんなもん見せられてかわいそうに…。

「お姉さん!いいですか?」
「あ、今行くね!」

見ればあやせが手招きしている。ホント仲良くなったよなぁ。
…麻奈実が黒っぽくなったのってあやせの影響じゃないよね?

「おい瑠璃、あんまツンケンすんなよ。妹が怯えてるぞ?」
「…あなたが悪いのよ」
「俺?……あー、悪かったよ」
「分かればいいわ」

敵視してる相手に自分の彼氏が愛想良くしてりゃ、ツンケンしたくなるわけだ。
”言われなくても察して欲しい”という要望に、少しずつではあるが答えられるように
なってきた、と思いたい。まだ分からない事の方が多いんだよ…。

向こうは向こうで楽しくやってるみたいだし、こっちはおみくじを…。

「なぁ、上の妹はあっちに任せておみくじでも引きに行こうぜ?」
「そうね。さっきより空いて来ていそうだし…」
「ことしはだいきちがでるといいですね!」

去年は何が出たんだろうな。黒猫の表情からすると、あまり良い結果じゃなかったらしい。
ちなみにさっきから俺がおみくじを引きたがっていたのは…受験生は何かと不安なんだよ…。

さっそく列に並ぶが、そこはおみくじだ。あまり待たずに順番が回ってきた。
横にある箱の中へ百円玉を3枚入れて引き出しを選び始める。
瑠璃は「ありがとう」と言いながら、妹が引き出しを選べるように抱き上げている。

そういえば、瑠璃は今年で17歳だな…。よし、17番の引き出しにしよう。

「あら、もう決めたの?」
「あんま悩んでも仕方ないからな」
「それで?」
「末吉だ…」

おっかしいなぁ……良いのが出てくれると思ってたんだが…。


「わぁ!だいきちー!」

ちょっと落ち込んでいると、隣で瑠璃の妹が大吉を引き当てたようだ。
…別に羨ましくなんかないぞ?どうせ運試しだもんな。
続いて瑠璃も引き出しを開ける。

「おねえさまは?」
「………」
「ことしもだいきょうですか…」

無言で紙を妹に差し出す瑠璃の後姿に思わず同情する。今年もって事は去年も大凶だったのか…。
大凶を2年連続で引くなんてある意味すげぇ。

「ま、まぁほら、今年は俺が幸せにしてやるって」

とりあえず声をかけてみたものの反応が無い。結構恥ずかしかったんだが…。
と思っていたら、小声で「…っふ……やはり千葉の堕天聖たる私に神も…」とかなんとか言っている。
そこまで派手に落ち込んでいるわけじゃ無いのはいいが、その子の前でそれはやめろよ…。
そんな俺たちの様子を見ていた瑠璃の妹が、突然両手を広げて

「おねえさまとおにいさまにもしあわせ!」

なんて言うもんだから、さすがの瑠璃もそれには反応して「ありがとう…」と頭を撫でている。
そうだ、この子は「座敷わらし」だもんな。いるだけで幸せにしてくれそうだ。

さて、木の枝に結びつけるとするか。その2度目の大凶を。




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最終更新:2011年01月02日 21:40
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