Eの後にDがくる?(午前の部)


「ちょっと早く着き過ぎたな…」
待ち合わせ場所である駅の改札口を出て俺は呟いた。
今日はブリジットとのデート当日である。昨日から桐乃が妙に絡んでくるので、デートだと気付かれる前に朝飯も食わず家を出て来た。ひょっとして俺って顔に出やすいのかね…。
待ち合わせの時間まで一時間以上も早く着いた事もあるので、俺は軽く朝食を食べれる場所を探そうと辺りを見回した。すると通路を挟んでコインロッカーコーナー脇の柱の前に、見覚えのある顔を発見した。
「ブリジット…?」
一瞬見間違えかとも思ったがやはりそこにいるのは、俺がマネージャーをしてるモデルであり、同時にポニーテールが似合っている最愛の恋人であった。
今日の彼女の装いは襟の開いたカーディガンにチェックのミニスカート、その上から暖かそうなハーフコート、そしてミニスカートから伸びるすらりとした足は黒いストッキングで包まれていた。
ブリジットはちらりと腕時計に目をやると軽くため息をつく。そして肩から下げたトートバックを覗くと、何が嬉しいのかニッコリと笑みを浮かべるとまた腕時計を見た。
その様子が可愛いらしく、もう少し眺めていたかったが俺は声をかける事にした。
「おはようブリジット」
「ひゃう!?き、京介お兄さん!?」
悪戯心を起こし、ブリジットの視界に入らないようそばに寄ってから声を掛けたのだが、こんなに驚くとは…
「ど、どうしたんですか?まだ待ち合わせまで一時間もありますよ」
まさか妹の追求をかわすため早く家を出たとも言えず、とっさに質問を返してごまかす。
「ブリジットこそどうしたんだ」
俺の問い掛けに、ブリジットは、顔を赤くしてパタパタと手を振りながら
「あの、その、今日のお出かけが楽しみでいつもより早く目が覚めて朝ごはん食べても時間余っちゃってそれでお出かけの時間まで待ち切れなくて…ケホッケホッ!」
息継ぎもせず喋り続けむせてしまった。俺は背中をさすってやりながら宥めにかかる。
「わかったから少し落ち着け。要は俺と出かけるのがそれだけ楽しみだったって事だろ?」
ようやく落ち着いてきたブリジットはコクリと頷いた。くぅ~可愛いな!こんな可愛い娘今時希少種だよ、ワシントン条約で保護すべきだよ、いやそうなると一緒にいられなくなる!やはり俺が保護して面倒みるしかないね!ハイこれ決定!
「あの~、京介お兄さん?」
ブリジットの呼びかけに俺は、飼い主の義務として首輪を付けようする妄想から帰って来た。
「…ハッ、よし、少し早いけど出かけるか」
「はいっ!」

電車に乗り込むと、まだ早い時間のせいか乗客の数はまばらだった。おかげで、俺達はボックス席にゆったり腰を落ち着ける事ができた。
しばらくして、崎陽軒の袋を下げた乗客が通り過ぎていった。途端に忘れてた空腹感が甦り、我慢する間もなく腹が鳴った。それほど大きな音ではなかったがブリジットにはバッチリ聞こえたようだ。うわカッコ悪ぃ!
「お兄さん、朝ごはん食べてないんですか?」
「ああ、ちょっとバタバタして食いそびれた」
するとブリジットは傍らに置かれたバッグからバスケット型の箱を取り出した。
「お昼にと思って作ってきたんですけど、よかったらどうぞ」
受け取って蓋を開けると、中には上品なサイズにカットされたサンドイッチが並んでいた。
「これ…お前が…?」
「はい。でも朝になって急に思い立ってから作ったんで…。冷蔵庫の余り物ばかりですからあまり期待しないで下さいね?」
そう言って照れ臭そうに俯いた。いやいや、ブリジットの手づくり弁当だぜ?期待するなってのが無理だろ!俺は有り難くいただく事にした。
う、美味い!スライスされた胡瓜は余分な水気を取ってあるし、チーズに塗られたマヨネーズは手作りか手作りに近いものだ。ハムと一緒に挟まれたレタスもパリッとしている。夢中で頬張っていると目の前に紙コップが差し出された。
「どうぞ…紅茶ですけどいいですか?」
見るとブリジットは小ぶりの魔法瓶を手にしていた。俺が湯気の立つ紙コップを受け取ると、自分の分の紙コップにも紅茶を注ぐ。そして嬉しそうに俺の食べっぷりを眺めている。う…なんか気恥ずかしい…。

「ごちそうさま。美味かったよ」
空になった弁当箱を返しながら俺は礼をいった。
「はい、お粗末様でした」ブリジットは、日本人でも若い世代は使わない言い回しで答えながら弁当箱を受け取った。
しかし…早起きしたって言っていたが、弁当作った上に一時間以上前に待ち合わせ場所に来ていたわけだが何時に起きたんだ?
俺は改めてブリジットの様子を伺う。時々目をしばたたかせている。それに会話が途切れるとボーっとしている。
「なぁブリジット、少し眠いんじゃないのか?」
俺の問い掛けに、ブリジットは徐々に俯き出した顔をハッと上げ慌てて否定する。
「だ、大丈夫です!眠くなんてありません!」
いや、端から見たら明らかに眠そうだって。
「目的地に着くまでまだに20分以上ある。目をつぶっているだけでも違うから休んでろ」
俺の奨めにブリジットは渋っていたが
「目的地についてから眠くなるよりはいいだろう?」
という俺の言葉に渋々納得したようだった。そこで俺はブリジットの隣に席を移った。
「お、お兄さん!?」
「俺に寄り掛かっていいから目つぶってろ。着いたら起こしてやるから」
ブリジットはしばらく逡巡していたが
「じゃあ…失礼します…」そう言って俺の肩に頭を預けてきた。そして5分も経たずに熟睡していた。
「やれやれ…」
この様子だと、昨日も興奮して中々寝付けなかったんだろう。それでいて早起きして弁当まで作って…。
弁当にしたって、朝になって思いついたなんて下手な嘘つきやがって。パンだってパン屋に朝一で焼きたてを買いに行ったんだろ?でなきゃ、あんなにふんわりとしてないって。マヨネーズだって手作りだと日もちしない事くらい俺だって知ってるさ。
ブリジットが目を覚まさないように、頭をそっと肩から膝の上に移す。そして、頬にかかった髪を直してやりながら俺は呟く
「ありがとうな、ブリジット」
今日一日、いっぱい楽しい思いをさせてやろう。

「ん……ふぁ…」
ああ、やっと目が覚めたようだ。ブリジットはゆっくりと上半身を起こし、ここが何処だか確認するように周りを見回した。そして意識が完全に覚醒したのか、ぴょこんと立ち上がった。
「はぅ!ごめんなさい、私どれくらい眠ってましたか?」
「ん~40分位?」
「あぅ…本当にごめんなさい、せっかくのお出かけなのに私ってば…、それにお兄さんのズボン…」
俺のズボンの太腿部分は、ブリジットのよだれで染みが出来ていた。
「すぐ乾くから気にするな」
「気にしますよ!」
そういってブリジットはバッグからウェットティッシュを取り出し、よだれを拭いだした。
女の子を足の間に膝まずかせティッシュで処理をさせてる…端から見たら色々と誤解を与える光景だ。うん非常にまずい!
「ブ、ブリジット、本当にいいから!それにもう次の駅に着く!一回そこで降りよう!」
強引に切り上げさせると、ブリジットを促し立ち上がった。

「ここ…どこですか?」
ホームに降り立つと、ブリジットが聞いてくる。
ホームの駅名表示にはこう書かれていた
『北鎌倉』

続く


※おまけ・あるいはデート前日の風景

「かなかなちゃん、本当にありがとう!」
加奈子の目の前でブリジットが満面の笑みを浮かべている。両腕で買ったばかりの服が入ったビニール袋を抱きしめている。
「お兄さん、気に入ってくれるかな~?」
「あにいってんだよ、加奈子のコーディネートだぜ?気にいるに決まってるだろ」
「そうか…うん…そうだよね!」
センター街の入口でブリジットと別れる事にする。
「じゃあ今日はさっさと寝ろよ。でないと寝不足のヒデェ顔で出かける事になるぞ」
「うん!今日は本当にありがとう!」
「あぁ~それはもうさっきも聞いたって」
そう言って加奈子は手で追い払う仕草をする。そんな態度にブリジットは腹を立てる事もなく、加奈子に手を振ると地下鉄に続く階段を下りていった。
ブリジットの姿が見えなくなったのを確認すると、加奈子は携帯をかける。
「もしもし、加奈子だ。オメー明日はしっかりエスコートしてやれよ?あいつ、めちゃめちゃ楽しみにしてんだからな。それと服、会ったら必ず褒めてやれよ?加奈子がわざわざコーディネートしてやったんだからな」
その後もいくつかの注意点を告げると通話を終えた。
「ったく世話がやける連中だぜ…。さて歌舞伎町でも軽く流してから帰るかな」
そう言って、口は悪いが妹分思いの少女はJRの駅に向かい歩き出した。





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最終更新:2011年01月07日 22:57
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