俺の彼女がこんなにばかなこのわけがない

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「……遅いな。あいつまだ来ないのか?」

思わず、呟いてしまう。俺は腕時計から目を離し、再度背伸びをしてあたりを見渡す。
時刻はすでに昼を回り、晴天の下、たくさんの人が各々の休日を過ごしているようである。
だが、俺の待ち人の姿は依然見つからない。

ふぅ、と本日何度目になるかわからない溜息を深くつく。

そう、俺は今日彼女とのデートに街まで来ていた。
なにせ、つきあってから初めてのデートだと言うことで、俺は張り切って精一杯のおめかしをしてきたのだが……。肝心の彼女がなかなか来ない。
こうも長い間待たされて、しかも携帯電話で呼び出し続けても応答がまったくないもんだから何かあったんじゃないかと心配してしまう俺だったが、
待ち合わせ場所を離れた隙に入れ違いに彼女が待ち合わせ場所に到着することを危惧して探しに行くことができなかった。
そんなこんなで結局、約束の時間から二時間も過ぎている。


――と。遠くからこちらに向かって駆けてくる少女の姿を見つけた。
見紛うこともない、俺の彼女である。

走りながら手を振ってきたので、こちらも大きく振り返してやる。
俺のすぐそばまで来た彼女は長時間走ってきたのか息を切らしていて、膝に手を当てて息を整えている。
その様子が可愛らしく、また愛おしくもあったので俺はほとんど反射的に頭を撫でてやっていた。
それに気がついた彼女は俺の顔を見上げるようにして、笑う。

しばらくして、だいぶ落ち着いてきたのだろう、彼女は俺の腕を自分の腕に絡めてきた。
少しはにかみながら――



『俺の彼女がこんなにばかなこのわけがない』



さて、俺と彼女がつきあうことになったのには色々と経緯がある。


ある日の日曜日。
朝から受験勉強に勤しんでいた俺はのどが渇いたのでなにかしらの飲み物を求めてリビングに足を踏み入れようとしたところで、妹――桐乃につかまった。

「ねぇ、あんたさ」
「なんだよ」

いつにもまして機嫌が悪そうな様子の桐乃に内心ビビりながらもとりあえず先を促してみる。
なぜかこちらをにらみつけて居る桐乃は、今にもキレそうなそんな危うげな感じすらする。

「もうすぐあたしの友達来るんだけど、地味面見せたくないからさあ、あんた部屋から一切出てこないで」
「はあ? なんでだよ? 友達って誰だよ? 黒猫や沙織じゃねーのか」
「あやせと加奈子。……ホラ、質問には答えたんだから早く自分の部屋に戻ってよ」
「別にその二人だったら俺だって面識あんだからそんな部屋に閉じこもる必要はねえだろ」
「だって、あんたってさあたしの友達来るといっつも色目使ってくんじゃん。正直キモいから」

どうやら家に遊びに来るのは“表”の友達らしい。
いつもなら、あやせが我が家に来るとなれば(たとえそれが桐乃に会いに来たのだとしても)
俺のテンションは無条件で最高潮に達するフィーバーする乱舞する。
だが、さすがにこうも厳しく批判されてはあえて姿を見せようとする気も起きない。
っつか、あやせのことは桐乃曰く「色目使って」いたかもしれねえけど、あのガキんちょ、来栖加奈子に関しては全くあり得ねえ。
確かに数回のマネージャーごっこの際に実は後輩想いの面倒見のいいやつだっていうのは知っていたが、だとしてもあいつが態度が極度に悪いクソガキであることに変わりはない。
あの起伏の乏しい体型に興奮を覚えることは絶対にないし、口と性格の悪さは一級品。
従って恋愛対象になることは断じてないし、ましてや「色目を使う」ことなんて絶対あり得ねえ。

むしろ遊びに来るのが加奈子だけであやせが来ないんだったら桐乃の指示なんかなくたって、喜んで俺は家から飛び出すだろう。
受験勉強なら図書館でだってできるし、そうでなくても田村家に避難すれば良いだけの話だからな。
けれども出て行かないのは一重に、ラブリーマイエンジェルあやせたんとの半ばハプニング的などきどきイベントが起こる可能性が少なからずあるからだ。

「ケッ、そこまでいうんなら俺は部屋で受験勉強してっから。あんまり五月蠅くすんなよ。迷惑だからな」
「な……っ! なによ、その言い方! あ、あんたこそ、妹の友達が来てるからって興奮して、隣の部屋でへ、へへへ、ヘンなことしないでよ!」
「誰が妹の友達が来ることなんかで興奮なんかするかっ!」

俺は妹との不毛な言い合いをやめ、リビングで冷蔵庫の中にあった烏龍茶で手早くのどを潤すと、足早に階段を上った。

そういえば、俺が偽名を使って加奈子のマネージャーをしていたことは、加奈子には秘密だったか。
だとすれば、ばれるかもしれないことを考えると顔を合わせるのはまずいだろう。
まあ、あの阿呆の子がその事実に気づくとも思えないのだが、いかんせんもし加奈子にばれたときに後に行われるであろうあやせの折檻が怖い。
そういう意味でも、やはり俺はなるべく姿を見せないようにした方がいい。

俺が自室へ入り、後ろ手に扉を閉めた瞬間、玄関のインターホンが鳴った。
直後、桐乃が猫なで声を出して友人を迎える。
「おじゃましまーす」「ちーーーっす」と、礼儀正しいあやせと小生意気な加奈子の声も続いて聞こえてきた。


「さて。俺はおとなしく自分の勉強に集中しますかね……」

机の上に置いてある問題集と、ノートを開いてシャープペンシルを手に取る。
今はもう秋である。センター試験までも後数ヶ月とそう大して時間があるわけでもないのだ。
長いこと継続している麻奈実との勉強会の成果か、志望校の大学はもう安全圏内ではあるが、油断禁物である。

まもなく、妹とその友達が階段を上ってくる足音がしたが、言いつけ通り顔も姿も見せることもなく俺は数学の問題に取りかかることにした。



――のだが。
俺の部屋と桐乃の部屋を仕切る壁はなぜかやたらと薄い。
隣の部屋で少し大きめな声で話していると壁に耳をくっつけなくてもその話の内容がわかるほどに。わかってしまうほどに。
あまり五月蠅くしないように桐乃には言っておいたはずだが、無意味だったらしい。
さっきから桐乃達の会話がだだ漏れである。
生の女子中学生の会話を聞きながらも自分の勉強に集中することができる男子高校生がいったいこの日本に何人いるというのだろう。
もしいるってんだったらお目にかかりたいね。
それは、俺にはもちろん到底無理な芸当である。
できるやつは瀬菜が好むようなガチホモ野郎ぐらいじゃなかろうか。

……やっぱりお目にかからなくてもいいかな。


というわけで、俺は今、このどうしようもない感じを持て余してベッドの上で悶々としている。
桐乃達の話の内容は殆どが他愛もないものであり、それぐらいなら俺も大して辛くないのだが、ついさっきふとした拍子に俺についての話になったんだ。

「ぶっちゃけさぁ~、桐乃って兄貴のことどう思ってんのぉ~?」

壁越しだが間違いない、この人を意図的にいらつかせようとしているかのごとき口調は加奈子である。

「へっ!? …や、やだなあー加奈子ったら、そんなことどうだっていいじゃーん?」

やはり加奈子だったか。
ちなみにこちらは桐乃だろう。相変わらず猫なで声が気持ち悪いが、妹の声ぐらい判別できる。

「えー、それ、私も気になるなー。桐乃ってお兄さんのことどう思ってるの、実際」

……………………あやせ……さん?
――賭けてもいい、今あやせはおそらく顔は笑っていても、目は笑っていないに違いない。

「どうも思ってないよぉ、ほらいいでしょ、これでえ?」
「だめだよー、桐乃。だってさ、桐乃ったら学校でもいっつもお兄さんの話ばっかりしてるじゃない?」

……そうなのか? あの究極の兄嫌いの桐乃がか?
何かの冗談じゃないかとも思ったが、壁の向こうの少女達は至ってまじめに会話を続けているようである。

「ああ、あ、あやせ!? なな、ナ、ななななにいってるの!? そんなことないって!」
「うへへ、今の桐乃の顔おもしろかったぁ。……でもさあ、こんなにあわてるってことは、桐乃ってやっぱり兄貴にぞっこんなんじゃねーのぉ?」
「か、加奈子までそういうこと言って。そそ、そんなわけないジャン」
「えー……、うっそじゃねーのー?」
「本当だって~! ……あやせの方こそどうなのよ? 彼氏とかいないのー?」
「あー! それ、加奈子も気になんなー、どうなのよぉ、あやせ」

どうでもいいけれど、ひどく移り身の速いガキである。
たった今まで桐乃をいたぶっていたとは思えないほどの身の翻しようで今度はその標的をあやせに変更したようである。
だが、あやせに関しては俺も興味がある。
俺は耳を壁にぴったりとくっつけて、隣の部屋の音に神経をとがらせる。

「あはは、私は彼氏なんていないよ?」
「えー、でもでもあやせだってかなりモテるらしいじゃん? この前だって近所の公園で年上の男の人となんか仲良さげにしてるの見たって人いるらしーし」

な、なんだってーっ!?
あやせたんに……、ラブリーマイエンジェルあやせたんに彼氏だってーっ!?
ちょ、ちょっとそれ俺初耳ですよ!?

「え、えっと……その人は別にそんなんじゃない……っていうか、なんていうか」
「ねえねえ、その人ってどんな人? 優しい系? かっこいい系?」
「…………優しい……人、かな」
「キャー! もうメロメロって感じジャーン! 付き合ってないのー?」
「……って、違うってばー! そんなんじゃないって!」


ぅうう、あやせの好感度が少しでも上がるかなって今までいろいろな相談事につきあってきたけど、それは全て無駄だったのか?
話を聞く限りどうやらあやせには既に気になる男性がいるようである。
それもかなりご執心のご様子で、お忍びデートの経験すらあるらしい。

俺なんかの出る幕じゃないってか。

あまりのショックに立ち直れない俺は布団を頭から被って丸くなる。
そうすると全く隣の部屋の話し声は耳に入らなくなった。

「チクショー……」

小さく呻く。
もちろんあやせに本気で恋している、というわけではなかった……ハズだ。
だけれどもなんだかんだで一番気になっていた女の子であることは間違いない。
悔しくないはずはなかった。

勝手に聞いておいて言えることではないのかもしれないが、正直、こんな話聞きたくなかった、と思った。


しばらくして俺はのっそりと起き上がった。
激しい精神的ダメージのせいで、もうボロボロである。このまま勉強を続ける気など、当然起こるわけもない。

俺はベッドから転がり降りるとゆっくりと這い上がり、部屋を出て、リビングに向かった。
しばらく頭を落ち着かせたいと思ったからだ。

音を立てないようにそっと扉を開け、首だけ廊下に突き出して部屋の外の様子をうかがう。
――ふむ。桐乃やあやせ達が出てくる気配は全くないな。
俺は音を出さないよう気をつけつつ、それでもなるべく速くリビングへと階段を下りていった。

リビングの扉をゆっくり開けて、素早く体を中に入れた。
食器棚からガラスのコップを取り出すと、烏龍茶をなみなみに注いで、窓際に陣取る。

そして窓の外の景色を眺めながら、コップの中身をちびちびと飲むことにした。
そんな黄昏たいような気分だったんだ。
あるいはこれが「呑まなきゃやってられない」というものなのかもしれない。

ペットボトルの中身を飲み干した頃に時計をみると、既に部屋を離れてから10分ほどの時間が経過しているようだ。
いくらか気持ちも落ち着いてきたことだし、いつまでもここで落ち込んでいるわけにもいかないだろう。これでも一応受験生だしな。
俺は一度だけ大きく伸びをして体を解すと、空になった烏龍茶のペットボトルを捨て部屋に戻ることにした。

再び感づかれないように階段を静かに上る。
もし部屋の外にいるのを見つけられれば後でしばかれるのは目に見えている。
なので俺は全身全霊を込めてそっと、そーっと、一歩一歩階段を踏みしめて上っていく。

ようやく階段を上りきったところで、桐乃の部屋から楽しげな話し声が聞こえてきたため、まだあやせと加奈子は帰ってないんだな、と思った。

だから、俺は自分の部屋に戻ってその扉を開けたとき、目の前に広がっている光景をにわかには信じることが出来なかったんだ。
だってそうだろう?

「な――、お、おま、お前――」
「んあ?」

そこにいたのは煙草を右手にして、大きく開け放たれた窓からぷはー、と煙を吐き出しているクソガキもとい加奈子だったんだから。
しかも、なんか色々とつっこみどころ満載である。……よく見ると、部屋の隅に明らかに外靴と分かるブーツが無造作に転がっているし。

「お前、なにやってんだ!? それにどうして俺の部屋にいんだよ?」

俺に問いただされて初めて我に返ったのか、加奈子は顔を青くすると、あわてて煙草の火を消してそれを隠そうとした。
って、加奈子さん? あなたが今煙草を押しつけた本、麻奈実から借りた問題集なんですけど。

「テ、テメーどうしてここにいやがる!?」
「どうしてって、ここは俺の部屋だっ!」
「へ……? …………あーーーっ!! おめー、桐乃の兄貴だったのかよ!?」

思わず反射的に返してから俺は初めて自分の失態に気づいた。
この物言いからすると、どうやら加奈子は突然部屋に入ってきたのはコスプレ大会の時のマネージャーだと思ってビビっていたらしいが、
俺の一言でずっと隠してきていた桐乃の兄貴=マネージャーというのがばれてしまったらしい。
俺がどう反応しようか迷っているうちに、加奈子はというとなにやらしきりに頷いている。
にやにやと面白くて仕様がないかのようにこちらをちらちらとうかがっている。

「そっかー、そっかー、おまえだったのかヨ」
「ま、まあな」
「……あり? でも、てめー赤城とか言わなかったっけよ?」

ばれてしまったモノは仕様がないだろう。今更どう取り繕うとおそらくもう手遅れだろうし。
俺はあやせのお仕置きを受ける覚悟を決めて、加奈子にすべて包み隠さず話してしまうことにした。

「ん? ああ、それ偽名なんだ。俺の本当の名前は高坂京介だ」
「へー……京介、ね」

っと……今は、こんなことよりも言わなきゃいかんことがあったな。

「ところでお前さ……俺が入ってきたとき煙草吸ってたよな?」
「ギクゥ!」

擬音を口にする娘は世界広しといっても麻奈実ぐらいだと思っていたが、どうやらここにも居たらしい。
多少あきれながらも加奈子の様子を眺めていると、面白いぐらいのうろたえっぷりだった。
加奈子は顔面を蒼白にし、歯をガチガチさせながらさながら小動物のように小さくなって震えている。
クソガキでも黙っていれば、少し可愛いく見えないこともないかもしれない。

「な、なあー……。おめーこのことあやせにいうのかよ?」
「……ああ。さすがに煙草はまずいだろ。ってかお前あやせに禁煙させられてなかったっけ?」
「そそそ、それはそうなんだけどよぉ……」
「だったら何で煙草なんて吸ってたんだよ。しちゃいけないことだっていうことぐらい分かってるだろうに」
「だってぇ……」

まるで子供に対する説教である。
まあ実際加奈子なんて俺にとっては身長的にも子供みたいなもんだしな。

加奈子はもじもじと言いよどんでいてこちらの質問にもはっきり答えないし、要領を得ない。
仕様がないので、俺は優しくあやしてやることにする。

「加奈子はイライラしてるときとか集中したいときとかに吸いたくなるんだったっけか」

コクリと頷く加奈子。
心なしか目元は潤んでいるような気がする。
さすがにアイドルを目指しているだけはある、こうして黙っていればずいぶんと可愛いものである。

「加奈子はイライラしてたのか、それとも何か集中したいことがあったのか?」

なるべく詰問口調にならないように気をつけながら軟らかく聞いてみたが、加奈子が口を開く様子は一向にない。

仕方がないのでもう一度俺が口を開きかけたとき、加奈子がようやく答えた。

「どっちかって言うと……イライラしてた……、のかなぁ?
…………えっと、さ。桐乃のやつもあやせのやつも……す、好きな奴と会ってたりなんかするらしくてさぁ」

ゆっくりとその思いをポツリ、ポツリ、と語る加奈子。

俺は「桐乃のやつも」のところで突っ込みたかったが(桐乃が俺のこと好きってさすがにあり得んだろ?)そうすると、
先ほどの会話を聞いていたことがばれてしまうし、何よりせっかく話し始めた加奈子の話の腰を折ることになってしまう。

結局俺は何も言わずに加奈子の言葉の続きをただ、待つことにする。

「それで……、ホラ、恋人っていいなぁとか思っちまうだろ? あやせなんかはもうデートもしてるらしいしよお……」

へぇ。こいつでもそんなこと思うんだ。

「…………加奈子にだって……す、好きな奴ぐらいキチンといんだぜ?」

それは意外だ。こんなちんちくりんでも一丁前に恋なんかしちゃってるなんてな。
だが、そのセリフを吐きながらこちらをちらちら窺い見るのはやめてくれ。
俺にどう反応しろと。なんかのリアクションを求めてんのか?

「……だけどよ、加奈子はそいつとたいして会うこともできないし、ましてやデートなんてしたこともないしよ……、なのにあやせは」
「……そっか」

短く返してやる。
だが大体の事情が分かった。要するに加奈子は恋愛において自分より先に進んでいる桐乃やあやせに嫉妬しているらしい。
なんともありがちな話である。

「それで……か?」

加奈子は小さく頷く。

「居てもたってもいられなくなったから……帰るフリして桐乃ん部屋を出て、靴だけ持ってきてどこか適当な部屋で一服しよーかなー……、て。
……外じゃ吸えねーし、あやせに見つかるわけにもいかないしよお……」

だから俺の部屋にいたのかよ。
ったく、本当にいい迷惑だっつの。
もしお袋が俺の部屋に入ってきたときに染みついた煙草のにおいに気がつきでもしたらどうしてくれるんだ。
そうでなくても窓から漏れ出る煙が近所のおばさんに発見されればすぐにお袋の耳に届き、そのまま家族会議に突入するのは目に見えている。

俺は思わず頭を抱える。

「な、なあ……き、京介」

そんな俺に向かって加奈子は恐る恐る言葉を投げかけてくる。
……どうでもいいけど俺のこと呼び捨てかよ。

「どうしてもあやせにこのこと言うのかよ?」
「ああ」

事情をすべて聞き終えた今、これ以上加奈子をあやせに引き渡すのを先延ばしにする理由もない。
時折聞こえてくるとなりの部屋の話し声から推測するに、あやせはまだ帰ってないだろうし。

「なあ……、どォーっしてもかよ?」
「……ああ。しちゃいけないことしたってんだから言わないわけにもいかないだろ」
「…………ッ」

加奈子は唇を噛んで少しうつむき加減で何かと葛藤している様子だった。
俺はできることなら加奈子に自分から煙草を吸ってしまったこと、反省してほしかったし、あやせには自首してほしかった。
それは加奈子がただの見知らぬガキではなく、そこそこつき合いのあるガキだし、仕事ではブリジットの姉貴分として手本となる行いをするべきだと思ったからだし、
何よりも、月並みな言葉にはなってしまうが、そうでなくては加奈子のためにならないと思ったからだった。

「きょ……京介?」
「何だ」
「加奈子キチンと煙草やめっからよ……それじゃあ、ダメ?」

俺は一頻り考えた。
もちろんそれで加奈子が煙草をやめられるならそれでいいのだろう。
だが、あやせに脅されて禁煙すると誓ったにも関わらずその約束を破った加奈子である。
今ここで約束してもそれが破られてしまう気がする。

「ダメじゃないさ。……だけどお前、そう言っておきながら煙草吸っちまったわけだしな。口でいくら「煙草はやめます」って言っても信用できないだろ。
それにお前、俺の言うことちゃんと聞きそうにないしな……、だからあやせに任せようと思う」
「だったら……、信用…………できれば……いい、のかよ?」
「……まあな。そういうことになるな」

俺はほとんど何も考えずにそう目の前の加奈子に返していた。



……後から思うと、この一言が俺の運命を決定づけたのだと思う。
たくさんの分岐がある中からたった一つの道を選び抜いた瞬間。
エロゲー風に言えば『加奈子ルート』に入った、ということだろうか。



ただその時には俺は何か人生における重大な選択をしてしまったという自覚は全くなくて、
突然身体全体に伝わってきた加奈子が胸に飛び込んでくるその感触と密着してる加奈子の体温の暖かさしか頭の中にはなかった。

「――――なっ」

かなりの勢いで加奈子に突進された俺はとっさに受け止めきることができなかった。
そのためドサリと二人してベッドに倒れ込む。
そしてそのまま加奈子は異様に手際よく俺に馬乗りになった。

「いったい、何のつもりで――」
「信用」
「……あ?」
「だからぁ……か、加奈子が……、信用させてやんよ」

そう言うが速いや加奈子は俺の顔に自身の顔を近寄せ、そっと軽く触れるように口付けた。

俺が何が起こったのか理解できずに固まっているのをいいことに、加奈子は再び口付けた。
ただし、今度は唇と唇をくっつけるだけのものとは違う。
ディープな、接吻。

「……んっ、」

一方的にではあるが、加奈子は舌を巧みに使って俺の唇のわずかな隙間に進入し、俺の舌に絡めようと動かす。

「……っぷぁ、んふぅ、……っんっん、」

そして咥内を舐めあげたり、唾液を垂らしてきたりする。
そんな加奈子の豹変についていくことのできない俺は、その行為をただ受け入れることしかできない。

不意に加奈子が起きあがった。

「……ど、どーヨ?」
「…………?」

加奈子が何かこちらに話しかけてきたのだが、唾液をしこたま流し込まれたせいか息が切れてしまい質問の内容と意図をうまく把握することができない。

すぐに返事を返すことのできない俺にしびれを切らしたのだろう、加奈子は不機嫌そうに口を開いた。

「だーかーらー、加奈子のキスは! 加奈子のキスはどうだったかって聞いてんのっ!」
「えっと…………………………………………ヤニ臭かった」

問いかけの意味は理解できたものの未だこの不可解な状況に頭はついていかないので、取り敢えずキスの素直な感想を告げる。
するとそれを聞いた加奈子は俺の目の前まで顔を近づける。だが、口付けには至らない。

「だったらよく覚えておけヨ」
「……ヘ?」
「そうすればオメーは加奈子とキスすれば加奈子が煙草吸ってるか分かんだろォが」
「…………ハイ?」
「毎日学校前と、放課後にキスして確認して。休みの時は一日中一緒にいればイイし――」
「………………え?」
「で、でもでもっ、しょっちゅう一緒にいるとなると不自然だからさァ、京介、おめーは加奈子のか、かか、彼氏ってことにしてやんよっ!」
「……………………チョット待ってくれ」
「な……、なんだよ」
「どうして俺がおまえの彼氏になんかなんなきゃいけねえんだ?」
「理由だったら今言ったじゃねーかヨ」
「そうじゃねえっ! そもそも好きでもないのに恋人なんて――」
「ああもうゴチャゴチャうるせぇー、男だったら腹括れよ!」

三度唇を押しつけてくる加奈子。
ただ、今度は加奈子はキスをしながらもその手を下に持って行き、俺のズボンの股間あたりをワサワサやり始めた。

「……くっ、……や、止め」

意志に反して呻き声がこぼれでる。
その俺の反応に加奈子は満足したようで、ニヤリと笑うとズボンとトランクスに手をかけて一気におろした。
ポロリとその姿が晒される俺のリヴァイアサン。

「へ、へー……こんな風になってんだ……。……結構かわいいカモな……」

一瞬加奈子は萎えている状態のそれにひるんだ様子だったが、キスを中断してそれをじっくり観察する。

女子中学生、それも妹の友達に自らの陰茎を間近に観察されるというだけでもヤバいのだが、その上加奈子の熱い吐息が俺のリヴァイアサンにかかる。
この状況にリヴァイアサンが勃ち上がってしまうのはいたって自然な現象といえるだろう。
とか言い訳したくなるが、要するに俺はこのわけわからん状況に不覚にも興奮してしまっていた。

「ウワw、勃起しやがった……。口では色々言ってたけどよ、身体は正直なもんだなwwww」
「これは……ち、違っ」
「何が違うんだよ。本当は期待してたんだろ? 超絶美人の加奈子サマにエッチなことしてもらえるってヨ」



途端に俺の部屋を襲う凄まじいほどの静寂。
物音一つしないその空間に俺の言葉が響きわたる。

「超絶……………………美人??」

「おうよ。……な、なんだよその目は」

自信満々に胸を張った加奈子に対して俺は無言で加奈子の全身を眺め回す。
そして両手を伸ばして加奈子の頭、頬、肩、二の腕、脇腹と次々に触れていき、最後に胸に手のひらを押しつけてみた。
ゴツゴツと、ただひたすら硬いだけの感触。

「…………骨……?」

バコーン、と桐乃の携帯小説の中に出てきそうな擬音がしたと思ったときには、俺は頬にすさまじい衝撃を感じ吹っ飛び壁に後頭部をぶつけていた。
驚いて起きあがって見ると、加奈子は涙目で右こぶしを突き出していた。
どうやらあれで殴られたらしい。

「テメーいくら何でも言っていいことと悪いことあんだろォ!? …………加奈子だって気にしてんだからよぉ」
「……す、すまん」

よほど胸のことを気にしていたのだろう、コンプレックスを直撃してしまった俺は素直に謝っておく。
加奈子は一頻り涙を流し終えると、再び俺の胸に飛び込んできた。
そのまま俺の背中に回される小さな両腕。

そして加奈子は顔を埋めたまま喋り出した。

「さっきよぉ……、か、「彼氏にしてやる」って言っただろ?」
「あ、ああ……言ってたな」
「アレ…………本気だかんな」

……え? 今、加奈子さん、あんた何て言いました?
「本気」っていったいどういうことだ?

俺の頭の上に浮かび続けるクエッションマークが見えたのだろう。
加奈子はぷくっと頬を膨らませると俺に告白した。

「だからァ、加奈子はおめーのことが好きだっつってんだよ! 京介のことを愛してるっつってんだよ!」
「――――っ!?」

聞き間違いかと思った。
あるいは何かの冗談ではないかと思った。
しかし加奈子の表情は窺い知ることはできないけれどその話し方から真剣な様子は伝わってくる。

加奈子は続ける。

「だ、だ、だからよォ……、そ、その……、よぉ……」

加奈子は顔を上げると見上げるように俺の瞳をまっすぐに見つめる。



「加奈子と…………付き合って……ください」



俺はようやくこの時になって今までの数々の加奈子の言動はすべて照れ隠しであったことに気がつくと同時に、俺は加奈子にたった今告白されたのだと気づいた。

普段からそのとどまることを知らないクソガキっぷりで俺を(そして俺以外の人も)困らせるメルルそっくりのちんちくりん。
俺の中で来栖加奈子という少女はそういう認識だったはずなのに。

今、顔を赤らめて俺の答えを待ち続けている加奈子を見ていると、その認識が揺らいでいることに気がついた。

ブリジットのピンチ(後でそれは早とちりだと判明したのだが)には体を張って自分よりも年下の女の子を守ろうとして。
常日頃から言葉遣いは荒くても根は優しいガキなんだなって思って。

今俺の目の前には加奈子の顔がある。
その顔を見つめてこうしていると不思議な気分になる。
普通の感情とは明らかに違う、もっと形容しがたい想い。

俺はずっとクソガキと思っていた加奈子にいつからか無意識のうちに愛情を抱いていたらしい。


加奈子の背中に手を当てて引き寄せ、そっと抱きしめる。

「加奈子。俺……さ。ずっとお前のことクソガキだって思ってた。初めて会ったときも――お前がこの家に遊びに来たときだけどさ――同じ様に思ってたんだ」

俺はそんなに語彙が豊富なわけでもないし、話術に特別長けているわけでもない。
だから、自分の思いをただ語ることしかできない。

「コスプレ大会の時だってあやせに頼まれたからマネージャーなんて難儀な役目引き受けたんだしな。
……でも、あん時は正直見直したよ。ずっとクソガキだと思ってたけど案外根は正直な奴なのかもしれないってな。
二回目のマネージャーのときに俺はブリジットを必死になって守ろうとするお前を見てそれが間違ってなかったって確信したんだ」


俺はここでいったん言葉を区切り、加奈子の身体を離す。
加奈子の瞳には安心しきったような穏やかさが満ちている。
それを見た俺は自分も次第に落ち着いていくのを感じた。

「加奈子。俺も加奈子のことが好きだ。愛してる。ようやくそうなんだって俺は気づけたんだ」
「じゃ、じゃあっ――」
「ああ。俺も加奈子に俺の彼女になってもらいたい。……だめかな?」

プルプルと勢いよく首を横に振る加奈子。
その加奈子には似つかわしくない可愛らしい様子に俺は思わず笑ってしまう。
加奈子はそんな俺を見てむくれた。

「なんだよ笑いやがって……ヒトがせっかく……」
「はは、悪い悪い……」

どちらからともなく抱き寄せあう俺と加奈子。

「愛してる」
「か、加奈子も愛してる」

小さくも愛おしい、その存在を優しく抱きしめる。
加奈子は力を抜いて俺に任せてくれているのだろう、そのままの姿勢で1分ほどの時間が過ぎた。

だが、不意に加奈子が口を開いた。

「あのよォ……。なんかさっきからずっと硬いモノがお腹に当たってんですケド」
「あっ…………」

加奈子が頬をほのかに赤らめ指を指しているのはさっきから勃起し続けている俺のリヴァイアサン。
……なんて言うか我ながらムードぶちこわしで申し訳ない。

「続き……加奈子がシてやんよ」

加奈子は恥ずかしがりながらもソレをしっかりと見据え、そう宣言すると、
すっかりカチカチになってしまってからずっとその硬度を保ち続けていた男根を撫でるような手つきで包み込む。

「……ん……」
「気持ちいい……のか?」
「ああ。……気持ちいいよ」
「えへへ。よかった」

加奈子はホッとしたように笑う。
まるで初めて行う行為で恋人が悦んでくれたことに安心するかのように。
その様子に面食らった俺は加奈子に尋ねる。

「お前って……、もしかしてこういうこと初めてだったのか?」
「あっ、あ、あっ、あったりめーだろーがぁっ!! てめー加奈子のこと何だと思ってんだよ!?」
「ははは、そっか、悪い」

別に意外なことではなかったのだが、加奈子の以前と変わらぬその口調に俺はうれしさを覚えた。
なんだか、恋人になっても加奈子は加奈子なんだって。
加奈子は俺の前では変に飾ったり偽ったりしないで素の自分を見せてくれるんだなって。
そしてそれってきっと幸せなことなんだろうなって思ったから。

「お、オメーこそそこんとこどうなのよ? 実は経験豊富だったりしねーよな?」
「んなわけねーだろ」
「そ、そっかー、そうだよなー、オメーみたいな地味面は加奈子くらいしかその本当の価値は見抜けないからなー。……えへへ」

そう言いながらも加奈子はリヴァイアサンへの愛撫を止めることはない。
先ほどのただ手を動かすだけの動きとは違う、愛でるような動き。
それに加えて加奈子はおもむろに舌を這わせ始めた。

「うおっ!?」
「れろ、男って、ちゅ……、こうされると、……ぱっ、嬉しいんだろ、……っろれ……」

はじめはゆっくり、次第に速く舌が竿の上をうごめく感触は、自慰やただの愛撫では得られない快感を俺の脳に送り込む。
さらに加奈子は舐めながらどんどん亀頭の方へ舌を登らせていく。

「れお、ろれれ、んぱ、れろれ、っちゅ」
「……くっ、……っあ」

上目遣いで俺の様子を確かめる加奈子。
普通に、可愛い。

加奈子はついに鈴口のところまで到着すると、その小さな穴の付近を擦るように舌を動かす。

「れろれろれろ、れ、ろれ、れろれろ、……ど、どーヨ?」
「っああ、すげえ気持ちいいよ、加奈子」
「だったらこんなのは、どうかなぁ……はむ」

えへへと笑うと加奈子は俺の陰茎を一気にくわえ込む。
そしてそのまま唇で挟み込んでしごいたり、吸いついたりする。
俺はその未知の刺激に一気に高められる。

「や、やばいっ。出そうだっ」

増していく射精感に思わず加奈子の後頭部に手を当てて押さえ込み固定してしまう。

「……んぷっ!? ちょ、ちょっと放しっ」
「くっ、出るっ!」
「なっ、ま、待っ――」

どぴゅっ、ぴゅぴゅる、ぼぴゅっ、どぴゅぴゅるっ

「……ボゴッ!? ……もぼぼっ、もぼっ、…………んくっ、こくっ、こくんっ」

放たれた欲望は、加奈子の口の中を蹂躙して、あふれかえった分がシーツの上に垂れ落ちる。

すべて放出してしまってから俺は思わず加奈子の口の中に射精してしまったことに気付き、慌てて謝る。

「悪ぃっ、加奈子! 口ん中に出しちまった! ……加奈子?」

加奈子は俺の言葉に反応することなく俺の股間に顔を埋めたままである。
少し心配になって加奈子の頭頂部を軽くぽんぽんとはたいてみると、ようやく顔を上げた。

「……………ばする」
「へ?」
「……ねばねばする」

加奈子はその可愛らしい小さな口から白濁した液体を垂らしながらそう感極まったように告げた。
まあ、そりゃあそうだろうなぁ。

「う……、おぇ」

加奈子は口の中に指をつっこんで顔をしかめている。
気持ち悪そうにしている加奈子をみていて俺は気づいたことがあったので尋ねてみる。

「もしかしてお前、精液飲んだのか?」

コクリと頷く加奈子。
マジかよ。口ん中に何もなかったように見えたからまさかとは思ったけどさ。

「なんでだよ?」
「加奈子、一度ザーメンって飲んでみたかったしよぉ~」

女子中学生がザーメンなんて言葉使うんじゃねえ。

「それによぉ~、そうした方が喜んでくれるかなぁって思ったから」

……そうですか。
そんなこと言われちまったら彼氏としては何も言い返せなくなるだろうが。

口からわずかに精液を垂らしながらこちらに微笑みかけている加奈子。
その姿を見ていると今まで以上に愛おしく思えてくるから不思議だ。

「でも、不味いだろ? 別に飲んでくれなくったっていいんだぜ?」
「ううん、加奈子が飲みたいってんだから、京介は飲ましとけばいーの。それに言うほど不味くないしヨ。……確かにねばねばするけど」

そういうもんか。
まあ、確かに俺も飲んでくれた方が何となく嬉しいことは嬉しいけどさ。
でも、精液を不味くないって言う女子中学生って何かもう色々と駄目な気がする。


などと俺が頭を抱えていろいろと悩んでいると、ちょんちょんと肩をつつかれたので顔を上げる。
加奈子はかつてないほど顔を赤く染め上げ、俺に媚びるような口調で話しかけてきた。

「ねえ……、それよりもさぁ……、今度は加奈子のカラダ……触ってくんねー?」

俺は手を伸ばして加奈子が服をまくり上げるのを手伝ってやることでそれに応えた。


「ど、どうだ?」
「んっ……イイ感じぃ」

というわけで今俺は加奈子の胸を触っている。
さっき触ったときも思ったが、やはり骨の感触が強い。
まあ、別に加奈子はまったく胸がないというわけではないのだけど。
平均よりは明らかに足りてないだろう。

だが、それでも目の前で年端もいかない少女が、自身の服をまくり上げて「触って」なんて言ってきたら正常な男なら我慢できるはずもない。
……ちなみに加奈子はブラの類は付けていなかった。

ポチリとそこだけほんのりと色づいている乳首を指の平で擦る。

「んっ……、そこ、んんっ……、いいっ、……ふぁ、んあ」

俺はこういうことに疎い方なので、エロ本や桐乃に押しつけられたエロゲーで得た知識を総動員して愛撫する。
わずかな胸に手を覆いかぶせて揉み。
乳首を指で転がしたり引っ張ったり弾いたり。
時折キスを混ぜながら行為を進めていく。

俺の拙いそれは加奈子の切なそうな喘ぎと次第にプックリと盛り上がってきた乳首から見て快感を送り込むことに成功しているらしい。

気をよくした俺は、右の乳首は指でいじり続けたまま、左の乳首を口でくわえ込む。
中心を舌で強く押し込んだその途端に加奈子はより一層高く鳴く。

「あぁぁっ、ふあぅぁ、んぁぁあ、ひゃぁっ!」
「ひもひひいか、かはこ?」
「んあぁっ! イイ、ひぁ、けどおめー、んゃっ、チョット激しすぎ、んくぁっ、いったん止めて――」

俺は加奈子の言葉に従っていっさいの愛撫をやめる。
そして俺に寄りかかって息も絶え絶えになっている加奈子の背中をさすってやる。

「大丈夫か?」
「ん……、大丈夫。ケドよぉ……」
「何だ?」
「胸ばっかりじゃなくて……、今度はコッチも……シてぇ……」

そう言って加奈子は可愛らしいフリルの付いた短めのスカートを持ち上げた。
むわりと香り立つ加奈子の雌の香り。

スカートの中には乳首への刺激によって既に湿り気を帯びたショーツが顔をのぞかしていた。

「脱がして……ぇ……」
「うおぁっ! いきなりなんて声を出すんだ!?」
「だ、だってぇ……、さっきからココ……、熱くてぇ……」
「自分で脱げばいいだろ!?」
「脱がしてくれないのぉ……?」
「……ううっ」

そんな風にそんなことを頼むなんて反則だろ。
幾分か潤んだ期待の眼差しを裏切ることなんて到底出来そうになく、俺は仕方なく加奈子のショーツの縁に手をかける。
今気づいたけど、加奈子のショーツはレースの装飾が付いたずいぶんと大人びたデザインのものである。
……無理に大人ぶる必要なんかねえのにな。

ショーツを脱がすため加奈子の顔を近づける。
深まる淫臭。
頭がくらくらしそうだ。

「加奈子、腰浮かせてくれ」

俺の言葉に反応して、ショーツを脱がしやすく腰を浮かす加奈子。
ショーツを抜き取る一瞬、加奈子はピクリと震えたようだったが、それはすぐに治まった。

ついに露わになった加奈子の秘所。
恥毛は産毛のような細いのが申し訳程度に生えている程度で加奈子の身体の幼さを表しているようだったが、トロリと愛液が垂れている陰唇は十分淫靡な様子を醸し出していた。
始めてみるナマの女性器は綺麗とか美しいとかよりもむしろ可愛らしいという印象を俺に抱かせた。

「あ、あんまジロジロ見んなよ……恥ずかしいし……」
「う……すまん」

試しに指を伸ばしてスジを伝っている蜜をすくってみる。
ぬちょりと、粘性の高い液体が指に絡みつく。
愛液の付いた指を口に含んでみると、少ししょっぱいような暖かいような味がして、立ちこめるほのかに甘い香りはより強くなったようだった。

「早く触ってぇ……」

加奈子である。
俗に言うM字開脚の状態で俺を誘っている。
僅かに割れて中が見えそうになっているクレヴァス部分がなんともいやらしい。

「いいのか?」
「熱いんだってぇ……、だからぁ、早くぅ……」
「じゃ、じゃあ……触るぞ」
「う、うん」

とは言ってもどのように触ればいいのかいまいち分からない。
取り敢えずピトリと人差し指を秘裂に沿えて上から下へと繰り返し動かしてみる。
加奈子はその動きに合わせて身体をふるわせている。

「んっ……、くぁっ……、ひぁっ……」
「こ、こんな感じか……?」
「もっと強くぅ……」

加奈子がおっかなびっくり触っていた俺の手を掴んで指を奥へと導く。
俺はあまり中に入りすぎてしまわないように気をつけながら、くちゅくちゅと音を立てて指を動かす。

「……んゃっ、……ひやぁっ、……ああっ、……はぅわぁっ」
「気持ちいいのか?」

コクコクと激しく首を振り肯定する加奈子。
俺はその反応が無性にうれしくて、さらに快感を感じてもらいたくなった。
なけなしの知識から搾り出したさらなる快感を感じてもらう方法。
口で――俺はいわゆるクンニをする事を決断した。
少し、さっき予告なしにフェラをされたことに対する仕返しの意味も込められている。

秘裂を弄る手はそのままに、怖ず怖ずとぬめぬめしている局部に口を近づける。
加奈子は目をぎゅっと閉じて快感に耐えているので俺の舌が自らの秘所に近づいていることにはまだ気づいていないようでる。

――ペロ。

「んひゃっ!?」

感度がすこぶる良い。
フェラの時思ったことなのだが、舌のザラザラが快感を増幅させる刺激になるのではないだろうか。

「おっ、おめっ、おめー、な、ナニ舐めて――!?」
「いや、ほらさ。さっきは加奈子にしてもらったから今度は俺がしてやらないと不公平だろ」
「で、でも、いきなりなんてよぉ……、びっくりすんじゃねーかよ」
「ごめんな。……なら、改めて聞くけど、俺は加奈子のココを舐めたい。舐めても良いか?」
「…………良いケド」

顔を赤くして目をそらしてそうぼそりと言う加奈子。
ああもうっ、本当に可愛いなコイツは!

「じゃあ、舐めるぞ」

気を取り直して、許可を取ってから、光を反射して輝いている淫裂を舌でなぞる。
加奈子の身体は経験したことのない快感に逃げようとするかのように悶えるが、俺は両太股を手で押さえ込み、逃げることを許さない。

「……んぁあっ、……にゃぁっ、……んひやっ、……ひあぁっ!」

俺が舌を這わせ、加奈子が身体を震わせる度に分泌される愛液の量は明らかに増えてきている。
淫臭も次第に濃く立ちこめるようになってきて頭がぼうっとしてきた。

こりゃ、煙草の臭いはバレなくてもこの臭いはお袋には誤魔化せないかもな――

そんなことを考えていると、加奈子の腰が今まで以上にガクガクと震え始めた。

「んゃぁああっ、ひぁあぁぁっ、あぁぁっっ、んにやぁぁっ!」

絶頂に達しようとしているのだろうか。
加奈子は先ほどとは打って変わって陰部を俺の顔に押しつけるような動きをしている。
貪欲に快感を求める動きである。

俺は舌を浅く淫裂の中に差し込んでいく。
温かい、ひだひだの内部の感じが舌に心地いい。

「んゃぁあっっ! ひぁぁああっ! んぁあぁあっっ! んくはあぁぁっ!」

俺は止めだとばかりに淫核があるだろう箇所を指でグリグリと擦ってやる。

効果は絶大。
おそらく今までで一番大きな震えとともに、加奈子は一気に絶頂へと、持って行かれた。

「イくぅっ! イくぅぅっ! イっくううぅぅぅっっっ!!」

ピチャッ、とあふれ出た愛液が俺の顔に降りかかった。



ぐったりとしているものの恍惚とした表情で俺にしなだれかかる加奈子。
実に嬉しそうに俺の胸にほおずりしたり腰に手を回したりして甘えてくる。

俺もそんな様子の加奈子がどうしようもなく愛おしく感じ、頭を優しく撫でてやる。
それに気づいた加奈子は俺の顔を見上げるようにして、笑う。
俺も笑い返してやったさ、もちろん。

俺と加奈子。
一つのカップルのお互いの絆が深まった瞬間だった。

彼氏は彼女の。
彼女は彼氏の。
お互いの顔を見つめ合い、どちらからともなく唇を重ね合った。



――そのとき。

ドンドンドンドンドンドンドンドンッ!! と、俺の扉がノック――じゃねえなあれは、理不尽な暴力を食らって悲鳴を上げた。

「バカ兄貴!! さっきからうっさいんですケド!! AV大音量で見んのやめてくんない!!」

その怒声を耳にした俺と加奈子は同時に青くなった。
説明の必要はないと思うが、桐乃である。

……あれだけ盛大にヤってたらバレちまうよなぁ、そりゃあ!

俺は今更ながら行為中の音漏れの可能性について失念していたことを悔やんだ。
俺が自らの不覚に悶えていると今度は桐乃とは別の声が聞こえてきた。

「……お兄さん…………? …………………………私が桐乃と遊んでいる横の部屋で……い、いかがわしいビデオ見てたんですか?」

その妙に落ち着いた声を耳にした俺と加奈子は同時に震え上がった。
説明の必要はないと思うが、あやせである。

どうやら最悪の状況になってしまったらしい。
桐乃ぐらいだったらどうとでもあしらえるが、あやせは無理である。
今だって扉に遮られているものの、にじみ出る殺気に俺も加奈子もガクブル状態である。
あやせさんマジ怖っえー、とか現実逃避しようと試みるが、直後の桐乃の台詞で即座に現実に引き戻される。

「もうっ、取り敢えず扉開けるからね、いい!?」

駄目です。絶対に駄目です。
ってかナニこれ死亡ルート一直線!? 回避可能なのコレェェエェエ!?
横の加奈子はあやせの声で完全に固まっちまってるし、俺が何とかするしかないらしい。

――ガチャ、とドアを開けようとする音がした。

あの扉が開いた瞬間、それが俺の人生が終わるときである。
桐乃だけなら何とかなるだろうが、あやせもいるのだ。
扉が開いた先には、精液まみれの加奈子と愛液まみれの俺がいる。
見つかれば逃げ道はなく、俺と加奈子はあやせに山に埋められることになるだろう。

あれこれと思案する時間はない。
今にも開こうとしているドアに向かって俺は声を張り上げる。

「待てッッッ!!」

突然叫んだ俺に驚いたのだろう、桐乃の手が止まり扉が開かれるのもひとまず止まった。
だが、まだ安心できる状況ではない。
桐乃は取り敢えず開けるのを中断しただけに過ぎないのだから。

「な、何よいきなり……」
「今その扉を開けたら後悔するぜ!」

土壇場でたった今思いついたこの場をやり過ごす唯一の方法。
本当は取りたくない方法だが、もうこれしかこの場を突破する方法はないッ!!

「……どうしてですか、お兄さん?」

問題はコイツ、あやせである。
自ら嘘を吐かれるのが一番嫌いと公言しているだけはある、嘘には人一倍敏感である。
だから、下手な嘘を付けばすぐに見抜かれて部屋の中に入られてしまうだろう。
ならばどうすればいいか。
――あやせが到底受け付けることができないだろう内容を突きつけてやればいい。

俺は息を一気に吸い込み、社会的に死ぬ覚悟を決める。

「なぜなら俺は今までおまえ等が隣の部屋で遊んでる間、エロ動画見ながらおまえ等で妄想してたからだ! オナニーしてたからだ! 
そして今も、オナニーしてる最中だ! もう少しで射精しそうだから今扉を開けたら精液掛かっちまうかもしれないぞ!!」


時が、止まった。
扉に遮られて見えないが、桐乃とあやせがプルプルと震えているのがわかる。
ふと視線を落とすと加奈子がものすごく驚いた眼差しをこちらに向けている。

……これでよかったんだ。
社会的に死んだが物理的に死ぬことは避けられた。これでよかったんだ。
これでよかった、はず――


「つつ、つ、つまりアンタは、妹が友達と遊んでる間ずっと、その横の部屋でAV見ながら、今も、ヌ、ヌいてたってコト!?」
「そういうことだぜッ!!」

そして次の瞬間――

「あああアンタなんてもう知らない、死ねっ!!」
「最っ低ですっ! 死ねっ、セクハラ野郎!!」

桐乃とあやせは同時にそう叫ぶと、ドスドスと足音をたてて走り去っていった。
……さすがにやりすぎた感が否めないがこうでもしないと進入を阻むことはできなかっただろう。
だから加奈子もいい加減ドン引きの視線をこちらに向けるな。

「お、おめー、まさか本当に――」
「違うからなっ! あくまで説得のために吐いた嘘に決まってんじゃねえか!」
「そうならいいけどヨ……」
「っつかお前も早く帰れよ、またこんなのはごめんだぞ……」
「ちぇー、ひっどくねーその言い方? だってさ……」

加奈子は服を着ながらこちらをちらりと窺う。

「……次いつ逢えるかなんてわかんないんだよ?」
「……確かに、俺もお前も受験生だしさ、あんまり遊びには行けないかもしんねーな」

二人して黙り込んでしまう。
カラスが外でカァカァ鳴いているのが聞こえてきた。
ついさっきまでやかましかった桐乃とあやせも落ち着いたようで物音は全く聞こえてこない。

静寂の中俺たちは見つめ合っていた。

「な、なあ、加奈子。携帯番号とアドレス交換しないか?」

俺はあえて明るくそう告げる。
加奈子はきょとんとした様子である。

「そうすれば会えなくたってメールや電話はいつでもできるだろ?」
「そ……、それもそうだな! へへっ、京介のくせにたまには良いこと思いつくじゃねーかヨ!? ――あれ?」
「ん? どうした?」

偉そうに俺のことをほめていた加奈子だったが突然その動きを止める。
加奈子は青くなって俺の部屋を見回しているが、状況のつかめない俺はどうして良いかわからない。
取り敢えず加奈子と同じように辺りを見回してみるが、加奈子のブーツが部屋の隅っこに転がっている以外に特異な点はない。

加奈子は愕然とした様子でぽつりと告げた。

「ケータイ入ってるカバン――桐乃ん部屋に忘れた……」

聞けば加奈子の家はここから徒歩で行ける距離だが、その鞄の中には家の鍵も入っているとのことだ。
加奈子は帰ったことになってるし、「カバン忘れたぁ~、桐乃ぉ、ごっめ~ん!」と加奈子が戻ってきたことにしても、今の加奈子はいろいろな汁まみれである。
勘のいいあやせがまだいる以上そんなハイリスクなことはさせられない。

……はぁぁ~、どうしようかなぁ。

俺は相も変わらず青くなったままあせあせオロオロとしている加奈子を見て口の中で小さくつぶやいた。


『俺の彼女がこんなにばかなこのわけがない』ってさ――





腕を絡ませてきた彼女――来栖加奈子は俺の顔を見上げて尋ねてきた。

「……待った?」



――結局あの後、加奈子は親の帰宅まで加奈子の住むマンションで待機したらしい。
加奈子曰く「あの親どもバカだからよぉ~」と言うことで、身体に淫臭が染み着いていただろうに、そこには深くつっこまれずにすんだとのことだ。
ただ、次の日桐乃にどうしてすぐ引き返さなかったのか問いただされて、危うくばれるところだったらしいが。



俺は加奈子の問いにどう返答するか一頻り悩んだ後、結局正直に答えることにする。

「ああ、待ったよ」
「な――っ!? お、おめーそこは格好良く『いいや、今来たばかりさ』って言うもんだろぉ~が」
「……加奈子」
「な、なんだヨ」
「お前ちょっと時計見てみろ」

袖をまくって腕時計を確認する加奈子。

「見たけどよぉ……時計がどうかしたか?」
「はぁぁぁああぁぁ~」

俺はここぞとばかりに大きく溜息をつく。

「待ち合わせ時間、何時だったか覚えてるか?」
「……11時、だっけ」
「そうだよな11時だよな。滅多に会えないから早めに待ち合わせて飯を一緒に食ってから遊びに行こうって話だったよな?」
「な、なあー、京介? なんか怒ってる、おめー?」
「今何時だ?」
「…………1時半」
「何時間過ぎてる?」
「2時間……?」
「なんかお前俺に言うことないのか?」

あえて突き放すように言う。
加奈子は逡巡後、消え入りそうな声量でつぶやく。

「ごめんなさい……」

なんかこうしているとまるで親子だなと思わなくもない。
約束の時間に遅れた不出来な娘をしかる父親の気分だ。

けどまあ、加奈子も涙目になってきてるしここらへんで切り上げるか。
俺はうつむいている加奈子の頭にぽんと手をおいてやる。

「……よし、行くぞ」
「許してくれるの……京介?」
「加奈子はもう謝ったしな。それにこれくらいでいちいち腹立ててたら加奈子の彼氏はつとまりそうにないからな。
ただ、携帯だけはいつでも繋がるようにしておけよ……心配になるからな」

目元を拭いながら頷く加奈子。可愛いな。

俺は加奈子に右手を差し出す。
少し時間は遅れてしまったが、仕切り直しである。

「さあ、行こうぜ! せっかくのデートなんだからさ!!」
「――うんっ!」

そのときの加奈子の笑顔は俺が今まで見た中で一番美しい笑顔だった。



『俺の彼女がこんなにばかなこのわけがない』おしまい





おまけ


俺は意気揚々と加奈子の手を引いて歩きだそうとしたが、すぐにその足を止めた。

「どうした、加奈子?」

加奈子がその場から動かなかったためである。

加奈子は俺に掴まれていない方の手を薄い胸に当てて息を整えているようだった。
なんだ? 喘息かなんかの発作か? ――そう思った俺は、加奈子に大丈夫か聞こうとしたところで、体勢を崩し前のめりになる。
ちょうど加奈子に多い被さるような状態である。

別に俺が一人で転びそうになったわけじゃあない。
加奈子と繋いでいる手を思い切り引かれたのである。

「うわ、うわっ――」

なんとか持ちこたえようとするが、出来ず、結局加奈子に引かれるままになってしまう。
どんどん近づく加奈子の顔。

俺が思わず、あぶねえと目をつぶったその瞬間、俺の身体は小さな腕で抱き止められた。
そして唇に感じる柔らかい感触。

驚いて目を開くと、そこには顔を真っ赤にした加奈子の顔があった。

「……ど、どーヨ?」
「…………?」

加奈子が何かこちらに話しかけてきたのだが、余りに突然のことに驚いたせいか息が切れてしまい質問の内容と意図をうまく把握することができない。

すぐに返事を返すことのできない俺にしびれを切らしたのだろう、加奈子は不機嫌そうに口を開いた。

「だーかーらー、加奈子のキスは! 加奈子のキスはどうだったかって聞いてんのっ!」
「えっと…………………………………………加奈子の、味がした」

そこで俺はようやく加奈子のこの行為の意味を悟った。
加奈子は得意げな顔で俺に聞いてくる。

「煙草ん味はしたかヨ?」
「しないな、全く」
「……で、どーヨ」
「よろしい」


加奈子がとびっきりの笑顔で駆けていく。
俺はそれを追いかけながら思ったもんさ。

――俺の加奈子がこんなに可愛いわけがない、ってな。



おわり
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最終更新:2011年01月10日 04:05
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