悪夢はふたたび


「はぁはぁ…」
俺はホームルームが終了すると一目散に教室を飛び出す。そして靴を履き代えると、裏の通用口を使い学校を無事脱出した。それでも不安は拭えず、俺はしばらく走り続けた。
「ふぅ…、ここまで来れば安全だろう」
ようやく歩調を緩める。それでも恐怖心がそうさせるのか、つい後ろを振り返ってしまう。
「あら、京介君じゃない」
慌てて前を見ると目の前に立っていたのはフェイトさんだった。俺は安堵の溜め息をついた。
「脅かさないで下さいよ…、あやせかと思った…」
「あら、あやせちゃんがどうかしたの?」
「いや実は……」
俺はフェイトさんに返答しかけて、ふと気付いた。あれ、あやせとフェイトさんて面識あったか?そんな事を考えていると、フェイトさんが近寄ってきた。そして右手に握っていた物を、俺の首筋に当てるとこう言った。
「ゴメンね京介君」
次の瞬間、俺は目の裏から激しい火花が飛び散るような衝撃を受け意識を失った…………

目覚めは最悪だった。まだ目の裏がチカチカしているようで頭もクラクラしている。
「あら、目が覚めた?」
反射的に声のする方を見ると、頑丈そうなドアの脇に置かれた椅子にフェイトさんが腰掛けていた。
「フェイトさん!?これは一体……」
フェイトさんに詰め寄ろうとした俺は、身体が動かない事に驚いた。改めて確認すると、俺の身体は椅子に座らされた状態で拘束されていた。腕はひじ掛けに、足は椅子の足に、おまけに椅子自体がL字型の金具で床に固定されていた。
「ちょ…何の冗談ですか!早くこれを外して下さい!」
「申し訳ないけど、ある人の頼みでそれはできないの」
ある人?………何故だか急に身体震えてきた。生物としての本能が危険信号を発しているかのようだ。
そしてそれが間違っていなかった事はすぐに証明された。
ガチャリ……ギギギ………
見た目に違わず、目の前のドアが重そうに開き、そこに立っていたのは――
「ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
こんなに絶叫したのは小学生の時、初めてスプラッタ映画を見た時依頼の事だった。身動きが取れないのは先刻承知のはずなのに身体は本能に突き動かされ、この場から逃げようと手足を空しくバタつかせる。
「む、女の子の顔を見て悲鳴を上げるとか失礼ですね、お兄さん」
そう言って新垣あやせは頬を膨らませた。
少し前までの俺なら「膨れっ面でも可愛いな~さすがマイエンジェル♪」等と呑気な事を考えていたであろうが、いまやその存在自体が恐怖の対象でしかなかった。
「あの~あやせちゃん…お取り込みの所悪いんだけど…」
恐る恐るといった様子でフェイトさんがあやせに声を掛ける。あやせはちらりとフェイトさんを見ると「あぁ」と一言呟き、上着のポケットから一通の茶封筒を取り出した。
「お兄さんの捕獲、ご苦労様でした。約束のものです」
茶封筒を受け取るとフェイトさんは中身を確認した。そして
「ありがとうあやせちゃん!これで今月ガスと電気停められずにすむわ♪」
などと吐かしやがった!詳しい金額は分からないが、普通両方合わせても一万もいかない金額で俺売られたの!?激しくショックを受ける俺を余所に茶封筒を上着の内ポケットにしまい、部屋を出ていこうとするフェイトさんにあやせが声を掛ける。
「ああ、念のため言っておきますが……」
「わかっているわ、ここの事は誰にも喋らない。私もここの事は忘れる…でしょう?」
「そういう事です」
「じゃあ私はこれで……、京介君、申し訳ないとは思うけど…私にも生活があるの。ゴメンね」
そう言い残すと、フェイトさんは部屋を出ていった。そして頑丈そうなドアが重たげに閉じ、後には俺とあやせが取り残された。
「ようやく二人っきりになれましたねお兄さん?」
「ひひひ久しぶりだなあやせ」
裏返りそうな声を必死に押さえながら俺は返答する。するとあやせはまた不機嫌な顔つきになった。
「お兄さんがあってくれなかったからじゃないですか。携帯は着拒にするし、学校の前で待っていても裏口や塀を乗り越えて逃げてたじゃないですか!」
そりゃ会ったら何されるか分からないからな。事実今の俺が置かれてる状態が、考えが間違っていなかった事を証明している。
「私あの後、妊娠検査キットを使い自分で調べたんです。結果は……残念ながら陰性でした」
俺にとっては喜ばしい事だ。
「ですから、今度こそ確実に種付けをしてもらいますよ?私が確実に妊娠したら解放してあげます」
「ま、待てあやせ!やはりこういうのはよくないって!好きでもない男女で子供を作るとか…」
「私だって好きでするわけじゃありません。けどお兄さんは無意識にあちこちでフラグ立て過ぎなんです。このままではいずれ母親の違うお兄さんの子供が大量生産されてしまうでしょう」
……………待ってくれ…、脳の処理が追い付かない。腕が自由なら頭を抱えているところだ。
「そうならないために、私が犠牲になり既成事実を作ろうと言ってるんです。ああ念のため私が無事出産したらパイプカットもしますよ」
あまりにも狂った発言に、俺は本能的に内股になりリヴァイアサンを少しでもあやせから遠ざけようとした。
「さぁ、おしゃべりはこれくらいにしてそろそろ……」
そう言ってあやせが近づいてくる。それにつれ、俺の身体はガタガタと震え出す。
「お兄さん、そんなに震えて寒いんですか?でも大丈夫、すぐに暖かくしてあげますからね…ウフフフフ…」
制服の上着を脱ぎながら、さらにあやせが近寄ってくる。俺は「あぅ…あ……あ…」等と意味を成さない呻き声を上げ震えるしかなかった。その時
バーン!…ズズーンッ
あの頑丈なドアが内向き倒され、二つの人影が飛び込んできた。それは大門軍団……ではなく桐乃と黒猫だった。
「そこまでよあやせ!」「この悪魔!先輩を離しなさい!」
「くっ!何故ここが!?」
「フェイトさんから聞いたのよ!」「溜まっている水道代とケータイ料金を肩代わりすると言ったらすぐに教えてくれたわ」
「く…こんな事なら謝礼にもう少し色を付けておくべきでした…」
フェイトさん……あんたどれだけ困窮してんだよ……。まさか家賃も滞納してんじゃ?
そんな事を考えていると、いつの間にか既視感のあるキャットファイトが目前で展開されていた。あれ?…って事はそろそろ…。そう考えた時、案の定腕のロープが緩められた。
「来てくれたのかブリジット!」
「あたしで悪かったな…」
「か、加奈子!?」
意外にも、そこにいたのは不機嫌そうな顔をした加奈子だった。
「どうしてお前が…?」
「加奈子もオメーを助けに出張るのは面倒だったんだけどよ…ブリジットにどうしてもって頼まれたから仕方なく来たんだよ」

※※※※※※※※※※※※※※※
ブリジットの部屋
ぐるぐる巻きにされ口には粘着テープを貼られたブリジットが転がってる
「むぐむぐぅ~、もが~!(かなかなちゃんのバカ~!)」
※※※※※※※※※※※※※※※

「ほれ、とっととズラかろうぜ」
「あ、ああ…助かったぜ」
「礼はキッチリしてもらうからな」
「おう、ケーキでも飯でもなんでも奢ってやる」
「そんなもんより、もっといいもんご馳走してもらうぜ?」
何故だろう。今すごく危険な気配を感じた…。いや気のせいだな。
だから加奈子がペロりと唇を舐めながら、俺の股間にねっとりとした視線を這わせたのも気のせいに違いない…
そう自分を信じ込ませると、俺は加奈子とこの悪夢のような部屋から脱出した

終り





+ タグ編集
  • タグ:
  • 高坂 桐乃
  • 五更 瑠璃
  • 新垣 あやせ
  • ブリジット・エヴァンス
  • 来栖 加奈子

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

最終更新:2011年01月14日 02:24
ツールボックス

下から選んでください:

新しいページを作成する
ヘルプ / FAQ もご覧ください。