とある黒猫の異常行動


平和だ。

ちょっと前に両親以外の誰にも告げず、スポーツ留学してた俺の妹。
あいつをアメリカから連れ戻してからというもの、何かと騒がしい日が続いた。
サラブレット娘がホームステイしたり、桐乃との偽装デートを後輩に目撃されたり。
でもまぁ、今は落ち着いている。ごく平凡な日常。

……いや、"後輩"については少々問題がある。
俺のベッドに寝転んでいる事だ。

「……なぁ、何で毎回俺のベッドを占領してるんだ?」
「あら、今更何を言っているの?兄さん」

この調子だよ。また兄さんとか言いやがって……。ゲー研での活動の一環で
制作していたゲームを作る時、この後輩は俺のベッドに寝転んで作業していたんだが
どうもその習性が抜けないらしい。つーより、やめる気無いんだろうなぁ……。

「……仮にも男の部屋で――」
「少し黙っていて頂戴。集中出来ないわ。」

こいつは黒猫、本名は五更瑠璃。今年の春に同じ高校へ入学してきた桐乃の理解者であり共通の友人だ。
コンテストの時には制作しているゲームのデバック作業を任されていたが
コンテストも終了し、こいつは今改良を加えるのにご執心。つーか、なんで俺の家でやるんだ?
まぁこの様子なら俺は安心して勉強出来る。出来るんだが…………どうも気乗りしない。

「ったく――茶菓子でも用意してくるよ」
「………………」

シカトっすかぁ?!全国の先輩諸君、こんな後輩どう思う?……そうだよなぁ?もっとこう敬意というものを……
仕方ねぇ、さっさと用意してくるか。

キッチンへ向かっていたらリビングでくつろぐお袋を見つけた。
今日は保護者会の筈なんだが、まぁそうだよなぁ。高坂家の長男の扱いはこんなもんだ。

「あれ?今日保護者会じゃなかったっけ?」
「さっき帰ってきたのよ。それよりも玄関の靴!またあの子?」

あの子、というのは……当然黒猫だ。自室に女の子を連れ込んでいる息子の事が気になって仕方ないらしい、この母親という生き物は。
てか、さらっと「さっき帰ってきた」なんて言うけど、保護者会ってそんな短時間じゃ終わらないよね?

「そうだよ。何度も言うがやましい関係じゃないぞ」
「ま、あんたには勿体無いくらいの子よね!」
「あのなぁ……」
「で?どこまで行ってんのよ?」
「だから違うっての!」
「まったく、麻奈実ちゃんはどうしたの?この際だからハッキリ言うけど―――」

そんな調子でついつい話が長くなっちまった。黒猫が機嫌を損ねてなきゃいいが。
本来の目的であった飲み物(緑茶)と桜餅をお盆に載せ……あれ?これどこかで……いかんいかん。
階段を上り、自室のドアを開く。

ばふっ

……何やってんだ?

見れば黒猫が寝転んでいたはずのベッドには毛布が掛かっており、丁度黒猫一人分のふくらみが確認できる。
中身は、言うまでも無い。たぶん俺が部屋に入ったのと同時に毛布へ潜ったってとこだろ。

「おい、寝転ぶだけならまだしも本格的に寝ようとすんなよ」
……。返事がない、ただの黒猫のようだ。

「なぁ、起きろよー。桜餅、好きだろ?」

そう言ってベッドに近付「こ、ここないで!!」

……はい?
なんだか良く分からんが、こないでとか言われちゃったよ…。
俺は盆を机に置いて毛布を剥ぎ取ってやろうとベッドへ近付く。

「来ないで!じゃねぇよ、なんで本格的に寝ようとしてんだ」

俺がさらに近付くと、なにやらもぞもぞし始めやがった。何してんだ?一体。
まさかPCで見られたくないモノ――エロサイトでも見ていた、なんて事じゃないよな。……なんだ?今総ツッコミ受けた気が……。
まぁ何だっていい、躊躇無く俺は毛布を剥ぎ取った――――事を凄まじく後悔している。

「ぬぁッ!?」
「やっ……!!!」

両者が別の理由で声を上げていた。何故なら…

「おま?!え、ええええぇぇぇええ?!」
「かかかえ、返しなさい!」

黒猫が俺の手から毛布を引ったくり、再び包まってしまう。
今見たぞ、絶対見た!こいつ、制服が乱れていたというか――――

「み、見たわね?」

顔を赤くして涙目になっている黒猫が、頭だけ毛布から出して訊いてくる。
ああ、見たさ。見たとも。間違いなく服が乱れていた上にブラがズレてショーツまでズレてたな。
諸君に問おう。これなんてエロゲ?

「おま、お前、一体何を?!」
「見たのね……!!」
「い、いや、悪かっ――」
「煩い……!」

ヤバイぜこれは……実にヤバイ、ちょーヤバイ。いよいよHイベント突入か?
じゃねぇッ!?何考えてんだ俺は!今はそんな事を考えている場合じゃない!
下にはお袋がいるんだ!今騒がれたら、今回ばかりはマジで親父にしょっぴかれる…。

「と、とりあえず服を――」
「煩いわね……!そうよ、悪いのは私よ……!」
「いや!いいから服!」
「そうよ………先輩のベッドの匂いに欲情してしまったのが悪いと言いたいんでしょ……!」
「欲ッ!?」
「先輩が遅いからといって自慰行為に及んでいたのが悪いんでしょ……!」

ちょっとまてオイ!自慰行為?!何言っちゃってんのこの子?!もうやだ!!
つーかパニック起こして何喋ってるか自分で理解してねぇなお前!?
大体人のベッドでなんて事を―――ん?

「ちょ、ちょと待て。お前匂いにって……?」
「え…………あっ?!」

どうやら自分が何を言ったのか理解してくれたらしいな。
赤かった顔がさらに赤みを増してきてる。そろそろCGにモザ……落ち着け俺!
事件はディスプレイで起きてるんじゃない!現実(リアル)で起きてるんだ!

「そそんな事……大体!遅すぎるのよ!何処で道草を食っていたのかしら?」
「あー、そ、その……下におりたらお袋が居てよ。お前のことで話し込んでたんだ」
「わ、わわたしの、ことっ?」

まずい、また黒猫が混乱し始めた。そこへ

「京介ー、これから買い物行くけど何か食べたいものあるー?」

ああああああああ!!!なんつータイミ「あら?何してるの?」

「お、お邪魔してます」

振り返ってみれば毛布に包まった黒猫がお袋に挨拶を―――大変だ。
お袋は何やら思案し、ニコッと笑って「ほどほどにしなさいね」
そう告げて出て行った。今夜は嵐かもなぁ。――今度こそ俺、殴られるだけじゃ済まないだろうなぁ。

よし、ハラは決まった……。徹底的に問い詰めてやろうじゃないか、この――かわいい後輩を。

「さて、お前が勝手に喋った事を整理していこうか」
「だ、駄目!駄目に決まってるじゃない!」
「駄目じゃねぇ」
「くっ……!」

衝撃のあまり意識から外れていた事が次々浮かんでくる。
よく見えはしなかったものの、ずれたブラの隙間からのぞく控えめな胸や、桜色の―――
ああいかん落ち着け耐えるんだ俺のリヴァイアサン……!
そんな俺の様子を察してか、黒猫がお決まりのセリフを口に――いや、させてたまるか。

「…そんなに確かめたいのね、いやらしい「のはお前だろ」

してやったり。我ながら完璧なタイミングだったぜ!
でも間は悪かったかもなぁ。頭まで潜っちまったよ…どうしたもんか。

「怒ってる……?」

搾り出すような声で黒猫が言う。ねぇなにこれ、ねぇマジでエロゲなのこれ?
とにかく、まずは話せる状態にするのが先決だ。

「怒ってない。怒ってないから頭だけ出せよ、息が詰まるだろ?」
「本当に……?」
「あぁ、本当だ。だからとりあえずそこから出て来いって。」
「うん……」

あれ?結構簡単だったな。黒猫は今にも泣きそうな顔で毛布から出て――くんなよおい!

「ちょ!顔だけ出てれば良いから!」
「?……なっ?!」
「とりあえず服をちゃんと着よう!俺出てくから!」
「もういいわよ!」

え!?俺今ひょっとしてキレられた?

「もういいから……そこにいて?」
「お、おう……?」

妙に優しい声だ。再び頭だけ出した状態で、黒猫が口を開く。

「…………ごめんなさい」
「いや謝るのは俺だよ。まさかお前が、その……」
「……グスッ…」
「――あのさ、さっきのは全部忘れる。俺は何も見なかったし、聞かなかった。それで勘弁してくれよ、な?」
「そんなの……!」

言いかけて口をつぐんでしまう。
にしても我ながらなんつー説得の仕方だよ。情けねぇ。
娘の入浴シーンを目撃しちゃった父親か俺は。

「そんな……そんなのイヤよ……」
「分かってるけどそれでも――」
「分かってないわ!」

なら一体なんだってんだ?訳が分からん…。

「ねぇ、先輩……。私が貴方のベッドで……その、オ、オ、ナニーしてたら嫌?」
「嫌っつぅかビックリするわ!しかもそれ今聞くんだ!?」
「や、やっぱり嫌なの?」
「………その、なん…だ…嫌だとは思わなかった」
「…嘘吐き」
「いやマジだって!」
「だったら!だったら何であんな反応を……?」
「そりゃあ……毛布引っぺがしたらお前の服が………脱げてたからビックリしたんだよ」
「そう……そうだったのね……」

他になんだと思ってたんだよこいつは……。なんか聞くのも恐ろしいから聞かないでおくか。うん、そうしよう。
しかし整理すると言っておきながら全然出来ちゃいないな。いや、察してくれよ。わかるだろ?

「ねぇ、先輩」
「っ!?お、おぉ、なんだ?」

やっべ、今すげぇ動揺しちゃったじゃねぇか。

「責任を、取ってくれるかしら?」

責任?ああ、なんだ責任ね。責任……………え゙っ

「見たでしょう?私の……む、胸とか…!」
「……はい、見ました」
「そう、見たのよね………し、下もっ…」
「ホ、ホントごめん」
「謝らないで頂戴………み、見ようとして見た訳ではないのだから」
「いやでも――」
「見た責任は、取ってもらうわ」

ああ、つまりアレか。自分のあられもない姿を見た責任を取れと。しかし―

「責任ったって………どうやって?」
「……そ、そんな事、自分で考えたらどうかしら?」

まったくこいつは―――桐乃もだが、どうも女というのは自分のしてほしい事を
自分からは言わない傾向がある。まぁこいつの場合、答えは結構簡単かもしれない。
……俺だってなぁ、いつまでもニブいまんまってワケにゃいかねぇんだよ。

なんたって、チューされちゃったしな!

「黒猫」
「……っ…」

黒猫の表情が一気に強張る。万一違ってたらどうするか…
ああ、もう構うもんか。言うぞ、言ってやるぜ!

「俺の、彼女になってくれ」


つづけ。




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最終更新:2011年01月21日 07:48
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