血のバレンタイン


「コレ、あげる」

我が妹・桐乃様からチョコを受け取った。
今日はバレンタインデーだしな。この義理丸出しなチョコであっても
もらえるってのは嬉しい‥‥‥

などと思っているだろ? 冗談じゃねえ! 今はそれどころじゃないんだ。

「あ、ありがとな‥‥‥」
「なにそのリアクション? もうちょっと有り難がりなさいよ」
「あ、ああそうだな。すごく嬉しい‥‥‥」
「どうしたの? 何で棒読み臭いの?」

くっ、鋭い。
女って男の怪し気な態度を敏感に感じ取れるようにプログラムされているのか。

「そ、そんなことないだろ? 俺の心の中は晴れた青空のように、」

げしッ―――
はい、チョコの次に蹴り入りました。

「誤魔化さないで。何かおかしいんだよね」

桐乃は俺の全身を上から下まで舐め回すようにガン見する。

「コレ、なに?」

桐乃が俺の肩口をさらった指先には長い髪の毛が。

「お、オマエの髪じゃね?」
「色が違う! 黒髪じゃん! 女とイチャついていたワケ?」
「そんなことないぞ! 家の中でそんな‥‥‥ハッ!」
「ふーん、女を家に連れ込んでいるんだ」

ヤバイ。本格的にヤバい。爆発すんぞコレ。
そう思った途端、桐乃は踵を返し、俺を引きずりながら階段を上って行った。



「ちょ、何すんだよ!」
「いいから黙ってて」

桐乃の目はマジだ。人が人を殺すときもこんな目になるんじゃないかってヤバさ。
俺は自分の部屋に引きずり込まれてベットの上に座らさせられた。
一体どうする気だよ? っと、ナニするんだ桐乃? 俺の横に座り込んで。
と思った瞬間、

「いやあああぁぁ―――、やめて――――!!!」

桐乃が叫び声を上げた。ちょ、一体どうしたんだ? 止めろバカ!
俺は無意識に桐乃の口に手を当てるが、

「誰か来て―――、助けて―――!!!」

俺、強姦魔状態!? 何を考えてんだコイツ!!

「おにいちゃんのエッチ!!!」

雷撃文庫なら1ページを、下手すりゃ見開きでページを占有するサイズの
フォントで書かれそうな台詞を桐乃は吐きやがった。
こんな台詞を吐かれたら当然―――

「きょうちゃん、どうしちゃったの!?」
「あなた、妹になんて破廉恥なことを!?」
「京介氏、新しいプレイをきりりん氏で試しているのでござるか!?」

麻奈実、黒猫、沙織の三人が部屋になだれ込んできた。
三人を見た桐乃がワナワナ震えている。

「ア、アンタ、三人も家に連れ込んで‥‥‥。まさかあやせも!?」

俺は頷くしか無かった。

「ドコにいんのよ?」

俺は自分の足下を指差すと桐乃はその方向を見て、顔を強ばらせた。
なぜなら俺のベッドの下からは二本の手が伸び、俺の両足首をガッチリ
掴んでいたからだ。そして、

「ブチ殺しますよ!?」

‥‥‥‥‥‥‥‥‥


「いやあ、我々は皆、京介氏に感謝の意を込めてチョコを持参したのですが、
 たまたまかち合ってしまったのでござる。決して連れ込まれたのではござらん」
「桐乃ちゃん、わたしもきょうちゃんにチョコを持ってきただけだよ」
「察して頂戴。貴女が想像するような破廉恥なことは無くてよ」
「いやだ、桐乃ったら。お世話になったお兄さんにチョコを持ってきただけよ」

四人とも全員本当のことを言ってくれて助かったよ。
ここで変な悪戯心を起こされたら、流血もんだぞ。

「でもみんなドコに居たのよ?」
「同じ男性にチョコを渡そうとする女性同士が顔を合わせるってのは
 気まずいものではござりませんか?」
「だからみんな隠れていたってワケ?」
「そうでござる」
「何であやせはベッドの下「あまり気にしないで」」

あやせは桐乃の言葉を遮った。でも、俺だってそこは気にするぞ。

「ふーん。みんな、こそこそチョコなんか持ってきちゃって‥‥‥」
「オイ桐乃。そんな言い方はないだろ。皆友達じゃないか」
「アタシの友達なら隠れる必要なんて無いんじゃないの?」
「友達だろ。オマエの悲鳴を聞いて皆、駆けつけてくれたじゃないか!
 コレが友達でなければ何なんだよ!?」

なあ皆、と四人に目を向けると、

「桐乃ちゃん可愛いから、ひょっとしたらきょうちゃん‥‥‥と思ったけど」
「シスコンの先輩なら十分にあり得ると思って駆けつけたまでよ」
「京介氏がきりりん氏にどのようなプレイを強要したのか興味がありまして」
「桐乃を救うために、わたしはそれ相応の準備をしていました」

ひどくね? 俺、どんだけ鬼畜扱いされてんの?

「皆が心配してくれていたのはわかった。ありがと‥‥‥」

俺、フルボッコ状態じゃねえか。ひどすぎんぞ。

「ところで、アレは誰からのチョコ?」

桐乃が指差した机の上のチョコに全員の視線が集まった。

「わたしのじゃないよ」
「私のでもないわ」
「拙者のでもござらん」
「桐乃のじゃなかったの?」

当然、全員の視線は俺に集まった。

「あ、アレは‥‥‥」



口ごもったのがいけなかったのか。桐乃が途端に不機嫌になった。

「言えないんだ‥‥‥。言えないような女からもらったんだ」
「待てよ桐乃」
「うっさい!」

ドゴッ―――

桐乃は俺の顔面に頭突きを喰らわすと部屋から飛び出して行った。
は、鼻血が‥‥‥。いってえええよ。

「きょうちゃん、大丈夫う?」
「あなたの口下手なところが致命的だったわね」
「京介氏、きりりん氏も悪気は無かったと思うでござるよ」
「お兄さん、桐乃を悪く思わないでください」

ああ、みんなに心配かけて悪かったな。実はあのチョコは―――

‥‥‥‥‥‥‥‥‥

四人を玄関から送り出した後、リビングに入ると桐乃がソファーに座っていた。

「なんだ居たのかよ。外に出てったのかと思ったぞ」
「‥‥‥ごめんね。さっきは。アタシ、ワケわかんなくなっちゃって」
「かなり痛かったぞ。あ‥‥‥、言い訳させてもらうとさ、」
「もう解ったから」

桐乃はバツの悪そうな顔で話し始めた。

「部屋を飛び出した後、階段の下でお父さんとぶつかったのよね。
 そしたらお父さんがあんたの机の上にあったのと同じ包み紙のチョコを
 落としたのよ。そうなったら、あのチョコを誰があんたにあげたのかなんて
 一発じゃん? それなのにアタシ、あんなことして‥‥‥。
 どうして言ってくれなかったの?」
「みんなの前で『お袋からもらった』なんて言えるか?」
「バカじゃん? 見栄張っちゃって」
「男は見栄を張るもんなんだよ。特にバレンタインチョコのときはな」
「家族から‥‥‥アタシからチョコをもらったってことも言えない‥‥‥の?」
「そんなこと心配してんのかよ? オマエは別だよ。自慢したいくらいだ」

桐乃の顔が見る見る赤く染まるのが見えた。
コイツの赤い顔を見るのは何回目だろう。だけど今日の桐乃は‥‥‥可愛い。



「桐乃―――」
「―――ッ!」

俺は桐乃をソファーに押し倒す姿勢から、桐乃の上に覆い被さる体勢を取った。
その瞬間、

「きょ、きょうちゃん、ダメよそれは!!」
「あなたたち、信じられない変態兄妹ね!!」
「お二人とも、許されざる愛には苦難がつきものですぞ!!」
「二人ともブチ殺されたいんですか!!」

帰ったはずの四人がリビングになだれ込んできた。

「へへーん、引っ掛かった―――♪」

俺と桐乃は二人並んで、飛び込んできた四人に向かってソファーの陰から
悪戯っぽい顔で笑ってやった。

「もう、きょうちゃんたらひどーい!!」
「とんでもないバカップルね」
「いやはや、すっかり騙されましたな」
「今日の桐乃、なんだか違う グスッ」


今度こそ四人を送り出し、俺と桐乃はリビングに戻った。

「ゴメンね、兄貴。アタシのせいで何か変なことになっちゃって」
「別にいいさ。気にすんな」
「でも、それじゃアタシの気が済まないから。何がして欲しいこと無い?」

本当かよ? じゃあ、アレしかないだろ!

「じゃあ、ひとつだけ頼みがある」
「なに? 何でも言って!」
「もう一度言ってくれないか?」
「‥‥‥何でも言って」
「それじゃなくて、アレ‥‥‥」
「アレ‥‥‥?」
「『おにいちゃんのエッチ!!!』って台詞をもう一度‥‥‥」

ぱぁ―――――――ん

桐乃はビンタを喰らわすとリビングを飛び出して行った。


『血のバレンタイン』 【了】





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最終更新:2011年02月16日 01:25
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