大空の彼方へ


それほど遅い時間ではないけれど、天気のせいだろうか。
黒々と空を覆い隠す雲のせいで、あたりは薄暗く、重苦しい空気に包まれていた。

しかし、外界の闇など大したことはないのだ。内なる闇に比べれば。
闇の眷属たる私は、今やまさに、自分の内より湧き出る闇と同化しようとしていた。

「誰なの、あの女………」

年齢は…そうね、私の親友であるあの女と同じくらいかしら。
黒く綺麗な髪。清楚な服装。整った顔。そして―――
何より、その女の発する華やかな空気。
女の私でもつい見とれるほどのオーラが、体中からにじみ出ていた。

「くっ………」

公園の片隅で、物陰に身を隠しながら、私は見慣れない女と、見慣れた男を見つめる。
男の名は高坂京介。つい今さっきまで、私が運命の伴侶だと思い込んでいた雄。
それが、私の知らないところで、私の知らない女と会っているですって?

「……忌々しい……」

悔しくて、悔しくて、涙が出てくる。

確かに、ここ一週間ほど、彼の様子はおかしかった。
一緒に帰ろうと言っても断られるし、キスもセックスもしていない。
それどころか、抱きしめてすらくれないのだ。

嫌いになったのなら言ってほしいといっても、彼は首を横に振るだけで。
それで、どうしても腑に落ちなかった私は彼の後を追ったのであった。

今となっては、後悔している。
何も知らなければ、こんなに傷つくこともなかった。
彼に、他に女がいただなんて。

「………っ、………っ」

声を押し殺してはいるが、涙は止まってはくれなかった。

しかし―――

ただただ絶望に打ちひしがれる私の耳に、
私の大好きなあの声で、信じられない言葉が飛び込んできた。

「私は変態ですっ!私は変態ですっ!私は変態ですっ!私は―――」

―――んなっ!

私は言葉を失う。
耳を疑うが、どうやっても他の解釈はできそうにない。
私の恋人であったその男は、何度も繰り返し『変態宣言』を繰り返していた。

「私は変態ですっ!私は変態ですっ!……おおおおおおお」

私は唖然として彼の変貌ぶり、いや、変態ぶりを見つめる。
と、彼は突然ズボンを膝まで下ろした。

「見ろよ、あやせっ!! ほら、ホントにちんこ小さくなった!!!」
「こ……この、へ、変態!!死んでください!!!!」

彼女はすばやく回転し、見事な回し蹴りを彼に食らわしていた。
と…当然の報い過ぎて………何も言えないわ。

あやせ、と呼ばれていたその女は、颯爽とその場を立ち去っていった。


◇ ◇ ◇

「さて、説明してもらおうかしら」

私が冷たく言い放つと、彼は正座したままでちらっとこちらを見上げた。
今私は、通いなれた彼の部屋で、彼を追及しているところだ。

「この一週間。私のことを避けていたのは―――」

返答次第では、私の心はもう立ち直れないだろう。
覚悟を決め、私は問いかける。

「あの女のせい?」
「ああ……そうだ」

あっさり浮気を認めるその男の言葉に、私は問いたださずにはいられない。

「どこが…私のどこがいけなかったの?」

涙が溢れ、語尾が震える。

「あの女のどこがそんなにいいの?」
「お、おい、なんか誤解してるぞお前………」

……え?

「あのさ、これ、浮気とかじゃないんだよ。
 だいたい、俺がお前のこと好きなの、知ってんだろ」

「え?何を―――」

私は混乱し、彼の言葉を理解することができない。

「………まーなんだ、これを見てくれ。あやせからのメールだ」


私は彼から携帯を受け取ると、そのメールに目を通した。


『大嘘つきのお兄さんへ

私、言いましたよね。
桐乃に手を出したらぶち殺しますって。

かといって、山に埋めるのもいろいろ手間なので
父が懇意にしている秘密結社の科学者さんに頼んで
サプライズプレゼントを用意しました。

ふふふ、楽しみにしていてくださいね。』


………。

あの清楚な見た目からは想像できないが。
しかし、このメールからは、明らかに黒々とした怨念が伝わってくる。


「あ、あなた、大丈夫なの?」

「………」

「ま、まさか」

「……もう、手遅れだ」

「………え?」

「俺は……俺は……」

私の混乱は解けたけれど、やはり彼の言葉は理解不能だった。

「俺は、改造されちまったんだ!!!!」

◇ ◇ ◇

ついさっきまで絶望と困惑の淵に立っていた私は今、
まったく別の困惑と戦っていた。

「俺の、左の乳首を触ってくれ」
「………気が狂ったの?」
「いいから早く」

ヴゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ……

私が彼の左の乳首に触れた瞬間、どこからか振動音が聞こえてくる。

「あなたの携帯、鳴っているようよ」
「いや、携帯じゃないんだ」
「???」

そう言うと、彼は私の手を、彼の股間に導く。

「―――っ!?」

振動しているのは、彼のペニスだった。
私はあんぐりと口を開け、彼を見つめる。

「ちなみに右の乳首に触ると止まる」

彼は自分で自分の右胸を押さえた。
ほどなくして、振動音は聞こえなくなる。

「ま、まさか“改造”ってこれなの?」
「こんなもん、まだ序の口だ」

私は信じられない思いで彼の顔を見つめていた。


◇ ◇ ◇

「つまり、まとめるとこういうことね」

私は彼から聞いた話を箇条書きにしてまとめる。

  • 左の乳首を触るとペニスの振動が強くなる
  • 右の乳首を触るとペニスの振動が弱くなる
  • 唇を刺激するとペニスが大きくなる
  • 「私は変態です」と言うとペニスが小さくなる
  • 興奮するとペニスがグルングルン回る
  • 汗がすごいヌルヌルする

「これですべて?」
「いや…まだ何か隠された機能があるみたいなんだ」
「そう…」

彼の話は一つとして理解できないのだけれど、
振動するペニスに直に触れてしまっては信じる他ない。

「はじめは何がなんだか分からなかったんだがな。
 自分の体を触りながら、あ、こう連動してるのかと」

なんというか、もはや理解できるできないの問題ではない。

「本当にひどいぜ、これ!
 事前に何も教えてくれないんだぞ?何もだ。
 初日なんて、自分でも自分に起きてることが信じられなくて、
 風呂であったまると体はヌルヌルするし、
 オナニーしてたら突然ちんこがグルングルン回り始めたんだよ!」

その光景を想像するだけで………だめ、私の腹筋は崩壊寸前よ!!!

「大体、ペニスを小さくする方法だってついさっき聞いたんだよ」

な、なるほど、あの変態宣言はそういうことだったわけね。

「それまでは大きくなる一方でさ。正直死ぬかと思ったぜ。
 食事はおろか、喋るだけで唇が刺激されるんだ。
 それでどんどん大きくなるのに、小さくする方法がわからねぇときた。
 知らないだろう、『パ行』がどんなに恐ろしいかっ!
 Pで始まる単語を英語の時間に読まなきゃいけねぇ恐怖がっ!
 『パ行』考えた奴マジ死ねよーーーっ!」

だ、誰よあなた。
まったく、キャラ崩壊にもほどがあるわ。

熱く語るそばから、彼のペニスはどんどん大きくなる。

「私は変態ですっ!私は変態ですっ!私は変態ですっ!」
「知ってるわよ」

彼はいったい、どこに行ってしまうのだろうか。

◇ ◇ ◇

「瑠璃、こんな俺と、セックスしてくれるのか?」
「いいから………私だって我慢していたのよ。この一週間」
「俺も…地獄だったぜ」

ダ、ダメ。
ちんこグルングルンの件を想像するだけで、腹筋が痛い!!!

「そ、そう、それは大変だっ……ぶふぅっ!」
「わ、笑うんじゃねぇ!」

あーっ、やっぱり我慢できない!!!
私は涙を流してのたうち回りながら、ひとしきり笑い転げた。

「ひでぇ、こっちは必死だってのに」
「さて、じゃあ始めましょうか」
「しれっと流しやがった!?」

気を取り直し、私はスルッと衣服を脱ぎ捨てる。
彼も、慎重にボタンを外し、一糸まとわぬ姿になった。

「ちょっと見たところでは、改造されているようには見えないけれど」
「あぁ、俺もはじめは冗談かとおもったもんだが」

私は彼の首に手を回し、顔を近づけてささやく。

「まったく……一週間もキスができないなんで、死んでしまうかと思ったわ」
「あぁ……俺もだ」

そう告げると、私達は久しぶりの口付けを交わす。
あまりキスをしすぎると彼のモノが大きくなってしまうのは分かるのだが、
私たちはお互いの想いを止めることが出来なくなっていた。

「んっ…ちゅっ………はぁ、ちゅ……んっ」

夢中になって、彼の唇を貪る。
彼も負けじと、私の口内に舌をねじ込んでくる。

「ちゅる…はぁ……レロ…ちゅっ………はぁ、はぁ」

ふと下を見ると、彼のモノは今までに見たことのない大きさになっていた。
さすがにここまで来ると、このまま私の中に入るとは思えない。

彼は私に気を使ってか、小さな声でボソボソと呟き、自分のモノを静めている。
だんだんと、私の中に挿入するのに適切な大きさに変化していった。

何しろ、一週間も性行為をしていなかったのだ。
それまでは毎日のように体を求め合っていたというのに、それが突然絶たれてはたまらない。
前戯など全くしていないというのに、私の下半身は彼を求め、既に濡れそぼっていた。

「…も、もう入れてもいいわよ、京介」
「あぁ、俺も今すぐに入れたい」

ズズズ…あぁ、彼のモノが入ってくる、久々の感覚。
私はその快感に酔いしれた。

「瑠璃…はぁ、あ、気持ちいいぞ………」
「んっ、京介……あぁん、あぁ、あっ……」

パンッ パンッ

彼はいつもよりずっと激しく、私に打ち付けるように腰を振る。

「京介っ…あっ…ああっ…あっ…激しっ…あっ」

私は彼の胸にしがみつき、彼の左の乳首を舐める。

ヴゥゥゥゥゥゥゥ………

彼のモノが突然振動し始める。

「ぅあぁんっ…あぁ」

今まで経験したことのないその感覚に、私は戸惑う。
でも、こういう刺激も悪くないかもしれない。

私はさらなる快感をもとめ、彼の乳首を舐め続ける。

ヴィィィィィィィィ―――――

「あぁぁぁぁん、あぁ、うっ…あっ…」

そうしている間にも、彼は激しく腰を打ちつけて来る。
私は彼の唇を奪った。

「ちゅ…あぁん……ちゅるっ…はぁん、あぁ」

私の中で、彼のものはどんどん大きくなっていく。
私は、耐えられるであろうギリギリの大きさになるまでキスを続けた。

「お、大きい…あぁん、大きいわ……京介っ……」

そしてまた、彼の乳首を刺激する。


ヴイイイイイイイイイイイイイ―――――

「あぁぁぁぁん、ふわぁっ…あぁっ……」

「瑠璃…瑠璃っ…はぁ…はぁ…はぁ…」

彼の息がどんどん荒くなっていく。
そして、彼の背中から、腕から…全身から。
ねっとりとした汗が流れ出ていた。

彼は、私と体を密着させる。

「――――っ!?」

ヌルっとした感覚に、私はまた戸惑う。

これ以上ないほど大きくなった彼のものが振動しながら出し入れされ、
私たちの体はヌルヌルした液体に包まれていた。

これをセックスと呼んでよいのかも分からない。
こんな乱れた体位に、呼び方なんてあるのだろうか。

今、彼と私は完全に、お互いの体を求め快楽を貪る獣と化していた。
そして―――


グルングルングルン……

「はぅぅんっ!!!」

彼のものは回り始め、快楽の肉壺と化した私の膣をかき回す。
私はもう、自分が一体何をやっているのかが理解できない。

グルングルングルングルン……

回転する速度は加速度的に上昇していく。

「はぁぁぁ、京介、京介ぇっ!……ふぁぁんっ」
「瑠璃っ…はぁ、あぁ…る、瑠璃」

お互いの名前を呼びながらどんどん高まっていく私たち。
と、突然、彼のスピードが格段に早くなった。

バンッバンッバンッバンッ

彼は激しく私に腰を打ちつける。

彼の火照った体は、今や隅々まで真っ赤になっていた。
そして、私の見立てでは、かれの腰を振る速度はおよそ3倍になっていた。

はっ!?

「…あ、赤くなると、3倍ですって?」

間違いない、これは例の改造による効果だ。


私が一人で納得していると、部屋の扉が突然開いた。

「な…なにをしているんですかお兄さん!」

そこにはあの女、あやせが立っていた。

「今すぐそのいやらしい行為をやめなさいっ!」

しかし、ここまで高ぶってしまった私達を止めることなどできない。
彼は腰を振り続けながら答えていた。

「あ、あやせ、今は無理だ…はぁ、はぁ…もう止まらねぇ」
「京介…はぁ、あぁだめ…もうイキそう……」
「瑠璃、俺もだ……そろそろ……」

高まる私達とは裏腹に、その女は焦ったように説得する。

「だ、だめなんです!お兄さんが射精すると―――」

「あぁ、京介っ!京介っ!」
「瑠璃、瑠璃―――っ!」

「お兄さんのペニスはロケットに改造してあるんですっ!!!!!」


ゴゴゴゴゴ………ゴォー!!!!!!!!

彼のペニスと共に、私は発射された。

「京介、いくーーーーーっ!!!!!」
「ど、どこにーーーーーっ!!???」

私は彼の部屋の窓を突き破り、大空の彼方へと飛んでいった。



◇ ◇ ◇

「んはっ!?」

変な汗をかきながら、私は目を覚ました。

「な…なんて夢だったんだろう………」

私はベッドの隣で眠る、彼の寝顔を確認する。
彼の体にも、別段おかしいところはないようだ。

「こんな夢を見るなんて、疲れているのかしらね」

私は彼の左肩の上に頭を乗せ、
彼の左胸の上に手を置いた。


ヴゥゥゥゥゥゥ……………

静かなバイブレーションの音が、どこからともなく聞こえてきた。



おわり






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最終更新:2011年03月19日 11:57
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