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八月十七日

 携帯電話が鳴った。
 着信画面には、あの女の名前。
(この時間帯なら……そうね、またぞろ先輩が身体を張って解決して、
 落ち着いた頃合かしら)
 なんて、本当に思っていたわけではないけれど。
自分の中で最大限に美化した彼ならば……いや、これまでの実績を
鑑みてのことだから、別に過大評価ではないはず……先輩ならば、
うまくやってくれたんじゃないか、そう思えるタイミングだった。
「……もしもし」
 勤めて平坦に声を出す。
『……あの。あー、』
 ここら辺の台詞の切り出し方のヘタレ具合は、まさに兄妹瓜二つだ。
「今日のこと、ゴメン」
「何のことを言っているのかしら」
 勿論この程度で赦せるわけも無い。
 なぜなら。
 私は、許してもらうために……赦すのだから。
『その。あれから、私の、彼氏……じゃなくて、彼氏役の人がね、』
「ああ、案の定あれは嘘だったと。それで?」
『うぐっ……で、まあ、あいつが……兄貴が、あの、なんていうか……』
「…………」
 予想はしている。大方、俺は妹が好きだー!付き合うなんて許さん!
とか言って切り抜けたのだろう。
 癪に障る女。毎度のことながら。
「どうしたのかしら? まさかお兄さんが愛の告白をしてくれて偽彼氏から
 貴女を奪ってくれたのかしら?」
『、ちょ、ま、まさかあいつから……っ! なわけないか。アンタ時々
 無駄に鋭いわね。フン……ま、簡単に言えば大体そんな感じで、
 あたしのことを超好きな兄貴が変態丸出しで『桐乃が彼氏を作るなんて嫌だ!』って。
 いやー、ホント、可愛いって罪よね』「マジでぶん殴るわよ」
『ご、ごめんなさい……反省してます……』
 チッ。と、心の中でだけ舌打ちするのに精神力を要した。出来ればもっと
罵ってへこませてやりたい。けれど、今はそんな場合じゃない。
「で? 何を謝るって?」
『えっと……折角皆で楽しむために集まったのに、ぶち壊しにしちゃって、ごめん』
「そんなことはもういいわよ。誰も怒っては居ないのだし。他には?」
『……あたし、やっぱり兄貴のことが好き。あんたが兄貴のことを好きなのにも負けないくらい。
 だから、もう兄貴を嫌な気持ちにさせるようなやり方で気をひくことは、しない。ごめんね。』
「普段ツンデレぶっている分、カミングアウトした時の変態ぶりは兄以上ね貴女は。まさか
 現代日本でそんな台詞をリアルに聞かされるとは思わなかったわ」
『なあっ!? 何言ってんのよ! 私は別にそんなんじゃ』
「本当に? 貴女まさか、まだ自分が兄と結婚できると思ってるんじゃないでしょうね?」
『なっ……ないないないない! アンタ人を変態に仕立て上げようとすんのマジ止めなさいよね!』
「そう。じゃあ今回のことを踏まえて聞くけれど、貴女は先輩に彼女が出来たらどうするつもり?
 先刻言ったような台詞で別れさせるの?」
『ぐっ、いや、その……それは……ご、ごめん。あたしが相手のことをよく知らなかったら、
 そうしちゃうかも』
「へえ? 相手の女を知っていれば、交際を許すと?」
『そういう、わけじゃ……いや、うん。許……すよ』
 釣れた!
「そう。なら明日私、先輩の彼女になりたいって告白するから。貴女の癇癪に触れないようで、
 助かったわ。ありがとうね」
『……は? それとこれとは話が別だし』
「別じゃないでしょう。貴女は私のことを知らないっていうの?」
『えーと、ほら、あんたが家でどうしてるかとか、家族のこととか、そもそも家の場所さえしらないし、』
「貴女はなんなの? 姑なの? どれだけ深く知ってれば気が済むのよ」
『だ、だって! こういうのって、その、両家の関係が』
「何も婚姻届を出したいだなんて言ってないわよ」
『はぁ!? あんたそんないい加減な気持ちで兄貴と付き合うわけ? なめてんの?』
「ちょっと待ちなさい、そろそろブラコンとか気持ち悪いというレベルを通り越してきたわよ。
 まあそれはあえて流すけど、……ええ、いい加減な気持ちじゃないわ。
 将来的には貴女に『お義姉さん』と呼ばれるような関係になりたいと思っているわ」
『誰が呼ぶかっ!!』
「でしょうね。嗚呼、幻視できるようだわ、将来先輩の子供に自分を『ママ』と呼ばせようとしてみたり、
 出もしない乳を吸わせて悦に入るようなガチ変態妹が」
『い、いくらあたしでもそんなことしないし! 人を変態扱いすんな!』
「そうね。本当になってしまったらかなり気持ち悪いからこの想像はやめておくわ。
 とにかく……私は、明日、人生をかけた告白をする。貴女の発言でそれをご破算にして欲しくは無いの」
『わかっ……いや、だからあたしはそんなことしないし!』
 ……このあたりで言質とするべきかしら。
「本当ね?」
『ん……』
「念のために言っておくけど、昨日の今日だし、貴女が許可しなければ先輩は多分
 誰かと付き合ったりはしないわ。それが分かった上で言っているのね?」
『…………。分かったわよ。ただし! 言っとくけど、あんたが素で振られたら思い切りプギャーするからね』
「言ってなさい。私は、全身全霊、全知全能をもって先輩を振り向かせてみせる。
 妹の魔の手から掻っ攫うわ」
『ふん。随分自信ありげじゃない』
「数ヶ月前から告白の前フリは仕込んでるけど。自信なんて無いわ」
『はあ? 死亡フラグ乙』
「とにかく、細工は流々、後は仕上げをごろうじろ……よ」
 ……やった。ラスボスの前に隠しダンジョンのボスを倒すような飛び道具ではあるが、
とにかく、後は自分自身の気合だけだ。

「と……今のうちに先輩に呼び出しのメールを打たないと」
 手が動かない。
「…………っふ……この暗黒の女王ともあろうものが告白のメールひとつ
 打てないなんてお笑いだわ。あの兄妹のせいかしらね……甘さが移ってしまった……
 でも先輩……私とまともに喋ってくれた男の人はあなたが初めてだった。
 あなたと居た数ヶ月……悪くなかったわ」
 ジャンプネタでごまかしている間にも時代はどんどん流れていく……
なんて言ってる場合じゃないわ。もう文面を詳しく書き込むのは私のMP的に無理ね。
 そう……そう。私の『呪い』が今だ先輩の心に根を下ろしているのなら。
それだけが私の、一縷の望み。
「『”約束の地”であなたを待っているわ』……と。これで来ないようなら、脈無し、ね」
 送信ボタンにかかった指が、どうしても動いてくれない。
 いいの? これで? 本当に?
 だって、また何か起こって告白の空気が軽く流されてしまうかも。
 だって、今まで必死になって積み上げてきた、先輩への『呪い』が、消えてしまうかも。
 それは、私と先輩とを直に結んでくれる、特別な関係。
 それは、先輩が私を「ちょっと気になる女の子」としてみてくれる、奇跡の魔法。
 それは、失われれば二度とは戻らない、儚い泡沫の夢。
 胃のあたりがキリキリと痛む。身体中が震え、心の臓の脈動が聞こえる。

「…………」
 私は微動だにせず、携帯電話の液晶を睨みつけたまま。
 10分。
 20分。
 30分。
 40分。
 50h「……ふう。いい加減我ながら気持ち悪いわね。もうやめ。寝ましょう
 明日、時が来たら……送信する」

 まさか、告白をするのに目に隈をつくって行くわけにはいかない。
 あ。そういえば、明日何着て行こう。
(……あの白いワンピースで行く)
 あの世界で一番癪に障る女。あの女の選んだ服で。
「私の呪いを、完成させる」
 そのために。今は、眠ろう。



八月十八日
「私と、付き合ってください」
 黒猫の言葉は、正しく呪いだった。
 俺はこれまでの人生、いろんな辛い言葉、嬉しい言葉を受けてきた覚えがある。
その一つ一つは俺の心に突き刺さって……たまに思い出すと、イラッとしたり
優しい気持ちになったりするもんだ。だが……
 黒猫のその言葉は。今まで受けたどんな言葉よりも強く、深く突き刺さって。
俺は、呆けたように黒猫に魅入られたまま……一言も喋ることが出来なかった。
そのとき、俺は本当に呪いにかけられてしまったのだろう。
 だって、最近じゃ自他共に認めるこのエロゲ脳の俺がだぜ?
 黒猫の告白に、断るって選択肢を思いつけなかったんだよ。

1.今すぐどこぞの宇宙人ばりに黒猫の手をとって「結婚してください」と言う。
2.ショックを受けたまま今日一日くらいかけて、気持ちを整理して、かっこよく黒猫の気持ちに応える。

 この二択だ。1はさすがの黒猫でもドン引きするだろう。つーかジャンプネタだし。
 答え② 答え② 答え②、だ。
 まあ、簡単に言うと。

 潤んだ瞳で俺を見上げて、必死の思いで俺に告白する黒猫は。
 エロゲも、エロ本も……ああ、認めてしまおう。俺の妹をすらはるかに越えて、
可愛かった。まぶしかった。痺れた。
 そうやって、アホみたいに固まったままの俺を尻目に、魔法が解けてしまったかのように
黒猫の瞳が、つい、と動く。
「あ…………。返事、は、いつでも、いい、から。……いつまでも、待ってるから」
 声が震えている。
 多分、俺も声を出したらとんでもなくひっくり返った声になるだろう。
だからってわけじゃないが、顔を真っ赤にして俺の脇を駆けて行く黒猫に、
声をかけることすら出来なかった。なんと脚すら動かないんだぜ?
 ようやく振り向いた時には、黒猫はもう10メートルは離れていて……
失敗したなあ、と思ったよ。何がって? そりゃ……

 黒猫の横顔、横目じゃなくてばっちり見ておけば良かった、ってな。

 さて、その後俺がどうしたかといえば、ごく普通に図書館に行った。
こんな状態で桐乃の前に出たら、一体どうなるか分かったもんじゃないからな。
八月十九日

 あの男は、実は私を殺したいのではないかしら?
 そんなことを思うほどに、長かった。永かった。一日千秋と言う言葉の意味を、魂で知った。
「あ、あ、あ……魂が、疼く……私の中の『闇』が……あふれ出してしまう……
 駄目よ、『闇猫』に堕ちてしまったら……先輩と一緒にいられない……!」

 とぅるるるるるるるる
 とぅるるるるるるるる
 とぅるるるるるるるる

「先輩……じゃない。あの女か。……もしもし」
『もしもしー? あんたあの後どーしたのよ? まさか怖気づいちゃったわけー?』
「うるさいわね。……たわよ」
『は? なんて?』
「告白、したわよ。今は返事待ち」
『…………。そっ、……そう。へえー。まあその根性だけは? 認めてあげてもいいですけどー』
「……なにか、先輩から言われてない?」
『いや、今朝から顔あわせてないけど。あいつ寝てたし』
 鎮まれ……我が魂よ……!
『いや、まあ、さすがのあいつも、ねえ? 今日明日中には返事する……と思うよ?』
 なにこれは。今私はあのビッチから哀れまれているの?
「随分余裕なのね。いとしのお兄様に恋人が出来るかどうかだというのに」
『はんっ。べっつにー。……恋人が出来ようが嫁が出来ようが、兄貴だしね』
「浮気や不倫をしても近親相姦の射程圏内だと言うの? 恐ろしい女ね」
『ちがっ、な、何いってんのあんたは! そういうんじゃないっつーの!』
「まあ何でもいいわ。返事の期限を切らなかったのは私の落ち度でもあるし。待つわよ、何時までも」
『なんつーか、あんたって……重い女?』
「恋人ができる前から姑気取りのヘビー級妹に言われたくは無いわ」
『うっさい。じゃま、あたしもこれから仕事だから』
「奇遇ね。私もバイトが入っているの」
『はいはい嘘乙。じゃね』
 プッ、ツー、ツー、ツー。

八月二十日

 やっば。やっばい。やっちまったぞ俺。
 何で昨日行かなかったんだマジで。我ながらありえん。
 ただ黒猫の所に行って、「俺も好きだ! 付き合ってくれ」と言うだけの
簡単なお仕事だってのに。
 メチャメチャ緊張する。もっと気の聞いた言葉が言えないのかって思う。
かっこよくとか要らん表現の付いた選択肢なんか選ぶんじゃなかったぜ。
あの場でぐわーっと言っちまうべきだったか。
 今日言うぞ。これ以上は本当、黒猫に断ったとみなされるかもしれん。
告白受けてOKするだけの俺がこんななのに、黒猫はどれだけの勇気を振り絞ったか
もう想像もつかねえよ。
 今日。いや、今だ。
 なんと都合のいい事に、今日は日が沈むまで俺以外の家族は留守。
 乗るしかない、このビッグウェーブに。
 茶化すなって? すまねえな。こうでもしないと、もう内心ですら間が持たないぜ。

「フゥー……」
 そろそろ昼も過ぎた。黒猫……電話に出てくれるかな?
 メール……はまだるっこしいな。電話にしよう。
 アドレス帳から選び、通話ボタンを押す。
「……あ、黒猫?」
「…………なにかしら」
 やべ。ちょっと声の温度が低い気がする。
「直接会って、話をしよう。……俺んち、今日は誰も居ないから」
「んくっ……、はい」
「おう。じゃ、待ってる」
 通話を切った。後は……と。黒猫に出す麦茶くらい用意しておくべきだな。
(……ん?)
 いや、待てよ。よく考えたらこれって……やばくね?
 告白してきた女の子に返事いうのに、呼びつけるとか。
 しかも自宅て。誰も居ない自宅て。
 とんだ外道も居たもんだぜ。

 …………実は昨日、コンドーム買っちゃったんだけど。

 うわ俺最低だな! 即喰うことしか考えてない外道だよ!
「やっべ。やっべ。やっべ」
 やばすぎる。桐乃でなくても怒っていいところだ。
「いや、落ち着け俺。別にそうなることが確定ってわけでもねーし。
 そう……黒猫に好きだって伝えて、後はリビングなり俺の部屋なりで
 イチャイチャキャッキャウフフするんだ。今日はほんと、それだけ」
 誰に対するなんなのかもよく分からんつぶやきをしてしまうほどに、
俺はテンパっていた。

 そして……程なく黒猫がやってくる。

「お……お邪魔します」
 先日と同じ、白のワンピース。
 うつむきながら、消え入りそうな声でつぶやくその姿は、初めてこの家に来たときの
比じゃないほどに緊張しきっていた。
 だがそれも後数分で終わりだ。
「お、おう。上がれよ。麦茶だすから」
 顔を上げかけて、またうつむいてしまう。
 分かってる、分かってるから……やっべえ、また緊張してきた。
 黒猫はソファに音もなく座る。
 俺は麦茶のコップを黒猫の前に、なるべく丁寧に置いて、その向かいに座る。
「あー、うん、黒猫……」
 声を出した瞬間に、黒猫の肩がすくんだ。
 その緊張が伝播したのか、俺の緊張もいや増していく。
 くそ、頭の中が真っ白になっちまって、単純な言葉しかでてこねえ。
 単純で、一番大事な言葉だけ。
「俺もお前のことが好きだ。黒猫、付き合おう」
 息を呑む音は、果たしてどっちのものだったか。
 多分黒猫のものだったろうな。
 何せ、告白を受けて顔を上げた黒猫の余りの可愛さに、俺は遅れて息を呑んだわけだから。
「っ……はい、……はい!」
 美少女が、感動の余り両手を口元に当てるなんて仕草、漫画やアニメの中でしか
お目にかかれないと思ってた。……俺の胸も、震えたよ。
 もう、俺たちは恋人同士なんだ。
 そう思うと、テーブル越しに向かい合った距離だって我慢できない。
 もっと近くへ。俺の可愛い恋人と、触れ合いたい。
 そう思って、自然と立ち上がって、まだ座ったままの黒猫を抱きしめる。
 すぐに口に当てていた手を離し……俺の背中へ。
「莫迦……! 待たせすぎよ! 待ちすぎて死ぬかと思ったじゃない……」
「ああ、ごめんな。もうちょっと気の聞いた言葉を言えないもんかってさ、
 ちょっと考えてたら、うっかり昨日一日潰しちまった」
「本当、救えない大莫迦よ、あなたは。でも。好きよ。大好き。愛している」
「ああ、俺もだ。好きだ、黒猫」
 抱擁を緩めて、お互いに顔が見える体勢になる。
「キスして……いいか?」
「……もちろん」
 言い終わるが早いか、俺は黒猫に唇を重ねた。
 柔らかい。あたたかい。気持ちいい。全部が混ざったこの感覚、
他の何かじゃ絶対に得られないだろうな、と思いながら、唇を吸う。
ちゅっ……ちゅるっ……
 唇を吸って、一瞬離してまた吸う。
「んむっ……は、ふ……ぅん……」
 うっとりとキスの感覚に浸りながら、息を求めてあえぐ黒猫が可愛すぎて……
唇に舌を這わせてみた。
「ふぅぅっ!」
 ビックリして目を見開く黒猫。当然目の前には俺がいる。
驚きと、恥ずかしさと、少しの期待。黒猫の潤んだ目が、普段とは違う意味で
半分くらいまぶたを閉じて俺を見つめている。
 これは……なんていうか……
 超そそる!


 うっかりすると、次の瞬間黒猫をソファに押し倒してしまいそうだ。
さすがにそんな、ヤるためだけに呼んだような格好になるのは嫌だ。
今日は……いや、一ヶ月くらいはそういうの自重すべきなのか?
付き合ったこととか全然ないからまるでわかんねー……

 ちゅ……
 とそんなことを考えているうちに、黒猫が唇を離してしまった。
名残惜しく思っていると、
「先輩……その、……し、したいの?」
 どうしてこいつはこういうときだけエスパーになるんだろう?
 だがいつもの余裕ありげな余裕ありげな感じは鳴りを潜め、その所作は
気弱げな少女のそれだ。なんというか……いじめてオーラが漂ってる。
 やめろ黒猫……! それ以上やったら俺はもう自分で自分を抑えられんぞ……
「いいのよ……私はもう、あなたの女なのだから。あなたのどんな変態的な欲望も
 受け入れてあげる」
 もう生唾を飲むことしか出来ない。
「ま、まままマジで!?」
「ただし。あなたにも誓いを立ててもらうわ」
「ち、誓い?」
「そう……。答えて。『私を……お、およ、』……」
 こういうの、客観的に見れば軽率だって思うかも知れねえ。
でもよ。あえて言うね。
 これを断れるような奴は男じゃないって。
「結婚しよう。将来、そうだな……俺が就職して、曲がりなりにも一人前になれたら、さ」
 言っちゃったよ、おい。始めての告白と同時にプロポーズとか、
俺もコイツも大概だな?
「い、いい……の? 私のこと……お、重い女……とか思わない?」
「いや思うよ? 告白即プロポーズとかマジありえねーわ」
「私は、まだ何も言って……」
「でもお嫁さんにしてーとか言うつもりだったろ?
 俺は……いいと思うぜ、そういうの。だってさ、
 ここまでやって、将来はやっぱ別の奴と結婚します、とか
 考えたくもねーよ。こうなった以上、俺はお前といけるとこまで
 いきたいって思う。だから、重くて当たり前だし……重いものを
 俺に預けてくれるお前の気持ちが嬉しい」
「っう……うぇ……」
 黒猫の瞳からついに涙が溢れ出した。
 俺もなんというか、これ以上なんていって良いのかもう分からなくって……
黒猫を抱きしめることしかできなかった。
「……俺の部屋、行こうぜ」
 俺の腕の中でうなずいた感触を感じてから、俺は黒猫の肩を抱いて
階段を上がっていった。
 恥ずかしいしそもそも階段上がるのちょっと窮屈なんだが……
今の黒猫は、俺が離れた瞬間に消えてしまうんじゃないかと思うくらい、
幻想的なまでに美しかった。

 え? 部屋に通してどうするかって? 言わせんなよバッカ恥ずかしい。
「ふぅ……やっぱり落ち着くわねこの部屋は。くゎ……」
 なんとなく黒猫が落ち着くのを待っていたら、いつものように俺のベッドに
うつぶせになって寝転がって漫画読んでくつろいでる所だよ。
「ええー……ちょっとテンション変わりすぎじゃないですかね黒猫さん」
「ふふ……もっとしおらしくなって自分から服でも脱ぎ始めたほうが良かったかしら?」
 落差がひでえな!?
「いやそれもちょっと難易度高すぎると言うか……い、いいのかよ、その、俺たち
 今さっき、こ……恋人になったばっかりなのに」
 黒猫は読んでいた漫画を閉じて、脇においてしまう。
 さらに顔を枕にうずめてしまった。
「お、おいおい、ど、どうしたんだよ」
 そして、無言のまま……脚を、ほんの少し開く。
 開くと言っても肩幅程度だ。
 今日の黒猫はミニスカート程度の丈しかない、薄手の白のワンピース。
 ゴスロリドレスや制服とは比べ物にならないほど、身体のラインが浮き出る服装だ。
 ゲーム作りのために黒猫と二人きりでこの部屋にこもった時期のことを思い出す。
あの時は、黒猫のまぶしい太ももの裏から視線をはがすのに必死だった。ほのかに香る
甘い香りにドキドキしていた。
 そんな黒猫は今や、俺の恋人なのだ。しかも結婚の約束までした。なんかもういろいろ体を
許された。
 まぶしい太もも。
 うっすらと肉の付いたおしり。
 無防備にさらけ出された腋。
 ギュッと枕に押し付けられた頭、ちらりと覗くうなじ。

 ……あれ? つまりこれって……
「この身体に触り放題、だと……?」
 黒猫が枕から顔を上げようとはしないのをいい事に、そっとベッドに腰掛ける。
それも黒猫の足の方のはじっこに。
 俺は、何度妄想したか知れない禁断の聖域……すなわち、黒猫の太ももに、
意を決して……触れた。
「んっ」
 黒猫は枕から顔を上げようとはしない。微かに震えが伝わる。
 片手の指先だけ触れた状態から、手のひら全体を密着させる。
さらに、両手で両太ももに触れた。
 触れる場所が増えるたび、黒猫は微かな吐息と震えで応えてくれる。

 どーすんだよこれ。つーか俺はここから何をしようとしてるんだ!?


 あまりにも印象に残ってたもんだからとにかく太ももに触ることしか考えてなかった。
とりあえず、親指だけを使って、太ももの内側をつう、と撫でてみる。
「はっ、んんっ」
 これまでで一番の大きな反応を見せた。
 き、きき気持ちよくなっちゃってるのかな黒猫さん!?
 俺のテンションも相当おかしくなってきた。
 心臓はバクバク鳴り通しで、手が震えていないのが不思議なくらいだ。
 今度は、手のひらをどんどん上に……脚の付け根に持っていく。
ぎゅ、と枕を掴む力が強くなった音を感じるほどに俺の神経は研ぎ澄まされていた。
あっという間に指の先がワンピースの裾に届き、その下にもぐりこむ。
今俺は、好きな娘のお尻に、本人の消極的同意のもとで触っている。
一度触れてしまうと、逆にもう離そうなんて思えない。
太ももとはまた違った、柔らかな肉の感触。緊張しているのかしっとりと汗ばんだ
この尻の感触は、中毒になるんじゃないかというくらい極上で、
さっきまでの緊張は何処へやら、俺は黒猫の尻に指を這わせ、柔らかさを堪能するために
ぐっと力を入れて、ワンピースどころかパンツの尻の部分の下に指をもぐりこませた。
 もう見なくても分かる。力の限り枕を抱きしめ、うなじまで真っ赤にした黒猫が、
それでも俺にされるがままになっている。
 俺は調子に乗ってさらに大胆な行動に出た。
「ひうっ!」
 黒猫もさすがに驚いただろう、枕越しにも大きな声を出して、背中までのけぞらせて
反応した。
 俺が、黒猫の尻に顔をうずめたからだ。
 告白の直後に自室に後輩である彼女を連れ込んで、尻をもんだりクンカクンカしている。
桐乃あたりに知られたら、マジで絶縁状叩きつけられてもしょうがないと思う。
 でもやる。
 この匂いは何度も嗅いできた、黒猫の匂いだ。そして初めて嗅ぐ、黒猫のパンツの匂いだ。
尻にキスをする、とか、なんかSMとかで屈辱的な感じで使われるけれども。
ああ、黒猫の尻なら俺は喜んでキスしてみせるね。
 と言うわけでキスした。むしろ舐め上げた。
「~~~~~!」
 もはや声にならない高周波をだして、びくんびくん震える黒猫。
キスマークを付けるつもりで最後にぢぅーっと吸って、俺はようやく顔を上げた。
 正直、満ち足りていた。もう、なんか、満足だ。こういうエロいことは、
とりあえず今日はいいかな……と思って、めくれ上がった裾を直してやってから
黒猫の全身に覆いかぶさるように四つんばいになる。
予想通り黒猫は枕を潰さんばかりに抱きしめて、うなじまで真っ赤にしていた。

 ふむ……尻の次はやっぱ、む……胸だよな。

 確かに黒猫はそれほどあるほうではない。だが、無くは無い。
『少女らしい』と言う形容が似合う、可愛いふくらみだ。まあ
黒猫もうつぶせだから、胸は今見えないんだが。
くびれた腰の辺りから腕を下に回して、黒猫を抱きしめる。頭の位置が同じくらいに
なるようにしているから、ちょうど太ももの所に俺の股間が当たる格好だった。
首筋に顔をうずめ、匂いを嗅ぐ。キスをする。俺に何をされるのかと、緊張で
がちがちだった黒猫の身体から、少しだけ力が抜けた。その隙にってわけじゃないが、
するりと腕を上げて、黒猫の胸を下からすくい上げるように触れる。
 こうして腕の中に黒猫がいると実感できる。ああ、俺たちは本当に恋人になったんだな。
そう思うと、急に黒猫が顔を見せていないのが寂しくなった。
「な、黒猫。……キス、しようぜ」
「ん……」
 腕の力は抜けないままだが、顔を枕から離してくれた。うつぶせのまま振り向いた横顔は、
さっきからのショッキングなお触りでそうなったのだろう、上気した頬と、目に溜まった涙が
特に印象的だった。
 っていうか、そうか。この体勢のままキスするんだな。なんか、「最中」にキスしてるみたいで
エロいな……
「綺麗だ、黒猫……」
 簡潔に感想をつぶやいて、唇を重ねる。今度は最初から舌を差し出してみた。
恥ずかしげにそっと閉じられた黒猫のまぶたの淵から、つう、と涙が一筋こぼれる。
だが俺がちろちろと黒猫の舌先を舐めると、黒猫もおずおずと自分の舌を伸ばしてきてくれた。
俺はなんだか勿体無くて目を閉じてはいなかったから、その無防備さに場違いなほほえましさを
感じていた。やさしく、やさしく……親鳥が雛をあやすように、驚かせないようにそっと
舌同士を絡ませる。だんだん黒猫の舌が伸びてきて、口の外で舌をじゃれつかせあった。
「はぁ……はぁ……」
 黒猫の吐息が、熱く、荒くなる。少しずつ深くなる舌の絡みつきは、やがて唇が
くっつくまでになった。
 そろそろ黒猫の身体をひっくり返して、仰向けになるようにして首をひねった姿勢から
開放してやる。俺は今だ黒猫の腋の下をくぐるように両手で抱きしめているから、
自然と黒猫は俺の頭を抱えるような体勢になる。夢中でディープキスを続けるうち、
黒猫の腕にもギュッと力がこもって俺を抱きしめてきた。

 そこから先は特に書くことは無い。
 なんでって、俺と黒猫はひたすらにその体勢でキスし続けていたからな。
いや、我ながらよく飽きねーもんだわ。終わりのほうになると黒猫も俺も
大胆なもんで、相手の舌を吸い出したり唾を飲んだり、思い切り舌をのばして
口中を舐めまわしてみたり、色々した。
 日が傾いているのに気づいて口を離した時には、お互い息が上がってた。
告白が終わったら速攻チュッチュペロペロとは、我ながらエロガキだぜ。

「その。……しない、の?」
「ああ。今日はやめとこうぜ。俺はまだ、その前の段階をお前と楽しみたいんだ」
「そう。……そうね。私も……先輩と、一つ一つ、いろいろな事を経験したい」
「ありがとな。……まあ、一つ一つと言うには今日はがっつきすぎたって感じだけどよ」
「そうよ、本当に。まさかいきなり尻をもまれて舐めまわされるとは思わなかったわ」
「いや、ほら。アレだよ、俺だって毎日お前のあんな格好を見て悶々としてたんだぜ?」
「ふふ……人が真面目にゲームを製作している時にあなたは私の太ももを見て発情していたの?」
「だ、だってしょうがねえだろ? 気になる女の子にあんなことされたら……」
「そうね。その言葉に免じて赦してあげましょう。……優しくしてくれて、嬉しかったし」
「ん? なんて?」
「彼女を処女のまま身体だけ開発したがるなんて、エロゲ脳の末期症状ね、といったのよ」
「ひ、否定できない……!」
「いや、否定して欲しかったのだけど」

 こんな感じで、俺たちはきっとうまくやっていけるだろう。そう思った。






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最終更新:2011年03月29日 17:51
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