純情スローペース「メール編」



ある日の夜、俺の携帯に知らないアドレスからのメールが届いた。

「なんだ、迷惑メールか?」

携帯を開く。メールフォルダを開け、本文を確認する
そこで俺の目に映る文字は、これからの人生を大きく変えるものだった。

『よう!クソマネ!
   残念な地味面のオメーのことだから寂しい思いしてんだろ?
 だからこの加奈子様が相手してやんよ!

  あと、いつまでも加奈子を騙せると思ってんのか?『高坂京介』君?』

・・・!?
目の前で起こっている現実を信じられずに目をこする。
だが、俺が見ている光景が変わることは無い。
疑問点が多すぎるが、状況を整理しよう。

まず今は夜。いたって普通の夜だ。
そしてメールアドレスを教えた覚えも無い加奈子からメールが来た。

・・・。
うむ、いつ異次元世界に飛び込んでしまったんだろうか?
いやね?俺が黒猫ばりの厨二発言をしてしまうのも無理ないッスよ。

あの加奈子が俺にメールだと?しかも正体もバレてるしさ。
とりあえずメールの返信してみっか。てかアイツ、メールでもこんな口調なんだな。

『お前、なんで俺のメアド知ってんだよ?』

とりあえずこんなもんでいいか。
後はジワジワと尋問していこう。


でもなんだろうな、この感じ。
あまり関わりの無い妹の友達とメールをする。
なんか・・・こう、胸の辺りがキューっとなるような。超甘酸っぺえ。
え?何?メールで距離を縮めたいってこと?キャー!照れるな!
そんな青春を感じていると、俺の携帯がブルブルと震えだす。

『はあ?そんなん桐乃の携帯からパクったに決まってんだろうが!
  つーか、変な勘違いすんじゃねーぞ?
 ちょっとメール送ってみたけど、お前のこと好きだとかありえねーから!』

・・・女ってのは、マジで鋭い。
それと共に、男の希望を折ることに関してはかなり鋭い刃を持ってやがる

『お前なんかこっちから願い下げだよ!
 つーか、お前なんで俺の本性知ってんだよ?』

2つ目の疑問だ。
アイツは馬鹿だから、一生経っても気付かないと思っていたんだが。
その時、加奈子からかなり早めの返事。

『ブリジットのヤツが、「桐乃の彼氏とマネージャーさんの雰囲気が似てる」
 って言いやがるからよー。よく思い出してみると似てないこともねーし、
 ちょっと調べたらお前にたどり着いたってワケ!
 その調べる経緯でお前のメアド見っけたから、気まぐれでメール送ったんだヨ。
 さっきも言ったけど、勘違いするんじゃねーからな!』


なんだ、最初に気付いたのはブリジットか。
やっぱり馬鹿なんだな、アイツ。

それより最近の女子中学生ってのは、指がサイボーグにでもなってんのか?
桐乃といいコイツといい、メール打つの早すぎんだろ。
まあそんなことはどうでもいい。問題は加奈子とのメールをどうするかだ。
こんなクソガキとのメールはうんざりだ。早めに終わらせよう・・・

と、言いたいところだが。
正直妹の友達とメールすることが満更でも無い俺がいる。
このメールを終わらせてしまうのはちょっと惜しい気もするな。
とりあえず雑談に持ち込んでみるか。判断はそれからだ。

『つーことは、もう俺のマネージャー生活は終わりか。
 結構気に入ってたんだけどな、俺。
 お前はこれからもモデル活動とか続けんのか?』

こんな感じか。女子中学生っつーとあやせぐらいとしかメールしたこと無かったから
ちょっと勝手がわかんねーや。本当にこんなんでいいんだろうか。
おっ。返信来た。早っ!

『いや、別にバレたからってマネージャーやらない理由にはならねーんじゃね?
 それに今のマネージャーと来たら、年下相手に敬語だし堅苦しくてなんねーし。
 加奈子はどっちかと言うとオメーみたいな馴れ馴れしいヤツのがいいよ。』

どうやら、俺の返信は悪くなかったらしい。


その後も俺たちはメール交換を続け――
そろそろ加奈子とのメールにも慣れてきた頃。
急に加奈子からの返信が途絶えた。

どうしたんだろう、さっきまであんな早さで返信が来てたのに。
こっちからもう一通メール送ってみっか?
いやいや待て。そんなことしたら俺があつかましいヤツだと思われるかもしれない。
そもそも俺は加奈子が送ってきたメールを仕方なく返してただけなんだからっ!

・・・なんだこのSK●T DANCE みたいな展開は。

もういい、返ってこないものは返ってこないんだ。
メールのことを考えてたら悲しくなっちまう。今日はもう寝よう。

***************

朝。
結局あの後もメールのことを考えすぎて寝れなかったぜ。
おかげで麻奈美との集合時間に遅れそうだ。

「あ、きょうちゃーん!」

向こうの方で麻奈美が手を振っている。どうやら間に合ったみたいだ。

「ハァハァ、悪いな、ちょっと寝坊しちまって」
「いいよいいよ~。じゃ、いこっか。」

夜から加奈子のメールで頭がいっぱいだったので
今までの普通の光景がやたらと新鮮に思える。普通なのに。


「それにしても、きょうちゃんいつもに増して眠そうだよ?なにかあったの?」

学校への道を歩きながら麻奈美が俺にこう聞く。

「べ、別に?何もねーよ。ただちょっと寝れなかっただけだ。」
「ふーん、そうなんだ。じゃあそういうことにしとくね。」

どうやら俺の嘘はバレバレみたいだ。
でもその嘘を見抜いた上で追及してこないってのは、さすが麻奈美だ。

さて、その後の俺の話だが。
結局昼休みまでいつメールが来るものかと授業なんて聞いていられなかった。
加奈子なら授業中に携帯弄って俺にメールでも送りそうだが、そうでも無さそうだ。

「オイ、高坂。今から学食行くんだが、お前も一緒に来るか?」

赤城にそう誘われる。
あんまり飯を食う気分じゃないのだが、そうしないと体力が持たないので昼食をとることににしよう。


赤城と2人で食堂へ向かう。出来ればこの状況を瀬菜には見つかりたくない。

「そういえば、お前今日様子おかしいけど、なんかあったのか?」

赤城が唐突に俺に聞いてきた。

「別に?なんでもないゴワスナリ。」
「そうか、じゃあそういうことにしておこう。」

どうやら高坂兄妹には似たところがあったらしい。
突然のトラブルに弱いところが、な。

そんなこんなで俺は食堂でカレーを頬張っている。
家でもよく食べさせられるカレーを頼んだ意味は特にない。
でもやっぱ家でくうカレーがいちば・・・ん?なんか太股が揺れてる?
これは・・・。俺の携帯だ!!!!!!!!!!!!

やっぱり!新着メール1件!
ヤベー!なんかわかんねーけどテンション上がるわー!
もう、加奈子ったら。じらして俺を落とす作戦ですか?
残念だけどそうはいかねえよ!
とりあえず、メールの内容を確認してみよう。

『件名:GRUUよりのお知らせ!定番ゲームからミニゲームを追加...』

GRUUェ・・・。
無駄に期待した俺が恥ずかしいぜ。
しかしなんだこの異常なまでのガッカリ感。
文字どうりどん底に落とされた気分だ。

「ど、どうした高坂。最高の笑顔を見せたと思ったら急に地獄を見たような表情になって」

もう答える気力がない。メールマガジンの停止設定しておこう。


その後もメールが加奈子のメールを待ち続けた俺だったが、
授業中にその返事が来ることはついになかった。

「はぁ~」

思わずため息。横にいる麻奈美が心配そうな顔をしているが
そんなことはどうでもよかった。
どうも今日はメールのことばっかり考えちまう。
家に帰ってからも、ちょくちょくメールのことが脳裏をよぎる。
やっぱもう返信は来ないんだな。早めに諦めちまうか。

と、そんな諦めが入った頃。再び携帯のバイブレーション。
一瞬心臓がバクンと脈打ったが、慌てて心を落ち着かせる。

(変に期待するな、どこかのメールマガジンだ。きっとそうだ。)

もうどん底に落とされるのは二度とゴメンなので、最悪の事態をあらかじめ想定する。
そして俺は内心期待一杯にメールを開いた。

『From.加奈子』

ひやゃあああああああああああ!
キタキタキタキター!

「ひょえー!なんだよやっぱ俺とメールしたいんじゃねえか!」

桐乃が壁ドンをしたような気がしたが、今の俺には関係ない。
とりあえず内容を確認だ。

『昨日は寝ちまってよ、ワリー!
  つーかメールしてみて分かったけど、オメーって結構面白れーんだな!
 なんの特徴もない地味男ってのは、加奈子の誤認識かもしんネー!」

絵文字でチカチカするメールにはこう書かれていた。
なにコレ?もしかして脈アリ?
すまない加奈子、残念だが俺にはあやせと言う天使が・・・あれ、メールだ。

『From.あやせ』
『殺』


・・・どうやら本当の悪魔は天使の顔をしてるってのは、マジらしいな。
あやせは俺の脳波を感じ取ることでもできるんだろうか?
また携帯がなっている。嫌な予感しかしねーけど。

『From.あやせ』
『脳波を感じ取るなんて簡単ですよ。』

!??

これは、夢だ。悪い夢なんだ。
とりあえず加奈子にメールを送ろう。それからイタリアの貝を調べよう。

と、まあいろいろあってだな。
その日から俺と加奈子のメール交換は毎日のように続いた。
他愛もないメールだったが、それはお互いの距離を縮めるのには充分過ぎるものだった。
加奈子の気まぐれから始まった、俺と妹の友達との関係。

この関係はメール以上のことになってくるんだろうか?
そんな俺の疑問をぶち壊したのは、またまた加奈子の気まぐれからだった。

時は、加奈子と俺のメール交換が始まってから約2週間後。
そろそろ加奈子とのメールも日常と化し、心地よさを感じ始めていた頃。
毎回加奈子からの文字を受け取る携帯が、いつもとは違うものを受け取った。

――そう、電話である。

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最終更新:2011年05月21日 08:20
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