純情スローペース「デート編」



メールから始まった加奈子と俺の関係。
先日電話と言うもう一つのステップを踏み、
加奈子と俺の関係はこれ以上無いぐらいに進展したかに見えた。

・・・だが。どうやら俺たちはもっと関係を近づけられるらしい。
あの電話があった日以来、俺たちは主にメール、たまに電話で連絡を取り合っていた。
その期間は決して長い物ではなかったが、お互いをより良く知るには充分だった。
今まで知らなかったことを知り、理解と仲を深めてきた俺たち。
もう俺の中では、ただの妹の友達ではなくなっているのかもしれない。
加奈子の仲の俺は、いったいなんなんだろう?
アイツの仲では、友人の兄のままなのかもしれないな・・・。

と、こんな気の滅入る話はやめにしよう。
とにかく俺たちは、これからとんでもない関係の発展を遂げようとしている。
メールから電話と来たら、もう決まってるよな?
ついでにこの話を持ちかけてきたのは、またまた加奈子からである。

場所は近所の街。
待ち合わせ時間は昼の1時。


そう、今回のイベントはデートである。


デートって言うのには語弊があるかな
別に両方が好き合ってるわけでもねーし。

ことの発端は昨日。
もはや恒例となったメールの中の一通に、こんな文字が並べられていた。

『そうなんだよなー(←前のメールの返信なのだ)
 てかさ、明日ってなんか予定入ってたりする?』

さすがに鈍い俺でも、ここでは何か勘が働いていた。
あぁ、恐らく明日は加奈子と行動することになるだろう、と。
ちなみに俺の予定は運良くその時点で空であった。
赤城を誘ってどこかへ行こうとも思っていたのだが、
女子中学生からお誘いがあったのでは、ヤツの存在は爪楊枝と同等になる。

その後、俺の予想通り加奈子からのお誘いがあり
それを俺が承諾したことによって、加奈子と俺との初お出かけが決まったのだ。

そして今は朝の10時。
どんな服を着ていこうか鏡の前で試行錯誤したり
念のためデートプランを立てておいたり。
受験を間近に控えているとは思えぬ行動で時間を潰す俺。ちょっと痛い。
しかしちょっと時間が余ったな・・・。
よし、ここは受験生らしく勉強で時間を潰すか。


・・・

・・・・・・

・・・・・・・・・・

なんだ、以外にに集中できるもんだな。
もっとデートの事にしか頭が回らないと思っていたんだが。
恐ろしいほど公式やらウンヌンカンヌンが頭に入ってきやがる。
なんでだろうな? アドレナリン?アドレナリンなのか?

いつにない早さで俺はペンをノートの上に滑らせていた。
昼の一時まではまだ時間がある。
俺は部屋に掛かっている時計をチラッとみて、再び視線をノートに・・・


いや時間ねーよ!!?もう12時45分じゃねえか!

やばい、非常にヤバイ。勉強に集中しすぎて、何の準備もしていない。
今から準備をして、時間に間に合うだろうか?
ここから待ち合わせ場所までの距離は徒歩5分。それを走って2分と仮定しよう。
いや考えてる暇はない!最初のデートで遅刻はバッドエンド直行だ!

そうして俺は、人生で一番早いと言っても過言ではない早さで、加奈子との集合場所に向かうのだった。


******************************

周りの空気を巻き込んで、俺は走っている。
加奈子からお誘いがあったってのに、勉強に没頭しすぎて遅刻しそうだったからだ。
家を出たのは12時55分ぐらいだった。ギリギリ間に合うか?


よし、待ち合わせ場所に着いた。時間は12時58分。
時間的には間に合ったけど、もっと早く来るべきだったな・・・。
加奈子のヤツ、怒ってるかもしれない。
俺は慌てて加奈子の姿を探す。が、俺の探し人はすぐに見つかってはくれなかった。
場所を移動してみても、首を回してみても、身長の低い彼女は見つからない。
おかしいな・・・。待ち合わせ場所を間違えたか?
とりあえず、もう少し探してみよう。もしかしたらアイツが遅れたのかもしれないし。

――――15分後

いつまでたっても姿を見せない加奈子。もしかしたら加奈子の身に何かあったのかもしれない。
そんな不安が俺の脳をよぎり、電話でも掛けてみようかと迷いはじめたころ。

今回の待ち合わせ場所に向かって走ってくる小学生のような姿が見えた。
15分という心の準備をする時間があったにも関わらず、俺の心臓は今にも爆発しそうだ。
認めたくないけど、かなり緊張してしまっている。
そんな俺の緊張を知らない加奈子は、スピードを緩めることなく俺に向かってくる。
そして、俺と会話が出来る距離で立ち止まって、今にも倒れそうな声で

「ご、ごめん。待たせた?」

と、俺に問いかける。加奈子の声から感じ取れる反省の色に、
少し脳の奥底にあった怒りの感情は静かに消え失せていった。

「正直待ったけど、別に気にしてねーよ。ほれ、息整えろ。」


膝に手をついて息を切らしている加奈子は、俺に一言詫びて息を整えはじめる。
その間も俺の心臓はとんでもない鼓動の打ち方をしている。

それにしても・・・。メールや電話で話すのとは違う感じだな。
やり取りにはなれたつもりでいたが・・・それが今全く役に立っていない。
声だけを聞くのと顔をみながら声を聞くのは大違いだ。

「ふぅ。もう大丈夫。ワリー、遅れちまって。」
「さっきも言ったろ気にしてねーって。」

第一俺も遅刻しかけたしな。内緒にしておくけど。
でも何で遅刻したんだ?この時間なら寝坊ってわけでもないだろう。

「どんな服着ていこうか迷ってたら、いつの間にか時間が過ぎてて、
 もうスッゲー慌てて来たの。加奈子から誘ったのに遅刻はヤバイからナ」

まるで俺の心を読んだかのような話題だった。
それにしても、俺と同じようなことしてんだな、こいつ。
俺と会うだけなのに服に悩んだりして・・・。

「じゃあ、とりあえず行くか。どこ行くか決まってんのか?」
「うん。とりあえず、加奈子の買い物に付き合えヨ。」


「・・・よし、そうすっか。」

本当にこいつは、桐乃みたいなやつだな。
可愛い顔して俺を荷物もち程度につれまわしやがって・・・。

「なんだ?今日俺は荷物持ちとして同行させられてんのか?」
「まあそれもあるけど。一人より二人の方が楽しいっショ?」

それは俺がついていかなくても桐乃達を誘えばよいのでは・・・。
そんな質問が思いついたが口に出さなかった。

そして今、俺たちは隣に座り合って電車に揺られている。
今回の目的地は駅二つ分ぐらい離れた割と近くの街だ。
近いとは言え、こいつの隣に座るのは緊張するな・・・。
今は席が詰まっているので、左に加奈子右に知らないおじさんという状況だ。
知らないおじさんに身体を密着させるのは気が引けるので、どっちかというと加奈子寄りに座っている。
そんな状況だから、腕に加奈子の感触があるわけですよ。
女子中学生独特の鼻につく甘い匂いと、加奈子の腕の感触がお互いを高めあって
俺の理性をぶっ壊そうとしてきやがる。恐ろしい娘!
俺が理性を保つことに奮闘していると、腕に伝わる加奈子の感触が急に強くなった。


慌てて左に目をやると、なんと加奈子は俺に身体を預けて駅前で買った雑誌を読んでいたがる!
も、もう勘弁してくれ・・・。自分が自分でなくなっちまうみたいだ。
そもそもお前は男に対してそんなに無防備でいいのか?男慣れしてんのか?

      • 。男慣れといえば、加奈子って彼氏出来たことあんのかな?
この前は俺の彼女の話で終わっちまったから分からなかったけど・・・。
考え出すと気になるな。聞いてみるか。

「なあ、加奈子。」
「んー?どうしたー?」

雑誌から目を離さず俺に応える加奈子。電車内なので双方ちょっと小声だ。

「お前ってさ、彼氏とかできたことあんの?」
「はあ?ねーよ、そんなん。でも出来ねーわけじゃねえよ?」

まあ、それもそうだろう。
加奈子も一般人から見たらかなり可愛いほうだしな。
桐乃と同様、作ろうと思えばいつでも彼氏を作れる状況にいたっておかしくない。

「ただ、周りに加奈子に相応しい男がいねーだけで。同い年はガキくせーし。」

周りって言うと、クラスの男子とかそんなんだろうか?
桐乃と同じでやっぱこのぐらいの年頃だと、年上に興味を持っちゃうんだな。


「でもお前、前にナンパ待ちしてたって言ってなかったか?」
「あんなん食いモン奢らせるために待ってたに決まってんだろうがヨ。
 知りもしないヤツの女になるなんてサラサラごめんだね。」

そこで加奈子は初めて雑誌から目を離し、俺の方を見る。
そして口角をニヤッと上げたかと思えば、こう続けた。

「なに何~?オメーもしかして嫉妬でもしてんの~?」
「バッ!別にそんなんじゃねーよ!」
「ふーん。じゃあそういうことにしといてやんよ。」

で、また雑誌に目をやる、と。
なんだかこいつ俺の扱いに慣れてね?まるで桐乃みたいな・・・。

「おいおい、女の子と二人の時は別の女のこと考えんなヨ。」
「お、オイお前!人の心を勝手に読むな!」
「いや、思いっきり口から出てたじゃネーか。」

どうも俺は心の内を隠すのが度へタみたいだな。
これはもしかして加奈子の好感度下げちゃった?

そんなエロゲー脳を働かせていると、電車が俺たちの目的地で停まった。
どちらが声をかけるわけでもなく、俺たちはほぼ同じタイミングで席を立ち電車を降りる。
さて、こっからが本番だ。
せいぜいお姫様のお使いを真っ当するとしますか。


**********

おれは今、某ファッションショップにいる。

俺は桐乃と違いファッションセンスもないし、男だし。
ここでは多分こいつの役にたつことなんてできないだろう。
と、加奈子い言ったところ

『オメーにファッションセンスなんて期待してねーヨ。
 ただ、一般男子としての感想を聞きたいってだけ。』

ってことなんだそうだ。
一般男子て。俺なんか所詮「可愛い」とか「似合う」とかしか言えねーぜ?
それでもいいんならそれでいいけどさ。

で、俺は今試着室の横で加奈子の帰りを待っている。
女物しか置いていない場所の試着室横で、な。
きっと変態にしか見えないだろう。しょうがねえよ。変態だもん。


「ン、選んできたぜ。覗くんじゃネーからな!」

数着の服を手に提げた加奈子のおかえりだ。
俺はこれからこの服を着た加奈子の評価をすればいいらしい。
加奈子のことだから大丈夫だろうけど、もし圧倒的に似合わなかったらどうしよう。
正直に似合わないって言ったほうがいいのかな?
桐乃の時はこんな心配しなくて良かったのに・・・。女の子と出かけるのって、思ってたより辛い。


「お待たせ。ど、どうよコレ」

・・・俺の心配は、無駄だったみたいだな。
正直に言おう、超可愛い。
俺はファッションに詳しくないから、アレがこうだとは言えないけど。
見えてるままに言うと、超可愛い。

「ど、どう?もしかして似合ってなかった・・・?」
「い、いやいや!超似合ってる!超可愛い!」

むう、いつもとのイメージの違いに唖然としてしまった。
俺はファッションに詳しくないので、
でにむとか、ぱーかーとかそんなんは分かんねーけど
とりあえず似合っている、それは確実に本音だ。
誰かこれを絵にしてくれないだろうか・・・。

「そ、そう。まあ、当たり前だけどな!」

そんな口を叩きながら無い胸を撫で下ろす加奈子。
コイツも、もし似合わないって言われたらどうしようって思ってたのか?
・・・俺が思ったよりも可愛いところがあるやつなんだな。

*******************
その後、服を購入した俺たちは店を出る。
もちろん、先ほどの服が入った袋は俺の腕にさがっているが。


「で、次はどこ行くか決まってんのか?」
「ぶっちゃけさ~、急いできたから加奈子昼飯食ってないんだよね~。」

そういえば、俺も昼飯食ってなかった。

「俺も昼飯がまだなんだ。なんなら今から食いに行くか?」
「あ、いいの?じゃあそうしようぜ!」

てなわけで、次の俺たちのイベントは『一緒にご飯を食べる』になった

「決まったのはいいけど・・・。どこに食いに行くんだ?」
「京介はどっか行きたい所とかねーの?」
「特に無いな。お前はどっかないのか?」

加奈子は俺の問いに、少し考えて答える。

「あるっちゃああるけど・・・」
「じゃあ俺はそこでいいよ。あ、でも高級レストランとかはやめろよ?」
「そんなんじゃねーって。あそこなんだけど。」

加奈子は俺たちから向かって右側にある店を指差す。
なんだあれ・・・。カフェにしては外観が和風な・・・。
でもまあ、予想外の展開が無い限り大丈夫だろう。あそこにするか。

「お前が行きたいんなら、あそこにしようぜ。」
「マジで?あ、ありがとうな」

加奈子から素直にお礼が飛んでくる。
初めて会ったときに比べて、なんか反応が変わってきているのは気のせいだろうか。
なーんて疑問を抱きながらも、俺は加奈子が行きたいと言う店に向かうのであった。


「「「よく参られました、殿、姫。」」」

よ、予想外の展開キターーー!
なんだ此処は! 店員が全員忍者の格好をしていて、男を「殿」女を「姫」と呼ぶ
きわめて異例な状況だ。こんなカフェが京都四条以外に存在しているとは・・・。

「いやー。この忍者カフェ、一回入ってみたかったんだよねー。」
「入ってみたかったって・・・。ここ案外高級そうだぞ?」
「だーいじょぶだいじょぶ。入ってみたかっただけで量は食べないから。」

本当だろうな・・・。

「とりあえずなんか頼もうぜ。加奈子、スーパー腹減ってんだよね。」
「お前、さっき服買ってあんまり持ち合わせないだろ?食事代ぐらいだしてやるから、なんか頼めよ」
「え、いや悪いってそれは・・・。」

一応拒否するんだな。こう言う所以外としっかりしてるな、コイツ。
でも俺がお代持つって言ってるんだから、この厚意ぐらい受け取ってくれないかな。

「いいからいいから。」
「・・・。そっか。これ断ったら京介の顔がねーもんな。お言葉に甘えさしてもらうよ。」

コイツと関わり出してからと言うもの、何度か加奈子に心を読まれているかのような出来事が起こっている。
今回もそうだ。なんだってコイツはこんなに人の気持ちを理解できるんだろうか。


俺たちは各自頼みたい物を頼み、料理が来るのを待っている。
待っている間、加奈子にこんなことを聞かれた。

「つーか、オメー本当に今まで一人、しかも2,3週間しか女と付き合ったこと無いの?」
「あん?ねーけど・・・。なんでだよ?」
「いや、やけに勘が言いというか・・・。こう、行動が女の子の心を刺激すんだよね。」

なんか、デジャヴ。
黒猫とデートをしたときも、こんなことを言われた気がする。
俺としては、やりたいことをやってるだけなんだがな。相手が女の子だと下心も1割ぐらいあっけど。

「別に、俺は思ったことをやってるだけだよ。相手が男でも、な」

俺が夏休み中、御鏡にしてやったように。

「ホモ?」
「違う!」

瀬菜と離れてるときぐらい、俺をホモにするのはやめてくれ・・・。

「ほんと、お人よしだな。京介って。人に世話してないと生きていけないタイプ?」
「はは、そうかもしんねーな。」


こいつとの会話にも、大分慣れてきたもんだ。
この雑談で時間を潰したからか、料理は思ったよりも早く俺らの元に届いた。

「いただきますっと。」
「健やかに食べたまへ、加奈子君。」

冗談を交わしつつ、俺たちは食事を口に運ぶ。
ここで一つ驚いたことがある。加奈子、食うペース速すぎ。
俺の一口と加奈子の二口のペースはほぼ比例しているといってもいいだろう。

「お前な・・・。女の子なんだからもっとおしとやかに食べられないのか?」
「ん?べも、あんばびびらば・・・」
「口に物を入れながら喋るなよ。せめて飲み込んでから・・・」
「でも、あんまり知らない人の前ではちゃんとゆっくり食べてんだぜ?」

飲み込むのも早いんだな。サイヤ人かコイツは。

「目の前にいるのが京介だからな。気が緩むと、食べ方が汚くなっちゃうんだよね。」
「桐乃にもよく、注意されちまうんだけど・・・。そんなに汚い?」
「正直、女の子っぽくねーよ。」

それにしても、もう俺には気を許してくれてるんだな。
それはそれで、悪い気は全くしないんだけど。


「でもしょうがねーだろ?これが加奈子なんだもん。」
「まあ、無理して自分らしさを消しちまうよりかはいいんだろうけどさ・・・」
「じゃあ、いーじゃん!モグモグ」

はあ、全く。
結局その後も加奈子の食べるペースは変わらず
俺の2倍ぐらい量を食べていた加奈子と俺が間食した時間が同じなんていう
奇天烈なことが起こったりしたな。こんなに食ってるから腹がぷにぷになんじゃねーの?

「ふー。お腹一杯。あ、ごちそうさま~」
「はいはい、お粗末さまでした。」

俺が作ったわけじゃないけど、なんだか気分でそう返す。
加奈子が店を出て、俺はレジに向かい代金を払う。

「合計で21000円になります。」

      • 。ホーリーシット!
加奈子のヤツ・・・どんだけ食うんだよ!
これじゃ高級レストランと変わらんじゃないか。
俺の財布は、今日からものすごく寒くなりそうだ。

お財布から逃げていったお金に未練を抱きながら、俺は店を出た。

************

「はぁ~、おいしかったぁ!また行きてーな。」
「今度は、桐乃達と行くとか、いいとおもうぞ。」

俺の財布にはとっても良くないから。
遅めの昼食をとった俺たち。時刻は3時30分。

「よし、次はどこ行くか決まってんのか?」
「そうだなァ、次は・・・」

加奈子が次の目的を口にしようとしたとき、
明らかに運転がヘタクソなバイク(ペーパードライバーか?)
が俺たちに向かって走ってくる。
なんか怖いな。俺たちの前でバランスを崩されでもしたら・・・。

「加奈子。あのバイクに気をつけ――って!」

早速バランスを崩しやがった!
ハンドルにそんな荷物掛けるからだよバカ!

「あ、あわわっ!」
「か、加奈子!危ないっ!」

俺は加奈子の服を地面に置き、加奈子をかばいに入る。

そして、身体に衝撃が走った。

************

「ご、ごめんなさい!大丈夫でしたか?運転に不慣れなもので・・・。」

「クソドライバー!オメー、前から人が来てんだから気をつけろってんだ!」
「・・・京介? だ、大丈夫?」





「あ、ああ。なんとか大丈夫だ。」

今のは死ぬかと思った。
向かってきたバイクから加奈子を守るため、俺は加奈子に体当たりにも似た回避高度をとらせ、
なんとかバイクを避けた後、地面に叩きつけられた。超痛い。

「大丈夫ですか!?すいません、運転にはまだ慣れてなく・・・て?」
「いや、大丈夫ですよ。こちらの不注意でもあった・・・し?」

沈黙。

「あ、赤城ィィィィィィィィィィ!」
「こ、高坂ァァァァァァァァァァ!」

なんと諸悪の根源は友人、赤城浩平だった!
そりゃあ運転下手だわな!夏休みに免許とったばっかだもん!


「何?京介?知り合いだったの?」
「ああ、ゴッテゴテの知り合いだ。気を遣って大丈夫だって言ったのが勿体ねーや。」
「そう・・・。それはいいけど、さ。」
「ん?どうした?」

何で顔赤らめてんの?どっか痛めたか?

「あのサ・・・出来れば。は、早くどいてくんね?恥ずかしいし。」
「え?」

え?

・・・えええええええ!?
オーマイガッ!俺はなんてことを!
簡単に説明しよう、加奈子に体当たりしたままの体制である俺は
今現在加奈子に覆いかぶさるような体制になってしまっていた。

「わ、悪い!すぐどく!」

俺はすばやく加奈子の上から飛び退く。

「まじでスマン!本当に故意じゃなかったんだ!」
「わ、わかってるっつーの。別に気にしてないし。」


照れ隠しも入って、俺たちはすばやく立ち上がる。
が、立ち上がった瞬間俺の右足に痛みが走る。

「痛ってて・・・。」
「おい、大丈夫か高坂」
「大丈夫だけど、忘れるなよ?お前のせいだぞ?」

迷惑なヤツだぜ全く。

「京介、本当に大丈夫なのかヨ?」
「まあ歩くのに支障は無いけど、長時間歩くのはきついかな。」
「・・・はあ、しょうがネーな。今から京介の家戻るか。そんな足じゃデートってわけにもいかねーし。」

え?俺の家?加奈子が?
・・・。まずいぞ、今日は桐乃が家に・・・。

「もしもし、桐乃?オメーの兄貴が怪我したから、送り届けるわ。うん」

行動が早い!しかも桐乃にデートの件は隠さないのかよ!
電話で口論になるのでは・・・と思ったのだが。加奈子はすぐに電話を切る。

「じゃ、行くぞ。」
「き、桐乃はなんて?」


「ぶぇーつに?待ってるって言ってたよ。」

あれ、案外普通なんだな・・・。
油断は出来ないけど、とりあえず今は加奈子の言葉に甘えよう。

「じゃあ、言葉に甘えて一旦家に戻ることにするよ。」
「じその荷物は俺が高坂の家まで持っていくよ。家の前でまってるからな」
「ああ、悪い。帰りにまた事故起こすんじゃねーぞ?」
「大丈夫だよ。そもそもさっきの事故は、瀬菜ちゃんのホモゲーをハンドルに掛けてたのが原因だからな。」

赤城は「同じ間違いは二度と犯さん。」と言って荷物を二台に乗せて走っていった。
運動神経はいいほうなのに、バイクの運転はさっぱりなんだな。
こんなんならラブドール買っといたほうがよかったんじゃねーの?

「じゃ、行くか。歩ける?」
「歩くくらいなら大丈夫だって。それに、お前に肩を貸してもらうわけにもいかないだろ。」
「それもそうだなー。とりあえず、電車乗るか。」

俺たちは行き道に乗った電車に乗り、俺ん家から最寄の駅に向かう。
行き道はあんなにオロオロしていた電車の中も、今となっては心地いい。

「なあ、京介、ありがとうな。」
「ん?それはなんのお礼だ?」
「助けてくれたことの、お礼。京介が加奈子に体当たりしてくれなかったら、
 バイクが加奈子に直撃してたかもしれないじゃん。それに足まで痛めて・・・」

「別にいいよ。足なんてかすり傷程度だしな。」
「それに、目の前で大切な物が傷つくのを見るのに比べたら、なんてことねーよ。」

そこで加奈子は顔を赤らめてうつむいてしまった。
やっぱりちょっとキザ過ぎたかな?

「この、乙女心殺しめ。」

そんな加奈子の声と同時に、電車は目的の駅へ到着する。

「ああ、帰ってきた。3時間の旅を終えてマイタウンへ帰ってきたんだ。」
「はいはい、馬鹿なこといってねーで京介ん家行くぞ!」

加奈子にあしらわれるだと・・・?

****************

それから、家の前で瀬菜と電話をしながら俺たちを待っていた赤城と合流し、家へ入る。
さて、どう出る・・・。我が家の隠れた悪魔(桐乃な)!
かなり身構えてドアを開けた俺だったが、俺を出迎えたのはお袋だった。

「た、ただいま」
「おかえり、京介・・・アンタ、どうしたの?車にでも轢かれた?」
「そんなんじゃ足引きずるだけですまねーよ!?色々あってな。」

どうして家の女共は 怪我=交通事故 なんだよ?
いや、今回はあながち間違ってないけども!
むしろ轢かれればいいのにってこと?そうなのか?泣くよ俺?

「「おじゃまします。」」
「あらあら、浩平君と加奈子ちゃんじゃない。今日はまた変わったメンバーね?」
「加奈子ちゃんは桐乃に用事?なら二階に―」
「い、いえ。今日は京介君に用がありまして。」
「あらそう?なら、京介の部屋は桐乃の部屋の隣よ。どうぞ上がって。」

お袋、赤城にも構ってやってくれ。
いやまあ小学校からの付き合いだから当たり前みたいになってるのは分かるけども。
加奈子だけに絡んでニヤニヤしながら俺を見るのはやめてくれ!


「はあ、全くお袋のやつ・・・」
「とりあえず、部屋に上がろう。話はそれからだ。な?高坂。」
「赤城、なぜお前が仕切る!」

コイツ・・・友人をバイクで撥ねかけといて、図々しいやつだ。

「あ、加奈子。やっと来たんだね。」

ら、ラスボスが出やがった!

「ヨ、桐乃。悪いな、急に着ちまって。」
「いいのいいの、加奈子とせなちーのお兄さんは兄貴をつれてきてくれたんだから。」
「ま、とりあえず兄貴の部屋に上がってよ。ここの階段上がったとことだし。」

おい、俺の部屋は公衆トイレか?
鍵が無いとは言えフリーすぎるだろ。

桐乃と加奈子、俺と赤城が別々に話しながら階段を上る。
そして4人で(人口密度が高いが)俺の部屋へ入り、一息。

「ここが京介の部屋ねー。やっぱ想像通り地味だな。」
「るっせーよ。いいだろ、別に。」

にして、デートから部屋へ上げるのは間隔が開くもんだと思ってたが、まさかの一日で両方を済ませてしまうとはな。


「じゃあ、兄貴は怪我の手当てするからリビング来て。」
「別にいいよ。大した怪我でもねーし。」
「いーいーかーらー!早く来る!」

俺は桐乃に引っ張られて部屋を出る。
痛い、足痛いって!

「桐乃、加奈子も行こうか?」
「いいよ、すぐ終わるから。」

そう言って加奈子を部屋に残す。
まて、俺と桐乃が抜けたら部屋に残るのは赤城と加奈子・・・。
スーパー接点のない2人の気まずい空気が流れてしまう!
許せ、加奈子。すぐ戻るから。

「はい、そこのソファに座って。」

ここ最近で妹に2回怪我の治療を受けている。なんだこの状況は。
妹の手荒な治療に俺が悶絶していると、桐乃は俺の足にクルクル包帯を巻きながらこう聞いてきた。

「ねえ・・・。アンタ今日加奈子とデートしてたんでしょ?」


「べ、別にデートとかそんなんじゃねえよ!」
「でも加奈子からはデートって聞いたモン。」

加奈子のヤツ・・・。
電話で桐乃と俺の話したじゃん!

「デートに付き合うくらいなら、もしかしてアンタ加奈子のこと好きなの?」
「・・・。」

どうなんだろうな?
ここ最近加奈子と関わってきて、俺の気持ちに変化があるのは分かっていた。
でもこれは好きっていう感情なんだろうか。黒猫へ向けていた感情とはまた別の感情。
それは恐らく、スタート地点の違いからだろう。
黒猫の場合元々俺とも直接つながりを持った人間だが、加奈子は違う。
あくまで始まりは桐乃とあやせからのつながりだ。

どうして、こんなに迷っちまうんだろう。
多分、大切妹の友達って言うイメージを消しきれていないからだ。
妹の嫉妬心を知ってしまった以上、妹の友達を好きになるのは抵抗がある。
・・・はあ、俺って本当に最低な人間なんだな。人一人を素直に愛せないなんて。


「そんなに悩むならいいよ。」

妹に呆れられてしまった。
そりゃそうだろうな、こんな兄貴だもん。でも・・・

「もし、俺が加奈子のことを好きになったとして。お前はどう思うんだ?」
「そんなん、決まってるじゃん。黒猫の時と一緒だよ。」
「アタシはアンタの一番でいたい。だから遠慮せずアンタの恋を邪魔する。」
「おまっ!それは卑怯だろうが!」
「卑怯なんてないもーん。アタシの好きな人が他にいないのに、アンタだけ出来るとかありえないし。」

全く・・・当分俺の恋愛は上手く行かなさそうだな。

「でも、加奈子がアンタのこと好きってなら、形だけでも受け止めるしかないよね。」
「お前は、それでいいのか?」
「よくない、良くないよ。でもしょうがないでしょ?」


そういって笑う妹は、どこか儚げで・・・。
思わず見とれてしまいそうだったが、その顔に加奈子が被ってすぐ消える。
恐らく加奈子は、桐乃の言うとおり俺に好意を抱いている。これはさすがに俺でもわかる。

ここで俺が桐乃を選んでしまったら・・・。加奈子に同じ表情をさせてしまうだろう。
俺はどっちにもそんな表情をして欲しくはないんだ。
どうすれば、二人ともいつまでもわらっていられるんだろう。
つーか俺なんでこんなこと考えてんの?


・・・。
それは多分、俺が加奈子のことを

「ハイ、治療お終い!」

バッシーン!
桐乃が俺の患部を思い切り叩いた。

「痛ってえ!お前、二回目だぞ!」
「気にしない!ホラ、アンタの部屋戻るよ。」

そうだ、忘れてた。俺の部屋に流れているであろう気まずい空気を早く解かねば。
俺は桐乃と並んで、階段を上がる。ちょっと足痛い。
そして、部屋のドアノブに手をかけたとき、こんな会話が耳に入ってきた。


「う、うわ!本当に眼鏡ばっかり。京介、こういう趣味だったんだ。」
「だから言ったろ?高坂の趣味は偏ってるんだよ。」
「えーと、俺が金を出したAVは・・・お、コレだ。」


気まずい空気は流れていないが、他の空気が流れている気がする。
恐らく、今は俺の秘めたる部分が今あらわになっているんだろう。
ハッハッハ!そんなことをしたって俺がとる行動は決まってるぜ?
俺はドアを開け放って、こう叫ぶ。

「お願いします。返してください!」

もちろん頭を床にこすりつけながら、な。

**********

結局その後、コレクションを取り返した俺は部屋で皆と一服している。
桐乃のプリクラだけ他の場所に移しておいてよかった・・・。

「じゃあ、俺は帰るわ。高坂、早く怪我治せよ。」
「おう。怪我させたのはお前だけどな。」

俺たちは挨拶を交し合う。そして赤城が俺の部屋からいなくなる。
現在俺の部屋には、見た目が超可愛い中学生が2人いる。
なんだこの状況は・・・。


「アタシお菓子持ってくるから、ちょっと待ってて。」

次は桐乃が退室。
現在超可愛い中学生が隣に一人。
距離が近い。っていうか、腕当たってる。
こいつ、電車と違って広いのに何でこんなに密着してくるんだ・・・。
で、目が合う。

・・・。
・・・・・。
目を見詰め合ったまま、沈黙が耳元で騒ぐ。
何だこの間。ターニングポイント?

いつのまにか手が当たってるんだけど!
ここはもう・・・行くしかないのか!

「加奈子」「京介」

oh... まさかの相打ちだと!?

「ど、どうした?」
「京介こそ。」

そしてまた沈黙が訪れる。
なれたはずだった加奈子との間に気まずい空気が流れる。
そこでタイムアップ。桐乃が入室。


「ごめん、待った?」

「べ、別にまってねーヨ。」
「そ?じゃ、遠慮なく食べてね。」

桐乃はそういうと携帯を弄くりだす。
それにしてもさっきの状況はなんだったんだろう。
もしかして何もしなかったのはまずかったか?
早くも先ほどのことを後悔していると、俺の携帯にメールが届いた。

『From,桐乃
      この、意気地なし!』

全く、コイツには頭が上がらないよ。


俺はこれからのことを考え、加奈子は食い、桐乃は呆れる状況がしばらく続いた頃、

「じゃあ加奈子も帰るわ。京介、今日はありがとうな。」

長かった今日のデートが終わろうとしていた。


「そ、そうか。じゃあ玄関まで見送るよ。」
「いいっていいって。足怪我してんだし、桐乃だけで充分。」
「アタシは強制なんだね・・・。」


「じゃあな、京介。またいつか。」

そういって加奈子は俺の部屋から出て行った。
なんだろう、この全てを失ったような感じは。
おそらくこれからもメール等で連絡は取れるだろう。
でも、今日の昼からずっと視界の中にいた加奈子が視界から消えると胸に寂寥感が襲ってきちまうんだ。

ずっと傍にいてほしい。ずっと声を聞かせて欲しい。
こんなことを思うのは、多分。いやきっと。



―――俺が加奈子のことを、好きになってしまったからだ。


「さーて・・・。これからどうすっかな」

芽生えた自分の気持ちに気付いた俺は、これからのことを考える。
桐乃も加奈子も、強いて言えば黒猫も幸せにしてやりたい。

でも俺はその中の一人を好きになってしまった。


加奈子が残していったもの。
それは身体のところどころに残っている加奈子の感触と
俺の脳内へ残ったモヤモヤだった。

この後俺は、どうすればいいんだろうか。
ベットに寝転がって天上を見ながら考える。
みんなの幸せを、なんて欲張りを言ってる場合じゃないんだ。
それでも・・・


「答えなんて・・・。一つしかねーやな。」



俺は最後に残った加奈子の手の感触を、強く握り締めた―――

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最終更新:2011年05月25日 07:32
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