純情スローペース「告白編」



「加奈子、明日公園に来てくれ」

俺がそう加奈子に話したのは昨日の夜。

先日加奈子が帰った後、俺が出した答え。
それを実現するためだ。

こんな俺でも結構悩んだんだぜ?

俺を取り巻く皆を、幸せにすることは出来ないのか。
二兎追うものは一兎も得ずとはよく言ったもので。
やはり、必然的に幸せの裏には不幸せが生まれてしまうんだろうか・・・。

そう悩んで、出した答え。
それを今から、伝えにいくんだ。

・・・。

なんか、超緊張してきた。


***********

現在俺は、公園にいる。
いつかあやせと奮闘したあの公園だ。

待ち合わせ時間より大分早く来ちまったけど・・・
加奈子のやつ、また遅刻したりしねーだろうな。

・・・さて、待っている時間はどうしようか。
暇だから俺の生い立ちを・・・え?いらない?
じゃあ俺が悩んだことを少し聞いていただこうか。

みんな、こんな経験はないだろうか?

気になる娘が近くに何人もいてしまう状況。
もしこの中の誰かが自分のことを好きになってくれ、告白されたとして
他の気になる娘と付き合える可能性を捨ててしまいそうだから付き合えない。
でも告白してくれたことも付き合いたくてうわああああああああああああああああああああああ!

ってこと。
俺が置かれている状況が、好きを幸せに置き換えたそれだ。
俺は加奈子が好きだ。強いて言えば黒猫も、あやせも。そして・・・桐乃も。


この全員を幸せにしてやりたい。
でも誰かの幸せを優先すると誰かが不幸せになる。
全員の幸せを取ることは・・・そんな欲張り、恐らく出来ないだろう。

それでも俺は・・・って!加奈子来た!

俺の視線の先には、公園の入り口を通過した制服姿の加奈子がいた。
アイツも何分鋭いヤツだ。これから起こることを大体理解しているだろう。
少し俯いて、ゆっくりと俺に近づいてくる。

「お、おう。今日はどうしたの?」
「いや・・・。ちょっと、伝えたいことがあってな。」

そこで加奈子の身体がピクッと動いて、すぐ止まる。

「でも、今から言うことはお前が喜ぶ話じゃないかもしれない。それでもいいか?」
「え?」

加奈子が素っ頓狂な声を上げる。そりゃそうだよな。
告白されると思ったら、楽しくない話をする宣言をされるなんて。

「うん・・・。いいよ。」

でも、それを受け止めてくれる。コイツはそういうやつなんだ。

・・・さて

黒猫に捧げると決めたはずの、初めての告白。
昨日黒猫に電話で「他の人に告白をあげてもいいか」という話をしたところ
「・・・勝手になさい。私があなたの行動を制限する権利は無いわ。」
とのことだった。黒猫の悲しみを押し込んだ声は、本当に聞いていて辛かったが。

「加奈子。」
「っひゃ!はい!」

「俺たちさ、最初は妹繋がり、仕事繋がりの仲でしかなかったよな。
 お前が家に来たときも、きっと交わることなんてないんだと思ってた。
 そしたら急にお前からメール来てさ・・・。ビックリしたよ。」

「か、加奈子だって結構勇気振り絞って送ったんだからな!」

「へへ、そーかい。でもそのメールのおかげで俺たちの距離を縮められた。
 本当に感謝してる。あの時メール送ってくれて、ありがとうな。」

「別に・・・。加奈子がやりたくてやっただけだし。」



「それでも、だ。あのメールが無かったらきっとこんな気持ちも芽生えなかった。
 電話も出来なかった。二人で出かけたりも出来なかった。
 そんな俺の人生に楽しい事を足してくれたのは、加奈子だからな。」

「・・・うん。」

「今まで知ろうとしなかったことを知って、理解して。
 いつ頃ぐらいからか忘れちまったけど・・・。」


「俺は、加奈子のことが好きだ。」

ああ、言ってしまった。
いま俺は、多くの可能性を切り捨てた。
その分、新しい可能性を信じて。

「京介。」

「ど、どうした?」

「ありがとう。こんな加奈子のこと好きになってくれて。
 どんなワガママも受け止めて、理解してくれて。
 ・・・本当にありがとう。加奈子も京介のこと、好きだよ。」

そして返事が返ってくる。
こういう返事が返ってくると分かっていたにせよ、ものすごい安著感。
でも、これから俺はこの加奈子にとって辛いことを言わなければいけない。
それを加奈子が受け止めてくれるか・・・。

「そうか、じゃあ晴れて両想いだな。」

ちょっと冗談っぽく空気を和ませて、本題に入る。

「でも、加奈子。俺は今まだ前と付き合うことは出来ないんだ。」

「・・・。」

沈黙が痛い。
でもこれは、伝えておきたいから。

「お前にも前話したよな。桐乃や、瑠璃のこと。
 俺がお前と今付き合ったら、アイツらは傷ついちまう。」

「・・・。」

「いつかアイツらが強くなって、全てを受け入れられるようになるまで、
 俺が不幸になるって決めたんだ。」
「でもそれは、お前まで巻き込んじまう。
 そんなわがままな俺でも、お前は好きでいてくれるか?」

これが、俺の出した答えだ。
欲しいものがいくつもあるなら、欲張っちまえばいい。
自分を不幸にしてでも、幸せになってほしい人がいるから。
もしこれを加奈子が受け止めてくれないのなら、俺は加奈子を諦めるしかない。
それは、先日から決めていたことだ。


強いて言えば、不幸になるのは俺だけでもいいんだ。
俺より良い男なんていくらでもいるだろうから
加奈子達には他の幸せを見つけてもらえればいい。

もっとも、それを選ぶのは加奈子なんだけどな。
加奈子はどんな答えを出すんだろうか。いまだに沈黙が続いている。
何分続いているかは分からない。
一秒かも知れないし、十分以上かもしれない。
そんな沈黙を蹴散らすように、加奈子がゆっくりと口を開いた。

「・・・ホンット、お人良しなんだから。」
「しょうがねーだろ。こういう性格なんだよ。」

「でも、加奈子が好きになったのはそんなお人好しな京介だから。
 いつまでだって待ってやんよ。」

「そもそも付き合うのと他人はノーボーダーだから!
 お互いが好きでいられるなら、それでいいじゃんヨ!」

強がりかと思えば、どうやらコイツこれを本心で言ってるらしい。
なんだか・・・、俺って思ったより愛されてんの?

「本当に、いいのか?」
「男と加奈子に二言はないの!」
「うわわッ!」

話の流れを無視し、加奈子は急に俺の胸に飛び込んできた。
これってもう、付き合ってるのと変わんないんじゃね?
そんな疑問は、君達の澄んだ心の中にしまっておいてください。
加奈子は俺に抱きついた状態のままで、こんな話を始めた。

「こんなことになってるのも、全部加奈子のメールのおかげだぜ?もうちょと感謝したらどうヨ?」
「そういえば、お前なんであの時メールしてきたんだ?」


「加奈子はさ、メールする前から気になってたの。京介のこと。」

衝撃の事実。
加奈子の中にいる俺は、最初から桐乃の兄貴っていう立場じゃあなかったみたいだ。

「いつからだったかな。多分、2回目にマネージャーやってくれたぐらいだったはず。」

「加奈子、人を好きになったことってあんまなくって。
 マネージャーやってる京介と喋ってるときに気付いたんだ。
 『ああ、これが人を好きになるってことか』って。」

ブリジットにナンパの方法しか教えなかったのはこのせいか。

「でも、オメー急にいなくなっちゃうからさ。
 そりゃもう必死に探したんだよ?そしたら、桐乃の彼氏に会って・・・。
 そこから最初のメールにつながるってコト。」

「そっか、なんか悪いな。急にいなくなっちまって。」
「ホント、もっと反省しろよな。」

あんな告白の後だというのに、こんなに冗談を交し合える。
これってなんでだろう?性格が合ってんのかな?

「つーか、さっき京介ばっかり喋ってアタシの気持ちがあんまり言えなかったんだけど。
 初めての告白のイメージが丸つぶれだよー!」

「そこでも怒られんの!? いいじゃねえか、今からでも言っちまえよ。」

「え!? いや、それは恥ずかしいって言うか・・・」
「俺だって恥ずかしかったよ。ホレ、言ってみ。」

「うぅ・・・。京介のバカ。」
「バカで結構!さあ、どうぞ。」

「わかった、言えば良いんでしょ?!」
「・・・。いざとなればなんて言って良いかわかんネーな。」

「散々じらしてそれかよ!」

「でも、加奈子が京介を好きなのは嘘じゃないから。
 いつまで待たされても、ずっと待ってるから!はい、お終い!」

そういって照れ隠しかそっぽを向いてしまう。
なんだか今はこういう仕草がいつにも増して愛しい。


「で・・・。いつまで待てばいいの?」

ッ!油断したらキラーパスが飛んできやがる!


「いつまでって・・・。瑠璃達が好きな人が出来たりして、
 俺が加奈子と付き合うのを受け入れられるようになるまで?」

「そっか。じゃあいつまで経っても無理かもしんないな。
 オメーみたいなお人好し、忘れようと思っても忘れられネーだろ。」

あら、恥ずかしいこといってくださるのね。

「別に、忘れられなくても受け入れられるようになる日が来るだろ。」
「そうだといいけど・・・。」

そう思うと、付き合うまでかなり時間が掛かってしまいそうだな。
ただでさえ好きな気持ちを伝えるのに時間が掛かった俺たちのことだ。
きっとこれから何をするにも、俺たちは多くの時間を費やしてしまうだろう。

たとえばキスだったり、エッチなことだったり。

「京介、変なこと考えてる?」
「別に。」


桐乃達が全てを受け入れられるようになったら・・・また、ここで告白しよう。
それまでどれくらいの時間が掛かるかは分からない。

メールから始まって、驚くぐらい無垢で純粋な愛情をゆっくりと育て上げてきた俺達だ。
きっとどんな時間の流れにも、耐えられるはずだから。
それが5年後であろうが、10年後であろうが。
それまでずっと、加奈子を離さずに手を握っていてやろう。
加奈子から離すことはあっても、俺からは絶対に離さないでいよう。

いまは、加奈子に対して純粋にそう思える。

これからどんなスローペースで俺達の恋がすすんでいくんだろうか。
そんなことは誰にも分かりやしないだろうけどさ。

「京介」

どうした?

「これからもずっと・・・一緒にいような。」

あたりまえだろ?






優しい風が、俺達を撫でる。
またここで、こうやって風に撫でられることがあるなら。

そのときはきっと、繋がっていよう。



お し ま い

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最終更新:2011年05月31日 06:55
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