秘密の関係 02

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 ……これでわかっていただけたと思う。
俺が黒猫の胸を触りたがった理由も、ついでにわかっていただけたと思う。
 誤解を恐れずに言うが、俺はあやせに指一本触れちゃいない。指一本、触れさせてもらえない。
俺が一晩かけて立ち直り
(妹の罵詈雑言に微かな喜びすら感じる男が、あやせの暴行などで再起不能になったりはしないのだ。
「むしろお得じゃね? 俺ってすっげえ恵まれてんじゃね?」という程度の発想転換は容易い。
男だてらにビッチお兄さんと日向ちゃんに呼ばれてはいないのである……あの年頃の子供って恐ろしく鋭いからなぁ)、
爾来週二三回くらい、桐乃の居ぬ間を見計らって押しかけられるようになったわけだが、
勉強(DVDって実用目的で真剣に観ると全然興奮しねえのな。理性さんまじパネェ)も
深爪(桐乃にあからさまにキモがられ、お袋にはめっちゃにやにやされ、
それから親父が妙に優しくなった。俺ってどんだけ家族になめられてんだよ)も徒労だった。
あやせは俺になにもさせてくれないのである。
毎度毎度「触ったらブチ殺しますよ? にぎりつぶしますよ?」と事前に釘を刺す。
それでもちぢみあがらないのが我ながら不思議なものだ。
あやせの機嫌が悪い日なんか、ベッドに四肢を縛り付けられもした。


 俺がマグロ暮らしに適応して行くにつれ、あやせも俺の扱いに熟達して行った。
「てめーどこでンなテク覚えたんだ」
と俺が嫉妬剥き出しで問うと、少女向けの雑誌に書いてあったという。
『処理』を効率よくするために、勉強したのだという。
その後あやせの持ってきた雑誌を見せてもらったが、
オタクどもが現実の女性をばいた(←なぜか変換できない)と見なし、
二次元の世界に没入する気持ちがわかった気がした。
二次元よりこっちを先に規制すべきじゃないのかとさえ思った。
ようはエロ雑誌顔負けの内容である。気違い読本である。
 恋愛は小説の子であるとはいうものの、
この手のイカれた記事を鵜呑みにするやつはさすがにいないだろうと以前まで俺は思い込んでいた。
ところが世の中にはあやせみたいな思い込みの激しい女の子がいるものだ。
「お兄さんの変態なご趣味に、つきあってあげてるんです」
そうしれっと主張するあやせは、俺を罵ったりじらしたり、名状しがたい画期的な行為をしたりして、
「今気付いたんですけどこれ、いいダイエットになるかもです」
などと、それはそれは楽しそうで、
俺の「いくらなんでも多彩すぎんだろ!」
という突っ込みには耳を貸さない。


 のみならず――
「ところで、加奈子のことなんですが……」
「加奈子? あいつもうオワコンなったの?」
「いえ、そうじゃなくてですね……あの娘と、してみたくないですか?」
「ちょっと待て。何をだ」
「ほら、あの娘ってかわいいから、なんというか、いじめたくなりません? 
桐乃の家で遊ぼうって呼び出して、わたしとお兄さんが二人がかりでしちゃえばって……
あの娘、ああ見えてすっごく初心(うぶ)なところありますし、ちょろいと思うんですよ」
「このレイパー! 通報しますよ!」
 こ、こいつ、友達をなんだと思ってやがる。奴隷? ペット? 3■(ピー)要員?
「いけませんよお兄さん。正しくはレイピストです。受験生なんだから間違っちゃだめですよ」
 レイパーあやせは優等生、末世の観も甚だしい。
「お兄さんにはがっかりです」
「そんなこと言っておまえ、俺をロリコン犯罪者に仕立て上げるつもりだろう」
「いくじなし。…………お兄さんが……じゃ、桐乃も……」
「なんか言ったか?」
「な、なんでもありません! さっさとパンツ脱いでください! 三十秒で支度しなきゃブチ殺しますよ!」
「やめて! タナトス眼鏡はもう嫌だ!」
「せっかくお兄さんのために用意してあげてるのに……どうして嫌がるんですか」
「あやせ様がノリノリすぎるからぁ!」
「気持ち悪っ! あれは演技、そう、演技に決まっているでしょう!」
「それはそれで凹むぜ……そうか、そうかそうか、そうかがっかりだ。あやせはどうせ俺なんかが相手じゃな……。
……どうせ俺は地味面のキモオタさ
……アニメのコスプレしたら『そっくりすぎて逆にキモい』なんてこき下ろされる不気味の谷男さ……
あやせみたいな美少女と釣り合うどころか親友にもマジ顔で
『なあ高坂、お前と妹さんってさぁ、種ちげぇの?』って言われる出来損ないさ……」
「ちょっ、何いきなり泣いてるんですか! しかも愚痴の内容重くなってません? してあげませんよ!」
「ヤリ捨てるなんて超ひどくね? なああやせ。おまえはさ、俺の体をこんなにしちまったんだぞ? 
俺はもうおまえなしじゃ生きていけねーんだよ? 寂しいと死んじゃうんだよ? 
そこんとこ、ちゃんと責任は取ってもらうからな」
「もぉ、調子のいいことばっかり……いたしかたありません。責任、取ってあげます」
「よし、じゃあ結婚しよっか、あやせ」
「それはお断りします」
「愛のこもったプロポーズを一蹴!?」
「どうみてもセクハラです。本当にありがとうございました……ほんと、死ねばいいのに」
「まったまたぁ。そんなこと言って俺がマジで死んじゃったら、おまえ泣いちゃうだろ?」
「ええ泣きますね、きっと。悲嘆にくれる桐乃を慰めながら、涙を流します
……邪魔なお兄さんを消したおかげで、桐乃が永遠にわたしだけの親友になったんだって、嬉し泣きです」
「突っ込みどころもリアリティもありすぎだよオイ! 『を消した』って何? おまえが下手人なの?」
「わたし流の冗談です。お兄さん風にいうとセクハラです」
「俺の冗談はそんなに血生臭くない!」
「ええ、イカ臭いですもんね。よく知ってます。おかげでわたしも大変ですよ。
この前なんかお母さんに
『あやせ、あなたは女の子なんだから、スルメばかり食べてちゃダメよ』
と言われてしまいました。だいたい、お兄さんのが濃すぎるのがいけないんです。
舌について離れないし、喉にひっかかる感じもずっとずっととれないんですよ? 
男の人ってみんなこうなんでしょうか? またお母さんがなんですが
『ねえあやせ。ごっくんしてあげたときはね、後でしっかり歯磨きしなきゃダメなのよ』
って叱られちゃいましたよ。もう! どうしてくれるんですかお兄さん!」
「うぉぉぉおい! お母さん勘付いてんよ! ぜってーお察ししてんよ! 
つかおまえのお母さんなんなの? PTA会長なのに放任しすぎじゃね? 
PTAって何? 娘のアレは許すのになんで二次元のアレは許さねぇの? 
どんだけ二次元憎んでんの? プロなの? 利権なの? 
男女共同参画的なアレなの? 目指す未来はBraveNewWorldなの? 
なんなの? 死ぬの? オタク死ぬの? HENTAIディレッタントは根絶やしにされなきゃなんないの? 
そもそもどうしてこんな流れになってんの? どうして唐突に会話が下(しも)い方面に転がってんの? 
つーかあやせおまえキャラ違ってね? 俺のブレっぷりも大概だけどおまえ純情潔癖キャラじゃなかったの? 
なんでそんなんなっちゃってんの? なんでそんなに汚れちゃったの? いや俺が汚したんだけどさ」
「ちなみにお母さんはこうもおっしゃいました。『その男の子、今度うちに連れてらっしゃいな』と!」
「ハイ死んだ! ハイ俺死んだよ! もうね、青少年健全育成条例第二十条だよコレ。
二年以下の懲役又は百万円以下の罰金キタコレ。
いや待て落ち着くんだ俺、まだグレーゾーンは残っている。思い出せ、例の文句を……
そう! この物語の『主人公』は十八歳以上だから……って余計アウトじゃねーか! 
ギリギリアウトじゃん! ギリギリで手が後ろに回るじゃん! しかも俺の親父ソッチの人だし! 
とっつぁんに手錠かけられるなんて最悪じゃねーか! もはやホームコメディじゃねーよこれホームサスペンスだよ!」
「ふむ。手錠、ですか……」
「なぜ手錠に反応!? 物欲しそうな顔してんじゃねぇ!」
「まあ、これまでの話は冗談ですけども。具体的には『お兄さんにはがっかりです』と言った後からが冗談です」
「なんだほとんどが冗談だったのかハハハ……って、
加奈子を手込めにしようってアレは冗談じゃねーのかよ! 一番ヤバげなとこだけ本気かよ!」
「この件に関しましてはスーパーでフリーに行きましょう、お兄さん」
「一番ヤバげなフレーズきちゃった!?」
「おやおや言葉狩りですかお兄さん? 謝罪と賠償を要求したって無駄ですよ?」
「逆差別差別用語で返した!?」
「違います。逆差別差別差別差別差別差別差別差別用語です」
「オイオイそろそろきわどいってレベルじゃねーぞどぎつすぎんだろ! 今度はその熟語連呼して狩らせるつもりかよ! 
『例のあの人』みたく呼ばせんのかよ! けど奴隷を社員に呼び代えただけでしたみたいなオチがつくのかよ! 
現代社会においても憎しみの連鎖は断ち切らせねぇって腹かよ!」
「わたし思うんです。どのみち桐乃がわたしだけのものにならないというのなら、こんな腐った世界なんて、いっそ……!」
「ちげーから! これセカイ系ちげーから! 兄と妹のハートフルボッコストーリーだから! 
俺の後輩みたいな電波飛ばすんじゃない! 
ていうかまさかあいつの言ってた『ベルフェゴールの呪縛』の真のラスボスって、ま、ま、ままままさかおまえだったのか! あやせェ……!」
「キョーッキョッキョッキョ! よくぞわたしの正体を見破りましたねお兄さん! 
そう! タナトス・エロスなどしょせん現世における仮の姿、
その正体は死と生命とを司る『闇天使』にして、時と空間とを止揚せし『因果律の破戒者』! 
そうしてその真名はぁっ! 殺める世界の世と書いて――『殺世』なのです!」
「あやせじゃねーか! まんまだよオイ! 俺のラブリーマイエンジェルのまま何一つ変わりねーよ!」
「お兄さんのはじめての相手は桐乃ではない! このあやせです!」
「誰しも一度はあこがれるその台詞!? 俺も超言いてえ! 言ってやる! 言ってやるぞ! あやせのはじ――」
「そうそう、断っておきますがわたしはお兄さんがはじめてではありませんので」
「え、なにそれ、真剣に凹むんだけど……つーか泣くよ? 割ったり破ったりするよ? 俺だけじゃなくてみんなもさ」
「生理のときに痛がってしてみせればすぐ信じるんですから、童貞って、ほんとちょろいものですね」
「ラわーん! おまっ、そんなリアル展開みんな望んじゃいねーぞ! 
かの芥川先生も『現実の女は萌えない』って言ってたんだぞ! たぶん!」
「ちなみに三回ほど堕ろしてます」
「それなんてケータイ小説?」
「むろんいずれも合意のアレです。なおかつパパはランダムでした」
「お尻が軽いだけかよ! レイプとかじゃねーのかよ! 悲しいのは過去じゃなくて頭かよ!」
「まあ、これも冗談ですけども」
「はぁ……今度はどっから冗談だよ」
「言葉狩りむにゃむにゃあたりからです」
「ほとんど全部じゃないか」
「そこらへんから早くも色々と後戻りしにくくなりましたからね」
「それ以前も相当あぶないとこあったと思うんだがなぁ。だいたいおまえを描写するのに放送禁止用語用いざるを得ないし」
「指摘されてもとぼけていられればいいんですよ、ついうっかり表現ミスというふうに。それが風刺というものです。
ごめんねおにいさん日本語不自由でごめんね、って陳謝すればネット憲兵さんたちもひそかな優越感を味わいつつ許してくださいます」
「でもなぁ……冗談だっつっても、叩かれるときは叩かれんだぞ? 
文は人だぞ? 叩きたいから叩くんだぞ? 自己表現の権利だぞ?」
「言葉の間違いっておもしろいですよね。
漢字なんて人前で声に出さなきゃ読み間違えていないのと一緒ですし、お手軽権力意識です」
「だからおまえ、そういう挑発的できわどい言動は慎めって。……いくら読み間違いが民主国家最大の不祥事であってもな……あれ?」
「大丈夫ですって。
今しているみたいにメタっぽい発言を二言三言挿入した後、何事もなかったかのように本題に戻りさえすれば、
形式上はどんな脱線だって見逃していただけます。
まるっとなかったことにできます。自分の言葉に責任を持たなくてよくなるんです。わたしたち子供は大人を真似るんです」
「ごめんねおにいさん日本語不自由でごめんね! 
……で、本題ってなんなの?」
「とうぜん加奈子レイプの件です」
「むしろそっちをなかったことにすべき! 
……ったく、いくら加奈子がチビだからって、おまえにそうそうどうにかされるとは思わないがな。
こないだマネージャーしたおかげで知ったんだけど、あいつ結構すげえやつなんだぜ? 
あの侠気はブリジットちゃんが惚れるのも納得だ」
「フフ、加奈子なんてお兄さんと同じくらいちょろいですよ。
鎖骨と肋骨を同時にくすぐればあっという間に『はにゃ~ん』です。
あの娘ったら涙目でびくびくするんですよ? ほんとかわいいんだから」
「経験者は語る!? ちょ、そういうのもうやめたげて! 
あいつアホなんだから変な世界に目覚めたらどうすんの? あいつアホなんだから! 
それから忘れずに指摘しておくが、お兄さんは決してちょろくはない! ちょろくはないぞ! 
身持ちの堅さは乙女座チックといってもいい! セクハラをするのだって、おまえだけだしな!」
「ふーん……」
「なんだその目は……なぜ俺の頬を凝視する……。――そんなに殴りたいの?」
「はぁ……、今はいいです。
お兄さんのほっぺの件につきましては後日あらためて、じっくりしっぽり伺うことにいたします」
「べ、べつにホッとしてなんかいないんだからね! ……というかさ、何かおかしくないか? 
俺とくろ……。…………おほん。たとえ俺が惚れっぽくてちょろいとしてもさ、それはむしろおまえにとって――」
「で、ですが! 加奈子の頭と胸が残念だという点に関しては同意しましょう!」
「あれれー? 残念リストに付け足しなくない?」
「加奈子ったら
『やぁっ、やめろよぉ! 加奈子アホになるぅ! アホになってしまいますからもうやめてくださいおねがいします』
って散々鳴いてましたもん。あの娘、追い込まれて口調の変わったときが一番かわいいんですよね」

「口調が変わるねぇ……あのクソガキもあれでさ、
将来結婚して娘でも出来たら落ち着いて、物腰の柔らかい、いいママさんになるかもなぁ……」
「――加奈子はお嫁になんかいきませんよ」
「あ、あやせ?」
「だってあの娘は、一生、わたしとお兄さんがお世話をしてあげるんですから……」
「やっぱ俺共犯なんすか!?」
「より正確にいうと主犯です。わたしは心神喪失状態にありますのであしからず」
「責任能力捨てちゃった!? 親父の言ってたMD無罪! 悪質ですよあやせさん!」
「まさかとは思いますが、その『あやせ』とは、あなたの想像上の存在にすぎないのではないでしょうか。
もしそうだとすれば、あなた自身が変態鬼畜ロリコン強姦魔であることにほぼ間違いないと思います」
「とうとう俺の妹の親友が透明な存在になっちゃったよ! ……もうさ、おまえの不健全っぷりにはついてけねーわ」
「『ついてけねーわ』……ですか……」
「え? なに急に青ざめて震えてんの? 涙ぐんだ目ぇ伏せるとか。
何気なく放たれた決定的な一言に乙女心が砕け散りましたーみたいな感じになってない? 
いやさっきの本気じゃないからね? ここシリアスパートじゃなくてギャグパートだからね? 
ほんとはついてけるよ? むしろあやせになら一生ついていきたいよ?」
「……ノーサンキューです」
「ですよねー」
「けど先ほどの『もうついてけねーわ』という言葉は、わたしじゃなくて別の女性に言ってあげてください。
たとえば桐乃がいつも嫌いだ嫌いって言っている、あの邪気眼電波女なんかどうでしょうか。
ぜひとも彼女に言ってあげてください。むしろ言え。
それはもう無神経に、無慈悲に、一切の容赦なく、あの女に言い放っちゃいましょう! 
もちろん弁解もフォローも抜きで」
「あーうん。前向きに検討しておく」
「できもしないことの約束が許されるのは幼稚園と国政選挙までですからね? 
それ以外は総括必至です。ブラック研修です。ホームパーティでネットワークビジネスです。
だってテレビでそう言ってましたもん! テレビだから安心なのですっ! たとえ視聴率が低くとも!」
「……もう突っ込めないからな。つーか飛躍しすぎでわけわからん」
「大丈夫ですよ! お兄さんのアレなら絶対にばっちりです! もっと自信持ってください! 
きっと加奈子だっていちころです! 身をもって思い知ったわたしがいうんだから、間違いないです!」

「……いったいナニについて励ましてくれているんだろうね」
「もぉ……お兄さんのえっち……」
「おまえから振ったネタだろうが! ほっぺ押さえて赤らむんじゃねえ! かわいすぎんだろこんちくしょー!」
「やだもうお兄さんたら、かわいいだなんて……
あなたにそんなことを言われたら――気持ち悪いじゃないですかこの変態ッ!」
「ひげぶっ!? ……。ぐっ……こ、ここハイキックするところじゃないよね普通……?」
「お……おおおお兄さん! い、今……す、スカートのなか、見ましたね?」
「わけがわからないよ」
「鼻血出てるじゃないですか! エッチ! 変態!」
「そりゃおまえがカオ蹴っ飛ばしたからだろ!」
「……。もぉ、それならそうと、ちゃんと言ってくださいよ。
鼻血を出すほど興奮したのはわたしに蹴られたからだなんて……
まったく、て、照れちゃうじゃないですか……。ほんと調子いいんだからもう……。
ふ、ふん……どうせお兄さんは、他の女の子にも同じことを言ってるんでしょう?」
「あー、仮にさっきの返答をSM的に解釈したとしてもだ……照れるようなところどこにもなかったよね? 
マゾ暴露は口説き文句とかじゃないよ常識的に考えて」
「あの、お兄さん、わたしに蹴られるのは……もしかして、嫌だったんでしょうか……。
お兄さんが喜ぶと思って、わたし、今までずっと……。
けど、おせっかいだったんでしょうか……ひとりよがりだったんでしょうか……。
お願いします、お兄さん。本当のことを、あなたの本当の気持ちを――教えてください」
「そんな顔で言われたらなぁっ、嫌だなんていえるわきゃねーだろ! 
――俺はッ、あやせに蹴られるのが大ッッ……好きだぁぁぁぁぁ! 
夢に見れば歓声とともに目覚めるくらいっ、超・大・好きだ! 
ハイもローも最高だ! 後ろ回し蹴りなんか丼三杯余裕だぜ! かかと落としでなら死んでもいいね! 
そして桐乃にもらった『しすしす』に誓おう! 
高坂京介は残りの人生を、新垣あやせのサンドバッグを務めるためだけに生きると……!」
「うわぁ……」
「ドン引きかよっ!? 自分から言わせといてドン引きかよ! ほんっとおまえは天使だな!」
「えへへ、どんどん崇拝しちゃってください」
「今の反語だからね! Ironyだよ? 
積み重ねた言葉で見えないよ君の横顔? こちとらおまえの毒舌で涙目なんだよ!」
「積み重ねた嘘でもう動けなくなってるんですね、お兄さんは。……主に女性関係で」
「ななななにを言っているのかねあやせさん? 
お、お兄さんはべべ別に、ううう嘘なんかつつっ吐いたことありませんよ? 
かかっか、隠し事とかもなっないんだからね? ほんとだよ?」
「……うそつき」
「ぐぬっ……」
「――加奈子の無垢な体を、めちゃくちゃにしたいと思ってるくせに」
「そっちかよ! せっかく話逸れてたのに戻んのかよ!」
「うやむやにしようったってそうは遺憾の意です」
「はぁ……言っておくがなあやせ、俺は断じてロリコンではない。
だからあのクソガキの柔肌なんかには、これっぽっちも興味はない。
ぷにぷににもふにふににもむにもにゅぽっちんぺたりんこにも全然全く反応しない。
本当だ信じてくれ嘘じゃない」
「ではいったい、お兄さんのパソコンにインストールしてあるこれらのゲームはどういうことなの……」
「ちょっ! いつの間に起動しやがった!」
「このなかの妹さんたち、ちっちゃくてかわいい娘ばかりでしたよね。
……まあわたしとしてはりんこりんこそ最萌也と断言しますが」
「ラブタッチの件以来おまえが色々馴染みまくっている点についてはもはや何もいうまい。
だいたいさ、そういうちっちゃい妹どもに欲情するってのは元々俺の趣味じゃなくて桐……箪笥を嫁入り道具にする伝統が廃れつつある
この現代社会における貞操観念と家族制度との相互的瓦解現象に伴う
個人の疏外と自動機械化と形骸化とに対する反動としてみた場合のオタキズムには
その発生の動機からしてある種の純潔崇拝かつ家庭崇拝という
いわばロリな妹萌えが必然的に内包されているのかもしれなくもなくて、
いや待てやっぱそうじゃなくてだ、まあ要するにその、
二次元と三次元は別腹だということであってだな、色々と難しいアレがあってだな、
わかりにくく要約するとつまり現実のババアの肌に向けた拡大鏡は脂ぎった山脈を眼前に躍動せしめるが
二次元のおにゃのこは無限にきめ細かい肌をもつというゼノンのパラドックスがうんたらかんたら……」
「あっ、ちょっとお兄さん! LMAフォルダのパス変わってないじゃないですか!」
「話きけよ」
「こないだ撮ったのなんて、桐乃に見られたらわたし自殺しますよ!」

「いや、その、すまん。ミルキーマイエンジェル眼鏡verが実用的すぎて忘れてた」
「しかもなんですかこの大量のZIPファイルは! 前はありませんでしたよね! 
むろん全てデッリィートです! 根絶やしです!」
「何……だと……? ま、待て……なぜわかった? カモフラージュは完璧だったのに……!」
「『数学課題』や『セキュリティ関連』の、どこが完璧だというんですか。
もちろん『新しいフォルダ』は問答無用でごみ箱行きです。まったくもう。
お兄さんは受験生なんですから、インターネットで時間を無駄にするのはよくありませんよ。
卒業できなくたって知りませんからね? 
その、お兄さんがわたしと一緒に高校に通いたいという気持ちはすごくすごく理解できますが……
けどやっぱりダメだと思うんです、お兄さんとわたしの将来を考えれば。
……親友の兄がダメ人間だと、わたしもダメ人間みたいに思われてしまいますから」
「なんかさ、この頃とみに俺の人権が蹂躙されてるような気がするんだけど気のせいかな」
「わたし言いましたよね? えっちなゲームは許しますし、削除しないでおいてあげます。
けど、お兄さんがセクハラをしていいのはわたしだけなんです。
そこのところ、忘れないで下さいよ。忘れたらどうなるか……わかってますよね? 
…………ふう。さて、色々と捗るようデスクトップはわたしの水着画像を参照して――と、完了しました。
よかったですね、ハードディスクがきれいになって。こまめな整理整頓でごみ箱もすっからかんです。
これでいつ家宅捜索されてもへっちゃらですよ。それはもうどんとこいです」
「ちくしょう……俺のZIPが……。
神様、ごめんなさい……俺は、大切なものを守りきれなかった……ちくしょう、ちくしょう……!」
「謝るのは神様ではなくわたしでしょうに!」
「おまえは俺の嫁か! いくらなんでもひどすぎる!」
「な、なに言ってるんですか変態! 今のセクハラ! セクハラです! 通報しますよ!」
「サーセン失言っしたー!」
「くぅっ……なんて素早い土下座なの。まるで隙がない……!」
「っふ……。俺だってなぁ、成長してんだぜ? 主に桐乃のDVからこの先生きのこるためによ! 
『神土下座の高坂二代目』は伊達じゃないのさ! ご近所限定の二つ名だけどな!」

「情けない格好で情けない台詞を言いながらかっこいい顔しないでください」
「うぉっまぶしっ!? ……あ、あのなぁ、レーザーポインターで眼球狙いはさすがに洒落になんないよ?」
「スタンガンが売ってなかったので、つい」
「ついじゃねーよ! まさか他のやつにもこんな物騒な真似してんじゃないだろうな。マジで通報されんぞ?」
「失礼な! わ、わたしがこんなことできるのは、お兄さんだけですから……」
「もじもじされても嬉しくねー! だいたいおまえは、いちいち凶悪なんだよあらゆる意味でさ。
とにもかくにも没収だ! 危険物はお兄さんがひとまずお預かりします! 
……ところでナイフ隠し持ってたりとかしないよね?」
「ああっ! ひどいですお兄さん! 奪っちゃやです!」
「きょうび一般人が自衛手段を持つのは犯罪なんだぞ? 
ヤツら虫ピン逮捕だってできなくもないんだからな。
護身用と言ったが最後、一発アウトでノルマの足しだ。おかげでウチはメシを食える」
「お兄さんはそうやって……加奈子の貞操も奪うつもりなんですね。権柄尽くに」
「こっからソッチの話題に繋げた!? もうさすがだよおまえ。脱帽だわ。どんだけ粘るんだって話だよ」
「なにを言ってるんですかお兄さん。わたしはなにもしてません。むしろお兄さんがしてるんです。
そう、嫌がって暴れる加奈子を力尽くで組み伏せたいというお兄さんの無意識の願望が、
お兄さんの突っ込みをして加奈子の話題へと幾度となく立ち返らせるんです」
「すごいね無意識! なんでもありじゃん」
「ところでお兄さん――手錠ってどこで買えますかね」
「これまた唐突だが、もう驚いてやらんよ。
そいつで加奈子の自由を奪っていいようにする気だろ? 俺は絶対に加担しないからな」
「違います。加奈子ではなくて、お兄さん用に必要なんです」
「俺かよ!?」
「最近のお兄さんは、隙あらばすぐにわたしの体を触ろうとするじゃないですか。
先週なんか『手じゃねーからセフセフ!』なんてのたまってわたしの全身をくまなくアレでアレしやがりましたし……
そろそろ躾け直さなきゃいけない時期だと思うんですよね。
手錠だけではなくて、荒縄あたりで首をキュっと」
「それ死んじゃうから!」
「ただちに死亡しないので問題ないです。
十数分は猶予がありますので、責任はわたしにあるんじゃなくて、
わたし以外のみなさんこそが背負わなきゃいけないんです」

「……さすがに俺もそのネタはスルーするよ? 叩かれるの嫌だぞ俺」
「もう、どうしてお兄さんはそんなに説教臭くなっちゃったんですか。
加奈子のうなじをむさぼるように見つめていた去年の頃のお兄さんは――
中立ぶっておきながらわたしを反オタクの悪役に仕立て上げ、
『偏見に立ち向かう俺かっけー』していた右傾キモオタお兄さんは、
いったいどこに行ってしまわれたんです?」
「おまえや桐乃に散々痛めつけられているからな。臆病になっちまったんだよ」
「大人になるってかなしい事なの、とでもほざくおつもりですか。……ぶち殺しますよ」
「なんでそうなるんだよ!」
「だいたいお兄さんがふらふらしてるのがいけないんです! 
ふらふらしないよう、手錠でがっちり固定しなきゃダメなんです!」
「おまえさ、手錠ってキーワードに執着しすぎじゃね?」
「で、お兄さん。その手錠って、どこで買えますかね」
「あー、やっぱ密林とかじゃねーの。あっこなんでも売ってるし」
「いわゆるおもちゃのたぐいでしょう? 安物は安心できません。
お兄さんがいつもあそこで購入しているメンズグッズとは違うんです」
「……め、メンズグッズって、あ、アクセサリーとかのことかな……?」
「いえ、そこの棚に鎮座まします器具等のことです」
「あああああれか?! あ、あれは、うん……パソコン機器だよ? 
パソコン機器をメンズグッズって呼び方するなんて、あやせは変わってるなー」
「スタイリッシュに乾燥中の黒いアレは、たしかそう、フリップホールでしたっけ」
「詳しいなオイ!」
「お兄さんのセクハライフに寛容なわたしだからよかったものの、桐乃に見つかったら大変ですよ? 
捨てられるだけじゃまず済まないでしょうからね。おそらくずたずたに切り刻まれます、お兄さんごと」
「……以後気をつけます。はい」
「ほんと、頼りになりませんね。お兄さんほどの片栗粉マイスターなら手錠にも詳しいと思ったのに」
「オタのジャンルが違うんだよ。俺はただのどこにでもいるシスコンエロゲーマーだっつーの。
……おまえが非オタだからこそついでに言っておくが、オタクだからって何でも知ってるわけじゃねーんだよ? 
妙なところで頼りにされても困るんだよ?」
「お兄さんのド変態知識が役に立たないとなると……
やはりここは有名どころ、S&Wあたりのが無難ということでしょうか」

「無難どころかガチじゃねーか! 拉致監禁でもやらかす気かよ!」
「服ほどじゃありませんが結構割高な価格設定ですね。それに複数入り用ですし。
……使い勝手については、今度おじさまと会ったときにご相談してみます」
「おじさま……だと? おまえもしや、妙な趣味のおっさんに春をばら売りしてるんじゃなかろうな? 
お兄さんは援交なんて言葉使わないぞ? 売淫ってはっきり言うぞ? 
『開放的』という形容の前にはちゃんと『股が』って付け足すぞ?」
「やだなぁお兄さんたら、わたしがそういうことをするのはあなただけだって知ってるくせに……。
おじさまといえば高坂大介氏――お兄さんのお父さんのことじゃないですか」
「なにやってんのウチの親父!? いやたしかに適任だけどさ!」
「いえね、撮影の折にですね、桐乃の見学で出くわすんですけど、
そのたびに『息子と結婚してくれ! ウチの娘になってくれ!』ってしつこいんですよ。誰かさんに似て」
「遺伝!? 血筋なのか!? この身に流れるヤツの血が、俺を狂気へ駆り立てるというのかっ……!」
「やんわりと『通報しますよ』と脅しても
『それは私のおまわりさんだ。何かあったらいつでも頼って来なさい。
不届きな輩がいるのなら、おぢさんが合法的な暴力というものを見せてあげよう』
ですもん! 世も末ですね!」
「かっ、かっけー! さすが親父だ、通報されても何ともないぜ! ちょー輝いてんよ日の丸で! 
マジでダーティなオッサンぶりが、いまこそ初めて誇らしい! あこがれちゃうよ公僕に!」
「それで、あんまりしつこいものだからわたし、おばさまに通報しちゃいました。
お兄さんの、お母さんにです」
「待て、こないだのたわしコロッケ事件はお前が原因か! 
親父の二十四時間耐久土下座達成でお袋もなんとか落ち着いたものの、
あの夜俺と桐乃は朝まで真剣十代生討論しちまったんだよ? 
『お父さんとお母さんが別れるならさ、もう兄妹二人だけで生きていこうよ』とか
『あたしたちはずっといっしょにいようね』とか誓わされたりしちゃったし! 
……まあ結局例のごとくエロゲー大会になだれ込んだわけだが」
「むむっ、またそうやって桐乃を畜生道に引きずり込もうとしたんですか」
「違うんだあやせ! 俺は悪くねぇっ! 
そうだ、桐乃だ! 桐乃がエロゲやろって言い出したんだ!」
「たとえそれが事実だとしても、
えっちなゲームで一緒に遊ぶ兄妹がどこの世界にいるというんですか!
 明らかなアブノーマルです!」
「いやいるよ? わりと結構いるみたいよ? 
俺のクラスメイトはしょっちゅう妹とホモゲーしてるっつって自慢してたし、
部活の後輩なんか実姉調教ものをがんがん姉ちゃんとしてるっぽいよ? 
妹の部屋で妹のパソコンを使って妹にいかがわしいことするゲームをやるなんて、べつに普通じゃん。
うん。みんなやってることじゃん」
「……お兄さんのお知り合いって、みなさん頭おかしいんですね」
「それこそキの字筆頭のおまえがいうな! 最近桐乃が心配してんぞコラ!」
「わ、わたしのどこが頭おかしいんですか! 
仮にわたしがおかしくなったとしても、それはみんなあなたのせいに決まっています! 
ああも毎回毎回失神させられたら、誰だって変になっちゃいますって! 
この底なし! セクシャルモンスター! 退治しますよ!」
「はンッ、やれるもんならやってみろよ、あやせェ……!」
「ふ、ふん……そうやって強がっていられるのも今のうちですよ。
今日のわたしには、心強い味方がついているんですからね」
「もしや加奈子か!? 
そ、それとも、もしかするともしかしてェ……き、桐乃だったりしちゃったりして~、フヒ♪」
「いえ違いますしありえませんけど――と言った拍子になんでちょっと残念そうな顔してんですか! 
その豚鳴きが本気だったら、わたし本気もで泣き出しますよ!?」
「いやね、最近おまえの初々しさが薄れて来ちまったからさ、
ここいらで最高にキモい台詞吐いて恥ずかしがらせようと思ってな」
「恥ずかしいという以前に、そんな発想が出来てしまうあなたの存在そのものが気持ち悪い」
「ひでえ言い草は相変わらずだが、俺はそんなおまえが生理的に大好きなんだ。
……で、さっき言ってた心強い味方ってなんなの? 
こないだ頼んだぐるぐる眼鏡、やっとしてくれる気になったの?」
「先日まで『ぐるぐる眼鏡は眼鏡じゃない!』と公言して憚らなかったお兄さんがどうして急に転向したのかは、
今はまだ、あ・え・て問いません。
ですが、今後わたしがぐるぐる眼鏡をかけることは絶対にありえないとだけは言っておきましょう」
「チッ……じゃーなんなんだよ。また桐乃コスでもすんのか? 
あんなん二度と嫌だぞ俺。だってあれおまえが楽しいだけじゃん」
「ぐるぐる眼鏡が駄目だとわかった途端、がらりと投げやりになりましたね。
執着しすぎです。はぁ、いたしかたありませんね……
えへへ。ではでは、このわたしがヒントを出してあげましょうか! 
フフ、今日の主役はですね、わたしもさっき思いついたんですけど、
なんとお兄さんのよく知っているものでして……」
「んだよ桐乃じゃあるめーし、こんなんでいちいちなぞなぞ当てっこなんかやってられっかよ。
おまえってさァ、ほんっとめんどくせー女だな。かわいいのはツラだけってやつ? 
けっ……クソ、クソ、ちくしょうめ……俺のぐるぐる眼鏡……
あーあ、もうなにもかもがめんどくせぇ……
もう妹とかどうでもいーし、受験とかもどーでもいーし、進路は田村屋で妥協すんわ……」
「今のお兄さん何気にものすごくひどくないですか? 
わたし、けっこう真剣に傷ついているんですけど……
ベッドでごろんごろんしてないで、せめてその、もうすこし盛り上がって行きましょうよ」
「あーわかったわかった。とりあえず疑問符か感嘆符乱発しときゃ格好つくだろ。
あー!!! まじだるいし!!!!?????? 
あやせが!!!!! ぐるぐる眼鏡つけてくれねえっていうから!!!!!!!!! 
俺さぁー!!!? ちょー傷ついちゃったし!!????????? 
ふぁぁ!!!!!! なんか眠くなってきちまったわ!!!!!!!!!!!!!!!」
「うるさいだまれしゃべるなうざいっ!」
「かはっ……!? ぐ……フライングニードロップ……かよ……。
オイコラあやせ、いつかの桐乃とまったく一緒な真似してんじゃねーぞ……
つーかどけ。乗りたきゃ俺を仰向けてから乗れ」
「え? いまわたし、桐乃と同じ事しちゃったんですか? 
それってつまりわたしたち似たもの同士の大親友ってことですかね! 
好きなブランドも好きな音楽も好きな異性のタイプも好きな暴力手段もスリーサ……スリーサイズもみんなお揃いだったなんて! 
スリーサイズみたいにあらゆる点でお揃いだったなんて! 
やっぱりわたしたちは、
わたしがちっちゃいころお母さんに連れて行かれたセミナーで習ったソウルメイ……とちょっと待ってください。
『いつかの桐乃とまったく一緒』ってお兄さん、ようはこれ、桐乃にも同じようにされたって意味ですよね!? 
こんなにむごい仕打ちを受けるなんて、寝床で妹になにやらかしたんです!」

「ぐぉっ、誤解だ……だ、だから首を絞めるな……
それにスリーサイズは見たところおまえが負ぎゅぎぎがげげげぼごごごごご……! 
おえっぷ……お、おまえの想像とはたしかに場所も行為も一緒……
おまえと桐乃のスリーサイズのようにぴったり一致してるけれども……ふぅ……ただひとつ、人物、人物が違う。
桐乃に暴行されたのは俺じゃなくて、黒猫――ある程度は知ってるはずだと思うけど、俺の高校の部活の後輩で、桐乃のアッチ側の親友なんだが――
このベッドでそいつに、桐乃がフライングニードロップかましやがったってわけだ。
おまえがさっきしたのと同じようにさ」
「なぁんだ、桐乃が成敗したのはあの邪気眼電波――あれ、なにかおかしくないですかこれも……。
つまりはその邪気眼電波女がお兄さんのベッドに寝てたって、そういう前提になりません!? 
どうしてよその女がお兄さんの布団にもぐりこんだの……」
「すまんすまん間違えちゃったわ今の無しな! 
あれな、思い出してみたらやっぱこのベッドじゃなくて桐乃の部屋だったわ! 
いやーごめんごめんご勘違いさせちまったみたいで!」
「そうよ、思い出してみれば……わたしとお兄さんが初めて結ばれ……
もとい、初めて『処理』をした日、お兄さん、やけに物怖じしなかったというか、
年下の女の子を部屋に上げるのに慣れていたというか……」
「な、なーあやせぇ! 今日のサプライズはなんなのかそろそろ教えてくれよぉー。
俺ってば毎回毎回楽しみにしてるんだぜ? 
なぁなぁあやせってばぁー。ラブリーマイエンジェルあやせたんってばぁー」
「ほ、ほんとうにお兄さんは変態ですね! ……あんまり期待しないで下さいよ。
わ、わたしだって恥ずか、もう! 恥ずかしいんですから……」
「謙遜すんなよー。さっきのフライングニードロップだってすばらしかったじゃないか」
「桐乃よりもですか」
「……。
俺桐乃のこと嫌いになったわけじゃないから、うまく言えないかもしれないけど……
最高だ、あやせ。桐乃よりずっと良い。
あやせのこのしなやかで鋭い足技にくらべたら、桐乃のなんて物足りないよ。あやせの蹴りは最高だ。
脅しも、罵倒もすごくて、桐乃のじゃ全然むかつくだけだけど、あやせには蔑まれるだけでもうすぐにも首くくりそうだ。
桐乃のあんな毒舌に怯んでいたなんて自分で情けないよ。
あの吸い付くような一撃を食らったら、もう桐乃のブヨブヨとした体なんて触る気もしない。
桐乃なんてエロゲ貸してくれるくらいしか価値のないキモオタだよ。
あやせさえいれば俺は……、あやせぇ、あやせぇぇ」
「死ね! ……なぜか思わず死ねと言いそうになってしまいましたけども、
誠を尽くしたお兄さんの熱意は、たしかに伝わりました死ね」
「いや言ったよね? はっきり『死ね!』って返したよね? しかも語尾にもつけたよね?」
「まあまあ、細かいことはお気になさらず。
ではお兄さん、そろそろいきますよ? 今日のビックリドッキリおしぼりグッズは……じゃじゃーん!」
「……あー、それ」
「そうですとも! お兄さんの夜のお楽しみにして無機なる淫婦! 
在野の汚らしい冒険者どもをして神の穴とまで言わしめた黒き魔筒――ってお兄さん? 
なんですかその『はいはい出オチ出オチ』と言いたげなげんなり顔は! 
フリップホールですよ? 黒フリですよ? はぢめてのおもちゃ遊びですよ? 
もっとこう……ね? あの、わたしから言わせる気ですか?」
「なんとなく予想ついてたし、大して面白くもないし、あと女の子が黒フリとか略すな……
つかぐるぐる眼鏡の後じゃな、やっぱインパクトが足りないんだよ。
せめて『京介氏』呼びくらいはしてくれねえとキカンボーMAXとはいかねえな」

「ふ、ふん。お兄……京介氏はされる側に過ぎないから、そうやって余裕ぶっこいていられるんですよ。
する側のわたしにとって、この使い込まれた黒フリは心強い味方なんです。
なぜならこれを使っているあいだ、京介氏はわたしになにもできないじゃありませんか? 
まさしく『処理』にうってつけです! 
今日こそ失神しませんよ! むしろ失神させたげます! 
京介氏は怯えて、竦んで、タケリタケの性能を生かせぬまま果ててゆくんです! 
……近いうちに手錠付きで加奈子の相手もする予定ですからね、今日は色々と鍛えてあげますよ」
「その話題まだ有効だったの!? ……まったく! ほんと! おまえってやつはっ……! 
――『ござる』口調もお願いしていいっスかね」
「――こんな感じでござるか、京介氏」
「ひゃっほう!」
 ――以上のような、ヤマもオチもイミもない殺伐とした会話を交わして数週間後、
あやせは本当に本物の手錠を調達してきたのであった。
官品でなかったのがせめてもの救いである。
(加奈子? はてなんのことやらさっぱりだぜ)

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最終更新:2011年07月05日 11:20
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