Stummer Dialog





「―――――いってらっしゃい、お兄さん」

そう笑顔で言った時わたしの"過ち"は……終わった筈だった。





いつも……桐乃を見ていた。



わたしの大切な親友、そして目標。
きっとわたしは、桐乃と出会って以来ずっとずっと彼女の後を追いかけていた。
桐乃は綺麗で、頭も良く、スポーツも出来る才色兼備
でも単純に天才と言うわけではない(もちろん才能は凄くあるのだろうけど)
他人には絶対見せたがらないが桐乃が人一倍努力をしてる事をわたしは知っている。


小さい時から引っ込み思案で、内省的なわたしがモデルの様な派手やかで
他人との繋がりを求められる職業に就いてるのは100%桐乃の影響なのだ。

単純に桐乃の様に(正確に言えば桐乃そのものに)わたしはなりたかった。
わたしがカメラの前で笑顔になれるのは、桐乃のおかげ。
もし桐乃が太陽ならわたしはきっと月なのだ。
桐乃が照らしてくれてる限り…………わたしは輝ける、静かに。


でもいつか…わたしも桐乃みたいに人を照らすようになりたい。
それは肯定的に言えば憧れで、同時に月光が届かないわたしの影には
言葉に出来ない葛藤があった。


だから、いつも……桐乃を見ていた。


そして桐乃の中にもわたしの様に、桐乃を輝かせる太陽があった事に気付く。
―――いや気付くと言うよりも本人が公言していたようなものなのだけど。
それは京介さん…桐乃の兄であり、わたしにとっては単なる親友の兄。

初めて会った時の優しそうな印象
―――あの時は何の為にあんなに必死に郵便の箱を
桐乃から引ったくってたのかは分からなかったけれど、きっと桐乃の趣味の物が
入ってたんですよね?お兄さん。

わたしが連絡先を交換して欲しいとお願いした時、ちょっと怪訝そうな顔をして
…………わたしが誰とでも簡単に交換する女の子に見えましたか?
わたしがあんなお願いをした男の子はお兄さんだけ。
ついでに着信拒否したのもあなただけ―――なんですよ、お兄さん。


「ねえ、ねぇお兄さん…わたし達が初めて会った時の事って覚えてますか?」

手錠したまま深夜わたしの家に来て、仲直りした後お兄さんは
風邪を引いしまった。
どうやら、わたしのせいでちゃんと寝てなかったらしく、お詫びのつもりで
お兄さんを看病している。
―――もちろん理由なんて無くても看病するつもり


「ああ、あの時は綺麗な子だって思ってたんだが…まぁ」

体温計をくわえたまま、わたしに返事するお兄さん


「あの時は?あの時は??あの時は?!」

「い………今だって、あ、いや今の方がずっと綺麗です、あやせさん。
そういや、初めて会った時か。
おまえの部屋で、おまえに手錠された時に言われたよな?
出会った瞬間から俺の事が好きで好きでしょうがないって」

「だからそこまで言ってないでしょ!
ただちょっぴり仲良くしたいって思っただけだったんです
本当に、ただ…それだけ……」

「あの後、おまえに変態認定されしまったのが、あのコミケの時からだよな?
俺らってあのコミケで偶然会わなかったら、どうなってたんだろうな?
もっと早くこうなってたのか?それとも……」


偶然、コミケでお兄さんと桐乃に出会したとき
我を忘れて桐乃を―――桐乃の手を思いっきり強く握って問いつめた、あの時
桐乃の趣味への偏見で、わたしはどうにかして、桐乃の目を覚まさせたいと
願った。

わたしの桐乃が、わたしの理想である桐乃があんないかがわしい物に
執着してるのがどうしても許せなかった―――生理的に嫌悪した。

でも桐乃は結局こう言った―――

『親友も趣味も捨てられない。どちらか一方を捨てたら本当の自分じゃなくなる』

―――と。


それでも納得出来ないわたしへ、桐乃に愛の告白をして
お兄さんが仲直りのキッカケを与えてくれたあの瞬間
きっと本当は桐乃が凄く羨ましかったんだ。
その時は変態の兄から妹を守る体で桐乃と仲直りしたし
ずっとそのつもりでわたしはあの兄妹と付き合うつもりだったのは
嘘じゃないけど。

『ぶち殺す』
がお兄さんに対するわたしの挨拶になったのはその時から。

そう言う限りわたしが桐乃の様に親友と"何か"の二択で選択を迫られる事は
ないと思ったから。
もちろん最初から意図したわけじゃないし、元々のわたしがそういう乱暴で激しい
気性を持つ女の子だったのは否定しない。


『桐乃に手を出したらぶち殺します』

とメールした時―――何故殺さなければならないのか?
その時のわたしは桐乃の貞操の為だと一応納得していたし


あの喧嘩の後、
桐乃がわたしにいつもお兄さんの話をする様になったのだけど…………
桐乃のお兄さんに対する"キモイ"とわたしの"ぶち殺す"は同じものだと
確信するのは、ずっと―――ずっと後になってからだった。

それなのに、わたしの気持ちを知ってか知らずかお兄さんはわたしの事を
可愛いと褒めあろう事か結婚したいなどと軽口を叩いた。
もちろん分かってるのだ、冗談なのは本来なら、たわいのない、悪意のない、
意味のない言葉なのは…………十二分に。


なのに―――それなのに、わたしは


本当のお兄さんは、もちろんわたしの方向を見てるわけじゃなくて…
桐乃やお姉さんの方をいつも見ているのは分かっていた。

お姉さんの事は、麻奈実さんの事は桐乃とは違う意味で尊敬している。
いつも余裕があると言うか、自然体と言うのか。
月並みな言い方をすれば癒し系なんだろうけど、この人の芯の強さはきっと
桐乃やわたしの比ではない。

わたしがお兄さんに"ぶち殺す"と言うよりも、お姉さんが優しく正論で諭す方が
お兄さんは堪えるに違い。
お兄さんにとって一番大切なのは桐乃、女性として好きなのはお姉さん
お兄さんに黒猫と言う彼女が出来るまでは、それがわたしが漠然と抱いた印象だった。

これはお兄さんと付き合って確信した事で、わたしがお兄さんのエッチで
いかがわしいコレクションを捨てさせた
(最初はそこまで神経質に考えなかったし、本当は許してあげるつもりだった)
理由は結局、お姉さんに対する嫉妬………。
それも単純な嫉妬じゃなくて、罪悪感と言う名前の嫉妬からだった。

本からDVDまで『大きな胸』で『眼鏡』の女の子のオンパレード…
しかもショートカットの女の人が多い、まるでわたし自身を否定される
錯覚すら覚えてわたしは表面では、我を忘れて怒り狂ったふりをしたけれど…
本当は凄く悲しくて、それに申し訳なかった。

この前のDVDにしてもそうだった。
わたしにだってプライドがある、でもお兄さんが望むなら眼鏡くらいかけても、髪型だって。
"本当のわたし"は優しくしたいのにお兄さんに喜んで欲しいのに……
"嘘つきのわたし"がいつも―――いつも、その邪魔をする。


それでも今のわたしは狂喜したいほど、怖いほど幸せ
道を歩くだけで小躍りしたくなり普段、何気なく鼻歌まで歌うほど………に。



「♪」
わたしはおかゆを作りながら…無意識にハミングしていた。

「偉くご機嫌だな…おまえ」
パジャマ姿のお兄さんがわたしに聞いてくる。

「もう寝てないとダメじゃないですか!お兄さんは病人なんですよ」

「言うほど病人ってわけでもないんだぜ。それにさ…何かさ」

「何ですか?」

「あやせのエプロン姿って可愛いなぁと思って」

「はいはい、有り難う御座います。さ、もう寝てください早く」

「あ・や・せ~」
と言いながら抱きついてくる………お兄さん



「はぁ~、もうっ!ほんとうに京介ちゃんは赤ちゃんでちゅね」
とこの前の桐乃の真似をするわたし………。

「ぐ…まだ怒ってんのか?」
あからさまに恐怖の表情のお兄さん。

「どう思います?お(兄さ)、京介ちゃん?」
全然怒ってないですよ、本当に全然。でもちょっぴり意地悪をする。

「お、おやすみなさい…あやせさん」
相変わらずのヘタレだけど―――そういう情けないあなたも今は愛しい。

ううん……そうじゃない
桐乃やわたしや加奈子の為に傷だらけになりながら必死に頑張るお兄さんが
ずっと愛しかったんだ。
その姿はスマートじゃないし、全然格好良くもなく、今の顔みたいに情けなくて、
笑ってしまうのに……しょんぼりしていた背中を抱きしめたかった、
ずっと前から


わたしが密かにそう願った所で、現実にはお兄さんの周りには
いつも女の子が居たし、お姉さんを差し置いて、黒猫と言う子
(泥棒猫なんて言ってしまったけど、きっと彼女もわたしと同じだったと
今なら冷静に考えられる)
と付き合うと聞かされた時にこの気持ちを封印した。

―――それが一度目の失恋。

なのに、彼女と別れたと聞かされて勘違い(と言うよりもそう思いたかった。
わたしのせいで別れたと、それほどわたしは浮かれていた)を否定されて
今までのわたしに対するセクハラ(これも冗談だと分かってたけど)も
二重に否定されて、お兄さんの事は完全に諦めようと誓った。

―――これが二度目の失恋。


だからあの日、加奈子のライブの時
わたしの前から立ち去ろうとしたお兄さんにわたしは

『いってらっしゃい』

と言った。
例えどんな形でも…………二度とわたしが希望する未来をお兄さんと
一緒に迎える事は絶対に不可能だと知ってしまったから。

自分の中で納得したつもりだった。
わたしの勘違いで独りよがりだったのだから、わたしさえこの気持ちを忘れれば、
何の波風も起こさないで済む筈だった。
桐乃やお姉さんの為にはこの気持ちを誰にも悟られてはいけない…………。
(流石にお姉さんだけは全部分かっていたけど)

だから今度こそ綺麗さっぱり、全部忘れるつもりだった。

そう決意したのに、わたしの記憶は、ウエディングドレス姿の桐乃と手を繋ぐ
お兄さんを見た瞬間から、その直後の事を思い出す事が出来ないほどあやふやになる。

辛うじて覚えている事は

『親友も趣味も捨てられない。どちらか一方を捨てたら本当の自分じゃなくなる』

と言う桐乃の声のリフレイン―――さらに桐乃は続ける

『、、、、これが本当のわたしなの』

―――と。

もう一つだけ……………
あのコミケの時に桐乃を問いつめて、彼女の手を強く握ったわたしの手が
今度は、桐乃の手を握っていたお兄さんの腕を掴んでいた事
―――あの時より何倍も強く。


結局あの日はどうやって家に帰ったのかすら覚えていない。
ただ、誰にも言い訳の出来ない純粋な罪悪感だけが残った。


「出来ましたよ、お兄さん、お口に合うか分かりませんが、どうぞ召し上がれ」

「有り難うな、あやせ…………俺、今、猛烈にリア充って気がしてるわ」
でも何故か、お兄さんはわたしが用意したスプーンを手に取ろうとしない。

「どうかしましたか?お兄さん…え?」

確かに、お兄さんはどうかしていた。
ニコニコしながら口をまるで鳥の雛の様に大きく開けて、
エサを催促する様な目でわたしの目を見る。


「あ、いや…………すまん、いただきます」

しかしわたしの呆気に取られた顔を見て0.5秒足らずで辞める、相変わらずの
ヘタレさ加減。

「もうしょうがないですね、ふぅふぅ…熱いから気を付けてくださいね。ほらあ~ん」
この前の桐乃の事を気にしてるのかな…本当に怒ってないのに。

「あ~ん(ぱく)…うん、うめぇ。
正直あんまし食欲無かったんだが、これならちゃんと食べられそうだ」
と言いながら美味しそうに完食してくれた。



洗い物が終わった後、お兄さんがおねだりするので、膝枕をしてあげる。

「もう容赦無く、わたしに甘える様になっちゃいましたね、京介さん」

「あれ~ダメだったのか?」
と言いながら太ももに頬をすりすり、手も変な所を触ってくる。

「いいえ、全然?
もう男の子はそういう生き物だって、わたし分かってますから。
…………それがたとえ、処女厨の京介さんでも」


「ひ、人聞き悪いな、一応、結婚までそういう事しない約束…だった…筈…だろ」
動揺するお兄さん…

「確かにそうでしたね。
結婚までそういう事しない筈のに、わたしはお口で何度も何度もしたし
お見舞いに来てくれた時、お尻が紅葉色になるまでぶっ叩かれましたけど。
―――そして今もそのお尻をあなたに悪戯されてますけど
それでもわたし達は清き純粋な交際ですものね、お兄さん♪」

「ぐ……い、いや、正直言うと滅茶苦茶………でも」
と幾分恐れながら、しっかりセクハラは続ける京介さん。

「でも…?」

お兄さんが深夜、わたしの家に来て仲直りしたあの夜から…………
わたしが"儀式"の話をしようとすると…必ずキスされてそれ以上話す事を
禁じられた。
お兄さんが焦ってる姿を見るのが可笑しくて何度も―――何度も
その話をしようとした。
まだ風邪が完全に治ってないわたしの口を何度も何度も塞いで
風邪を引いてしまったのだ……………わたしはやっぱり悪い子なのかも。

「何でもねぇよ。…………あやせ、俺は病人なんだから、優しくしてくれよな」
多分、その話になるのを察したのか、お兄さんは話を途中で辞めた。

「ふ~ん。
わたしは………今の話凄く興味があるんですけど?」
風邪引いてるから優しくしてあげたいけど………

しかし今度はキスじゃなくて電話の着信で中断させられる。
お兄さんは僥倖とばかりに電話に出る。


「もしもし、おう黒猫か…ああ、元気だぜ。風邪は引いてるけど、元気なんだって」
わたしの様子を気にしながら幾分大きな声で話す、お兄さん。


「…………」

別に嫉妬なんてしてませんよ、お兄さん。
でもわたしの視線が気になるみたいだからわたしは紅茶を
煎れて飲もうと立ち上がろうとしたの………だけど

お兄さんはわたしの左手を―――左手の指に、
自分の右手の指を絡ませて、引き寄せる。
―――わたしは抗議の目でお兄さんを睨め付けるが………………

「ああ、確かに今年の風邪は、かなり執念深くて、たちが悪い…と思う」
お兄さんは知らんぷりしながら、楽しそうにおしゃべり………。

わたしは首を振って意思を伝えると、両手の力を込めて
手を引きはがそうとするが………何処から出したのか
わたしの手錠をわたしの左手と自分の右手にはめて
今度は、有無も言わさずにわたしが身につけていた
―――この前お兄さんがわたしにプレゼントしてくれたチョーカー
まで外された。

この人……普段はヘタレの癖に、時々キザな真似をする様になった。
ハァーこれに逆らえないって事はわたしもすでに洗脳されてきている証拠なんだ。


だって、わたしはその事がとても―――とても嬉しかったから


「うん、うん…ああ、フェイトさんだろ、あの人って今…マジでか、凄いよな。
ああ、どうやら噂では、、ははは…そうだよな」

誰でしょうね?フェイトさんって


本当に、本当に別に全く気にしてないけどわたしは自分の携帯を取り出すと
メールの文章を作って、お兄さんの右手を引いて注意も引く

『フェイトさんは女性?』 
肯くお兄さん……………まぁ良いでしょう。
別に全然、全然気にしてないんだから。


「え?う~ん…それはちょっと言い過ぎだろ、おまえ。俺泣いちゃうぞ…」

凄く嬉しそうにお話をしているお兄さん……べ、別に良いんだ。
お兄さんが笑顔ならわたしも……嬉しいからさ


「へぇ日向ちゃんってそうなってんのか?
いいや、確かにちょっと大人びてる感じがしたけど、しばらく会わないうちに
おいおい…辞めろよ、そんな意味じゃねぇし。
こらこら!俺をあいつみたいな扱いするのは勘弁しろって」

誰でしょうね?日向ちゃんって


「分かった、分かった。
日向ちゃんにも、珠希ちゃんにも俺が会いたいって言ってたと伝えてくれよ
うん……ちゃんと、約束で良いからさ」

誰でしょうね?珠希ちゃんって


お兄さんは本当に楽しそうにお話していた
―――きっとわたしが知らないお兄さんを黒猫と言う子はよく知ってるんだ。
お兄さんとわたしの共通の話題は、わたしがお兄さんと話す口実はほとんどが
桐乃だった、でも、わたしは………………その桐乃に対して

桐乃が何故、ゲームやアニメをお兄さんにやらせていたのか?
何故、この前も家に来てパソコンを渡したのか……今更ながらに納得してしまう。

黒猫…さん・・・・黒猫さんをわたしが見たのは多分一度だけ。
―――それもやっぱりあのコミケの時だった。
凄い格好をしてたけど、美人だった…気がする。
彼女はお兄さんと付き合って、ある理由があって別れた。

そんな彼女とお兄さんがいくら電話で話しても、いくら家に遊びに来てても
(そう、お兄さんは自分がストーカーになると言ったけれど、わたしの方こそ
本当にストーカーみたいなものだった。お兄さんの家に黒猫さんやお姉さんが
遊びに来てる事、全部ちゃんと知ってるんですよ)
彼女を責める事なんてわたしには絶対に出来ない(資格なんて無い)のだ。

どうやら電話の話を聞く限りは、ゲームを作る話らしい。
前にお兄さんは部活でゲームを作ってたらしいけど、
それを今は黒猫さん達とやっているみたい。
そしてわたしが知らない四人目の名前を耳にする事になる。

「あ~瀬菜?
…………赤城の奴はあいつはこの前、あんな事が有ったのに
相変わらずあの趣味だからな」

多分、お兄さんはわたしが電話の話を聞きながら難しい顔をしていたから
女の子の名前を言う事に、気が引けて言い換えたのかもしれない…。
そんな事で―――ハァ~やっぱりもっとお兄さんに優しくしてあげよう。

"ぶち殺す"とか"処刑する"なんて言葉を二度使ってはダメなのだ…
もうわたしがお兄さんを縛る必要はない。
お兄さんがいくらでもキザな事をしてその事に身を任させられる様に
今みたいな形がわたし達の理想なんだ、きっと


そう思って…ふと…違和感を感じる。


この前のエッチなDVDをわたしが発見した時、
わたしに三角締めをされながら言い訳してた。
あの時お兄さんは………………


『「と、友達の赤城と言う奴が
『おまえ、彼女いるのにやらせて貰えないんだって?(笑)』
とか言って同情してくれて…つい出来心で」』
と言った。

友達の"赤城"と言う奴が…あかぎ、アカギ、赤城…赤城瀬菜
………エッチなDVD……ざわざわ…

お兄さんは女の子の友達にわたしとの性関係の相談をしてて
しかもエッチなDVDまで貰っていたのだ…………!!!!


わたしは携帯で文章を打つ、途中で手が振るえて何度か打ち損じた……


『あかぎせなさん はわたしより胸大きくて、眼鏡かけてますか?
それにショートカット?』


その後、電話が切れてたのに、お兄さんは携帯で独り言を話してたのに
気付くまでにしばらく時間がかかった。

桐乃なら、お姉さんなら、黒猫さんなら
―――今ならまだ怒りが抑えられるけれど
関係ない知らない女が(に)そんな事をされて、笑って許せるほど
わたしは甘くはない。

わたしは自分でまたチョーカーを付けた、この作業をせずに怒り狂ったら
また前みたいになりそうだったから…だから少しだけ冷静になった。

「お兄さん…………尋問があります
YESかNOで答えて下さい―――良いですか?」

「はい?あやせ………さん…ど、どうかし」

「YESかNOって言ってるでしょ!!!!
本当にぶち、ぶち殺されたいの?!!!」

「の、の、NOです、あやせさん……」

「おっぱいが好きなんでしょ!
そしてわたしのじゃ、わたしは大きくないからお兄さん好みじゃないから
……………だからっ、だからっ!」

何に怒ってるんだろう?、わたしって


「YESだけど、NOだぞ…………だ、だから突然、何を言い出してるんだ?」

「ちゃんと分かってるんです……わたしだって
お兄さんセクハラしてもお尻とか太ももとか足ばっかりだし。
でも、でも、でも…」

と言ったら…突然、無言のお兄さんに胸を揉まれてしまった…。

「ちょっと…真面目に話しを…あ、もう…」
一心不乱に…服の上からだけど、触り(られ)続けると……わたしは

「あん…わ、わかりました…はぁ…うん…もう…わかったから、お兄さん…」

離れようとしても手錠のせいでそれも出来ず、お兄さんに
わたしは強引にずっとされたまま

「ご、ごめんなさい、京介…さん、きょう、ゆ、許して
はぁはぁ……………あ、謝るから…もう許して…ください」

多分、この前の夜から、こういう時の立場が逆転しちゃったみたい
でもこれも全然イヤじゃない……のだから、しょうがない。


「それで何を怒ってるんだ、おまえ?突然、瀬菜の話なんてして…
あいつは、普通に俺のダチの妹ってだけなのに」

事情を話して、誤解が解ける…そうか、流石にお兄さんでも
友達の女の子にそんな話するわけない
(でも巨乳で、眼鏡で、短めの髪って偶然かな?)
はぁ………わたしって本当に怒りやすくて、ダメな子だ………。

「いいぜ、気にしなくても、それにおっぱいが何だって?
こんな風に………もっと揉んで欲しいんだよな?
俺としたら何の異存も無いぞ…………ご褒美過ぎるだろ」


「もう風邪なんだから、これ以上は本当にしちゃ駄目、ダメですよ。
もっと続きしたいなら早く良くなってください、分かりましたか?」

「へ~い」

と素直な返事したものの、色々な箇所の触り方が凄くエッチになっていた。
わたしは……………結局そのまま自由にさせてあげ(たいからさせ)る。


「熱は下がったみたいですね、まだ顔は赤いし息は荒いようですけど…ふふ」

「まぁ俺は風邪だけじゃなくて、あやせ菌にも感染してるみたいなもんだからなぁ」

「もう、わ、わたしをバイ菌みたいに言わないでください!!
いくらお兄さんが病人でもぶち殺しますよ?!」

「そういう病ってことだよ。一生治らない不治の病だから、白衣じゃないけど
俺の天使に治療して欲しいなと………思ってるんだ」

お兄さんにはバレてなかったけれど、そう言われて
わたしも気分が高揚して呼吸が乱れる…………。


お兄さん知ってました?
―――その病気なら、ずっと前からわたしは感染してるってこ・と・


自覚症状に気付いたのはあのライブが終わった後、
お兄さんがわたしの為に電話してきてくれたから。
その時もわたしは混乱したままで、何を話したのか正直あまり覚えていない。

話した内容よりも、お兄さんがわたしの事を気遣ってくれて、電話してくれた
その行為そのものだけで………わたしは幸せだった。
"わたしの為だけ"に心を砕いてくれて、そのことが嬉しすぎて
頭が変になるほど満たされて、わたしは電話の途中で声を殺して泣いた。


『――――いってらっしゃい』

と笑って言った時、諦めようと思ったから、きっと家に帰って
ベットの中で一人で泣くんだろうなと思っていたから
…………だから

でも同時に桐乃やお姉さんの事を考えると胸がとても苦しくなった。
だから最初の半分は嬉し涙だけど、残りの半分の涙はその嬉しさに気付いて
心苦しくなったせい。
お兄さんには気付かれてたのか、どうかは分からない。


その後も時々、馴れてくると毎日、お兄さんはわたしに電話をしてくれた。
二人共受験生だったし、表向きの理由は息抜きでお互いに納得したつもりだった
けれど

それまでの人生で桐乃や加奈子と一緒に過ごす時間がわたしの幸せだった。
お姉さんとお菓子を作ったり、二人で遊ぶ事にも喜びを見いだしていた。
モデルのお仕事を頑張ってスタッフさんや読者の人達に評価して貰えるのが
わたしの生き甲斐だった。

………その筈だった
なのにお兄さんと夜ちょっとお話するだけの時間が、
何よりも―――お仕事よりも、友達よりも、お姉さんよりも、桐乃よりも
―――わたしの大切な時間になった。

本当はもう、自分の気持ちは分かっていた……あなたが好きだと。
お姉さんの幼馴染み、桐乃のお兄さん―――京介さんの事で頭も胸もいっぱい。
それでも意図的に自分から電話しない様にした、お兄さんが電話しなくなれば
この気持ちも自然に消えて、全部元に戻ると自分自身に不自然な嘘をついた。


自分から一度でも連絡すれば、もう絶対に後戻り出来ないと分かっていた。
そして事実、その通りになった。


ある日、モデルとしての撮影のお仕事があった。
おそらく、前に桐乃がやった撮影と同じ内容の企画。
きっと評判がよくてその第二弾に、新たなモデルのうちの一人として
わたしが選ばれた。


わたしの衣装はもちろん、ウエディングドレス……だったけど


「"白衣じゃない"で思い出したんですけど、ねぇ…お兄さん
わたしが京介さんに見てもらった、ウエディングドレスのこと、覚えていますか?」

また膝枕をして、お兄さんの頭を撫でながら、訊ねる。


「ああ…確かにあれは白衣じゃなくて、黒衣の天使って感じだったな…
もちろんちゃんと覚えてるし、綺麗だったよ」

「あの時、わたしに言ってくれた言葉…もう一度言って貰っても良いですか?」

「あやせ…もしかしてセクハラでムカついたりした?」
セクハラをにわかに辞めて、わたしの顔を見つめるお兄さん。

「全然、ただお兄さんに言って欲しいだけ…それだけです、ダメですか?」
多分、本当にただそれだけ


「『俺が見た中で、あやせのウエディングドレスが一番似合ってたし、一番綺麗だ』
ったよ」

……………それは
黒いウエディングドレスを身に纏ったわたしが無理やりお兄さんに言わせた言葉


お兄さんがお姉さんと仲が良くても我慢したし、黒猫さんと付き合っても我慢した。
でもお兄さんの隣に桐乃があの美しいウエディングドレス姿で並んでる事を
想像すると、どうしても我慢が出来なかった。

わたしは撮影していた場所までお兄さんを呼び出した。
本当に今でも何を考えてそんな行動をしたのか?分からない。
でも………もうそれ以外選択の余地なんて、きっと無かった。

前半は全く上手く行かなかった撮影がお兄さんに言葉をかけられただけで、
(本当に大した言葉ではない、何気ない言葉、普通の言葉)
お兄さんに優しく手を握って貰った、たったそれだけの事で
魔法がかかった様に、カメラマンも自分も驚くほどにわたしは変わった。


―――わたしが"誰かの"偽物じゃなくなった、瞬間だった。


黒い妖艶なドレスは偶然わたしが身につける事になっただけ。
でもその白さえ、罪悪感さえ、葛藤さえ、友情さえ、信頼さえ
一色に塗り潰す漆黒はわたしの中のお兄さん以外の思いを糊塗…し…て…

―――いいや………そうじゃない…あの姿が、あの色が本当のわたし

今まで京介さんへの気持ちを誤魔化していた。
自分に嘘をついて、自分の心を綺麗な色で塗り潰していた……だけ


かつてないほどわたしが評価されて成功した撮影のお仕事が終わると
そのままの姿で、周りの目も気にせずにわたしはお兄さんに告白した


『お兄さん、わたし桐乃よりも可愛くないですか?
桐乃よりもわたし魅力ないですか?
わたしなんかじゃ桐乃よりも………すきになれないですか?』


『わたしはお兄さん………あなたが好きです』



あの時のお兄さんの顔を見ると、冗談抜きで今でも死にたくなってしまう。
事実、そう言って脅した―――もう願いの為には、どんな手段も選ばなかった。

引き返す事は出来なかったし、そんなつもりは微塵も無かった。
あの時、桐乃が言った様に今度は


『もう他には何も要らない。あなたが居ないと本当の自分じゃなくなる』
とわたし自身が知ってしまったから


その後、色々な人を本当に傷つけた
―――お兄さんも傷つけたし、自分自身も傷ついた。
傷つけると分かってた癖に………傷つけた。

この前の桐乃の事だって…本当は嫉妬で怒っていたわけじゃない。
わたしがお兄さんや桐乃に嫉妬して怒る資格なんて最初から無いのだ。

あれはお兄さんを困らせて、嫌われて―――振られても良いと
(絶対にイヤな事なのに、死ぬほどイヤなのに)
半ば自暴自棄で、気持ちが抑えられずにしてしまった
………わたし自身の欺瞞。



だから
その後、わたしの我が侭に付き合ってくれて、家にまで来てくれた時
本当に―――本当に嬉しかった。

「京介さん…本当はわたし、
何されても怒らないから………何でもして良いから」

そのまま眠ってしまったお兄さんを抱きしめる。

―――あなたが望むなら
喜んでくれるなら何でもする、何でもしたい、何でもさせてください。




今でも黒猫さんが好き………でも良いから
桐乃が好き………でも構わないから
お姉さんが好き………でも許しるあげる
だから別れたくない―――絶対に別れない



あなたにいつも抱きしめられないと不安が消えない
ずっとずっと側に居て欲しい
もう一瞬も離れたくない
会えないだけで気が変になりそうになる


でも…………


『なんでこんなわたしと付き合ってくれたんですか?』



『黒猫さん……桐乃………お姉さん……………………ごめんなさい』



『お兄さん……ごめんなさい』




自問して
涙…………
眠っている彼の横顔を濡らしてしまった







つづく






タグ:

+ タグ編集
  • タグ:

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

最終更新:2013年03月25日 21:26
ツールボックス

下から選んでください:

新しいページを作成する
ヘルプ / FAQ もご覧ください。