A Nexus 01


暗闇はやっぱり苦手…いつも、わたしの忘れた記憶を呼び起こさせる………

『さようなら』とメールした後、それでもわたしは更に、闇を求めて目を閉じた。



「お母さん、わたしね………」

『あやせ、あなたは良い子でしょう、何で言う事が聞けないの?
わたしはあなたをそんな子に育てた覚えはありません』

「………でも、わたし」 
お母さんの悲しそうな顔、いけない

「ごめんなさい、ごめんなさい。お母さん、ごめんなさい」 
お母さんを悲しませたらいけない、いけない


『あやせは本当に良い子ね、お母さんとても嬉しいわ』
おもちゃもいらない、お菓子もいらない、おねだりなんてしないもん

「バイエル、弾ける様になったの」
「先生がね、新垣さんは頑張り屋さんだって褒めてくれたの」
「お父さんがプレゼントしてくれたご本、もう全部読んだよ」

だから 今度、お父さんとお母さん……わたしを動物園に連れて行って……

「お父さん、お仕事頑張ってください。ちゃんと、わたし、お留守番出来るから」
わがまま言わない………


絶対、わたし……泣かない……


『新垣さん、一緒に帰らない?』 「え?」
髪を染めてる女の子、不良だ!仲良くしちゃいけない

『あやせちゃんに一目置いてんだよね、あたしって。あん(た)あやせちゃんに
勝手に親近感抱いてるって言うかさ、ぶっちゃけ迷惑だった?』
……………

『ほら、あやせ、こうすると美人度上がるっしょ?あやせは黒髪が綺麗だし、スタイル
も良いから、絶対に似合うと思ったんだよね、ほんとバッチリ。それにさ、メイクだけじゃなくて、
服もピッタリじゃん。まぁその服あたしのだけどね、にゃはは』

「桐乃さん、有り難う」 

『ちょっとぉ、どんだけ他人行儀、あんた?うちら、もう親友でしょ!』

「う、うん……あ、ありがとう、桐乃」

『って何で(驚)?せっかくメイクしたのにさ………。あ~じゃぁさ、ほら、ほら、
やり方教えてあげるから自分でやってみぃ、ね?』

本当に、本当に、ありがとう桐乃


「お母さん、わたし、モデルのお仕事したいの!」
お母さんの悲しそうな顔……

それでも……わたしは
「学業と両立させます。ちゃんと責任感を持って一生懸命に頑張るから。
だからお父さん、お母さん認めてください!」


『やったじゃん!あやせ。まぁこれからはライバルだから、敵同士…だかんね!
な~んてね………冗談、冗談、心配いらないって、全部、あたしに任せとけって!』

ライバル……なんて、敵同士なんて絶対にならない、なる筈ないよ、桐乃

でも


『俺は高坂京介------そっちは?』

『あやせ、結婚してくれ』

『------冗談だと分かっててもさ、ほんとごめんな』


「-----いってらっしゃい、お兄さん」
さようなら、お兄さん


『あやせ、、、、これが本当のあたしなの』


「お兄さん、わたし、桐乃よりも可愛くないですか?
桐乃よりもわたし魅力ない、、、ですか?
わたしなんかじゃ桐乃よりも…すき…になれないですか?」


『俺が見た中で、あやせのウエディングドレスが一番似合ってたし、一番綺麗だ』


『あんた、、、あたしの気持ち知ってる癖に、、何でこんな酷い事すんの?
うちら、ずっと一番の友達だったのに!!絶交した時、京介が仲直りさせてくれた時、
約束したでしょ、それなのに、、、裏切ってさ、あたしの気持ち裏切って!!!』

『あやせちゃん、しっかり、きょうちゃんを捕まえててあげなさい。
わたしね、あやせちゃんなら、きょうちゃんと一緒に幸せになれると思ってるんだ。
きっとね、わたしって、きょうちゃんが黒猫さんとお付き合いした時に、あの時に
応援してしまったから、多分………あの時点で、もう』

『自分の心に言い訳しすぎて、その言い訳に結局、自分自身が説得されちゃった。
誰かを好きって気持ちにも賞味期限があるんだ、きっと。
だから、わたしはずっと勇気がなかった、情けないよね、め! だよ。
だから、あやせちゃんは、こんなお姉ちゃんになっちゃ、ダメだよぉ?
だから、あやせちゃんは今の自分の気持ちを、ちゃんと大切にしてあげなさい』


『よし、じゃぁ付き合うか。何か照れくさいな……ってこれじゃダメだ!
俺の馬鹿!、馬鹿!、馬鹿!大切な事を忘れるなんて本当に、情けねぇ。
え?あ~こっちの事だよ、気にするなって。
別に、おまえにSMプレイを強要してるわけじゃねぇって、おい!
彼氏に向かって初めて言う台詞がそれかよ!
あ?……い…き』
      『なり、、お、おまえ…滅茶苦茶、大胆だな……全然嫌じゃねぇけど。
えっと………………何だっけ?あ、そうだ!
俺ら、付き合うって決めた以上は、俺はずっとおまえの彼氏でいるつもりだからな!
でも俺は、自分で言うのもなんだが、ヘタレのシスコンで、致命的に鈍いときてる。
だ、だから自虐プレイじゃないんだって(汗)  
こんな俺だけどよ、あやせの為にもっと、ちゃんとした立派な彼氏になるから!
あやせを必ず幸せにするから、だからさ……何だ…とにかく、これからよろしくな』

『あやせ好き、あやせ愛してる、俺はあやせのものだ』

『ああ、ずっとずっと好きだ、ずっと前から好きだ』

『あやせ、これからはいつでも好きな時に来てくれて良いからさ。
いや違うな、俺がいつでも来て欲しいから渡すよ』


          ***     ***     ***           


「はぁはぁ」
俺は息をきらせて、走っていた。

ついさっき、俺が感傷的に、色々な事を追憶していた時に、加奈子から電話があったの
だが………

『京介、ひっさしぶり!じゃーん』

「よぉ、本当に久しぶりだな、元気してたか?」

『京介、誰か男紹介してくれよぉー。加奈子にはいつも超お世話になってんだろお?
だから、少なくとも、おまえよりもイケメン限定で!』

「おいおい、いきなり何を言い出してるんだ、おまえ…訳分からん奴だな」

『ばっくれんなよ。ネタはちゃんと上がってるんだっつーの。
しかも、加奈子をダシに使いやがって、おまえらどんだけお盛んなんだョ(笑)』

加奈子は、俺とあやせが付き合った事を最初から知っている。
そして、一番最初に祝福してくれたのも加奈子だった。
こいつは案外(と言うと悪いが)良い奴で、今回の件で分かる通り、あやせとも仲が良いし、
桐乃ともちゃんと今まで通りに付き合ってるらしい。
加奈子が俺の存在をどういう形で捉えてるのかは分からないが…あやせがどれほど
加奈子のお陰で救われたのかは容易に想像出来る。

「へ?」 『おいおい、もうとぼけんなって。しっかし、あやせがねー意外過ぎるつーか、
イヤ、意外なのは京介の方か。イヤ、セクハラマネージャーだからむしろ当然だナ』

どうやら、加奈子の話を聞く限りでは、あやせは親に、今夜は加奈子の家に泊まると
言って嘘をつき、その口裏を加奈子に合わせて欲しいと頼んだ(命令した)らしい。
考えてみれば、あやせはまだ高校生なのだ。門限ってものがある。愚かにも、俺は
桐乃と喧嘩して、妹を家に残し、自分が頭を冷やしに外に出てきた感覚で考えていた。

「……………………まぁーな」

『ったく、頼んだ本人の携帯には繋がらないしよぉー。とにかくちゃんと誤魔化した
かんな。京介が伝えとけよ。いちゃつきやがって、幸せを加奈子にもお裾分けしろっ』

「本当にいつも有り難うな。おまえにゃ、マジで感謝してっからよ」

どう考えても、そんな素敵な夜になるとは思えないのだが……加奈子に余計な心配を
かけたくはないから、こう言うしかなかった。


何であやせの奴は、俺に『さようなら』とメールした癖に、門限の時間になっても、
帰宅しなかったんだ?

あやせの携帯にかけたが、当然繋がらない。

『このままわたしを置き去りにして……………今、わたしを見捨てたら、
本当に、本当に、、わたしは何をするか分かりませんよ、お兄さん』

さっき、部屋であやせが言っていた言葉を思い出す。
俺が勝手に信じていただけで、あやせは本当に、俺に見捨てられたと思っていたのか?
とにかく俺は急いで部屋に戻ると、ドアを開けたのだが…………

多少は、期待していた俺の希望は見事に裏切られ、部屋の照明は消えたままで、
辺りはしんと静まりかえっていた。
当然、あやせも、あやせの靴や大きなバックや歯ブラシなんかも……ここにあやせが
実存した事を本質的に証明するものは、何ひとつ残っていなかった。
俺がプレゼントしたチョーカーを除いては……。

あいつは本当に………親にも、加奈子にも嘘をついて何処かに行ってしまった。

俺は無意識に、そのチョーカーをポケットに突っ込むと、部屋を飛び出した。
あやせが行きそうな所を考えながら走り出したのだが全くと言って良いほど
検討がつかなかった。
あやせの知り合いに確認しようにも、そんな人物は誰一人、思い浮かばない。

俺はあやせの事が、性格云々じゃなくて………本当に何も分かってなかった。
分からないなんてレベルじゃない、あいつの事を何も知らなかったんだ。
加奈子に何度も連絡しようかどうか迷ったが、多分それは余計な心配をかけるだけで
何の解決にもならないと直感して辞めた。


あやせが言った通り、刹那的にでも抱いてやれば良かったんだ。
あいつに、ちゃんと捕まえててやるなんて偉そうな事を言って、結局心どころか
あいつの身体さえ……掴み損ねて、あやせは消えた。

さっき誘惑してきた時のあやせが思い浮かぶ。
あの目も眩みそうな美貌で、理性さえ麻痺させる媚態に満ちたあやせの顔と
あいつと喧嘩した時、他の男の話をして俺を嫉妬で狂わせようとした時の声が
頭の中で共鳴して、どんどん悪い事を、嫌な事を、最悪の事を考えそうになる。

俺はなるべく別の事を考えようとして、結局さっきの追憶の続きをはじめた。
麻奈実が学校を休んだ時、桐乃が突然留学してしまった時、黒猫が俺に
別れを告げて転校してしまった時………

麻奈実の時は、桐乃に相談したんだった。
桐乃が留学した時は、黒猫が色々気を遣ってくれた。
黒猫が失踪した時は、麻奈実に相談しようとして結局、桐乃に助けられた。


俺はあいつらの為にいつも頑張ってきたつもりだったけど、実はあいつらに
いつも助けられていたんだ。
俺は、誰にかけるのかも分からず、ポケットの中の携帯を掴もうとした…………
多分掴んでいれば、また泣き言を言った筈だ、いつもの様に………間違いなく。


でも携帯の代わりに俺が掴んだのは偶然にも、チョーカーだった。
無意識に、あやせが持って行ってしまった手錠の代わりに、右の手首にチョーカーを巻く。

俺は頭の中で何度も反芻する

麻奈実が居なくなった時、麻奈実を信じて自分で行動してたら?
桐乃が留学した時に、桐乃を信じて自分で行動してたら?
黒猫が失踪した時に、黒猫を信じて自分で行動してたら?

チョーカーを眺めながら、あやせが握っていてくれた右手を思いっきり握りしめると
微かに温もりを感じる。

あいつは言った
『わたしは………自分から……居なくなったり……しない』
と……。

あやせが消えた今こそ、あいつを信じるんだ。もうあの時とは違う。
あやせの為に、追憶した過去の為にも……今度こそ、絶対に失うわけにはいかない。

それは奇跡や宿命なんて大げさなものではない………とても静かで、優しくて、
暖かい予感みたいなもの、俺があやせを好きになった理由そのものなのだ。

もう二度と戻らない(戻れない)"もしも"が、俺の中で本当に過去のものになった事を
その瞬間に実感した。
その事実は俺をとても切なく、悲しい気持ちにさせたが、立ち止まってるつもりは
もう無かった。

だから…………俺は静かに歩き出した。


          ***     ***     ***           


どれくらい時間が経ったのだろう……わたしは目を閉じたまま眠っていた。


『おまえは何もしない、そして俺は必ず戻ってくるから…さ』


『さようなら』と自分でメールした癖に、京介さんの言葉が頭の中を何度も過ぎる
そして、その思い出が強烈に、わたしの後ろ髪を引く。
悲しいと吠える癖に、構って貰うと尻尾を振ってしまう、まるで寂しがり屋の犬みたいに。

それが漠然と思い浮かんだ、自分のイメージ。京介さんに手錠をされてエッチな事を
された時、チョーカーをプレゼントされた時から、、、あの時も全然嫌じゃなかった。

そして、わたしは………。
わたしがもっと素直で良い子なら、お兄さんは頭を撫でてくれたのかな?

「………ワ…………ン…」とかすれた小さな声を出して苦笑した。
"猫"なら、彼女はきまぐれだったのかな?と何の意味も無く、、ふと考える。
それにやっぱり猫の方が可愛い気がして、ちょっぴり嫉妬………したけど………

今日一日……彼女と電話で話していた時の京介さんの顔が一番楽しそうだった。
そして、それはわたしが好きな京介さんの顔だった。

わたしは
幼い頃に、飼っていた青い小鳥の事を思い出す。
あの時、桐乃の手を強く掴んだ事を思い出す。
あの時、京介さんの腕を指が食い込むほど握りしめた事を思い出す。

好きという感情が抑えられない、失う事を恐れて自分から壊してしまいそうになる……
小鳥を籠から出して逃がした様に、
桐乃の趣味を認めて自分の友情を押しつけるのを辞めたように、
だから、今度は、京介さんを自由にしてあげよう…………

もう、こんなわたしの事なんて、どんなに嫌らわれて、拒否されて、振られても、
きっとわたしは京介さんに対して、感謝以外の感情は、何も残らないのだから。

だから、なるべく笑って、さよならしよう…わたしの大切な人をこれ以上傷つけない為に。
京介さんとの思い出があれば、沢山泣いても、きっといつかは笑顔になれるから………

でも……突然、眩しい光に照らされる。唖然としていた、わたしを大きな手が引き寄せる。
まるで、光そのものが強い意思を持っていると錯覚をするほど、優しくて、確かな温もりが
わたしの身体を、優しく包み込んだ。


「……………やっと捕まえた」とクローゼットのドアの先から声が聞こえた。


『どうして………?』と言おうとしたが、強引に……今までに無いほど…強引に……
抱き寄せられて、口を塞がれた。

ついさっき決心した事を言おうとしたけど、彼の本気の力で押さえつけられた
わたしは何も出来なかった。
お互いの歯が何度かぶつかるほど激しく口唇を押しつけられる、わたしの舌が
何度も貪られる……唾液も、吐息も…わたしの全部が京介さんに吸い取られてしまう。
身体が熱くなって、意識が麻痺してきたわたしは、吸い取られた言葉の事も忘れて、
危うく、自分から京介さんを何度も求めようとしてしまった……。

どれくらいの時間が経ったのか、やっと押さえつけていた手を緩めてくれて、
唇を強引にわたしに押しつけるのも辞めてくれたのだけど(でも唇同士はふれたままで)
腰に手を回されて、半ば強引に京介さんの膝の上に座らされた。

だから京介さんの声は音と言うよりも、触れたままの、唇から振動で伝わる。

「俺はおまえの言いたいことが分かってるつもりだ。でもそれだけはダメだ。
その代わり、おまえがして欲しい事なら、"儀式"でも何でもしてやる!
もうカッコつけるのは辞めた……からさ」

あんなに我が侭を言って、いつも困らせて…だからこんな風になる事を…………
期待なんてしてなかった、でも京介さんはわたしを見つけてくれた。
そして、ここまで言ってくれてるのに……こんなに求めてくれてるのに…………
"でも"わたしは……。

「最初は、同情で付き合った癖に!本当のわたしの事はずっと、見て無かった癖にっ!
さっきだって、わたしを見捨てた癖に!だからもう遅い、、全部、遅いんだから!!!」

まだ足りない、やっぱり足りない………いくら求めても、求めれば、求めるほど
カラカラに渇いて、余計に欲しくなって…………際限がどうしてもない…………だから

そう思った時、そう言おうとした時、わたしの渇いた心を、わたしの頬を雫が濡らした。
京介さんは何も言わず、音も立てず静かに泣いていた。
ただ、わたしに触れたままの唇が微かに震えだして、その震えは段々大きくなって
ついには肩まで揺らしながら、号泣した。

男の人がこんな風に、人前で泣くなんて、信じられなかった。
沈黙した嗚咽は、わたしから完全に言葉を奪って、ただ彼を何とかし(てあげ)たい
と思う動機と暖かい涙を、わたしに与えた。

同時に、わたしは京介さんのしょんぼりした背中が好きだった記憶が蘇る。
ヘタレでも、情けなくても、シスコンでも……鈍くても、エッチで浮気性でも
それでも構わない…だから、わたしは別に、欲くて、求めてただけじゃない………
不器用で歪な、"まごころ"だけど………あなたに、ずっと、ずっとあげたかった。



          ***     ***     ***           


俺は何で泣いてるんだろう?原因も分からず、ただ羞恥心もプライドも無く、
俺はあやせの前で、嗚咽していた。
桐乃の前で何度か泣いた事が微かに頭を過ぎったけれど、もうそれが理由で今のこの涙を
止める事は、どうしても出来なかった。

あやせは何も言わなかった。ずっと黙って、ただ俺の背中をさすってくれていた。
それでも泣きやまない俺に対して、彼女は……………

「ちゅっ……ぺろ……レロ…むちゅ…ベロ……」

最初はキスされているのかと思ったが……そうじゃなかった。
あやせは、唇を押しつけると舌を出して、俺の頬を、頬に流れた涙の雫を舐めだした。
必死に、何度も、何度も、何度も…………滑稽な筈なのに、俺の胸は熱くなり……
ますます涙が止まらなくなったが、それでもあやせは、俺の頬が全部あやせの唾液に
変わるまで、決して辞めなかった。

俺はやっと「ありがとう」と言い、あやせの髪と頬を横から撫でた。

「京介さん、それ好き…だ、だから、もっと………してっ………く…ださい」

さっきは、桐乃にするみたいに頭を撫でる事をあれほど拒絶したのだが、今回は
何故か、ごく自然にあやせに触れる事が出来たし、彼女の嬉しそうな笑顔を見て……
俺の変な拘りが、このあやせの笑顔を曇らせてたのかも知れないと反省した。

「俺はあやせとずっと一緒に居たい。もう理屈も理由もないんだ。だから……さ……」

「ねぇ、京介さん、何でわたしがクローゼットの中にいるって分かったんですか?」

「本当に何の理屈も理由もない。ただ居て欲しいと………信じただけだ。
まぁ………鈍い俺だから何度か回り道したし、おまえを随分待たせちゃったけどな」

「わたしを信じてたのに、さっきは何で泣いたの?結局、振られると思って悲しくなった
んでしょ?本当に信頼してたら……」

「麻奈実がさ、さっき話してた赤城と付き合う事になりそうなんだ。
そして俺の妹とはちゃんと良い兄貴になるって話してきた。
黒猫とも、ちゃんとある約束している。
俺には本当にあやせしか居なくなった。
だから泣いたのかは分からないけどさ………こんな話って、やっぱ俺って情けないよな」

「そうですね、凄くみっともなくて、情けないから、ほっとけなくなっちゃいました……
………わたし」

「実際、不安だったのかもな。おまえの言う様に、最初は、あやせが危なっかしくて
心配で付き合う事にした。そして、俺の勝手なイメージでおまえの事を見てた。
さっき、おまえを捜し回って、走り回ったけど、でも俺はあやせの事を何も
知らなかったって痛感させられた。
だからおまえに、見た目だけとか、身体だけでも良いって言われた時に………
俺は何も言えなくて、ちゃんと反論も出来なくて、あやせを余計に傷つけた。
だからその事については謝るよ。変に誤魔化したり、カッコつけたりして、すまなかった」

「でもさっきは見捨てたわけじゃない、おまえを信じてたつもりだったんだ」
これだけの事を言う為に、本当に、随分遠回りしたが、やっと言えて良かった。

「そんなに、わたしを信じてるなら、わたしのコトがちゃんと分かってるって言うなら、
わたしが今して欲しいコ・ト・…当ててください。当ったら仲直りしましょう、ね?」

ウインクして、魅惑的な顔になったあやせが、挑発する様に俺にクイズを出した。

俺はさっきしたみたいに強引にキスする、もう自分が風邪だった事なんてすっかり
忘れていた。理屈も、理由も、クイズも関係なく……純粋にしたいから、した。

「それもして欲しいコトですけど、一番じゃないから………ハズレですね。
やっぱり……わたし達って相性悪いのかなぁ。残念です…ねぇ、京介さん?」」

こいつがずっと"京介さん"としか呼ばない事に違和感を感じた。
"儀式"なのかとも考えたが、俺に髪を撫でられている、あやせにはもうそんな気配は
微塵も感じられなかった。本当にただ、ただ美しい俺の彼女だった。

「んじゃ、また尻ぶった叩くか……アレはあやせのお気に入りだからな」
やっと余裕が出てきた俺は、何とか冗談を言ったつもりだったのだが……

「それもして欲しいコトですけど、一番じゃないから………ハズレ」

冗談とも本気とも取れぬ態度に対して、いささか俺の理性は、失われ始めて……
やっぱりあやせの言う様に、俺らが変態なのは、間違いないのかも知れない。
変な性癖に目覚めないか心配した将来の不安は、既にリアルな懸念に変わっていた。

「もう本当に強情ですね、京介さんの、、が、わたしにずぅっと当たってるのにっ!
それとも処女厨なのは…………冗談だった事が、実は的を射てましたか?
はぁ~でも、良いんです……それでもわたしの気持ちは変わりませんから。
あなたがどんな変態でも、応える自信……わたしにはちゃんとありますからっ!」

こいつが何を言ってるのか皆目検討はつかないが、何か相当ヤバイ匂いがするのは
確実に分かった。

「あ、あのさ、、おまえがもう"儀式"を求めてないのは、何となく分かるんだけど
それって結局どういう事だったのか、教えてくれないか?
それが分からないと、ちゃんとクイズに答えられないと言うか……」

『…桐…………3つ……の……処女………………』と耳打ちされた。

「ははは……あ、あやせさん、そんなの、おかしいですよ!って言うかさ。
キ○ガイみたいなフリをするのは、もう良いからね!だ、だ、だから本当の事を言おうぜ。
俺ら、ちゃんとした恋人だろ?全く……冗談ばっかり、どっちが変態だよ、もう(戦慄)」

あやせは無言で、さっき隠れていたクローゼットから、最近よく持ち歩いている
大きなバックを取り出すと、おもむろに俺に中身を見せる。
………メイド服、ブラウンのウッグ、眼鏡があった(様な気がするだけの事にしておく)

「もし、わたしが無理やり儀式実行したら、京介さんは、わたしの事が嫌いになって
逃げ出して、わたしの事を捨てましたか?正直に言ってくださいね?
わたし……絶対に、もうどんな些細な嘘も、誤魔化しも、許すつもりないから……」

「一回全力で逃げ出して、それでもおまえがやるって言うなら付き合ってやったと思う。
あやせは困ったちゃんなのは分かってるけど、同情以外の感情があるのは今なら分かる。
ぶっちゃけおまえが、NTRの話しなくなったのは儀式とか言い出してからだもんな。
おまえと別れるくらいなら、おまえが他の男の話をするくらいなら、もう超変態で
あやせと一緒に何処までも堕ちるやるさ」

半分は本気で、半分賭けで………俺はそう言った。
さっきみたいに、いくら諭してもダメなんだ、あやせを全部受け入れて、もしこいつが
傷つくなら、俺も一緒に痛みを感じてやる。
俺の彼女が堕天使で、地獄の案内人………だとしても、もう離れるつもりはない。
もう、絶対にあやせを一人にはしないって決めたんだ。

でも同時に、『とても静かで、優しくて、暖かい予感みたいなもの』を今なら
信じられる気がした。

「ふふ、京介さん……良いコ・ト・しましょう?もうしちゃいましょう……ねっ?」

そう言った時のあやせの笑顔は純真で、清純で、純粋でとても気高く感じられて、
本当に天使を見たら、こんな気分になるのかもなと俺は、不思議な感慨に耽った。

どうやら、何とか………賭けには勝てたらしい。
何でこいつは、あんな悪魔の発想する癖に……こんなに可愛く笑えるんだよ、全く。

「本当に、儀式はもう良いのか?」

「儀式ならもう終わりました。魔法ならちゃんと、京介さんにかけられちゃった…から」

こっちだって、ずっと魔法も、あやせ菌にもかかりっぱなしだったんだ。
でもあやせには伝わってなかった。だからこれからは、今からはもう照れは捨てて
全部あやせの望み通りにしてやろう。
誰かに聞かれて見られたら恥ずかしくて、死にたくなる様な事でも平気でやってやるさ。

「そっか…………分かった。で、おまえのお気に入りの手錠はどうする?」

あ~ついに、こいつとするんだなと考えると緊張で声は上ずるし、さっきは別れるか
どうかの瀬戸際だったのに、今はあやせが目を潤ませて、頬を高揚させてる姿を見ると、
更に俺に胸や臀部を押しつけてる状況を鑑みると、自然の摂理で当然痛いほど硬くなる。

「もう!お兄さ…(ん)…あっ、京介さんは…本当に、何も分かってないんですねっ!」

そういう事か…全く、、、何でそんなに俺に魅惑の魔法を重ねがけしようとするんだ?

「可良いな、あやせは…良いんだぜ?おまえが癖で言ってしまう"お兄さん"のままでさ。
おまえしか見てないんだから………今更、何ズレた心配してるんだよ、ったく」

「……ご、ごめんなさい……で、でも、でも……………」

「手錠はプレイで使うなら良いけど(もう立派な変態だ)、今は必要ないで良いんだな?
心はちゃんと繋がってる。今は…身体は身体同士で繋がりたい、、、で合ってるか?」

恥ずかしそうに、ぎこちなく、でもしっかりとあやせはコクリと肯いた。
こんな最高に可愛い彼女が相手なんだから、今だけは、俺も全力で"男"にならなきゃな。

俺はキスしながら、あやせをお姫様だっこしてベットに運ぶ。
何でだろう、あやせの裸なら本当に何度も、何度も見た筈だが………
DVD事件の時は、自分で全裸になってたし(長時間クローゼットでそのままだった)
あやせの部屋ではいきなり下半身を脱がせたのに、今は服を着たままのあやせを
目の前にしているだけで、今までと比べものにならないくらい興奮して、緊張して
完全硬直しちまった、やっぱ情けねぇ………。

自称"男"改め、単なる童貞小僧に成り下がった俺は、キョトンとした表情で見ていた
あやせに
「ふふ、良いですよ…ほら…………ボク………お姉さんとエッチなお勉強しましょう?
ほらぁ……こっちにおいで」
と誘われた。







タグ:

+ タグ編集
  • タグ:

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

最終更新:2011年12月02日 00:23
ツールボックス

下から選んでください:

新しいページを作成する
ヘルプ / FAQ もご覧ください。