運命の記述・外典 02


「なぁ…。その後、俺たちはどうなるんだ?」
 俺は黒猫を見つめたまま言った。
「ふぇ?」
「『運命の記述』の外典ってやつには、俺たちはどうなるって書かれ
てるんだ?」
「え…あ…あの…貴方は私の聖法衣を1枚ずつ脱がせていくの」
 俺はそれで下に目線をずらした。

 黒猫の黒のセーラー服が目に入る。
「聖法衣ってあれだろ? デートのときに着てきたやつ。いまは違うけ
ど、いいのか」
 茶化すように言うと黒猫は唇を尖らせた。
「う、五月蝿いわね…瑣末なことよ」
 それを見て俺が笑うと、黒猫もつられてはにかんだ。

 そして俺が肩に触れると、黒猫はびくっ!と体を震わせた。
 俺は服の上に手を滑らせていく。
 黒猫の体はその状態でも分かるほどすごく柔らかかった。
 男の筋肉質な身体とはちがう。
 受け入れるような感触。
 俺は上着の裾を掴むと、それをめくり上げた。
 すると真っ黒な生地の下から、真っ白な肌が現れた。
「…ぅ」
 身を硬くする黒猫。
 腹筋に力が入ったのが分かる。

 俺は胸の高鳴りに身を任せ、そのまま裾を上までめくった。
「…ひっ」
 露になったのは純白の清楚なブラジャー。
 それを見て俺は息を呑んだ。
 妹のやつを見たときとはちがう。
 これは同意の上での行為だ。
 その事実が俺を余計に昂ぶらせていた。

「つ、次は…どうすればいい?」
「あ…あああ愛撫…するのよ」
 愛撫…。
 つまりそれは体を触って気持ちよくするということだ。
 俺は言われるがままに、その上へ手を乗せた。
 ただし、それは「愛撫」なんて呼べる甘いものじゃなかった。
 お椀の形にした手を乗せただけ。
 それで俺は自分が黒猫に負けず劣らずガチガチに緊張してることに
気づいた。

 黒猫はきつく目を閉じていて、全身を硬直させているが、それでも
胸だけは別だった。
 まるでそこだけ別の生き物みたいなんだ。
 厚手の生地の上からでも、そうと分かるほど柔らかい。
 黒猫は決して胸が大きい方ではない――いや正直言って小さい方
だろうが、乗せた手が安定しないで動いちまう。
 それぐらい女の子の胸ってのは凶悪だった。

 俺は心地よくなってそれを上下左右に揺さぶる。
 何度も何度も、くり返す。
 ほぼ無抵抗で動くその感触に夢中になっちまった。
「…や、やめて頂戴。痛いわ」
 黒猫が懇願するように言うが、俺は止まらない。
 乱れたブラジャーをそのまま上へとずらしていく。

 途中、縁がなにかに引っかかったが、原因は全部めくってしまって
から分かった。
 乳首が立っていた。
「お前…感じてるのか」
 ああ分かってるよ。
 すげえマヌケな質問だってな。
 だが俺はピンク色のそれと黒猫とを交互にマジマジと見ながら言う。
「莫迦…」
 黒猫は唇を噛みながら言う。

 俺はその後、硬さを確かめるように親指で何度もいじり倒し、その
まま胸を揉みはじめた。
「…ぅんっ!」
 黒猫は身もだえ、そんな黒猫を俺はもっと見たくなった。
 残りの手を使って、今度は体中をまさぐっていく。
「…いゃ…ゃ…やめ…て」
 黒猫は右の胸に刺激があると、左に上体をよじり、左のわき腹に
刺激があると今度は右へとよじるのだが、どちらからも刺激が加えら
れるので、結局、されるがままに体中を弄ばれている。

 俺はそのまま「運命の記述」に従い下の「聖法衣」を脱がしにかか
る。
 黒猫はスカートの下に黒のタイツを穿いていた。
 俺はスカートをめくり上げると、その下に下着が透けているのを見
つけた。
 下着は上とおなじ純白だった。

 俺は直(じか)にそれを見たくなって、タイツに手をかけたが、もち
ろん初めての俺にうまく脱がせるコツなんて分からない。
 だから俺は胸を揉む手を休め、両手を使って強引に引き下げていく。

「…や、止めて。破けてしまうわ」
 黒猫の言うとおり、タイツは途中で何度も引っかかり、あちこちが破れ
てしまった。
 俺はタイツから手を離すが、それで十分だった。
 なにせ、もうすっかり膝のあたりまで露になっていたからな。

 俺はまぶしいような気持ちで愛撫を再開した。
 当然、どうしたってその下にあるものを想像しちまうから、指は股の
部分に集中していく。
「駄目…そこ…くふっ!…ぅ…」
 黒猫の家はあまり裕福とは言えない。
 だが下着だけはちゃんとしたものを、って考えなんだろうな。
 生地は厚手で感触はふわふわとしている。
 桐乃の下着とそう大差ない感じだ。

 だが、その厚みのせいでまだ肌の感触など到底、分からないはず
なのに、指先は早くも湿り気を感じはじめていた。
「お前…もしかして…」
 俺は行為を中断して、黒猫の顔を見た。
 黒猫は何のことか分からないといった顔をしている。

「黒猫。これも聖法衣に含まれるんだよな」
 俺は下着の脇に指をかけていた。
 「ちがう」と言われても脱がす気でいたからだ。
「そ…そうよ。全部…脱がせるの。記述(レコード)には…そう書いて
あるわ」
 黒猫は恥ずかしそうに言った。
 俺はその答えが終えるより先に脱がしにかかり、黒猫は悲鳴を上げ
た。
 両足を閉じて抵抗する。
 もちろん俺の力が勝ち、下着は太ももの辺りまで下りる。
 すると股の部分からつっ…と透明な糸が引いた。

「…い、言わないで!」
 黒猫もそれでようやく気づいたらしく、俺が何か言う前に制してきた。
 グーにした左手を使って顔を、パーにした右手を使ってそこを隠して
いる。
「…き…期待に身体が反応してしまったの!…な…何とでも言え
ばいいわ!…そうよ…私ははしたない女よ!…でも…これは…そ、
その…想像力が豊かなのだと…解釈して頂戴…」
 言いながら下半身をよじっているので、俺は苦笑いしつつ、そっと
その手をどけた。

 すると、どうだろう。
 その下からは控えめに生え揃った茂みが現れた。
 それは朝露で濡れたように光り、飢えた昆虫でなくとも思わず吸い
上げたくなるような蜜を滴らせていた…。

 なんていうのは止めよう。
 そんな文学っぽい描写をしてる場合じゃねえ。
 野暮だと笑うなら笑え。
 ボキャブラリーなんてクソ食らえだ。
 とにかく、それは興奮する光景だった。

 女の子の陰毛ってこんなに柔らかそうなのか…。
 ぐっしょり透明な粘液で濡れてて…。
 なんつーか、風呂に入ってるときの髪の毛みてえに、何本か束に
なって皮膚に張り付いてる。
 おまけに何もしていないのに腰をよじって…。
 あぁ…黒猫、相当恥ずかしいんだな…。
 でも、その度に濡れた陰毛が、右のふとももに張り付いたり、左の
ふとももに張り付いたりして、エロいっつーかなんつーか…。

「へ、変態っ!」
 急に黒猫が怒鳴った。
「そ…そそそんなところを…描写しないで頂戴!」
「へ? 俺…口に出してた!?」
「ええ! 思いっきりね!」
 ヤバ…。
 神猫様の神猫様があまりに神々しい光景だったもんでつい…。
 俺の悪いクセだなまったく…。

「い…いや…あはは…あ…あの…つ…次は?」
 苦笑いしながら言うと、黒猫は目を丸くした。
「なっ!? …何をっ…あ…貴方って人は…」
 黒猫は握っていた拳をわなわなと震わせる。
「た…確かに…これは『運命の記述』に従ってきただけとはいえ…
あなたが…ここまで鈍感で…愚図で…ヘタレだとは…正直思わなか
ったわ!」
「え?…いや…その」
「非道すぎる!」
 そう言って黒猫はそっぽを向いてしまう。
 しかも体ごと向きを変えて。
 そして手近にあったクッションを抱きかかえると、開いていた足も閉じ
てしまう。

「いや、ちがうんだ。聞いてくれ。俺が聞きたいのはそういうことじゃ
なくって…」
 俺だってわかってる。
 今のはただのお遊びだ。
 俺がこれを『「運命の記述」に書いてあるから』って理由だけでやって
たと思ってたのかよ?
 お前が何を言いたいかぐらい分かるさ。
 そう言うと黒猫は、
「ふん…じゃあ。何よ」
「いや、俺が聞きたいのはさ。つまり。お前自身がどうして欲しいんだ?
ってことだよ」
「…っ!」
 黒猫は全身を硬直させた。

「俺は…したい…したいぜ、正直。すげえ挿れたい。だって…ほら…
見てくれよ…もうこんなになってるんだぜ…」
 俺は膝立ちになる。
 自分でも驚くぐらいズボンの前がパンパンだった。
 つってもまぁ黒猫の位置からじゃ見えないだろうが。

「その…これってやっぱ…大事なことだからさ…お前の口から聞きた
いんだわ。俺だって…不安なんだぜ。あのノートの記述だけじゃ…」
 黒猫は何も言わなかった。
 しばらくのあいだ震えていた。
 しかしおもむろに体勢を戻すと、顔を背けたまま言った。
「…挿入(い)れて」
 ああ…。
 クッションは抱いたまま。
 顔はそっぽを向いてて、髪がかかっているせいで表情も読み取れない。
 そんな無愛想きわまりない状態だが、黒猫、お前が俺のために死ぬ
ほど恥ずかしいのを我慢して言ってくれたんだって分かるよ。
 十分さ。
 その頬の涙だけでな。

 俺はズボンを下ろすと、黒猫の上に跨る。
「…いくぞ」
 マジマジと顔を見つめると、黒猫がうなずいた。
 俺はきつく立ったそれを掴むと、黒猫の大事なところにあてがう。
 しかし濡れてて滑っちまって、定まらない。
「い、意地悪しないで頂戴…」
 黒猫も焦れたように言う。

「わ…悪ぃ」
 俺は全身の神経を集中させた。
 次第にそこへ血液も集まっていき、今やはち切れそうになっている。
 黒猫は入り口が擦れる度に、悩ましげな声を漏らす。
「くふぅ…っ!…は…はやく」
「わ、わかってる…」
 俺は片腕で全体重を支えていたので、そろそろ限界を迎えていた。
 しばらくして腕が震え出す。
 ふと、耐え切れなくなった腕が折れた。
「…っ!!」
 倒れこむと同時に黒猫が大きな声で鳴く。
「ひぎぃぃぃ!…っぐぅぅぅぅぅぅぅっ!」
 身体が覆いかぶさった勢いで俺のものが完全に黒猫の中に入っち
まった。

「…ぅう…痛い…痛い」
 その痛みは両腕が抱くクッションの形で分かった。
 風船で作った人形のように、それは2つに千切れそうになっている。
 俺の位置からでは見えないが、きっと血が出ているんだろう。
「だ…大丈夫か」
 黒猫は涙目になりながら深く息をする。
 ふうぅ…ふうぅ…とまるでお産のようだ。
 俺はそれを案じながらも、強烈な締め付けを感じる。
 腰を動かしたい衝動に全身がぞくぞくしていた。
 黒猫は何度か生唾を飲み込み、それから一度うなずく。
 それを合図に俺は腰を使いはじめる。

「…ぁ…あぁ…ぅぐぅ…うあ…」
 黒猫は目の端に涙を溜めながら喘ぎ、しばらくすると小さく吐息を漏
らし始めた。
 俺の方は頭の中がしびれるようになってくる。

 つーか女の子のあそこって、こんなにもキツイものなのか?
 それとも黒猫が特別なのか。
 スムースに入らないのも当然だ。
 黒猫の側が湿ってなければ、絶対に入らなかった。

「ぐっ!…うぁ!…うぐぅ!」
 俺も思わず声が出る。
 つーかもうイキそうだ。
 これオナニーの比じゃねえぞ。
 感触は包み込むようにやさしい。
 温度は先端から溶かされていくよう。
 黒猫の声は鼓膜を引っかくように震わせてくる。
 そうやってヤバイ要素を1つ1つ感じていく度に、倍々ゲームで脳の
しびれも増していく。

「あ…あぁ…あぁう…あぁあっ…」
 黒猫は突かれる度に髪を振り乱し、胸の前で両手のこぶしを握る。
「い、痛いのか? 気持ちいいのか?」
 俺は腰を使いながら矢継ぎ早に質問するが、黒猫は首をただ横に
振るだけ。

 それは「痛い」って意味か?
 それとも「痛くない」って意味?
 どっちなんだ?
 俺はうまく質問したいのだが、ことばが出てこない。

「ぁっ…ぁっ…ぁっ…」
 しばらく突いていると黒猫の身体が弛緩しはじめる。
 胸をガードするように強張っていた腕も、片方だけベッドの上に投げ
出されている。
 俺はそれで痛みが消えたのだなと解釈した。
 もちろん、俺は下半身だけじゃなくて脳味噌まで暴走していたから
誤解かも知れないが、もう冷静な判断なんてつかねーよ。

 突きながら見下ろす黒猫の肌は陶器のように白い。
 腕が動いたせいで胸の前が露になって、上気したせいで桜を散らした
ようになっているのが見える。
 その上にあの硬くしこった乳首。
 俺はそれにむしゃぶりつこうとした。
 上体を倒し、腰を振ったまま黒猫の上に覆いかぶさる。

「あふっ!」
 黒猫が悶絶した。
 勢いあまって圧し掛かるようになってしまったんだ。
 だが黒猫は小さくて、俺の口はせいぜい鎖骨の辺りにぶつかった
だけ。
 どれだけ背中を丸めても乳首には届かなかった。

「お…お前…カワイイな」
 俺はその事実(黒猫は俺よりずっと小さい)に今更ながら思い至り、
余計に愛おしさがこみ上げてくる。
 女の子って、こんなに愛らしいのか…。
 俺はせめて乳首の代わりにと首筋に吸い付いた。
 黒猫はその身をよじる。
「ふわぁ!…あぁ…ぅ!…ああぁっ!」
 続けて鎖骨へキスをし、もう一度首筋へと戻り、そして耳たぶへと
続ける。
「あ”ぁっ!…駄目っ!…ぅふぁあぁぁっ!…」
 黒猫はなおも身をよじる。

 俺は腰を使いながら黒猫の顔を見た。
 それはすぐ近く――口の中まで見える距離にあり、舌と歯のあいだ
に唾液が糸を引いているのが見える。
 エロい。
 唾液エロすぎる。
 俺は思わずそこへキスをした。
「んんーっ! んまっ! んまぁっ!…んー! んんうっ!」
 やっべえ…。
 これ…何も考えらんねえ。
 キスしながらのセックスやばい。
 マジやばい。

 俺は思わず目を閉じた。
 だって紅潮したままギュっと目をつぶる黒猫の困り顔が可愛すぎて、
見てるだけなのにイッてしまいそうだったからだ。
 それでも耳からはベッドがギシギシ言う音、そして黒猫のかわいい
喘ぎ声が入ってきて、俺の脳ミソを引っ掻き回す。

 そのまま腰を使っていると、何かが体の中を駆け上がっていく予感が
した。

「うっぐ!…ダメだ…イクぞ!…黒猫…イクぞっ!」
「だっ…駄目!…膣中(ナカ)は…膣中(ナカ)はっ!」
 俺はラストスパートをかけた。
 閉じていた目を開いて黒猫の両脇の下に手を入れる。
 そのまま背中に手を回して、強く抱きしめる。
 黒猫はダメダメをするように俺の背中を何度かこぶしで叩いたが、すぐ
に同じ手で抱きしめ返して来た。
「あぁん!…あぁっ!…厭っ!…厭ゃぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
 黒猫が鳴いた。
 俺も夢中になって黒猫の名前を呼んだ。
 瑠璃という、本当の名前を。
 そしてゾゾゾという背筋を撫でられたような感触のあと、下腹部が引き
締まって、強烈な射精感があった。
「んんーっっっ!!」
 黒猫の両足がふくらはぎの辺りに絡んでくる。
 その後、射精感は4度、5度と続き、そのたびに黒猫の足がびくんっ!
びくんっ!と震える。
 それで俺は確かに自分のものが黒猫の中に流れ込んでいるんだと
確信した。

「はぁっ!…んはぁっ!…んはぁ!…んっ!…んっ!…んはぁ!…」
 黒猫は何度も呼吸を飲み込んでいる。
 分かるよ。
 俺もうまく呼吸できないからな。
 なにせ射精感はもうなくなったが、絶頂感はまだある。
 真っ白く消えちまった頭の中のイメージは鮮明に戻ったが、まだ目の
前の黒猫のことしか考えられない。
 黒猫もそうだろうか。
 だからそんな興奮した顔をしてるのか?
 もしかして例の「イッた」ってやつなのか?
 俺は始めてのエッチで女の子をイカせたのか?

 俺はまだ脳味噌がバカになっていたから素直にそう口に出した。
 すると、
「わ…わからない」
 そりゃ当然って答えが返ってきた。
 女の場合、男とちがってはっきり合図がないって言うしな。
 でも今のでイッてないってなら、本当にイッたとき、一体こいつはどう
なっちまうんだ?

 しばらく抱きしめあった後、俺は俺たちの身体に布団をかけた。
 そして黒猫を腕枕をする。
「す…すまない。その…中出しは…『運命の記述』に示されてなかっ
たよな…」
 俺は苦笑いしながら言った。

 俺も黒猫も夢中だったせいで、避妊具なんてつけてない。
 つーかこの部屋にはそんなジェントルな品物は備え付けられていな
いし。
 だが黒猫はこう言った。
「べ…別に構わないわ」
「でもよ」
「ふ、ふんっ!…神に見捨てられし私、この堕天聖である黒猫に、
神の子たる人の世の道理など通じない。それに…」
 こちらをじっと見つめて言った。
「う、うれしかったから…」
 まただ。
 また赤猫になった。

「べ、別に…な…なか!…なか…し…が…とか…そういう意味じゃな
くて、『お前がどうしたいのか』って聞いてくれたから…」
 黒猫はそう言って顔の半分、鼻から下まで布団の下にもぐってしまう。
「ああ」
 分かってるよ。
 お前の言いたいことは。
 俺はべつに「運命の記述」を否定したわけじゃないんだ。
 「運命の記述」は黒猫の堕天聖キャラが生み出したもの。
 それを否定することは黒猫のキャラを否定することになる。
 黒猫だって、これであのキャラを捨てるわけじゃないだろう。
 桐乃との関係だってあるしな。
 俺だって実際まだ「黒猫」って呼んでる。

 だがそうじゃないこいつも見てみたいって、そう思った。
 それだけのこと。
 そういうあれこれを黒猫も分かってくれて、その上でそう言ったんだ
と思う。

 その後、黒猫の話によると(といっても布団に篭ってて聞き取るのは
至難の技だったが)、こいつは不安だったのだと言う。
 日向ちゃんの報告を聞いて、俺とあやせの関係が進展してしまった
んじゃないか、って。
 おまけにこう言う。
「日向の電話を聞いて、あなたが本格的にロリコンに目覚めてしまっ
たんじゃないかとも思ったわ」
「おい…『本格的』って何だよ」
「さて。どうかしら」
 それで俺たちは一頻り笑い合った。
 だがすぐに黒猫はマジメな顔になると言った。

「ひとつだけ確認させて。さっき私は言ったでしょう? 『「この運命」は
「外典」に記されていた』と」
 ああ。
 黒猫が思い描いた未来。
 俺とこうなりたいって期待した未来だ。
 でも、こいつはそうなるのが怖くて…いやちがうな。
 俺が不甲斐なかったがばっかりに、優柔不断だったばっかりに、
その「ありえるはずの未来」が来るのを信じられなかった。

 だからそれを「外典」、つまり「来ないかもしれない未来」としておいた。
 「その未来」が来なかったとき、傷つかなくて済むように。

「『外典』というものは『正典』を補うためのものでしょう。そして私たち
は今日、『その未来』を生きてしまった。ねぇ…京介。私は『この運命』を
『正典』に組み込んでもいいのかしら?」

 「京介」と呼ばれた。
 そして俺はその質問の意味を正しく理解していた。
 つまり黒猫はこう聞いていたんだ。

 ――貴方は私を選んでくれた。本当にそれでいいのね?

 桐乃の問題とか、そういう色んなことをひっくるめて。
 だから俺は迷わずこう答えた。
「ああ」
 すると黒猫はとても穏やかな表情をした。
 出会ってからはじめて見る「五更瑠璃の笑顔」だった。

「つーか、何なら『ほかの運命』も組み込んでもいいんだぜ?」
 俺は特に深い意味もなく言ったのだが、黒猫は赤くなった。
「ふえっ!?…そ、それは…どういう」
「おい、どうした?」
 まったく…。
 赤くなったり黒くなったり(あと色白だったり)、お前は忙しいやつだな。

「いまさら恥ずかしがるなって」
 もうこうしてお互いをさらけ出し合った仲だろ?
 俺は茶化すように言ったが、
「…だ、だだだだって。そこには…も、もっとはしたないことが書かれて
いるんですもの」

「へ? 例えば?」
「た、例えば…あ、貴方が私のお尻の穴に…その…か、かかか硬く
屹立した雄の証を挿入して…って! なにを言わせるの変態っ!」
 そう言って布団に完全にもぐってしまう。

 そのあと黒猫はしばらくゴニョゴニョと何か言っていたが、布団に篭っ
ていてまったく聞き取れないので、引っぺがしてやった。
「そっ…その…これまでは、貴方の勉強の邪魔をしてはいけないと
思って我慢していたのだけれど…。これからは…その」
 また布団に潜ろうとするので、引っぺがす。
「その…ちょくちょく…会いにくるわ。だって…その」
 また布団にもぐろうとする。
 また俺が剥がそうとすると、今度は黒猫が自分から押し留めた。
「会えない日は…その…すごく、寂しかったから」
 見えないが、布団の下でモジモジしている。
 そのことばは嬉しかった。
 だが同時に、突然キャラが変わりすぎだろとも、思っちまったんだな、
これが。

 そう口にすると、
「い…いいのよ。こうなってしまった以上、何処ぞのテンプレツンデレ
妹キャラみたく自分の好意を隠すことが莫迦らしくなっただけ。だって、
どうせこの数ヶ月間、私が毎日取っていた行動も知られてしまっている
のでしょう…?」
「ん? 一体なんのことだ?」
「とぼけないで頂戴。どうせ日向が全部しゃべってしまったのでしょう。
私が学校の帰りに遠回りまでして、毎日この部屋の様子を見に来てい
たこと…」

「いや…聞いてないけど」
「ふぇ?」
「いや。マジで」
 黒猫は目を点にした。

 そうか、なるほど。
 だから今日もさっき日向ちゃんがメールしたとき、1分も経たないで
駆けつけてこられたんだな。
 いくら家が近いっつっても、数十秒は早すぎだからな。
「…っ!!」
 黒猫は小さく悲鳴を上げると、完全に布団の中にもぐってしまう。
――ぜ、絶対にいつか呪い殺してあげるんだから!
 あれ?
 篭ってるはずなのに、そのフレーズだけはっきりと聞こえてきたよ?

「ったく。また堕天聖に戻っちまったな」
 俺は苦笑いをしたが、俺たちの物語は変わりはじめてる。
 それはお互いが望んだ形にだ。
 きっと周りのやつらも分かってくれると思う。
 いや、ちがうな。
 俺がいつもみたいに必死になって動き回って、説得してみせるさ。
 「俺とこいつの運命」ってやつをな。

 俺はそう決心しながら、布団の中へともぐりこんだ。



 〈了〉





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最終更新:2012年12月31日 17:36
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