カップリング2

「ねえ、うちの兄と高坂先輩だけど」

 またその話か。腐女子としての慎みはどうしたのかしら、と胸中で突っ込む。

「あたし、本人でも自覚してない愛、って結構あると思うよね」

 まさか、彼が実は801な趣味で、自慢のお兄ちゃん(笑)とラブラブだとでも言う気なのか?
 こいつは変人揃いの私の知人の中でも、特に妙なネジの緩み方をした奴だけど、ついに脳が形象崩壊でも起こしたのかもしれない。
 私は瀬菜を完全に無視して打鍵に集中する。
 彼女は私に無視されているにも関わらず、平然と妄想話を垂れ流す。
 振り向いてはいけない。魔眼に囚われるなど、宵闇の住人にとって最高の恥辱なのだから。

「二人の男性が女性を取り合ってて、何かの女性が不幸で死んじゃったりして、男達二人は不意に気付くの。
 本当に気になってたのは女性じゃなくて、彼女をはさんで見つめる恋敵だったんだって。
 これって、恋愛の黄金パターンよね」

 断じて違う。
 それは原作中で既にノーマルカップルが成立済みの男性を、無理矢理801カップルに仕立てる時の、腐女子の脳内妄想パターンだ。

「これって、現実の恋愛にも当てはまると思うの」

 ない。断じてない。でも瀬菜の口調に不穏なものを感じ、つい耳を傾けてしまう。

「うちのお兄ちゃんね、あたしが彼氏を作るなんて絶対認めないって言うのよ。
 瀬菜ちゃんに釣り合うような男なんていないから、ずっとお兄ちゃんのとこに居なさいって」

 完全に病気だ、この兄妹は。『お兄ちゃん』はいつの間にかでデフォになってるし。

「だから、あたしが高坂先輩の彼女になっちゃえば、お兄ちゃんは高坂先輩に食ってかかると思うの」

 ―――……は?
 今この■■■■は何て言った?

「そこであたしが抜けちゃえば、二人とも素直に自分の気持ちに気付いてめでたく―――」

 私は、知らず大きな音を立ててキーボードを叩き、瀬菜へと振り返っていた。

「いくら何でも、物事にはやっていい事と悪い事があるわよっ―――!?」

 瀬菜は眼鏡の奥で悪戯げに目を細め、口元を誰かのようにωの形に歪めていた。

「あ、やっぱりぃ?」

 ―――っ、不覚っ、この私が、嵌められたっ……
 やっぱり、魔眼遣いの女は油断ならない。














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最終更新:2010年01月13日 22:16
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