彼がトイレに立った隙に、ベットの下を漁ってみた。
指の先に、薄い雑誌が触れる感触。
あいつが言った通りの場所に、彼の秘蔵のコレクションはあった。
こんな簡単な場所に隠して安心してるなんて。
彼のおおらかさ―――というか、無警戒なところに胸中で嘆息する。
「これを見て、その、ぉな……してるのかしら?」
今更エロ本程度でドギマギするほど子供では無いつもりだったけど、どんどん心臓が早まっていくのを感じる。
ついでに言うなら、私は二次元専門、三次元のエロ本なるものをこうして直視するのは―――初めてかもしれない。
頁を捲る度に現れる、男女の痴態。
二次エロでは決して見れない、淫靡さと生々しさ。
しかし、それらに目を奪われる前に、私はこれらのエロ本に登場する女に、一つの共通項を見出していた。
眼鏡。
眼鏡。
どいつもこいつもかけている眼鏡眼鏡眼鏡。
そんなに眼鏡が好きなんだろう?
あのベルフェゴールは、もしかして眼鏡が本体で、あの地味女は魔力の詰まった眼鏡に操られているとか?
それにこの胸。どいつもこいつも巨乳ばっかり。
あいつといい、フェイトといい、瀬名といい、巨乳の女にはまともなのがいない。
貧乳は希少価値だ、ステータスだという言葉を知らないのだろうか?
まあ、オタク暦が短いあの人は、どうせまだ知らないだろうけど。
眉を寄せて悩んでいると、不意にバタンと扉が開いた。
……―――間一髪。多少本の順序が狂ってしまったが、彼は気付きもしないだろう。
「どうしたの? 少し遅かったじゃない?
女子高生と部屋に二人きりというシチュエーションに劣情を催して、トイレで独り欲望を吐き出しでもしてたのかしら?」
「女子高生が口にしていい台詞じゃねえぞ、それ。
……それにな、おまえ、俺をそんな情けない変態に見てたのかよ。
あのな、この際きっぱりと言っとくが、俺はそんなことするぐらいなら、正々堂々襲いかかるからな?」
「あら? あなたにそんな度胸があるとは到底思えないんだけど」
でも、本当にそうなら少し嬉しいかも。……劣情を催してたのは、私の方なんだから。
■
「なによ、こっちの方ばかりじろじろ見て」
「……何でもないわ」
紛うことなき巨乳、そして眼鏡。同級生にも意外な伏兵が。
「ちょっと貸して」
「あ、何するのよ、返しなさいよ眼鏡」
瀬菜の追撃をひょいとかわして、彼女の眼鏡をかけてみる。
巨乳を奪うことはできないが、眼鏡くらいはまぁ、できるかも。
眼鏡をかけた自分はどんな顔だろう鏡を探して振り向くと、聞きなれた声が耳に飛び込んだ。
「ははっ、何してんだよお前」
かあっ、と頬が紅潮していくのが分かる。
剥ぎ取るように眼鏡を外して瀬菜へとつき返す。
「何だってのよ、もう……」
本当に残念。
眼鏡をかけた私の顔を見た彼が、一体どんな表情を浮かべたのか。
瀬菜の眼鏡は度が強く、ついに見ることが叶わなくて。
最終更新:2010年01月16日 09:56