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ハロウィンの三人

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匿名ユーザー

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ハロウィンの三人




サイトウの場合;


オレンジ色のケープを翻して、ネコ耳をつけた小学生くらいの女の子が走って行く。
今日はハロウィンだ。いつの間にか、クリスマスやバレンタインと同じくらいメジャーなイベントになったと思う。
本来は仮装するものだけど、一般の人はとんがり帽子をかぶるくらいがせいぜいだろう。コスプレイヤーじゃあるまいし。

子供は無邪気でいいなと思う。Trick or Treatの、TreatばかりでTrickが無い気がするけど、はた迷惑なイタズラは
勘弁だから良しとする。

その一方で、誰かが派手なイタズラをかましてくれないかな、とも思う。ふだんエラそうにしている連中に
一泡吹かせるような、痛快なやつを。

それを自分がするわけじゃない。誰かが大きなことをするのを期待して、それを見ている側にいる。

大きなイタズラって、なんだろう。

学校のプールに金魚を大量に投入する? もうプールの授業はないから、これはダメだ。
校庭にナスカの地上絵ばりの落書きを……って、どこかで見たようなネタだな。
チョークを全部クレヨンに替えとくのは? 後始末が大変そうだ。見た目でバレそうだし。

いろいろネタを考えても、結局実行はしないだろうなと思う。

世の中がもっと面白くなればいいと思う。ライトノベルではある日突然主人公が超能力に目覚める、というのが
定番のひとつだけど、いっそのこと世界中の人間ぜんぶが超能力者になっちゃったら……。
超能力者どうしのバトルも、クラスメイトとのケンカ程度の当たり前具合なんだろうか。それはカオスなのか、
はたまたギャグなのか。

よく分からないけど、もしそうなったら僕はどんな能力を持つんだろう?


ナギサワの場合;


「トリック・オア・トリート!」
「あ、かわいい。それ、どうしたの?」

ニシトちゃんが右手にはめているカボチャ頭のパペットが、両手を上げたり下げたりしている。
「手芸部でもらったの」
「へぇ。こんなのくれるんだ」

カボチャ頭はユーモラスな顔で、パジャマのような服を着ている。

「ナギちゃんもお菓子くれなきゃイタズラするぞ~」
声色を変えて、ニシトちゃんが小芝居を打つ。
「えー。なにか持ってたかな?」

大抵のコはアメかチョコかクッキーかをカバンに常備しているけれど、わたしは入れていないことが多い。
グループでいるとなにかと“おすそ分け”があるので、もらってばかりでは申しわけないから持っておくようにしようと
思うのだけど、習慣がないと忘れがちだ。ニシトちゃんはそういうのをまったく気にせず、逆にわたしが引け目に
思わないようフォローしてくれる。例えば、こんなふうに。

「ワシにシュークリームを食べさせたまえぇぇ。近くのあのお店でなければ呪いをかけるぅぅ」
ヘンな声色のまま、ニシトちゃん(のパペット)が言う。

「わかったよ。帰りに寄ってこ」
言いながら、カボチャ頭をぽんぽんと叩いた。
ニシトちゃんは、作戦どおり、という笑みを浮かべた。


タカハシの場合;


原付に跨って信号待ちをしていると、通りに面した不動産屋から、魔女の格好をしたガキどもが大勢出てきて
横断歩道を渡っていった。

――あれ、そういやここは……。

小学生の頃、塾に通わされていた。自分の意志で行っていたわけじゃない。
個人でやっている小さな塾で、私立のお受験とは無縁のところだ。1階が不動産屋になっている雑居ビルの2階にあって、
同じフロアに雀荘とスナックが入っていた。今にして思えば、とても子供の教育環境としてふさわしくない場所だったが、
当時はそこがどういうところかも分かっていなかったので、なんとも思わなかった。

ごくたまに大人たちとすれ違ったが、なんとなく近寄りがたい雰囲気があったのはそのせいだったと、気づいたのは
小学校卒業と同時に塾を辞めた後だった。

そのビルが、信号待ちをしているオレの左側にある。普段は原付で通り過ぎるだけなので、すっかりそのことを忘れていた。
1階の不動産屋は別の会社になっていた。テレビでCMもやっている小奇麗なやつだ。雑居ビルの上を見上げると、2階は
旅行会社になっていた。オレの通っていた塾も雀荘もスナックも、無くなってしまったらしい。

――諸行無常、ってやつか。

店も人も、いつまでも良い時が続くわけじゃない。落ちぶれて去っていくのは必ずいる。
今日だけは、どんなにヘンテコな格好をしてても怪しまれなさそうだ。コンビニ強盗をやるならハロウィンに限る。
ストッキングをかぶるよりもオオカミ男のフリのほうがバレないだろう。



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