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馬楝多飲

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馬楝多飲




「ナギちゃんさぁ」

ニシトちゃんが、何の気なしに聞いてくる。

「『義務チョコ』って、知ってる?」



1月の終わり、放課後の教室。
今日は部活がないらしい。
ニシトちゃんが放課後にどこへも行かずグダグダと教室に残っているなんて、珍しい。

「麦チョコなら知ってるけどねー」

わたしは極めて真面目に答えたつもりだった。
ニシトちゃんは一瞬止まって、その後笑いを堪えるのに必死な様子だった。

「いやー、ナギちゃんやっぱ面白いわ」

ようやく落ち着いてから、わたしの肩をバンバン叩いてニシトちゃんが言う。

――今のやりとりに面白い要素があったかな? 

少し悩んでからすぐ諦める。どうせ、考えたって答えは出ないし意味が無い。


「もうすぐバレンタインじゃん。なーんか、面倒くさくってさー」
ニシトちゃんがぼやく。

バレンタインデー。わたしは誰にもチョコをあげる予定がない。
いや、訂正。わたしはニシトちゃんと一緒にデパートに行って、お互い一番と思うのを買って食べ比べしようかと
密かに妄想していたのだ。

けれど約束したわけじゃない。ニシトちゃんは部活もあるし、彼氏候補がいるとしたらそっちが優先だから。


ニシトちゃんの言う「面倒くさい」というのはわたしも同じだ。

わたしはクラスの男子に義理チョコを配るなんて発想も無いけれど、
否が応でも気にしなきゃいけない、この空気がどうにもイヤだと思う。

目当ての男子がいれば良い。
でも、そうでないなら苦痛でしか無い。

せめて「チョコレートのお菓子の新製品がたくさん出るから食べ比べてみる時期」くらいに思っていないと
やってらんない。


「ナギちゃん、あげる人いる?」

訊かれて我に返る。
また頭の中の世界に迷い込んでしまっていたらしい。

「……あっ、うん、えっと。いないいない全然。まったく。これっぽっちも」

いないことを力説するわたしは相当寂しい奴だと思う。

ニシトちゃんは意に介さず、
「あげたい人がいるとさぁ、何ていうか張り合い? みたいのがあるんだけどさー」

――サキザキくん……っと、思いかけて取り消す。いけないいけない、そうだった。


「どしたの? ナギちゃん」
ニシトちゃんがわたしの顔を覗き込む。

黙ってるとクールな感じなのに、仲良くなると人懐っこくて、世話やきなニシトちゃん。
部活をやっているときは猫みたいにすばしっこくて、弾ける笑顔が眩しい。

わたしは息を吸い込んで、言った。
「あのさ、ニシトちゃん。わたし、ニシトちゃんにあげていいかな? チョコ」

ニシトちゃんはきょとんとして、吹き出した。
そして泣き出しそうな笑顔でわたしに抱きついて、

「ありがとね」

耳元で囁いた。



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