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お兄様。
その響きは、脳が早くも蕩けそうな俺へのダウン追撃には十分すぎるものだった。

「お、お兄様…!?」
「…やっぱり、変ですか?わたしみたいな大女が」

目をうるうるさせながらまっすぐ見つめて来る沙織。上目遣いでないのはしかたがないにしても何となく悔しいが。
しかしこいつは狙ってるんじゃないかってぐらい的確にツボを押さえて来るな。天破活殺でも習得してるのだろうか?
何はともあれ沙織は普段がまとめ役として気丈に振る舞っている分、その反動もあるのだろうと俺は感じた。

「嫌な訳ない。ただ、そんな風に呼ばれるのに慣れてないからさ」

桐乃から、とは言わない。この状況で言っちゃいけないことぐらい俺にも心得がある。

「だから、『お兄様』にどんどん甘えてくれ」
「…はい、京介お兄様…」

多少気障ったらしい言葉にもなんら意に介さず体を寄せてくる。互いが互いに引き寄せられるように自然に唇が重なった。

「んっ…お兄様…お兄様っ…んんんぅっ!」

俺は沙織の昂ぶりに応じて強く体を抱き留め、舌を割り入らせて互いに絡ませ合い、順に歯茎をねぶっていく。やり方など全く知らないはずなのに本能とは偉大なものだ。
ゆっくりと唇を離すと、沙織の目の焦点が定まらなくなってきているのが見てとれ、これがリアル発情かと嫌が応にも高まらざるを得なかった。
このまま押し倒してしまってもきっと沙織は受け入れてくれるだろうが、今の俺は「お兄様」なのだから優しくもしっかりとリードしてやらねばならない。ある意味これもコスプレのひとつかもな。

「沙織、その前にシャワーを浴びよう」
「ぇ…」

目に少し光が戻った沙織は、冷静さも戻って来たのか急にあたふたと慌てだした。これは俺からの最後の意志確認だった。

「初体験は…文句の付け所もないものにしたいんだ。俺の独りよがりで沙織を傷つけたくないから…沙織を大切にしたいから」

『高坂京介が絶対に言わないことシリーズ』に出てきそうな臭さ爆発な台詞だったが、俺の偽らざる本音に他ならなかった。というか何を叫ぼうが今更、知りながらも突き進んでいる道だ。

「お兄様…それほど私のことを考えて…」

沙織の目に再び涙が溜まっていく。それを指先で拭うと耳元で「沙織」と囁いた。

「わかりました。お兄様もお待ちくださらずに、隣の部屋のを…」
「いや、もはや別の部屋になんて行きたくない。俺が先に入るよ、沙織はここで待っててくれ」
「う…、わ、わかりましたわ。強引なお兄様も素敵です」
「素直な沙織もな。それじゃあお先に」

まず俺が先にシャワーを浴び、体を丹念に洗ってから沙織に洗面所を渡した。
部屋に戻った俺は、ゴムの確認とこれからすることの妄想で改めて武者震いを起こしていたりした。

水音が止まり、ドライヤー音が止まると、ゆっくりとドアが開く音が聞こえた。
いよいよかと、生唾が止まらない。

「お、お待たせいたしました…」

おずおずと姿を現した沙織の姿に俺は絶句した。もちろん最高の意味で。

「綺麗だ…」

恐らくバスタオル以外には何も纏っていないその姿。
端麗な容姿に神の造形型物としか思えないほどの高一にして完成されたスタイル。誰だよこんなチートキャラ生み出したやつ出てこいよ!
そして何よりのスパイスである、

「あ、あまり見つめないで下さい…恥ずかしいです」

恥じらいという文化。むぅ、まさか絶滅が嘯かれているこの奥義を現代に伝えるものがいようとは…!
などと意味不明な供述を心中でしていたところ、沙織が少し苦々しそうに口を開いた。

「…わたしは、この体が好きじゃありませんでした。中学生なのにどんどん大きくなっていく身長と胸に、すれ違う男子は皆いやらしい目でばかり見てきました」
「だから、わたしは自分をわざと不思議なキャラに据えることで自分を守って来たんです」

あのガチオタスタイルを筆頭にしたキャラチェンジも元々はその一環でもあったのだろうか。一休さんにそんな説話があったような気がしたな。

「でも、京介さんは違った。京介さんは私の外見に囚われないで、私そのものを評価してくれた。だから、私は京介さんに惹かれはじめていったんです」

沙織なりに思い悩んでいたことに今まで気づけなかった馬鹿な俺は、あまりにもなベタ褒めにむず痒くなり反論した。

「買い被りだよ。俺だってたまたま運が良く沙織を中身から見れたけど、槙島としての沙織を先に見ていたら俺もその猿達と変わらなかっただろうさ」
「だとしたら、神様がわたしに京介さんとそうして出会える運命を与えてくださったんだと信じます」

その目はあまりにも純粋で、それでいて自分の確信を信じている目だった。その瞳を見据えた瞬間、俺の中で何かが弾けた。

「あー…もう我慢できねぇや。沙織を貪りたい」
「どうぞ…来て下さい。もうわたしは既に京介さん…お兄様のものなんですから」

俺はただ一度だけ頷くと、沙織を部屋のベッドまでお姫様抱っこで連れていき、沙織の上に覆い被さるように跪いた。





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最終更新:2010年08月18日 09:39
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