通学路での一コマ


「いってきまーす」

ガチャ

「おはよう、先輩」
「うお!?」

学校に行くために玄関のドアを開けた俺を出迎えたのは
朝の空気ではなく、後輩だった。

「ど、どうしたんだいきなり」
「違うわ、先輩」
「…何がだ?」
「朝はおはようございます、でしょう?」


俺の名前は高坂京介。
何処にでもいる極々普通の高校三年生だ。
そして隣の美少女の名は五更瑠璃。
同じ学校の後輩であり、そしてその…なんつーか…いわゆる彼女、というやつである。
七巻ラストで告白された俺は、色々あった末、
彼女と付き合うことになった。
コラそこ、どうせまた釣りだろとか言うな。
確かにその可能性は無きにしもあらずだが、
せめて八巻が出るまでは甘い妄想に浸っていてもいいではないか。

「先輩、一つお願いがあるのだけど」
「ひょ!? な、なんだ?」

いかん。
アホなメタ妄想に浸っていたお陰で変な声が出てしまった。

「ひょっとして話を聞いていなかったのかしら?」
「う…スマン」

素直に謝る。

「困った雄ね。どうせまた、妹の事でも考えていたのでしょう?」
「断じて違う」
「どうかしら」

ふふ、と悪戯っぽい笑みを浮かべる黒猫。
くそう、可愛いなあ…
最近の黒猫はとても表情豊かだ。
少し前まで仏頂面か人を見下すような笑みしか見たことがなかった俺にとって
それらの表情は新鮮であり、とても魅力的である。
…付き合い始めてから彼女の魅力を確認ってどうなのよ。

「冗談よ。そもそも話をしていなかったのだから」
「おい!」
「考え事に耽っていたのは本当でしょう?」
「そうだが…で、お願いって何だ?俺にできる範囲でなら何でも聞くぞ」
「…それなのだけど…」

そこまで言って黒猫は言い淀む。
なんだ?自分から言い出しておきながら。
もしかして、とんでもないお願い!?
ももももしかしてえっt
いや待て、黒猫はこれでも常識人だ。
これでもってのも失礼な言い草だが。
だって周りが変な奴らばっかりだからあのその

「私のことは、これから瑠璃、と呼んで頂戴」
「待て黒猫。まだ早……るり?」
「ええ」

五更瑠璃。
黒猫の本名。
いや、人間としての名前、だっけ?

「なま…え?」

「ええ。私達は付き合っているのでしょう?」
「そ、そうだな」

顔を赤くしながら言う黒猫。
『付き合っている』というフレーズにこちらまで顔が紅潮し、
お互いに俯いてしまう。

「だったら、その、私達は運命共同体なのよ。
HNではなく、真名で呼ぶべきでしょう」

本名なら、既に呼んでいる。
苗字だが。
黒猫がうちの学校に進学してきて同じ部活に入り、
いつしか部活メンバーの時は五更、
それ以外の時は黒猫、と呼ぶのが定着していた。
ネットコミュニティのオフ会の付き添い、という
バーチャルの延長みたいな出逢い方をした俺たちだが、
いつしかその関係はリアル世界のものとなった。
初めて黒猫の本名を聞いたときは妙に感慨深かったっけ。
これで俺も黒猫の友達を名乗っていいのかな、ってな感じで。

「そっか…」
「気に食わなかったのよ」
「え?」

呟きに黒猫の台詞が被った。
もう俯いていない。
前を向いて歩き出している。
慌ててその後を追う。

「あの子や沙織は名前で呼んでるのに、私だけ」
「待て。桐乃は仕方ないとして、沙織は結果論だろ」
「そうだけど…」

歩くペースはそのままなので、前を歩く黒猫の表情はうかがえない。
……まったく、ほんとに可愛いやつだよコイツはよ!

「もしかして、妬いてたのか?」
「断じて違うわ」

嘘つけ。

「瑠璃」

黒猫、いや瑠璃の身体が震え、立ち止まる。

「気が付かなくてスマン。俺はいつも、お前に何かしてもらってばかりだな」
「礼を言われるようなことをした覚えはないのだけど」
「俺が勝手に感謝してるだけだ。気にせず感謝されててくれ」
「どこぞの新興宗教みたいだわ…」

ほっとけ。
それはさておき…ここまでしてもらっておいて応えないってのは、さすがにみっともないよな。
ぐお、なんか緊張するぞ…って瑠璃はもっと緊張したんだろうな…告白の時とか…
どんだけ根性あるんだよお前は。
それでなんで友達少ねーんだよ。

「俺からも一つ、頼みがある」
「…聞ける範囲でなら」
「俺のことは京介、と呼んでくれ」





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最終更新:2010年11月13日 11:48
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