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第一章 


「きょうちゃん、今日これから家に寄れない? 朝、言うの忘れてたんだけど新作和菓子の試食して欲しいんだー」
下校の途中、校舎を出たばかりのところで、麻奈美がそんな事を言い出した。
もちろん、俺は快諾しようとしたのだが──
「あ──、ダメだ。今日は多分、無理」
俺は今日が木曜日だというのを思い出した。
「あ、なにか予定あった?」
「予定というか──用事が」
「……どんな用事か聞いていい?」
なんだよ、麻奈美の奴、めずらしく食い下がるな。こんな時に限ってよ……

「その、妹の奴が……」
俺はどんな風に説明したものか悩みつつきりだした。
「ああ。確か、こないだも木曜日に急に用事が出来たんだよね。もしかしてあれも桐乃ちゃん?」
「ま、まあな」
「そっかー。もしかして、いつかの相談がまだ続いてるのかな?」
「あ、ああ。まあ、そんなとこだ」
渡りに船とばかりに麻奈美の話に全のっかりでやりすごそうとする俺。
「ふーん。いいお兄ちゃんしてるんだあ」
そういいながら、キラキラした瞳で俺の顔を覗き込んでくる麻奈美。俺は思わず目をそらさざるを得なかった。
「桐乃ちゃんと約束してるなら仕方ないね。じゃあ、また都合のいい日にお願い」
「あ、ああ。すまねえな。明日でよければ伺うよ」
「うん! あ、実は私、今日、色々買い物して帰らないと行けないんだ。そういう事なら、ここでバイバイね」
そういって、校門を出ていつもとは逆の方向に去っていく麻奈美。俺はかすかな罪悪感を持って、その後姿を眺める。
「ふー」
思わず、大きなため息をついてしまった。



桐乃。なんでも出来て、自信満々で、クソ生意気な三つ年下の俺の妹。

最近の俺と妹の関係はというと、──努めて客観的に表現するなら──まあまあ良好と言っていい。
俺との関係だけではない。今まで食事時はほとんど口を開かなかった桐乃が、わずかではあるが、
学校の部活や友達の事などを話すようになった。
おふくろの配膳の手伝いも(たまにだが)進んでやるようになったし、
この間なんて親父が晩酌をしている時、コップが空いてる事に目ざとく気付いて
手ずから酌をするというサービスっぷり。
その時の親父の顔は、正直見れたものではなかった。親父がニヤつくのを必死で我慢しようとしてる様は、
傍で見てて頬の筋肉をつるんじゃないかと心配するほどだった。

その日、食事を終えて部屋に戻ろうとする俺に親父がこう言った。
「京介。お前の事を見直したぞ」
……と。親父はおそらく、俺が桐乃のオタク趣味の件で色々動いてやった結果が、
今の桐乃の姿に繋がったと考えているようだ。

何年かぶりに親父に褒められたというのに、その時の俺はひきつった笑みを返す事しかできなかった。
それというのも、俺自身は現在の妹との関係を素直に肯定する事が出来ないでいたからなのだ。

「ただいま」
「おそーい!」
扉を開けるとそこには仁王立ちで妹が待っていた。
「あんた、何してたわけ? 今日が木曜日ってわかってるよね? もう、人をどれだけ待たせたら気がすむのよ!」
案の定、桐乃の中では木曜日は約束の日という事になっていたようだ。
一度も約束だなんて話、した事ないのによ。やれやれ、麻奈美の誘いを断っておいて正解だったな。
「仕方ねえだろ。今日は掃除当番だったんだよ」
「もう、それならそうと、言っておいてくんない? こっちも予定ってもんがあるんだからさあ」
いったい何の予定だよ。
「もう、時間なくなっちゃうじゃん! ねえ、早く……しよ?」
はにかむような妹の表情にドキっとする。
「あ、ああ」
顔を熱くしながら俺はそう応じた。



木曜日。
それは専業主婦であるおふくろが習い事で家を開けている日である。
そして、いつも部活だなんだで忙しい桐乃もこの日の放課後は定休日のようなものなんだそうだ。
つまり、家で俺と妹が二人っきりになることができるほぼ唯一の時間という事になる。
そういうわけでいつの間にか、毎週この日の午後は、俺と妹にとって二人で過ごす時間として定着した。
最初の頃は俺も気にせず別の約束などを入れていたのだが、結局、桐乃によって強制キャンセルさせられるので、
今日のように最初から用事を入れないでおくようになったのだ。

それに俺自身も……なんだかんだ言って、この時間を楽しんでいるみたいなのだ。
そこのところが俺のここしばらくの最大の悩みでもあった。

俺は足早に二階の自室へと駆け上がり、カバンをベットの上に放り投げると
急いで妹の待つリビングへと向かう。
そこでは桐乃が準備万端整えて俺を待っていた。


「あ、ああん! ちょ……やめてったら、もう! こ、このっ! ああん!」

2PWINという文字がTVの大画面に表示される。ちなみにプレイヤー2は俺である。
さすが移植版と言えば良いのだろうか。PC版シスカリに比べると格段にバランスが良くなってる。
桐乃愛用の隠しキャラも、PC版での反則的強さが抑えられており、相変わらずPC版のつもりで
戦っている桐乃の勝率はあまりかんばしくない。

「もう、何よ、コレ! せっかく新型PSPごと買って来たのに、とんだ劣化移植じゃない!」
いや、かなり良く出来た移植作だと思うぞ。なんといっても元のゲームの欠点が修正されてる点が素晴らしい。
ちなみに俺が使ってるPSPは桐乃のお下がりの旧型である。
PSPで対戦するためには、PSPが二台にソフトも二本必要ってことで、結構な金がかかっているんだと。



ただいま、俺たち兄妹はリビングで格ゲー大会の真っ最中。
本来、携帯ゲーム機であるPSPで遊ぶのにテレビは必要ないのだが、
桐乃曰く、大画面だとやはり迫力が違うそうだ。

「もう、今日はやめ。違う事しよ?」
そう言って桐乃は、PSPとTVをつなぐ出力ケーブルを乱暴に引っこ抜いた。
「違う事ってなんだよ?」
「うーん。あんた何か考えて」
なんだそりゃ。相変わらず勝手放題だな、この妹様は。
「言っとくけど、お母さんがいない時ならではの事じゃないとダメだかんね」
「なぬ!?」
「あたりまえでしょ。お母さん居るときに出来る事、今したって意味ないじゃん」
だとさ。
うーん、おふくろが居ない時にしかできない事ねえ……
じゃあ、また一緒に風呂に入るとか……

「あ、一緒にお風呂とかもダメだから」
「わ、わかってるよ!」
あーびっくりした。冗談で思いついただけなのに、心の底からびっくりしたぞ!
ドギマギする俺に、悪戯っぽい表情で桐乃が言葉を続ける。
「本当に? 少し考えてたでしょう?」
ぷぷぷと、いやらしい含み笑いをしながら流し目で俺を見る。
「か、考えてねえよ!」
考えたけど!
「あはは。ま、そのうち気が向いたらね──。今日は普通に遊びたい気分なの」
「そんな気、向かなくていい!」
くそ。そのうち気が向くのか? 本当に? いや、どうでもいいけどさ。どーでも。
あーもう、考えるな。股間が反応したらまたからかわれ放題だ。
そんなことより、今のあははって笑ったところ。腹立つくらい可愛い顔しやがって。ああ、もう、納得いかねえ……!




「……じゃあ、またメルルのDVDでも見るか?」
知恵を絞ってはみたものの、気の利いた事は何にも思いつかなかった俺は、
とりあえずもっとも無難な案と思われるものを言ってみる。

すると桐乃は少し思案顔になった後でこう答えた。
「……ううん。それはパス」
「なんだよ、見たくないのかよ」
「だって、あんたあんまりアニメに興味ないじゃん。……もっと、二人で楽しめる事がいい」
「そ、そっか」
やべえ。今のとこもちょっと可愛かった。
くそっ! 最近のこいつはちょっとおかしいぞ。いや、おかしいのは俺の方なのか?

「……ねえ。あんたは、何かしたいことないの?」
「え? 俺?」
それはあまりに意表をついた言葉だった。
「そ。考えたら、あんた普段、何やってんの? あたし、あんたの趣味とか全然知らないんだけど」
俺の趣味?
「ええと……読書とか?」
「読書? どうせ漫画ばっかりでしょ。絵に書いたような、無趣味人間ね、あんた」
「う、うっせい」
図星をつかれて思わずそんな言葉が口をつく。
しかし趣味……ねえ。確かに趣味って言われても特別なものは何もねえ。
でもさ、漫画やテレビや音楽聴く以外の趣味なんて、ある奴の方が珍しくね?
「はあ……あんたねえ。少しは、妹以外の事にも興味もちなさいよ」
「ほっとけ! っていうか、今さらりと変な事言っただろ、おまえ!」
しかし、桐乃は完全スルーで言葉を続ける。
「あんた、普段……あの女とばかりつるんで、いったい何してるわけ?」
ジトっとした視線で見つめながら桐乃が俺に問う。
何してるっていわれてもなあ……



「特に何も……。麻奈美や麻奈美の弟やじっちゃんばあちゃんと茶飲みながらだべったり……」
「は? でも毎日のように通ってんだから、それだけってことないでしょ?」
「ああ、勉強したりもしてるぞ。おまえが思ってるより意外に俺は勉強してんだぜ」
俺だってやることはやってんだ。少しは兄貴を尊敬しやがれ。
しかし桐乃は呆れ顔で言う。
「……勉強くらい家でしたら?」
勉強くらい一人で出来ないのかと蔑むような視線。俺はたまらずいい訳する。
「ま、麻奈美は教えるのが上手いんだよ。中学時代から教えてもらってるから、俺がひっかかりそうなとこも
ちゃんと心得てるからな。効率が全然違うんだって」
「へえー……。ま、そんなこと、ど~~~~~でもいいんだけど……」
ウザったそうに、どうでも、って所をやけに強調して桐乃が言う。
なんだよ、てめえが聞いて来たくせにさ。

「とりあえず、あんたは特にやりたい事って無いわけね」
「まあ……なあ……」
正確に言うと、おまえと一緒にできる事が思いつかない。一人でならいくらでも時間潰すことくらい出来るけど。
……ここらへんが桐乃と麻奈美の一番違うとこだな。麻奈美なら何もせずとも、一緒にぼーっとしてるだけで間が持つんだが。
「はあ……」
大きくため息をつく桐乃。
「いいわ。じゃあ、気を取り直してシスカリの続きやろ。あたし、キャラ変える」
「あ、ああ」
桐乃は慣れない新キャラを使うのに苦労していたが、俺も慣れないキャラの相手で苦労したため
結果、戦績ば五分だった。こうして俺と桐乃の低レベルな格ゲー大会は終了した。





翌朝。
「ふっふーん♪ はちみつトースト作ってみた。ほら、美味しそうでしょ?」
バターの上から、匂いが鼻を付くほど蜂蜜がたっぷり塗られたトーストを桐乃が差し出してくる。
桐乃自身の前の皿にも一枚のっかてるから、これは俺の分って事らしい。
「ゲ……甘すぎるだろ、それ」
「ハァ? このあたしがせっかく作ってあげたのにケチつける気? じゃあ、食べんな!」
「ヘン、いらねえよ。……おふくろ、食パンは?」
「もうないわよ。桐乃が焼いたのが最後」
「ふふん。恩知らずは空腹のまま学校に行って餓死するべき」
「仕方ねえ。これ食べてみるか ……ん、あれ? 意外と美味い」
「あ、泥棒! このっ!」
「痛え! わき腹に蹴り入れんな!」
「いらないって言ったくせに、あんたが勝手に食べたからでしょう!」
「悪かったよ。美味しいよ、作ってくれてサンキュー……これでいいだろ?」
「全然、感謝の気持ちが足りない!」
朝から騒ぐ俺たちに、呆れ顔でおふくろがつぶやく。

「はあ……あんたら、仲良くなったみたいなのはいいけど、朝っぱらからじゃれるのやめなさい。
まるで小学生に戻ったみたいよ? お父さんからも言ってやって」
「ん……あ、ああ。あ──、桐乃。それ今度、父さんにも作ってくれ」
ガクリとおふくろが肩を落とす。
「いいケド……甘いよ?」
「はあ……父さんは、桐乃が作ったものならなんだっていいのよ」
親父の言葉に再び呆れ顔でおふくろがため息をつく。
「ふうん。じゃあ、今度、タラモサンド作ったげる。そっちのがお父さん向きだろうし」
「あ、ああ。じゃあ、それを頼む」
広げた新聞を隠れ蓑にして、親父が嬉しそうに頬をひきつらせる。まったく、普段の威厳はどこへやらだ。
ところで親父、タラモサンドって何かわかってんのか?




それにしても──
桐乃が少ししゃべるだけで、なんとなく場が華やぐ。こいつが学校で人気あるってのもよく分かる。
結局、家の外も家の中も、世界はこいつを中心に回ってるようだ。
俺自身、桐乃と過ごす時間は、決して不快なものではなくなっている。

しかし、相変わらず俺はこの妹を心から好きにはなれないでいるのだった。



そして、その日の放課後。
昨日の約束を果たすべく麻奈美と共に下校しようとしていると校門で見知った顔が待っていた。
「げ……あやせ」
「お久しぶりです。お兄さん」
「あ、あやせちゃんだ~~ひさしぶり~」
「お姉さんも、お久しぶりです」
「どうしたの?今日はこんなところで……って、きょうちゃん!? なんで素通りして行こうとしてるわけ?」
う、麻奈美の奴め余計な事を……。
「よ、よう。久しぶりだな。といっても、一ヶ月たってないか」
「そうですね。ところでなんで今、逃げようとしたんですか?」
う、このパターンは……! 俺の脳裏にコミケ帰りの桐乃を追い詰めるあやせの恐ろしい姿が蘇る。
「まさか、桐乃に何かしたんじゃ……?」
「し、してない。何もするわけねえだろ!?」
とりあえずそんな風に言っておく。最近あった諸々の話は、あやせの耳には伝わってないらしい。
ま、あたりまえか。

「え~またまた、きょうちゃんたら照れちゃって。きょうちゃん、最近、桐乃ちゃんに色々やってるんだよ~」
「ハアッ!?」
恐ろしい形相であやせが俺を睨みつける。
「ば、バカ! 誤解を招くような言い方するんじゃねえよ!」
「え~~? わたし、何かわるい事言った……?」
事情をよく知らない麻奈美は何の事やらわからないというそぶりである。
「と、とにかく、今日はどうしたんだよ?」
ここはとっとと話を変えよう。
「あ。今、話をごまかそうとしましたね?」
「してねえよ!」
くそ、相変わらず勘のいい娘だ。




「……ま、いいです。後でゆっくりと聞かせてもらいますから」
「あ、後で?」
「はい。今日はお兄さんにお話があって来たんです」
「俺に話……?」
「はい」
そう言うとあやせは、麻奈美の方をちらりと見やる。
こういう事には意外に気が回る麻奈美は、
「あ、じゃあきょうちゃん。私、先に帰って家で待ってるから」
そう言ってその場を去ろうとする。
「え……? いや、ちょっと待て。俺も一緒に……」
しかし麻奈美を追いかけようとする俺を背中でブロックしつつあやせが言う。
「すみません、お姉さん。少しだけ、お兄さんお借りします」
「ううん、気にしないで。じゃあ、きょうちゃん、後でね~」
結局、麻奈美は去ってしまい、後には俺とあやせだけが残された。

しばしの沈黙。それがたまらなくって、俺は単刀直入に切り出した。
「あ──、……話ってのは桐乃の事だよな?」
あやせと俺の間の話題は、それ以外ありえない。
「はい。実は……」

あやせが言うには、なんとあの責任感の固まりのような妹が、部活をサボってるって言うのだ。
継続的にサボってるわけではない。サボる頻度がそれほど多いわけでもない。
だから、特に部で問題になってるわけではないらしいのだが、あやせはたまたま陸上部のクラスメイトと
桐乃が話しているのを耳に挟み、そのクラスメイトを問いただしたところ、桐乃がたまにサボるって話を知ったらしい。



「でも、変ですよね? たとえ、たまにだろうと理由もなく桐乃がサボるなんて……」
「確かに……な」
親友のあやせと仲たがいした時でさえ、落ち込むのをひとまず横においておいて、部活に没頭するくらい
自分に与えられた役割はきちんと果たすような奴だ。
「どうやら、サボる日は木曜日が多いみたいです」
「木曜日? あれ、木曜日は……」
部活が休みの日なんじゃないのか? そう聞き返そうとした俺は、すんでの所で言葉を止めた。

「何か、知ってるんですか?」
「あ、いや。うちの母親も、よく家を空けるなあと思って」
「お母様が? じゃあ、それと関係があるのかな……」
ふう。どうやら俺にしてはうまくごまかせたようだ。
「ああ! まさか、お母様が留守なのをいい事に、家で二人っきりになったりしてないでしょうね!?」
怒りの形相で俺に問いただすあやせ。うわあ、まったくごまかせてなかったよ!
「まさか二人でいかがわしい事をしていたりってことは……?」
「んなわけないだろ!」
実際、いかがわしい事をしてたわけではない──少なくとも木曜日は──ので俺はきっぱり否定する。

「そ、それより、なんで直接、桐乃に聞かないんだ?」
そういうと、あやせは少し悔しげな表情をする。
「……怖いんです。また、前みたいに隠し事をされたらって思うと……」
あの喧嘩は、当然ながら桐乃だけでなくあやせにも大きなダメージを与えていたのだろう。
実際、あやせの判断はある意味、賢明だった。
もし問い詰められたとして、桐乃は本当の事を言う事は出来なかっただろうから。



「あ、ところで、さっき桐乃に色々してるって言ってましたよね? 一体、桐乃に何したって言うんです?」
思い出したようにあやせが俺の方を問い詰める。
「だ、だから、何もしてねえよ! あれは単に、おまえとの事とか色々と相談にのってやった事だよ」
「本当に?」
「あたりまえだろ。どこの誰が幼馴染に、妹に手を出した話を自慢げに吹聴するってんだよ!」
「はあ……それもそうですね……きゃっ!」
その時、校門を吹き抜ける風がつむじ風となってあやせのスカートをふわりとまくり上げた。
それも、下着だけでなく、へその辺りまで丸見えになるほど高く。

大慌てでスカートを抑えつつ顔を真っ赤にしながら、あやせが恨めしそうに俺を見る。
「……み、見ましたね?」
白に控えめのレースとフリル。しかし馬鹿正直に答えるわけにもいかない。
「え、ええと……」
だからといって、この状況で見てないとか、下手な言い訳はこいつにはきっと逆効果だ。そう思った俺は、
『見えたけど、女子中学生のパンチラなんかにまったく興味はありませんよ』って体で、世間話をするように言った。
「あ、……あやせは、あれだな。見せパンってのは穿いてないんだな」
しかし、あやせの表情は逆に険しくなる。
「……いったい、誰と比べてるんです!?」
「へっ?」
「なんで、桐乃がスカートの下にショートスパッツつけてること、お兄さんがご存知なんですか?」
「げっ!? そ、それは……」
「返答いかんによっては、タダじゃすみませんが……」
ひええっ!
結局、そこからあやせをごまかすのにまた一苦労してしまったのだった。




その後、俺は麻奈美の家に寄って店で出す新作和菓子の試食をすませ、
爺ちゃんたちの相手をしてしばらく過ごした。しかし普段、田村家にいる時と違い、俺の気持ちはザワついたままだった。
田村家の居間にある古めかしい柱時計が6時を告げた頃、麻奈美の
「今夜のおかずは、きょうちゃんの好きな、おばあちゃん特製の里芋の煮っ転がしだよ~」
という夕飯の誘いも断って足早に家に帰った。

部活をサボってる事を桐乃に問い詰めたりするつもりはなかったが、
それでも早く、妹の顔を見ないと落ち着かない気分になっていたのだ。

「ただいま……!」
息せき切って家に帰ると、リビングはライトもつけられず薄暗いまま、しんとしていた。
テーブルの上にはおふくろの置手紙らしきもの。
ライトをつけて確認すると親父に届け物をしてくるので少し遅くなるとの事。
そしてソファには桐乃が制服のままで横たわり、ライトの光に目を覚ますこともなく静かに寝息を立てていた。
相変わらずしゃべらなければ可愛いうちの妹。寝顔もやはり可愛らしい。
「……なあ、木曜日は部活休みなんじゃなかったのかよ?」
妹の寝顔に向かって、小さな声でつぶやくように言葉を投げる。
そんなにリビングの大画面でアニメみたりゲームしたりしたかったのか?
……おまえに限ってそんな理由で部活サボったりするわけないよな。じゃあ、なぜ?

俺の中にまた、桐乃に対するもやもやした感情が蘇る。

俺は複雑な想いで『黙ってれば可愛い』、妹の寝姿を凝視する。
今日は部活で汗を流してきたのか化粧は落ちている。俺はこのすっぴんの時の妹の顔の方が好きだった。
魅力的なのは顔だけでない。スラリとした手足。中学生と言えども十分に女らしさを際立たせたプロポーション……
「……おわっ!」
さっきは暗くてわからなかったが、よく見ると、桐乃のスカートが随分まくれあがっていた。



「む……」
ゴクリと生唾を飲み込み、俺はほかに誰もいないとわかっている室内をキョロキョロと見回し、
そこに俺と寝ている妹以外存在しないことを再確認する。
そして、確認が終了すると、室内をイライラと歩き回ってる風を装い、ソファに寝そべる桐乃の足元に回った。
桐乃は学校では短いスカートから下着が見えるのを防ぐために下着の上にもう一枚、桐乃曰く
「見られても大丈夫なの」をつけているらしいが、家に帰ったら脱いでいることがほとんどだ。
「……!」
期待した通り、短い制服のスカートからおしりの部分……白に薄いブルーのストライプの入った下着が丸見えになってる。
にょっきり伸びた白い太ももが眩しい。そして色んな妄想をかきたてる股間部分のシワ。
そこに先日の風呂場で見た妹の全裸を思い浮かべ重ねるとあっという間に俺のモノが痛いほど反応する。
「……ゴク」
再び唾を飲み込むと、思わず俺は、震える手で携帯電話を取り出し、撮影モードにセットし、狙いをつけた。

カシャ。

桐乃のあられもない寝姿を写メに収める。
「芋」という名前をつけたフォルダに他の写真とは別にして保存する。
同じフォルダには既に、以前、おふくろに置き場所を教えてもらった親父のスクラップブックを接写した
桐乃のモデル写真が10枚ほど保存されていた。
どれも、ミニスカートなどの露出の高めの服や、体の線がわかりやすい服を着た写真。
最近俺がよくお世話になっている『オカズ』である。
そして、初めて生で撮影した写真である妹のパンチラ写真をプレビューで確認しながら暗い満足感に耽る。

「これが見つかったら、さすがに自殺するしかねーな……」

口の中でつぶやき、密かにそう覚悟する。
ダメージはいつぞや見つかった、パソコンでエロ画像検索した事の比ではない。




『妹のパンチラばかり狙う変態シスコン兄貴』

ちょっと前まで桐乃がよく使ってたフレーズだが、半分は俺をからかう冗談として言っていたのだろう。
そんな桐乃が、本当に自分のパンチラ写真を、それも寝ている時に盗撮された写真を俺が持っていると知ったら……
今度こそ俺たち兄妹の関係は修復不可能なまでにぶち壊れるのは必至だ。
もっとも、保存場所は自分の携帯。しかも通常デフォルトで保存されるフォルダではなく、
カモフラージュしたフォルダの中。
借り物のPCと違い、その危険性はほぼ皆無といって良いだろうが……

そう考えると共に、毒を食らわば皿までと言うフレーズが俺の頭に浮かぶ。
俺はズボンのチャックを開き、ペニスを取り出す。そして、桐乃の股間、下着に触れる寸前のところまで
もっていって、下着とペニスが写るようにして、再び写メに収める。
カシャリ。携帯のシャッター音が、やけに大きく、そして淫猥な響きに聞こえる。
「……」
再び桐乃の様子を伺う。静かな寝息を立てており、気付くそぶりも見せない。
よく見ると、半開きになった口から少しヨダレが垂れている。それは俺にある種の連想をさせるに十分だった。

たまらなくなった俺は大胆にも、桐乃の寝顔のまん前、丁度、口のあたりに自分のペニスを突き出した。
妹の吐息がかかる距離に、俺の亀頭がある。この異常な光景に俺の興奮は頂点に達した。
戯れに2回、3回、手でしごいてみる。今まで感じた事の無い快感が俺の脳天を突き抜ける。
このまま、妹の顔にぶちまけたい。この小さな口の中に突っ込んで咥え込ませたい。
そんな衝動が起こるが、それを実際に行動に移すほどまでには俺は常軌を逸してはいなかった。

カシャ。

とりあず、この光景を写メに収め、「芋」フォルダに保存する。その時──




「んん……」

シャッター音に反応したのか、桐乃が身を振るわせる。
俺はあわてて、ペニスをズボンの奥にしまいこむ。全身から血の気が引くのと一緒に、
怒張からも血液が引いていく。

「……スー」

桐乃は再び静かに寝息を立て始めた。
無事、最高のオカズを手に入れる事に成功した俺は、喜びを感じると同時に
たまらない自己嫌悪に襲われる。

『妹相手に恋愛とか、こいつらおかしいんじゃねえの?』
最初そんな風に俺が思っていた桐乃のエロゲに出てくる主人公たちは、
それでも純粋に妹の事を愛していた。ただ、女としても愛しているがゆえに、欲情する。
それは純愛である。作品の中では、たまに周囲の無理解により蔑まれたりもするが、愛を貫くためにそれらに耐え、
それらと戦ったりもする。

しかし俺はどうだろう。ただ、妹の事を性欲の対象としか見ていない。
単に身近に非常に俺好みの容姿をした女がいて、家の中って事で無防備になっているってだけで、
自分の性欲のはけ口にしているのだ。先ほど俺の携帯に納められた写真にしても本来なら犯罪である。

『あんたが性犯罪に走らないように私が相手してやってんでしょ』

そんな桐乃の言葉が頭の中でリフレインする。ばかやろう、むしろお前のせいで、とうとう性犯罪に走っちまったよ!
……いやいや、ここで桐乃のせいにして、さらに男を下げてどうするんだ、俺。
いや、もうこれ以上、下がりようないけどな……
しかし、それでも俺は自己弁護をせずにはいられない。
たとえば、別の誰かが妹だったとして、俺は同じ行動に出ただろうか。答えはノーだと自信を持って言える。



この妹は、あまりに色っぽすぎる。あまりに容姿が突出しすぎてるんだ。
今までは、こいつに対する嫌悪感が先にたって、そこらへんをあまり意識せずに済んでいた。
しかし、こないだの一件からこっち、何度も可愛いところを見せられて、こいつの魅力を再認識させられて、
両親からも言われるほど、「普通に仲が良い」兄妹みたいになっちまって……

そりゃ変になっちまうのは当然だろう。この気持ちは日本中、いや世界中でも俺以外誰にもわからない。
たとえ俺と同じように妹がいる兄貴連中にだって、絶対わかるはずはないんだ。
なぜなら、桐乃の兄貴は──世界で、この俺、ただひとりなのだから。

「……何してんの? そんなとこで携帯、握り締めたままボーっと突っ立って」

「……っ!!」
俺は飛び上がるほどびっくりしたが、気持ちとは裏腹に体は完全に硬直していた。
俺、どのくらいこうしてたんだろう? いや、それより桐乃のやつ、いつから目を覚ましてたんだ?
「お、おう。起きたのか。いや、ちょっとな。あ、おふくろ出かけたみたいだぜ?」
「……」
キョドっている俺の言葉に、あまり関心を示した様子はなく、
それよりも桐乃の視線は俺の右手に握られた携帯電話に注がれていた。

バシッ!

「えっ!?」
俺が桐乃の視線に気付いた時はすでに遅かった。桐乃は目にも止まらない動きで、一瞬の内に俺の右手から
携帯電話をもぎとったのだ。



「お、おまえ! 何すんだよっ!!」
俺は大慌てで取りかえそうとするも、桐乃は足を突き出して俺を押し留め、
俺の携帯を開いて、パパっと操作する。
「寝てる間にあんたが、あたしのヘンな写真撮ってないかチェックするだけ」
なにぃ──!? あやせといい、なんで女子中学生ってのは、こんなに鋭いんだよ! ありえないだろう!?
心底焦りまくっている俺は、大声を張り上げる。
「撮ってるわけないだろ! おい、やめろって。何、人の携帯、勝手にいじってんだよ!」
強引に取り替えそうとする俺を、桐乃はおもいきり蹴飛ばした。
「うわっぷ!」
思わず俺は、テーブルの上にしりもちをつく。
そして、桐乃は携帯画面と俺の顔を見比べるように視線を行ったり来たりさせる。その表情の変化は読めない。
もはや俺は体を動かす事さえ出来ず、桐乃の様子をただ見守るしかなかった。

すると桐乃は、「ふん」と鼻を鳴らして、携帯を俺の方に軽く投げ返す。俺は、わたわたしながらそれを受け取った。

「で、あ……、あんたは何をボーっとしてたのよ?」
何事もなかったように桐乃が言う。ふう。どうやらバレなかったようだ……
よかった。隠しフォルダに保存しておいて、本当によかった……

「だ、だから。おふくろが親父の用事で出て行ったみたいでさ。遅くなるから夕飯勝手に食べとけって感じらしい」
俺はそう言って、おふくろの置手紙と、一緒に添えられてた五千円札を一枚、ひらひらとさせてみせた。
桐乃はそれにも、ぱっと手を伸ばし、自分の目でおふくろの置手紙を確認した。



「ま、そういう事だ。何を取る? ピザか?」
しかし桐乃は俺の言葉にすぐに反応する事なく思案顔になっていた。そして、しばらくしてポツリと言った。
「外に食べに行く方がいい」
予想外の答え。そして俺は桐乃の言った言葉を反芻する。
『外に食べに行く』ではなく、『外に食べに行く方がいい』……ほとんど同じに見えて、微妙にニュアンスが異なる言い回し。
それは自らの意思の表明ではなく、俺に対する要望であった。
「外に……って、一緒にか?」
俺がそう聞き返すと、桐乃は拗ねたような表情で答える。
「嫌ならいいよ。あたし一人で行く」
「い、嫌なんて言ってねえだろ!」
でも、一緒に外食するなんて何年ぶりだ? いや、アキバに行った時に桐乃のオタ友たちと
ファーストフードくらいは食べたけど。あと、親父との一件の時、スタバにも行ったりしたが……
少なくとも二人だけで『外食』なんて、もはや記憶には残ってないぞ?
「なに、グズグズしてんの? 置いてくよ?」
「わ、わかったって」

こうして、俺たちは制服を着替えて、二人して飲食店へと向かう事になった。



「……ねえ、なんでそんなに後ろの方に離れて歩くワケ?」
歩みを止めて俺より10mほど先を行く桐乃が振り返って言った。
「だって、お前、怒るじゃねえか」
距離を保ったまま俺も足を止めて答える。
知り合いなんて居ないであろうアキバでさえ、デートしてると思われたら困るとか言って嫌がるんだから、
こんな近所じゃ、さらに嫌だろうなって気をきかしてやってんだよ。
「ハァ? じゃあ、あんた、お店に行っても別のテーブルで食べるつもり?」
「……」
桐乃の問いに俺が答えら得れずずにいると、スタスタと桐乃が俺の傍まで近づいてくる。
「……言ったでしょ。最近のアンタの事は、そんなに嫌いじゃないって。でなきゃ一緒に外食なんて行かないって」
桐乃がまっすぐに俺の目を見てそう語りかけてくる。俺はなぜか母親に怒られた子供のように目をそらしてしまう。
「は、はっきりそうとは言われてねえよ。"たぶん”嫌いじゃない"かも”って言われただけだし」
俺のそのつぶやきは、まさに怒られた子供の言い訳のようだった。
桐乃はあきれたようにため息を一つついて、こう言った。

「ウザいなあ……じゃあ、今、言ったげる。最近のあんたは嫌いじゃない。はい、これでいい?」

そう言われて桐乃の方を見返すと、今度は桐乃が目を逸らす。
しかめっ面で顔を少し紅潮させている桐乃。結局、また怒らせてしまったようだ。
ただ……その表情は、どこか照れているようにも見えた。
いわゆるツンデレ……? って、俺のエロゲ脳もかなり重症だな。普通にイラついてるだけに決まってるじゃねえか。
なんと言っても俺自身でさえ、自分にこれだけイラついてるってのに。

そうして、桐乃と並んで歩いてみると、結局、桐乃と並んで歩きたくなかったのは俺の方なのかも?
……と、そんな気がしていた。




「あれ? きょうちゃん?」

突然の聞きなれた声が俺の思考を遮った。
気付くと俺たちは麻奈美ん家の前を通りかかっていたのだ。
そしてたまたま店を閉める手伝いをしていた麻奈美と出くわしたというわけである。

「どうしたの、お家に帰ったんじゃなかったの?」
確かに麻奈美にしてみれば、今日は家で夕飯を取るからと言って帰った俺が舞い戻って来ていたら
疑問が生じて当然だろう。
「い、いや。おふくろが急用で出かけちまって。夕飯は勝手にしろって事になったんだ」
「そうなんだ……あ、だから桐乃ちゃんも一緒なのかな?」
そう言って麻奈美は視線を桐乃に向ける。
しかし桐乃はそっぽを向いたまま、まるで聞こえないふり。
とげだらけのオーラを全開にして俺の影に入ってる。
「あ、あはは」
麻奈美は俺の方に視線を戻して苦笑いである。
「あ、そうそう。さっきも言ったけど、今晩はきょうちゃんの大好物だよ。
そういう事なら、やっぱりウチで食べて行ったら? もちろん、桐乃ちゃんも一緒に」
麻奈美がそんな誘いをかけてくる。
俺としてはこの状況では特に断わる理由はないのだが、問題は桐乃だ。
それは麻奈美も心得てるようで、俺と同様、桐乃に視線を注いでいた。

一身に注目を浴びる形になった桐乃は、俺に向かって言った。
「あんた、そうしたいんなら食べてくれば? あたしは遠慮しとく。今日はもう、外で食べる気分になっちゃってるから」
そう言って桐乃はすたすたと歩いて行ってしまった。
俺はひきとめることもせず、ボーっと、ただ桐乃の後姿を見送る。
「……きょうちゃんは、どうする?」
その麻奈美の言葉で俺も我に返る。
「い、いや。やっぱ今日はやめとくわ。ワリィな」
「うん、そうだね……。早く追いかけないと、桐乃ちゃん見失っちゃうよ?」
麻奈美は予想通りの答えが返ってきたと言った風で、俺にそう言った。
「あ……ああ。じゃあ、またな」
「うん。またね」

なぜだろう。そう言って手を振る麻奈美に、俺は、いつにない距離を感じたのだった。




「──おい、待てよ、桐乃」
桐乃の歩みは結構早く、俺が追いついたのは田村屋からかなり離れた場所であった。
桐乃が一直線に歩いて行ったのでなければ、見失っていたかもしれない。
「なんだ。寄ってこなかったの?」
そう言葉を返してくるも、桐乃は俺の方を振り向いたりせず、前を見据えたまま歩き続ける。
「お、おれも、今日は、が、外食気分、だった、からな」
小走りで駆けてきた俺は、荒い息をつきながらそう答えた。
「……」
桐乃は無言のまま、少し歩くペースを落とす。
そしてしばらく経ち、俺の呼吸が整った頃にようやく口を開いた。

「夕飯……誘われてたのに、なんで食べてこなかったの?」
桐乃が言ってるのは、今ではなく、俺が家に帰る前の事なのだろう。
詳しく経緯を説明はしていなかったが、麻奈美の口ぶりから、俺がもともと誘われていた事を察したらしい。
その理由を問われて、俺はあやせから聞いた話を思い出した。

思い出したが、特にその話を桐乃にしたりはせず、別の事を言った。
「なんでって……自分の家で夕飯を食べるのに理由なんかいらないだろ?」
「……」
桐乃はその俺の答えに、何か言いたそうな顔をしつつ、それでも顔は前を向いたまま、
しばらくは視線だけをちらちらと俺に向けていた。
そしてようやく、少しだけ顔を俺に向け、拗ねたような表情で言った。

「……でも、誘いを断わるには理由があったんじゃないの?」

今度は俺が返答に窮する番だった。
「た、単に、今日は家で食べたい気分だっただけだよ」
桐乃の言い様を真似てみる。
「今日、お父さんが遅いって知ってたでしょ? お母さんの手抜き料理が好物よりよかったワケ?」
「それはだな……」
結局、俺は返事を返せないまま黙り込んでしまったのだが、桐乃もそれ以上は追求してはこなかった。





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