全裸のまま、私はベッドに横たわっている。
同じくベッドの上には、何も身につけていないこの人の裸がある。
この人の屹立した雄のシンボルは、鼓動に合わせてひく、ひく、とその兇悪な姿で一瞬ごとに天を指し示している。
そこから私は目を離せない。
この人のベッドの上に横たわったままそれを見つめる。
コレが。
コレが、私に。
コレで。
コレで、私は。
その想像だけで私は融けてしまいそうになる。
体の芯にうまく力が入らない。
コレで蹂躙されたら。
コレで女にされたら。
コレで雌にされてしまったら。
ぐるぐると頭の中でそんな感情が渦巻き、粘膜が熱を持ってしまう。
どく、どく、と心臓が暴れまわり、うまくものを考えられない。
ずっと妄想していたそれが今現実になる。
この人に、全てを奉げることができる。
体の全ての骨が甘く蕩けていってしまう。
だから私は、この人が言っている言葉の意味を理解できなかった。
「悪い……やめよう」
この人はこんなになっているのに。
私がこんなに愛しているのに。
こんなにもこの人の全てを待ち焦がれているのに。
どうして、そんなことを言うの!?
「どうして!?」
私の脳と直結した唇が勝手に喋る。
苦しそうな顔をしながら、この人は言う。
「その、あれだ。俺、アレ持ってないから」
「アレ?」
私は鸚鵡返しに問い返す。
すると恥ずかしそうにこの人は答える。
「…アレだよ! コンドームだよ! 避妊具! 俺、まだ、お前のこと妊娠させるわけにはいかないから」
半ば怒ったかのように。
ふてくされてるみたいに。
全裸で激しく勃起したままのこの人はそんな言葉を口にする。
その言葉の意味が私の身体に染み入る。
『まだ』
この人はそう言ってくれた。
『今はまだ』
その喜びが子宮を満たし、全身に飛び散らせる。
『今はまだ早いけど、そのうちに』
この人のそんな声が私の脳裏を焼く。
『そのうちきっと。必ず』
その言葉は私を抱きしめ、恍惚の中に燃え尽きそうなほど熱い滾りで私を一杯にする。
好きだと言われたときよりも嬉しい。
子宮が嬉しがってるのがわかる。
私の女の子の器官が腰の中で悲鳴をあげている。
そんな浮かれた気持ちのまま、私は二つ目の武器について口にする。
膝立ちになって、私の脱ぎ捨てられたノースリーブのブラウスを指差す。
「…先輩。私のブラウスの左のポケットを探って頂戴」
「こっちか」
この人はその中に私が準備していた二つ目の武器を見つける。
「…なっ…」
絶句するのも無理はない。それは私が持っているべきではないものだから。
私は意を決して言う。
「軽蔑されても構わないわ。それでも、私は先輩と一つになりたいと思っているの」
この人が見つけたものはコンドーム。
夜中、こっそりと人気のない薬局前の自販機で買ったもの。
散々頭を悩ませた挙句、通学用カバンの一番奥に隠した5個とは別にポケットに入れて持ってきたそれ。
箱を細かく千切って捨てた、コンドームの一個を胸のポケットに隠したまま、私はこの人を誘ったのだ。
本当ならば、初めては隔てるもの無しで感じたかった。
雑誌やインターネットで調べた限りでは、男の子はそうなったら止まらない、とあった。
だから避妊は女の子が気をつけよう、とも書いてあった。
でもこの人は、自分の欲望よりも私の身体のことを気遣ってくれた。
この人が、私のことを大切に思ってくれているのがわかる。
それがとてもとても嬉しい。
この人が気にしたときのための策。
それが今こうして役に立っている。
あさましい計略だけれども。
でもこの人はそれを気にするようなこともせず、お礼を言ってくれる。
「黒猫。すまない。お前にこんなことまでさせて」
そんな姿も私の体の芯をキュンキュンと昂ぶらせる。
「べ、別に気にすることはないのよ。そんなものは自販機で買えるのだから」
そんな軽口にも、この人は真摯に応えてくれる。
「ゴメンな。女の子のお前に準備させちゃって。これからは俺が準備するから」
『これから』
というこの人の言葉が私の胸の芯をよりいっそう甘く蕩けさせる。
今だけじゃない。
これからも。
これからもずっと、この人は私のことを愛してくれるのだ。
そのつもりでいるということが、私の腰の裏側辺りをジンジンと熱していく。
膝に力が入らない。
ベッドのシーツの上、くなくなと力なく女の子座りのまま崩れていくことしかできない。
「痛かったら、言ってくれ」
コンドームのパッケージを破り、肉竿に装着したこの人が言う。
この人が私の両脚を開き、その内側に入ってくる。
「お、お願いがあるのだけれど」
意を決して私は懇願する。
「私がどんなに痛がっても、やめないで頂戴」
きょとんとしているこの人に、私は続ける。
「私は今日、本当にあなたのものになりたいの。だから、私がどんなに嫌がっても、やめないで欲しいの」
そんな私の懇願に、この人は真っ直ぐに応えてくる。
「…黒猫。俺がこれからすることが、どうしてもイヤだったら『ストップ』って言ってくれ」
「お前が『ストップ』って言ったら俺はやめるから。そんときだって、お前が俺のことを好きじゃないんじゃないか、
なんてことはこれっぽっちも思わねえよ。ちょっとでも怖いとか痛いって思ったら『ストップ』って言ってくれ」
再び私の視界でこの人の顔が歪む。
なんて優しい。
なんて素敵な。
なんて素晴らしい男の人。
そんな最高な無二の人を、私の身体で興奮させてあげられることが嬉しい。
こんな貧相な身体でも、全てを奉げて喜ばすことができるだなんて。
女の子らしくないこの身体を、この人は喜んでくれる。
夢どころではない。
私の妄想がいま、本当のことになりつつある。
そのためなら、私は喜んで火口に身を投げる贄にだってなろう。
でも贄どころではない。
この人は優しく、私の初めてを奪ってくれる。
私の体の一番奥に消えない印を刻んでくれる。
それが嬉しくて。それが楽しみで。
私の下半身から骨が消失してしまったかのよう。
この人にされるがままに、両脚を大きく広げさせられる。
そしてこの人の先端が、私に押し入ってくる。
無毛の肌の中の、柔らかな粘膜をこの人の熱い男性の象徴が押し広げてくる。
不思議に恐怖はなかった。
胸の動悸が激しくなりはするが、それでも不安でも怖くもない。
すぐ近くにこの人の顔があるから。
兄さん。先輩。京介。
なんと呼べばいいのかわからない。
そのうちに、時期が来ればもっと違う呼び方で呼ぶに違いない、そんな素敵な人。
その人が、私の内側に入りたいと熱望しているのが嬉しい。
ぷつり。
私の中でそんな音がする。
かすかな痛みと、激しい熱。
そのゴム越しの粘膜の熱さが、私を酩酊に押し上げる。
言葉にならない。
胸の中が一杯で、唇は動くけれど、まるで夢で叫んでいるみたいに言葉は意味をなさない。
そんな私の唇にそっと触れてくれるのはこの人の唇。
私の顔を上向きにさせると、貪るように乱暴にキスをする。
下半身で深く繋がったまま、唇を奪われる。
そこから温かな波が全身に広がっていく。
眦が柔らかくなってしまう。
「動くけど、いいか?」
この人の気持ちが私に伝わってくる。
私は言葉ではなく、キスで答える。
唇を通して届く想い。
唇を通してしか届かない想い。
「ん。ゆっくり動くから。痛かったら言ってくれ」
そう言うこの人の瞳の優しさが私を酩酊に誘う。
好き。大好き。この世界の、この宇宙の誰よりも大好き。
ゆっくりとした、私をいたわるような動き。
破瓜の血が流れていて、そこは張り裂けそうなほど痛いはずなのに、なぜか麻酔を掛けられたみたいに痛みは感じない。
まるで魔法を掛けられたかのように、幸せだけが溢れてくる。
この人の怒張が私を割り裂く。
そのただ熱く、甘く痺れるような感覚が私を酔わせる。
そしてこの人の肉槍がゆっくりと引き抜かれる。
その喪失感に私は寂しくなる。
でもまたすぐに、その熱い滾りは私の中に戻ってきてくれる。
それが嬉しい。
自分の内側が、ぴったりとこの人に吸い付いている。
自分の内側が、この人の形に変えられていく。
それがすごく嬉しくて。
私は無重力空間にいるみたいにふわふわという多幸感に酔っていた。
そんな間もこの人は、私の手を優しく握ってくれる。
私の掌を包んでしまえるくらい、大きな手で。
温かい。力強い。優しい。
その手を通して、唇を通して、ゴム越しの粘膜を通して、私のことを好きな想いが伝わってくる。
掌で深く繋がろうと、指と指を絡ませた「恋人つなぎ」にしてくれる。
昔ならば「なにを莫迦な」と思っていた。
どんな繋ぎ方だろうと違いはないと思っていた。
それは大間違いだった。
より深く、より綿密に繋がりあえる指と指。
指の骨の芯が痒くなってしまいそうなほど、悦びが溢れてくる。
「黒猫…瑠璃」
この人が私の真名を呼んでくれるだけで、私は恍惚の高みに登らされてしまう。
「先輩…先輩っ…せんぱいっ」
呂律の回らない唇で、必死にそれだけを口にする。
好きで好きで、何百回キスしても足りない。
粘膜が甘く蕩けて。
身体の奥から奥から甘い気持ちが溢れてきて。
体中が甘くなって。
部屋中が甘くなるくらいの。
好きすぎて、それが部屋から溢れて夜空にハートを描いてしまうくらいの甘いキス。
この人の充血がより激しくなる。
突き刺されているそれが一回り大きくなったように感じる。
ひく、ひく、とその肉がかすかに脈動する。
「うっ…瑠璃」
うわずった声で私の真名を呼んでくれる。
私がこの人の全てになれたらいい。私の全てはこの人だけでいい。
熱さを増した獣欲の権化で一番奥を突かれながら、私はそう思った。
奥を突かれるのは幸せ。
浅いところをズリズリと擦られるのは恍惚の極み。
手指を触られるのは気持ちがいい。
乳首を優しく噛まれるのは涙が出るくらい嬉しい。
私は全身が甘い甘い蜜みたいにとろとろに溶けていくのを感じていた。
顔がほどけていく。表情を作れない。
私はそんな締りのない顔を見られるのがイヤで、この人から顔を背けた。
しかし、この人はそれを許さない。
あごを軽く指先でつままれただけで、この人に全てをさらけ出してしまう。
反射的に顔を隠そうとした手も、太くてがっしりした片手で軽々と両方封じられてしまう。
「お前の感じてる顔、もっと見せて。可愛い俺の瑠璃が感じてる顔、もっと見たい」
『俺の瑠璃』
その一言が私を打ち抜いた。
この人のモノ。私は全部、この人だけのもの。
そう思った瞬間、身体の奥から爆ぜるように熱い蜜が噴出した。
どうにも止められない。
感じる無重力のなか、真っ白な爆発が私の意識を押し流していく。
私の名を呼んでくれているこの人が。
愛しくて。
嬉しくて。
私は意味の無い叫びを挙げていた。
そして、それと同時にゴム越しになにか熱いほとばしりを感じて。
真っ白い闇に私の意識は包まれていった。
最終更新:2011年03月26日 22:20