第四話 ゆゆるちゃん☆ばとるあらいぶ
電車のつり革に体重を掛けながら、俺は大変な事を考えていた。今日は教室の後ろの方に座っていたので、前に居ると気づかない事を発見したのだ。
それは生徒の半数がペン回しをしているという事実である。
それは生徒の半数がペン回しをしているという事実である。
窓の外に目をやる。なんとものどかな住宅街がずるずると流れていく。
さて、そのペン回しを例えば発電などに使ってみるとどうだろう。そいつらはほとんど無意識な訳で、回転エネルギーをうまく伝導させて蓄電すれば、こいつは素晴らしい発明になりえるのではないだろうか。
改札をくぐる。俺のアパートまでは歩いて5分。
と、ここまで考えた挙句、心の中で呟いていても誰も突っ込んではくれないので、今日のクリエイティブタイムは終了とする。
明日は休みなので、さて何をしようかな、なんて歩いていると、ぺたぺたとスリッパで走る音が近づいてきた。
明日は休みなので、さて何をしようかな、なんて歩いていると、ぺたぺたとスリッパで走る音が近づいてきた。
「あ、いた!」
ゆゆるちゃんとは不思議なもので、存在を確認したときに最初に目が行ってしまうのは、頭のてっぺんで結わえた髪なのである。
どこから走ってきたのか、結わえた髪を揺らしながら目には涙を浮かばせていた。
どこから走ってきたのか、結わえた髪を揺らしながら目には涙を浮かばせていた。
「ゆゆるの事キライになって、引っ越したのかと思って……」
「いやいや、大学に行ってただけだよ」
「いやいや、大学に行ってただけだよ」
俺が世界を救うかもしれない発明を考えていたときに、ゆゆるちゃんの頭の中では一体どんなドラマが展開されていたのかは知る由もないのだが、とりあえずコンビニでも行って何かを買ってやることにした。
「ゆゆるちゃん、何でも好きなものを一つ選んでいいよ」
「ほんとうに?」
「ほんとうに?」
結局どうして俺を探していたのかは闇の中だが、笑顔は戻ったようで胸をなでおろし、夜用の弁当を選んでいると、ゆゆるちゃんがシーチキンの缶詰をもって戻ってきた。
「ゆゆる、これすごい好きなの」
凡人である俺はそんなゆゆるちゃんに突っ込むほどの度量は持ち合わせていないし、まあ誰にでも好き嫌いはあるだろうからシーチキンでも別にいいのである。
「今日はこれからうちに遊びにくるかい?」
「うん」
「じゃあなにか遊べるもの買って帰ろうか」
「うん」
「じゃあなにか遊べるもの買って帰ろうか」
簡素なおもちゃが並ぶ一角に来たものの、一体ゆゆるちゃんと何をして遊べば良いのか見当もつかない。
「何もなくてもいいよ?」
初々しいカップルのような会話に多少の疑問を抱きつつ会計を済ませ、コンビニ袋とスリッパの音が混ざったガサペタ音を聞きながら歩いていると、後ろから野太い声が聞こえてきた。
「君達。ちょっと待ちなさい」
おっさん警察官だ。
そいつは俺をじろりと一瞥した後、ゆゆるちゃんの前にかがみ込んだ。
そいつは俺をじろりと一瞥した後、ゆゆるちゃんの前にかがみ込んだ。
「お嬢ちゃん、年はいくつなの?」
「410歳」
「とてもそんな風には見えないね……おい君、何をニヤニヤしているんだ」
「410歳」
「とてもそんな風には見えないね……おい君、何をニヤニヤしているんだ」
そりゃあんたの突っ込みどころがおかしいからだ、とは言えずにため息で答える。
そんなことより俺はゆゆるちゃんの年齢が二つほど上がっていることが気になって仕方ない。
そんなことより俺はゆゆるちゃんの年齢が二つほど上がっていることが気になって仕方ない。
「ご家族の方ですかな?」
「いえ、多分近所の子かなんかです」
「いえ、多分近所の子かなんかです」
おっさん警察官の顔が曇った。
「いったん交番まで来たまえ」
ゆゆるちゃんの手を引っ張るおっさん警察官を見て、ああ、これは返答を間違えたかな、なんて思っていると、ゆゆるちゃんが警察官に平手打ちを食らわした。ぱちんという音が響く。
ゆゆるちゃんも落ち着けと言いたいところだが、横暴な警察官だから良しとした。
ゆゆるちゃんも落ち着けと言いたいところだが、横暴な警察官だから良しとした。
「もー、ゆゆる怒った!」
ごそごそとポシェットを漁った挙句、出てきたものは今朝見たばかりの黄色い棒だった。
俺はその存在は知ってはいたが、何なのかは知らないのでとりあえず期待をしてみる。
俺はその存在は知ってはいたが、何なのかは知らないのでとりあえず期待をしてみる。
ゆゆるちゃんが黄色い棒の先についているタコみたいな部分を地面にぽこぽこと打ち付けると、なにやら口から紫色の煙がぷすーと出てきた。
「あ、なおった」
これで正常なのかと不安を感じる間もなく、ゆゆるちゃんはその煙を警察官へと向ける。
「こら! 何を……す……」
驚いた事におっさん警察官はその場にふらりと倒れこみ眠ってしまったのだ。その表情は次第に苦悶の表情へと変わっていく。
さすがの俺でも、こうなってしまうとその棒が何かを聞きださずにはいられない。
さすがの俺でも、こうなってしまうとその棒が何かを聞きださずにはいられない。
「ゆゆるちゃん、その棒は一体なんだい?」
「たこぼう」
「たこぼう」
もしやとは思ったが、やはりどうでもいいのかもしれない。
「いまね、懲らしめてるからね」
おっさん警察官は次第に脂汗をかきながら、うめき声を出し始めた。
彼の中では何が起きているのか、考えてみると何やら恐ろしいことばかりが思い浮かんで、ゆゆるちゃんが怖い人になってしまいそうなので、放っておくことにする。
彼の中では何が起きているのか、考えてみると何やら恐ろしいことばかりが思い浮かんで、ゆゆるちゃんが怖い人になってしまいそうなので、放っておくことにする。
ただ、それとは別に気にかかることがあったので、もう一つ質問してみた。
「ゆゆるちゃん、本当の歳はいくつなの?」
「だいたい400歳ぐらい?」
「だいたい400歳ぐらい?」
なんとも。歳と見た目はどうあれ、俺と気が合いそうなのは間違いない。
今日はスリッパの音は遠ざからずに、俺のすぐ横でぺたぺたと音を立てている。
今日はスリッパの音は遠ざからずに、俺のすぐ横でぺたぺたと音を立てている。
おっさん警察官はあのままでいいのだろうか。
つづく