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鈴仙1

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orz1414

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■鈴仙1


「大勢の仲間を見捨てて逃げ出した私に幸せになる資格なんてあるわけない!!」
 夜の竹林に響き渡る声。普段の鈴仙からは考えられない迫力だった。
 アポロ13の到達を発端とする月の探索により、月の兎は幻想となった。この間永遠亭を襲撃してきた賊は、つまり、幻想郷に迷い込んだ月の民だったのだろう。
 彼らが現れたことによって、長年の間鈴仙の心の中に閉じ込められていた罪悪感が蘇り、重い枷となって鈴仙を縛り付ける。
 そうしてそれは、単純な拒絶となって俺の前に立ちはだかった。
「どんな過去を歩んできても、それが幸せになれない理由になんてなるわけないだろっ……」
 体は自然と動いていた。両の腕を鈴仙の背に回して、強く抱きしめた。
 驚いて一瞬体を硬くするが、それ以上の抵抗はない。
 俺は自分の決意を固め、揺るぎない物にするために、続けた。
「お前にどんな過去があっても関係ない。それがお前を苦しめるというなら、俺が全部取り除くから」
「……私は卑怯な女なんだよ? 私と一緒にいたら、貴方まで不幸になる」
 鈴仙の声は既に涙交じりだった。
「それでも構わない。お前といられるなら、月だって敵に回してやる」
 小さな嗚咽と、笹が擦れる音だけが静かな竹林にいつまでも響いていた。



最初の台詞が何を言っているのか意味が解らんと言うやつは永夜抄のおまけ.txtを読んでくれ。



今回のNG
「それでも構わない。お前といられるなら、月の頭脳だって敵に回してやる」
 ピチューン

1スレ目 >>55

───────────────────────────────────────────────────────────

うどんげ、月兎してもいいかな?

1スレ目 >>57

備考:多分「げっと」って読むんだよね?

───────────────────────────────────────────────────────────

俺「さあ、鈴仙。ちゃんと俺の目を見て言ってくれ。俺を好きだと」
優曇華「う……あう……そ、その……」

 (少女幻視中…)

俺「ぐぁぁぁぁあぁぁっっ!目が!目がぁあぁぁぁあああっ!」

BAD ENDING(ありきたり)

1スレ目 >>64

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「…全く、永琳さんも無茶な事言うよ…」
永琳さんに薬学を教えてもらう事になり、僕は材料を集めに山奥まで来ていた。
「まだ着かないの、その場所に?」
「…飛べれば早いんだけどね」
隣を歩いている少女――鈴仙・優曇華院・イナバもその手伝いとして着いて来て貰った。
この山って飛ぶことが出来れば、それほどの距離にはならないんだろうけど、
飛べない僕には難所でしかない。
「そう言えば優曇華も飛べるんでしょ? だったら先に行ったら?」
「ダメ、師匠にちゃんとあなたを連れて帰るように言ったから、一緒に行くの」
そう言って、一応僕にペースを合わせてくれるのは嬉しいんだけど
やっぱり、効率とか考えれば飛んでいってもらうのが早いんだけどな…
「てゐみたく飛べるんだから、先に行ってとってきたほうが早いよ」
「…だめ」
それでも譲らない優曇華。
「…だから、優曇華」
「鈴仙」
突然、自分の名前をハッキリと言う優曇華。
「あなたって、私以外の人にはちゃんと名前で呼ぶよね。 てゐ、永琳師匠、輝夜さま
…でも私だけ、名前で呼ばれてない」
「いや、それは…みんなそう呼んでるから――」
「鈴仙!」
…どうやら、僕が名前で呼ぶまでこの口論は続きそうだ。
「だから、優曇華?」
「鈴仙!」
「…うど――」
「鈴仙!」
目が赤い、いや…いつもの事だけど、この表情は…泣きそうだ。
やっぱり、そう呼ぶしかないのか…
「…鈴仙」
「…何?」
「…行こうか、日が暮れちゃうよ」
「…うん」
既に妖怪とかが出そうな時間の空だった。

「…これで、一応揃ったのかな?」
僕にとっては見知らぬ草花とかばっかりだ。
でも、鈴仙のおかげもあってか、永琳さんの指示した材料は、全部集まった。
「ねえ」
「…うん?何、鈴仙?」
集めた物をまとめながら僕は彼女の方を向く。
既に日の暮れているこの場所は、暗いながらも月の光で鈴仙の姿を映していた。
「私が、月から逃げてきたって言ったよね?」
「…それは、一応聞いたけどさ」
鈴仙の重い過去のお話だ。
この話は、彼女の口からではなく、永琳さんの口から聞いた事だが。
「私は、今でもちょっとだけ後悔してるの」
「そりゃ、そうだろうね」
きっと家族とかも居ただろうし、友達だって居たはずだ。
それを置いて逃げてきたら、僕ならきっと耐えられない。
「でも、嬉しい事もあったんだ」
「うん、永琳さんやてゐ、輝夜さまに会えたからだろう?」
「それもあるけど…」
そこで一瞬、息を吸う。そして、僕の方を真っ直ぐに向き
「あなたに、会えたから」
笑顔でそう言った。
それに対して僕はどう返すべきなのか、頭が真っ白になりながら考えた。
「…ぼ、僕も…鈴仙と、会えて…嬉しい、よ?」
「――さ、帰りましょう? 師匠も心配してるだろうし」
そう言って顔を真っ赤にしながら、背を向ける。
「鈴仙!」
ビクッと、一瞬彼女の体が硬直する。
「…僕は、鈴仙の事が好きだから」
「――!」
暗がりでも照らす光が、彼女が震えているということが分かった。
「…返事は、いらないけど」
「…――」
「え?」
蚊の鳴くような声で、何かを呟いた。
「私も、あなたが好き…大好き…!」
「うん…」
僕達は月の照らす中で、抱き合い…その後、山を後にした。

「とりあえず、ちゃんと材料は集めてきたみたいだけど…二人とも随分と遅かったわね」
永遠亭に辿り着いて早々に永琳さんに言われた言葉がそれだった。
「…探すのに手間取りまして」
とっさに口に出た言葉は、きっと通じはしないんだろう。何せでっち上げなのだから。
あからさまなため息をつきながらきつい目をして
「…何のためにウドンゲを付いていかせたと思ってるの?」と永琳さんは言う
そりゃ、材料を探す為だけど…
「そうでした、師匠。 それで一体何を作るつもりなんですか?」
鈴仙の言葉で僕も思い出した。
確かにそれを聞いてない。
初心者にとって本当に初歩の初歩とは聞いていたけど…それが何なのかは分からない。
「あぁ、言ってなかったわね」と
永琳さんは言葉を切り…少し考えるようなふりをして、やがてこう言った。

「…秘密よ」

教えてはまずい事なのか、いやそれとも面白そうだから、ただ黙っているのか…
目が笑っている事から考えると、やっぱり後者なんだろうなぁ…
「さぁ早速、薬の製作に入りましょう。ウドンゲ、あなたはちょっと出て行きなさい」
その永琳さんの言葉に驚いたのか
「え、私も手伝いますよ?」
と、鈴仙は言った。
「ダメよ。これは彼の修行だから、でも、そうね…。 後でその薬の実験台になってもらおうかしら」
「え…」
実験台――そのあからさまな単語に鈴仙は一瞬で後ずさる。
そりゃ、誰だって実験台になんてなりたくないって…
「大丈夫よ。風邪薬みたいな物だから」
それは結局の所、風邪を引いた人じゃないの無意味なのでは?
「…そ、それじゃ、頑張ってね」
鈴仙はそう言いながら、さっさと部屋を出て行った。
残された永琳さんと僕の間に沈黙が包み込む。
「…まずは、調合の分量から言っておくわ。 これを間違えると薬は毒になるの
薬も度が過ぎれば毒とはよく言ったものね。大体、このくらいの分量ね」
「はい、えっと…こっちの分量はこれくらいでしょうか?」
「もうちょっと少な目ね。 分量をミスしたら、それだけあの子が苦しむわよ?」
「脅さないで下さいよ…」
いや、これはもう脅しじゃないけど
「脅しじゃないわよ?あなたがミスしなければいい話だから」
それもそうか。薬学を志す身として、ちゃんと最初の作業くらいは成功させないと!
僕は目の前の作業に取り掛かった。端で笑っている永琳さんの様子も気になるけど…

「…ふぅ」
外に出てから、私はゆっくりと溜め息をついた。
何を作っているのか気になる一方で、彼が大丈夫かという不安に襲われている。
「大丈夫…だよね」
いくら師匠でも、そんな事をするはずはないし…多分、大丈夫………のはず

くいくい

そんな考えが浮かんだ途端に私の服の袖が引っ張られた。
その方を向くと、二匹の妖怪兎が私の方を見ていた。
「えっと、どうかしたの?」
見下ろすような形をやめて視線を合わせて、その様子を見る
「れーせん…」
と一度私を指差して自らを指差す。
「――」
そしてもう一匹が、今、部屋の中に居るであろう人物の名前を舌っ足らずに言い
その指を自分に指す
「う~」
と急に二人の妖怪兎が抱き合うような形になる。
「れーせん、だいすき」
「わたしも、すき」
…ボッといきなり顔が熱くなったような気がした。
いや、気がしたじゃない。現に熱くなっている。
「あ、あ、あ、あ…あなたたち…見てたの!?」
「う!」
首を縦に振る…という事は肯定の証らしい。
しかしあんな山奥に偶然に行くなんて事は考えられない。
つまり、誰かに頼まれていったという事だろう。
「…怒らないから正直に言ってみて。誰に頼まれたのかな?」
そう言って私は敢えて立ち上がった。
別に威圧するわけでもない。自然な行動だ。私は怒ってないし。立って見下ろす形に
なるのは普通の事だ。うん、間違いない。
「てゐ!」
「てゐ!う~」
「そう…てゐなのね…」
自分でも頬が緩んでいる気がする。
自分でも不思議に落ち着いている。あまりにも怒りが過ぎてしまうと、
その頭は急速に冷却されて逆に落ち着くという事を、師匠の文献で見た気がする。
いや、そんな事は…どうでもいい。
「あの子ったら…少しお仕置きが必要みたいね…。ふふ、うふふふふ」

鈴仙…実験台なんて大丈夫なのかな?
この薬、毒薬って事はないだろうけど…やっぱり飲ませる身としては
心配だ。
「ほら手が止まってるわよ」
「は、はい」
当の本人は全く教える気配すらないし…
「永琳さん…」
「何の薬を作っているかなんて質問は三十二回目だから却下するわよ」
「………」
バレてるよ。
「毒薬なんて作る気ないから安心しなさい。誰が好き好んで鈴仙を殺すもんですか」
それも、そうか。
「…そう、ですね」
家族同然なんだから、苦しめるような真似はするはずがないんだ…
…僕が変な事をしない限りは。
「それじゃ次の作業ね」
そう言った時だった。

ガシャァァァン

と、大きな何かガラスのような物が割れる音がした。もっともこの永遠亭にガラスなんて
ないはずだから、きっと何かが暴れる音なんだろう。
「…何でしょうね?」
「さぁ?」
そう言いながらも含み笑いをする永琳さん。
…やっぱり見当はついてるって事かな。
「これで最後だから、やり方は紙に書いておくわ」
そう言って簡易なメモを残して、永琳さんは部屋から出て行った。
きっと、原因を調べに行くのだろう。絶対見当はついてるはずだろうけど…

「それで、出来たのね?」
「はい、出来ました」
僕の手元には確かに薬がある。
結局何の薬かは教えてもらってないけど。
「あの、本当に鈴仙に飲ませるんですか」
「そうじゃなきゃ、薬の成果が試せないでしょう?」
…風邪薬みたいなもんだとか言ってたような気がするんですが。
やっぱり、怪しいもんだ。
「てゐは…さっきボロボロだったし、他の誰かが連れてくるはずね」
「え、てゐがどうかしたんですか?」
「…少しね」
やっぱり目が笑っている。 もしかしたら、また何かあったのかもしれない。
「……遅くなりました」
……静かに出てきたのは凶悪なオーラを漂わせてた月の兎だった。
満身創痍と言うか何というか…ともかく、疲れているということはハッキリと分かる。
「…とりあえず、これでも飲みなさい。疲労回復くらいはするかもよ?」
と、素早く僕の持っていた薬を奪い取って鈴仙に渡した
「じゃあ、遠慮なく…」
鈴仙は疑う事もなくその薬を放り込んだ。

「…あの、永琳さん、本当に飲ませて大丈夫だったんですか?」
数分経っても、飲んだ彼女に変化は見られない。
かと言って、永琳さんの言った事も信用できないんだよな…
「大丈夫でしょ。 あなたが変な失敗をしてない限りは」
「それこそ大丈夫です。だってずっと隣で分量とか細かく計算したじゃないですか」
「師匠、結局これは何の薬なんですか?」
「いや、だから秘密なんだけどね」
思ったように効果が出ていない…ってところかな?
表情から予想するには。でも、効果が出ない方がきっといい。
僕はそんな予感がしていた。

だが、観察をして更に数分が経ってから…それは起こった。
「う、ん…」
「…どうかしたの、鈴仙!?」
「効果が出てきたみたいね」
「効果って…もしかして、あの薬の!?」
どうやら心拍は上がってるようだし、顔も赤い。
風邪とはまた違った症状みたいだけど…汗をかいているみたいだ。
「と言うよりも、僕に何の薬を作らせたんですか!?」
「…その状態で気付かないの?」
「熱…いよ」
弱っていると言うよりも、どことなく色っぽい雰囲気を出している鈴仙。
やっぱり、これって…
「あの、薬ですか?」
「えぇ、あの薬よ」
悪い予感的中。僕の勘は当たるようだ。当たっても嬉しくないけど。
「熱…い。脱い…で、いい?」
「待て待て待て!鈴仙!落ち着いて!脱ぐな、いや、脱がないで!」
ここで何か起きたら、間違いなく僕のリミッターが外れるような気がする。
これは予感じゃない。確信だ。
「ちょっと、永琳さん! どうにかして…って居ないし!」
いつの間にか、永琳さんの姿はどこにもなかった。
いや、それどころか、永遠亭中の気配がない。
「…れ、鈴仙さん?そう引っ付かれると、大変身動きが取れないのですが」
「だぁめ…汗かいたら、ちょっと…寒くなったの…」
ダメだ。僕はこのままだと、終わってしまう。
何かが終わる。

でも……きっと、またこの世界に帰って来れるだろう。
きっと…そして、また鈴仙と会えるように――



蛇足
いつもの永遠亭にいつもの日常が再び始まっていた。
あの日の僕の記憶はところどころ曖昧だが、
きっと、ロクな事になっていないのだろう。
鈴仙は花の異変を解決して戻ってきたばかりだ。
…まだ、季節外れの花が咲いているところを見ると、完全とは言えないみたいだけど。
「おはよう」
「…お疲れさま。昨日は鈴蘭を取りに行ったんだってね?」
「うん…おかげで色々疲れたわ」
まだ寝足りないのか、まぶたを擦る鈴仙。
「…眠ったら? まだ時間的には余裕があるでしょ?」
朝早くに永琳さんの持っている文献を読むのが、僕の日課である。
まぁ、鈴仙はこれにたまに付き合う程度だけど。
「……何かあったのかな?」
「え?」
自分じゃ気がついてないみたいだけど、目が赤い。
また泣いたのかな?あの時みたく。
「涙の線が残ってるしね」
「…っ!」
図星を指されたのか鈴仙は顔を隠すように僕の胸元に抱きついてきた。
多分、また泣いたんだろう。
「大丈夫、鈴仙は…優しいよ」
「私、自分勝手って言われたよ…?」
「…それでも、罪を認めて泣くことが出来るなら…僕は鈴仙と一緒にいたい」
「でも、でも…」
頭を撫でながら僕は出来る限り優しく言い聞かせる。
「幸せな時に罪は思い出さなくてもいいんだ。
勝手だけど…僕と一緒にいる間は、罪は忘れてくれないか?」
楽しく幸せに居たい、その想いだけを語りかける。
「私…あなたと一緒にいたい…居たいよ…!こんな罪、忘れたいよ…!」
「大丈夫だよ。僕が一生、鈴仙についてあげるから」
罪は裁かれなきゃならないなんて…そんな事はない。
どんな者でも幸福な時間を過ごす権利はあるはずだ。
だから、彼女を守っていきたい。この脆くて儚い少女を…


「ねえ」
「何だい?」
「…さっきのって、ぷ、プロポーズって事でいいのかな?」
「ぷ、プロポーズ!?」
「…違うの?」
「いや、そんなあからさまにがっかりしないでよ!いいって!プロポーズって事で!
嘘偽りないんだから!」
「本当?」
「うん、キミとなら、ずっと歩いていける…だから――」


蛇足の蛇足
「…れーせん!」
「あ、何?」
あの出来事から二日ほど経っていた。
また、あの妖怪兎の二匹が居たのだ。
あの時と同じようにひざまづく形で二匹を見る。
「…れーせん、――とずっと一緒?」
「いっしょ?」
またてゐ辺りに盗み見しろとでも言われたのか、
その妖怪兎は例の出来事を知っていた。
でも今度はあの時と違って、怒りなんてない。むしろ誇らしいくらいだ。
「うん、私にとって大事だし、一生懸命になってくれるのが…うれしいから」
「う?」
「彼とだったら、ずっと一緒に歩いていける…」
「きみとなら、ずっと歩いていける?」
あの時彼が言ってくれた言葉そのままだ。
その妖怪兎達の言葉に私は頷く。幸せになれるから。
「あなた達も、そういう人がいるんだよ?」
そう、私にとっての彼のように――

1スレ目 >>119>>121>>126>>128>>130>>133>>150>>153

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長いSSやあまあま小話なんてかけないので
短くスパッとプロポーズしようと思う。

うどんげ!
そのうさ耳僕にも貸してください(*ノノ)

1スレ目 >>322

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 微エロ注意……かな?言葉よりも行動で。鈴仙ファンの方許して。

 がつん、と脳髄を直接殴られたかのような衝撃。
 視神経を焼きながら、電流が頭の中を駆け巡っていく。
 声を出すことさえ許さない激痛。
 「くっ…………あっ…………ぐっ…………あああっ!?」
 何だ? いったいなんでこんなことに?
 疑問符が頭の中で暴れているだけで、とても形にならない。
 苦しい。どうにもならないくらいに苦しい。
 今すぐこの頭蓋骨を包丁で叩き割って、煙を上げている脳を両手で掻き出して視神経をそのままずるずると引きずり出したいくらいの痛みが走る。
 俺は両目を押さえてうずくまった。目から激痛が頭に駆け上がってくる。
 呼吸ができない。喉が痙攣している。
 いったい、なんで…………
 逗留していた永遠亭の主、蓬莱山輝夜に頼まれて廊下の奥の奥、薬品の材料倉庫にまで誰かを呼びに行ったその先で………….
 「ぐっッ!がはぁっ!」
 唾液が飲み込めなくて俺は喉をかきむしって咳き込む。
 このまま、死ぬかもしれないと本気で思った。
 「――――!――――ってば!ねえ、しっかりして!」
 俺の名前を呼ぶ声が、かすかに耳に入った。
 肩に手らしきものが置かれて、上体をゆすぶられるのが分かる。
 やめてくれ、かえって頭が痛くなる。
 「――――!ねえ!ねえってば!お願いだからしっかりしてよぉ」
 震えながら閉じていた目を開ける。シュールレアリズムが具現したような歪んだ視界。
 「息を吸って。そして吐くの。ほら、深呼吸して」
 何か考えることもできず、その声に人形のように従った。
 息を吸って吐く。その単純な動作の繰り返しさえも忘れそうな激痛の中、ひたすらに同じ行為を反復していく。
 ようやく、乱れた視界が形を取り戻していく。
 俺の肩に手を置いて、こちらを心配そうに見つめているのは…………
 「れ、鈴仙…………」
 オモチャのような耳をした月の兎の少女。そのルビーよりも赤い瞳が、俺を見ていた。
 ざくりと、目から心臓までその瞳の赤が貫いたよう。
 「よかった……………………」
 俺は……何を……考えている?
 肩に置かれた手が、気になって仕方がない。
 「鈴仙…………」
 「なに?まだどこか痛むの?」
 顔と顔が、額と額が触れ合わんばかりに鈴仙の顔が近づく。
 「いや、もう……大丈夫だから……」
 必死に顔を背ける。頭は割れんばかりに痛むのに、胸の内は冷たくも深い炎が熱を放ち始めてきた。
 その白くてふかふかの兎の耳。
 柔らかそうな血色のよい頬。
 そして、長い髪から香る甘い香りが、
 頭の誰かを、狂ワセテイク。
 俺は……鈴仙を……
 今まで、こんなことは思いもしなかった。ただの月の兎だ。まだ少女だし、それに、人じゃない。
 いや、違う。前から、俺を見る鈴仙の目は異なり始めていた。
 俺と楽しそうに話していた鈴仙。風邪を引いたときは永琳さんを差し置いて看病してくれた鈴仙。俺にしか見せない顔で笑ってくれた鈴仙。
 俺は……鈴仙を……
 ははっ、なんて……馬鹿なことを。
 「じっとしていて。すぐ、誰かを呼んでくるから」
 肩から離れてしまう手。
 行ってほしくないと、心の底から思った。
 それと同時に、頭がこれ以上ないくらいに強く痛んで、
 俺はせっかく取り戻した意識をまた手放していた。
 手だけが勝手に動き、去ろうとする鈴仙の手首をつかんで
 床に、押し倒していた。
 俺は……鈴仙のことを……
 コワシテシマイソウダッタ。
 「きゃあっ!?」
 床に背中を打ち付けて、痛みと驚きの混じった声を上げる鈴仙。
 その声に、胸の中の暗い情念がさらに燃え盛っていく。
 何が起こっているのかわからずに反射的にもがく体を押さえつけ、両手首をつかんで頭の上で一つにする。
 「ひッ…………や、やめてっ!」
 怯えたような声が、かえって耳に心地よい。
 鈴仙の開いた脚の間に体を入れ、腹を押さえて動けないようにさせた。
 じっくりと眺める。
 これからこの玩具を、好きなようにできる。
 陰惨な喜びが、口元に勝手に笑みを作らせる。
 「やめてぇ、お願いだからやめて!正気に戻ってよ!」
 いくら叫んでも、ここは倉庫の奥まった場所。助けなど誰も来ないさ。
 さて、どうやって楽しもうか。
 腹に置いた手を上にやり、鈴仙の上着のボタンをはずして広げさせる。
 「こ…………こんなの、あなたは望んでない!こんなことするはずないもの。だから正気に戻って!」
 耳元で叫ばれたような気がする。
 必死に体をねじって抵抗しているが、力では俺のほうが上だ。
 正気、ね。
 たしかに、あの赤い瞳を見てから俺はこんな行為に及ぼうとしている。
 だがそれは鈴仙、お前が原因だろう。お前のその、赤い瞳が。
 ネクタイを首から無理やり取った。
 隅に放り投げたその手で、ワイシャツのボタンに指をかける。
 「い……やっ…………もう…………やめ……て…………」
 涙目で哀願する様は、俺の心の征服欲を満たそうとする。
 が、まだ満たされることはない。
 ならば、もっとこの兎を堪能すれば、少しはましになるだろうか。
 試してみるのも、悪くない。深くものが考えられず、自分の体のしていることが自分のしていることとは別のような気がする。
 ボタンを立て続けに半分ほどはずして、鈴仙の反応を見る。
 「もう…………お願い…………もどっ……て…………」
 さっきまで全力でもがいていたせいで疲れたのか、抵抗は鈍い。
 両手を頭の上で押さえられ、上着とワイシャツを半ば脱がされた姿。
 スカートは片方の脚が膝を折っているせいでまくれて、太ももまで見えている。
 そして、なおもこれ以上はやめて欲しいと懇願する顔。
 その、赤い瞳。
 鈴仙の瞳が、俺を狂わせていく。
 「こんなの……こんなのって…………ひどいよぉ…………」
 耳元で聞こえた声に、涙の気配が混じり始めていた。
 けれども。
 俺はそのまま、のしかかっていた全身を鈴仙に重ねた。
 すすり泣く声で、目が覚めた。
 赤にかすむ視界の中、左右を見回してその声の主を探す。
 すぐ隣にいた。
 鈴仙だった。
 顔を覆って泣いている。
 「俺は…………」
 何てことを、してしまったんだ。
 欲望のままに、俺は鈴仙に…………
 どんなに許しを願っても許されないことを、この女の子に。
 絶望と自己嫌悪が、鏃となって心を抉る。
 「鈴仙…………」
 何と言えばいいのか、何と謝ったらいいのか分からず、俺は名を呼ぶことしかできない。
 「ごめんなさい…………」
 だが、謝ったのは鈴仙の方だった。
 「どうして、君が謝るんだよ……」
 「ごめんなさい…………ごめんなさいごめんなさい。悪いのは全部私。あなたは何も悪くないから。全部、私の瞳のせい」
 「そんなことあるか。俺は確かに鈴仙の赤い目を見た。そのせいでおかしくはなった。でも、欲望を抑えられないで、鈴仙をはけ口にしたのは俺自身だ。俺は、俺を許せない…………」
 「違うの。そうじゃないのよ」
 鈴仙は泣きながらこっちを見る。
 初めて、何かがおかしいことに気づいた。
 鈴仙は服をきちんと着ている。ネクタイも歪んでいないし、上着にもしわはない。あれだけ無理やりひどいことをしたのに、長い髪にも白い肌にも乱れや傷はなかった。
 俺は、夢を見ていたんだろうか。だとしたら、どんなによかったか。
 でも、そんな希望に逃避することも許されない。目の前の鈴仙の涙が、俺の行為を現実のものだと告げている。
 なら、何が違うんだ。
 「お願い……怒らないで聞いて欲しいの。あなたは私の目をまともに見てしまって狂気に駆られた。衝動が現実化して、それで……その……こんなことに」
 「ああ…………全部、俺が悪い。鈴仙、もし何かあったらそのときは責任を……」
 「それが、その…………あなたが、ええと、その、色々した相手は私じゃないの」
 「はぁ?」
 「だから、あなたは私だと思ったみたいだけど、それは幻視。本当は私じゃなくて別の人なのよ。ここにいた」
 それで全てが繋がった。なぜ鈴仙が謝るのか。そして彼女が無事なこと。よかった、もう少しで俺は鈴仙に取り返しのつかないことをしてしまうところだった。
 イヤ、チョットマテ。
 ってことは、これはここにいた誰かを鈴仙と勘違いして襲いかかったのか?それは誰?誰なの?
 Aてゐ
 B永琳さん
 C輝夜様
 あああああ!!全員駄目だ!助けてめーりん――――(゚∀゚)――――!
 Aてゐの場合~「ね~ね~、私赤ちゃんができちゃったみたい。責任とってくれるよね?」←妊娠詐欺で一生強請られる
 B永琳さんの場合~「私がどれだけ痛い思いをしたか、分からせてあげるわ」←直径が俺の頭くらいある座薬挿入の刑。ひぎぃ!
 C輝夜様の場合~「死ね」←生身で大気圏突入の刑。灰も残らない
 OH MY GOD!どのルートでもBADENDは暴走特急。スティーブン・セガールでも止められない沈黙の要塞。アホ毛の神綺様でもヤマザナドゥ様もハード・トゥ・キル!
 俺は自分でも蒼白となっていると分かる顔を、泣いたせいでさらに赤くなってしまった瞳の鈴仙に向ける。
 もう耐性がついたのか、瞳を見てもなんともない。俺の根性は中古のヒューズか。いっそホムンクルスに殺されてしまえ。
 「俺…………誰に不埒なことをしちゃったわけ…………」
 鈴仙はあからさまなまでに視線をそらしつつ、指で俺の後ろを指す。
 それはあたかも呪いのように。
 見たくないと必死に頭の中に住んでいる俺の良心たん(推定7歳。好物はお好み焼き。ラッキーカラーはすみれ色)が叫んでも、脊髄はその絶叫を無視し体ごと振り返る。
 そこで、半裸で俺を待ち受けていたものは…………
 「彼、ここの薬品倉庫に資材を卸しに来ていたの。……あなたは彼を呼びに来たんでしょ?」
 そこにいたのは、満足げな色をメガネの奥の瞳に輝かせてこちらを熱く見つめる香霖堂の店主(♂)だった。

 ウホッ!いい店主!
 「(もう一回)やらないか……」

(フラグが立ちました。香霖ルートに移行します。もう変更できません。強制です。逃げても無駄です。追いかけます。諦めてください)

1スレ目 >>370-372


【てゐに派生】
381 名前: 名前が無い程度の能力  投稿日: 2005/09/06(火) 20:13:11 [ Ji26yZ5. ]
    >>373
    Aの展開ならまんざらでもないなと
    思ってニヘラッとしてしまった俺、新しい自分発見みなさん初めまして。

382 名前: 名前が無い程度の能力 投稿日: 2005/09/07(水) 00:19:04 [ j0DXaKsA ]
    そのうち本当にてゐが妊娠してしまい、大きくなったお腹を撫でながら
    「赤ちゃんは男の子と女の子とどっちがいい?」
    なんて幸せそうに尋ねられる展開に。
    あれ?なんかてゐって一児のお母さんが似合いそう?

391 名前: 名前が無い程度の能力  投稿日: 2005/09/07(水) 22:19:13 [ 1cUaqMQQ ]
    >>382
    興味津々で「あ……今動いた」とてゐから離れない鈴仙
    「子供の名前は私が付けるのよ。いいわね」と譲らないてるよ
    「胎教には音楽がいいって聞いているわ」と虹川姉妹を呼び寄せる永琳
    産まれようとする一つの命にてんやわんやの永遠亭。いつの間にかほのぼの

392 名前: 名前が無い程度の能力 投稿日: 2005/09/07(水) 22:49:41 [ yS0WS5iU ]
    >>391
    何かしたいけど何もできずにウロウロして、てるよに邪魔物扱いされる俺。
    とりあえず、ミルクとかオモチャとか絵本とか幼児服を用意するものの
    まだ気が早いわよ、とてゐに優しく笑われがっくりする俺。
    気持ちは分かるわ、落ち込まないで と妖怪ウサギに肩をたたかれ慰められる俺。

393 名前: 名前が無い程度の能力 投稿日: 2005/09/08(木) 13:44:22 [ evsv0.zc ]
    >>392
    がんばれお父さん!

───────────────────────────────────────────────────────────

真夜中の永遠亭。
僕は竹林で倒れている所を、拾われて介抱してもらった。
幸いにも拾われた場所は人の住む場所だった。いや、妖怪なんかも住んでいたけど。
数日後には、すっかりと調子も良くなり僕はこの永遠亭で色々と手伝いをしていた。
一宿一飯の恩義…どころじゃなくて、すでに五宿十五飯もなっていれば手伝う気にもなる。
「永琳さん。これは何処に置けばいいですか?」
「あぁ、それはそっちの大き目の棚の方に入れておいて」
「はい」
と、まぁ…こんな感じで適当に日々を過ごしている。
永遠亭の人…妖怪達は普通に話すことは出来るんだけど、一人だけ僕と
全く会話をしない者がいた。
「あら、ウドンゲ…」
「あ、鈴仙」
「……」
そう、月の兎(らしい)である鈴仙=優曇華院=イナバだ。
彼女が率先して、僕を介抱してくれたらしいけど…。
僕が起きてからお礼を言ったきり、それだけしか会話がなかった。

『あ、キミが僕を…ありがとう』
『どういたしまして』
そんな感じだった。
事務的と言うか何と言うか…僕に警戒しているのかどうも刺々しい態度だった。

「…師匠、例の花の毒性についてなんですけど」
「あぁ、アレの事ね。アレは――」
見れば見るほど、不思議な感じだ。
見た目は僕みたいな人間と変わらない。でもその耳だけは兎の耳。
狂気を操るらしいけど…見たことはない。
「それじゃ、掃除に戻りますね」
永琳さんにそう言っておき、外に出て行く。
ちらりと鈴仙が僕の方を向いたけど、特に感情を持って僕を見ていると言うわけではない。
ただ淡々と僕を見る。
目が合うと…軽い立ち眩みがした。

そんな日々が続き、既に僕は居候扱いになっていた。
さすがの僕も掃除くらいは出来るし、ここについて色々学ぶのも意外に楽しくて
人間界になかった充実した日々を送っていた。
「ふぅ、あとは…風呂掃除か…」
相変わらず、ここを掃除するのが大変だ。
無意味に廊下は長いし他の妖怪兎が手伝ってくれなかったら
一日かかるだろうし、大浴場に近いこの風呂を掃除するのに
一時間はかかる事が容易に想像できる。
とりあえず必死になりながら風呂場をタワシで擦り始める。
洗剤なんてものがあるわけもなく、全てタワシだ。
「…何であの娘は、僕を避けるんだろう」
もちろん鈴仙の事だ。
鈴仙のことを考えると妙に気が高揚する。
多分、彼女の瞳を目が合うたびに見ているからだろう。
それよりもどうして僕は彼女の事ばかり考えるのか?
「まぁ、いいか…」
考え事をしている内に風呂掃除は既に大体終わっていた。
今日は永琳さんから借りた本を少し読もう。そうすればちょっとは
考えることもなくなるだろう。そう思い戸を開ける。

ガラガラ

「……あ」
「……」
戸を開くと、目の前に居たのは僕が悩んでいる張本人だった。
それだけなら特に問題はないんだろうけど、その張本人――
鈴仙は妙に露出度が高い服を着て…いや、彼女は脱衣所で服を
脱いでいたのだ。
つまり、僕が見ているものは……
思考がフリーズする前に、鈴仙の顔が真っ赤になっているのに気付いた。
口を金魚のようにパクパクさせて、『どうしてここに?』といった瞳で見ている。
「きっ…!」
叫ばれる!
そう感覚的に悟った僕は一瞬で鈴仙の口元を押さえた。
まるで犯罪者になった気分だった。
「…ごめん」
鈴仙の耳元で、僕はそう呟いた。
悪気があったわけじゃない…。謝って済む話じゃないのも分かっている。
「…本当に、ごめん」
口元の手を外して、僕はすぐさま浴場から出て行った。
「僕は…最低だな」
好かれるどころか、普通に嫌われた気がする。
…このままだと自己嫌悪に陥りそうだ。
今日は本も読まずに寝るとしよう。
それにしても、綺麗な肌だったなぁ…
とりあえず、明日は…


(選択肢)

(土下座するくらいの勢いで謝る)
(開き直る)

ーーーーーーーーー少女選択中...ーーーーーーーーー

    上・(脳内設定の一般的な)鈴仙ルート
    下・ツンデレの鈴仙ルート

    お好きな方をどうぞ。

532 名前: 名前が無い程度の能力 投稿日: 2005/10/13(木) 23:36:42 [ 5RZyxk9Q ]
    下下下下下下下下下下
    つんでれ厨の俺様がきましたよっと

533 名前: 名前が無い程度の能力 投稿日: 2005/10/13(木) 23:47:59 [ 0oSjwOfg ]
    下
    ツンデレの鈴仙…新たな領域に踏み込めそうだ

534 名前: 名前が無い程度の能力 投稿日: 2005/10/14(金) 00:16:48 [ 9TnTTxI6 ]
    上
    普通に甘い話が見たい気分です。

535 名前: 名前が無い程度の能力 投稿日: 2005/10/14(金) 01:22:45 [ WMgVknzM ]
    上上

536 名前: 名前が無い程度の能力 投稿日: 2005/10/14(金) 07:03:09 [ 7nEZ9zZQ ]
    右左右左BA

537 名前: 名前が無い程度の能力 投稿日: 2005/10/14(金) 10:24:04 [ bdjfXqks ]
    無敵コマンド吹いた。

    じゃなくて…下で。普通の鈴仙は見飽きたし、>>530の文章力に期待…とかプレッシャーかけてみる。

538 名前: 名前が無い程度の能力 投稿日: 2005/10/14(金) 16:37:09 [ 1TJ/RbRw ]
    上で。
    俺も甘い話が読みたい

539 名前: 名前が無い程度の能力 投稿日: 2005/10/14(金) 17:07:53 [ 6K9Ah8JE ]
    両方 ってのは無しか?w
    どっちもかけるならぜひみたいが
    どちらかと言われると上。

    最悪ノ場合下は俺が書く(ぉ

540 名前: 530 投稿日: 2005/10/14(金) 19:07:41 [ Wz8/hOwM ]
    下:十二票
    上:五票
    右左右左BA :一票

    何か思いのほか下が多かったけど、一応全部書くつもりです。

    >>539
    その作品がかなり見たいけど…出来る限り自分で書いてみます。

541 名前: 名前が無い程度の能力 投稿日: 2005/10/14(金) 20:14:54 [ 6K9Ah8JE ]
    超期待。
    俺のは別な形でいつか格差。

    つか、そういう数え方かよw
    全部ってことは右左右左BAもかくのかw

542 名前: 名前が無い程度の能力 投稿日: 2005/10/14(金) 23:20:33 [ 1TJ/RbRw ]
    十二票吹いたw
    無理せんと頑張れよ

ーーーーーーーーー少女選択中...ーーーーーーーーー

→(開き直る)

ピッ

結局、僕はあの記憶を無かったことにして、次の日を迎えることにした。
やっぱり女の子の柔肌を見るのも滅多にない経験だったから、妙な緊張が
残っていた。
「…よし、忘れた」
そう言う事にした。
僕は何も覚えていなくて、昨日の風呂場では何も起こらなかった。
と記憶を模造した。

「あぁ、ちょうど良かった」
朝一番、無意味に長い廊下で永琳さんに会った。
「ウドンゲがちょっと体調崩しちゃって…ちょっとお見舞いに行ってくれないかしら?」
「えーっと、何でですか?」
せっかく忘れようとしたことを、一瞬にして思い出してしまった。
柔らかそうな肌と…兎の耳、そして見る者を狂気に陥れるその瞳。
思い出したらまた軽い眩暈が起きる。
「…ウドンゲもそうだけど、貴方も大丈夫?」
「まぁ…一応、それで鈴仙はどうしたんですか?酷い病気か何か?」
「湯冷めしたみたいで、ちょっと風邪を拗らせてしまったみたいなの」
…多分、僕の所為だろう。
「貴方って、前からウドンゲの事を気にかけてたでしょ?だから頼もうと思って」
そう言って永琳さんは僕に風邪薬を差し出した。
「いや、僕じゃなくててゐにでも頼めば…」
「てゐは私の指示で栄養のあるものを取りに行かせたわ。私も薬の調合とかで忙しいし
よろしく頼むわ」
と一方的に決め付けると、永琳さんは僕の反論も聞かずに、さっさと廊下の奥に
消えていった。
「どうしよう…」
僕の手には永琳さんの風邪薬が握られたままだった。



僕は今、鈴仙の部屋の目の前に居る。
別に疚しい気持ちなんて…少しはあるけど…。とりあえず、部屋の前から
進めないでいた。
こんな時に足が震えて動けないから、逆に笑える。
それでも、この薬を渡さないとならないのも事実で…深呼吸をして、手に人という字を
書いて、飲み込む。
これで緊張は気休め程度になくなった…と思う。
戸の前に立ち、意を決してノックしようとした。
『さっきから居るんでしょ?入ったら?』
いきなり先制を取られた。
心臓はバクバクいっているが、一刻も早く薬を渡して去ろうと戸を開けた。
「やっぱり貴方だったの?」
呆れた様子で言う鈴仙。今度は下着姿じゃなかったけど…あの時の姿がフラッシュバックした。
ダメだ。平常心、平常心。
「それで、何の用?」
前よりは刺々しくなかったけど、それでも微妙な壁を感じた。
「永琳さんに頼まれて…風邪薬」
薬は普通の粉薬だった。僕が今まで見てきたのとは違って、それは漢方薬みたいなものだ。
それを受け取ると、薄く笑って
「ありがとう」
と言った。
「それじゃ…」
予定通り、僕は部屋を去ろうとした。
腕力でも頭脳でも勝つ自信はないけど、このままこの場所に居たら
頭がおかしくなりそうだった。
彼女があまりにも儚くて、抱きしめたい衝動に駆られるが…我慢する。
「待って」
「…何?」
まさか、彼女に止められるとは思わなかった。
「少し…話さない?」
そっぽを向いて、顔を赤らめながら彼女は言った。
「あ…うん」
僕はその誘惑には勝てなかった。



「それで、わたしは兎角同盟を作ろうと思ったの」
「そうなんだ」
こんな風に二人っきりで話すって事は考えられなかった。
むしろ、今まで淡白な反応ばかりだったので、普通に話すこっちの方が彼女の
素面なのかもしれない。
「それじゃ、僕も手伝うよ」
「うん、ありがとう」
この可憐な笑顔を見ると、庇護欲というものが出てくる。彼女を守りたい。
そんな考えも出てくる。
「あのね、わたしは――」
「鈴仙~居るー?」
鈴仙が何か言いかけたとき、戸の前から声が聞こえた。
この声…どうやら、てゐのようだ。どうやら、やっと戻ってきたらしい。
「あれ、貴方も居たんだ?」
「居ちゃ悪い?」
「いや、そんな事はないんだけど」
大体、てゐと一緒に行動すると大抵、騙されるし…あんまり一緒に居たくないんだよなぁ…。
色んな意味で、いい子なのは分かるけど。
「で、何を取ってきたんだ?」
「栄養のあるもの。とりあえず、そこら辺から取ってきたの」
「…騙し取って、とかじゃなくて?」
「あ、あはは」
この笑い方だと、間違いなく騙し取ったようだ。
「それじゃ、鈴仙。僕は部屋に戻るから」
「あ…うん」
とりあえず、僕は出て行くことにした。
『あれ、どうしたの鈴仙?そんな青筋立てて』
『どうしてだか分かるかしら?』
『え、ちょっ…待ってぐりぐりが!痛い痛い!』
僕が部屋から出て行くと、そんな会話が聞こえた。
…とりあえず、気にせずに逃げることにした。



それからと言うもの、誰かと居ると妙に視線を感じるようになった。
てゐと適当に雑談をしてても、永琳さんに本を借りたりしても、輝夜さんと
話しても、何処かしらでほぼ必ず、視線を感じるようになってしまった。
そんな折、僕と鈴仙は永琳さんの元に呼ばれた。
「…何の用なんだろう?」
「さぁ、師匠のことだし…分からないわ」
どうも鈴仙の機嫌も悪かった。
「あぁ二人とも、よく来たわね」
扉の外で永琳さんは待っていた。
「とりあえず、何の用ですか師匠?」
鈴仙の言葉に困ったような笑顔を浮かべる永琳さん。
「これから、出かけなきゃならないんだけど…薬に使える花が
今の季節じゃないと咲かないの。だから出来たら、二人で手分けして
探してくれないかしら?」
その言葉に鈴仙はちらりと僕の方を向く。
どうやら鈴仙の方は行くつもりらしいが、僕は…。
考えてみれば僕に拒否権なんてない。
そもそも居候の身だし。
「分かりました。それで、何を取ってくればいいんですか?」
「えぇ、簡単な絵を書いたメモがあるから、これを使って探してね」
そのメモを僕と鈴仙に渡すと、永琳さんは忙しそうに駆け出していった。
「それじゃ、気をつけてね」
「心配してくれるんだ」
「わたしはあなたの心配なんてしてないわよ!し、心配なんて…するわけないじゃない…」
最後の方は真っ赤になりながら小さい声でほとんど聞こえなかった。
僕が歩き出そうとすると、腕を引っ張ってそれを止め
「死なないでよ」
「死なないよ。…やっぱり、心配してくれてるじゃないか」
「か、勘違いしないの!わたしはあなたに死なれたら迷惑だし…
ほら…ほ、他の子も悲しむでしょ!」
確かに掃除とかは手伝ってくれるけど…あんまり好かれてる気がしないんだよなぁ。
悪い子はいないんだけど…。
僕と鈴仙はそんな他愛のない会話をしながら。入り口に着いた。
「それじゃ、鈴仙…後でね」
「うん。また」
鈴仙は空に飛んでいった。
僕に至っては歩くしか能がないので歩き始める。
紳士として、鈴仙が飛んでいる状態から上を見上げるなんて真似はしない。
上を見ないように…僕は素数を数えて落ち着いた。



そう、僕は鈴仙と分かれたことが文字通り命取りだった。
永琳さんに頼まれた目的の植物は手に入れたんだけど…。
目の前には、僕の体の三、四倍はあるであろう巨大な妖怪が居た。
僕を天然の人間と見るや否や、いきなり襲い掛かってきたのだ。
「…どうしようか」
相手の方は嗅覚が利きそうで、隠れても無駄だということが良く分かる。
だからと言って、戦うなんていうデンジャラスな選択肢は僕の中に存在しない。
やっぱり、二人できた方が良かったのかな。
鈴仙が居れば、狂気の瞳で逃げるチャンスくらいは出来たかもしれないのに…
それでも、多分…彼女はここに来るだろう。
何故か分からないけど、僕はそう確信していた。

お互いに動く事はない。
僕が動いたら、相手は即座に僕を食らおうとするだろう。
「鈴仙…」
口元から思わず、彼女の名前が出てきた。
自分から永遠亭の方に動く事で、鈴仙に会える可能性も増えるはずだ。
…傷を負ったとしても、鈴仙なら…何とかできると信じよう。
ポケットには野球ボールよりも小さい石が入っていた。
それを握り締めて、狙いすまして妖怪の鼻に当てた。
「ぐぎゃ!」
これでしばらくは眩暈くらいはするはずだ。
今が好機だろう、と僕は駆け出した。
それが、思えば間違いだったのかもしれない。
妖怪は意外に機敏な動きで、僕を追ってきた。鼻を打ってスピードが落ちているとは思えなかった。
それでも僕は必死に走る。

ザク

足が縺れた。背中に鈍痛が走った。
血を流しながら…僕は倒れた。倒れた拍子に木の根元に頭を打った。
それでもまだ、意識はある。
「ニンゲン…」
相手が近付いて来る。僕はこのまま食べられるんだろうか?
『死なないでよ』
…ゴメン、鈴仙。
謝れなくてゴメン。約束が守れそうもない…
「――波符『月面波紋(ルナウェーブ)』」
一瞬で視界が真っ赤に染まった。
そして、その聞き慣れ始めた声に、僕は少しだけ安心した。
「ボロボロじゃない。一体どうしたの?」
「…見ての通り、そこの妖怪さんにやられた」
プライドなんて欠片もない。我ながら情けないな。
「…お仕置き!」
その妖怪に次々に打ち込まれていく鈴仙の弾。
はっきり言って、蜂の巣だった。
「ぎゃぁぁぁぁ!」
その断末魔を聞きながら、僕は頭がボーっとし始めた。
ちょっと血が出すぎたみたいだ。
「ふぅ…って、何で死にそうになってるのよ!」
「…ゴメン、血が出すぎた。眠い…」
実際、意識を保つのも辛い。
「寝ないでよ!今、寝ちゃったら死んじゃうのよ!起きて…起きてよぉ…!」
ゆっさゆっさ、揺り篭のように僕の身体は揺すられた。
泣きそうな鈴仙の声を聞きながら、僕は徐々に意識を失った。


エピローグ

目が覚めると、そこは永遠亭の僕の自室だった。
どうやら生きてはいるようだが…傷が痛む事には変わりない。
「目が覚めたようね」
すぐ傍にいたのか永琳さんが目覚め早々に僕に声をかけた。
「僕は…?」
「ウドンゲに感謝しなさい。生死の境を彷徨っていたあなたを
ずっと見ていたんだから」
「…やっぱり、死にかけたんだ」
「容態が安定してからも、ずっと看病を続けて、今はこうなってるけどね」
と、僕の横を指し示す。
そこには疲弊して眠る月の兎の姿があった。
「そうそう、貴方、ウドンゲの下着姿を見たそうね?」
「あ、あはは…」
バレてるよ。まぁ大方、鈴仙が話したんだろうけど。
「月の兎には面白い風習があってね…。それについてはウドンゲから聞くといいわ」
「…一体何なんですか?」
「秘密よ。とりあえず、痛み止めは置いておくわね」
錠剤を机の上に置かれる。
「お大事に」
軽く笑うと、永琳さんは外に出て行った。
「で、鈴仙、起きてるんだろ?」
「…起きてない」
狸寝入りかどうかは大体分かる。眠るのを偽ると不自然に感じるものだから。
「とりあえず、ありがとう鈴仙」
「…~っ、別に貴方を助ける為にあの場所にいたんじゃなくて!」
「それでも、だよ」
「…言っておくけど、ただ通りすがっただけだからね!」
「分かったよ」
彼女の耳は人よりも遥かに優れている。あの時の呟きがきっと聞こえていたのだろう。

「あ、ところで…永琳さんが言ってた事なんだけど…月の兎の風習って?」
その言葉を出すと、鈴仙は真っ赤になりながら俯いてしまった。
僕、何か悪いことでも言ったのかな?
「つ、月の兎は…」
「月の兎は?」
「は、初めて肌を晒した家族以外の異性に求婚をしなければならない」
…思考がフリーズした。
あの時の行動が…まさか、こんなに事になっていたなんて。
「あ…えっと、まぁ、わたしは別にいいの。しょ、正直…他の人よりもあなたなら
まだ…十分って言うか…」
「うん」
「ちょっ…」
鈴仙の華奢な身体をそっと抱きしめる。
これから守ろう。この素直じゃない兎の少女を――

ーーーーーーーーー少女選択中...ーーーーーーーーー

→(土下座するくらいの勢いで謝る)

ピッ


うん、やっぱり僕が悪いんだから、明日一番に謝ろう。
それにしても…
「やっぱり、女の子の肌って白いものなんだな…」
と改めて実感した。
まるっきり反省の色がない僕だった。
とにかく、明日は謝らないと…僕の気がすまない。
彼女を傷つけたのもあるけど…やっぱり、嫌われたくはないし。



朝の永遠亭。
目覚めは別段普通だった。
別に『新しいパンツを正月元旦の朝に穿いたような気分』でもない。
結局、普通の目覚め。気分は微妙に沈んでいる。

トントン

戸をノックする音が聞こえた。
こんな事をするのは永琳さんだろうか?
まず間違いなくてゐという意見は外れる。彼女の場合、居ようが居まいが勝手に入って
勝手に物を取っていくから。
輝夜さんという事もないだろう。第一、ここに来るような理由がない。
とりあえず、永琳さんということを仮定しておいて、戸に向かう。
「はいはい、何方ですか?」
と、戸を開くと、そこに立っていたのは一匹の月の兎だった。
ここの永遠亭には一匹しか月の兎はいないけど…。
「鈴仙…?」
「お、おはよう」
「えっと、何の用?」
思わぬお客の来訪に、僕は戸惑っていた。
こちらから出向こうと思っていたのに、まさかそっちから来るとは思っていなかった。
「し、師匠が貴方を呼んで来いって言ってて…その、迎えに」
「あ、うん…分かった。ちょっと、待ってて」
鈴仙の顔が赤い。きっと僕の顔も赤い。
やっぱり昨日のことを覚えているからだろう。
「あー、それじゃ…行こうか」
一応、着替え終わり僕は鈴仙と一緒に無駄に長い廊下を歩く。
歩いている間は互いに無言だった。
「えっと、鈴仙」
「は、はい?」
急に声をかけられて、驚いたように鈴仙はこちらを向いた。
すーっと息を吸い込む。
よし、準備オーケー覚悟完了!
嫌われる覚悟は出来てないけど、叩かれるくらいの覚悟は既に出来ているッ!
「昨日はごめんっ!」
「え、え、え?」
「本当に悪かった。今も反省している。殴っても構わない」
本気で土下座するくらいの勢いで謝った。
と言うか、土下座をした。
「えっと、別にいいんだけど」
顔を上げると、鈴仙がスカートを押さえながら、僕を見下ろしていた。
若干恥ずかしがっているのは分かるけど、何でスカートを押さえているんだろう?
「あ、後、早く立って…」
「いや、そうしないと謝れないんだけど」
「…その位置からだと…その、スカート…」
あぁ、そういう事か。この位置から普通に見るとスカートの中が見えるから
早く立ってくれと、言ってるのか。
「ともかく、ゴメン」
「もういいってば、別に減るものでも…ないし」
いや、色々と減ると思う。
気にしなくなったら、少なくとも羞恥心が消える。
「…別に、今のあなたなら見られても…その…」
最後の方はあまりにも小さな声だったので聞き取れなかった。


「あぁ、二人とも来たわね」
「えぇ、結局何の用なんですか?」
永琳さんの部屋(永遠亭住人曰く『八意研究室』)に入ると
明らかに生命に関わるような匂いと、その中で平然と立っている永琳さんが居た。
「えぇ、今日貴方達にここに来てもらったのは他でもないわ。
ちょっと私の作った新薬の実験を――」
『謹んでお断りします』
僕と鈴仙の声が見事に重なった。
永琳さんが新薬を作る、人を実験に使うイコール、死亡確認!
の方程式が簡単に頭を過ぎる。
多分鈴仙も同じ方程式が出たんだろう。
「残念ね。じゃあ、別の用件を話しましょう」
「…むしろそっちが本当の用件じゃ?」
「新薬はてゐにでも頼む事にするわ」
心の中でてゐに合掌する。
ごめん、僕達にはどうすることも出来なかった。
「鈴蘭畑に行って鈴蘭を取ってきてくれないかしら?」
「鈴蘭畑って…何処に?」
「それについては、ウドンゲが知っているから案内してくれるわよ、ね」
「あ、はい…鈴蘭畑かぁ…」
何か思うところがあるのか、考え事を始めた。
永琳さんの用件はそれだけだった。
僕達は早速、支度をして昼頃に鈴蘭畑に向かった。



「コンパロ、コンパロ、毒よ集まれー」
鈴蘭畑に着いて早々、僕たちが見たのは一体の人形だった。
鈴仙曰く、ここに住んでから毒を浴びて心を持った人形らしい。
「あ、お久し振りー」
「久し振りね」
一応顔馴染らしく、その人形と鈴仙は話を始めた。
僕はその間、鈴蘭畑をずっと見る。
こうまで同じ花があると、逆に気味の悪くなりそうな光景だった。
毒もあるらしいし…
「話は終わったわよ。さぁ取っていきましょう」
「またね」
「ありがとうございます」
とりあえず、その人形に礼を言って鈴蘭を摘みはじめる。
その人形も手伝ってくれたおかげで、それほど時間がかからず
話しながら一時間ほどで、持ち帰れる程度の量を手に入れた。
「それじゃ、帰ろうか、鈴仙」
「えぇ、行きましょう」
両手いっぱいの鈴蘭の花束。
これではどこかへ、お見舞いに行くような感じだ。
それにしても、鈴蘭畑に居た所為かどうか分からないが、
頭が痛い。ボーっとする。
「鈴仙はよくここに来るの?」
「うーん、来る時と来ない時があるんだけど…最近はあんまり来てなかったから」
人形の彼女とは、何でも花の異変の時で出会ったらしい。
季節を無視した花の一斉開花。
僕は見ていないけど、それは凄まじい異変だったらしい。
そんな異変なら、僕も一度見てみたいと思う。



「うん、これでいいわ。二人ともご苦労様」
夕暮れに永遠亭に戻り、永琳さんの労いの言葉を受けて、僕達は
部屋に戻ろうとした。
戻る時に庭先で倒れていたてゐが妙に印象的だった。
「ねえ、ちょっと外に出ない?」
「あ、うん…別にいいけど」
鈴仙が僕を外に誘ってきた。
今日は色々な鈴仙を見れた気がする。
それでも、真っ赤になった鈴仙が一番印象的で、一番可愛く思えた。
「今日は、いっぱい話せたね」
「まぁ、ね。…今まで鈴仙が話してくれなかったんだけどね」
「わたしは…貴方と話せなかったの」
「…話せなかった?何で?」
「貴方が、男の人って事もあったし…そう、恐かった」
鈴仙の言うことを黙って聞くことにした。
夕日に照らされる彼女は今まで以上に儚く感じた。
「今はそうでもないんだけど…恐かったの」
「だったら、聞きたいんだ…」
「えっと、何を?」
僕は、後ろから鈴仙を抱きしめた。
背中越しに明らかに戸惑っている事は分かる。
僕の顔が赤いのも何となく分かる。
「鈴仙は…僕が好き?」
「……」
鈴仙は答えない。
突然の告白に驚いているのか、彼女の動きでしか分からない。
「わたしは――」
僕は腕の力を抜いて、彼女を離した。
たとえ、どんな言葉を言われても僕の思いは伝えた。
…これで十分だった。

ぎゅっ

唇に柔らかい感触とともに、鈴仙は僕に抱きついた。
「わたしは――あなたが…好き。好きだよ」
時は夕闇に染まっていった。
「鈴仙」
「はい?」
「…幸せってこういう事を言うのかな?」
「少なくとも…わたしは幸せよ」
「そうか…。僕も幸せだ」
僕は鈴仙に口付けた。

その後、僕と鈴仙はてゐや永琳さんによって散々茶化されたりした。

ーーーーーーーーー少女選択中...ーーーーーーーーー

右左右左BA

ピッ


無敵コマンドを入力した。
これで何が起きるか僕にも分からない。
ついさっきあった二つの選択もしていないから、適当に行動するべきなのだろう。
誰が入力したのか分からないけど…。
僕にはそれは何かの導きのように感じた。
「…無敵コマンドの導きがあらん事を――」
電波的な言葉を言いながら、僕は瞳を閉じる。
どうか夢の中だけは幸せが見られますように…



翌朝の永遠亭。
いつもと同じように、食事を摂る。
目覚めは普通すぎるくらい普通。
それでも不思議な体の軽さと、朝から感じる違和感だけは、ここ――永遠亭に来てからも
感じた事が無かった。
鈴仙はご飯を食べている。
てゐも普通にご飯を食べている。
永琳さんは他のウサギ達と違って豪華な食事を食べている。
うん、いつもの光景だ。
そう、三人とも僕の方をちらちら見ながら、赤い顔をしていなければ。
「あ、あの…三人ともどうかしたの?」
『べ、別にっ』
目線があった途端、全員が全員顔を背ける。
…?
よく見ると、他の妖怪兎なんかも僕を見ていた。
別に朝に鏡を見たときは、何も無かった。
額に『肉』とも『骨』とも書かれていなかったし。
ズボンのチャックが開いているわけでもない。

顔が赤いのも気になる。
まさか全員が風邪を引いたとかそういう感じなのだろうか?
…それだとしても、おかしい。
鈴仙やてゐ、他の妖怪兎はともかくとしても、
一応、不老不死…病にかからない永琳さんが風邪を引くなんてありえない。
「それだと…僕だけが何もなっていないって事だよなぁ…」
まぁ、おかしいのは最初だけだろうと思っていた。


流石に二、三日経ってみるとその様子がおかしいと言う事に気付いた。
鈴仙には、念のために例の事故を謝った。
僕のその言葉には驚いたみたいだけど、ちゃんと許してくれた。
とりあえずその日の、日の高い内に、やっぱり永琳さんに呼び出された。
「よく来たわね」
「…永琳さんが呼び出したんでしょう」
やっぱり、顔が赤いのは治っていなかった。
「ここに呼んだのは他でもないわ」
そう言うと、永琳さんは扉に向かって閂を仕掛けた。
これで外からは誰も入って来れない。
あれ?
「そんなに重要な用事なんですか?」
「えぇ、重要な用事よ。まぁ、そこに腰掛けて」
何故かイスは無く、永琳さんはベッドを手で示した。
何となく変だという違和感に駆られながら、僕はベッドに腰掛けた。
その時、たった一瞬だけ体が自分のものでないような感覚に駆られた。

ドン

「え?」
気付いたら、永琳さんに押し倒されていた。
両手首を片手で押さえられて、永琳さんの顔が近かった。
「どうかしら?」
何でこんな状態になっているか、それを考えるのに十数秒要した。
「…永琳さん、病気か何かですか?」
「あら、どうして?」
「…貴女が、こんな事をするなんて考えられない」
「そう、もしかしたら病かもしれないわね」
艶っぽい表情を浮かべて、永琳さんは両手首を押さえながら
馬乗りになった。
「恋の病って言ったら信じるかしら?」
「…冗談じゃ――」
「冗談だったら、こんな事を言わないわ」
もがこうにも、手首は塞がれていて、暴れる事も出来はしない。
動く事が出来ないし、今の永琳さんには恐怖すら感じる。
「ふふっ」
妖艶な笑み。
僕はその表情に吸い込まれそうになる…。

その時だ。

ドカン!とまるで、何かが粉砕するかのような音が聞こえた。
あまりにも大きな音が戸の方から響いた。
そこに居たのは――
二匹の兎…いや、それはまるで兎の皮を被った鬼だった。
一匹の兎は手に木槌を持っており、恐らくそれによって閂があった扉を
粉砕したのだろう。
もう一匹の兎は、手に何故かリボルバーを持っていた。
言うまでも無い、鈴仙とてゐだった。
「師匠、その手を離してください!」
「あらあら、いけない弟子ね。こんな時に私の邪魔をしようだなんて」
そう言いながら近くにあった弓を手に取る。
拙い…この雰囲気は…互いに殺る気だ!

「六発です!六発以上生きていられた人はいません!」
そう言いながら鈴仙は引き金を絞った。
軽い音が響きながら、その弾は真っ直ぐ、何故か僕の方へ向かってくる。
――違う
その弾はまるで意志があるかのように、途中で曲がり永琳さんに向かって飛ぶ。
いや、そう感じさせる事すらトラップ、本当は最初から永琳さんに銃弾が飛んでいた。
ただ、惑わして僕に向かうように見せただけだ。
「くっ、その程度!」
すぐにバックステップで、永琳さんは距離を取って、その銃弾をかわした。
「もらったー!」
飛んだ先には木槌を構えたてゐが居た。
その木槌が振り下ろされる!
しかし、彼女もそれを予想していたのか、既に回避行動に移っていた。
それでも頬を掠って軽く血が飛ぶ。
「こっちへ、早く!」
鈴仙に導かれて、僕は急いでその部屋から出て行った。
何が起こっているんだろう?


「ここまで来れば…大丈夫よね」
永遠亭の外に出て、僕と鈴仙は深呼吸をした。
「鈴仙、一体…何があったんだ?何か…おかしいよ」
いつの間にか感じていた違和感。
それは一体何なのか、僕は鈴仙にそれを聞いていた。
「あなた、自分で気付いていないの?」
「…何を?」
「雰囲気が、その…」
「雰囲気…?」
言いにくそうにしている鈴仙の顔は真っ赤だった。
「その、格好良くなりすぎてる…って言うか」
「いや…意味が分からないよ」
「それで永琳師匠も、てゐも…皆も今のあなたが気に入っちゃったみたいで」
…まさか。
あの時選んだ。妙なコマンド?
「どうかしたの?」
「い、いや…何でも無い」
アレが本当に効いたとしたら、いや…今の状態から考えるとすると
それしかありえない。
「…とりあえず、今のあなたがどのくらい続くか分からないけど…守ってあげる」
「そう言えば、鈴仙は…みんなが受けてるような効果が無いみたいだけど?」
「わ、わたしは…その」
真っ赤になりながら、そっぽを向いた。
どうやら、聞いてほしくはないらしい。
「…それで、逃げ切ればいいのか?」
「命をかけた鬼ごっこね」
嫌な響きだ。
命までは取られないだろうけど…永琳さんの態度を見ると捕まったら
色々なものがなくなりそうだ。

「とにかく、竹林を越えて…里でもいいから逃げ込んで!」
そう言いながら、リボルバーを構える鈴仙。
「ところで…鈴仙、その銃は?」
「山猫って呼ばれてた人から貰ったの」
…どうやら、違う次元の人が紛れていたようだ。
その人はきっと『リロードがレボリューション』らしい。
「…鈴仙、頑張って。あと怪我させないようにね」
僕は、竹林に向かって走り出した。

「頑張れ、か…。うん、頑張ろう」



竹林には既に敵の兎部隊が、たくさん来ていた。
けど、突破できない程度ではない!
鈴仙のためにも…突破する!
「うわぁぁぁぁ!」
後ろを見ずに必死に走る。
敵の方が圧倒的に早い。さすがは鍛えられた兎だ。
「うさうさー!」
「うさー!」
数十、数百…これだけに追われている状態なんて人生史上にない経験だろう。
しかし、そんな事は考えてられない。
今は逃げ切らないとならない。
「うさー!」
僕は背後に、気配を感じながら必死に竹林を駆け抜けた。



竹林を抜けた頃には、僕の足はとっくに笑っていた。
動く事すらままならない。
二度と走りたいとも思わない。
木の根元で倒れていると、人の気配があった。
また妖怪兎か?
と警戒したところ、現れたのは見知った月の兎だった。
「大丈夫?」
「…鈴仙、まぁ大丈夫だよ」
よく見ると、彼女の服なんかも所々破れていた。
幸いにも肌に傷はないようだけど。
「…あのね。わたしは、あなたに言わないとならない事があるの」
「何?」
「…貴方がおかしくなった原因、わたしなの」
「え?」
「…前から、貴方はわたしの瞳を見ていたでしょ?あの時に、
簡単な幻惑――言うなれば狂気をかけたの」
「…どんな効果?」
「自分から、格好良くなろうとするような効果」
そんなのが掛けられていたのか?
いや、思い当たる節は結構あった。考えてみれば、いつも僕は彼女の
瞳を見ていた。それでは、そんな幻惑もかかるだろう。
自分から格好良くなる気はなかったけど…どこかしら、なっていたのかもしれない。
「それが、こんな結果か」
「…ごめんなさい」
「別にいいよ。ところで、どうしてそんな事を?」
「…から」
あまりにも小さな声だった。
「あなたが…好きだったから。もっと格好いい貴方が見たかったの」
でも結果は永遠亭の者がちょっと変になってしまった。
もしかしたら、あのコマンドを選んだのも鈴仙の影響だったのかもしれない。
「…格好いいか分からないけどさ…。僕は――」
「……」
「僕は、鈴仙が好きだ」
何だ。結構簡単に言えるじゃないか。
走った所為もあって、心臓がドキドキ言っているけど。


『永琳さま、突撃しますか?』
「いえ、もう終わりみたいね」
『どう言う事ですか?』
「彼は――ウドンゲとくっついたわね」
落胆と諦めの声が妖怪兎の方から聞こえた。
「これで、久し振りの恋も終わり、か」
永琳も気付いてはいない。
その恋の病というものは二つの狂気のようなものから成り立っているという事に。
一つの狂気は恋する『月の兎』の狂気。
もう一つは恋をしたかった『普通の人間』の狂気。
人の想いとは具現するようだ。それこそが彼の選んだ『コマンド』なのだ。

ちなみに数日後、その『コマンド』の狂気はあっという間に消えてしまっていた。
月の兎の恋と、恋をしたかった普通の人間の願いが叶ったかもしれない。



後書き。
ごめんなさい。
色々やりすぎました。ごめんなさい。
…こんな風に自分で首をしめてどうするんだろう?
とにかく、ごめんなさい。

補足。

コマンド入力=好感度がマックスになる。

鈴仙が(半分くらい)みんなの狂気を促しました。

てゐ。漁夫の利を狙っていたけど主人公を鈴仙に取られて失敗。

師匠。今回の多分一番の被害者。狂気に晒されてちょっとだけ、変になった。

注意点。

おかしい事が起こるので、出来る限りコマンドをあまり使わないようにしましょう。

何事もほどほどに(暴走すると手がつけられません)。

最後に、ごめんなさい。

とりあえず首吊ります。

1スレ目 >>530-543>>550>>557

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603 名前: 名前が無い程度の能力  投稿日: 2005/10/22(土) 01:42:06 [ S8SIfbtc ]
    ここでちょっと無意味な質問。
    自分が風邪を引いたとして、東方キャラに看病してもらうとしたら誰がいい?
    そんな告白じゃないけどほのぼのなSS書いてみようかな……って思って。

610 名前: 名前が無い程度の能力  投稿日: 2005/10/22(土) 17:06:05 [ OCbEik9U ]
    >>603
    鈴仙。


    風邪で伏せってる男の看病を買って出るも、
    師匠から処方された座薬を入れる段になってから
    二人して顔真っ赤にしているという…

    しまった、ほのぼのどころかとんだ恥辱プレイじゃないか。

611 名前: 名前が無い程度の能力 投稿日: 2005/10/22(土) 17:14:12 [ ZlkrqM1c ]
    >>610
    そこで決め台詞ですよ

    「鈴仙、愛してる」

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初めに、これはプロポーズスレ>>530-531の話に僕が勝手に続きを書いたものです。
人様の作品に勝手にアナザーを書くのはどうかとも思いましたが。
ぶっちゃけ、鈴仙のこのシチュエーションじゃないと僕の力量じゃアイデアを生かしきれませんでした。
よいきっかけを下さった530様に感謝しつつ。

>>530-531から続く。

あれ以来、僕が鈴仙の裸を見てしまってから、
なんと! 前以上に鈴仙に声をかけてもらえるようになった!!
朝、廊下ですれ違う。

「おはよう、ヘンタイ」

乾いた笑顔がまぶしいぜィェァ!
あれ?


永琳さんのお手伝いで鈴仙と一緒に薬草を探しに行った時も
一歩後ろを付いてくる鈴仙が突然つぶやいた。
「スケベ」
思わず振り返るとジト目で言われた。
「なに、盗み聞き? サイテー」
チキショウゥゥゥ
僕は涙を拭きながら駆け出した。
確かに悪いのは僕さ、でも、だからって、こんな扱いされるなんて……


僕が他の人といるときは鈴仙も普通だった。
ウサギたちと一緒に長い廊下の掃除をしていたときは
「お掃除ご苦労様です。がんばってくださいね」
と最高の笑顔で言われた。
ウサギたちはそれぞれの持ち場へ掃除をしに行く。
僕は鈴仙の笑顔のギャップに見とれその場でポカーンとしていた。
鈴仙に睨まれてあわてて動き出すが、足元のバケツを引っ掛けてこぼしてしまった。
うあぁぁしまった、廊下が水浸しだ。
手持ちの雑巾だけじゃ拭ききれない、新しい雑巾はどこ…?
僕がおろおろしていると僕の視界が急に暗くなる。
後ろから顔を覆うように頭に雑巾を載せられた。
「バーカ」
そう言ってすぐに背を向け歩いていく鈴仙。
「まって! 鈴仙、わざわざ僕のために雑巾を持ってきてくれたの?」
「そんなわけないです。自意識過剰はキモチワルイ」
く……それ今迄で一番グサっときた。
でも、なんだろうこの気持ち……僕は内なる自らの新しい感情の芽生えを感じていた。
「ありがとう、鈴仙」
素直に礼を言ってみた。
「n……えと……な、なにまじめにお礼なんて言っちゃってるんですか? ヘンタイの癖に
 いまさら遅い。信じられない、アリエナイ、変人、サディスト、マッド、ひきこもり、存在感
 薄、嘘つき、変な髪形、えーっと、あと、とにかく……エッチ!」
顔を真っ赤にして、耳をピンと立てて怒る鈴仙。
そしてそのまま行ってしまった。
「僕はMなのかもしれない」
そう思った、だって今の鈴仙がたまらなく可愛い……
鈴仙に冷たくされて、嬉しくなって礼を言って、
鈴仙がよけい顔を赤くして取り乱すという僕的素敵ワールドが何度も繰り返された。
まぁ、鈴仙にとっては楽しいものではないだろうが
心なしか前よりもっと頻繁に鈴仙に声をかけられるようになった気がした。


そんなある日、永琳さんから話があると呼び出された。
永遠亭の奥の部屋に入ると永琳さんが座して僕を待っていた。
僕も永琳さんの目の前に座る。
永琳さんは微笑むと僕にお茶を出してくれた。
「お茶をどうぞ、ヘンタイさん」
!!
「これはこれでアリだ」
僕が親指を立てると永琳さんはあきれた表情で言った。
「あらあら、本当にヘンタイなのかしら。まぁいいわ。今日の話はそれとも関係があるのよ」
言いながらしぐさで僕に茶を促す。
素直に飲む。
うぇ、つーんて、辛くてしょっぱい、涙出る。
永琳さんはニコニコしている。
やっぱりこういうのは嫌かも……でももしこれが鈴仙なら……
僕に塩わさび入り緑茶をだしてニコニコしている鈴仙を思い浮かべる。
うん、悪くない。
ということは僕はただのヘンタイではなく、鈴仙だから…なのか?
「最近、鈴仙と仲がいいみたいね」
「いえ、いじめられています。自業自得では在るのですが。」
「でも、その前はほとんど口聞いてもらえなかったんでしょう?」
「それは、確かにそうですが…」
永琳さんは少しまじめな顔をしていった。
「何が自業自得なのかは聞かないで置いてあげるけれど、ね。それよりも、あの娘の過去は聞いている?」
「月から逃げてきた、という話は噂で」
「そう。彼女は月につらい想い出がある。そして、あなたをみるとそれを思い出す。あなたが来たばかりの頃はそう言っていたわ」
「それは俺が…」
「外から来た人間だから、でしょうね」
「俺は知らない間に彼女に嫌な事を思い出させていたのか…」
「でもね」
そう言ってから一呼吸おくと、永琳さんは自分のお茶を飲んだ。
あ、顔をしかめた。
自分でも味が気になってたのか、チャレンジャーだなぁ。
「鈴仙が過去を思い出すのは何もあなたのせいだけではないわ。とくに、この間の花の異変から時々
 難しい顔をしてふさぎこむ事もあったのよ。けれど最近は吹っ切れたみたい。それはきっと、あなたに関係がある」
永琳さんはそう言って俺の瞳を真っ直ぐに見つめてきた。
吸い込まれそうになる、俺の心を見透かされているようで。
そして永琳さんは微笑んだ。
「だから、あなたにお礼を言おうと思って。鈴仙を元気付けてくれてありがとう」
「でも、僕、嫌われるならまだしも……信じられません」
「ふむ」
永琳さんはあごに手を当て考えるしぐさをする。
「盗み聞きをしているてゐ、あなたはどう思うかしら?」
バタンと音がしてふすまが倒れ、アハハと愛想笑いをするてゐが現れた。
「そ、そうですね……確かに鈴仙は最近あなたの話ばかりしています」
え……俺の脈が速くなっていく。
「あ、そういえば昨日も……」
てゐは急に瞳を潤ませ、しなしなと壁にもたれかかった。
耳をパタッと倒し髪を指に絡ませながら真っ赤な顔で言った。
「私、あの人のことを思うと……ウサウサが止まらないのっ!!1!1
 ……って鈴仙がいってましたよ?」
「ウサウサ!?」
ドキンと一つ僕の心臓が跳ねた。
我ながら分かりやすいと思った。
いつのまにか、僕は本気で鈴仙に惚れてしまっていたらしい。
「僕、鈴仙に会って来ます」
「そうね。いってらっしゃい、後悔のないように」
立ち上がり、永琳さんに礼をしてから部屋を出た。
「ところでてゐ、ウサウサって何?」
「嘘です、たきつけたら面白そうだったのでつい」
「……。私もウサウサがとm」
「やめてください(笑顔)」


永遠亭の外、竹林で鈴仙は竹の間から細切れに見える青い空を見ていた。
風が吹く、何かに耐えるように自らの両肩を抱く鈴仙。
冷たい風じゃない、ならばきっと耐えているのは感情の波だろう。
声をかけようとすると、彼女が何か独り言をつぶやいた

……。

それは僕の名前だった。なぜ?
やっぱりてゐの言ったとおりなのだろうか。
声をかけるのがためらわれる。
もしこのまま彼女を放って置いたなら
あがなえない内なる激情の渦に耐え切れなくなった彼女は
ついうっかり僕が見ていることも知らずにウサウサするのだろうか見たい見たい見たい。
じゃなくて。
「鈴仙」
暴走したのは僕自身の心。それを抑えて声をかけた。
「な、なんのよう?」
一人で物思いにふけっていたところを見られたためなのか、鈴仙の反応はぎこちない。
いつものようにいろいろ言われる前に俺はすばやくその場に膝を付いて頭を下げた。
「この間はごめん! わざとじゃないんだ、って言っても鈴仙に嫌な思いをさせたのは事実だし、どんな罰でも受けます。
 だから本当にごめんなさい!」
は? 馬鹿じゃないの? そんなんで許されるわけないじゃない。
罰を受ける? なら、今すぐ私の前で逆立ちしながらえーりんえーりんしてもらおうじゃないの! スッパで!
「お代官さまそいつぁ無茶だ」
「??」
あれ、予想した返事が来ない。
「御免忘れて」
もう一度頭を下げる。
「べつに……」
鈴仙はうつむいて、小声で答えた。
「べつにこないだの事はもういいの。あんなの、てゐとか師匠にはよくやられるし……、ただ、ちょっとドキドキしたって言うか…」
「え?」
予想外の答えに俺が顔を上げると、鈴仙と目が合った。
かぁぁぁぁっと鈴仙の顔が赤くなる。
「ああああやっぱりダメ。許さないヘンタイ、スケベ! あなたなんて大っ嫌いなんだから!!」
ぷいっと横を向く鈴仙。
その兎さ耳は中に「の」の字を書いていた。
だから僕は言った!!


「でも、僕は鈴仙が大好きだ!」
「!!」
鈴仙の耳がピンと伸びる。
「ほ…本気、なの? へンタイの癖に…」
「こんなの冗談じゃいえないよ、鈴仙、君が可愛すぎるから、どうしても君のことを考えないでいられない」
俺は一歩近づいた。
鈴仙は動かない。
「ア、アブナイ人?」
「うん、そうかもしれない。僕はもう君の瞳に魅入られてる」
もう一歩近づく。
鈴仙はその場で横を向いたまま緊張してカチカチになっている。
あぁ、今すぐ鈴仙を抱きしめたい、けれど僕はまだ許してもらっていない。
今そんな事をしたら鈴仙は逃げてしまうだろう。
僕は再び頭を下げ手を差し出した。
「もし許してくれるなら、僕を受け入れてくれるなら、どうかこの手をとってください」
そのまま、少しの時が流れた。

不意に、鈴仙の緊張が緩んだ。
はぁ、と何かを決心するため息を付く。
そしてまだ頭を下げている僕のほうを向いていった。
「やっぱりあなたは馬鹿です。あなたをみて過去の重罪を思い出してた私まで馬鹿みたい。でも」
そう言って彼女は僕の手をとってくれた。
「あのとき、あなたも必死で生きているんだなって思いました。些細な事で、私にとっては重大問題だけど、
 一生懸命になったあなたがなんだか可愛くて…それで、えっと…その…ほら、よく言うじゃない。
 好きになった子ほど苛めたくなる…って」
好きと、確かに鈴仙は言ってくれた。
「僕も、鈴仙にならもっと苛められたいかも」
俺は鈴仙の手を引っ張ってその小さな体を両腕で抱きしめた。
鈴仙は抵抗しなかった。
「ばか…」
鈴仙はただ、俺の腕の中で小さくつぶやいた。
白くて細い指がぎゅっと俺を掴んで話さない。

「大好きだ、鈴仙」
「私も、あなたの事好きになりました」

end




どうしても直視できなくて一部ネタに走った。
鈴仙にバカって言われたかった。

1スレ目 >>624

───────────────────────────────────────────────────────────

唐突だが僕は今、窮地に瀕している。
いや、どういう状態かというと…一部の人なら喜びそうな状態なんだが…僕にはその気は無いので…
まぁ、簡潔に言うと、兎にマウントポジションを取られている。
その兎の名前は鈴仙・優曇華院・イナバ。
何でこういう状況なのかというと…

そもそも僕は人間界に住んでいた。
小、中、高と全然女性運が無く、恋愛とは無縁の暮らしをしていた。
趣味は散策でいろんな山、谷、海岸等を歩いたもんだ。
だが、ある神社から歩いて1時間ぐらいの竹林を歩いていたら…僕らしくも無く迷ってしまった。
軽い散策のつもりだったからもちろん地図、磁石なんてないし食物も軽い物しか無かった。
そして迷って三日、ついに食料も底をつき「もう死んでいいか…」なんてことを考えながら眠りについて…
気がついたらこの永遠亭の布団で寝ていたわけである。
僕を介抱してくれたのは薬草探しに来ていた鈴仙だった。
そして、そこの居住者である八意永琳さんに話を聞いてみたら、ここは幻想郷という世界で、
僕はどうやら行きがけに通った神社(博麗神社というらしい)の結界を破ってしまい、この幻想郷に来たらしい。
帰ることを促されたが、僕は人間界は散策してもあまり面白くないが、こちらなら面白そうだという理由で断った。
そしたらそこの家主である蓬莱山輝夜さんがある条件と引き換えにこの家に住まわせてくれると言ってくれた。
輝夜さんの提示した条件はというと…ネット回線が突然繋がらなくなったから直してほしいとのことだった。
…後でてゐから聞いた話によると、輝夜さんは人間界で言うヒッキーらしい…
僕はもともと通っていた学校が工業系だった為に容易くここに住まわせてもらえることになった。(ちなみに原因はLANケーブルの断線だった。ここにいる兎の中でもかなりのイタズラ好きの奴が齧ったらしい。ちなみにその夜、おかずに兎の肉のソテーが出て、鈴仙とてゐが食事を辞退したのは言うまでも無い)

さて、前置きが長くなったが今のこの状況になるまでのプロセスを思い出すと…
事の発端は永琳さんが僕と鈴仙に薬草を取りに行かせたことだ。
「この薬を作るのにどうしても必要な薬草なんだけどこの辺にはあまり生えていない希少な植物なの。だから2人で手分けして探して頂戴」
といわれて、僕らは二手に分かれてその薬草を探し始めたのだが…
しばらくして鈴仙が僕の探しているところにやってきた。
「あっち探してたんだけど生えてそうに無いの。だからこっちを手伝うわ」
と言って一緒に探し始めた。
「おいおい、これじゃあ永琳さんが2人に頼んだ意味無いんじゃあ…」
「いいの。貴方の場合見落としがあるかもしれないから。」
流石に少しカチンとくる言われ様だったが、実際鈴仙の方が薬草探しは慣れているので言い返せなかった。
そしてしばらく二人で探しているといきなり鈴仙が僕の正面に立ちはだかった。
「…おい、何のつもりだい…」
「貴方に…話したいことがあるの。」
話したいこと?なんなんだ?と思いつつ「なんだい?」と聞いてみるとその"話したいこと"はものすごいことだった。
「…あのね…わ、私は……あ、貴方のことが好き!…なの…」
「…はい?」
いきなりのことだった。まさか愛の告白をされるとは思わなかった…
「…い、いや…でも…その…」
うん、この時の僕ほどキョドってた奴はいないな
「その…何?」
鈴仙が顔を近づけてきた。
「そ、その…まず聞きたいことは…なんで僕なの?鈴仙みたいに…か、可愛い女の子には…僕みたいな輩は…不釣合い…」
「そんなことない!私なんて可愛くなんか無いし、それに…貴方は…そんなに自分を卑下すること無いわ。少なくとも私にはカッコいい」
「う…でも…僕は…そんなに君が言うほどアレじゃないし…その…その…」
「…結局貴方は私と付き合うのが嫌なの?」
「い、嫌だなんてそんなことは!」
「じゃあ、なんで答えてくれないの!」
「そ、それはその…」
うん、この時の僕ほどヘタレな奴はいないな…
すると鈴仙が「ああ!もうじれったい!」と言いながら僕を押し倒してマウントポジションを取った。
「う、うわ!ち、ちょっと鈴仙?」
仰向けに倒れた状態で鈴仙の顔を見ると…な、泣いている?
「どうしてハッキリしてくれないの!私貴方のそんなところが嫌いなの!いつもいつもその場の雰囲気に流されて!自分の意見を押し通したことなんて一回も無い!」
「鈴仙…」
「もっとハッキリしてよ!私だって…私だってそんな貴方だけど大好きだから勇気を出して告白したのに…やっぱり貴方は自分の気持ちを出せなくて…私は…私は……」
「…ゴメン…ゴメンよ…鈴仙……僕は人間界にいたときもこんな感じだから何も出来ず、ただ意味の無い生活をしてたんだった…学生の時だって…好きな人はいたけれど…そのことを伝える勇気が僕には無くて…結局その人は僕の友人と付き合って…僕はそれを祝福してやることしか出来なかったんだ…自分の…自分の気持ちを結局無視して…」
「○○さん…?」
「自分の気持ちは…ハッキリと伝えなくては相手には伝わらない…鈴仙、僕は…僕は今から君に僕のキモチをぶつけるよ!」
「○○さん…」
「鈴仙、僕は…僕は君のことが好きだ!僕と…僕と付き合ってください!」
「…○○さん…その想い、確かに受け取りました…よろしくお願いします!」
「鈴仙…ありがとう……」

僕らはそのまま抱き合い、そしてキスをした。
今まで僕が伝えられなかったこと…これからならそれも取り戻せそうな気がする…




実はてゐの子分の兎がその情事を覗いていて、永遠亭に帰ったらてゐの手荒な祝福を受けたのはまた別の話…

1スレ目 >>940
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