■ヤマメ1
「○○ー?」
「ん、何?」
「セーター、もう少しで編みあがるからね」
寝転がって本を読んでいる俺。
壁に寄りかかって、編み物をしている―俺のためにセーターを編んでくれているヤマメ。
二人の間には、クッキーの入った鉢。
そんなまったりとした時間が流れる、午後の風景。
熱く燃えるようにイチャつくわけではない。けれど、俺は恋人と過ごす幸せをひしひしと感じていた。
「楽しみだなあ」
ちなみに、同じデザインで一回り小さいセーターが既に一着完成して、机の上に置いてあったりする。
……ペアルック、というわけだ。
バカップルと言わば言え。俺だって自覚がないわけじゃないし、恥ずかしいと思う気持ちもある。
だが、嬉しそうに編み棒を動かすヤマメを見ているとこちらも嬉しくなって、ペアルックもいいかなという気になるから不思議だ。
「でもあんまり無理するなよ?この間みたいに糸出しすぎて、また倒れるといけないから」
「うん、わかってる。ありがと、心配してくれて」
素材の糸もヤマメ自身のものなので、純ヤマメ産100%のセーターということになる。
とても楽しみなのだが、一度にあまりたくさんの糸を出そうとすると体力を消耗してしまう。
以前も張り切りすぎて寝込んでしまったことがあり、以来気をつけてブレーキをかけるようにしている。
そんなわけでペースはゆっくりだが、それはそれで、こうした幸せな時間が増えるので悪くない。
そんな、部屋のゆったりした空気に油断していたのか。
クッキーを取ろうとして、本に目を向けたまま伸ばした俺の手は、ヤマメのスカートに……
……そう、あの膨らんだ未知の領域に、触れてしまったのだ。
俺の指は―
A.「むにっ」とした感触を捉えていた。
B.「こつっ」と、固いものに当たった。
C.「ひゃっ!?」と声を上げる、何かに触れた。ちなみに、ヤマメの声ではない。
A.「むにっ」とした感触を捉えていた。(甘やかなイチャイチャルート)
……柔らかい。そして温かい。
スカートの布地越しに触れたヤマメのお腹は気持ちの良い触り心地だった。
ああ、この感触をもっと味わいたい。
「ちょ、ちょっと○○!?」
ヤマメが何か慌てているようだが、上の空の俺には聞こえない。
むにむにと手を動かすと、心地よい弾力が指先に伝わってくる。
「んぅ、やめて……くすぐったいよぉ……」
なんだかあたまがぼーっとしてきた。いつまでもこうしていたいような……
むにむにむにむに……
「うう、くすぐったいってば!」
「いてっ!」
ぺち、と頭をはたかれ、我に返った。
「はっ……俺はいったい」
「もう、○○ったら私のお腹むにむにしながら遠い目してるんだもの」
頬を膨らませ怒ったような顔をしていたヤマメはふと物憂げな顔になると、視線を俺から自分の腹部に落とした。
「……最近ちょっとこの辺のお肉が気になってるのに」
……え、あのスカートって、
「まさか太ってもわからないようにそんなデザインに……」
「なっ、違うわよ!これは元々こういう造りなの!―えいっ、お返し」
むきになって言い返しながら、俺の顔に手を伸ばし頬を指先でつつくヤマメ。
「あっ、やったな。よーし、二の腕をぷにっと」
「ひゃん!?そ、それなら私は鼻を」
「ふあ、じゃあこっちは太ももに!」
いつの間にかヤマメも笑顔になっている。
お互いの身体の柔らかさをぷにぷにと堪能しながら、イチャつく俺達。
……ああ、バカップルだよ、文句あるか。
B.「こつっ」と、固いものに当たった。(愛のオリジンフォルムルート)
何だ今の感触は。金具か何かだろうか?
いや、違う。なんというか、蟹の殻とかに近いような……
「……触った?」
妙に静まり返った部屋の中に、編み棒がことりと落ちる音が響く。
呟いたヤマメの声は、低く沈んでいた。
え、そんなまずいところに触ってしまったのか?柔らかい感じとか全然しなかったけど―
「じゃあ、ばれちゃうのも時間の問題だね」
ばれる?何のことだ?
戸惑う俺をよそに静かに立ち上がったヤマメの顔からは、一切の感情が拭い去られたかのようだった。
「いつかはちゃんと見せなきゃいけないと思いながら、迷ってたんだ」
ゆっくりと、かみ締めるように言葉を紡ぎながら俺を見下ろしているヤマメ。
握り締めた拳は、わずかに震えている。
「嫌われるんじゃないかって、怖くて」
かすかに、金属がきしむような音が聞こえる。
「さあ、見て○○。これが私の―本当の姿よ」
瞬間、目の前にいる少女のシルエットが爆発的に変化した。
上半身に変化はない。
だがその腰からは、巨大な節足動物の……蜘蛛の脚が、何本も生えている。
俺は、驚きのあまり声も出なかった。
「大丈夫よ、とって食べたりはしないから。……でもやっぱり、恐いよね」
むしろ優しげなその声は、しかし消え入りそうなほど弱々しい。
悲しそうにうつむいたヤマメの目から涙が一滴こぼれた。
堰を切ったように、後から後から床に雫が落ちていく。
「やっぱり……もう私のこと、嫌いになっちゃったよね?」
「ヤマメ……!」
弾かれたように立ち上がると、俺はヤマメを抱きしめた。
その身体の震えが止まるように、強く、しっかりと。
「○、○……」
「そりゃちょっとは驚いたけれど、でも俺はヤマメのこと嫌いになったりしないよ」
脚が何本あろうが、ヤマメはヤマメ。俺の大好きな、ヤマメに変わりはない。
「うん……ありが、とう……うっ、わぁぁあん!」
俺に飛びつき、全ての腕と脚でしがみつくヤマメ。
安心したのか、声を上げて泣き出してしまった彼女の背中を優しくなでながら、
俺は改めて、愛しさが溢れてくるのを感じていた。
C.「ひゃっ!?」と声を上げる、何かに触れた。ちなみに、ヤマメの声ではない。(釣瓶落としの謎ルート)
「え?」
今の声は?確かに、ヤマメの声じゃなかった。
ついでに言えば、その声は確実にスカートの中から聞こえたものだった。
くぐもってはいたが、どこかで聞いたことがあるような……はて誰の声だろう。
そんなことを考えている俺の横で、ヤマメのスカートがもぞりと動いた。
「うわあああ!?」
「あれ、どうしたの○○?」
突然の事態に、俺は軽いパニックを起こしていた。当のヤマメが平然としているのがむしろ納得いかない。
「いや、だってヤマメのスカート」
指差す俺の目の前で、何かがヤマメの両足の間から顔を出した。
それは―
「え、キスメ?」
何度か会ったことのある、ヤマメの友達。
釣瓶落としのキスメだった。
「「…………」」
思わず目を合わせてしまった俺はあまりのことに何も言えず、キスメも何も言わない。
ややあって、キスメはすごい速さでスカートの中から飛び出すと、カサカサと高速移動し、物陰に隠れてしまった。
桶に入っていないキスメというのはとても珍しいものなわけで、そんなものが見られたのはある意味幸運なのかもしれない。
が、俺の頭の中は山のような疑問に埋め尽くされ、それどころではなかった。
何故、ヤマメのスカートの中に?いつからそこに?桶はどうした?
「キスメもクッキー食べる?」
何より、どうしてヤマメは全く動じないんだ?気付いてなかったのか。それとも日常的にそこに入っているものなのか。
俺は、何故かそれを訊ねることができなかった。
寄ってきたキスメを見ると、いつの間にか桶に入っている。
どこから出したのか……いや、考えたら負けだ。負けなんだが……
深まるばかりの謎に俺が悩んでいる横で、キスメはクッキーを一口食べると、
「……ペアルック」
ぼそりと呟いた。
……火が出たかと思うほど、顔が熱くなった。
>>新ろだ342
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「○○ー?」
「ん、何?」
「セーター、もう少しで編みあがるからね」
寝転がって本を読んでいる俺。
壁に寄りかかって、編み物をしている―俺のためにセーターを編んでくれているヤマメ。
二人の間には、クッキーの入った鉢。
そんなまったりとした時間が流れる、午後の風景。
熱く燃えるようにイチャつくわけではない。けれど、俺は恋人と過ごす幸せをひしひしと感じていた。
「楽しみだなあ」
ちなみに、同じデザインで一回り小さいセーターが既に一着完成して、机の上に置いてあったりする。
……ペアルック、というわけだ。
バカップルと言わば言え。俺だって自覚がないわけじゃないし、恥ずかしいと思う気持ちもある。
だが、嬉しそうに編み棒を動かすヤマメを見ているとこちらも嬉しくなって、ペアルックもいいかなという気になるから不思議だ。
「でもあんまり無理するなよ?この間みたいに糸出しすぎて、また倒れるといけないから」
「うん、わかってる。ありがと、心配してくれて」
素材の糸もヤマメ自身のものなので、純ヤマメ産100%のセーターということになる。
とても楽しみなのだが、一度にあまりたくさんの糸を出そうとすると体力を消耗してしまう。
以前も張り切りすぎて寝込んでしまったことがあり、以来気をつけてブレーキをかけるようにしている。
そんなわけでペースはゆっくりだが、それはそれで、こうした幸せな時間が増えるので悪くない。
そんな、部屋のゆったりした空気に油断していたのか。
クッキーを取ろうとして、本に目を向けたまま伸ばした俺の手は、ヤマメのスカートに……
……そう、あの膨らんだ未知の領域に、触れてしまったのだ。
俺の指は―
A.「むにっ」とした感触を捉えていた。
B.「こつっ」と、固いものに当たった。
C.「ひゃっ!?」と声を上げる、何かに触れた。ちなみに、ヤマメの声ではない。
A.「むにっ」とした感触を捉えていた。(甘やかなイチャイチャルート)
……柔らかい。そして温かい。
スカートの布地越しに触れたヤマメのお腹は気持ちの良い触り心地だった。
ああ、この感触をもっと味わいたい。
「ちょ、ちょっと○○!?」
ヤマメが何か慌てているようだが、上の空の俺には聞こえない。
むにむにと手を動かすと、心地よい弾力が指先に伝わってくる。
「んぅ、やめて……くすぐったいよぉ……」
なんだかあたまがぼーっとしてきた。いつまでもこうしていたいような……
むにむにむにむに……
「うう、くすぐったいってば!」
「いてっ!」
ぺち、と頭をはたかれ、我に返った。
「はっ……俺はいったい」
「もう、○○ったら私のお腹むにむにしながら遠い目してるんだもの」
頬を膨らませ怒ったような顔をしていたヤマメはふと物憂げな顔になると、視線を俺から自分の腹部に落とした。
「……最近ちょっとこの辺のお肉が気になってるのに」
……え、あのスカートって、
「まさか太ってもわからないようにそんなデザインに……」
「なっ、違うわよ!これは元々こういう造りなの!―えいっ、お返し」
むきになって言い返しながら、俺の顔に手を伸ばし頬を指先でつつくヤマメ。
「あっ、やったな。よーし、二の腕をぷにっと」
「ひゃん!?そ、それなら私は鼻を」
「ふあ、じゃあこっちは太ももに!」
いつの間にかヤマメも笑顔になっている。
お互いの身体の柔らかさをぷにぷにと堪能しながら、イチャつく俺達。
……ああ、バカップルだよ、文句あるか。
B.「こつっ」と、固いものに当たった。(愛のオリジンフォルムルート)
何だ今の感触は。金具か何かだろうか?
いや、違う。なんというか、蟹の殻とかに近いような……
「……触った?」
妙に静まり返った部屋の中に、編み棒がことりと落ちる音が響く。
呟いたヤマメの声は、低く沈んでいた。
え、そんなまずいところに触ってしまったのか?柔らかい感じとか全然しなかったけど―
「じゃあ、ばれちゃうのも時間の問題だね」
ばれる?何のことだ?
戸惑う俺をよそに静かに立ち上がったヤマメの顔からは、一切の感情が拭い去られたかのようだった。
「いつかはちゃんと見せなきゃいけないと思いながら、迷ってたんだ」
ゆっくりと、かみ締めるように言葉を紡ぎながら俺を見下ろしているヤマメ。
握り締めた拳は、わずかに震えている。
「嫌われるんじゃないかって、怖くて」
かすかに、金属がきしむような音が聞こえる。
「さあ、見て○○。これが私の―本当の姿よ」
瞬間、目の前にいる少女のシルエットが爆発的に変化した。
上半身に変化はない。
だがその腰からは、巨大な節足動物の……蜘蛛の脚が、何本も生えている。
俺は、驚きのあまり声も出なかった。
「大丈夫よ、とって食べたりはしないから。……でもやっぱり、恐いよね」
むしろ優しげなその声は、しかし消え入りそうなほど弱々しい。
悲しそうにうつむいたヤマメの目から涙が一滴こぼれた。
堰を切ったように、後から後から床に雫が落ちていく。
「やっぱり……もう私のこと、嫌いになっちゃったよね?」
「ヤマメ……!」
弾かれたように立ち上がると、俺はヤマメを抱きしめた。
その身体の震えが止まるように、強く、しっかりと。
「○、○……」
「そりゃちょっとは驚いたけれど、でも俺はヤマメのこと嫌いになったりしないよ」
脚が何本あろうが、ヤマメはヤマメ。俺の大好きな、ヤマメに変わりはない。
「うん……ありが、とう……うっ、わぁぁあん!」
俺に飛びつき、全ての腕と脚でしがみつくヤマメ。
安心したのか、声を上げて泣き出してしまった彼女の背中を優しくなでながら、
俺は改めて、愛しさが溢れてくるのを感じていた。
C.「ひゃっ!?」と声を上げる、何かに触れた。ちなみに、ヤマメの声ではない。(釣瓶落としの謎ルート)
「え?」
今の声は?確かに、ヤマメの声じゃなかった。
ついでに言えば、その声は確実にスカートの中から聞こえたものだった。
くぐもってはいたが、どこかで聞いたことがあるような……はて誰の声だろう。
そんなことを考えている俺の横で、ヤマメのスカートがもぞりと動いた。
「うわあああ!?」
「あれ、どうしたの○○?」
突然の事態に、俺は軽いパニックを起こしていた。当のヤマメが平然としているのがむしろ納得いかない。
「いや、だってヤマメのスカート」
指差す俺の目の前で、何かがヤマメの両足の間から顔を出した。
それは―
「え、キスメ?」
何度か会ったことのある、ヤマメの友達。
釣瓶落としのキスメだった。
「「…………」」
思わず目を合わせてしまった俺はあまりのことに何も言えず、キスメも何も言わない。
ややあって、キスメはすごい速さでスカートの中から飛び出すと、カサカサと高速移動し、物陰に隠れてしまった。
桶に入っていないキスメというのはとても珍しいものなわけで、そんなものが見られたのはある意味幸運なのかもしれない。
が、俺の頭の中は山のような疑問に埋め尽くされ、それどころではなかった。
何故、ヤマメのスカートの中に?いつからそこに?桶はどうした?
「キスメもクッキー食べる?」
何より、どうしてヤマメは全く動じないんだ?気付いてなかったのか。それとも日常的にそこに入っているものなのか。
俺は、何故かそれを訊ねることができなかった。
寄ってきたキスメを見ると、いつの間にか桶に入っている。
どこから出したのか……いや、考えたら負けだ。負けなんだが……
深まるばかりの謎に俺が悩んでいる横で、キスメはクッキーを一口食べると、
「……ペアルック」
ぼそりと呟いた。
……火が出たかと思うほど、顔が熱くなった。
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