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早苗5

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orz1414

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 いつもの通学途中。東風谷早苗は物思いに耽った様にうつ向き加減で歩く。

「早苗さーん!」

 呼び掛けられて振り向くと、そこには見知った顔が一つ。

「おはようございます、○○さん」

 いつもの笑顔に、○○も笑顔を返す。

「もうすぐ最後の夏休みだね」
「そうですね」

 二人並んで、高校への道を歩く。

「早苗さんと知り合って、もう二年も経つのか……」
「何だか、つい最近な気分です」

 席が前後だった事から始まった友人関係。
 それから、事ある毎に行動を共にしてきた、親友と言える間柄の二人。
 しかし、以降特に進展も無いまま今に至る。

「早苗さんは、さ」
「?」
「やっぱり高校卒業したら、巫女さんの仕事に専念するのかな?」
「あ、……うん」

 少し歯切れ悪い返答に首を傾げるが、とりあえず突っ込んでは聞かない事にしたようだ。

「でもそうなると、中々会えなくなるのかな……」

 自分で呟いた言葉に言い知れない寂しさを感じ、○○は空を仰ぐ。
 上空には、平和に飛び行く鳥が一羽。
 ○○は不意に立ち止まり、早苗に告げる。

「僕は、早苗さんが好きです。
 僕と、正式に付き合って下さい!」

(なーんて言えないよなぁ……)

 心の中の妄想を放棄し、早苗の方を向き直る。
 と、早苗は少し手前で立ち尽くしていた。

「さ、早苗さん?」

 呼び掛ける○○に、慌てていつもの笑顔を浮かべる。

「ごめんなさい、ちょっと疲れてるのかも」

 やはり力のない笑みに、○○は小声で聞いた。

「神奈子さんとケンカした?」
「う……」

 どうやら図星のようで、視線が泳いでいる。

「あの人怒ったらおっかなさそうだしね。僕でよければ、一緒に謝ろうか?」
「い、いいよ! その……悪いのは私なんだし……」

 どうやら、毎回恒例のような単なる口論ではないらしい。

「そ、か……。早く仲直りできるといいね」
「うん……ありがとうね、○○さん」

 少し安心したような、気持ち落ち着いた表情で微笑む早苗であった。





 その日の放課後。○○は部活動の帰りに早苗の事を考えていた。

「今日一日元気なかったけど……大丈夫かな」

 やはり気になるのが人の常。○○は守矢神社を目指して歩き出した。



 守矢神社は、かなり離れた位置にある。毎日この道筋を歩いてきているのだから、早苗は外見の通り忍耐強いのだろう。
 ○○は毎回神社に向かう度に、その忍耐強さを痛感していた。

「着いた……。さて……」

 見上げる先には、百段以上あるかと思われる石段がそびえる。

「これ、きっついんだよなぁ」

 愚痴りながらも、守矢神社の石段を登って境内を目指す。体力には自信はあるが、ここを毎日上下する忍耐力は無いかもしれない。
 上りきった頃に見える、大きな赤い鳥居。そこに、見知った人影が立っていた。

「おや。誰かと思えば少年か」
「あ、神奈子様。こんばんは」
「はい、こんばんは」

 何度か神社を訪ねた事があるので、八坂神奈子は○○の為人を良く知っていた。
 それは○○とて同じく。だからこそ、相手が神様だと聞かされてからも、早苗の家族への接し方を続けていた。
 その日も、自然に、気軽に声をかけるつもりだった。 

「あの、早苗さ──」
「早苗は会わないよ」
「──え」

 神奈子の表情が引き締まり、○○を威圧するように目が細くなる。

「早苗は会わない、と言った」
「そ、そんな。早苗さん、どこか具合でも悪いんですか? 今朝だって辛そうにしていたし」

 うろたえる○○を前に、神奈子は変わらない口調で告げる。

「もう、金輪際早苗に関るな。これは、早苗自身が言っていたことだ」
「ど、どうして? 僕が何かご迷惑を?」

 思い当たる節は無い、はずだ。最近の出来事を思い返して、再確認してみる。

「理由は」

 神奈子の言葉が、とてつもない重みを持って押し寄せる。

「早苗が、お前の事を迷惑に思っているからだ」
「……嘘だっ!」

 叫ぶ○○を見下ろし、神奈子が嗤いを浮かべる。

「なんだ。まさか早苗から特別な感情を寄せられているとでも思っていたのか? たかだか人間風情が」
「っ!?」

 言い返そうと足を踏み出す○○。だが、神奈子の静かな声が響く。

「現人神の子孫たる東風谷早苗。その身は神の下にあり神と共に歩む者」

 少しだけ哀しい笑みを浮かべ、告げる。

「諦めろ。お前とは生きる世界が違うのだ、少年」

 もう言葉も出なかった。
 ○○は石段を降りて行く。悔しさと哀しさで全身が一杯だった。今はただ、それしか思い浮かばない。



「……ふー」

 ○○が石畳を降り切るのを見送って、神奈子は大きくため息をついた。

「行ったよ、○○は」
「はい」

 鳥居の裏手に投げかける言葉。返す声は少し震えている。

「早苗……」
「……すみません、神奈子様。貴女のお手を借りてしまって」

 鳥居の裏手から姿を現した早苗を、神奈子が抱きしめる。

「何言ってるんだい。お前さんに無理を強いたのは私の方じゃないか」

 早苗の頭を優しく撫でながら、話しかける。

「済まないね。でも、こうするしかないんだよ」
「……は、い…………っく、わ、わかって……!」

 言葉を保てたのは、そこまでだった。
 境内に、早苗の嗚咽が響き渡る。
 神奈子は静かに、早苗の髪を撫でてやっていた……。





 あれから、一週間。早苗は学校に来る事もなく、ずっと無断欠席を続けていた。

「……」

 今日も、彼女の席には誰も座らない。

「なあ、○○。早苗ちゃん、どうしたんだ?」
「……」

 級友が話しかけてくるが、それに返す気力も無い。

「お前早苗ちゃんと付き合ってるんだろ。何かマズいことしちまって怒らせたとか?」
「……知らない」
「え? でも何か聞いてないのか?」
「……ごめん、気分悪いから保健室行って来る」
「そう、か……」

 級友も訳有りな事だけは理解したのか、追いかけずその場で見送った。



「……」

 昼前の授業時間。○○は廊下を歩いていた。保健室を目指すでもなく、廊下を歩く。
 その先に、見知った顔が。
 職員室から、校長先生と共に出てきた少女。それは見紛うはずも無く、

「早苗!」

 気付いた時には、叫んで走り出していた。

「○○、さん…」
「今は授業中の筈だが。どうしてここに居るのかね?」

 校長など目に入っていないのか、早苗に走り寄って手を取る。

「一週間も、どこ行ってたんだよ。心配してたんだ」
「え…しん、ぱい?」

 戸惑う早苗との間に、校長の声が割って入る。

「早苗さんは、ご自宅の都合で急遽引越しされる事になったのだ」
「…………え?」

 校長先生は、いま、何と言ったのか。

「ひ……っこし?」
「……うん」

 凍て付いた脳が、少しずつ溶けて来る。

「どこへ?」
「……場所は、言えないの。ごめんなさい」
「…………そう、なんだ」

 そこまで来て、○○は漸く思い出した。

(そ、っか。僕、嫌われて……たんだった、っけ)

 そして、今更に握っていた手を思い出す。

「あ、ご……ごめん」

 慌てて放すが、早苗は視線を合わせずに頷いただけだった。

「……さて。東風谷さん」
「あ、はい」
「転校届けは受け取りました。後は、こちらに任せてください」
「はい。宜しくお願いします」

 校長に向けて礼をする早苗。校長はそれを見遣ってから○○に顔を向ける。

「君は、東風谷さんのクラスメートだね?」
「はい」
「担任の先生には黙っていてあげるから、東風谷さんを家まで送ってあげなさい」
「は、え、は??」

 反射で頷きかけて、○○は素っ頓狂な声をあげる。

「東風谷さんも急な引越しで、友人との挨拶もろくに出来ていないでしょう」
「ええ。まあ……」

 突然の言葉に、早苗も戸惑ったように曖昧に返す。

「では、新しい学校でも良い友達が出来る事を祈っていますよ」

 有無を言わせぬ物言いで、校長は二人の背を押して校門へと向ける。

「あ、ちょ、校長先生??」
「○○君。君は私の部屋で説教中という事にしておきます。後で口裏合わせてくださいね」
「え、あ、はい」





 そのまま、二人で神社への道を歩く。
 二人とも黙り込み、どう切り出すべきか思いあぐねている様だ。

「……でも、驚いたな。一週間姿が見えないと思ったら、引越しの準備をしてたんだね」
「うん……急、だったからね」

 また、黙り込む。今度は、早苗から口を開いた。

「○○さん。私の事怒ってる?」
「どうして?」
「だって……。私、貴方に酷い事言ったし」

 暫く考えていた○○だったが、やがてこう返した。

「正直、つらかった。身が引き裂かれるほどに、痛かった。
 僕の事を、早苗さんが何とも思ってないって考えたら、とてつもなく哀しかった」
「そう……」
「でも、さ。こう思う事にしたんだ。
 何も、面と向かって言われた訳じゃない。それまでは、早苗さんの事を信じていよう、って」
「そ、か……」

 小さく、良かった、と聞こえた気がして早苗を見る。

「あの、ね」
「うん」
「幻想郷、って判る?」
「げん、そう……きょう??」

 聞いた事が無い名前だった。強いて言うならば、ゲームに出て来そうな。

「うん、幻想郷。私たちは、そこに移り住む事になったの」
「そう、なんだ……」

 名前の響きからして日本っぽいが、どこかの山奥だろうかと勝手に想像する。

「妖怪、妖精、悪魔、魔法使い……。
 幻想郷は、そんな『忘れられた存在』が集まる場所なんだって、神奈子様が言ってた」
「忘れられた……」

 呟く○○、頷く早苗。

「神奈子様も、諏訪子様も。今の世界ではもう忘れられかけた存在。神様は、信仰がなければ存在し得ない。
 だから、この世界に見切りをつけて、幻想郷に移ることを決めたの」
「ちょ、ちょっと待って」

 慌てて、○○が口を挟む。

「それって、ここに居たままじゃ神奈子様たちが消えてしまう、って事?」
「うん。実際、既に結構つらいらしいの。だから、ここ一週間で術式を完成させて、移動する準備を済ませてたの」
「そう、なんだ……」

 正直、突拍子も無さ過ぎて良く判らない。
 だけど、早苗の家族に危険が迫っていて、そのために引っ越さなければいけないという認識だけは持てた。

「それじゃ、早苗さんも着いて行かなきゃ……ね」
「うん……」

 寂しそうに頷く。
 暫くそのままだっが、再度早苗から話しかけられる。

「○○さん」
「どうしたの?」

 立ち止まる○○に近付く早苗。
 不意に、早苗が○○に抱きついた。

「さっ、早苗さ──」
「私、行きたくない! ○○さんの居るここに残りたい! だけど……神奈子様も諏訪子様も大切な家族だもん!
 ねえ、私、どうしたら良いの! どうしたら良かったの!?」

 それは、もう抑えきったはずの感情だった。現世への未練など、あの時神奈子に全て断ち切ってもらったはずだった。

「なのに、貴方は今までと変わらない! 私の前に、笑顔で立ってくれてる!」
「早苗さん……」

 ○○は躊躇いがちに腕を回し、早苗を抱きしめる。

「早苗さん。 僕は、君が大好きだ。 この気持ちは、ずっと変わらないよ。
 だから、僕の出来る最大限の事をしてみる」
「……え?」

 顔を上げた早苗に、微笑んでみせる。

「さあ、神社にいこう!」





「……はぁ?」

 鳩が豆鉄砲を食らったような表情で、神奈子が声をあげる。

「ですから、僕も一緒に幻想郷に行きます!」
「簡単に言ってくれるけどねぇ。そうそう単純な事じゃないんだよ?」
「判ってる、つもりです」

 頭を掻く神奈子を真っ直ぐ見つめ、○○は再度言った。

「僕を、幻想郷へ連れて行ってください」


 ○○が神奈子に直談判している時。早苗は、少し離れて心配そうに見ていた。

「あの少年。まさかそんな事言い出すとはねぇ」
「あ、諏訪子様!」

 神社の奥から現れた洩矢諏訪子が、早苗の横に並ぶ。

「それだけ、早苗の事を愛してるって事なのかね」
「……え、あ、その!」

 まっすぐ過ぎるその言葉に、早苗は耳まで真っ赤になってうろたえる。

「まあ、様子を見ようじゃない」

 諏訪子の声には、何処か冷たさが混じっていた。

「その心意気が、本当に本物なのかどうか」
「○○さん……」


「よーし判った。そこまで言うなら試してやろうじゃないか。諏訪子!」
「はいはい。結界ね?」

 神奈子の意を全て理解しているのか、諏訪子が二人を包む結界を張る。

「か、神奈子様何を……」

 慌てて駆け寄る早苗を無視し、○○を睨む神奈子。

「少年よ。人の身に在りながら神に具申する者よ。その覚悟を、我が前に見せてもらおうか」
「……宜しくお願いします!」

 ○○は、震える足で言い切った。正直、何を試されるのか判らない。怖い。逃げ出したい。

(だけど、僕は早苗さんの為にここに居るんだから!)

 心の中で自らを叱咤し、覚悟を決める。

「では、今から放つ弾幕を全て凌いで見せよ」
「ちょ、神奈子さまっ!」
「早苗」

 慌てて結界に駆け寄ろうとした早苗を、諏訪子が止める。

「最後まで見てやりな。それが、あの子を巻き込んだ貴女の役目でしょう?」
「は、はい……!」

 結界に近寄る足を地面に踏みしめ、○○を見る。
 目が合った。その覚悟の片鱗が見える。
 頷く早苗に、頷きが返される。
 ○○は視線を神奈子に向け、身構える。

「行くぞ」
「はい!」



「……結構容赦ないね神奈子」
「○○さん、頑張って!」

 何度か掠りながら、幾重にも重なる弾幕を抜ける。
 ボムなんかもちろん無い。霊撃ってなに美味しいの? そこにあるのは、ただ根性だけだった。

「危ない!」

 真横から迫った弾に、早苗の声で気付いて回避する。掠ったのか、状態がぐらついた所に第二波が。

「うぁっ!」

 数発連続して直撃を浴び、地面に倒れる。

「○○!!」
「……くっ!」

 早苗の叫びに、○○は立ち上がる。

「まだやるかい?」
「もちろんです!」

 荒い息を無理に抑え付け、構える。

「なら、その威勢の良さをもっと見せてもらおうか!」

 神奈子の周囲に光が収束する。

「おいおい、神奈子!」

 慌てたように諏訪子が呼ぶが、聞こえていない。

「贄符『御射山御狩神事』」

 先程とは圧倒的に違うその弾幕量に、○○は身を硬くした。





「っ!」
「○○さん!」

 次に目が覚めると、上から覗き込むように早苗の顔があった。

「あれ、僕は……あ」

 記憶を辿り、額に手を当てる。
 自然と、涙が浮かんできた。

「ごめん、早苗さん。僕、僕は……」

 言葉の途中で、唇に指が宛がわれる。

「神奈子様からの伝言です。
 神社の些事は全て任せるからね、だそうです」
「え、そ、それじゃあ!」

 ○○の顔が明るくなる。早苗は頷き、左方を指差した。

「ここが幻想郷、だそうですよ」

 指差す方向に首を向ければ、そこには見たことも無いような広大な自然が広がっていた。

「ここが……」

 想像以上の絶景に、唖然とする○○。

「これから、ここで暮らしていくんだね」

 見上げて確認すると、早苗が嬉しそうに頷く。

「はい。神奈子様と、諏訪子様と。
 そして、○○さんも一緒に」
「ああ。頑張ろう、早苗さん!」

 寝転んだまま手を伸ばす○○。その手を握り、最高の笑みをくれる。



 こうして、幻想郷に一つの家族が引っ越してきた。
 神様二柱、現人神一名、人間一名の、何とも珍妙な一家が。

 彼らにこれからどんなトラブルが待っているかは、それこそ幻想の彼方へ……。







「ところで、○○さん。いい加減起きてくれませんか?」
「いやぁ、早苗さんの膝枕が気持ちよくって……」
「もう。○○さんったら!」


13スレ目>>175 うpろだ957

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 何故か俺は今、逃げる神奈子様を追っている。
 事の発端は早苗さんの、そういえばもうそろそろ雛祭りですね発言だ。
 何故これで逃げるのかは分からないが、とりあえず逃げる者は追わねばならない。
 ……飯時には帰ってくるからほっといてもいいのか。疲れたし。


「何で誰も追ってきてくれないのよ!」
 襖を勢い良く開け、開口一番神奈子が言う。
 しかしそこには猫が一匹いるだけである。
 みんな何処行ったの、という声を俺は社殿の裏手で聞いた。

 果たしていつからそうしていたのだろうか、居間に戻った時、神奈子様は拗ねて座布団を枕に丸まっていた。
 先に戻っていた諏訪子様が慰めていたようだが、あまり効果がない。
 とりあえず毛布をかけて絵本の読み聞かせをして慰めることにした。

「なんで諏訪子が膝に座ってるの!」
 7分後無事復活。


「それで何で逃げたりしたんです?」
「あー、雛人形のことでねえ」
 早苗さんが戻ってから、早速さっきの行動についての追求が始まる。
「雛人形……がどうしたんです?」
「こっちに移動する時に納戸が一個壊れたけど、その中に入ってたのよ雛人形」
「全損ですか」
「うん。そこに雛まちゅりの」
「まちゅり」
「まちゅり」
 おおっと! たたみがえし
 ゆかのなかにいる

「そこに雛祭りの用具一式が入ってたから、全部駄目」
「今から発注……は無理ですね。明日ですし」
「里で小さいのだけでも買ってくればいいじゃない。紙製とかのならあるでしょ」
「ありますねえそういうの。この間買出しに行った時、幾らか見かけましたよ」
「それじゃ今から買いに行こうか」


……
「買い込みましたね……」
 袋の中には二つ三つの紙製雛人形が入っている。
 それをめいめい一袋ずつ持ち、さらに陶器の人形も一組みある。
「こういうかわいい小物、女の子はいつまでも好きな物なのよ」
「ったく、年かんがえろや」
「ひどいわぁぁぁぁぁぁっ」
 神奈子様の言に諏訪子様が茶々を入れる。
 確かに酷いがオーバー2000歳だろうしなあ、と考えたところで寒気に襲われたので考えるのをやめた。

「じゃ、飾りましょう」
「そうですね。これは玄関先にしましょう」
「この素焼きのは床の間だね」
……少女陳列中

 10個ほどの人形が玄関先やら自室に飾りつけられる。
 でも俺の部屋にはいらないと思うんだ。一応男だし。


「あれ、早苗もうしまっちゃうの?」
 特に何事もなく、強いて言えば雛あられを貪っていたら菱餅を詰められるぐらいか、
 3月3日が過ぎ去り、時計が12時を回ると早速早苗さんが人形を片しにかかった。
「ええ、行き遅れると嫌ですから」
 そう言いながら早苗さんがこっちを見る。
「そっかそっか」
 それを聞いて全員雛人形を片付け始める。
 だがとりあえずこっちみんな。

「さてと」
 片付け終わった早苗さんが一息つきながらこっちをみる。
 だからこっちみるな。
「早苗さん、こっち見ても特に何もでないよ」
「あらそうなんですか、私はいつでもよろしいのに」
 何がいいんだろうか。さっぱり分かりませんなあ。
 後ろで神奈子様が早く言ってしまえと急き立てて来るが耳をふさいでおく。
 直に業を煮やしたか組み付いても来る。

「早苗があそこまで言ってるんだから早く言ってしまいなさい」
「いや、そういう風に決めるのもアレでしょうに」
「でもいつまでも待ってたらずっと機会逃がすよ」
「それはそうなんですけどねえ」
 それを聞いて神奈子様と諏訪子様がにやついている。
 なんだろう、微妙に嫌な予感がする。

「否定しないってことは、いつかは言うつもりだったんだね」

 ああっと!

 3月3日の明けた夜。
 背中を叩いて後押しをしてくる神奈子様と諏訪子様。
 正座して待つ早苗さん。
 それに俺は意を決して言を発した。

13スレ目>>313 うpろだ970

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「さあ、雛祭り当日だ。
 今日が終わると同時に早苗の雛飾りを片付ける!」
「そうだねー。可愛い早苗が嫁き遅れたら困るもんね」
「そう、早苗がちゃんとお嫁にい……いや、待って諏訪子。
 やっぱりしばらく片付けずに―」
「もう、神奈子ったら過保護なんだから」



「なんかもめてるみたいだけど」
「お二人とも毎年こうなんですよ。
 あ、白酒もう一杯いかがですか?」
「いただきます」
「片付けるのが遅くなってもいいんですけどね。
 私にはもう○○さんがいますから、
 早いも遅いもありませんよね?」
「……改めて言われると照れるね」
「………………な、何言ってるんでしょうね私!
 あの、私も白酒もらいますね!
 今までは甘酒で代用してたから初めてで」
「あっ、それは」
「……きゅ~」
「甘酒と違って度数が高いから早苗は少しだけにした方が、
 って言おうとしたんだが。遅かったか」
「……神社が回ってます~」
「ほら、ちょっと横になって休んだ方がいいよ。
 今水持ってくるから」
「あの」
「ん?どした?」
「水は結構ですから……膝を、貸してください」
「膝枕、か。……こんなんでよければ」
「ありがとうございます……あったかいですね」



「ほら、早く片付けようと片付けまいと
 もう大した違いはないんじゃないの?」
「そうね、○○になら早苗を任せても……
 ……いや、それでもやっぱり」
「頼むから、挨拶に来た○○を
 オンバシラで殴ったりしないでよ~?」

13スレ目>>317 うpろだ972

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突然だが早苗が風邪を引いた
まあ外とは違って幻想郷は寒いし外で使ってた暖房機器は殆ど役立たずになってるからそれはしょうがないと思う
が、やっぱり直接的な原因は腋を開けっ放しにしてることだと思う
同じ腋巫女でも霊夢は袖の中に護符を入れたり自分の周りに結界を貼ってる辺りさすがだ

ゴホッ!ゴホッ!


「早苗ー大丈夫か?」

「……○○さん、あまり私に近寄ったら風邪、移っちゃいますよ」

「俺は丈夫だから大丈夫だよ
 ほら、熱測るぞ」

早苗の額に手を当てて熱を測ってみる
温度計があればらくだが生憎と電池が切れて使い物にならない
……結構高いな、明日までに熱が引かなかったら永遠亭に言って永琳を連れてくるか

「つらくないか?何か欲しいなら持って来てやるけど」

「私は、大丈夫ですから○○さんは部屋に戻っててください」

俺に風邪を移さないよう心配して言ってくれてるのはありがたいが
何度も何度も帰れといわれると正直腹が立ってくる

「ふぅ…いいか早苗、俺がお前を心配するのはお前のことが好きだからだ
 なのに俺に帰れなんていうなよ、俺はお前の彼氏だろ?それともお前は俺の好意が邪魔なのか?
 そうだとしたら俺は……悲しいよ」

「………………」

やばい、ちょっと言い過ぎたかもしれない、早苗に限って俺が邪魔だ何て思うわけ無いのに何いってんだろ
場の空気が重い、何とかしないと

「……ま、まあ俺に風邪が移って看病するのも大変だろうな
 居間にいるから何かあったらすぐ呼べよ、あと欲しいもの無いか?」

あぁーーーー!逃げるしかないなんて俺はヘタレか!

「だったら」

「ん?」

「だったら、寝るまで手を握っててください…… 
 風邪の所為か本当は一人で寝るのが怖くて」

「それぐらいお安い御用だ」
ギュゥ

俺の手と比べて小さい女の子の手だ
寂しかったんだろうな、外の世界からいきなり知り合いは諏訪子さんに神奈子さん以外居ない世界に来て不安だったんだろう
風邪を引いて体が不安定になってそれに引きずられるように心も不安定になったのか

「……早苗」

「すぅ、すぅ…ん…」

「寝たか」

俺は早苗に何をしてやれるんだろう
たぶん俺がやれることはあまり無い、でもそれならそれでやれることを精一杯やるだけだ





ガラッ
「あ、○○どうだった?早苗の様子は」

「結構高かったんで明日もう一回熱を測って高かったら永遠亭に行って永琳を連れてきます」

「そうかい、いつもすまないね」

「早苗の恋人ですから、それぐらいはお安い御用ですよ
 それで神奈子さんに少しお願いがあるんですけどいいですか?」

「なんだい?何でも言ってみな」

「えっとですね、神事のこととか色々教えてくれませんか?」

「いいけどなんでまたそんなこと」

当然のように理由を聞いてくる神奈子さん
あー、理由を言うのが恥ずかしいな

「えっとですね、俺も早苗と結婚したら洩矢神社の事を手伝わないといけませんから
 今のうちに慣れておこうと思って」

「へー、○○早苗と結婚するつもりなんだ」

茶化すように聞いてくる諏訪子さん

「当たり前です、俺は早苗の恋人ですから」

「でも早苗と結婚するてことは婿入りするってことだよ、そこんとこは分かってるのかい?」

「はい、重々承知です」

「そこまで言うならいいでしょう
 式はまだ早いけど早苗の風邪が治ったら婚約の儀でもあげようか」

……あれ?俺確か神事を教えてくれって頼んでるのにどうして婚約の話になってるんだ?

「それじゃあ私天狗や河童たちにこの事教えてくるね!」

やめて下さい、諏訪子さん
恥ずかしいですから

「ああ、待ちなさい、諏訪子」

おお!さすがは神奈子さん、止めてくれるのか

「折角だから新聞に書いてもらって幻想郷中に知ってもらいましょう」

「成る程、流石は神奈子」

煽らないで下さい!!
嗚呼……なんか事態が段々と大きくなってきてるような

「いやー、早苗の風邪が治るのが待ち遠しいね」

……すまん、早苗、どうやら風邪が治った早々また疲れることが起きるかも知れん

「ほら、それじゃあ○○は私とちょっと来な
 色々と教えるから」

「はい!」

でも、俺がしっかりとお前を支えるからな

13スレ目>>376 うpろだ981

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ホワイトデーの次の日
○○「あぁ~早苗怒ってるかな。昨日仕事で会えなかったからな~」
早苗「何をしてるんですか○○さん」
突然背後から声がしたと思ったらその姿はまさに鬼の形相
○○「っ!さ、早苗何時から居たんだ?」
早苗「あぁ~」のところからですよ、○○さん」
その笑顔でわかるぜ。完璧にキレてるな、どうすれば…
○○「早苗!!」
早苗「ナンですか○○さん?」
○○「昨日は本当にすまなかった!!突然の仕事でどうしても抜けられなくて……」
早苗「……」
○○「だから今日はバレンタインデーのお返しに早苗のしたいことをしようと思う!!」
早苗「…」
○○「だから今日は早苗が俺を独り占めできるってことdふぁ」
喋っている間に早苗が抱きついてきた
早苗「…昨日は会えなくて寂しかったんですよ…」
○○「早苗…」
早苗「だから…あなたからのお返しは今日は一日中一緒に居てください…」
○○「わかった…今日は早苗と一緒に居るって約束する」
早苗「○○さん…」
○○「早苗…」

障子の裏から…
諏訪子「よく神社の前でイチャつけるよね」
神奈子「そうだね~最近の若い子達の恋愛を見守るのもいいかも知れないわね」
諏訪子「神奈子…おばs「諏訪子オンバシラ頭に食らいたい?」ナンデモナイデス」
神奈子「まったく…これで子孫も残せるようになるわね」
諏訪子「ちょっと気が早いんじゃない?神奈子」
神奈子「いいのよ、これくらい気が早くても」

早苗「二人ともナニヲシテイルンデスカ?」
諏訪子&神奈子「「!!」」

開海「海が割れる日」
諏訪子「ちょっ!早苗!!」
神奈子「いきなりスペルカードは…」

大奇跡「八坂の神風」
ピチューン×2
早苗「油断もスキもないんですから…」
○○「お~い終わったか?」
早苗「はい!!」
○○(やっぱり早苗の笑顔が一番だな…)

一方
ズタボロとかした諏訪子「早苗、少しやりすぎ…」
ズタボロとかした神奈子「少しは手加減してよね…」

うpろだ1002

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どうも様子がおかしい。

「すみません、今日は・・・」

ここのところずっと、避けられているような感じだった。

今までこんなことはなかったのに。


「というわけなんだよ・・・」

「なるほど」

「どうすればいいと思う?阿波野。お前も彼女持ちだし」

「いや、聞かれてもなあ・・・東風谷に何かしたのか?」

「いや、してないはず・・・だけど・・・」

「それじゃあ、お前が気づかないうちに何かしでかしてるのかもな」

「そうなのかな・・・」

「お前なあ、東風谷だぞ。学年で五指に入る、だ。そいつを彼女にしているんだから・・・」

「ちょと、何話してるの?」

「あ、山下・・・」

阿波野の彼女の山下が、話を聞きつけてやってきた。

「いやな、○○が東風谷のことでな・・・」

「早苗ちゃんの?なんかあったの」

「いや、最近どうにもつれないんだよ・・・」

「というと、なんかしたわけ?」

微妙に睨んでくる山下。

「してないって・・・」

「そう?でも早苗ちゃん、理由もなしにそんな風になる子じゃあないと思うけどね・・・」

「まぁ、確かにそうだけd」

「はっはー、ついに貴様も年貢の納め時のようだな!」

「金村・・・」

「お前ごときが東風谷さんと付き合っていること自体が間違いだったのさ!」

「・・・相変わらずだなあ、金村は」

「何を言う阿波野!お前や吉井や高柳のような彼女持ちにはわからないんだ、この気持ちが!」

一人で騒いでいる金村。

「金村は置いておいて・・・確かに早苗ちゃん狙ってる奴って多いわね。ほかにも真喜志とか羽田とか」

「そうなんだよなあ・・・」

「東風谷をとられないように、気をつけとけよ」

収穫はゼロどころか、相談してますます不安になってしまった。


「○○君・・・」

この街を出て、幻想郷に行くことを決めたのは、彼の言葉でもあった。

『私は、この神社を昔みたいに、大勢の参拝客が来るような神社にしたいんです』

『なるほど・・・』

『無理、と思うでしょうか?』

『いや、早苗さんならできそう、そんな気がするんだ。俺も手伝うよ』

彼は度々、境内の掃除に来てくれたり、賽銭を入れたりと足しげく通ってきてくれた。

だが、人の信仰心はなくなる一方であった。

しかし、幻想郷なら守矢神社再興の夢が叶いそうだ。

とはいえ、自分はともかく彼まで幻想郷に連れて行くわけには行かない。

そうしたところで、彼に大きな負担をかけてしまう。自分のためだけに、すべてを捨てさせるわけにはいかなかった。

つまり、離れ離れにならなければならないということ。

それでも、早苗は夢を捨て切れなかった。


その日も、彼は神社に来ていた。

「あ、早苗さん・・・」

そして、早苗もそこにいた。

「あ・・・」

「どうも最近俺、避けられてる気がするんだけど」

「そ、そうですか?」

「何かまずいことした?」

「そんなことは・・・」

「悪いとこがあったら直すよ、だから機嫌を直して欲しい」

「ないです、悪いところなんて」

そう。彼といるだけで気持ちが穏やかになれたし、彼ほど熱心に参拝に来る人はいなかった。悪いところなど何一つない、でも。

「すみません、私はこれで・・・」

「早苗さん・・・!」

罪悪感で、彼の前にいられなかった。

「・・・ありがとう、さようなら」



「本当にいいんだね?」

もう一度、最後の確認の意味で問う神奈子。

「はい」

「あの○○には、伝えなくていいの?」

「ええ・・・また顔を合わせたら、きっと決心が鈍ってしまいます」

「もう、引き返せないんだよ」

「わかっています。キャンセルなんてできないんですよね」

「ああ、それでも・・・」

「さみしくなんて、ないですよ。神社の再興は私の夢です。そのうちきっと笑えるようになりますから。今行かないと、きっと後悔します」

「そうか・・・」


早苗さんがいなくなった。

それも、神社ごと。それなのに、

「東風谷?そんなやついたか?」

「いや、いただろ、こないだだって話したじゃないか・・・」

「お前、彼女が欲しいからってそんな妄想まで・・・金村じゃないんだから」

「呼んだか?」

「呼んでないって・・・」

「あいつと一緒にするなって・・・」

「まあ、お前も早く彼女見つけるんだな。お前なら吹石あたりもいけるかもしれないぞ」

「吹石さん?いやいやもっとかわいくて包容力があって・・・」

「まーた金村が馬鹿なこと言ってるよ。吹石以上となったらほとんどいないぜ。それこそ空想の産物かなにかだ」

「・・・・・・」

誰も覚えていなかった。

まるで、早苗さんと神社のことだけすっぽり抜け落ちたように。

早苗さんが幻だったかのように。

でも、そんなはずはない。

それは彼自身がよく覚えていた。

「あ・・・」

窓から、そっと風が入り込んできた。

なにか、懐かしい香りがしたような気がした。


負けた。

宣戦しておいて、あっさりと。

「やっぱり、そううまくはいかないよね・・・」

山の妖怪たちから信仰を集めて、二柱、そして自分も十分強くなった。そう思った。

しかし、実戦経験という致命的な差が、早苗と霊夢の間にあった。

配分を考えず力を使ったため、スタミナ切れを起こして終盤はグダグダだった。

「あ・・・」

風だ。

雨上がりの風の香り。

そっと手をかざしてみる。

幻想郷と外は結界で区切られている。しかし、風はそんなことも関係なく、自由に行き来している。

だから、この風は、きっとどこかで彼とつながっている。

そう思うだけで、力がわいてくる気がした。

他の人は忘れても、彼はきっと自分のことを覚えているのだろう。

今も自分の事を探して、呼んでいるのかもしれない。

でも、いまさら帰れないし、帰りたくはない。

外の常識がこちらでは通用しないことも多く、度々笑われるようなこともあった。

しかし、それにも慣れつつあった。

「常識に縛られちゃ、いけないんだよね・・・」

今はまだ助走の時間。

実践に慣れて、強者と互角に渡り合えるようになる、飛翔の時の為の。

幻想郷へ旅立った日に言った、『笑える日』が早く来るように、まだまだがんばらなければ。

「あ、虹・・・」

雨上がりの空に映る七色。

励ますように映える虹を見て、早苗は、

「・・・よし!」

練習だ。

いつか、この弾幕に模したように、輝く星になるために。



ttp://music.goo.ne.jp/lyric/LYRUTND8367/index.html

うpろだ1349

───────────────────────────────────────────────────────────

今日も彼は神社に来ていた。

昼間だというのに、彼の心情を映したかのようにあいにくの曇天。


早苗の様子がここのところおかしかった。

誘ってもつれない返事ばかり。

そのため、彼はほぼ毎日、神社まで来るようになっていたのだが・・・

話しかけてみても反応は薄かった。

早苗の悲しげな顔を、どうにか明るく出来ないだろうか。

彼はそれだけを考えていた。



大型の旅客機がゆっくりと、彼らの真上を旋回してきた。

松本空港からの路線だろうか。

太陽に覆い被さったその分厚い雲を、旅客機は難なく突き破って消えていった。

(あいつはいいなぁ・・・)

自分の悩みも、あの旅客機にしてみれば簡単に突き抜けられるようなものだろう。

羨ましかった。そして、自分の無力さが妬ましかった。

流れ星に見立てて、彼は願った。

以前のように早苗と付き合えるように。


早苗は別の願いをかけていた。

あちらでうまくやっていけるのか。

自分は飛べるのか。

そもそも、彼を悲しませずにあちらに旅立つことが出来るのか。

彼と一緒に、行けないのか。

思い思いの願いを乗せたその翼は、旅客機を空高く運んでいった。


それから数日。

あの日以来、洗濯物も干せないような曇りばかり。

早苗は境内にほとんど姿を見せなくなった。

居住部分に入る扉は閉められていた。

「どうしてなんだろう・・・」

それでも彼は神社通いを、参拝を欠かす日は無かった。

行き止まりの壁の前で、彼は自らに何度も言い聞かせてみた。

この厚い雲の合間に、一筋の光が差し込んでくるように。

いつかは扉が開かれ、早苗が笑顔で出て来る映像を、頭の中に浮かべて。


「今日も、来てる・・・」

もう来なくていい。そう言いたかった。

自分もつらいし、彼もそれ以上につらいのだろう。

でも、彼にそんなことは言えなかった。

自分が好きになった、いや、今でも好きな人に拒絶の言葉など言えるはずが無かった。

だから、境内には出ない。

出れば、彼を見てしまう。悲しくなってしまう。

幻想郷に行かないという選択肢は無い。

延期という選択肢すら、なかった。

捨てるのに胸が痛んで取っておいたケーキを、結局腐らせて捨てるように。

今でなければ―まだ僅かに信仰の残る今、行かなければ―行っても信仰を集めるだけの余力は無く、朽ちるのを待つばかりとなってしまう。

期限付きの賭け。今はその期限が恨めしかった。


「・・・早苗」

居た堪れなくなった神奈子は、早苗に話を切り出してみた。

「なんでしょうか・・・?」

「早苗は、○○と一緒に行きたいんだろう?」

「え!? ええ・・・でも・・・」

それは、彼にこちら側での家族、友人、すべてを捨てさせることを意味する。

そこまでの覚悟が彼にあるのかは分からない。

「でもね、ここ最近奴は毎日来ている。で、日が暮れるまでずっといる」

「・・・・・・」

「いずれは早苗にも婿を取る日が来る。○○への想いを引きずらないで、その婿と後継者を作れる?」

「それは・・・」

彼以外の人と。

考えたことも無かった。

しかし、至極当然のことだ。早苗が子供を作らなければ、次代の風祝がいなくなってしまう。

血脈が絶えてしまっては、わざわざ幻想郷まで行く意味が無いのだ。

「正直、自信ありません・・・」

「だから、奴を試してみようかと思ってね。ちょっと行ってくるよ」

「・・・はい」


今日も日が暮れた。

結局早苗は姿を見せなかった。

「もう五分・・・」

そうつぶやく彼の目の前に、一人の女性が現れた。

「君が○○君だね?」

「ええ・・・あの、あなたはどなたですか?」

「この神社の神だ、といったら信じる?」

「え・・・」

確かに、その女性は何か人間離れした雰囲気があった。

それも、早苗と似通った・・・

それに、早苗が説いていたあの話。すると・・・

「『八坂様』、ですか?」

「ああ。覚えていたんだね、早苗の話」

「それはもちろんです。それで、わざわざ俺の前に出ていらっしゃったという事は、何か・・・」

「ああ。大事な話がある。早苗と君にかかわる、ね」

「え・・・?それじゃあ、早苗さんが最近おかしかったのも・・・」

「そう。まあ、落ち着いて聞いて」


彼は聞いた。

神社が信仰の危機に瀕していること。

それを解決するために旅立つこと。

彼と離れ離れになるのを早苗が悲しんでいること。

「それで、だ。ここからが本題なんだけれどね」

「はい」

「君、幻想郷に一緒に行く気はある?」

「え・・・」

「早苗はいずれ婿を取らなきゃならない。継ぐ子を作るために。でも、君のことが忘れられない早苗が、そんなことをできるか・・・。
 君本人を連れて行く、というのが最良の選択なんだよ」

「ええと・・・」

「ま、すぐには決められないだろうから答えを聞くのは明日にしよう」

そういうと『八坂様』はすっと消えた。


すべてを捨てても、彼女とともに行くか。

フロンティア行きの片道切符を、使うも使わないも自分次第。

切符の有効期限は明日。


彼は決心した。


「・・・・・・」

早苗は待っていた。

彼は来てくれるのだろうか。

いや、それは無いはず。

いくらなんでも、自分と自分以外の世界すべてを天秤にかけて、こちらに傾いてくるなんてありえない。

でも。

もし来てくれたら・・・


「早苗さん!」

「○○・・・君・・・」

思考は他でもなく、彼の声で打ち切られた。つまり、

「本気なんですか!?」

想いとは裏腹に、そう口にしていた。

「みんなに忘れられるんですよ?もう戻れなくなるんですよ!?」

「・・・・・・」

「あなたまで、みんなに忘れられる必要は・・・」

「・・・それでも」

「え・・・?」

「俺は早苗さんと一緒にいたい。俺がいたところで何が出来るかはわからないけど、
 早苗さんが落ち込んだとき、前が見えなくなったときに足元を照らす明かりくらいにはなりたいんだ」

「○○・・・君・・・」

「これが俺の本心だ。誰に指図されたわけでもない、何かに縛られているわけでもない、混じりっ気なしの」

早苗はもう言葉が出なかった。

ここまで私は愛されていたのか。

「俺はどこまでもついて行くよ。それこそ世界の果てへだって」

「・・・うん、ありがとう・・・」

「ほら、泣いてないでさ。せっかくの門出は笑って迎えようよ」

そう言われ、抱きしめられると、早苗の中の不安がすっと光に溶けていく気がした。

「決まり、みたいだね」

奥から出てきた神奈子は、彼に確認の意味を込めて、そう言った。

「はい」

彼は静かに頷いた。

「それじゃ行くよ、新天地!」

――――――――――――――――――――――――――――――――――

「なあ鈴木」

「なんだ?村上」

「うちのクラスって、二つも空き席あったっけ?」

「多分、前からあったんだと思うけど・・・確かに、二つは多いよな。でも、机の数はどのクラスも一緒のはずだけど」

「というか、うちだけ他のクラスより人数が少ないんだよな」

「なんでなんだろうな?」

――――――――――――――――――――――――――――――――――


「婿、ねえ・・・」

あの満月の、霊夢・魔理沙来襲の日から数日後。

「おかしいですか?」

「いや、おかしくは無いと思うが・・・」

当然といった顔で神社のおやつ時に訪れた二人。

「勝ったっていうのに、なんとも言えない敗北感がするのよねぇ・・・」

「確かに・・・」

彼の顔を見つつ、そういう霊夢と魔理沙。

「早苗くらいの年なら普通じゃないの?特にこちらでは」

と横槍を入れるのは諏訪子。

「確かに。そっちは相手、いないの?」

さらに突っ込む神奈子、

「む・・・」

「いない・・・わよ」

「相手、見繕ってあげようかしら」

「ちょ、紫!?どこから入ってきてるのよ!」

「不法侵入にもほどがあるぞ」

自分のことを棚に上げる二人。

「霊夢も後継者、いるでしょ。というか、いないと私も困るし」

「うるさいわね、私にだっていずれ縁ある人が来るわよ」

「来るのか?あっちの神社、ここと同じくらい人が来ないじゃないか?」

魔理沙はどでかい地雷を踏んだ。

「ひどいことをいいますね!まだ参道作ってる所なんですから、完成すれば博麗神社よりは来るはずですよ」

「なにその一緒にするな的発現!うちだって参道を整備すれば・・・」

「いや、博麗神社に人が来ないのは有力な妖怪が集会場にしてるからってのが問題なんじゃ・・・」

「大変ねえ」

その有力な妖怪の一人が、そ知らぬふりでそう言った。

「あんたね・・・」

「それにしても、わざわざついてくるなんて、あなたも相当の決断をしたわねぇ」

霊夢を無視して、紫は彼に水を向けた。

「ええ、まあ・・・」

「何にも縛られていないようで、そのくせ繋がっている・・・そんなことをあの吸血鬼が言っていたわね」

「それはもちろん。俺は早苗さんが行くところならどこまでも行きますよ」

「ちょ、○○さん!?」

「・・・甘いわね」

「・・・ああ、甘いな」

「あらあら」

「うぅ~・・・」

冷やかされる早苗と彼、二人。

これから、いろいろな外でし得なかった体験をするに違いない。

戸惑うこともあるだろう。

それでも、二人なら。

この、『世界の果て』の幻想郷でも、どこまでも一緒に行けるだろう。この確かな想いを連れて。



ttp://music.goo.ne.jp/lyric/LYRUTND26769/index.html


うpろだ1357

───────────────────────────────────────────────────────────

「お世話になりました」
 荷物をまとめ、守矢の神社の玄関でそう告げたとき、神奈子も諏訪子もなにやら怪訝そうな顔をしていた。
 視線の先を確認してみても、着慣れた服と少ない荷物をまとめたカバンがあるだけで、他に変なところはない。けれど再びあげた視線には、やはり怪訝そうな二人の顔が並んでいた。
「いや○○、あんたいいの? しばらくといわずここにいてもいいんだけど」
「そうそう、別に急に出て行くことなんてないんだよ?」
 腕を組み、考え込むように呟く神奈子と、同じく首をかしげている諏訪子。
 何故二人ともそんなことを言うのか。少し考えて、答えに思い当たった。
 心配してくれているのだ。『外の世界に帰ります』などと急に言い出した自分を。
「こっちに迷い込んでから三ヶ月近くもお世話になっちゃいましたけど。ありがとうございました。楽しかったです」
 ぺこりと一礼し、大きく息を吸う。それだけで、気持ちは穏やかになった。
 外の世界に疲れてあてもなく樹海に迷い込んだ自分。気がつくと辺りの景色は一変し、見たこともない凶暴な化け物が次々と襲い掛かってきた。恐怖でただ逃げ惑い、ついに追い詰められてしまったが、気がつくと化け物は消えていた。彼女達に救われたのだ。
 そうしてみたこともない神社に住み込むこと三ヶ月。いい経験ができたとは思っている。けれど、それももう終わりにしなければならなかった。
「一応護符も持ちましたんで、妖怪に襲われることはないと思います。……じゃ、行きますね」
 少しだけ名残惜しさを感じながら、再度二人に礼をする。
「うーん。しょうがないねぇ。せめて後一日いれば宴会開いてやれるんだけどねぇ。挨拶もまだなんじゃないか」
「何より早苗に――」
「失礼します」
 その先の言葉が発せられるより早く、カバンをひっつかんで玄関を出た。
 境内には落ち葉がつもり、時折吹き抜ける風がそれらを舞い上げている。そんな光景を見ていると、胸に僅かな痛みが走った。それは秋の風と相まった肌寒さとなって体を揺さぶってくる。けれど足は止めなかった。
 思い返せば先ほどの光景。おそらく残された二人は唖然としていることだろう。少し悪いことをしたか、そんな風に考えながら、鳥居をくぐる。
 途中、僅かにかき集められた落ち葉と、投げ捨てられた箒が目に入ったが、あえて見ぬふりをした。
「そう、思い残すことはなにもない。帰るんだ」
 誰にでもなくぽつりと呟いた言葉は、秋の空に吸い込まれて消えていく。それでも、自らの心を落ち着かせるのには十分だった。 
 誰に言うでもなく、「よし」と呟いて気合を入れる。そうして、山の反対側、幻想郷の中心とは違う方角に向かって歩いていった。


***

「別れよう」
 そう言った時、境内の掃除をしていた早苗は動きを止め、驚きの表情と共にこちらを見つめてきた。
 なんで、といいかけた口が途中で止まり、すぐに寂しそうな笑みに変わる。
「え、ええと……いやですねぇ○○さん。急に冗談でおかしなことをいいだすなんて……」
 冗談だと判断したのだろう。それも当然だ。急にこのようなことを言われて、真正面から受け止められる人間はそう多くない。
 けれど、それは残酷な事実だった。
「おかしなことじゃない」
「え……」
 緩みかけていた表情が、再び凍りついた。
「なん……で?」
「俺、お前のこと、好きじゃなかったんだよ」
 早苗の時間が完全に停止する。その顔から血の気が引いていくのが解ったが、引くことはできなかった。
「なんていうか、勢いでさ。ついお互いに告白しあってオーケーとかしちゃったけどさ……」
 すぅ、と息を吸い込み、一気にまくし立てる。
「間違いだったんだ。別れよう」
 その言葉は思いのほか簡単に、口から漏れていた。
 これで終わりだ。そんな事実だけがぽっかりと穴の開いた心に残り、虚しさを全身に募らせていく。
「え……あ……」
 早苗の口から、言葉にならない音が漏れた。
 次にくるのは罵倒の言葉か失望の言葉か。思わず身を硬くしたが、呆然とした早苗は、ただ口を開けたままこちらをみつめているだけだった。
 恐らく、現実を受け止められていないのだろう。
「……早苗」
 促した言葉に、早苗の体がびくりと震えた。
「いや……です」
 か細く、途切れそうな声で、拒絶の意思が返る。
「早苗……」
「嫌です!!」
 そこで、今まで溜まっていたものが全て爆発した。
 早苗の握っていた箒が、甲高い音を立てて石畳に叩きつけられる。
 普段の姿からは想像もできないほどの大声が境内に響き、思わず身を引きそうになったが、なんとか堪えた。
 ここで逃げるのはいけない。それこそ最悪である。責任は自分にあった。
「私覚えてます……貴方がきてから一ヶ月と半分の夜です! ずっと一緒にいる、って言ってくれたじゃないですか! 約束してくれたじゃないですか……」
 つっかえながらも、その思いを吐き出す早苗。だが、最後のほうは言葉になっていなかった。
 がっくりと肩を落とし、うつむいたまま小刻みに肩を揺らしている。
 できることならすぐにでも抱きしめてやりたかった。嘘だといってやりたかった。
 でも、それは許されなかった。
「……早苗、恋じゃなかったんだ」
 早苗の体がびくりと跳ねる。そのこぶしは硬く握り締められ、指がうっ血したような色に染まっている。
「俺の勘違いなんだよ……幻想郷に来て、慌ててて、ほら、吊り橋効果っていうだろ?」
 自分は慌てていたのだ。混乱していたのだ。そうジェスチャーで示し、早苗に伝える。
 それでも、早苗は目を瞑り、まるでいやいやをするかのように小刻みに頭を揺らしていた。
「なぁ……」
 辺りに沈黙が降りる。
 その問いかけから、どのくらいの時間が経っただろうか。
 急に、早苗が動いた。 
「わかり、ました……」
 虚ろな目が閉じられ、背が向けられる。
「早苗」
 思わず伸ばしそうになった手を引っ込め、搾り出すように呟く。
 その呼びかけに、今まさ歩き出そうとしていた小さな体が止まった。
「幸せに、な」
「――っ!!」
 直後、猛烈な風が境内を吹きぬけた。
 舞い上がった落ち葉が渦を巻き、完全に視界を埋め尽くす。
 その直前、駆け出す早苗の目に光るものが見えたのは気のせいだったのか。
 気がつけば舞い上がった葉は地面に落ち、石畳の上に投げ出された箒だけが悲しそうに転がっていた。


***

 昼でも太陽が届かない薄暗い小道を歩き、目的地を目指す。
 出発前、神奈子に聞いた話では、この先にある結界が薄くなっているとのことだった。
『歩いていれば自動的に向こう側にいけるでしょうよ』
 怪訝そうな表情をしたままそう呟いた神奈子の顔が脳裏に浮かび、僅かに名残惜しい気持ちになる。けれど、もう戻れなかった。
「今頃外はどうなってるかな……ひょっとしたら死亡届出されてたりして……」
 半分自殺するつもりで樹海に入った以上、捜索願が出されていても不思議ではない。もし生きてもどったらどうなるのだろうか。そんな他愛のない事を考えながら、足を進めた。
「でも、楽しかったよな」
 一歩、また一歩と足を進めると、浮かんでくるのは外の世界のことではなく、短い間だけ過ごした幻想郷のことだった。
 神奈子、諏訪子、そして早苗と過ごした忙しい日々が脳裏を走り、口元に僅かな笑みが浮かぶ。
「最初は慣れなかったんだっけな。周りは妖怪ばかりだし、あの二人も神様とか言っててどっか人間離れしてたし」
 一番最初に神社に招かれた時は、驚きと戸惑いの連続だった。
 フレンドリーに接してくる妖怪にどう接していいのかもわからなかったし、その中に神様がいると知ったときには度肝を抜かれたものだ。
 実際、取って食われるかもしれないと思っていたことは否定できない。
「でも、案外早く馴染めたよな……早苗の、おかげだ」
 だが、そんな差を埋め、間を取り持ってくれたのが早苗だった。
 おかげで多くの妖怪と話すことが出来、親しくなれたのだと思っている。彼女の協力が無ければ、たった三ヶ月で幻想郷中を見て回ることなど不可能に近かった。
「そういえば、あいつも外の人間だったんだっけな……」
 早苗もまた、外から来た人間だった。
 いつかの宴会で聞いた、幻想郷に来た理由。
『私、もっと沢山の経験をしたいなって、思ったんです』
 それは、早苗の『夢』だった。外での日常から離れ、幻想郷というまったく新しい土地で生きていくことを選んだ少女。
 神奈子も諏訪子も信仰のためだけにこちらに来たわけではない。彼女達もまた、早苗のことを大切に思っていた。だから二重の幸せがあったことだろう。
 早苗の夢は叶っていたのだ。
「俺が来るまでは」
 握り締められたこぶしが、軋んだ音を立てる。それでも、足だけは変わらずに前に進んだ。
 助けられて、一緒に生活して、いつの間にか早苗のことが好きになっていた。彼女が外の人間だったからなのかはわからない。けれど、当時はそんなことはどうでもよかった。ただ一緒にいられればよかったのだ。
 それは、早苗も同じだったらしい。結局、気がつけば一ヶ月半の後、互いに告白して付き合うことになっていた。
「でも、よくなかった」
 それが大きく変わったのは、守矢神社に外来人が住み着くようになってから早苗の生活が大きく変わったと、妖怪から聞かされた時だ。
 その妖怪に、悪気などこれっぽっちもなかっただろう。だが一連の騒動を引き起こした本人だけは、気が気でなかった。実際、早苗はべったりだったのだから。
 外来人とずっと共にいれば、その分幻想郷で自由に、多くの新しい経験をする機会は失われてしまう。
 自分がいることで、大好きな人の夢が阻まれる。
「そんなこと、許されるはずがないじゃないか」
 歩みが止まった。
 好きだった。
 嫌いになんてなるはずがなかった。
 ずっと一緒にいたかった。
 けれど、こうしなければならなかった。
 それが、彼女の――早苗のためだと誰よりも知っていたからだ。
「そうだよ……」
 拳を握り、歯を食いしばる。
「こうしなきゃいけないんだよ」
 足を踏み出す。
 一歩、また一歩と、徐々に速度を上げ、ただひたすら目的地に向けてひた走る。何も考えないように、足と手だけを動かして。
 流れた一筋の涙が、鼻筋を伝ってあごに流れる。
「ちくしょう……」
 直後にもれた嗚咽は、言葉にならないうちに潰れて消えていった。

***

 森を抜けた先は、小さな草原になっていた。
 ひざくらいまで伸びたススキのような草が、穏やかな風に揺られて左右に揺れている。それらが茜かかった夕日に照らされている様は絶景というにふさわしかったが、今はそんなことを気にかけている余裕はなかった。
「はぁ、はぁ、はぁー……」
 張り裂けそうなほどの鼓動が全身を叩き、視界が激しく明滅しているかのような眩暈が襲ってくる。
 思わず、やばい、と思った時には、草原の真ん中の辺りで盛大に倒れこんでいた。
 全身を震わせ、大きく息を吐く。わき目も振らずにここまで全力疾走してきたおかげで、顔は汗でいっぱいだった。それに加えて、今は涙と鼻水までついている。
「はっ、だせぇな俺も」
 考えていないようで、ずっと早苗のことを考えていた。
 何度も何度も後悔し、振り向きそうになりながら走ってきた。その結果がこれだった。
「やっぱ、だめだ。好きだよ。クソ……」
 ふらふらと立ち上がり、空を見上げる。

「俺は、早苗が、大好きなんだよぉぉ!!」

 そして、夕日に向かって思いっきり叫んだ。
 結局、最後まで嘘なんてつけなかった。
 それが情けなくて、どうしようもなかった。
「はは、だせぇ」
 草原に腰を落とし、沈み行く夕日を見つめる。
「タオル……」
 とりあえず顔をふこう。そう考え、引き寄せたカバンをさぐる。
 だが、肝心のタオルが見当たらなかった。神社に忘れてきたのかと思ったが、思えば身一つで幻想郷にやってきたのだから当然だった。
「俺……どこまでもダメだな」
 一つため息を吐き、空を見上げる。
「はいどうぞ」
 と、気がつくと、そんな掛け声とともに目の前にタオルが差し出されていた。
「お、助かった。ありがとう」
 ちょうど良かった。そんな考えが頭をよぎり、タオルを手に取る。涙と鼻水で濡れた顔をふくと、どこか懐かしいような香りが鼻腔をくすぐった。
「あれ、これ早苗の――て、おあ!?」
 見上げれば、そこに早苗がいた。まるでいつもと変わらず、笑顔を張り付かせたままで。
 一つ叫んだ後、のけぞるように倒れ、草原を転がる。それで距離は少し離れたが、混乱した頭はしばらくおさまりそうもなかった。
「な、な、なんで――」
「神奈子様に教えてもらいました。こっちの結界がゆるいと、○○さんに教えたそうで」
 そう言った早苗の顔に、神社での悲しみの色はなかった。
「い、いや、そうじゃなくて――」
 なんでここにいるのか。なんでついてきたのか。
 言いたいことは決まっていたが、訊けなかった。言葉がでなかった。
 顔が真っ赤になり、しどろもどろでわけの分からない嗚咽だけが漏れる。
「なんでここにいるか、ですか?」
「イエスイエス!」
「それは確かめたかったからですよ」
 小さく微笑んだまま、早苗が一歩、足を踏み出してくる。思わず起き上がって駆け寄りたい衝動にかられたが、すんでのところで押さえ込んだ。
「あの時、○○さんは辛そうでした。だから、本当は別の理由があるんじゃないかって」
 もう一歩。だんだんと早苗が近づいてくる。
「だ、だめだ。きちゃだめだ」
「――どうしてですか? さっき思いっきり叫んでたじゃないですか」
 どうやら完全に聞かれていたらしい。けれど、今引くわけにはいかなかった。これは早苗のためなのだ。
「お前の夢ってなんだよ。幻想郷で、外の世界で出来なかったことをやろうとしたんじゃないのか? そんな経験は、俺がいたんじゃできなくなっちまう」
 早苗の歩みが止まった。
「……○○さん。だからあんなこと――言ったんですか?」
「そうだ。お前はこの幻想郷で、新しいことを沢山経験しなきゃいけないんだ。それができるんだ!! こんなダメな男おっかけてないで――」
「ダメなんて言わないで下さい!!」
 その叫びに、全身が固まった。
「私が自分で選んで、自分で好きになった人です。ダメだなんて言わないで下さい」
「早苗……」
「確かめたかったとか、嘘です」
 今まで笑顔を保ってきた早苗の表情が、歪んだ。
「○○さんに告げられた時は悲しくて、切なくて、どうしようもなくて――でも受け入れないといけなくて」
 拳を握り締め、搾り出すように告げる。
「私は貴方と一緒にいたかった。気がついたら、追いかけてた……離れたくなかった」
「……ごめん」
「でも、私は○○さんが幻想郷を出ることを、止めたりしません」
 早苗が目をあげ、じっとこちらを見つめてくる。 

「私が、貴方の傍に行きます。幻想郷の外でも、中でも、どこまでもついていきます。それが、私の夢、望んだことなんですから」

 胸の鼓動が大きくなった。
 今まで押さえつけていた感情が怒涛の如くあふれ出し、頭と心を埋め尽くしていく。
「だから、ずっと一緒にいてください」
 そこにきて、今までずっと押しとどめていた意思の結界が、跡形もなく崩壊した。
 もう、我慢できそうもなかった。
「はは……馬鹿だな俺……結局、一人で暴走して……」
 ふらふらと立ち上がり、早苗を見つめる。
「そんな○○さんも嫌いじゃないですよ」
 早苗も、じっとこちらを見つめていた。
 ふらつく体で足を進める。
「ごめんな。酷いこと言ったし、待たせちまったし……」
「いえ、私も余計なことを言ってしまったかもしれません。でも――」
 その笑顔が、涙で歪んだ。
「少しだけ、泣かせて下さい……」
 そこから先は、互いに言葉にならなかった。
 体が動く限り全力で走り、早苗に駆け寄ってその小さな体を抱きしめる。
「早苗……ごめん……」
「○○さん、○○さん……○○さ……ん」
 泣きじゃくりながら名前を連呼してくる早苗。その暖かさを感じながら、もう二度と繰り返すことはしないと、固く心に誓った。
 彼女を幸せにすること。それが己に出来る、最善のことなのだから。

***

「おーおー。とんでもないバカップルだわ」
「ねー、だから言ったじゃない。問題ないって。神奈子は心配性だねぇ」
 守矢の神社、縁側。そこでお茶を飲みながら神奈子は手のひらサイズの鏡を覗き込んでいた。
 映っているのは、黄金色に染まった草原と、一組の男女。どちらも己がよく知っている人間だ。それが今、熱い抱擁を交わしている。
 なるべく意識しないようにはしようとしていたが、これだけ見せ付けられると妬けないはずもなかった。
「さて、じゃあ準備しましょうか」
 つとめて平静を装いながら、鏡を裏返す。
 すぐそばでごろごろしていた諏訪子が不思議そうに見つめてきたが、無視して次の言葉を紡いだ。
「宴会よ。早苗と○○のお祝い。まぁ間違いなく帰ってくるでしょうし」
「え? 早苗と○○のお祝い+自分の失恋パーティじゃなくて?」
「……諏訪子」
 意識しないようにしていたのに、直接指摘されると気分がよいものではない。
 とはいえここで諏訪子に弱いところを見せるのも嫌だったので、神奈子は開き直ることにした。
「そうよ。悪い? 私は○○が好きだったけど、早苗のほうが遥かに愛されてたみたいだし」
「んー、いや別に」
 ごろごろ転がった諏訪子がぴょこんと跳ね起きる。
「じゃあ、早苗と○○お祝い+二柱神残念でしたパーティだね」
「あんた……」
「じゃ、私は逃げる」
「あんたも○○のこと好きだったんじゃない!!」
 そのまま走り去る諏訪子に向けて、精一杯大声で返してから、もう一度鏡を見た。
 これからはもっと忙しくなるだろう。それでも楽しい日々が帰ってくることは間違いない。
「さて、宴会宴会」
 各方面での宣伝もかねて、天狗でも呼ぶか。そんなことを考えながら、神奈子はその場を後にする。
 最後に見た鏡の中には、いつまでも抱き合う幸せそうな二人が、確かに映っていた。

うpろだ1447

───────────────────────────────────────────────────────────

「こんちわ早苗さん。相変わらず元気そうで何より」
「はいこんにちわ、○○さん。お陰さまで。今日は一体どうしたんです?」

 早朝にも係わらず、何所からともなく俺、守矢神社に参上。まあ空からな訳だが。この神社立地条件悪すぎるんだよ……。
 飛べる理由? 無事にここまで来れる理由? 素敵マジックアイテムと早苗さんが顔を利かせてくれたおかげです。

 さて、突然の客にも礼儀正しく笑顔で挨拶してくれる早苗さん。ほんとよく出来た子だ。どこかの紅白に見習ってもらいたい。

「ちょっと早苗さんと世間話でも、とね」
「ふふっ、わざわざこんな所までありがとうございます」

 ああ、ちなみに俺と彼女の関係であるが、同年代の友人、といった感じである。
 同じ「外」出身者故、共通の話題も少なくなく、年が近いという事もあり、彼女との気楽な会話は結構楽しい。

 勿論最初は向こうが現人神とかいう大層な人らしいんで、愚鈍な凡人らしく畏まってみたりした。
 でもよく考えたら魑魅魍魎が跋扈する幻想郷で現人神くらい可愛いもんだ。と即断。素で応対する事を決意。
 当の早苗さんはいきなり180度変わった俺の態度に俺に数瞬面食らったようだったが、何がお気に召したのかすぐに破顔していた。
 以来紆余曲折を経て、親友以上恋人未満といった感じの交友関係を築いている。もう一歩先に行きたいと思わないでもないが。
 ああ、そうだ。今日はそのもう一歩先に進む為に此処まで来たんだっけ。

 いつも通り適当な雑談を交わし、タイミングを見計らって話しかける。

「早苗さん早苗さん、ちょっとお願いがあるんだけどいいかな」
「お願い?」
「そう。早苗さんにしか頼めないお願い」
「私にしか頼めないお願い!? お任せください○○さん! この東風谷早苗の力を以ってすれば、そこら辺の異変は即解決ですよ!」

 なんか今日の早苗さん、妙にテンション高いな……。
 最近地下に潜ったとかいう霊夢に対抗心でも燃やしてんのかね。

「いや、異変の解決じゃないよ。もっとプライバシー的な事」
「プライバシー、ですか……それでも気にしないで何でも言っちゃってください。私と○○さんの間柄じゃないですか」

 まだ何の話かも言ってないのに太陽のような笑顔で快諾する早苗さん。
 聞くだけならタダとはいえ、ホント可愛いなあオイ。
 でもこの場合、気にするのはむしろ俺の方だと思うんだ。

「じゃあお言葉に甘えて……」
「はい、どうぞ」
「早苗さんさ、学校の制服ってこっちに持ってきてる?」
「学校の制服ですか? そりゃまあ、ありますけど。それがどうかしました?
 ……あ、えっと……い、幾ら○○さんのお願いでも、公開生着替えなんかしませんよ?」

 俯きながらモジモジと指を合わせ始めた。何か盛大に勘違いしてるな。
 恐るべし天然巫女早苗さん。普通に萌える、ってそうじゃない。
 なんだよ公開生着替えって。彼女でもない人にいきなりそんな事頼む奴は変態すぎだろう。いやちょっとは見たいけどさ!

 流石は学校の通信簿に「人の話はちゃんと最後まで聞きましょう」と点けられていたらしい早苗さんだ。
 これはちょっと仕返しせねばなるまい……。

「腋見える巫女服着てるのに?」
「うっ……これは、その、ほら、アレですよ。仕事着ですから! いやらしい目で見たりしちゃいけないんです!」

 俺のちょっと意地悪な指摘に今自分がどんな格好をしているのか思い出したらしく、真っ赤になってうろたえはじめた。
 視線から隠そうと必死に腋を絞めるその姿は小動物を連想させ、否が応でも嗜虐心と保護欲を抱かせる。
 しかし慣れとは恐ろしい。今や何の抵抗もなくこの格好をしているのだから。
 今の彼女がもし「外」でこの格好のまま外に出れば、所謂「その筋の人」としてドン引きされる事請け合いだろう。某所を除けば。
 ……脱線しすぎだな。これだから天然って奴は恐ろしい! 結婚してくれ!

「もう、巫女服の事はどうでもいいじゃないですか! それで、私の制服がどうかしました?」
「着て欲しい。早苗さんとデートする時に」
「駄目っ! 幾ら○○さんの頼みでも、まだ私達(ゴニョゴニョ)だってしてないじゃないですか!
 そういうのはもっとお互いを知り合ってからじゃないと(ゴニョゴニョ)
 ……ってはい? 公開生着替えじゃないんですか?」
「早苗さんが普段俺の事をどう思ってるのか良く分かったよ。
 いや、別にいいんだけどね? うん、これっぽっちも気にしちゃいないから!」
「……め、面目ないかぎりです。で、公開生着替えじゃないなら一体なんなんです?」
「お願いだから人の話はちゃんと聞いてくれ……」

 ジト目で睨むと所在なさげに縮こまってしまった。その姿は(ry
 あと早苗さん。涙目で目を逸らさないでほしいな。かえって萌えるから。

「ふう……。だから着て欲しいんだ。制服。早苗さんの。早苗さんとデートする時に」
「…………」

 無言。あれ、地雷踏んだ? マジで? 呆然とこっち見てるんだけど!
 くそっ! 時期尚早だったか!

「……で」
「……早苗さん?」
「で、ででっでででデートでででですか!? わわわわわわ私と!? くぁwせdrftgyふじこlp」

 ……うわあ。
 なんか凄いテンパってる。

「あー、早苗さん?」
「……デート。私と、デート? ○○さんと……?」
「駄目かな?」
「(ええはいいつでもなんでもばっちこいですよ制服着用なのがちょっと気になりますがまあこの大事の前に服装など瑣末な問題に過ぎません
 っていうか私は貴方と初めて会った時からこの時が来るのを今か今かと待ち続けてたんですよまさしく一日千秋ってやつですね
 にもかかわらず○○さんったら私が幾らモーションかけてもまったく反応してくれやがらないもんですからね泣きますよ
 それとなく胸当てた時完全スルーされたのは女の矜持とかプライドとかなんとか砕かれちゃって三日はご飯が喉を通りませんでしたとも
 最近は○○さんは男色の気でもあるんじゃないかと心配になってた所ですああでもやっぱりいざこうやって誘われると凄く嬉しいです○○さんありがとうございます)いえ、私なんかでよければ喜んで!」

 凄い気迫でOKされた。
 素直に嬉しいのでここは喜んでおこうと思う。







 ……いやっほおおおおおおおおおおおおおうう!!!!!!!!


新ろだ90

───────────────────────────────────────────────────────────


じゅーじゅー…ぐつぐつ…
肉の焼けるにおいが香ばしい。
あめ色に変わる野菜の煮える音が心を躍らせる。

秋も深まる守矢神社、その居間にて。
そこにはテキパキと調理する巫女を尻目に鍋を覗き込んですっかりアホの子になる一人と二柱がいた。

そう、今日の晩御飯は早苗謹製のすき焼きだ!


最も、俺たちがここまではしゃぐのには訳がある。
俺たちにとって、なんと牛肉を食べるのは一月ぶりなのだ。
なぜなら、この守矢神社の経済状況は非常に厳しい。
まあ、こんな妖怪の山の上まで人間が賽銭を入れに来るはずがないので当然である。
そしてこの幻想郷において、牛肉はあまりメジャーな食材ではなく、とても高価な食材である。
山の妖怪達に信仰が広がりつつあるとはいえ、供物は魚や野菜、穀類ばかり、稀に野鳥類の肉があるくらいだ。
結果、毎日の食事はメタボリックの欠片もねえヘルシーさを誇っていた。

…いや、そりゃ早苗の料理は美味いよ、美味いけどな…?
でも外来人かつ健康な若い男性である俺はたまには肉の塊に齧り付きたくなるわけで…
そんなわけで、俺は鍋を前に小躍りせん勢いだった。

最もそれは肉食獣の神様二柱も同じようで…

「早苗~まだ~?」
「もう少し待ってくださいね、諏訪子様」
「あーうー、この香り、待ちきれないよう」

すっかり臨戦態勢に入った諏訪子様の構えた箸が鍋の上を旋回している。

確かに、すき焼きのこの香りは殺人的だと思う。
かくゆう俺ももう我慢の限界である。
今にも鍋に襲い掛からんとする箸がうずく。

「ちょっと諏訪子、はしたないわよ」

そういいつつ鍋をずらす神奈子様。
鍋が諏訪子様の箸の射程から外れた。

「そんなにがっつかないで少しは落ち着きなさい」

そういって窘める神奈子様だが、何気に鍋を自分の方に引き寄せてないっすか?
しかも妙ににやついてるような気が…

「そうそう諏訪子様、フライングは厳禁だぜ。神奈子様も」

そうはさせじと釘を刺す俺。
平静を装って鍋を真ん中に戻す。
いまチッとか聞こえたような気がしたがきっと気のせいだ。

「でもそういう○○も人のこといえないんじゃない?」

すっかり見透かしたような諏訪子様が突っ込んでくる。

「もう我慢の限界って顔してるけどなあ?」

そういって隣からしなだれかかってくる諏訪子様。
そのいたずらっぽい視線に俺は察した。
これはあれか、乗っかれということだな…!

「ああ、俺はもうこの欲望を抑えきれない」

ずっと右手を押さえつけていた理性がもはや限界に達しようとしている。
俺は諏訪子様をじっと見つめて言った。

「○○…」

諏訪子様もそんな俺を熱っぽい眼で見つめる。

「○○…そんなに食べたいんだったら…私は、いいよ…?」

いつも陽気な諏訪子様がはにかみながら、上目遣いでかすれる様にささやく。
…その様子に、枷は砕け散った。

「ああっ、女神さまっ!」

鎖から解き放たれた獣となった俺は、がおぉぉと諏訪子様に襲い掛かった。

「きゃー、○○にたーべーらーれーるー!」

あくまでも悪乗りして嬌声をあげる諏訪子様。
すき焼きを散々お預けを喰らって欲望の権化と化した我が右手は、そこにある『肉』を貪り尽くさんとし…

ごぅっ!!

その瞬間、室内のはずなのに確かに風が吹いた。
一瞬にして固まる俺と諏訪子様。

ギギギと首だけで振り返ると、そこには全身から気流を渦巻かせた早苗がいた。

「お 行 儀 が 悪 い で す よ お 二 人 と も」

「は、はひ、ごめんなさい…」
「や、やだな早苗、冗談だよぅあはは…あははは…」

こ、怖えぇ…
乾いた声で返事をし、すごすごとコタツに戻る俺たち。

うん、早苗を怒らすのはヤバイ。
素敵な守矢神社ライフを送るために必須な教訓が、また一つ俺の心に刻まれた。

「もう…ほら○○さん、出来ましたよ」
「おっ、ありがとう」

早苗がため息をつきつつ椀に取り分けてくれる。
肉を溶き卵につけ、いざ今こそ口へ…!


ブッラボオオオォォォォ!!  こいつはすばらしいぞぉぉぉぉ!!!!


俺の魂が絶叫を上げる。
俺は思わずPKを決めたサッカー選手のように天を仰いでガッツポーズをしていた。

「ちょ、ちょっと○○さんどうしたんですか…?」

早苗が驚いて尋ねてくるが、俺はそれどころではない。

脂の甘み、肉の旨み…
ああ牛肉…これが夢にまで見た一月ぶりの牛肉だ…!

「あぁ…ありがとう早苗。ありがとうやっぱり早苗は料理の天才だ…」

自分でも何を言ってるか分からないがとにかくあふれ出る感謝の心をぶちまけながら次々と口に運ぶ。
早苗が若干引いてるような気がするがそんなの関係ねぇ!
あっという間に椀を空にしてしまった。

「早苗、おかわり!」

椀を天高く突き上げる俺に呆れながらも受け取る早苗。

「もう、そんなにがっついちゃお行儀が悪いです」
「いやぁ、早苗のすき焼きが余りに美味いからつい…」
「そんなこと言っても何も出ませんよ…? でも喜んでもらえてよかったです」

苦笑しながらもまんざらではなさそうな早苗。
頬がかすかに染まってるのがくそう可愛いぞこいつめ!

「そんなに焦らなくてもお鍋は逃げませんから…あら?」

新たによそってくれる早苗だが、戸惑いの声と共に止まってしまった。

???

俺もつられて鍋の中を覗き込んでみる。
するとそこには

…白菜…ネギ…豆腐…人参…シイタケ…しらたき…

……あれ?

肉 が な い ッ ッ !

な、なぜだ?
さっき俺が鍋に大量に肉を投入したはずだ。
そんなにすぐになくなるはずが…

「いやー…もぐもぐ…やっぱり早苗の…ぱくり…すき焼きは最高だねえ…はぐはぐ…いくらでも食べれちゃうよ…もぐもぐ…」

ふと左隣を見ればその椀にうず高く積まれたあめ色の恋人。


あ ん た の せ い か ッ!!


俺の殺意ギンギンの視線に気付いたのか、諏訪子様がニヤリと笑った。

「おや~? ○○も食べたいのかなぁ? 仕方ないなあ、食べさせてあげよう」

そういって口に牛肉を半分くわえ、こっちにほれほれ~と突き出してきた。

……

OH! なんて甘美な誘惑…!
今にもむしゃぶりつきたい気分だぜ!

…でもな諏訪子様、学習はしたほうがいいと思うんだぜ?

「す わ こ さ ま? ○ ○ さ ん?」

ホラネー?
…って俺もですか!?
いや俺は今回は誘惑に耐えましたよ!
俺はいつも早苗ひとすじd

…………

アッー!

そして愛しの緑の容赦ない怒りが俺と諏訪子様に炸裂するのだった…トホホ…


5分後、やっと俺と諏訪子様は早苗のお説教から解放された。
くそぅ…俺は何も悪くないのに…

まあここは気を取り直してすき焼きを堪能せねば。
鍋に肉を投入しようとして大皿に箸を伸ばす俺たちだが、カツンという音と共に皿に箸が弾き返される。

あれ…?

思わず顔を見合わせる俺と諏訪子様。
そして再び視線を大皿へ向け…

「ああっ!」

その悲痛な声を上げたのは果たして俺か諏訪子様か。

も う 肉 が な い ッ ッ !!!

ば、ばかな…!?
さっき見たときはまだ大量に肉があったはずだ…!

ハッとして神奈子様を見ると、そこには楊枝を手に茶を飲むお姿が。

「久しぶりのすき焼きは最高ね。堪能したわ」

……

て め え の せ い か あ ッ ッ!!!


俺たちの殺意MAXの視線に気付いたのか、神奈子様がニヤリと笑った。

「あら? 貴方達は楽しめなかったのかしら? こんなに美味しかったのに」

ええ、おかげさまでね。

その言葉に俺の怒りの波動が噴出せんとするが、その前に諏訪子様が臨海を突破したようだ。

「神奈子みたいな年増はそんなに脂を摂らないほうがいいんじゃないの? 肉よりも野菜のほうが身体にいいと思うけど?」

きゅうしょにあたった! こうかはばつぐんだ!

諏訪子様の強烈なボディーブローが神奈子様に激しくめり込んだ。
しかし神奈子様も負けてはいない。
仰け反りながらもクロスカウンターを繰り出す。

「…確かに諏訪子は色々と肉が必要のようねぇ。でも必要のない所ばかり膨らんでるんじゃない? そんな事だから早苗にとられるのよ」

かなこくんの強烈なボレーシュート! おおっと! すわこくん吹き飛んだぁぁぁー!!
…ってか最後のはどういう意味だろう。

「ほう…面白いことを言ってくれるじゃない神奈子」

俺が最後の言葉の意味を考えてる間に諏訪子様が怒気を立ち昇らせながらゆらりと立ち上がった。

「あら、久しぶりにやるのかしら? 確かに食後に運動は必要ねえ。健康的な体型を維持するためにも」

神奈子様も挑発しながら立ち上がる。

ぴっきいいぃぃぃん!

あ、やばいこれは空気が変わった。
おろおろする早苗を尻目に二柱の視線が交錯し…

…決闘準備(Border Of Duel)…

開始(Start)!!

次の瞬間、二人が障子を吹き飛ばして庭に飛び出し、いつもの弾幕ごっこが始まったのだった。

居間に残され、呆気にとられる俺たち。
庭から爆音が響いてくる。
山坂と湖の権化 VS 土着神の頂点
かつて神話に唄われた、諏訪大戦が今ここに再現しているのだ。

…ただしその原因はすき焼きの肉が原因だが。
うわっ! アホらしい!

あまりのスケールの小ささに悲しくなっていると、横で早苗がはぁぁぁぁと海よりも深いため息をついた。いや、幻想郷に海はないけどな?
それにしても早苗には苦労かけるねぇ。
…まあほとんどの原因は俺と諏訪子様だがそれは内緒だ。

「…お二人はもう放って置いて私たちはお鍋の続きを食べましょう」

早苗はそういって再び鍋に火を入れる。

「あれ、でももう肉は残ってないんじゃ…?」

そう、そういえば結局俺は最初の一杯分しか肉が食えなかったのだ。
冷静に思い返すと再び絶望の悲しみに包まれる。

そうしていると、早苗がコタツの脇から包みを取り出した。

「うふふ…こんなこともあろうかと少し残してありました。じゃん!」

早苗がいたずらっぽく微笑みながら包みを開く。そこには…!

「うおおおぉぉっ! 肉っ! お肉ッッ!!」

宝石のように赤く輝く牛肉が鎮座していた。

「ほら、落ち着いてください…。今焼きますから」

アホのようにはしゃぎまわる俺を苦笑しつつなだめつつ、早苗は肉を焼き始めた。
そう、もう邪魔者(?)はいない。ここからは俺と早苗のターンだ!
そうして、俺は早苗のすき焼きを心行くまで満喫したのだった。


「ふぃーー ああ喰った喰った。ご馳走様」
「はい、お粗末さまでした」

すき焼きのあとのうどんは最高だと思いますはい。
これを喰ってこそ最後が締められるというものだ。

「はい、どうぞ○○さん」

早苗が茶を注いでくれる。
うーん、気がきくぜ流石は早苗。

ごくごくごく、ぷはーと一気に飲み干す。
うむ、我ながらおっさんくさいぜ。

それにしても、今更といえば今更だが俺には一つ疑問に思っていた事があった。

「なあ、早苗」
「はい、なんですか?」
「今月、結構家計厳しいんじゃなかったっけ? なんで今日はこんなに奮発を?」

そう、先ほど言ったとおり守矢神社の家計は非常に厳しい。
俺が里の行事の手伝いに行ったり、早苗が神事を執り行ったりするものの、今月は依頼が少なかったのだ。
早苗が家計簿を眺めて眉をしかめる姿を見るの珍しいことではなかった。

「そ、それは…」

何故か早苗は言いづらそうだ。
こちらをちらちらと上目遣いに見ながら頬を染めている…?

「それはですね…今日は○○さんが私たちと暮らし始めてからちょうど一年だからです…」

そう言われて思い出す。
そういえば、去年、俺が幻想郷に迷い込んだのは紅葉の綺麗な秋だった。
そして、守矢神社に辿り着き、紆余曲折あって早苗たちと一緒に住む様になったのはこれくらいの頃だったはずだ。
そうか、あれからもう1年が経ったのか。
それにしても、俺自身がすっかり忘れていたのに早苗はちゃんと覚えていてくれたんだな…
すっかり感慨深い気持ちになる。

「○○さん、これからもずっと私と一緒に居てくれますか…?」

そんな俺を見上げてはにかみながら問いかける早苗。

あ、うんこれはキた。

「きゃっ!」

驚きの悲鳴を上げる早苗。
俺は自分でも無意識のうちに早苗を思いっきり抱きしめ、押し倒していた。
目の前に真っ赤になった早苗の顔がある。

「もちろんだ。ずっと一緒に生きよう、早苗」

この一年間、早苗たちと過ごした毎日は輝かんばかりに素敵な日々だった。
俺は、これからもこの腕の中の大切な人と人生を送って行きたいと心から思った。

顔を近づけると、早苗が瞳を閉じる。
俺も眼を閉じ、唇を近づけ…


「すとおおおおおおおぉぉぉっぷ!! そこまではまだ許してないわよッッッッ!!!」


無粋な神奈子様の声に遮られた。

「どうどう、お父さん落ち着いて」
「誰がお父さんかっ!」

なだめようとする諏訪子様にヒートアップする神奈子様。
俺たちはすっかり興を殺がれ、顔を見合わせて苦笑した。

そうだ、早苗とキスできなかったのは心残りだが、それはまた後でいくらでもできる。
俺たちはこれからもずっと一緒に暮らしていくんだからな。

…まあ、まずは暴れ狂う神奈子様を何とかせねば…
俺は早苗の手を握ると、二人で神奈子様を鎮めにかかった。


新ろだ142

───────────────────────────────────────────────────────────
「どうしたの早苗、血相変えて」

 走ってきた恋人の姿に目を留めた○○は、境内の掃除をしていた手を止めて尋ねた。
 口をぎゅっと真一文字に引き結んだ早苗の表情は、何か異常が起こったことを感じさせる。

「―霊夢さんが、途中にいる妖怪を撃ち落としながらこちらに向かってきているようなんです。
 おそらく、またこの神社に弾幕ごっこを仕掛けようとしているんでしょう」

 その答えを聞いて、○○にも緊張が走る。
 弾幕ごっことなれば、自分は何もできない。早苗や二柱の神に任せて、見守るしかないのだ。
 
「守矢神社の風祝として、迎え撃たなければなりません」

 真剣な表情で参道の方を見据えている早苗。その視線が、ふと沈む。

「○○さん……私、八坂様や諏訪子様のお役に立てているんでしょうか」
「……いきなり、何を」

 不安に満ちた顔の早苗は、呟くように続けた。
 
「初めてスペルカードルールで霊夢さんと戦った時、私はあっさりと負けてしまいました。
 現人神として守矢神社に信仰を集めるんだって、胸を張って幻想郷に来たのに。
 八坂様のところへ向かおうとするのに追いすがることもできませんでした」

 言葉を重ねるたびに、早苗は肩を落としていく。
 その真面目な性格故に、かつての敗北は重い鎖のように早苗の心に絡みついていた。

「早苗……」
「今日これから霊夢さんと戦っても、勝つことはできないような気がします。
 私は……私は、風祝として、ここにいても許されるんでしょうか?」

 今にも泣きそうな早苗の姿を見て、○○は胸が締め付けられるような気持ちだった。
 何とか励ましてやりたい、そう思っていた。

「大丈夫だよ、早苗が守矢神社のためにがんばってるのはちゃんと皆わかってくれてるさ。
 それに早苗がここにいてくれたから、外から幻想郷に来た俺もこうして幸せに暮らせてるんだよ」
「でも、私みたいな外の世界の常識に浸った人間じゃ、幻想郷の象徴みたいな博麗神社にはかなわないんです。
 いつか、いつか私の居場所なんてなくなってしまうんじゃないか、って……」
「―心配するな、早苗」

 ○○の腕が、早苗を抱きすくめた。

「いつかきっと、早苗の努力が実を結ぶ時が来るよ。
 それにもし失敗することがあったって、俺は必ず早苗を傍で支えるから」
「○○さん…………えっ!?」

 ○○の両手が、早苗の肩に置かれる。お互いの目の中に映った自分の顔が、ゆっくりと大きくなっていく。

「……元気が出るように、おまじないだ」
「んっ…………!」

 唇と唇が重なる。一つに融けあおうとするように、深く、しっかりと。

(こんなところで誰かに見られてしまうかもしれないのに)
(八坂様や諏訪子様が来てもおかしくない場所なのに)
(なのにこんなにも幸せでこんなにも○○さんが温かくて)
「…………っはあ」
 
 息が苦しくなるまで触れ合っていた唇を離した時には、紅潮した早苗の顔から憂いの影が消えていた。

「……ありがとうございます、○○さん。もう、大丈夫です」
「ああ。よかった、元気になってくれたみたいで」
「…………あの。帰ってきたら、またしてくれますか?」
「もちろん」
「……よかった。もし勝てたら、ごほうびにいっぱいキスしてくださいね」

 まだ頬を真っ赤に染めながら、少し熱に浮かされたように早苗は言った。
 早苗の心からは、重いプレッシャーの枷がいくつかはずれたようだ。

「じゃあ、行ってきますね」
「気をつけてな」
「さあ、○○さんのキスを目指してガンガンやっちゃいますよ!
 常識なんか捨ててでも、勝利をもぎとってきます!」

 ……箍とか、螺子とかもいくつかはずれてしまったかもしれない。
 勢いよく早苗は飛び立っていった。

「―ちょっと元気すぎるような。まあ、いいことだよな」

 もし負けて帰ってきても、しっかり抱きしめてあげよう。
 そんなことを考えながら、○○は安全圏に避難することにした。


新ろだ176

───────────────────────────────────────────────────────────



作品あげたかごくつぶし。 ドォォン

はりゃぁぁぁ~ッ!!

何があったか知らんが作品あがるまでは堪忍しておくれぇぇ~!!

駄目じゃ。コイツ、ワシらの娘をぐろうしたんじゃ!

はい、スイマセン。

謝るの早ッ!!

序終

















さなえキッス





















 私、キスしたいです。

 そういう彼女の瞳は、眼を逸らすことができないほどに真剣で。

 だからこそ、彼女から逃げずにその想いに応えよう。



拝啓 上白沢 慧音様

 今日は早苗と接吻…外界で言うキス、ベーゼでしたっけ?
とにかく、それを初めて交わした日でした。



 ぼくが住み慣れた人里を去り、妖怪の山にある守矢神社へと
住居を移してからそんなに月日は経っていない。

 どうしてここにいるのか、何があってここへ移ってきたのか、
そんな理由は簡単。ぼくと早苗の交際が、守矢神社の主にして
外界で信仰を失った神様の神奈子さんと諏訪子さんに認められた。



 それだけ。



 こちらに住むようになってからやることは変わっても、量自体が
大きく変化することはなかったと思う。と言っても、できることは
早苗の負担を減らすための手伝いがほとんどだった。

 共同作業でやることで結果としてかかる時間も半分になるわけで。
やること、できることをやり終えてしまうとすぐ空き時間ができて
しまうわけで。早い話、そのぶん暇になってしまう。

 そしてぼくと早苗は縁側で日向ぼっこしながらお茶を啜っていた
その時に、彼女は言ってきたんだ。



 私、キスしたいです。



 その言葉に僅かな間、頭の中がきれいさっぱり真っ白になって
しまったかのような、いや実際なった。

 固まりかけた頭脳を無理やり動かし、早苗が何を言っているのか
再考察する。キス、接吻のことだ。それを彼女はしたい、と言って
いる、よしここまでは大丈夫。

 問題はどうしてか、ということ。欲求不満、というわけでもない。
不安になったとかそんな感じでもない。

 聞いてみるのが一番だろうが、慎重に聞く必要はある。

 どうしたの、何かあったの?と聞くと彼女の答えはこうだった。

「私達、お付き合いしてから今の今までキスしたことなかったなって
思って。言おうかな、言おうかなって思っていたんですけどなかなか
言い出せなくって…」

 そう言えば確かにそうだなと思わされる。

 ここに来るまでの早苗とぼくの関係はほぼ遠距離恋愛に等しい
ものだった。彼女は彼女で守矢神社の信仰を集めるために、ぼくは
慧音様の助手と言う仕事があり、会う機会を作るのも難しくて。

 お互いの時間を割いて会うのは思った以上に大変だったけれど、
それでも確かにぼく達は会うことが出来るだけで単純に嬉しかった。

 こうして今こちらに住居を移してからはいつも一緒にいるのが
当たり前になりすぎて、そのことに甘えてしまったようにも思う。

 なかなか手に入らなかった本や品物を手に入れて、いつでも
読める、使えるからと安心しきってしまって埃を被った状態に
してしまったような感じにも似ている。

 それではよくないだろう。早苗に失礼だし、ぼくを送り出して
くれた慧音様にも、ここに住むことを認めてくれた家主の二柱の
神奈子さんと諏訪子さんにも悪い。

 そして何よりあの頃はよかったなぁ、で終わってしまいそうな
思考に陥りかけた自分を戒める意味でも、ここはちゃんと彼女の
言葉に応えるべきだろう。

 あの頃は良かったから今も良い、と言えるようになるためにも。

「うん、ぼくもしたいよ。早苗とキス」

 笑顔で答える。そして言葉に嘘もないように。目の前の愛しい
少女の表情が、ぱぁっと明るくなった。

 早苗の肩に手を添えると、彼女の双眸が静かに閉じられる。それは
その時が訪れることを待っているようにも見えて。

 ぼくは一呼吸置いて彼女の唇に自分のそれを重ねる。んっ、と
早苗の吐息が短く漏れた。

 重なった瞬間に感じたことは彼女の唇の柔らかさと、ぬくもり。
こんなにも柔らかくて、温かいものだったのかと軽い感動を覚えて
しまう。

 同時に、この東風谷早苗と言う一人の少女に対する愛おしさが
もっと大きくなったようにも感じられて。そのさらりとした長い
髪に手を伸ばした。

 指を通して梳くのではなく、そっと右手を添えて撫ぜる。すると
今度は早苗がぼくの背中に手を回し、形を確かめようとするように
手を動かしてきた。

 それは、今ここで起こっていることが夢幻(ゆめまぼろし)では
なく、現実なのだと言うことを確かめているようにも見えて。

 大丈夫、大丈夫だよ。夢でも幻でもない、ここにぼくはいるし、
早苗のことだってこうやって感じられているんだから。

 口が塞がっていて使えないので、空いた左手を使って彼女の頬を
撫でることでそれを伝えようとする。聞こえただろうか。感じて
くれているだろうか。

 どうか、聞こえていて欲しい。感じていて欲しい。



 このままずっと続きそうな時間も、互いに呼吸がし辛くなって
きたところで終わってしまいどちらからともなく唇を離す。

 早苗の瞳が潤みを帯び、頬は紅く染まっている。自分の唇を
何回も指で撫でて、溜息をついて。

 早苗、と彼女の名前を呼んでぼくは続けた。

 すごくよかった。早苗が相手で、本当に嬉しいよ。

 そうしたら彼女がこれ以上ないくらい素敵な笑顔で私は貴方が
相手という最高の奇跡に感謝します、と返してきたことでもっと
嬉しくなって。

 こんな奇跡だったら何度でも大歓迎だよ。

 ぼくと早苗の唇がまた重なる。



 この幻想郷で起きたささやかな、でも素敵な奇跡に感謝して。



新ろだ275

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