PHASE06『セカンドステージ』 SIDE-B
「つ、疲れた・・・・」
アレからもルナとシミュレーションを繰り返し、時刻は既に夜。周辺は既に暗
闇に包まれている。
とぼとぼと歩くシン。夕飯は赤福にて既に食べてきている。
あとは帰宅してシャワーを浴びて寝るだけだ。
というよりもそれ以外出来そうになかった。
早く家に帰りたい。シンの脳裏にあるのはそれだけだった。
「るんるんるん~♪」
「ん?」
陽気な歌声。
歩きながら、横を見る。公園の中でやけにひらひらした服を着ながら少女が
踊っていた。
くるくると身体を回転させるようにステップを踏みながら踊っている――それも、
ジャングルジムの上で。
足取りは軽やか。ステップは正確。けれど、見るからに危険なその光景。
足を踏み外せば、そしてもし地面に落ちてしまえばそのまま死に至りかねない。
人体と言うものは思いのほか脆弱なのだ。簡単な衝撃でも当たり所が悪ければ
死に至る。後頭部を打つだけでなく、衝撃の伝わり方によっては後頭部以外であ
っても死に至る。
至らないまでも後の人生に影響を与えるような重大な後遺症を残しかねない。
シンは一種、その少女に注意しようかと思い―――止めた。
自分の危険に気付かずに行動するのは子供くらいのものだ。
だから、シンはその光景に注意を払わなかった。
見れば少女の年齢はシンと同じくらいである。
幾らなんでも―――そう思い、シンはそちらを見ていた視線を前へと向けた。
だが、
「きゃあ!?」
悲鳴に思わず振り向いたシン。
少女はステップした足を滑らせ、転がるように、後頭部から地面に向かって、
落ちていく。
アレからもルナとシミュレーションを繰り返し、時刻は既に夜。周辺は既に暗
闇に包まれている。
とぼとぼと歩くシン。夕飯は赤福にて既に食べてきている。
あとは帰宅してシャワーを浴びて寝るだけだ。
というよりもそれ以外出来そうになかった。
早く家に帰りたい。シンの脳裏にあるのはそれだけだった。
「るんるんるん~♪」
「ん?」
陽気な歌声。
歩きながら、横を見る。公園の中でやけにひらひらした服を着ながら少女が
踊っていた。
くるくると身体を回転させるようにステップを踏みながら踊っている――それも、
ジャングルジムの上で。
足取りは軽やか。ステップは正確。けれど、見るからに危険なその光景。
足を踏み外せば、そしてもし地面に落ちてしまえばそのまま死に至りかねない。
人体と言うものは思いのほか脆弱なのだ。簡単な衝撃でも当たり所が悪ければ
死に至る。後頭部を打つだけでなく、衝撃の伝わり方によっては後頭部以外であ
っても死に至る。
至らないまでも後の人生に影響を与えるような重大な後遺症を残しかねない。
シンは一種、その少女に注意しようかと思い―――止めた。
自分の危険に気付かずに行動するのは子供くらいのものだ。
だから、シンはその光景に注意を払わなかった。
見れば少女の年齢はシンと同じくらいである。
幾らなんでも―――そう思い、シンはそちらを見ていた視線を前へと向けた。
だが、
「きゃあ!?」
悲鳴に思わず振り向いたシン。
少女はステップした足を滑らせ、転がるように、後頭部から地面に向かって、
落ちていく。
その一瞬は致命的な一瞬だった。
「ば―――」
距離にして数m。
シン・アスカは持っていた鞄を放り捨て、走り出した。
「あ、だ」
世界がスローになっていく錯覚。
少女の落ちる姿が見えた。
少女が死ぬ。
「駄目だ・・・・!」
胸の奥、体の何処かで、何かが弾けた―――ような気がした。
気が付けばシンは、少女の落ちてくる場所。
そこにスライディングするようにして滑り込んでいた。
腕の中にある暖かい重み。
「・・・・・うぇい?」
腕の中には少女がいた。少女は何が起こったのか理解出来ていないのか、
突然現れた見た事もない男―――シンのことだ―――を見つめている。
その顔を見て、シンは思わず少女の肩を掴み、叱責する。
「何やってんだ、アンタは!!もう少しで死ぬところだったんだぞ!?」
「え?」
「だから!もう少しで死ぬところだったんだぞ!・・・・っておい、どうしたんだ?」
少女の表情が突然切り替わる。無邪気な子供のような表情から、狂った鬼のような表情へ。
「死ぬ・・・・死ぬ・・・・死ぬのは嫌・・・・」
身体をガタガタと震わせ、少女はぶつぶつと呟く。
シンはそのあまりの変わりようを見て、少女に声をかけようとして、右手を前に出した。
少女はそれを見て、眼を剥いて、少女が叫んだ。
「嫌、死にたくない!ステラ、死にたくない!!スティング!!アウル!!ネオ!!助けて!!助けて!!どこ!?みんな、どこ!?」
差し出されたシンの手を殴るようにして払いのけ、後ずさり、ジャングルジ
ムに寄り掛かるようにしてうずくまる。
「お、おい、大丈夫か!?」
蹲った少女に駆け寄るシン。
だが、少女はそんなシンなど眼に入らないのか叫び続ける。
「ば―――」
距離にして数m。
シン・アスカは持っていた鞄を放り捨て、走り出した。
「あ、だ」
世界がスローになっていく錯覚。
少女の落ちる姿が見えた。
少女が死ぬ。
「駄目だ・・・・!」
胸の奥、体の何処かで、何かが弾けた―――ような気がした。
気が付けばシンは、少女の落ちてくる場所。
そこにスライディングするようにして滑り込んでいた。
腕の中にある暖かい重み。
「・・・・・うぇい?」
腕の中には少女がいた。少女は何が起こったのか理解出来ていないのか、
突然現れた見た事もない男―――シンのことだ―――を見つめている。
その顔を見て、シンは思わず少女の肩を掴み、叱責する。
「何やってんだ、アンタは!!もう少しで死ぬところだったんだぞ!?」
「え?」
「だから!もう少しで死ぬところだったんだぞ!・・・・っておい、どうしたんだ?」
少女の表情が突然切り替わる。無邪気な子供のような表情から、狂った鬼のような表情へ。
「死ぬ・・・・死ぬ・・・・死ぬのは嫌・・・・」
身体をガタガタと震わせ、少女はぶつぶつと呟く。
シンはそのあまりの変わりようを見て、少女に声をかけようとして、右手を前に出した。
少女はそれを見て、眼を剥いて、少女が叫んだ。
「嫌、死にたくない!ステラ、死にたくない!!スティング!!アウル!!ネオ!!助けて!!助けて!!どこ!?みんな、どこ!?」
差し出されたシンの手を殴るようにして払いのけ、後ずさり、ジャングルジ
ムに寄り掛かるようにしてうずくまる。
「お、おい、大丈夫か!?」
蹲った少女に駆け寄るシン。
だが、少女はそんなシンなど眼に入らないのか叫び続ける。
「助けて!!助けて!!」
泣き叫ぶ少女。
シンはそれを見て、その症状を看破する。それは数年前まではどこででも良
くある光景だったからだ。
泣き叫ぶ少女。
シンはそれを見て、その症状を看破する。それは数年前まではどこででも良
くある光景だったからだ。
―――戦後、誰もが心に傷を負っていた。
戦争において幾度も空爆を受け、住む家を失くし、愛する家族を亡くした人
々はそれこそ数え切れないほどに存在していた。
彼らに与えられるストレス。それは凄まじいものだった。普段は表面には現
れないそのストレスは時折何かをきっかけとしてこうやって現れる。
フラッシュバック。
瞬間的に脳に刻み込まれた記憶が現実を押し流し、戦時中に時間を巻き戻し
、彼、もしくは彼女を恐怖の中に突き落とす。
ここ数年はそういった症状を訴える人はいなくなっていた。町中でも見なく
なった。
だが、それでも完全に癒えているはずがないのだ。
破壊されたインフラは整えられ、知覚できる範囲で戦争の爪痕は消失していく。
けれど心に残された傷痕は癒えることなく、人々を蝕んでいる―――否、蝕み続ける。
この少女も恐らくはそれだ。・・・・戦争の被害者なのだ。
(・・・・・くそっ)
気が付かなかった自分に対して毒づくシン。だが、それに気が付くことなど不可能だ。
知人であるならばまだしも全く知らない他人をそこまで洞察するなど不可能なのだから。
けれど、さして年の変わらない少女、その心根は傷つき・・・だからこそこんな
見た目にそぐわない幼い雰囲気を醸し出しているのだろう。
そして、それが余計にシンに無力感を感じさせる。
思い返すのは5年前。吹き飛ばされる父と母。自分を守って死んでいった妹。
亡くしてしまった大切な家族。守らなければいけなかったのに守れなかった家族。
彼の心にある怒り。その根源にはソレがある。無力感が。
シン・アスカは無力感を消し去る為に怒り続けるのだ。
目前のような光景を消し去る為に。
「・・・・・・・」
地面に向けていた視線を上げる。拳を握り締め、少女を見つめる。
逡巡は無い。自分は知っているから。こんな時どうしたらいいか知っているから。
「大丈夫。」
彼女を抱きしめた。強く、暴れることなど出来ないように強く。
抱擁ではなく拘束のように。
戦争において幾度も空爆を受け、住む家を失くし、愛する家族を亡くした人
々はそれこそ数え切れないほどに存在していた。
彼らに与えられるストレス。それは凄まじいものだった。普段は表面には現
れないそのストレスは時折何かをきっかけとしてこうやって現れる。
フラッシュバック。
瞬間的に脳に刻み込まれた記憶が現実を押し流し、戦時中に時間を巻き戻し
、彼、もしくは彼女を恐怖の中に突き落とす。
ここ数年はそういった症状を訴える人はいなくなっていた。町中でも見なく
なった。
だが、それでも完全に癒えているはずがないのだ。
破壊されたインフラは整えられ、知覚できる範囲で戦争の爪痕は消失していく。
けれど心に残された傷痕は癒えることなく、人々を蝕んでいる―――否、蝕み続ける。
この少女も恐らくはそれだ。・・・・戦争の被害者なのだ。
(・・・・・くそっ)
気が付かなかった自分に対して毒づくシン。だが、それに気が付くことなど不可能だ。
知人であるならばまだしも全く知らない他人をそこまで洞察するなど不可能なのだから。
けれど、さして年の変わらない少女、その心根は傷つき・・・だからこそこんな
見た目にそぐわない幼い雰囲気を醸し出しているのだろう。
そして、それが余計にシンに無力感を感じさせる。
思い返すのは5年前。吹き飛ばされる父と母。自分を守って死んでいった妹。
亡くしてしまった大切な家族。守らなければいけなかったのに守れなかった家族。
彼の心にある怒り。その根源にはソレがある。無力感が。
シン・アスカは無力感を消し去る為に怒り続けるのだ。
目前のような光景を消し去る為に。
「・・・・・・・」
地面に向けていた視線を上げる。拳を握り締め、少女を見つめる。
逡巡は無い。自分は知っているから。こんな時どうしたらいいか知っているから。
「大丈夫。」
彼女を抱きしめた。強く、暴れることなど出来ないように強く。
抱擁ではなく拘束のように。
「大丈夫だから。」
こういった状態になった場合、抑えるには力による制御しかない。
そして語りかけ続けるしかないのだ。君は死なない。君を殺す者なんていない。君は、
「・・・・・俺が守るから。」
「まも、る・・・?」
守ると言う言葉。それに反応したのか少女はそれから徐々に力を抜き、落ち
着いていった。
シンもその腕から力を抜き、それでも少女が完全に落ち着くまで優しく抱き
しめ続けていた。街灯が照らす公園で、睦み合う恋人のように。
こういった状態になった場合、抑えるには力による制御しかない。
そして語りかけ続けるしかないのだ。君は死なない。君を殺す者なんていない。君は、
「・・・・・俺が守るから。」
「まも、る・・・?」
守ると言う言葉。それに反応したのか少女はそれから徐々に力を抜き、落ち
着いていった。
シンもその腕から力を抜き、それでも少女が完全に落ち着くまで優しく抱き
しめ続けていた。街灯が照らす公園で、睦み合う恋人のように。
◇
それからしばらくして自分が見も知らぬ少女を抱きしめると言う割と大それ
たことをやっていたことに気付き、シンは慌てて少女から身体を離した。
「?」
少女はどうして突然離れたのか分からないと言った表情でシンを見つめる。
シンは苦笑いをしながら、少女の手を取り、近くに設置されているベンチに
向かって歩き出す。
「と、とりあえず座ろうか?」
「うぇい!!」
少女は元気よく返事をするとシンと繋いでいた手を離し、ベンチに向かって
走り出す。シンはその様子を見つめながら自分もベンチに向かって歩いていく。
「キミ、名前は?」
「ステラ・ルーシェ!」
元気よく彼女―――ステラは返事をする。
「そっか。俺はシン・アスカ。よろしく、ステラ。」
「うん!よろしく、シン!」
曇り一つない眼でシンを見つめるステラ。
「ステラは、どこから来たの?」
「えーと、ね。ステラはね、えーと・・・・」
俯き考え込むステラ。しかし、その表情は直ぐに曇る。
頭に指を当て、これまでの道筋を考えるようにする。
「えーとね」
それからしばらくして自分が見も知らぬ少女を抱きしめると言う割と大それ
たことをやっていたことに気付き、シンは慌てて少女から身体を離した。
「?」
少女はどうして突然離れたのか分からないと言った表情でシンを見つめる。
シンは苦笑いをしながら、少女の手を取り、近くに設置されているベンチに
向かって歩き出す。
「と、とりあえず座ろうか?」
「うぇい!!」
少女は元気よく返事をするとシンと繋いでいた手を離し、ベンチに向かって
走り出す。シンはその様子を見つめながら自分もベンチに向かって歩いていく。
「キミ、名前は?」
「ステラ・ルーシェ!」
元気よく彼女―――ステラは返事をする。
「そっか。俺はシン・アスカ。よろしく、ステラ。」
「うん!よろしく、シン!」
曇り一つない眼でシンを見つめるステラ。
「ステラは、どこから来たの?」
「えーと、ね。ステラはね、えーと・・・・」
俯き考え込むステラ。しかし、その表情は直ぐに曇る。
頭に指を当て、これまでの道筋を考えるようにする。
「えーとね」
「うん?」
それでもステラから言葉は出てこない。シンはまさかなと思いつつ、口を開いた。
「・・・・もしかして、忘れた?」
「ああ、うん、それ!」
「・・・・・・・・・そ、そう。」
脱力するシン。それはそうだろう。これでこの子がどこの子かなどが全て分
からなくなったからだ。
「じゃ、じゃあ、ステラはどうして此処に来たの?買い物とか?」
シンはとりあえず話を続けた。何か会話から糸口の一つでも見つけない限り
、彼女の帰る場所は分からないからだ。
だが返って来た返答は「遊びに来た。」、「パーティーなの」、とまるで要
領を得ないコトばかりだった。十分間ほどそんな問答を続け、シンはステラには笑いかけながらも―――無論その笑いは苦笑いだったが―――途方に暮れていた。
そこに鳴り響く車のクラクション。
「ステラー!!何してんだ、行くぞ――!!」
音の後、後ろから声がかかる。声の聞こえるほうを見れば、そこには車に乗
った男二人組みがいる。
「あ、スティングとアウルだ!」
元気よくそちらに走り去るステラ。
「お前、何してんだよ!ちゃんとここで待ってろって言っただろ!?」
「・・・・・う、うん。ごめん、スティング。」
「まあまあ、いいじゃんスティング。別に迷子になった訳じゃないんだしさ。」
その場をとりなす青い髪の少年。スティングと呼ばれた緑の髪の少年はその
言葉を聞いて少しだけ息を吐き、呟いた。
「ああ、分かったよ、アウル。・・・・ステラ、もう時間がないんだ。行くぞ。」
そう言って後部座席を指差す緑の髪の少年。ステラはそれを見て勢い良く乗
り込み―――そこで後ろからこちらを見つめるシンに向かって、手を振った。
「シ――――ン!!!また、遊ぼうね―――!!!」
「・・・・は、はは。」
ステラの、子供特有の変わり身の早さに少しだけ驚きながらも同じく手を振
り返すシン。
それでもステラから言葉は出てこない。シンはまさかなと思いつつ、口を開いた。
「・・・・もしかして、忘れた?」
「ああ、うん、それ!」
「・・・・・・・・・そ、そう。」
脱力するシン。それはそうだろう。これでこの子がどこの子かなどが全て分
からなくなったからだ。
「じゃ、じゃあ、ステラはどうして此処に来たの?買い物とか?」
シンはとりあえず話を続けた。何か会話から糸口の一つでも見つけない限り
、彼女の帰る場所は分からないからだ。
だが返って来た返答は「遊びに来た。」、「パーティーなの」、とまるで要
領を得ないコトばかりだった。十分間ほどそんな問答を続け、シンはステラには笑いかけながらも―――無論その笑いは苦笑いだったが―――途方に暮れていた。
そこに鳴り響く車のクラクション。
「ステラー!!何してんだ、行くぞ――!!」
音の後、後ろから声がかかる。声の聞こえるほうを見れば、そこには車に乗
った男二人組みがいる。
「あ、スティングとアウルだ!」
元気よくそちらに走り去るステラ。
「お前、何してんだよ!ちゃんとここで待ってろって言っただろ!?」
「・・・・・う、うん。ごめん、スティング。」
「まあまあ、いいじゃんスティング。別に迷子になった訳じゃないんだしさ。」
その場をとりなす青い髪の少年。スティングと呼ばれた緑の髪の少年はその
言葉を聞いて少しだけ息を吐き、呟いた。
「ああ、分かったよ、アウル。・・・・ステラ、もう時間がないんだ。行くぞ。」
そう言って後部座席を指差す緑の髪の少年。ステラはそれを見て勢い良く乗
り込み―――そこで後ろからこちらを見つめるシンに向かって、手を振った。
「シ――――ン!!!また、遊ぼうね―――!!!」
「・・・・は、はは。」
ステラの、子供特有の変わり身の早さに少しだけ驚きながらも同じく手を振
り返すシン。
車が走り出す。走り出す瞬間、スティングとアウルと呼ばれた少年はシンに向
かって会釈する。
シンもそれに倣い少しだけ頭を下げた。
「・・・・・家族、か。」
呟くシン。
今の二人の少年は家族なのだろう。実の兄弟なのかどうかは分からない。
けれど彼女にとって何よりも大事な家族なのだろう。
考えてみれば当然の話しだ。
ステラ・ルーシェと名乗ったあの少女は日常生活―――それも一般人の中に
混じって生活するという意味合いで―――が難しいことは想像に難くない。
中学生の中に幼稚園児が混じって生活するようなモノだ。そして、なまじ肉
体が成長している分だけそのズレは大きく感じ取られる。
家族がいるから彼女はこういった場所で生活出来るのだ。
彼女を支え、彼女と共に生きてくれる家族が。
シンは彼女達が走り去っていった方向をしばし見つめ続ける。
寂しそうに、どこか懐かしそうに。
かって会釈する。
シンもそれに倣い少しだけ頭を下げた。
「・・・・・家族、か。」
呟くシン。
今の二人の少年は家族なのだろう。実の兄弟なのかどうかは分からない。
けれど彼女にとって何よりも大事な家族なのだろう。
考えてみれば当然の話しだ。
ステラ・ルーシェと名乗ったあの少女は日常生活―――それも一般人の中に
混じって生活するという意味合いで―――が難しいことは想像に難くない。
中学生の中に幼稚園児が混じって生活するようなモノだ。そして、なまじ肉
体が成長している分だけそのズレは大きく感じ取られる。
家族がいるから彼女はこういった場所で生活出来るのだ。
彼女を支え、彼女と共に生きてくれる家族が。
シンは彼女達が走り去っていった方向をしばし見つめ続ける。
寂しそうに、どこか懐かしそうに。
◇
ビルの上。ネオンの煌きが空を染め、星空すら綺麗に見ることは出来ない。
三つの人影。恐らく未だ十代半ばの少年少女だろう。彼らはビルの屋上に座
りながらひっそりと町並みを見つめている。
「・・・・・そろそろ、時間だな。」
一人が口を開き、立ち上がる。その言葉に反応して残る二人も立ち上がる。
「・・・・・早くしようよ。」
少女が待ちきれなさそうに呟く。
「慌てるな、ステラ。」
緑の髪の少年が呟き―――時計を見た。
「行くぞ。」
残る二人はその言葉に答えるように頷く―――そして、三人は同時に呟いた。
「変身」、と。
言葉と共に三人の肉体が光り輝く。そしてその中で三人の姿は変化する。
ぎちぎち、と肉が捩れ、骨が組み変わる音。
光の輝きは数瞬。そしてその数瞬で三人の姿は、それまでとはまるで違う姿
に変化していた。
一人は鋭角的な翼―――それは鳥と言うよりも航空機に近い―――を持った
緑の異形へと。
ビルの上。ネオンの煌きが空を染め、星空すら綺麗に見ることは出来ない。
三つの人影。恐らく未だ十代半ばの少年少女だろう。彼らはビルの屋上に座
りながらひっそりと町並みを見つめている。
「・・・・・そろそろ、時間だな。」
一人が口を開き、立ち上がる。その言葉に反応して残る二人も立ち上がる。
「・・・・・早くしようよ。」
少女が待ちきれなさそうに呟く。
「慌てるな、ステラ。」
緑の髪の少年が呟き―――時計を見た。
「行くぞ。」
残る二人はその言葉に答えるように頷く―――そして、三人は同時に呟いた。
「変身」、と。
言葉と共に三人の肉体が光り輝く。そしてその中で三人の姿は変化する。
ぎちぎち、と肉が捩れ、骨が組み変わる音。
光の輝きは数瞬。そしてその数瞬で三人の姿は、それまでとはまるで違う姿
に変化していた。
一人は鋭角的な翼―――それは鳥と言うよりも航空機に近い―――を持った
緑の異形へと。
一人は甲羅のような丸みを帯びた全身と長さおよそ2mほどの槍を持った青の
異形へと。
一人は背中にたてがみのような金色の髪をたなびかせた黒い異形へと。
彼らの頭部は一様に仮面で覆われている―――それは、ライダーシステムの
証。
彼らの眼下に立ち並ぶ繁華街。
それを見て緑の異形が呟いた。
「・・・・・さあ、パーティーの始まりだ。」
異形へと。
一人は背中にたてがみのような金色の髪をたなびかせた黒い異形へと。
彼らの頭部は一様に仮面で覆われている―――それは、ライダーシステムの
証。
彼らの眼下に立ち並ぶ繁華街。
それを見て緑の異形が呟いた。
「・・・・・さあ、パーティーの始まりだ。」
◇
「ルナ、もっとスピード出ないのか!?こんなんじゃ間に合わない!!」
「少しは黙ってなさい、シン!!舌噛むわよ!!」
言葉と同時にアクセルを開き、一気に全開にするルナ。速度が上がる。瞬間
、身体を後方に持って行かれそうになるシン。
「うおおおおおお!!!!」
それに抗うようにしてシンは叫びと共に全力でルナの身体を掴み、身を寄せる。
「ルナ、もっとスピード出ないのか!?こんなんじゃ間に合わない!!」
「少しは黙ってなさい、シン!!舌噛むわよ!!」
言葉と同時にアクセルを開き、一気に全開にするルナ。速度が上がる。瞬間
、身体を後方に持って行かれそうになるシン。
「うおおおおおお!!!!」
それに抗うようにしてシンは叫びと共に全力でルナの身体を掴み、身を寄せる。
シンはステラと別れ家に戻った後、ルナから連絡を受けていた。街が、襲撃
を受けている、と。
そして、そのまま現場に向かい、途中でルナに拾われ現状に至る。
敵の数は3。これまでと比べれば格段にその数は少ない。だが、その被害状
況はこれまでで一番酷かった。
何しろ夜の繁華街での襲撃である。そこにいた人々の数はこれまでの比では
ない。被害状況は現時点で既に数十名単位の死傷者。時間が経てば経つほどに
その被害は加速度的に増加していくだろう。
バイクから振り落とされないようにシンは黙り、ルナの身体をしっかりと掴
んでいる―――けれど前を見つめる瞳には怯えや恐れはない。
ただ、焦りが浮かんでいる。
早く。もっと早く、と。歯噛みするシン。
そこにルナからの通信が入る。
『・・・・・逸り過ぎよ、シン。落ち着きなさい。』
『分かってる・・・俺は落ち着いてる・・・!』
を受けている、と。
そして、そのまま現場に向かい、途中でルナに拾われ現状に至る。
敵の数は3。これまでと比べれば格段にその数は少ない。だが、その被害状
況はこれまでで一番酷かった。
何しろ夜の繁華街での襲撃である。そこにいた人々の数はこれまでの比では
ない。被害状況は現時点で既に数十名単位の死傷者。時間が経てば経つほどに
その被害は加速度的に増加していくだろう。
バイクから振り落とされないようにシンは黙り、ルナの身体をしっかりと掴
んでいる―――けれど前を見つめる瞳には怯えや恐れはない。
ただ、焦りが浮かんでいる。
早く。もっと早く、と。歯噛みするシン。
そこにルナからの通信が入る。
『・・・・・逸り過ぎよ、シン。落ち着きなさい。』
『分かってる・・・俺は落ち着いてる・・・!』
その返答を聞いて、ルナはシンには聞こえないようにそっとため息を吐いた。
彼は、シン・アスカは分かっていない。例え分かっているとしても恐らく現
場に行けばそんな思いは全て吹き飛ぶだろう。
ある意味仕方ないのかも知れない―――ルナはそう思った。
シン・アスカの根源にあるのは怒りだ。怒りなくしてシン・アスカは前回のよ
うに戦えなかった。
初の戦闘で恐怖に惑わされることなく戦う。本来、それはあり得ない。
命の奪い合いと言う戦場で臆することなく戦うと言うストレスは半端なモノで
はない。才能云々ではなく心が拒否するからだ。訓練とはそのストレスに心を
慣らす為に行われる。故に戦闘の訓練と言うのは何度も何度も反復する。“その
時”に怯えて動けなくならないように。
―――だが、彼はその恐怖を、ストレスを、数年間抑圧され続けた怒りによ
って無理矢理抑え込み戦った。
怒りで。無力感を味わいたくないと言う欲求によって。
それは場合によっては前回のように功を奏することもあるだろうが―――毎
回そう言うわけにはいかない。焦りや怒りが招くモノは死以外にあり得ないからだ。
―――だが、それを今ここで話しても意味は無い。
それは彼が自分自身で気付かなくてはならないものだから。
ルナがそんな風に考えを巡らせている時、遠くに赤い街が見えてくる。
「う・・・・わ」
呆けたように口を開くシン。その瞳に映るのは篝火の如く燃え上がる炎。ネ
オンの輝きなどでは決してあり得ない光景。
燃え上がる街。繁華街が燃えている。ビルが倒壊し、人々が逃げ惑っている。
ルナはバイクを止め、座席の下からベルトをシンに手渡す。
「シン、行くわよ。」
それを掴み、腰に回すようにして装着するシン。懐より取り出したPDAを
ベルトに向かってセット。
そして左手でベルトの左側の赤いスイッチを押し込む。
「―――変身!」
叫びと共にルナの身体が赤い粒子に変化し、シンの身体を取り囲む。
現れたのは、二本の大剣を背負う姿―――ソードインパルス。前回と同じ姿だ。
《行くわよ、シン!!》
彼は、シン・アスカは分かっていない。例え分かっているとしても恐らく現
場に行けばそんな思いは全て吹き飛ぶだろう。
ある意味仕方ないのかも知れない―――ルナはそう思った。
シン・アスカの根源にあるのは怒りだ。怒りなくしてシン・アスカは前回のよ
うに戦えなかった。
初の戦闘で恐怖に惑わされることなく戦う。本来、それはあり得ない。
命の奪い合いと言う戦場で臆することなく戦うと言うストレスは半端なモノで
はない。才能云々ではなく心が拒否するからだ。訓練とはそのストレスに心を
慣らす為に行われる。故に戦闘の訓練と言うのは何度も何度も反復する。“その
時”に怯えて動けなくならないように。
―――だが、彼はその恐怖を、ストレスを、数年間抑圧され続けた怒りによ
って無理矢理抑え込み戦った。
怒りで。無力感を味わいたくないと言う欲求によって。
それは場合によっては前回のように功を奏することもあるだろうが―――毎
回そう言うわけにはいかない。焦りや怒りが招くモノは死以外にあり得ないからだ。
―――だが、それを今ここで話しても意味は無い。
それは彼が自分自身で気付かなくてはならないものだから。
ルナがそんな風に考えを巡らせている時、遠くに赤い街が見えてくる。
「う・・・・わ」
呆けたように口を開くシン。その瞳に映るのは篝火の如く燃え上がる炎。ネ
オンの輝きなどでは決してあり得ない光景。
燃え上がる街。繁華街が燃えている。ビルが倒壊し、人々が逃げ惑っている。
ルナはバイクを止め、座席の下からベルトをシンに手渡す。
「シン、行くわよ。」
それを掴み、腰に回すようにして装着するシン。懐より取り出したPDAを
ベルトに向かってセット。
そして左手でベルトの左側の赤いスイッチを押し込む。
「―――変身!」
叫びと共にルナの身体が赤い粒子に変化し、シンの身体を取り囲む。
現れたのは、二本の大剣を背負う姿―――ソードインパルス。前回と同じ姿だ。
《行くわよ、シン!!》
『ああ!!』
脳裏に響くルナの声に従い、シンはシルエットフライヤーに飛び乗る。シン
の脳内に流れ込む、「シルエットフライヤーの操縦」についての情報。ルナの
持つ情報が流れ込みシンは今、この瞬間ルナと同レベルの運転技術を手に入れる。
『うおおおお!!』
アクセルを全開に開き、前輪が跳ね上がりウィリー状態となるもそのまま勢
いを殺すことなく、シルエットフライヤーは街中に突入する。
夜空を照らす炎の赤。シンは運転しながらもそれを見つめ続け―――知らず
知らず唇は釣り上がっていた。
そう、奪われるのなら、奪えないように殺してしまえ、と。
心中で誰かが笑っていた。
脳裏に響くルナの声に従い、シンはシルエットフライヤーに飛び乗る。シン
の脳内に流れ込む、「シルエットフライヤーの操縦」についての情報。ルナの
持つ情報が流れ込みシンは今、この瞬間ルナと同レベルの運転技術を手に入れる。
『うおおおお!!』
アクセルを全開に開き、前輪が跳ね上がりウィリー状態となるもそのまま勢
いを殺すことなく、シルエットフライヤーは街中に突入する。
夜空を照らす炎の赤。シンは運転しながらもそれを見つめ続け―――知らず
知らず唇は釣り上がっていた。
そう、奪われるのなら、奪えないように殺してしまえ、と。
心中で誰かが笑っていた。
◇
黒い異形―――どこか狼男を連想させる―――瓦礫の中で蹲っていた人間の
頭をその足で踏み潰す。ぶしゅっとリンゴが破裂したような音。流れ出る赤い
脳漿。足の裏でそれを磨り潰す。
「・・・・・・」
無言で異形は次の標的を探す。
ソレは正直、この惨劇に飽きてきていた。現れる目標―――勿論目に付いた
モノ全てだが―――は歯向かうこともせずに逃げるだけ。それでは張り合いが
無い。狩りとは歯向かう者を苦しめて殺すからこそ面白いと言うのにこれでは
まるで張り合いが無い。
ソレはだからこそ待っていた。自身の行動を阻害する何かを。自分を阻む何
かを。いずれ来るであろう「標的」が、強く、そして簡単には死なないことを。
「早く、来ないかな。」
漏れる声は外見とは打って変わった幼ささえ感じる少女の声。けれど声に篭
る思いは決して少女のソレではなく。
見上げる空。思い浮かぶは標的の姿。標的―――そう、あのライダーを。映
像で見ただけ。けれど、その姿はソレの胸に刻み込まれている。
二本の大剣を背負う赤い異形。強さとしなやかさを兼ね備えた体躯。アレを
引き裂き、噛み千切り、八つ裂きにし―――貪る。
背筋を走る歓喜。鳥肌さえ立たせるその感覚。
早く、早く。
ただそれだけを遠足を待ち望んで寝られない子供のようにソレは待ち続ける。破壊と殺戮を繰り返しながら。
その時、音がした。遠くからこちらに向かうバイクの音。
バイクはソレの十数mほど手前で止まる。唸る駆動音。二本の大剣を背負っ
た赤い異形が、バイクに乗っている。
ソレは、頭部に付けた仮面の裏でゴクリと唾を飲み込み、唇を吊り上げた。
―――――来た、と。
黒い異形―――どこか狼男を連想させる―――瓦礫の中で蹲っていた人間の
頭をその足で踏み潰す。ぶしゅっとリンゴが破裂したような音。流れ出る赤い
脳漿。足の裏でそれを磨り潰す。
「・・・・・・」
無言で異形は次の標的を探す。
ソレは正直、この惨劇に飽きてきていた。現れる目標―――勿論目に付いた
モノ全てだが―――は歯向かうこともせずに逃げるだけ。それでは張り合いが
無い。狩りとは歯向かう者を苦しめて殺すからこそ面白いと言うのにこれでは
まるで張り合いが無い。
ソレはだからこそ待っていた。自身の行動を阻害する何かを。自分を阻む何
かを。いずれ来るであろう「標的」が、強く、そして簡単には死なないことを。
「早く、来ないかな。」
漏れる声は外見とは打って変わった幼ささえ感じる少女の声。けれど声に篭
る思いは決して少女のソレではなく。
見上げる空。思い浮かぶは標的の姿。標的―――そう、あのライダーを。映
像で見ただけ。けれど、その姿はソレの胸に刻み込まれている。
二本の大剣を背負う赤い異形。強さとしなやかさを兼ね備えた体躯。アレを
引き裂き、噛み千切り、八つ裂きにし―――貪る。
背筋を走る歓喜。鳥肌さえ立たせるその感覚。
早く、早く。
ただそれだけを遠足を待ち望んで寝られない子供のようにソレは待ち続ける。破壊と殺戮を繰り返しながら。
その時、音がした。遠くからこちらに向かうバイクの音。
バイクはソレの十数mほど手前で止まる。唸る駆動音。二本の大剣を背負っ
た赤い異形が、バイクに乗っている。
ソレは、頭部に付けた仮面の裏でゴクリと唾を飲み込み、唇を吊り上げた。
―――――来た、と。