12話前半
「どういうことだ?」
周囲を警戒しつつ、イザークが呟く。
鎮圧用のガス銃を放ち、ユニウスセブンに突入してからだいぶ経つが、一向にMSと遭遇しない。現在地を確認すると、中心部近くだ。
ユニウスセブンは4、50分程度で一周できるような小さな島だ。ここまでMSはおろか、その痕跡さえ見つけられないのは異常としか言いようがない。
「もう全部逃げちまったんじゃねえのか?」
「いえ、それはないと思います。少なくとも、インパルスと交戦した個体群はあれ以降目撃されていません。まだユニウスセブンに潜伏しているものと思われます」
「そうは言うけどよ。実際に見つからないんじゃ……」
ディアッカが反論しようとしたところで、司令部から通信が入る。それも、緊急通信だ。
ただ事ではない。三人がそう感じたのと同時に、オペレーターのアビーが切羽詰った声で告げた。
『大変です! C班、E班が襲撃を受けました! 付近の部隊は大至急救援をお願いします!』
突入部隊は六班に班分けされており、イザークたちは便宜上A班と呼称されている。
遊撃班としての役割も持つA班だけはZAFTの精鋭による機動性を重視したこともあっての少数三人編成だが、
B班以降の機動隊員の班は、十人ほどで構成されている。質の差を数で補おうというのだ。それでも、戦闘経験の無さは如何ともし難く、どこまで戦えるかは疑問が残る。
「おいっ!」
「ああ、急ぐぞ!」
ここでいう襲撃とは、MSのものに違いない。
ディアッカの呼びかけに応じて、三人はより近いE班の救援に向かう事を決めた。
E班も十人ほどの人数がいるが、戦闘経験はない。もっとも、戦闘経験のある者などそうはいないが。
どんなMSに襲われたかは不明だが、急いで救援に向かわなければ危険かもしれない。そう思って走り出す三人だったが、いきなりイザークが足を止めた。
「イザーク!?」
「どうしたんですか、隊長!?」
二人とも足を止め、イザークの視線の先を目で追う。そこには、三体ものMS、ジンHM2が待ち構えていた。そのうちの一体は、顔に大きな傷が刻まれている。
再び緊急通信が入るが、三人とも聞いてはいなかった。
『B班、D班、F班も襲撃を受けました! ジュール隊長の方はどうですか! 隊長!?』
ジンHM2たちが、一斉にイザークたちへと飛び掛る。三人はシウスを構え、迎え撃つ。
「撃てぇっ!」
シウスが火を噴く。月光に照らされた重斬刀が鈍色の輝きを放った。
周囲を警戒しつつ、イザークが呟く。
鎮圧用のガス銃を放ち、ユニウスセブンに突入してからだいぶ経つが、一向にMSと遭遇しない。現在地を確認すると、中心部近くだ。
ユニウスセブンは4、50分程度で一周できるような小さな島だ。ここまでMSはおろか、その痕跡さえ見つけられないのは異常としか言いようがない。
「もう全部逃げちまったんじゃねえのか?」
「いえ、それはないと思います。少なくとも、インパルスと交戦した個体群はあれ以降目撃されていません。まだユニウスセブンに潜伏しているものと思われます」
「そうは言うけどよ。実際に見つからないんじゃ……」
ディアッカが反論しようとしたところで、司令部から通信が入る。それも、緊急通信だ。
ただ事ではない。三人がそう感じたのと同時に、オペレーターのアビーが切羽詰った声で告げた。
『大変です! C班、E班が襲撃を受けました! 付近の部隊は大至急救援をお願いします!』
突入部隊は六班に班分けされており、イザークたちは便宜上A班と呼称されている。
遊撃班としての役割も持つA班だけはZAFTの精鋭による機動性を重視したこともあっての少数三人編成だが、
B班以降の機動隊員の班は、十人ほどで構成されている。質の差を数で補おうというのだ。それでも、戦闘経験の無さは如何ともし難く、どこまで戦えるかは疑問が残る。
「おいっ!」
「ああ、急ぐぞ!」
ここでいう襲撃とは、MSのものに違いない。
ディアッカの呼びかけに応じて、三人はより近いE班の救援に向かう事を決めた。
E班も十人ほどの人数がいるが、戦闘経験はない。もっとも、戦闘経験のある者などそうはいないが。
どんなMSに襲われたかは不明だが、急いで救援に向かわなければ危険かもしれない。そう思って走り出す三人だったが、いきなりイザークが足を止めた。
「イザーク!?」
「どうしたんですか、隊長!?」
二人とも足を止め、イザークの視線の先を目で追う。そこには、三体ものMS、ジンHM2が待ち構えていた。そのうちの一体は、顔に大きな傷が刻まれている。
再び緊急通信が入るが、三人とも聞いてはいなかった。
『B班、D班、F班も襲撃を受けました! ジュール隊長の方はどうですか! 隊長!?』
ジンHM2たちが、一斉にイザークたちへと飛び掛る。三人はシウスを構え、迎え撃つ。
「撃てぇっ!」
シウスが火を噴く。月光に照らされた重斬刀が鈍色の輝きを放った。
緑色のMS、カオスが右足を振り上げ、ジンHM2へと振り下ろす。足の部分が鉤爪のように変化し、厚い胸部装甲を薄紙のように引き裂いた。
さらに、食い込ませた右足を基点として左足を持ち上げ、頭部へ叩きつける。
頭部をも叩き潰されたジンHM2は絶命、爆散する。脚部を元に戻したカオスはそのまま着地した。
その瞬間を好機と見たか、一体のジンHM2が重斬刀を振りかぶり跳躍する。しかし、それを見てもカオスは動じることもなく、ただ一言だけ叫んだ。
「ステラ!」
「うええい!」
背後から叫び声が聞こえた時にはもう遅い。
黒い四足獣のようなMS、ガイアが飛び込み、翼状の刃で背中から切りつける。ジンHM2は胴体から両断され、時間差で爆発した。
さらに、食い込ませた右足を基点として左足を持ち上げ、頭部へ叩きつける。
頭部をも叩き潰されたジンHM2は絶命、爆散する。脚部を元に戻したカオスはそのまま着地した。
その瞬間を好機と見たか、一体のジンHM2が重斬刀を振りかぶり跳躍する。しかし、それを見てもカオスは動じることもなく、ただ一言だけ叫んだ。
「ステラ!」
「うええい!」
背後から叫び声が聞こえた時にはもう遅い。
黒い四足獣のようなMS、ガイアが飛び込み、翼状の刃で背中から切りつける。ジンHM2は胴体から両断され、時間差で爆発した。
二体のジンHM2は水色のMS――アビスを取り囲み、左右から同時に重斬刀を振り下ろした。避けようの無いタイミングだったが
アビスは両肩の甲羅のような装甲を展開、二つの斬撃を軽がると受け止めた。
さらに両肩を勢いよく広げ、吹き飛ばす。アビスは右側のジンHM2へと槍を突き出し、腹部を打ち貫く。ピンク色の一つ目から、完全に光が消えた。
仲間の仇とばかりに最後に残されたジンHM2が背後から襲い掛かるが、それはかなわなかった。猛禽類のような姿となったカオスに逆に襲われ、
鋭い爪に捕らえられる。掴まれた装甲が悲鳴を上げ、ついには握りつぶされてしまった。
さらにカオスはジンHM2を掴んだまま空中へと舞い上がり、地面へと急降下。既にボロボロのジンHM2を解放した。
頭部から地面に叩きつけられたジンは一瞬大きく痙攣、微動だにしなくなる。眼から光が消え、火柱を上げる。
もはや、この場に立っているのはカオス、ガイア、アビスの三体だけだ。ジンHM2は全て爆散、機動隊員たちも既にジンHM2の襲撃で全滅していた。
アビスは両肩の甲羅のような装甲を展開、二つの斬撃を軽がると受け止めた。
さらに両肩を勢いよく広げ、吹き飛ばす。アビスは右側のジンHM2へと槍を突き出し、腹部を打ち貫く。ピンク色の一つ目から、完全に光が消えた。
仲間の仇とばかりに最後に残されたジンHM2が背後から襲い掛かるが、それはかなわなかった。猛禽類のような姿となったカオスに逆に襲われ、
鋭い爪に捕らえられる。掴まれた装甲が悲鳴を上げ、ついには握りつぶされてしまった。
さらにカオスはジンHM2を掴んだまま空中へと舞い上がり、地面へと急降下。既にボロボロのジンHM2を解放した。
頭部から地面に叩きつけられたジンは一瞬大きく痙攣、微動だにしなくなる。眼から光が消え、火柱を上げる。
もはや、この場に立っているのはカオス、ガイア、アビスの三体だけだ。ジンHM2は全て爆散、機動隊員たちも既にジンHM2の襲撃で全滅していた。
「ヒュー、やるねえ」
モニターを確認していたネオは、感心するように言った。オペレーターをしている研究員も、やや誇るように答える。
「ええ。戦闘によるストレスも想定の範囲内です」
「これなら、充分に使えるんじゃないか?」
「それは、戻ってみなければ何ともいえませんが……。何だ、これは!」
落ち着いた声が一変、素っ頓狂なものになる。ネオは怪訝そうな声色で尋ねた。
「どうした?」
「そ、それが……」
震える指で、画面を指し示す。モニターには地面に倒れ伏すガイア――ステラと、見慣れない青いMSが映し出されている。
「ほぉ、これは……」
スティングたちと初めて遭遇した時に戦闘していた相手、インパルスだ。
モニターを確認していたネオは、感心するように言った。オペレーターをしている研究員も、やや誇るように答える。
「ええ。戦闘によるストレスも想定の範囲内です」
「これなら、充分に使えるんじゃないか?」
「それは、戻ってみなければ何ともいえませんが……。何だ、これは!」
落ち着いた声が一変、素っ頓狂なものになる。ネオは怪訝そうな声色で尋ねた。
「どうした?」
「そ、それが……」
震える指で、画面を指し示す。モニターには地面に倒れ伏すガイア――ステラと、見慣れない青いMSが映し出されている。
「ほぉ、これは……」
スティングたちと初めて遭遇した時に戦闘していた相手、インパルスだ。
突如として姿を現した青いインパルスは走り込み、絶叫を放ちつつガイアの頭部へ拳をめり込ませた。
そのまま拳を振りぬく。不意打ちを喰らったガイアはそのまま何メートルも殴り飛ばされる。
倒れたガイアのもとへ、二人が駆け寄る。立ち上がったガイア――ステラは憎悪に燃える瞳でインパルスを睨みつけ、突進する。
「お前、お前―!」
「あいつ、よくも」
「今日こそ消えな!」
一拍遅れて、カオスとアビスも襲い掛かってくる。シンは拳を構えて跳躍し、踊りかかった。
こいつら、前より強くなってる!?
戦いながら、シンは痛感した。自分自身、前よりも強くなっているという自負はあったがこの三体も同様に強くなっている。しかも、連携もさらに巧みになっていた。
カオスが飛行形態で急降下、インパルスを引き裂こうと、鉤爪を煌かせる。避けたところへ、ガイアが翼のような刃を広げて突っ込んでくる。
それを何とか受け止めたものの、シンはおおいにバランスを崩した。
「もらったぁ!」
「しまった!」
その隙を逃さず、アビスが槍をかざして迫り来る。もはや、避けようの無い至近距離だ。
そこへ銃声が鳴り響き、わずかにアビスがバランスを崩す。何とか体勢を立て直したシンはアビスへ蹴りを見舞い、跳躍して間合いを取った。
今のは!?
警察の人か誰かだろうとは思いながら、銃声のした方へと顔を向けた。
「あんた?」
シウスを構えていたのは予想外の、しかし、ある意味で期待していた通りの人物だった。
ヘルメットをかぶり、ボディアーマーを身につけているせいで人相が分かりにくいが間違いない。先日オーブに逃げ帰ったはずの、アレックス・ディノだ。
「邪魔だぁっ!」
叫びながらガイアがアレックスへと襲い掛かる。同時に、カオスが人型となってシンへと蹴りかかる
お互いにMSの攻撃をかわした二人は、背中合わせとなって敵と向かい合った。
「何で来たんですか、あなたは!」
やはりこの人は期待通りの人間だった。胸に暖かいものがこみ上げてくるのを自覚しながらも、それを認めまいとわざと怒鳴るような言い方をする。
「君こそ、何で来た!」
アレックスも負けじと怒鳴り返した。こちらも、ある種の期待と予想をしながらの叫びだ。
インパルスの肩越しにカオスへと銃撃を見舞い、アレックスの背中へと飛び掛ったガイアには跳躍したインパルスの蹴りが入った。
着地し、ガイアへと拳を見舞いながらシンが答える。
「誰かが死ぬのを、黙ってみているなんて出来ませんよ!」
薙ぎ払われる強靭な腕を前転でかわし、左手をついて起き上がりつつ緑色のボディへと連射しながら、アレックスも叫ぶ。
「俺も同じだ!」
「え!?」
「俺だって、守りたいものは……!」
アレックスの言葉は、激しい大地の鳴動によって中断された。世界が終わるかと思われるような、すさまじい震動。
一瞬時間切れかと疑ったが、ユニウスセブンが沈没するにはまだ早い。その前兆の、異常現象だろう。
地面に次々と裂け目が入り、陥没し、せりあがっていく。立っていることさえできないような、激しい揺れだ。
地面に片手を着いて身体を支え、それでも銃を構えるアレックスだったがガイアたちの姿を完全に見失った。
顔を動かして目標を捜すが、手が、足さえもが支えを失う。ついに地面が割れてしまったのだ。建物が崩れ、瓦礫が、何もかもが裂け目に落ちていく。
シンを、アレックスをも巻き込んで。
そのまま拳を振りぬく。不意打ちを喰らったガイアはそのまま何メートルも殴り飛ばされる。
倒れたガイアのもとへ、二人が駆け寄る。立ち上がったガイア――ステラは憎悪に燃える瞳でインパルスを睨みつけ、突進する。
「お前、お前―!」
「あいつ、よくも」
「今日こそ消えな!」
一拍遅れて、カオスとアビスも襲い掛かってくる。シンは拳を構えて跳躍し、踊りかかった。
こいつら、前より強くなってる!?
戦いながら、シンは痛感した。自分自身、前よりも強くなっているという自負はあったがこの三体も同様に強くなっている。しかも、連携もさらに巧みになっていた。
カオスが飛行形態で急降下、インパルスを引き裂こうと、鉤爪を煌かせる。避けたところへ、ガイアが翼のような刃を広げて突っ込んでくる。
それを何とか受け止めたものの、シンはおおいにバランスを崩した。
「もらったぁ!」
「しまった!」
その隙を逃さず、アビスが槍をかざして迫り来る。もはや、避けようの無い至近距離だ。
そこへ銃声が鳴り響き、わずかにアビスがバランスを崩す。何とか体勢を立て直したシンはアビスへ蹴りを見舞い、跳躍して間合いを取った。
今のは!?
警察の人か誰かだろうとは思いながら、銃声のした方へと顔を向けた。
「あんた?」
シウスを構えていたのは予想外の、しかし、ある意味で期待していた通りの人物だった。
ヘルメットをかぶり、ボディアーマーを身につけているせいで人相が分かりにくいが間違いない。先日オーブに逃げ帰ったはずの、アレックス・ディノだ。
「邪魔だぁっ!」
叫びながらガイアがアレックスへと襲い掛かる。同時に、カオスが人型となってシンへと蹴りかかる
お互いにMSの攻撃をかわした二人は、背中合わせとなって敵と向かい合った。
「何で来たんですか、あなたは!」
やはりこの人は期待通りの人間だった。胸に暖かいものがこみ上げてくるのを自覚しながらも、それを認めまいとわざと怒鳴るような言い方をする。
「君こそ、何で来た!」
アレックスも負けじと怒鳴り返した。こちらも、ある種の期待と予想をしながらの叫びだ。
インパルスの肩越しにカオスへと銃撃を見舞い、アレックスの背中へと飛び掛ったガイアには跳躍したインパルスの蹴りが入った。
着地し、ガイアへと拳を見舞いながらシンが答える。
「誰かが死ぬのを、黙ってみているなんて出来ませんよ!」
薙ぎ払われる強靭な腕を前転でかわし、左手をついて起き上がりつつ緑色のボディへと連射しながら、アレックスも叫ぶ。
「俺も同じだ!」
「え!?」
「俺だって、守りたいものは……!」
アレックスの言葉は、激しい大地の鳴動によって中断された。世界が終わるかと思われるような、すさまじい震動。
一瞬時間切れかと疑ったが、ユニウスセブンが沈没するにはまだ早い。その前兆の、異常現象だろう。
地面に次々と裂け目が入り、陥没し、せりあがっていく。立っていることさえできないような、激しい揺れだ。
地面に片手を着いて身体を支え、それでも銃を構えるアレックスだったがガイアたちの姿を完全に見失った。
顔を動かして目標を捜すが、手が、足さえもが支えを失う。ついに地面が割れてしまったのだ。建物が崩れ、瓦礫が、何もかもが裂け目に落ちていく。
シンを、アレックスをも巻き込んで。
「マユちゃん! こんなところで何してるの!?」
突然飛び出して姿の見えなくなったマユを捜していたルナマリアは屋外まで出てついに少女を見つけた。
赤いバイクにもたれかかりながら、声を殺してすすり泣いている。
ルナマリアの声にやっと顔を上げたマユは、涙で目を晴らした瞳を向けた。赤くなった目が夜闇の中でも分かる。痛々しさに、胸が締め付けられるような思いがした。
「ルナマリア……さん?」
「突然飛び出したと思ったら。どうしたのよ、一体?」
マユの前にかがみこんで、優しくその体を抱きとめる。
冷たい。全身が小刻みに震えていて、唇も青ざめている。こんなになるまで、ずっとここにいたなんて。
ルナマリアは自分が羽織っていたカーデガンをマユに着せ、優しく叱りつけた。
「もう、こんなに冷え切っちゃって、風邪ひくわよ。何やってるのよ」
マユはルナマリアの叱責にびくっと身体を震わせ、目に涙をあふれさせる。いきなり胸にしがみつかれ、ルナマリアは困惑した。
「え、ちょっと……」
「お兄ちゃんが、お兄ちゃんがっ!」
彼女の言葉にもかまわず、マユはひたすら泣きじゃくった。
はじめは戸惑っていたルナマリアも、優しく背中に手を伸ばし、マユの体を抱きとめた。
小さく華奢な肩は震え、冷たかった。
突然飛び出して姿の見えなくなったマユを捜していたルナマリアは屋外まで出てついに少女を見つけた。
赤いバイクにもたれかかりながら、声を殺してすすり泣いている。
ルナマリアの声にやっと顔を上げたマユは、涙で目を晴らした瞳を向けた。赤くなった目が夜闇の中でも分かる。痛々しさに、胸が締め付けられるような思いがした。
「ルナマリア……さん?」
「突然飛び出したと思ったら。どうしたのよ、一体?」
マユの前にかがみこんで、優しくその体を抱きとめる。
冷たい。全身が小刻みに震えていて、唇も青ざめている。こんなになるまで、ずっとここにいたなんて。
ルナマリアは自分が羽織っていたカーデガンをマユに着せ、優しく叱りつけた。
「もう、こんなに冷え切っちゃって、風邪ひくわよ。何やってるのよ」
マユはルナマリアの叱責にびくっと身体を震わせ、目に涙をあふれさせる。いきなり胸にしがみつかれ、ルナマリアは困惑した。
「え、ちょっと……」
「お兄ちゃんが、お兄ちゃんがっ!」
彼女の言葉にもかまわず、マユはひたすら泣きじゃくった。
はじめは戸惑っていたルナマリアも、優しく背中に手を伸ばし、マユの体を抱きとめた。
小さく華奢な肩は震え、冷たかった。
「うぅ……」
目の覚めたシンは、ぼんやりとした意識をはっきりさせようと頭を振った。
「そうだ、あの人は?」
すぐに気になって、辺りを見回す。
真っ暗で、何も見えない。
懸命に目を凝らす。地面には瓦礫ばかりが転がっていて、人の気配がまったくない。
まさか……。
かすかな不安が胸をよぎるが、暗闇の向こうから声がかけられ、打ち消される。
「気がついたか?」
その声を聞いて安堵した自分に気付き、勝手に腹を立てる。同時にかすかな明かりが灯り、目を細めた。たいした明かりではなかったが、暗闇に慣れ始めた目には少し刺激があった。
ライターの小さな炎に照らされた端正な顔は、紛れも無いアレックスのものだ。どうやら、先に目覚めていてこの辺を回っていたようだ。
「探してみたが、直接上へ登るのは無理なようだ。何とか、上へつながる道を探すしかないようだ」
頭上を見上げ、アレックスが言う。釣られてシンも店を見上げた。暗くて分かりづらいが、小さな裂け目からかすかな星明りが見える。どうやら、あそこから落ちてしまったらしい。
かなりの高さがある。手をかけられそうなところも無い。これでは、登るのは到底無理だろう。
それは理解したものの、アレックスの言う事をそのまま認めるのが癇に障ったシンは、反対方向に向かおうとした。だがアレックスに肩を掴まれ、止められる。
「ついて来い。多分、出口はこっちだ」
そのまま自信ありげな足取りで暗闇の中へと向かう。
いくら腹が立とうとも、何とかしてここから出なければ、海の藻屑となってしまう。
そうなったら、マユにも、レイにも、ルナマリアにも、誰にも二度と会えなくなる。それだけは嫌だ。
シンは悔しさをこらえつつ、アレックスの後を追いかけた。その先に何があるか、そんな事を考えることもなく。
先ほどからずっとモニターに向かいっぱなしのオペレーターへと、ネオはおもむろに尋ねた。彼は黙って首を振る。
それを見てネオは少し考えるかのように口元に手を当て、やや困惑したようにため息をついた。この作戦においてネオに付けられた副官、イアン・リーがあっさりと問いかける。
「失敗ですかね」
新たな兵器の実戦テストのことだ。
もともと、彼はあの新兵器――スティングたちが嫌いだった。兵器というのは確実性、安定性が第一に要求される。不確実な兵器など、いくら利用価値が高くてもあてにする気にはなれない。
「長引けば、こちらも保ちませんよ」
続けて上官に注意を喚起する。この海域に長くとどまることは望ましくない。見つかりにくいところに停泊しているとはいえMSが襲撃してこないとは限らない上、
ユニウスセブンが沈没すればそれに巻き込まれる可能性が高いからだ。
「分かってるよ。だが、失敗するような連中なら俺だって最初からやらせはせんしな」
スティングたちの発見以降、ずっと彼らの調整に付き合っていたネオは、彼らの能力に対しては信頼感を覚えていた。少し考えたあと席を立つ。
視線で問いかけるリーに答えながら、彼は格納庫の方へと向かった。
「見つかったら連絡してくれ。場合によっては俺が連れ戻す」
「はっ」
リーはそれについて意見することもなく、手元のインターフォンを取って伝えた。
「格納庫、今から隊長がそちらへ向かう。用意しておけ」
『用意ってまさか……。ダメですよ! あれはまだ……』
研究員の文句をそこまで聞いてインターフォンのスイッチを切った。
細かい交渉の方は向こうのほうで勝手にやってくれるだろう。いくら副官とはいえ、そこまでの面倒は見切れない。
第一、使う機会が無い可能性だってある。指揮官が戦場に出るなど、感心できないことだ。本当ならそれが一番楽でいいのだが、まず無理だろう。
何も映らないモニターを眺めながら、リーは静かにそう考えた。
目の覚めたシンは、ぼんやりとした意識をはっきりさせようと頭を振った。
「そうだ、あの人は?」
すぐに気になって、辺りを見回す。
真っ暗で、何も見えない。
懸命に目を凝らす。地面には瓦礫ばかりが転がっていて、人の気配がまったくない。
まさか……。
かすかな不安が胸をよぎるが、暗闇の向こうから声がかけられ、打ち消される。
「気がついたか?」
その声を聞いて安堵した自分に気付き、勝手に腹を立てる。同時にかすかな明かりが灯り、目を細めた。たいした明かりではなかったが、暗闇に慣れ始めた目には少し刺激があった。
ライターの小さな炎に照らされた端正な顔は、紛れも無いアレックスのものだ。どうやら、先に目覚めていてこの辺を回っていたようだ。
「探してみたが、直接上へ登るのは無理なようだ。何とか、上へつながる道を探すしかないようだ」
頭上を見上げ、アレックスが言う。釣られてシンも店を見上げた。暗くて分かりづらいが、小さな裂け目からかすかな星明りが見える。どうやら、あそこから落ちてしまったらしい。
かなりの高さがある。手をかけられそうなところも無い。これでは、登るのは到底無理だろう。
それは理解したものの、アレックスの言う事をそのまま認めるのが癇に障ったシンは、反対方向に向かおうとした。だがアレックスに肩を掴まれ、止められる。
「ついて来い。多分、出口はこっちだ」
そのまま自信ありげな足取りで暗闇の中へと向かう。
いくら腹が立とうとも、何とかしてここから出なければ、海の藻屑となってしまう。
そうなったら、マユにも、レイにも、ルナマリアにも、誰にも二度と会えなくなる。それだけは嫌だ。
シンは悔しさをこらえつつ、アレックスの後を追いかけた。その先に何があるか、そんな事を考えることもなく。
先ほどからずっとモニターに向かいっぱなしのオペレーターへと、ネオはおもむろに尋ねた。彼は黙って首を振る。
それを見てネオは少し考えるかのように口元に手を当て、やや困惑したようにため息をついた。この作戦においてネオに付けられた副官、イアン・リーがあっさりと問いかける。
「失敗ですかね」
新たな兵器の実戦テストのことだ。
もともと、彼はあの新兵器――スティングたちが嫌いだった。兵器というのは確実性、安定性が第一に要求される。不確実な兵器など、いくら利用価値が高くてもあてにする気にはなれない。
「長引けば、こちらも保ちませんよ」
続けて上官に注意を喚起する。この海域に長くとどまることは望ましくない。見つかりにくいところに停泊しているとはいえMSが襲撃してこないとは限らない上、
ユニウスセブンが沈没すればそれに巻き込まれる可能性が高いからだ。
「分かってるよ。だが、失敗するような連中なら俺だって最初からやらせはせんしな」
スティングたちの発見以降、ずっと彼らの調整に付き合っていたネオは、彼らの能力に対しては信頼感を覚えていた。少し考えたあと席を立つ。
視線で問いかけるリーに答えながら、彼は格納庫の方へと向かった。
「見つかったら連絡してくれ。場合によっては俺が連れ戻す」
「はっ」
リーはそれについて意見することもなく、手元のインターフォンを取って伝えた。
「格納庫、今から隊長がそちらへ向かう。用意しておけ」
『用意ってまさか……。ダメですよ! あれはまだ……』
研究員の文句をそこまで聞いてインターフォンのスイッチを切った。
細かい交渉の方は向こうのほうで勝手にやってくれるだろう。いくら副官とはいえ、そこまでの面倒は見切れない。
第一、使う機会が無い可能性だってある。指揮官が戦場に出るなど、感心できないことだ。本当ならそれが一番楽でいいのだが、まず無理だろう。
何も映らないモニターを眺めながら、リーは静かにそう考えた。
「ねえ、マユちゃんは?」
「疲れていたようだ。よく寝ている」
居間に入って来たレイに、メイリンが不安げな声をかけた。
淡白なレイの言葉に満足できず、いてもたってもいられなくなり席を立とうとするが、肩を抑えられ止められた。
「どうするつもりだ?」
「私もマユちゃんのところに行く!」
感情的なメイリンの言葉に、レイは首を横に振った。
「今はルナマリアが見ている。二人だけにしておいたほうがいい」
「でも……」
なおも食い下がろうとしたメイリンに、長くはないが説得力のある言葉を投げかける。
「彼女に任せておけば大丈夫だ。もう少し信用してやれ」
「う……うん」
淡々とした口調ながら、その声に込められた確かな重みにメイリンは口をつぐんだ。
マユはうなされ、布団をはだけてしまう。
ルナマリアはマユを起こさないように気を遣って、乱れた布団を直した。
泣き疲れて眠ってしまったマユの寝顔をまじまじと見る。さっきぬぐったはずの眼の辺りに、また涙が溜まっていた。額には脂汗も浮いている。
よっぽど、悪い夢を見てるのかしら。
ふっと息をついて、ハンカチを取り出しそっと涙をぬぐう。
「……お兄ちゃん、どこ?」
突然言葉が発せられ、ルナマリアはぎょっとして顔を見つめなおした。マユはさっきと変わらず、目を瞑ったままだ。寝言らしい。
ルナマリアは頭を撫でながら、マユの手を握る。まだ冷たいままの手を、優しく、温かく。
少し経ってマユは安心したような、あどけない表情になり、安らかな寝息を立て始めた。
ルナマリアはふっと息をつく。安心すると、ここにいない彼女の兄に対しての怒りがこみあげてきた。
大事な妹を放っぽり出して何をやっているのだろう。彼が帰ってこない限り、この子の涙が晴れることはきっとない。
「シン……、さっさと帰ってきなさいよ」
マユちゃんには、あんたが必要なのよ。
「疲れていたようだ。よく寝ている」
居間に入って来たレイに、メイリンが不安げな声をかけた。
淡白なレイの言葉に満足できず、いてもたってもいられなくなり席を立とうとするが、肩を抑えられ止められた。
「どうするつもりだ?」
「私もマユちゃんのところに行く!」
感情的なメイリンの言葉に、レイは首を横に振った。
「今はルナマリアが見ている。二人だけにしておいたほうがいい」
「でも……」
なおも食い下がろうとしたメイリンに、長くはないが説得力のある言葉を投げかける。
「彼女に任せておけば大丈夫だ。もう少し信用してやれ」
「う……うん」
淡々とした口調ながら、その声に込められた確かな重みにメイリンは口をつぐんだ。
マユはうなされ、布団をはだけてしまう。
ルナマリアはマユを起こさないように気を遣って、乱れた布団を直した。
泣き疲れて眠ってしまったマユの寝顔をまじまじと見る。さっきぬぐったはずの眼の辺りに、また涙が溜まっていた。額には脂汗も浮いている。
よっぽど、悪い夢を見てるのかしら。
ふっと息をついて、ハンカチを取り出しそっと涙をぬぐう。
「……お兄ちゃん、どこ?」
突然言葉が発せられ、ルナマリアはぎょっとして顔を見つめなおした。マユはさっきと変わらず、目を瞑ったままだ。寝言らしい。
ルナマリアは頭を撫でながら、マユの手を握る。まだ冷たいままの手を、優しく、温かく。
少し経ってマユは安心したような、あどけない表情になり、安らかな寝息を立て始めた。
ルナマリアはふっと息をつく。安心すると、ここにいない彼女の兄に対しての怒りがこみあげてきた。
大事な妹を放っぽり出して何をやっているのだろう。彼が帰ってこない限り、この子の涙が晴れることはきっとない。
「シン……、さっさと帰ってきなさいよ」
マユちゃんには、あんたが必要なのよ。
「これは……」
三十分ほど歩いただろうか。時計が壊れ、アレックスの無線も通じないせいで時間が分からない。
出口を探してさまよっていた二人は立ち止まる。その物体が持つ存在感に引き込まれてしまったのだ。
目の前に広がる巨大な物体の異様に、息を呑む。
全体の形状は鯨のようだが、明らかに地球上のどの生物とも異なる別種の生物。胴体の部分から羽根のような骨格が生えているが、空を飛べるとは限らない。
誰もが一度は聞いたことのある、謎に満ちた生物の化石、EVIDENCE01。
そのオリジナルが、目の前に確かに存在していた。
「これが……EVIDENCE01」
アレックスは感慨深げにEVIDENCE01に手を伸ばした。まるで、夢や幻でないかを確かめるように、ゆっくりと。
化石に手を触れた瞬間、まるで電流が走ったような感覚がアレックスの全身を貫いた。
「ぐぅっ!」
アレックスは慌てて手を引っ込めるが、全身の細胞がざわめくような不思議な感覚は消えるどころか増すばかりだ。
身体中がうずき、総毛だつ。奇妙な感覚の嵐に耐え切れなくなり、頭を押さえて片膝を着く。
アレックスは一瞬、見知らぬ少女の姿をまぶたの向こうに捉えた。
三十分ほど歩いただろうか。時計が壊れ、アレックスの無線も通じないせいで時間が分からない。
出口を探してさまよっていた二人は立ち止まる。その物体が持つ存在感に引き込まれてしまったのだ。
目の前に広がる巨大な物体の異様に、息を呑む。
全体の形状は鯨のようだが、明らかに地球上のどの生物とも異なる別種の生物。胴体の部分から羽根のような骨格が生えているが、空を飛べるとは限らない。
誰もが一度は聞いたことのある、謎に満ちた生物の化石、EVIDENCE01。
そのオリジナルが、目の前に確かに存在していた。
「これが……EVIDENCE01」
アレックスは感慨深げにEVIDENCE01に手を伸ばした。まるで、夢や幻でないかを確かめるように、ゆっくりと。
化石に手を触れた瞬間、まるで電流が走ったような感覚がアレックスの全身を貫いた。
「ぐぅっ!」
アレックスは慌てて手を引っ込めるが、全身の細胞がざわめくような不思議な感覚は消えるどころか増すばかりだ。
身体中がうずき、総毛だつ。奇妙な感覚の嵐に耐え切れなくなり、頭を押さえて片膝を着く。
アレックスは一瞬、見知らぬ少女の姿をまぶたの向こうに捉えた。
きめ細やかな白い肌。繊細な面差し。曇り一つない澄み切った瞳に、柔らかな長いピンク色の髪の毛をした、可憐な少女。
少女は微笑みながら、アレックスのもとへ手を伸ばそうとしている。
誰だ、君は?
問いかけ、その手を取ろうとした矢先にアレックスの意識は急速に現実へと引き戻された。
少女は微笑みながら、アレックスのもとへ手を伸ばそうとしている。
誰だ、君は?
問いかけ、その手を取ろうとした矢先にアレックスの意識は急速に現実へと引き戻された。
「アレックス、アレックスさん!」
異常に気付いたシンが呼びかけ、身体を揺さぶる。すぐにアレックスは
「シン、なんだ?」
「いや、突然倒れたものだから。どうかしたんですか?」
「……なんでもない。すぐにここから離れるぞ!」
アレックスはシンを叱責し、急いでこの場を立ち去ろうとする。
ここに長くいるのは危険だ。理屈でなく、そう思えた。
シンを先に追い出した後、アレックスは振り返ってもう一度EVIDENCE01を見た。
それは変わらず、不気味な存在感を醸し出していた。
「……んっ……」
吐息が漏れ、目を覚ました。マユは寝ぼけ眼で辺りを見回し、ルナマリアを見て一瞬きょとんとした表情になった。
「あ、あれ……なんでここに?」
言って、今どうなっているのかを鈍ったままの頭で考える。
ええと、いつの間に寝てたんだろ。ここはマユの部屋で、目の前にいるのはルナマリアさん? 何で、さっきまでマユは……あっ!
一気に頭が覚醒した。さっきまでの行動を思い出し、恥ずかしさに顔を紅潮させる。慌てたマユはルナマリアに向けて何度も頭を下げた。
「あ、あの、ごめんなさい! ごめんなさい!」
その様子に、ルナマリアは吹き出した。マユは頭を上げ、不満げに口を尖らせる。
「何で笑うんですか。謝ってるのに」
「あ、ごめんね。ついつい……。ところで、さっきはどうしたの?」
途端にマユは沈んだ表情になる。ずっと黙ったまま、何も話さない。
ルナマリアはせかすようなこともせず、静かに待った。やがて、ポツリポツリといった風に少しずつ話し始めた。
「あの、突然お兄ちゃんがいなくなっちゃったんです。何も言わなくて。それで、もう会えないと思っ……うえええぇぇぇんっ!」
耐え切れなくなったのか、眼に涙を溜める。そして、ルナマリアの胸にしがみつき、再び泣き出す。
ルナマリアは再びマユを優しく抱きとめた。温かく柔らかいその身体には、やはりシンが必要なのだ。
異常に気付いたシンが呼びかけ、身体を揺さぶる。すぐにアレックスは
「シン、なんだ?」
「いや、突然倒れたものだから。どうかしたんですか?」
「……なんでもない。すぐにここから離れるぞ!」
アレックスはシンを叱責し、急いでこの場を立ち去ろうとする。
ここに長くいるのは危険だ。理屈でなく、そう思えた。
シンを先に追い出した後、アレックスは振り返ってもう一度EVIDENCE01を見た。
それは変わらず、不気味な存在感を醸し出していた。
「……んっ……」
吐息が漏れ、目を覚ました。マユは寝ぼけ眼で辺りを見回し、ルナマリアを見て一瞬きょとんとした表情になった。
「あ、あれ……なんでここに?」
言って、今どうなっているのかを鈍ったままの頭で考える。
ええと、いつの間に寝てたんだろ。ここはマユの部屋で、目の前にいるのはルナマリアさん? 何で、さっきまでマユは……あっ!
一気に頭が覚醒した。さっきまでの行動を思い出し、恥ずかしさに顔を紅潮させる。慌てたマユはルナマリアに向けて何度も頭を下げた。
「あ、あの、ごめんなさい! ごめんなさい!」
その様子に、ルナマリアは吹き出した。マユは頭を上げ、不満げに口を尖らせる。
「何で笑うんですか。謝ってるのに」
「あ、ごめんね。ついつい……。ところで、さっきはどうしたの?」
途端にマユは沈んだ表情になる。ずっと黙ったまま、何も話さない。
ルナマリアはせかすようなこともせず、静かに待った。やがて、ポツリポツリといった風に少しずつ話し始めた。
「あの、突然お兄ちゃんがいなくなっちゃったんです。何も言わなくて。それで、もう会えないと思っ……うえええぇぇぇんっ!」
耐え切れなくなったのか、眼に涙を溜める。そして、ルナマリアの胸にしがみつき、再び泣き出す。
ルナマリアは再びマユを優しく抱きとめた。温かく柔らかいその身体には、やはりシンが必要なのだ。
それから、どれだけの時間が経っただろう。目を赤く腫らしたマユが顔を上げる。
「あ……あの、ありがとうございました。ルナ……お姉ちゃん」
最後に呟くように追加された呼び名に、ルナマリアは驚きわずかに顔を歪めた。
「ごめんなさい! 勝手に変なこと言っちゃって!」
気を悪くしたのかと思ったマユはまたも謝る。ルナマリアはマユの頭をくしゃくしゃと撫で、明るく言った。
「いいのいいの。もっと呼んで!」
変な要求に怪訝な表情をしながらも、ルナマリアの言うとおりにする。
「え? あの……ルナお姉ちゃん?」
ルナマリアは喜びに顔を歪める。マユは少し引き、ベッドの上であとずさった。
「あ……あの、ありがとうございました。ルナ……お姉ちゃん」
最後に呟くように追加された呼び名に、ルナマリアは驚きわずかに顔を歪めた。
「ごめんなさい! 勝手に変なこと言っちゃって!」
気を悪くしたのかと思ったマユはまたも謝る。ルナマリアはマユの頭をくしゃくしゃと撫で、明るく言った。
「いいのいいの。もっと呼んで!」
変な要求に怪訝な表情をしながらも、ルナマリアの言うとおりにする。
「え? あの……ルナお姉ちゃん?」
ルナマリアは喜びに顔を歪める。マユは少し引き、ベッドの上であとずさった。
何とか道を見つけ、地上に出た時には、もう残り一時間を切っていた。時間内に脱出できなければ、二人とも海の藻屑と消えてしまうだろう。
幸い、走れば三十分ほどで着くはずだ。
アレックスはヘルメットに内蔵された通信機を操作し、警察無線にあわせた。警察での作戦時間ももはや限界だ。彼らはもう脱出しているだろうか。
『ジュール隊長、早く脱出してください!』
『いや、まだ襲われている部隊がある!』
『今から向かったところで間に合いませんよ! それに、隊長たちも戦闘続行は困難です!』
『生存者がいるというのに、それを見捨てていけというのか!』
知り合い、イザークと女性の言い争う声が飛び込んできて、アレックスは驚く。
まだ、ZAFTにいたのか。それに、全然変わらないな。
そう思ったアレックスは、無線の周波数を合わせ、通信に割り込んだ。
「生存者の救助には俺が行く。イザークたちは脱出しろ」
幸い、走れば三十分ほどで着くはずだ。
アレックスはヘルメットに内蔵された通信機を操作し、警察無線にあわせた。警察での作戦時間ももはや限界だ。彼らはもう脱出しているだろうか。
『ジュール隊長、早く脱出してください!』
『いや、まだ襲われている部隊がある!』
『今から向かったところで間に合いませんよ! それに、隊長たちも戦闘続行は困難です!』
『生存者がいるというのに、それを見捨てていけというのか!』
知り合い、イザークと女性の言い争う声が飛び込んできて、アレックスは驚く。
まだ、ZAFTにいたのか。それに、全然変わらないな。
そう思ったアレックスは、無線の周波数を合わせ、通信に割り込んだ。
「生存者の救助には俺が行く。イザークたちは脱出しろ」
『えっ? 誰なんですか、あなたは!?』
オペレーターのアビーが問いかけるが、その何者かは答えない。
だが、イザークには分かった。信じられないが、あの声をたった四年で忘れるはずがない。無論、聞き間違えるはずも無い。
『アスラン!?』
彼と全く同じ驚きを込めてディアッカがその名を口にし、ほぼ同時にイザーク自身も反応していた。
「貴様っ……こんなところで何をやっている!?」
『そんなことはどうでもいい。今はこちらに任せて脱出を急げ!』
『あ、ああ』
オペレーターのアビーが問いかけるが、その何者かは答えない。
だが、イザークには分かった。信じられないが、あの声をたった四年で忘れるはずがない。無論、聞き間違えるはずも無い。
『アスラン!?』
彼と全く同じ驚きを込めてディアッカがその名を口にし、ほぼ同時にイザーク自身も反応していた。
「貴様っ……こんなところで何をやっている!?」
『そんなことはどうでもいい。今はこちらに任せて脱出を急げ!』
『あ、ああ』