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夏の日差しの夏祭りのその前の

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夏の日差しの夏祭りのその前の




空高く雲ひとつないじりじりとした日差しが容赦なく降り注ぐ。
アスファルトからはゆらゆらと歪んだ景色を浮かび上がらせる。
黒のアスファルトに白のラインが整然とひかれ、そのラインに沿うように一人の男、大型台が歩いている。

だが、今の彼の姿を見て、その人物が大型台であると気付く人間などどれくらいいるだろうか。
彼が今着ているいるのは無地で灰色の半袖のシャツ、ぴったりとしたジーンズを履き、
銀色のネックレスが胸元で光っている。
そして、最大の違和感として挙げられる事、それは、台が今、リーゼントにしていないことだった。
本来リーゼントになっていたはずの長めの黒髪を無造作に後ろで括っている。
台の手にはひと束の花束、菊やカーネーション、スターチス等多種の花がひと括りにされ、紙に包まれていた。

ゆっくりと歩く台はやがて石でできた古めかしい階段を上っていく。
その足取りは意外なほど重く、一歩一歩ゆっくりと、踏みしめるようにして進んでいった。

やがて登り切り、赤の鳥居をくぐり、しかし社へとは行かず、少し脇の道に入る。
そこから続く道は正確には神社としては使っていない道。
この神社の神主でもある神柚家が住む家へと続く道だった。

その道は碧が生い茂り、日差しを適度に防いでいる。
緩やかに流れる風が、ほんの少しの間、心地よさを与えている。

目の前に一軒の家が現れる。古臭い玄関から今まさに出ようとしている少女が一人いた。
白と赤の巫女衣装に包まれた少女は目の前に台がいる事を確認すると、軽い驚きを共にトコトコと近づいて行った。

「おはようございます。台先輩」
「ああ」

丁寧に会釈をする鈴絵に対し、台はおざなりに返事をする。
微妙に口が重い。その台の様子を気にしつつ、鈴絵はあえて別の事を聞くとこにした。

「夏祭り、今日ですよね。もしかしもう迎えに来てくれたのですか?」
「分かってるだろう? 俺がそんな事すると思ったか?」
「しませんよねー」

肩を竦めて言う台に対し、鈴絵は台の手に持った花束に少し硬い表情浮かび上がらせ、しかしむりやり笑顔にして答える。
まだ、今日の待ち合わせ時間からはまだ随分早い。
手に持った花束を見つつ、鈴絵は台がここにいる理由に思いを馳せる。

大型台は、この先にある墓地。そこに台は用事があった。



墓参り



言葉にすれば一般的に行われるお盆の行事である。
ただ、台が誰の墓にいくのか、そしてその理由を知る鈴絵としては
自分から話題に出しにくいことでもある。


「……もう10年、か」

しかし、ポツリと漏らす台の言葉を鈴絵は聞きとれてしまった。
それは台がその話題に触れてもいいという合図だと鈴絵は解釈した。

「そうですね。台先輩が始めてこの神社にきてから10年です」

それでも、あえて直接的な言葉にせず、鈴絵は話す。
やや、躊躇があった。彼がその話題を正面からするのは始めてだったから。

10年前に見た光景。台の両親が交通事故でなくなり葬式がここで行われたことが、鈴絵が台を知った切っ掛けだった。
毎年盆の時だけ。それもほんの少しすれ違うだけの存在。
それでも鈴絵が気になっていたのは葬式の後に台と話した事が理由だったのか。
高校に入り、美術部に入り、始めて台が仁科高校にいることを知った。

もっとも始めて高校で出会った時は、墓参りにくる時の姿とは余りにもかけ離れていて記憶と中々一致しなかったが。

昔のことに思いをはせながら、鈴絵はずっと気になっていたことを始めて尋ねる気になった。
だから、少しの躊躇の後、ゆっくりと、はっきり分かる形で口を開く。

「台先輩は、大丈夫……になりましたか」

それでも、その言葉をだすのは鈴絵にとっては勇気がいる言葉だった。
返ってくる言葉は予想している。そしてそれは、予想通りだった。

「ああ、もう大丈夫だ」

台は明確に答えると、再び台は歩き出し鈴絵の脇を通り過ぎる。

「あ」

緊張から解放された安堵感からか、それともべつの要因か。言葉にならず、鈴絵はそのまま言葉を止める。
代わりに台は歩きながら声だけを鈴絵に掛けた。

「約束3時だったな?」
「はい、遅れないで下さいね」
「分かってるさ」

そして、彼はゆっくり、一歩一歩踏みしめるように奥へと続き、墓地に続く道を歩いて行った。



「……さて、私も準備しないとね」


その背を見ながら、鈴絵もまた準備のために家へと戻るため踵を返す。

彼女の足取りは誰が見ても分かるほど軽かった。



終わり。


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