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実は響鬼よりも初代が好きなんだ、俺

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実は響鬼よりも初代が好きなんだ、俺


510 名前: ◆JOjO5CPwM2 [sage] 投稿日:2009/12/09(水) 21:22:19 ID:JkB5cM3b

朝。
学校に来たら大体の人間が『よ~し、今日もアタシ、頑張るわよ!』なんて思うであろう。
が、しかし。今日の俺はというと…その…
きつい。
身体中が軋む様に痛い。
寝違いとかのレベルじゃない。
そもそも、寝違いだけでこうなるだろうか?普通、ならない。なったとしても首の痛みが増すだけだよ馬鹿野郎。

「ゆーいーちろー?どーしたのよそんな暗い顔して」
「…暗いんじゃない、痛いんだよ馬鹿…」

そんな俺に話し掛けてきたのがこの鷲ヶ谷和穂である。
今まで話してきた通りの奴なので説明は省くが…元気の塊みたいな奴だ。
…おそらくこの状況ならば…間違いなく初めてパズルをする子供のピースの様に噛み合わない会話が展開されるであろう。

「何処が痛いの?」
「全身だ。昨日何かした訳じゃないし、筋肉痛とは考えられないんだが…」
「じゃあ昨日の夜、誘拐されて改造されたとかかな?」
「何処の仮面ライダー1号だ」

さぁ、早速始まりましたよ言葉のドッヂボール。
しかしこいつと会ってから俺、突っ込み増えたな。
昔はたまにボケたのに。

「そういえば仮面ライダーってさ、前楽器で戦う奴あったじゃん」
「響鬼か?」
「そう!それそれぇ!ボクさぁ!それが大好きで大好きで…」
「意外だな、お前が特撮好きなんて」

言葉通り、意外だ。こいつは子供は風の子を体で表す奴かと思ってたんだが、まさか特撮を見てるなんてな。
しかし流石にキカイダーとかライオン丸は知らんだろう。一応もう片方の。
まぁ世代的にはビーストウォーズは知ってるだろうが、別にその話は置いておこう。

「そういや、なんでお前知ってんだ?響鬼とかそういうの」

痛い体に鞭打って俺は首を机から和穂へと移す。ああマジいてぇ。

「いやさぁ、妹が特撮好きで…ボクそれしか知らないんだけど、面白くてさ」
「それしか知らないのか…って妹ォ!?おま、妹いんのか!?」
「え、話してなかったけ?『かなえ』っていう妹が居るんだよ?実は」

…し、知らなかった。痛み吹っ飛んだぞこの野郎…
しかし、かなえか。また普通な名前だが、こいつの妹だ。瓜二つなんだろう。
…うわぁ。めんどくせぇ。

「あ、普通の名前じゃないし、瓜二つでもないよかなえは」
「心を勝手に読むんじゃねぇ!」
「ごめんごめん。んで、かなえはね…」

そう言うと和穂は『歴史』と書かれたノートを取り出し、後ろらへんのページを綺麗に破ると、何処からともなく出てきたボールペンで書き始める。

「えっと…確か、これかな?」

そこに書かれていた字は『県』。
これでかなえなんてのはあり得ない。こいつ、間違ったのか?

「あっ!違う!これじゃないよかなえの字は!」
「…」

…当たった様だ。
そうすると和穂は『県』の直角になってる所を反転させた様な直角をまた書く。
…やめろ。自信満々でこっち見るな。言いづらくなるだろう。これ、『鼎』なんだろ?な?分かるんだよ和穂。
でもこれじゃハングル文字みたいになってんぞお前。新しい文字が生まれた!わーいってなるか?ならないよ普通に考えて。
…あぁ、言えん。俺には無理だ…

キーンコーンカーンコーン…

「あ、チャイムだ…一時限目なんだっけ?雄一郎」

ゔお゙お゙お゙お゙お゙!チャイムよくやった!ナイスタイミング!これは国民栄誉賞、いやノーベルさんからの贈り物貰っても良いくらいだぞお前ェェェェ!

「え?あ、あぁ。確か美術だった気がしないでもないな」
「断言してよ!まぁ良いけど」

い、良いのか…?
けど、この高ぶった感情を早く押さえ、今すぐ準備をしなくては。


「確か…色鉛筆がここに…」

そう言って今日課題で使う色鉛筆を、俺は机の奥から取り出したはずだったのだが。

「あれ?」

無い。机の中を眺めてみても、色鉛筆が無い。
あ、これ若干不味いかも分からんね。
いや…一応聞いてみるか…

「わ、鷲ヶ谷さーん…?あの…色鉛筆貸してくれませんかねー?」
「え、良いよ?別に」

なんかあっさりだなオイ。まぁ別に良いが。

「じゃ、じゃあ美術の時に使わせて―――」
「でもボク残念ながら赤と青と緑しか持ってきてないんだよね」
「三原色!?おま、それ無理ってレベルじゃないぞ!」

…いかん、まだ体が痛いせいで三原色とか訳分からん突っ込みしちまった…って、そういう問題じゃない訳だが…どうすっか。
…とりま(とりあえずまぁ)、こういうのが良策だろう。

「和穂、先に行っててくれ。なんとかする」
「なんとかするって…どうやって?」
「話す事より始めようって誰かが行ってたからな…そういう訳だ。和穂」
「むぅ…」

和穂は若干不服そうながらも頷くと、三本の色鉛筆を持ち、扉へと向かう。

「じゃ、そういうなら頑張ってね雄一郎。あんま無理したら…ボク怒るからね」
(漫画だったらそれ俺に死ねって言ってるもんだし、笑顔で言うな。逆にこえぇよ)

そう思う俺を尻目に、逃げる様に教室を出ていく和穂を、痛みと呆然となり、椅子から立つ事もない俺。

教室内に残ったのはおそらく俺だけであろう。
どうする。どうすれば良いんだ俺。

「助けてくれー…誰かぁ…」

神にすがる思いで、そんなのあるはず無いと分かっているのに、俺は呟いた。
神様仏様稲尾様。どうか俺に奇跡を下さい。
くれたら俺、なんでもするから。

「…まぁ、奇跡なんてそんな簡単には起こらんよなぁ…」

はぁ、と溜息をつく。
体全身の痛みが更に増した様に感じた。
精神効果って凄いんだな。

「…はは、まぁ良い…先生に謝りに行くか…」

こうなったら半ば暴挙だ。

俺は更に痛くなった体に鞭を打ち、椅子から立ち上がると、小さい歩調で歩き始めたその時だった。

「確か…小鳥遊さんだっけ」
「?」

声が聞こえた。
そしてその声が聞こえた方を見ると、髪が曲線の様に滑らかで、顔は整っており、どちらかというと中性的、というフレーズがぴったりであろう男が立っており、にこやかな表情とともにこちらを見ていた。

「牧村…拓人だっけか、確か。何だ?」

恐らく記憶によるとこいつは牧村拓人。
普段は地味でおとなしいが、紳士的というか親切というか。そんな部分が伺える奴だ。
だからその為か、こいつと話すのはあんま無いんだが。

「なんか困ってるみたいだったからね…僕でよければ力を貸すけど」
「あー…それは嬉しいんだが、その…あの…」
「別に普段話さないから、とかそんなもの関係無いよ。困った時はお互い様っていうしね」

俺の顔はポーカーフェイスじゃないんだろうな。ギャンブル漫画とかだったら絶対すぐやられるタイプなんだろう。多分。

「えーと…じゃあ…色鉛筆って持ってないか?」
「8色ならあるけど…はい」

有り難いです牧村様。いや、冗談抜きで。
お前女だったらマジで惚れてるよ今頃。

「す、すまん。恩に着る」

俺はそう言うと、拓人から貰った8色色鉛筆を受け取る。
最近買ったらしいのか、はたまたあまり使ってないのか、少し小さくなっていた以外は普通、使いやすい部類に入るんだろう。

「つーか、お前はどうすんだ拓人?」
「あ…僕はこれがあるから大丈夫」

そう言っておそらく使い込んでいるのだろうか、紙に近い材質で出来たケースは、既にボロボロで、所々セロハンテープで補強を行っていたり、色鉛筆は全て均等に無くなり、もう子供の小指程に小さくなっていた。

「…おい、それ」

つい指を指してしまう俺。
指を指された側の拓人はあはは、と自分に呆れた様な笑いをした後に返事を返してくれた。

「え?いや、実はこれ小学…六年くらいから使ってる物なんだけどね。愛着が出来ちゃって。修理か補修か分かんない様な事してたらこうなっただけ」
「…じゃあ、これは?」

俺は指差していた人差し指を持っている新品同然の色鉛筆へと移す。
拓人はすぐに「それは母さんに言われて買っただけ」と俺に言う。

「…あ、不味いよ小鳥遊さん。そろそろ美術が始まる!」

いきなり言われて俺は教室に目をやる。
時間が残り一分を切っている。
これは流石に行かなくちゃならんか。

「あ…拓人。すまんな。お前まで巻き添え食らわせた」

ばつの悪い顔をしながら俺は拓人に返す。
拓人は「いいよいいよ」と気を遣ってくれた。良い奴だコイツ。

「あ…そうだ、小鳥遊さん」
「さん付けやめい。呼び捨てか、それに近いのに」
「え…じゃあ、小鳥遊くん先、行くよ?」

久々に名字で呼ばれたな俺。

「あいよ。俺も行くわ」

―――まぁ良いや。
今はこの足を急かすのが先決だからな。
そう思うと俺の足は早く動き始める。
ただ、美術室に向かって、その足は向かっていた。



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