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パワーリフターアゲル

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nisina

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パワーリフターアゲル



「そんな‥‥‥ホントに辞めちゃうんですか先輩!?」

「ロニコ‥‥聞いてたのか?」

重量挙げ部マネージャーのロニコ・ブラックマンが慌てた様子で話し掛けて来た。
アメリカ人とのハーフである彼女はまだ16歳でありながら身体はすでに成熟しており、容姿は美しい。性格も素直で明るく、誰とでもすぐ仲良くなれるような女の子だった。
しかし、ある理由により言い寄る男はほとんどいない。

「先輩いなかったら重量級の枠が空いちゃいます‥‥せっかく県大会でも優勝してこれからだって時なのに‥‥」

「すまんな。もう決めた事なんだ。上糸部長には申し訳ながパワー一本で行く事にするよ」

アゲルの実力は県内ではほとんど敵無しであり、日本人離れした体格のアゲルは重量級としてはスマートだった。
アゲルを上回るレベルの選手は階級が違えど上糸部長しかいない。

「‥‥そうですか‥‥残念です‥‥でも、そっちに行っても頑張って下さいね‥‥?

「ああ、約束するよ」

「約束ですよ‥‥?」

 ロニコがうっすら涙を浮かべているのをアゲルは見た。
彼女がマネージャーになってまだ一年も経っていないが、彼女もアゲルと同じ立派な重量挙げ部の仲間なのだ。仲間の離脱に彼女は泣いていた。
その涙は彼女の根心の優しさの現れであり、アゲルの心にも彼女の優しさが深く響いていた。
しかし一言でそのムードは一変した。

「ふう‥‥泣いてばかりじゃダメですよね!よし、ダイエットついでに少しバーベル使わせて下さい!」

「‥‥えっ?」

 アゲルは思わず言葉を失った。
その言葉に中部はプロテインを吹き出し、上糸部長がプレートを脱落させ、たまたま機材を利用していた野球部の連中の顔が青ざめた。

「いや~‥‥今はいいんじゃない?ホラ、部長スクワットでラック使ってるし、野球部の人ベンチ使ってるし中部も‥‥」

 しかし、中部は既に逃走していた。

「大丈夫ですよ!デッドリフトならラックもベンチも使いませんから!」

最悪だ。まだラック使わせたほうがよかった。
ロニコにデッドリフトをやらせたらアメリカ人の血が騒ぎだす。 そしてそれこそが、ロニコに男が言い寄らない理由だった。

「(もう止められない‥‥)」

彼女はただトレーニングしようとしているだけだ。無下に止める理由は無い。ただ見たくないという理由では止めさせられないだろう。

そうこうしている内にロニコは手際よくバーベルを転がし、プレートをセットした。

「無駄に慣れてやがんな‥‥」

セットしたバーベルは150kg。人類が行う種目で最大重量を扱うデッドリフトとはいえ女性としては結構な設定重量だ。
ロニコはマイベルトを身体に巻き、ヨーロピアンスタイルでバーベルを握った。
そして腹圧を高め、「変身」した。

「イエェェェェーーーーベイベーーーー!!!!!」

「LightWeight! LightWeight!baby!」

ロニコの目は野獣に変わっていた。
挙上前にテンションを高める事よく知られたテクニックだが、ロニコのそれは異常だった。

「LightWeight!yehhhhhhh!!!!」

「ライウェーライウェーうるせぇな!」

 アゲルは思わず悪態をつく。しかしロニコには聞こえた様子は全くない。いまの彼女にはバーベルしか見えていない。

「Ahhhhhhhh!!!」

ロニコは気合いと共にゆっくりとバーベルを引き上げ、顔面は鬼の形相。
あの綺麗な顔立ちが限界まで歪んでいる光景はもはや滑稽の域であり、普段のロニコを知っているアゲル達はもちろん、そうでない人でも僅かでも彼女に興味を持つ男性であれば、一瞬で淡い幻想を打ち砕く威力を誇っていた。

ロニコはデッドを3レップ終えるとバーベルを床に落下させ、乱れた呼吸で言い放つ。

「No Sweat! HAHAHA!(楽勝だぜ!)」

「(これさえ無きゃモテそうなんだがな‥‥)」
アゲルは遠くを見つめた。



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