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カップル撲滅運動宿命のライバル編

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nisina

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カップル撲滅運動宿命のライバル編



「諸君。由々しき問題が発生した」

 ここは4~5人が入ると一杯になってしまうような小会議室。
 そこには部屋を無断借用した3人の怪しい影が蠢いていた。
 その中の一人、肘をつき、腕を組んだポーズで冒頭の発言をした那賀は言葉を続ける。

「俺達の、究極な目的であるカップル撲滅を邪魔する敵が遂に現れたのだ!!」

気分が高揚したのか、突然くわっと目を見開き那賀は立ち上がる。

「その名は謎の美少女戦士カップルウォッチャー!!
諸君! 我々の敵をどうにかしようではないか!! 」

握り拳を振り上げて演説する那賀。その意気、熱意は肌で感じられるほどだ。
そして、そんな那賀と一緒にいる残りの二人はと言うと、

「どー考えても謎じゃないっすから。二年の近森ととろっすよ。あれ」
「省、諦めろ。那賀はこういう正義と悪みたいなシチュエーションが大好きなんだ。
あいつが3年間カップル撲滅運動を続けてやっと現れたライバル役だぞ。
喜ぶにきまってるだろ」
「そうっすねぇ。でも俺としてはどうでもいいんっすけど」
「ま、出てこられると対処に困るのは確かだがな。カップルでもなしに力づくってわけにはいかないからな」
「こないだは卓上同好会がいて助かったっすよね」

意外と冷めた状態で会議に参加していた。

そんな冷めた二人の前で、那賀は鼻息荒く白のチョークで黒板へと書き始める。
その文字は大きく"謎の美少女戦士対策会議"と書かれていた。

「さて、そういうわけだ。まずは謎の美少女戦士を罠に嵌めるために誘い込まなければならない」
「近森ととろを呼び出すのか? ラブレターのふりして下駄箱に置いておけばほいほい来るだろ」
「俺なら行くっすね。絶対罠だと分っててもいくっす!」
「台、お前は間違っている! 呼び出す相手は近森ととろじゃない! "謎の美少女戦士"だ!
 大事なことだからもう一度言うぞ!"謎の美少女戦士"だ!」

繰り返し念を押す那賀。
その情熱はどこから来るのか台と省にはわからないが、どうやら那賀のツボに入ったようだ。

「あーそれは分ったから。で、どうするんだ実際」
「あ、それはこんな感じで釣って……」
「あー、その役なら嬉々として乗ってくれそうな奴が一人いるな。当たってみるか?」
「相手役は?」
「……多分、被害者になるだろうな。今の内に菓子の一つでも買っておくか」
「俺だったら絶望するっすね」


こうして、カップル撲滅運動一世一代の大作戦が始まった――



校舎裏。普段はほとんど人がいない場所。
綺麗に整えられた芝生で覆われ。入学式近くになると桜が咲き乱れる。そんな場所。
そこは恋人たちがひと時の語らいをする場所でもある。

しかし今日は様子がちょっとだけ違っていた。
真剣な表情で立っているのは一人の男子。
優しそうな風貌。やや中性的だが、ほとんどの人が上の下と評する容姿の高校生だった。

相対するは、人形のような儚げな美しさを持つ少女。
少し俯きながら、しかし目は青年を見つめ続けている。
少女のアッシュブロンドの髪が風で流れる。
それを右手で軽く押さえ、少女の方が口を開いた。

「それで、話って……なにかな?」
その口調は緊張のためかたどたどしい。高校生はその問いに口を開けかけ、また閉じるを繰り返している。
やはりその高校生も緊張のためか中々声が出ないようだ。

そのまま、時間だけが過ぎていく。
何もない二人だけの空間がそこには作られつつあった。

――ただし、それを見守る一対の目があることを除けばだが。




(あ~。もうじれったいなぁ! いけっ! いけっ!! ひと思いに言ってしまえ!!)

ちょっとした草むらの陰、そこにはオペラグラス越しに凝視し、片手に固く拳を握りながら応援する一人の少女がいた。
手に汗を握るとはまさにこの事、とばかりに固唾を飲んで凝視している。

いまさら説明するまでもあるまい。
近森ととろは真田ウェルチに告白しようとしている高校生がいるとの情報を手にいれると、
一目散に最上の観覧場所を脳内検索。そこに張り込むことにした。
はたしてその結果は大成功。今、こうして目の前で大勝負の状況が展開されていた。

告白の瞬間とはまさに一世一代の大勝負。それを見逃す手はあり得ない。
そう、今、この空気は最高の甘味と言える。

目の前で青年が動く。一度空気を吸い込み、次に深く吐きだすと視線をウェルチの目にまっすぐ向けた。

(よし! そこだよっ! 一気に行くんだよ!!)

近森ととろの陰ながらの応援に力がこもる。


――そして


「ほう、まさかこんな影でこそこそ何をしようとしてるのかな? 全く、学校の風紀の乱れは嘆かわしいな」
「まったくだ。こんな所でいちゃいちゃしやがって……けっ!!」
「そうっす! 俺達の目の黒いうちはてめえらに好き勝手させねえっす!」

三人の影がそこに現れる。
青年は慌ててウェルチを背後に隠すように立ち向き合う。

「あんたたちは……まさか……」

青年の言葉に三人は口の端を釣り上げ、嗤った。

「くくく……そう、俺達は世のカップル達を撲滅するために現れた悪魔だ」
「カップルとは最強の敵。故に相手に不足はない」
「俺達に見られたが最後っす。お前たちのような奴らを倒すため俺たちは現れたっす」

その口上はカップルに畏怖を与えるためか。ゆらりと近づき後、5歩というところで止まる。

リーダーだろう台が嗤い宣告する。

「判決、死刑」

その言葉に反応するように那賀と省が取り囲むように回り込む。

そして、3人同時に口を開いた

「「「即時、執行開始だ!!!」」」


「待ちなさい!!」


突然の制止の声に不良達は振り向いた。


そこには――


――颯爽と現れた一人の少女の姿があった。

「やはり現れたわね! カップル撲滅運動!! 」

びしっという擬音がぴったりくるような直立不動の姿勢で人さし指を不良に真っすぐ向ける。
トレードマークのハート型アイシールドから見える視線は戦う意思に燃え、
左手に構えたショッキングピンクに彩られた魔法のステッキを不良に向けた。
そう、物理攻撃力を得た彼女にもはや恐れるものはない。

その戦意に燃えるカップルウォッチャーと対照的に不良達は薄く嗤う。

「くくく……謎の美少女戦士カップルウォッチャー!! 我がライバルよ! ついに決着をつけるときが来たようだな!!」

那賀が嗤い、 言い放つ。

「これが罠とも知らずのこのこ現れるとは……バカめ!!」

その言葉に一瞬ととろは動揺するが、それを戯言と切り捨て、再びステッキを構える。

「動揺を誘うなんてしけた作戦ね……CMが終わる前に勝負を決めるよ!!」

しかしその言葉に不良は答えず、黙って下がる。
そして前に来たのはあの告白をしようとしていた高校生だった。

意味が分らず硬直するカップルウォッチャーに那賀は宣告した。

「我が最終兵器を……喰らえ!!」

その言葉に押されたかのように、最終兵器は高校生の口から飛び出した。

「カップルウォッチャーさん……僕と……付き合って下さい!!」

カップルウォッチャーの思考が完全に停止した。
不良達はにやにや笑っている。ついでにウェエルチは興味深々に見守っている。

……5分……10分……時間だけが過ぎていく。

「あ……あの……?」

硬直した時間を打ち破るかのように、ようやく掛けた高校生の言葉。
カップルウォッチャーはその言葉にビクンと震える。
ようやく硬直から解除された彼女は酷く慌てたように手を振り回し、落ち着きなく体と揺らす。

そして、

「え……あの……? そ、その恋に、幸多かひゃれ!!」

結局、思いっきり動揺したカップルウォッチャーは決め台詞を噛みながら口走り、走り去っていた。

「……あ……」

そして、残された高校生は追いかけることもできず、ただ茫然と見送っていたのだった。



とぼとぼと帰る高校生。その姿はまるでくたびれたサラリーマンのようだった。
しかし、その高校生はそのまま放っておいて、不良達(+ウェルチ)は話し込む。

「うーむ。作戦は失敗か」

台が残念そうに声を出す。

「そうだな……"男の一人でもできればカップルウォッチャーなぞしなくなるだろ作戦"は失敗だな」

那賀は余り残念そうではない。ライバルが戦いに勝ったのだ。むしろ那賀にとって燃える展開だった。

「しょうがないっすよ。これで"カップルだから正式に攻撃OK"作戦も駄目になったっすね。
せっかくウェルチさんにあの男を見つけてもらったすのにね」

省はちらちらとウェルチを見ている。
言葉とは裏腹に今までの展開に余り興味がないらしい。

「あの子も結構いい男だと思ったけどねー。ま、今回は縁がなかったということなんでしょう」

ウェルチも肩をすくめながら言った。
「まったく、臆病なんだから」と呟いた声は、不良どもには聞こえない。
そして、ふと、ウェルチは台の方へと振り向き話しかける。

「あ、台。報酬の映画のチケット3人分。ちゃんと用意してね」
「ちっ、憶えてたか。残念だ。何のチケットだったか?」
「"映画版だよややえちゃん!"。ホラーラブストーリーで面白いって評判の」
「ああ、そうだった。今度買ってくる」

どうやら今回、ウェルチは台に買収されていたようだ。
その横では那賀が相変わらず邪悪な笑みを浮かべている。

「カップルウォッチャー……さすが我がライバル。今度はどう料理してやろうか……」

その呟きはウェルチにも聞こえたのだろう。那賀の方に振り返る。
そして、さも今思い出したかのように問いかけた。

「あ、那賀君。そういえばあの映画見にいったのよね」
「ああ、地奈といっしょにな。あの映画は面白かったぞ。
 その後、喫茶・茶々森堂で飯を喰ったな。あそこ意外とうまいんだぜ」

その言葉に反応したのはウェルチではなく台と省。
どうやら那賀は地雷に足を突っ込んでしまったらしい。
二人はあっさり戦闘態勢に入ると那賀に向けて宣告する。

「「よし、わかった、殺す」」
「ちっ! こんな所で殺やれるかよ! ってちょっと待て! それは卑怯だぞ!!」

突如始まった殺戮の光景。しかしウェルチはそんな様子を見て微笑んだ。

「ホント、あなた達って見てて飽きないわねー」

日暮れはもうすぐ。
ウェルチは喧嘩を始めた3人を置いて一人帰路についたのだった。



終わり。


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