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ヤンデレ1

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orz1414

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「こうすればもう私しか見られないわね」

何で。

「だってあなたが悪いのよ?」

どうして。

「勿忘草に薔薇、どんな花を送ってもあなたは気付かなかったんだから」

…もう…止め、て…。

「もう大丈夫ね。これであなたを狙う悪い虫もよってこないでしょう」

そんな…。

「時間はたっぷりあるわ。焦らずゆっくりといきましょうか」

…ぅ…。

「でも、眠りにつくにはまだ早いわよ?」

…幽、…香…。

「ふふ、とっても可愛いわよ○○。だからね、あなたは私のこと以外考えなくていいわ」


幽香が可愛い。
幽香が恋しい。
幽香が愛しい。
幽香が、欲しい。
幽香が、■い――――。

避難所1スレ目>>9

───────────────────────────────────────────────────────────

 その日守矢神社ではある話し合いが行われていた。
 議題は愛しのカレを振り向かせるには。
 一向に誰かになびく気配の見えない同居人にヤキモキした三柱の開いた、極秘会合である。
 タイプじゃない、ゲイである、シスコンだ、実は既に好きな人がいるなどの意見が出たが、
 結局、皆が構いすぎて誰が好きかに気付けていないという論に落ち着いた。
 というより、他の論は受け入れ難かったのである。
 ではどうするか、しばらく―まず1週間ほど―できるだけ離れているように、という事になった。

 一日目、取り決め通りあまり構わないよう勤める。布団に忍び込むなど以ての外だ。
 朝食は皆で取るが、勝手が分からず自然と口数も少なくなる。
 彼も話しかけるそぶりは見せるが、奇妙な雰囲気に怯えてか実際に何かを喋るということはしなかった。


 神奈子は食事を終えて各々が仕事に取り掛かってからも、一度も彼と話をしていなかった。
 元来気さくな性格である彼女はこのようなこと、素っ気無い態度と言うものは苦手だった。
 だからといって迂闊な行動をすれば、期間明けに何らかのペナルティが課されるだろう。
 それは避けたいところである。
 なのでしょうがなく、全く接しない、と言う選択肢を選んだのだった。

 朝から違和感を感じていた。
 誰が何をするでもない―喋るでもなく、悪戯もしない―というのは見たことがなかった。
 自分がここに居ついて、まだいくらも経っていないがそれでも毎日騒がしかったのだ。
 だのに今日に限っては誰も何もしない。
 そしてちらちらと自分のほうを見ている。
 境内の掃除をしている今も、後ろを振り返れば神奈子様が立ってこちらを見ている。
 しかし、そちらを向いて声をかけようとすると、社の中に入っていってしまう。
 彼は多少の居心地悪さを感じた。


 二日目、朝食が済み、彼は今境内を掃除している。
 話しかけるのがアレでも見てるだけならいいよね! という考えの下、諏訪子は社の陰に隠れていた。
 彼が箒で以って石畳などを掃いているのを眺め、こちらを向いたら隠れる。
 諏訪子は、スネーク気分と思って楽しんでいた。

 境内の掃き掃除中、彼は目端に何か動く物を見つけた。
 気になったが、その方向を向いている間はそれは姿を現さない。
 どうやっているのか、向こうは見なくとも自分が何処を向いているかが分かるらしい。
 しかしいる場所に不意に目を移せば、隠れるのが間に合わず姿の一部を見ることが出来る。
 それは特徴的な帽子から諏訪子様であると断定された。
 監視されている、まず思ったのがそれである。
 何かへまをやらかしたのだろうか、なら何故言わないのだろうか。
 思えば昨日の朝食から、皆の態度が変である。
 自分一人何も言われず、全く蚊帳の外に置かれている状況だ。
 それに彼は疎外感を感じていた。


 三日目、早苗はいつもどおり朝食を作り、いつもどおり配膳し、いつもどおりの朝食を始める。
 そしていつもどおり掃除をし、小事をし、神事の準備をする。
 並べていつもどおり、およそ事務的な一日を過ごす。
 それは彼に対しても同じだった。
 外の世界で普段他人に接するような態度、それで通していた。

 彼は、また神様達が酔狂な遊びを始めたのだろうと思っていた。
 しかし、そういうことには加わらない早苗さんまでやっている。
 しかも何を聞いても全く事務的な対応、冗談にも乗っかろうとはせずに受け流す。
 はたして自分は何か致命的な何かをしでかしてしまったのであろうか。
 あるいはもう既に愛想を尽かしてしまったのだろうか。
 彼はそれをもはや取り返しのつかないだろうことだと思った。
 燕はもう水辺にいるべきではないのだ。
 そして彼は出奔を決めた。


 手筈は以前里にこっそり遊びに行く用に立てていた計画を流用することにする。
 鞄に金子と飲料、食物、菓子、燃料に燐寸、そして携帯電話を積め、足として納屋に置いてあった子供用の自転車を選ぶ。
 ママチャリもあったがタイヤの減りが激しい、フレームにがたつきがあるの2点から使わないことにした。
 耐寒装備に関しては、コートとハクキンカイロがあるので、後は多少多めに燃料を持っていけば足りるだろう。
 動いていれば体は温まるのだ。それでも耳当てかそれのある帽子は探すことにはしたが。
 決行は日を置かないほうがいいだろう、ばれれば面倒なことになりかねない。
 しかし夜半に出たのでは、防寒具はあるとはいえ寒さで体力は削られるだろうし、出るときの音で皆が起きかねない。
 更に街頭などのない夜道、舗装路ではないので自転車走行は危ないし、そも夜中は妖怪の時間である。

 そうだ、夜中は妖怪の時間なのだ。

 この点より出発は朝から昼、日の高いうちに出て、日の沈む前に目的地に到達しておきたい。
 しかし日中昼間にも妖怪が出無いと言うわけではない。
 だが彼は以前の、ここの妖怪は形だけ人間を襲うらしい、という神奈子の言を覚えていた。
 反抗されれば、それ以上襲うことは無いと言うことだ。
 ならば銃なりナイフなり、或いはその両方なりを持っていけばいい。
 幸い銃に関しては社の住居部より見つけていた。以前狩りか何かに使われていた物だろう。
 銃弾は見つからなかったが、向こうが形だけ襲うのなら、こちらも形だけの反抗でいいだろう。発砲する必要はないはずだ。
 しかし念のためにナイフも持って言っておく。戦闘せずとも何らかの役には立つだろう。

 彼は次の日を物資の発掘と機材の整備、そして行程と所要時間の確認に当てた。
 目算では里を越えておよそ対岸にある博麗神社まで自転車で4から5時間。
 食事の時分には居ないことが確実にばれるので何らかの策がいる。
 昼食後ならまだ明るいうちに着ける可能性はあるが、何らかのアクシデントがあった時を考えると遅い時間になるのは避けたい。
 それにすぐに元の世界に帰ることが出来るのかもわからない。
 昼前に抜け出す策も彼は考えなければならなかった。


 4日目が終わって本殿では中間会合がもたれていた。
 このやり方でいいのかどうか、もっと違った気の引き方があるのではないか、ということが議題だ。
 自分達がつまらないし、向こうも明らかに不審がっている。
 なにせここ数日ろくに話も出来ない状況なのだ、これには問題があるだろう。
 一週間程度続ける予定だったが、もうやめてもいいのではないかということだ。
 一人スニーキング/ストーキングを楽しんでいた諏訪子だけが少し渋ったが、
 それよりかも正面切って遊ぶほうが楽しいと判断したのか、最終的には中止に同意した。

 5日目。それでもなお多少の戸惑いを持っての朝食の場。
 中止されたがまだ幾らかの牽制の雰囲気が流れる。
 その朝も皆の口数は大分少なかった。

 そして少しの食休みの後、彼は脱走した。
 結局特に何も言わず、何もせず、書置き一枚残したのみである。
 始めは若いツバメは湖畔より失せるとでもしようとしたが、結局ワレダッソウニセイコウセリとして布団の間に突っ込んだ。


 小さな自転車で山道を駆け下りる。
 道は当然悪いが、整備の行き届いていない、荒れた道も以前よく使っていたので対して問題ではなかった。
 ただ彼は唯一天狗の動向のみを気にしていた。
 連中が動けば自分は容易く捉えられ、そして連れ戻されるのだろう。
 今は何のアクションも起こさなくとも、入りをチェックしているのなら出もチェックしておかしくない。
 ならこの行動も既に捕捉されていると考えてしかるべきと言える。
 しかしそれでもある程度の楽観論―これで天狗が動く、或いは動かされることはないだろうと言う考えもあった。
 極論してしまえばただの喧嘩だ。高々子供が一人家出したに過ぎない。
 むしろ猫が一匹逃げたとするほうが妥当か。
 その程度で捜索を天狗衆に依頼するかと言えば、否と言える。
 そして天狗も誰かが山から外に出たとして一々誰かに報告するかといえば、それも否だろう。
 或いは上の天狗には伝わるかもしれないが、そこで止まる可能性が高い。
 だからこそこの脱出を決行した。
 少なくとも数時間は見つかる可能性の低い、その間に脱出に成功するという乏しい可能性に賭けて。

 湖を沿い、川を沿い、滝を沿い、また川を沿ってやがて彼は荒れた坂道から荒れた平地へと出た。
 最も難度の高い内の一つと思っていた山からの逃避に無傷で成功し、安堵する。
 数分の休憩の後、里の方向を探しまたペダルを踏み出す。
 太陽は東の中ほどにあり、南中にはまだ遠い。
 考えていたよりも大分早くチェックポイントに到達し、心の中には幾らかの余裕が生まれていた。

 その時守矢神社では誰も彼がいなくなったことに特に気づいてはいなかった。
 ただ諏訪子だけが、今日は見かけないと外を探してはいた。
 しかし主に境内の表を捜していたので、自転車が一台無くなっている事には気付かなかった。


 自転車で山道を飛ばしていく。
 石ころだらけの上、車輪が小さくサドルを目一杯上げてもまだ地面に足が届くので乗り心地は非常に悪い。
 それでも徒歩で行くよりは数段早いし、荷物も運べるので概ね満足していた。
 空でも飛べればまた違ったのだろうが、そんな能力はないし、空を飛べば目立ってしまう。
 そも逃避というものは地べたを這いつくばって進む物だ。
 それに遮蔽物が無いのではいざという時に隠れようがない。
 自分は存外妖怪には面の割れている方らしいので、見つかった時のリアクション次第では逃げなければならない。
 早苗さんも諏訪子様も妖怪に人気があるから、同居してるという理由で偶に狙われるのだ、ファンクラブ会員に。

 最初にそれを発見したのはやはり諏訪子だった。
 彼が昼になっても現れないのを不審に思った皆が敷地内を捜査する時、彼女だけが中を探していた。
 これは単に先頃外を探していなかったからなのだが。
 部屋中をクリアリングし、布団の間に手を入れたときに手紙が見つかった。
 その少し後に早苗から自転車が一台なくなっているという報が届く。
 それが神奈子へと伝わり、ここでようやく皆が逐電を知る。
 時間は正午を少し過ぎたあたり。彼が里で一息入れた頃合である。


 自転車を抱えて裏路地の茶店に入る。
 これまでは特になんとも無い、全く平穏な行程である。
 お茶と団子を頬張りながらこれからのことを考える。
 店員に聞いた話では、博麗神社までは歩きで4時間ほどらしい。
 ならばこの調子でいければ、3時前には神社麓に着けるだろう。
 博麗神社に行ったことはないが、見る限りそれほど大きな山というのも見当たらない。
 守矢神社のある山と同じくらいの山にあるとしても、恐らくは上りきるのに1時間もかかるまい。
 これならば妖怪の活動時間よりも前には神社に着くことが出来るだろう。
 しかしそこからが正念場、この脱走劇の最も難しいところである。
 恐らく昼食に現れなかったことから、既に自分があの場にいないことは露呈しているだろう。
 それで、彼女らが自分を探しているかいないか。探していればどの程度の真剣さで探しているか。
 それによって博麗神社への近づきやすさが変わってくる。
 迂闊に近寄ればすぐに捕まってしまうかもしれない。
 その後連れ戻されるなら肩身は狭く、また脱走は難しくなるだろう。
 連れ戻されないのならば? それなら探しになど来はすまい。何も問題は無い。

 守矢神社では三柱がとりもなおさず昼食を取っていた。腹が減っては戦は出来ぬということである。
 しかし昼を取ったとはいえ、すぐに探しにいけるわけではない。
 早苗も神奈子もまだやるべきことが残っているし、諏訪子を外に出す訳にはいかない。
 後に回せる仕事は後に回すとしても、それでも捜査の開始は3時頃になるだろう。
 そして厄介なのは、この件に関して誰の手も、彼女らを信仰する天狗も他の妖怪達の手も、借りることは出来無いと言うことだ。
 当然だろう、よもや男に逃げられたからといっておいそれと捜索を手伝ってくれなどと言える訳が無い。
 相手は二十歳を超えた成人なのだ。外の世界でも家出したからと警察に届けられる年齢ではない。
 それに人間一人捕まえていられない程度の神徳とあらば信仰も一気に失われるだろう。
 そのようなことはなんとしてでも避けねばならなかった。
 そうなればこちらに来た意味がないし、ともすれば彼が戻る家もなくなってしまう。
 しかし彼女らも幾らかの楽観は抱いていた。
 狭い幻想郷、行き着く先は安全な人里か、外への出口である博麗神社ぐらいしかない。
 他の場所、魔法の森やその他河、湖などを探さないで良い分見つけるのは楽になるだろう。
 博麗神社には分社もあるし、里なら早苗の"奇跡"で探し当てることも、容易とは行かないが可能だろう。
 まずは時間を作って博麗神社に顔を出し、もし彼が来る様な事があれば留め置いて欲しいと言付けるだけだ。
 そうすればこの幻想郷からは出られない。あとは奇跡なりさりげなく天狗から聞き出すなりして見つけ出すだけだ。
 彼が妖怪に食われてしまう前に。


 団子を食べ終え、少し休んだあとまた自転車に跨る。
 里の端のほうを走りそのまま門に向かう。
 さあ午後の部の開始だ。

 里を発ってから幾らも経たないうちに、ある事件が起こっていた。
 自転車の後輪タイヤがパンクしたのだ。
 チェーンが外れた程度ならすぐに復旧できるが、パンクは道具が無ければ無理である。
 自身にとっての致命的な事故ではないが、自転車にとっては致命的だ。
 もとよりガタの来ていた自転車を、更に無茶な乗り方をして酷使していたのだからそのツケが回ってきたと考えて良いだろう。
 しかし、何もこんな時にツケを回してくれなくてもいいのに、と彼は思っていた。
 全く神様も意地悪なことだと一人言ち、自分はその神様から逃げたんだっけと苦笑した。
 そりゃあ神の加護などありようはずも無い。自分は背信者なのだから。

 結局自転車は押して歩くことにした。
 乗って動けないのは痛いが、それでも荷物運びには有用である。
 鞄を背負うよりは前籠に入れて行くほうが、よっぽど肩が痛くならないし、腕の動きも阻害されない。
 後輪が一周するたびに自転車が上下するが、まあ許容するしかあるまい。
 これの所為で到達予想時刻は大幅に遅れることになった。
 3時前だったのが5時辺りにずれ込むことになる。
 日の沈む前に着けてよかったとでも考えるようにして、彼は自転車を押す作業に集中することにした。


 3時ごろ、仕事が一息ついた頃合に、守矢神社の三柱は話し合いをしていた。
 彼が帰って来た時どうするかではない。失せた原因はほぼ確実に自分達にあるのだから責められはしない。
 帰らないと言った時にどうするかという話である。
 無理やりに連れ帰るのは明らかに愚策だろう。連れ帰ってもまた居なくなりかねない。
 だからと言って軟禁するわけにもいかない。始終閉じ込めておけば直に病気になるか発狂するかのどちらかだ。
 ではすんなり帰してしまうのかといえば、これも否だ。
 何ヶ月も共に暮らし、親しんだ者をそう易々と帰させるものでもない。
 判りきっていたことではあるが、結局結論は説得工作あるのみと決まった。
 恐らくは実弾が飛ぶことも無いのだから、拉致監禁などに比べればよっぽど穏当な手段である。
 ただ、危険を冒してまで逃走する相手に説得が何処まで有効か、という疑念も、程度の違いはあれど各人幾らかは抱いていた。

 次いで話し合った通り、神奈子は博麗神社へ、早苗は人里へと向かった。
 諏訪子は留守番をし、彼が戻ってきた時に、或いは天狗からの迷い人の報に備えている。
 とりあえず現段階で取れる策はとった。本格的な捜索は明日からになるだろう。
 幾ら外の出身とはいえ、彼もこちらで長く過ごした身。夜中に出歩くような愚は犯すまい。
 目的地が神社で、今日中に辿り着けないと判断すれば里のどこか、宿か廃屋にでも泊まっているだろう。
 そして彼は普段より朝は遅いので、明日早朝より該当箇所を探査していけば行動前に見つけられるのではないか。
 電撃戦であり、相当運の絡む作戦になるだろうが、それなりに勝算の見込める作戦でもある。
 まあ、既に神社に着いていればそこで一服しているだろうから簡単に見つけられるのだが。


 神奈子は手筈どおり分社から博麗神社境内に入り、問題なく霊夢と話をした。
 霊夢のほうは好きにさせろとあまり乗り気ではないようだったが、一応留め置く承諾はした。
 ただしあくまでも説得をしてであり、力づくで、というわけではない。
 まあ、外に出るにも手順が必要ですぐに出られるわけでは無いし、夜中に面倒なことをする性格でもない。
 なので説得に応じずとも、一晩は泊まることになるのでとりたてて問題も無いのだ。
 あとはちょくちょく見に来て、いるかいないかを確認すればいいだけだ。

 早苗は途方にくれていた。里の規模はそれほど大きくは無いが小さくも無い。
 およそ地方都市程度の大きさで、そこに人の集まるところが何箇所かある。
 その集まっているか、或いは逆に集まっていないところから、一人の人間を探し出す。
 探すこと自体に異論は無いが、さてどうやっていないとして次の場所に移ろうか。
 幾ら奇跡を起こせようと瞬間移動を出来るわけではない。いない人間を呼び寄せることは不可能だ。
 しかしいないと決めることも不可能、いわゆる悪魔の証明の形になっている。
 早苗はどうしたものかと思いながら、適当に茶店のある裏路地に下りていった。


 彼は5時よりは少し早く、博麗神社の麓に着いていた。
 すでに服はじっとりと汗がしみこんでいる。いつになく暑い日差しと長く動いた所為だろう。
 ここから先まだまだ大量の石段を登っていかなければならないことに嫌気を覚えながら、自転車をどうしようかと漫然と考える。
 石段を登るのだから自転車を持っていくわけにはいかない。しかし道端に放置するわけにも行かない。
 また目的地に近いので例えば耐寒装備や燃料など、泊まりを意識した物も不要になっていた。
 なのでこれを考え、これら不要装備を石段の近くの茂みの中に隠しておくことにした。
 あまり人目に付いてもいい代物ではないので、自転車などを横倒しにし上から枯葉や草を強いて擬装する。
 次いでここに置いたという目印にしようと石を探し、そして止める。
 戻ることは無いのだから回収を意識することは無い。それより早く上ってしまおう。
 もうじき日が暮れる。妖怪が活動し始める前には着いておかねばならない。

 石段を登りながら彼は以前食卓で話されたことを思い出していた。
 それは博麗神社の巫女である霊夢のことや妖怪のこと、或いはその他の事である。
 その話の中の一つで、大分前に神奈子様と早苗さんが博麗神社に分社が出来たと言っていた。
 分社があれば信仰を更に広められ、そして今重要なのはその場所にすぐに移動できるということだ。
 これは厄介な代物である。これがあればあの神社にいればすぐに見つかってしまうことになりかねない。
 だからといって破壊してしまうわけにも当然いかない。
 恐らく通って来るのは神奈子様ただ一柱。それでも十分すぎる脅威である。
 対策は外に帰りたい旨を告げたらすぐに神社に隠れるか、或いは外を彷徨い歩くだけであろう。
 外は危ないので中、押入れの中か屋根裏、床下にでも潜んでいよう。
 もちろん家主には内緒で。


 信仰の賜物か、偶然よった茶店で早苗は重要な情報を得ていた。
 昼過ぎに彼はここ立ち寄り、休んでいた。
 その時は少し小さめの自転車に、大きな鞄と小さな箱、そして猟銃を持っていたらしい。
 何処から猟銃を持ち出してきたのかは不明だが、重要な情報である。
 彼はそのまま里の出口、博麗神社方面に向かったらしい。
 これで足取りは博麗神社行きにほぼ確定した。裏路地から出口方面にかけては特にめぼしい店は無い。
 何より銃なんていう物騒な物を持っている時点で、里に買出しに来たという雰囲気ではない。
 普段は皆で一緒に行くが、一人で買いたいような物、何度かあったことだが、を買いに行った時でも銃は持っていなかった。
 見つけたから自衛のために持って行ったのかも知れないが、それなら自分達に何か言ってもいい。
 あの手紙は冗談なんかではなく、真剣な物だったのだろう。
 それとも冗談のオブラードに包んで発覚を遅らせようとしたのか。
 なんにせよ一度持ち帰って検討しなければならない。
 帰すかそれとも連れ戻すか。


 石段もおよそ終盤に差し掛かったところで、聴きなれない歌声がするのに気づいた。
 歌はよく聞き取れないが、確実に誰かがいるらしい。
 このような時間帯にこんな辺鄙な場所で歌っているのは、妖怪か妖怪じみた人間のどちらかだろう。
 どちらもあまり出会いたくない連中だ。しかし上っていくのだから会わない訳にもいかない。
 足音を殺し、気づかれないようゆっくりと細心の注意を払って上っていく。
 仄暗い中、薄ぼんやりと見えたその人影には、大きな翼が生えていた。
 妖怪だ。
 対応を決めなければならない。戦闘か、トークか。
 迂回は難しい。石段の近くにいる。会話? 果たして妖怪と会話が成立するのか。
 神社に来るのは天狗か河童か、妖怪もいたが大抵は気性がおとなしい。
 年寄りは丸くなっているらしいが、前にいるのは年寄りには見えない。まあ、妖怪の年なんか見た目では判別つかないのだが。
 それに神社の中だからおとなしくしていて、外では人間を食っているのかもしれない。
 分の悪い賭けは好きではない。闇討ちがちょうどいい。だが失敗した時、即死の可能性もある。
 向こうが気づいればこんな事で悩まず、すぐに銃を構えていたのに。
 いや、せめて今歌っているのが民謡で、ヘビメタでなければ挨拶して横を素通りしたのに。
 しかし状況を恨んでも仕方が無い。所詮対抗すれば大丈夫、など不確定情報に過ぎないのだ。
 すでに体力も限界に近く、石段を駆け抜けるという芸当も出来そうにない。
 銃把を握り締め前進する。正しい選択かどうかはわからないが、それは今日の始めからそうなのだ。

 一歩一歩と進んでいく。周りにあの妖怪の仲間はいないらしい。
 ミスティアは気持ちよく歌っている。ミスティアは後ろに気づかない。
 焦らないようにゆっくり進む。物音を立てれば作戦は失敗だ。
 ミスティアは気持ちよく歌っている。ミスティアは後ろに気づかない。
 足元は若干ぬかるんでいる。気づかないうちに雨でもあったのだろうか。足を取られないように注意しなければ。
 ミスティアは気持ちよく歌っている。ミスティアは後ろに気づかない。
 ヌチャリという音にびくりとするが、どうやらまだ気づいていないらしい。もう少しだ。
 ミスティアは気持ちよく歌っている。ミスティアは後ろに気づかない。
 あと一歩というところに来た。もう銃をふり上げるだけだ。
 視界に影が見え、やっとミスティアは後ろに気づいた。しかしもう遅い。
 振り下ろされた銃床はミスティアの頭部に直撃した。
 致命傷とはならなかったが、それでも渾身の壊攻撃のダメージは大きく、スタンしている。
 この間に荷物の中からロープを取り出し、手足を縛って転がしておく。
 こうしておけば上りきるまでは安心だろう。巫女にでも言っておけば、あの妖怪も縄を解かれるはずだ。


 早苗の持ち帰った情報を元に、守矢神社では再度連れ戻すかどうかの検討が行われていた。
 基本方針としては説得し、誤解を解いて連れ戻すことに変わりは無い。
 しかしそれでも強情に戻るといった時の対応が分かれていた。
 三日三晩説得し続けるか、それとも、といった按配である。
 協議は続いたがしかし結論は出ず、実際に問うてみて決めるということになった。


 妖怪の脅威を越え、神社境内に辿り着くが、まだ警戒は怠れない。
 もしかしたらあの障子の内には神奈子様が潜んでいて、のこのことやってきた自分を捕まえてしまうかもしれない。
 ここは一つ慎重に、時間をかけて安全を確かめてから入ることにしよう。


……
………

 一周したが特になにもないようだ。だが念には念を入れて、障子に映る影を観察しておこう。


……
「早く入ってきなさい!」
 怒られました。


 自分は今神社で茶を飲んでいる。茶菓子は無い。
 それ以外ではただ座って頬杖をついているだけである。
 外に帰りたい旨を告げるだけで何を言うことも無いし、何を聞かれることも無い。
 作業は多少の時間がかかるものなので、明日準備と帰還になるらしい。
 それまでの間神社で過ごしていろとの事だ。
 しかし神社で過ごしていればいつ追っ手がかかるとも知れないので、隙を見て適当に脱出しようと思う。
 狙い目は風呂の時辺りか。
 もう外に帰れるまでになった。いなかった間に向こうはどう変わったろう。
 時間の進みが違い、いつの間にか22世紀になっていたりやしないだろうか。
 毎度盛大に枝垂れる家の梅は実をつけたのだろうか。
 果たして自分は大学院にまだ在籍しているのだろうか。
 思い返せばきりが無い。そして存外自分には郷愁という物があったことを思い知る。
 数ヶ月前にはもうこちらに居つく気でいたのに、帰らないつもりでいたというのに何たる様だ。
 もはや寄る辺無く漂う身ならそれも当然かもしれないが、この変節は物悲しい。
 目を閉じてそのようなことを考えていると、唐突に声がかけられた。

「ねえ、もう一度守矢神社に戻る気は無いの?」
「いや、あんまりないかな」
「結構反省してたみたいよ」
「一回出てしまえば二度と同じにはならんよ」
「そう」
 それぎり彼女は口を閉じ、また場は静かになった。

 静かなまま幾許かの時間が過ぎた。また目を閉じて休んでいると、不意に玉砂利を踏む音がする。
 すわ神奈子様かと、急ぎ荷物を持って他の部屋に隠れ、息を潜める。
 襖を少しだけ開けて、中の様子を伺えるようにしておくと果たしてそこにいたのは白黒魔女だった。
 魔女は自分の元いた場所にどっかと座り込むと、なにやら巫女と話をしている。
 微かに漏れ聞こえる話しはどうやら自分がいなくなったことの話らしい。
 なんでも昼過ぎに守矢神社に行ったら随分と騒がしい。
 訊いても特に何も応えてくれなかったが、一人姿が見えなかったので多分そいつ絡みだろう、ということだ。
 些か短絡だがそれで正解とは、全く随分勘のいいことだ。

 さて、彼女が巫女の気をひきつけている間に自分は床下にでも隠れてしまおう。
 この季節は多少虫が出るかもしれないが、屋根裏も鼠が出るやも知れないのでどっこいだ。
 それなら移動の手間の少ないほうを選んでしまおう。
 そう思って反対側の障子戸を開けると最悪な者と出会ってしまった。
「あ、やっと見つけました」
 早苗さんだ。


 恐らくは口論か、それでなくとも随分声を出すことになるだろうからと社殿から幾分離れたところに移動する。
 移る最中に早苗が話しかけてきた。
「ねえ、みんな心配していますよ。一緒に帰りましょう」
 早苗はゆっくり手を差し出してくる。彼はそれを見て後ずさる。
「とりあえず神社に戻って話し合いましょ」
「いや、あそこにはもう行かない」
「そんな事言わないで」
 そう言いながら早苗は手を握ってくる。彼はそれを振りほどく。
 一瞬早苗は悲しそうな顔をしたが、すぐに表情を整えた。
「どうあっても戻らないつもりですか?」
「うん、まあね」
「どうして……」
「なに、元々居るべき場所じゃないからさね」
 所詮外様だ、と彼は付け加える。
「元に戻るだけ……ただ元に」
「元に?」
「そう、俺は昔どおり学校に行って、そっちは昔どおりの暮らし向きさな」
「もう元になんて戻りません!」
 突然に早苗が大声を出す。予想していなかった行動に彼は一瞬怯むがすぐに立ち直る。
「八坂様も洩矢様もあなたが居るのをもう普通と思ってるんですよ!」
 高々数ヶ月暮らしただけでこう思ってくれるのはありがたい。しかし……。
「ね、帰りましょう。守矢神社に」
「また二人で境内を箒で掃いたり、守矢様と隠れん坊をする日常に」
 言いながら手を握ってくる早苗。
「一人欠けただけでも随分食卓って寂しくなるものなんですよ」
 しかし……
「しかし、それなら俺の元は何処に失せたんだろうね」
 瞬間早苗の動きがぴたりと止まる。
「あそこに留め置いてくれたのは感謝しているさ。でも帰す話が出なかったのはなんでだろうね」
「それは……」
「向こうに幾らも残してきた物があるし。ここらで帰らせてもらいたいのさ」
 そっちも俺が邪魔みたいだし、という台詞は飲み込んで、彼が言う。
「ほれ離しや。話は終わりさ」
 話を打ち切り手を振り解こうとするが、握られた手は離れない。むしろいっそう強く握られている。
「でも、」
 早苗が顔を上げ笑顔で続けてくる。

「でも、供犠が帰れると思っているんですか?」

 握られた手に痛みが走る。どうやら爪が立てられているらしい。
 その凄絶とも言える笑みに身を竦ませるが更に身を竦ませる事が起きる。突然の大風で早苗と共に空高く巻き上げられたのだ。
「このまま一緒に帰りましょう」
 笑顔のままで早苗が告げるが、もはやその表情はまともとは思えない。
 彼は振りほどこうとするが、既に地上数百メートルの高空である。落ちればまず即死は免れなかろう。
 そう考えると抗うことも碌に出来ず、ただ身を縮こませるばかりである。
「何をするつもりだ!」
 ひどい風の中やっとのことで声を振り絞る。
「神社に帰って、あとはまたいつもの生活です」
 早苗は笑顔のまま答える。
 暗闇の中、天地真逆に吊り下げられているためよく判らないが、どうやら守矢神社に直行しているらしい。
(脱走もこれで終いか)
 彼は絶望しきったような思いに取り付かれる。神社に戻った時、恐らく酷いことになるだろうからだ。
「元に戻るとでも思っているのか! 一度逃げたのに!」
 風音に負けないよう、精一杯声を大きくして言う。しかし早苗が答える気配は無い。
「不信が見えた時点で家族ゲームは終わりだ。そうじゃないのか」
 彼が言を発し終わると早苗がゆっくりと首を下げ、彼の顔を見据えこう言った。
「それならゲームでなくしてしまえばいいじゃないですか」
 彼は自分が今言ったことは全くの薮蛇だった事に気付く。だがもう遅い。
 確かに終わりだ。ゲームもモラトリアムも、なにもかも。


「よく帰ってきてくれたね」
 神奈子様が笑みを浮かべながら言う。しかしその笑みも非道く薄ら寒い様に見える。
「おかえりー」
 諏訪子様が抱きついてくる。もう逃がさないと言うことか?
 神社に着いたらまず本殿に通された。普段は立ち入らない場所である。
 なぜこんなところに通したのかの意図がわからない。
 社殿は暗く埃の臭いがし、また戸口を見るに壁は分厚い木で出来ているらしい。
 通された部屋は大きく、灯りとなるような物はない。ただ行灯と提灯があるだけである。
 普段住居としている社殿には、今は使えないとはいえ電灯があるが、ここにはそのような物も見当たらない。
 長らく余人の出入りは禁じられていた場所なのだろう。


 ひとしきり話をする。それはここ数日の謝罪であったり、出ていってからどうしていたのかと言う話だったりだ。
 おおよその話が済むと不意にトイレに行きたくなる。思えば里を出たきり出していない。
 その旨を告げると行ってもいいといわれたが、案内をつけたほうがいいといわれた。
 基本的に渡り廊下の突き当たりにあるのだろうといったが、それでも聞き入れず諏訪子様が付いてくることになった。
 果たして警戒されているのか、高々トイレに行くのにも誰かが付いて回る。まるで囚人のようである。
 途中ふいと渡り廊下の外に目をやる。外もやはり真っ暗で、月も浮かんではいない。
 欄干にもたれかかり近くを見ていると、幾つかレンガのような直方体が土に埋まっているのが目に付いた。
 靴は履いていないが、地面は乾いているので大して汚れやしないだろうと思い、降りて近づこうとする。
 諏訪子様は特に何も言わなかったが、遠くに言っちゃ駄目だよ、とだけは言った。
 そのレンガに近づいてみると、どれも同じくらいの長さだけ頭を出しているのに気づく。
 またそのレンガの向こうにも更にいくらかレンガが埋まっている。こちらは出ている量も幅もいくらか大きい。
 そちらも見に行こうとすると地面がぐにゃりという感触に代わる。それでも前に進むとさらに軟らかな風になっていく。
 着く頃には転びそうになりながら、二つ目のレンガ群に到着する。こちらは更に数歩先に同じようなレンガがある。
 そちらも見ようと歩こうとすると、突然そのレンガが大きくなり行く手をふさがれる形になる。
 二群目のレンガより内側に入ると三群目は小さくなり、越えるとまた大きくなる。
 何度か試行していると諏訪子様に戻っておいでと声をかけられる。
 言われたとおりに戻ってみると、今度は地面の奇妙な軟らかさがなくなっている。
 それではとまた外に出ようとすると、やはり地面は軟らかなものと変わった。
 これで明らかとなった。あのレンガ群はピケットバリアの位置を示す物なのだ。
 どうやら彼女達は、ここの神様達は自分をもうこの敷地より外には出したくないらしい。
 つまりは自分はもうここで飼われるより他ないと言うことだ。


 暗鬱な気持ちでトイレから出、諏訪子様に付き添われてもと居た所に戻る。
 そこでは早苗さんと、傍らで神奈子様が何かをしている。
 それを入り口近くで見ていると諏訪子様に手を引かれて、その近くに寄せられる。
 薄明かりの元で見ると早苗さんは何か白い衣装を見ていた。
 その中から一つを取り出してみると、それはどうやら角隠しのようだった。
 何故こんな物がと聞くと、前に親族が結婚式をやった時の物があったと言われた。
 そちらではなく、いや聞く意味はないのだろう。わかりきったことだ。
 つまるところは結婚しろと言うことだ。

 ぼんやりとした明かりの中、また皆で暮らしましょうと語る早苗さんの横顔はひどく狂気を孕んでいるように見えた。
 ならばそれを許容する神奈子様も諏訪子様も相応に狂ってしまったのだろうか、二柱とも早苗さんを優しげな顔で見守っている。
 どうやらもはや自分に味方はおらず、もはや自分に逃げ場など無いらしい。
「早苗さん……」
 それだけを口にした。何故とは続けられなかった。
 続けたとしても恐らくまともな答えは返ってこないのではないかと思ったからだ。
 なんでしょうと返してくる早苗さんの笑顔はそれでも嬉しそうだった。
「いや……なんでもない」
 そういってその場に座り込む。
「疲れた。もう寝る」
 胡坐をかき、膝の上に肘を立て頬杖をつく。目を閉じるとすぐに意識は失われていった。

――朝チュン朝チュン――

 誰かが運んでくれたのだろう、いつの間にか布団に入っている。目が覚めると有り難い事に外は明るかった。
 全く寝ている最中に幽閉でもされていたらと思ったが、それはなかったらしい。
 周りが明るくなると幾分自分も明るくなるもので、今は多少なりとも状況を考えられるようになって来た。
 とりあえず火急解決しなければならないのは、半裸で左腕にへばりついている諏訪子様だろう。
 昨日はこの時期にしては暑く、寝苦しかったとはいえ、いい年なのだから自重して欲しい。

 ゆっくりと左腕に絡まる腕を剥がし、戸をあけて外に出る。
 空にはいくらか雲の固まりが浮かんでいるが晴天と言って差し支えない。
 廊下を歩きながら外を眺める。やはり昨日と変わらず境内の様子は穏やかなままである。
 地面を見ると昨日あったレンガっぽいなにかも無くなっている。
 およそ元通り、何事もなかったかのようである。

 居間に行くとまだ食事の準備中であった。もうしばらくかかるから待っていて欲しいとのことである。
 眠気覚ましと時間つぶしに外を歩いていると、境内の端に昨日のレンガが置いてあった。
 一つ越えれば地面が軟らかくなり、二つ越えれば三つ目が大きくなる。
 昨日と同じ効果で、ただ動ける範囲が社殿から境内端まで拡大したということか。
 自分のやったことながら、やはり何事かは起こっていたと言うことだ。

 しかしそれ以外には取り立てて何もおかしなところはない。
 無論朝食の時も、諏訪子様がぐずりながら起きてくるところもである。
 朝方は暖簾の向こうで顔は見えなかったが、今食卓の向かいにいる早苗さんの顔には狂気染みた表情は見えない。
 もちろん神奈子様にも、である。
 こうしてみるとやはり何事もなかったかのような日常、早苗さんの言ったようないつもの生活とやらである。
 境内ピケットラインを除けば。

 朝食を終えると、彼は箒を持たされ早苗と共に外に行く。
 これも前にやっていた通りで朝食後の掃除である。
 朝食前にもやってはいるが、なにぶん敷地が広いのですぐには終わらない。
 彼は専ら掃き掃除と諏訪子の相手で一日を終えていた。
 それが逃げる前までの日常。そして今任されているのもその日常と同じこと。
 当然諏訪子が掃き掃除をする彼にタックルをかますのもである。


 数日経ち、彼は食事の後に箒を持って外に行く。
 もはやこれが日常、日常なのだ。
 朝食の後で境内の掃き掃除をするのも、御神籤の補充をするのも、結ばれた物を回収するのも。
 ただ外に出られないだけ、でも元からあまり出ていない。ならそれもいつもと変わらない。
 これが日常なのだ。
 そう自分に言い聞かせる。早晩この生活にも慣れるだろう。
 外で実験や解析に追われていた頃とは明らかに違うリズム、それにもじきに慣れるはずだ。

 更に幾らか日が経ち、かなりの量この生活には慣れてきた。
 しかし未だ慣れぬは日々増えていく爪痕と噛痕。
 だがこの痛みにもやはり慣れるはずだ。
 そして彼は今日も早苗を布団に迎え入れた。

>>うpろだ1135


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 その時自分は境内の掃き掃除をしていた。脱走してから、或いは連れ戻されてから数日経った頃のことだ。
 応対したのは自分。相手はまあまあ珍しい客、博麗霊夢である。
 用件はというと先日自分が置いていった荷物を返しに来たということらしい。
 持ってきたのは鞄と猟銃。石段下に置いてきた自転車は当然なし。
 鞄の中に金子はあるが、あったはずの菓子や食料は無くなっている。
 問いただしてみると日持ちのしなさそうな物はもったいないので食べたということだ。
 かびたものや腐ったものが鞄に入っているよりはいいが、勝手に開けないで欲しい。
 用件はそれだけかと問うと、それだけと答えられたので、今度はこちらの要望を言う。
 要望と言っても石段の下に置いてきた燃料や外套で、燃料はいらないから外套は持ってきて欲しいというだけだ。
 彼女は、まあそのくらいなら、と存外快く了承してくれた。

 話している途中、不意に霊夢はきょろきょろと何かを探すように首を回していた。
 早苗なり神奈子様でも探しているのかしらん、とこちらも居場所の見当を付け始めた頃に、あんたも大変ねと声がかかる。
 初めは何のことかわからなかったが、彼女の目線の先にあるもの、レンガ様の物質を見て得心が行く。
 どうやら彼女は俺がこの神社に囲われていることに気が付いたらしい。
 気が付いたついでに出してくれないものかと思うが、それも無駄のような気もする。
 どの道博麗神社には立ち寄らなければいけないのだからそこに張られてしまえば終いだ。
 しかし外への通り道の展開時間次第では露呈する前に帰れるかもしれない。
 そこのところを聞いてみようと思ったが、もう自分用の帰り道は無いと先んじて言われてしまった。
 面倒を避けたいのか、釣れない御仁だ。

 霊夢はその後早苗さんや神奈子様のいる社殿に向かっていった。
 何かの用でもあるのだろう、わざわざ首を突っ込むことでもあるまい。
 そう考えて自分は境内の掃除に戻った。

 幾らかして両腕にバスケットを抱えた霊夢が出てくる。
 俺は売られたのかしらんと思いながらそれを見送る。


 また少しして社殿から今度は早苗が出てくる。
 彼女もまた箒を持って境内の掃除をし始めるところらしい。
 しかし、早苗は石段近くに彼の姿を見かけ、そちらに近寄って行った。

 その時俺は鞄の中身のチェックをしていた。それに何をしているのかと言いながら早苗が近寄ってくる。
 確認と言うと一緒に中を覗き込んで来、結果何がある何が無いなどとやることになった。
 ただ学校の行き来に使っていた鞄だし、そんなに珍しいものが出る事は無い。
 ルーズリーフやらノートやら、或いは薬がでる程度だ。
 DSがでてきた時はディノゲーターでhageまくったことを思い出して少し泣いたがどうでもいい。

「あとは財布と懐炉と教科書か」
「教科書って、これ分厚いですね」
「理系の教科書は大きいのよ」
 鞄の中に入っているのはリー無機化学とカステラン物理化学(下)。
 どちらも500ページを超える網羅系の教科書で、暇つぶしにはちょうどいい程度の難しさである。
「懐炉は……なんです? これ」
「ハクキンカイロ。ベンジンを入れて使う」
「ベンジンを入れるとあったまるんですか? どうして?」
「じゃあ説明しよ「止めてください」」
 教科書を開いたところで説明はあえなくとめられた。化学は苦手だったのだろうか。
 どうしてと言ってきたのは向こうなのに、理不尽だ。

「お財布には結構入ってますね。」
「千円ばっかだけどね」
「じゃあこれ預かっておきます」
「なんで!?」
 さも当然のように言ってくる早苗。その姿はまるでお年玉を貯金すると言う母親のようである。
「幻想郷って結構外からの人が来るんです」
 説明を始める早苗。
「で、その人達は当然こっちのお金を持っていない。だから私達も苦労しました」
 もとは外にあった神社が移ってきたのだからそうだろう。
「それで来ちゃった人たちも何か買うものはあるでしょうから、その都度世話人に言うことになるんですね」
 説明を続ける早苗。世話人が自分に付かなかったのは、ずっとここに世話になっていた為か。
「でも外の人があんまり多いから、もう手間なので外のお金も使える様になったそうなんです」
 色々端折られた気もするが、大まかには飲み込めた。
「なので没収します」
「うん、そこがわかんない。なんで没収するの?」
「……せいかつひ?」
 理由はわかったがクエスチョンマークをつけるな。

 鞄の外ポケットを探っていると長らく忘れていたものがでていた。
 落とさないようにとファスナーの付いた部分に入れたままそのままになっていたのだ。
 それを早苗にひょいと取り上げられる。
「この携帯電話珍しい形ですね」
「古い機種だしね。4年ぐらい使ってる」
 出て来たのは既に外の世界では幻想の代物と化したリボルバー型の携帯電話だ。
 好きなタイプだったのに即座に廃れたのはヒンジの配線が手間だったか、スライド型に人気が出たからだろうか。
「えいっ」
 それを早苗は一周させた。
 バキッという音がしてディスプレイとキー部分がケーブル一本でつながっている状態になる。
「! なにするの!」
「だってもう外には出ないんですし。必要ないでしょう」
 平然と言ってのける早苗。
「あーまあいいや、もう」
 ああそうだ。ここでは使えないのだ。どうでもいい。どうでもいいよ畜生。

 一緒に見つけたのはスケジュール帳。某無印で安くなっていたのを買ったものである。
「なんです? このアルファベットの羅列」
 ただ管理しているのはスケジュールなどではなく、構造計算している分子である。
 電子配置を組み替えながら突っ込みまくっているとどうなっているのかわからなくなってくる。
 とはいえ電子配置を組み替えなくってももうわからない、と言うのは公然の秘密だ。
「これももういりませんね。古いですし」
 そう言うと早苗は問答無用でそれをゴミ箱に叩き込む。
 憐れ俺の研究生活の最後の一端はあっさり葬り去られることとなった。
「早苗さんや、そいつは捨てんでもええんじゃないかね」
 たまりかねて不満を言う。
「何を言っているんですか」
 ゆっくりと早苗が近づいてくる。
「あれがあるとまた外を思い出してきっと辛いでしょう」
 ゆっくりと近づき、そして目の前で止まる。
「ですから、あれはもう捨ててしまって、全部忘れてしまいましょう」
 早苗はそう言いながら両手で俺の頬を抱える様に包む。
「ね」
 優しく、しかし有無を言わせぬ迫力で早苗が言う。
 それに気圧されたというわけではないが、俺は何も言えなかった。
 早苗はその無言を肯定ととったのだろうか、頬から手を離していた。
「さあさ、その鞄はもう中に入れて掃除しちゃいましょう」
「ああ、そうだね」
 溌剌とした調子で言う早苗。対して、恐らく自分は生気が無いという表現がしっくり来るのだろう、そのような状態だった。
 状況に対して、およそ心中は諦めが支配的になっている。
 鞄を持ち社殿に歩く。そのうしろから早苗が箒とやはり没収された猟銃を持って付いてくる。
 いや、猟銃をへし折りながら付いてくる。多分に腐食している部分を折っているのだろうが。
 その音を聴きながら、やはり俺は彼女から離れることは出来無いのだと、彼女は自分を逃すことは無いのだと、
 深い諦めと軽い絶望、そして一握りの歓喜を抱いたのだった。

>>うpろだ1174


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脱走のペナルティで部屋を移動させらることになったので、
持って行く物を早苗と一緒にダンボールに分けていると思いねえ。

「これいるでしょ。時計」
「これはいりません。時間を知る必要がないです」
「あ、そう……。じゃこれは? 教科書」
「これもいりません」
「なんで? 勉強したほうがいいじゃない」
「こんなの読んでたら目が悪くなっちゃいますよ」
「そうなんだ。懐炉はいらないよね。もうあったかいし」
「これは…いります」
「なんで?」
「あそこは夜は冷えますから」
「そっか。それじゃ豆炭もいるね」
「これはいけません」
「どうして。あったかいじゃない」
「こんなの使ったら窒息します」
「俺どこ行くの?!」
「地下牢です」
「何でそんなところに……」
「あなたが、逃げようとしたからじゃないですか!」
「ノリきれなくって」
「何であんなことを……」
「がんばれ~負けんな~力の限り生きてやれ~」

>>うpろだ1175

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今日彼のお店にお客が来た。
肥料を買いに来た女性で、随分と仲良さそうに話している。
それが少し癪だったので、彼女の家の稲の実りを良くしておいた。
これでもう肥料を求めに来る事は無いでしょう。

幾らかして、また彼のお店に肥料を買いに女性が来た。
彼に気のあるような素振りをして癇に障ったので、ここも実りを良くしておいた。
それでもまた来たら、それはその時考えましょう。

効きが良いと評判になったようで、よく人が訪れるようになった。
在庫が足りないといって、彼は休みなしに働いて肥料を作り続けている。
その所為でもう何日も、彼と話す時間も触れ合う時間も短くなってしまった。
それはもう耐え難いので、里の田圃の実りを皆良くしておいた。
稲穂が皆頭を垂れているのなら、誰が来るという事も無くなるでしょう。

ただ、里全部の実りを良くするのは流石に力を使いすぎで、体が上手く動かない。
その様子を見た彼が夏ばてかと気遣い、膝枕をして撫でてくれた。
久しぶりに感じる彼の体温も、感触もやはり良いもので多少無理をした甲斐があった。
そのうち私は寝入ってしまった様で、ああまた後で膝枕をねだる事にしましょう。


何処も田畑の実りがいいので、彼の店はすっかり流行らなくなった。
けれでもそれで何の問題もない。食べるのには不自由しないんですもの。
何より彼がずっと家で私を見てくれるのなら、それほど幸せなことは無いでしょう。

うpろだ1300

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妖怪の山からの帰り道のことだ。
いつも使うものとは違う道を通って帰ろうと考え、道を逸れる。
その道は主に里の郊外の住人の耕す畑に通じる道であった。
季節は秋に近く、この頃合なら頭を垂れる稲穂や、或いは畑に植わる野菜が見られるはずである。
しかし見られたのは茶色になった茎ばかりだった。
この畑だけかとも思ったが、どうにも道沿いの畑の皆が不作のようだ。
気になって家の横の畑に植えた作物を見れば、どれも実の大きくなる様子が無い。
とはいえこれは自分が世話をしていなかった所為かもしれないのでなんとも言えない。

数日後、時間の出来た時に里の中心部に向かう。用事があるのもそうだが、田畑の偵察の意味もある。
行き帰りで別の道を通ったが、どの家も不作のようであった。
米も芋もこれでは、全く来年は酒の値段が上がりそうなのでそれが気にかかる。
しかし不作の原因が何なのか、全く見当がつかない。
天候不順というわけでも病害虫でもなさそうだし、よもや連作障害ということも無いだろうから、面妖なことだ。

また幾らかしてから穣子がやってきた。一週間ばかり姿を見ていなかったので、久しぶりに会うことになる。
挨拶もそこそこに、今年は作物の出来が悪いようだがと聞いてみた。
するといつも豊作とはいかないでしょう、という簡単な答が返ってくる。
そんなものかもしれないが、そんなことでいいのだろうか。
自分の与り知らぬところの話であるし、気にしたところで意味は無いのだが。



案の定収穫は惨憺たる結果だったようだ。
こちらに攫われてまだ三度目の秋なので自分はよく判らないが、里の人間に聞いても久方ぶりの不作だという。
久方ぶりとは、それでは来年までの食料はどうするのだろうかと思う。
今まで結構な豊作だった様だし、凶作に備えて蓄えていたなら吉、胡坐をかいていたなら凶だ。
収穫祭は滞りなく行われるようなので、蓄えに関しては多少余裕があるのだろう。
だが殺伐とした祭になりそうで、遠巻きに眺める程度にしておいたほうがいいのかもしれない。

里から戻ると家の前にうずたかく茶色の箱が積まれていた。
すわ穣子からの援助か、と思ったが書いてある文字からみると台湾軍の野戦口糧らしい。
なるほど、つまりは境界を操るという妖怪がかっぱらってきた物ということか。
せめて米軍、欲を言えば伊軍の物が良かったがまあ仕方が無い。
そいつらを家の中に運ぶと、また自宅を出る準備をする。
行く先は妖怪の山だ。

所々紅葉し、落葉した木々の下を歩いて行く。
妖怪の山に関して言えば凶作ということは無く、例年通りの実りであったらしい。
地面に落ちて地雷と化した毬栗や潰れた柿を避けながら、穣子の家へと急ぐ。
何ぞの用事があるのかは知らないが、早く来てくれと言われては行かない訳にもいくまい。
里の雰囲気が重く、どうにも居辛いと言うのもあるが。




まずは一年目。気取られないようにしないといけない。
更に手を打って、あの人が里の娘になびけないようにしなければ。
しかし、性急に事を運んでも怪しまれるだろう。慎重にいかなければならない。
それにしても、今日はあの人が来る。なんて素敵な日なんでしょう。
もう遅いから、って言ってうちに泊めてしまいましょう。
いっそ春が来るまで山に閉じ込めてしまおうかしら。
里には食べ物が少ないでしょうし、それもいいかもしれないわね。
彼が飢えてしまうのは嫌だし。
あら、もうすぐ彼がつく時間ね。この間作った渋皮煮を用意して待っていましょう。

うpろだ1371

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※前提条件
 ○○が幻想郷に迷い込んで三週間程たった後、竹林に迷い込んで藤原妹紅に勘違いされて襲い掛かられ。
 其処をちょうど妹紅と決闘しようとしていた輝夜に助けられ永遠亭に拾われたという事を承諾した上でお読みください。



永遠亭 蓬莱山輝夜の部屋

永遠亭の姫であり、不老不死の蓬莱人でもある蓬莱山輝夜と、その輝夜に拾われ客分として迎えられている○○の二人が其処にいた。

姫の部屋に二人きり、普通ならば甘い空間になっていそうな物だが、二人の様子は密会しているという物ではなく。

○○に背を向けて空を見ている輝夜に対して、○○が土下座するようにして話しかけているという状態であった。

これは浮気をしたとかで土下座しているわけでもなく、ならば何故そのような光景になっているのかといえば……

「…つまり、○○はこの永遠亭から出て行きたい、そういうのね?」

「はい、もうここに来て二ヶ月も過ぎましたし、そろそろ里に帰らないと……」

そう、○○が永遠亭の主である輝夜に『永遠亭を離れ里へと出て行く』許可を貰おうとしているためであった。

普通ならばそんな事、一々許可を貰わずに出て行けばいいと思うのだが、この二人の場合はある事情があったのだ。

「へぇ… 妹紅から護ってあげた時、貴方に条件を科したわよね? 其れを忘れたのかしら?」

「…… 『死にたくなければ私の言う事に一つだけ従いなさい』ですね」

「えぇ、其れで私は貴方にこの『永遠亭に住み私の従者となれ』 と、いったはずよね?

 それに、命を救った私や、貴方を暖かく迎え入れた永琳達に恩義に忘れたのかしら?」

その事情とは先ほどの言葉にあるとおり、かつて妹紅に襲われた○○が輝夜に助けてもらう代償、所謂『命の代償』と言う形での契約であった。

後に○○を襲ってきた人物、藤原妹紅と竹林で出会い、会話の結果あの事件は勘違いによる物だったという事は判明した物の、契約は契約として履行する事になっていた。

だが、元々○○は外の世界の人間、さらに幻想郷に迷い込んできてからは人里で保護されていた事実があり。

さらに当人の性格が人里の守護者である上白沢慧音にすら「いまどき珍しい程に義理堅い人間」と言われるほどで。

その為か、永遠亭の住人達、月の兎である鈴仙・優曇華院・イナバや兎妖怪である因幡てゐ、さらに月の頭脳といわれる八意永琳達と親しくなってもなお。

自分を拾ってくれた人達への恩義を忘れず、里への帰郷心を日に日に募らせていき、ついに我慢しきれず輝夜に里への帰郷の許可を貰おうと今回の行動にでたのだ。


「…命救われた事や、暖かく迎え入れてくれた事を忘れるつもり魔ありません。
 
 ですが、右も左も解らなかった頃の私を迎え入れ、仕事さえも与えてくれた里の人達の場所に帰りたいのです、其れに…… いえ、何でもありません

 許される事ではないかも知れませんが、どうか、どうかお願いします」

輝夜の言葉に締め付けられるような錯覚を覚えながらも、○○はある『事』を思い出して奮い立つかのように今一度輝夜に向かって土下座しつつ願い出る。

そんな○○の方を振り向いた輝夜の表情には、明らかに不満げな色が濃くでていた。


「そんなに寺子屋の仕事に、いえ、あの女、上白沢慧音の場所に、帰りたいのかしら?」

「!?!?」

どこか憎悪さえも含んでいそうな輝夜のその言葉に、○○は驚愕し、思わず顔を上げ、輝夜の顔を凝視していた。

そして○○の表情は言葉を発するよりも雄弁にかたっていた、そう、『何故里に帰りたい本当の理由を知っているのか』 と。

「どうしてっていいたそうだけど、そんなの簡単よ、妹紅と話してるときの貴方、毎回あの女の事を聞いてたじゃない、わからない方がおかしいわよ」

そういうと輝夜は○○へとゆっくりと歩み寄り、その顔を○○の顔とくっつく寸前まで近づけると、甘く、そして妖艶にささやき始める。

「でも、あの女は貴方の事をなんとも思ってない、それはあの女の親友である妹紅を貴方に紹介していなかった事が証明しているわ。

 永遠亭にとどまり、私のモノになれば貴方には永遠の快楽と幸せを与えてあげる、それでも貴方は里に帰るの? 貴方をなんとも思ってない女の場所に?」

輝夜の言葉に○○は激しく動揺し、その動揺が汗となって表面に溢れ始める。

そう、輝夜の言葉には一切の嘘は無かった、確かに慧音は○○に妹紅を紹介しておらず、其れが遠因となって○○は妹紅に殺されかけたと言う事実があった。

さらに妹紅との会話から慧音と妹紅は親友と呼び合えるほどの仲である事も知り、その時に○○は自分が慧音にとって他人でしかなかったと言う思いを抱いた事もあった。

「…それでも、俺は、里に帰りたいと思います」

だが、それでもなお○○は慧音に抱いていた『恋心』に嘘をつくことはできず、輝夜の甘美なる誘惑を前にしてもなお里に帰る意思を強く固め、輝夜にそうかえす。

「…そう、わかったわ」

その反応から○○の意思を曲げる事が今は出来ないと悟った輝夜は一瞬だけ○○の頬をなでるとそっと離れ、つい先ほどまで自分が居た場所へと戻っていく。

何とか思いが通じたと感じた○○は深く息を吐き、最後に謝罪と感謝の言葉を口にしようとしたが、それより早く紡がれた輝夜の言葉に止められる事となる。

「でも、タダで返すと言うのも流石に面白くないから一つ賭けをしましょう」

「賭け…ですか?」

「えぇ、とても単純な賭け、今から三時間後、ちょうど七時位かしらね、それまでに貴方はこの永遠亭から徒歩で外に出なければならない、それだけよ」

「賭けと言うからには代償があるはずですが?」

「そうね、貴方が負けた場合の代償は一つ、今度こそ完全に『ワタシノモノ』になってもらうだけよ」

輝夜の言葉に○○は永遠亭にきてからの日々を思い出し、輝夜の部屋から永遠亭の外までと、さらに其処から竹林の出口までの時間を計算し。

永遠亭にはなんでも侵入者対策とやらで幻術がかかっており無限の廊下や幻惑の間等がある事を加味しても、対策を知っている自分なら十分に間に合うと判断した、が。

「…それは輝夜様の能力による阻害が一切なし、と言う事でよろしいのでしょうか?」

そう、たとえ対策を知っていたとしても『永遠と須臾を操る』輝夜の前では無駄に過ぎないと言うことを思い出し、そんな言葉を口に出していた。

「えぇ、私だけじゃないわ、イナバ達にも手出しはさせないし永琳にも何もさせない、かなりいい条件でしょう?」

「……… わかりました、その勝負お受けします」

そういいながら微笑む蓬莱山輝夜にどこか薄ら寒い物を感じながらも、○○は十分な勝機があると思いその勝負を承諾する旨を伝えた。

「そう、なら永琳、居るんでしょう? イナバを、えぇ、地上の方じゃないわ、月のほうのイナバに○○の荷物を持ってこさせて、急いで頂戴」

「あの、どうして鈴仙を…?」

○○が勝負を承諾した事に気を良くした様に頷いた輝夜は即座に声をあげると近くに控えていたらしい永琳に言葉をかけると鈴仙を呼んでくるように伝える。

そんな輝夜の行動に驚きながらも、何故わざわざ『鈴仙』を指定して自分の荷物を持ってこさせるのかと輝夜に問う。

「貴方に疑念を抱かせない為よ、生真面目なあのイナバなら荷物に何か仕込むなんてできるはずも無いし、勝負は勝負だから綺麗に行いたいでしょう?」

その輝夜の言葉に○○は感謝の念を示すように頭を下げると、輝夜は気にしなくていいと言う様に手を横に振り鈴仙が来るのを待つ。




「……荷物を持ってきました」

それからしばらくして、顔を伏せたままの鈴仙が○○の荷物を持ってくると、そのまま○○に渡そうとする。

「ご苦労様イナバ、それじゃあ○○、その貴方の荷物を受け取ったらスタートよ」

輝夜の言葉に頷くと○○は直ぐにでも鈴仙から荷物を受け取ろうとしたが、鈴仙の体が僅かに震え、その目から涙が零れている事を見て取ると、鈴仙へと優しく声をかける。

「…鈴仙さん、今まで本当にお世話になりました、でも、今生の別れと言うわけではありませんし、里で出会うこともあると思います。

 ですから、お願いです、どうか泣かないで… そして、顔を上げてください」

その○○の言葉に、未だに涙を零しながらも顔を上げた鈴仙は○○をじっと見つめるようにしながら、荷物を○○に強く押し付けるようして渡す。

「鈴仙さん、また出会う日までお元気で、輝夜様も、今まで本当にお世話になりました、永琳様達によろしく伝えて置いてください、では」

鈴仙から荷物を受け取ると、○○は鈴仙と輝夜に別れの挨拶を簡単に済ませ、勝負は既に始まっていると部屋から即座に出て行き、永遠亭の出口へと歩みだした。



それから約一時間後 永遠亭 蓬莱山輝夜の部屋

「そろそろ、○○は永遠亭から出て行ってるはずの時間ね」

じっと外を眺めていた輝夜が、ふと思い出したかのように近くに居る鈴仙へと話しかける。

「…そうですね姫様、本来ならもう出て行ってるはずですね」

その言葉に、まるで泣いた形跡など無い、いや、泣いて等無かったかのような表情の鈴仙が微笑みながらこたえる。

「あら? と言うことはやっぱりやったのね、イケナイ子ね、邪魔はしないっていった私の立場がないじゃない」

「いえいえ、私はちゃんと○○さんの邪魔をしないようにしてましたよ、あくまで○○さんが自分から望んだだけですから」

言葉だけ見ればルール違反をした鈴仙を輝夜がたしなめているかのようだが、二人ともその顔に微笑を浮かべている光景を見てはそう思う人など誰も居ないだろう。

「そうね、確かに私達は○○に何にもしてない、確かにイナバの言うとおり○○が自分からやった事でしかないものね」

「はい、○○さんは私が月の兎である事を知っていて、私に顔を上げて○○さんを『視て』欲しいと望みましたから、だから私はそれに従っただけですよ」

「えぇ、『偶々』永琳の薬で貴方の瞳からあふれる狂気が数倍になっている時に望んだだけですものね」

「はい、偶々ですよ全て、そう、今日はてゐが『偶々』竹林の方に出ていて○○さんに幸運の後押しがないのも」

「あら、何を言ってるのかしらイナバ、幸運の後押しなんて必要ないでしょう? だってこの部屋から出口まで直進すればいいだけですもの」

「あ、そうでしたね、私達は何の手出しもしてませんから、変な風に曲がったりしなければ普通なら直ぐに出れますしね」

「えぇ、○○が永遠亭から出たくないなら話は別だけどね…… ウフフフフ……」

「確かにそうですね、あれで出れないのは出る意思が無い人だけですからね クスクス………」

一見すれば外見相応の少女の笑み、だが、その中に限りない狂気を孕んだ二人の少女の笑い声が部屋に響き渡り続けた………




そして、勝負開始から三時間が経過すると、輝夜も鈴仙も急に笑みを止め、ゆっくりと襖へと歩み寄り、盛大に開き、廊下へと出る。

その後、二人して何かを待ち構えるかのようにじっと立ち続けていると、輝夜達のちょうど目の前のふすまが開き、○○が其処から輝夜達の正面へとでてきたのであった。

「あら、○○じゃない、どうしたのかしら? もうとっくに勝負の時間は過ぎてるわよ?」

二人の姿を見て驚愕の余り硬直してしまった○○の姿をみて、怪しい笑みを浮かべながら輝夜は○○へとそう語りかける。

「ど、どういうことなんだ!! 妨害は一切しないと言ったじゃないか!!」

そんな輝夜の姿を見て激昂した○○は輝夜に詰め寄りながらそう叫んだ。

激昂のあまり敬語―○○は輝夜達が目上の相手だと言う事で使っていたらしい―を使わなくなった○○の姿を見て軽く興奮しながらもその問いにゆっくりと答え始める。

「えぇ、私も、イナバも何も妨害はしていない、そう、イナバの狂気の瞳を自分から覗き込んだのは○○、貴方よ」

「俺が、自分で?」

「えぇ、イナバが顔を伏せていたのは貴方との別れが悲しいからだけじゃないわ、貴方を見る事自体が妨害行為になる事を理解していたから。

 そんなイナバの思いを無視するように顔を上げさせ、自分を見させたのは紛れもなく○○、あなた自身よ」

その輝夜の言葉に、自分から『罠』にかかってしまったと理解した○○は呆然とし、その場へと崩れ落ちるようにして座り込んでしまう。

「ウフフ…… さて、永遠亭から出ていない以上賭けは私の勝ちね、イナバ、永琳にあの薬を持ってくるように伝えてちょうだい」

「わかりました姫様、○○さん、改めて永遠亭にようこそ、これからもずっと、ずっと一緒に居ましょうね」

「は、ハハ、ハハハハハハハ………」

あっさりとした輝夜と鈴仙の反応に、自分は完全に『嵌められた』のだと理解した○○はただ、壊れたかのように笑うしかなかった。

「あら? そんなに永遠を歩める事が嬉しいのかしら? だとしたら妹紅も喜ぶわね、あの子もこの日が来るのをずっと待ち望んでいたんだもの……」

そんな○○の反応に、心の底からの喜びの、そしてどこか女郎蜘蛛の様な笑みを浮かべながら、輝夜はゆっくりと○○へと口付けをしたのであった。


うpろだ1378

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午前の紅魔館、掃除をするメイド長こと十六夜咲夜
 それに付き合う妹様専属執事の”はずの”○○
 二人で掃除しつつとある話をする
「ねぇ○○、なんであなたロリコンなの?」
「いや、ロリコンじゃないですよ、」
「この前食事中のフランドール様を熱っぽい視線で見つめてたじゃない?」
「俺一人で食事を持っていったのになぜ知っていらっしゅるのでしょうか?」
 咲夜は目をそむけつつ
「私はなんでも知ってるのよ、それよりも○○」
 ○○は雑巾で窓を拭きつつ答える
「なんでしょうか?」
「なんでロリコンなの?」
「いやロリコンじゃないですってばっ」
「本当にぃ?この前の休日にチルノや大妖精と遊んでいたようだけど」
「なんで知ってるんですか・・・」
「館の窓から見えたのよ。」
 どれだけ視力良いんだこの人・・・
「ところで○○、なんでロリコンなの?」
「ロリコンじゃないって言ってんだろおおおおおおおおおおおおおおおおおどちくしょおおおお」
 そう叫び走っていく○○
「あー苛め過ぎちゃったわね。段々話を変えて女性の好みを聞こうと思ってたのに・・・」
そう呟いたあとに咲夜は○○を追いかけた。

紅魔館地下室、妹様私室

 机に頭を倒れ付して呟いてる男の姿が
「俺はロリコンじゃないっていってるのによーちくしょー」
 そして反対側には紅魔館の主の妹、フランドール様が座っている
 館内は走っている時にフランドール様に紅茶が飲みたいと言われ入れてきて今の状態がある
「○○ー落ち着こうよ、きっと咲夜も本当にそう思ってないからさ」
「いや、絶対本気でロリコンとか思ってるはずだあのSメイド長は・・・」
 間違ってもPAD長と言ってはいけないナイフで串刺しにされるから
 やはり吸血鬼の従者も串刺しが好きなのだろうか
 そんな事を考えていたらフランドール様がすぐ横に居た
「ねぇ○○」
 呼ばれたので体を横に向けつつ起きる
「何ですかフランドール様」
 そう言った後に
         ズキュウウウン
 KISSされた。
 そしてさらに押し倒された。 
「えへへ、KISSしちゃった。」 
 かわいいなちくしょーと冷静にニヤニヤしてると
 物凄い音を立てて吹き飛ぶ扉
「そこまでよ!!」
 そこに現れたのはメイド長、咲夜であった。
「やっぱり○○はロリコンだったのね!!」
「ロリコンじゃねぇって!・・・・・・・多分」
「嘘ね、押し倒されてもニヤニヤしてるじゃない、嫌なら拒むはずよ!」
「ねぇ○○?」
「何ですか?、言わなくても分かる気がしますが」
「そう、ねぇ○○なんでロリコンなの?」
                             END


この後咲夜さんとフランドール様によって大規模な戦闘が起こり地下室、妹様私室は壊滅となり
俺の部屋にフランドール様が来て一緒に寝よう?と言われ大規模な戦闘が起こるのはまたのお話






~妹様私室、押し倒される時からの派生~  ヤンデレ注意
おkな方は下へ













         ズキュウウウン
 KISSされた。
 それも飛び切りディープなやつ
 舌と舌が触れ合う、触れ合った後に何か飴玉のような物を飲まされる
 ほっぺにでも入れていたのだろうか、まるでハムスターだなと思っていた。
 そしてさらに押し倒された。
 俺は気づく、体がしびれて動かない・・・
 さらに俺の体に乗り、俗に言う馬乗り状態
「フランドール様、何を・・・」
 ○○にまたがり、独白を始めるフランドール
「この前○○が病気になって死に掛けたことがあったよね、あの時思ったんだ
 人間の体はこんなに脆い、その上寿命も短い絶対今のままだったら○○はいつか私の前から消えちゃうそんなの嫌、だから
 ○○を眷属にしようと思ってね。そうすれば一緒に生きていける、死別することもないと思ってね。」
「フランドー」
 フランドールの名前を呼ぼうとした唇はフランドールの唇によって塞がれる。
 それによって○○は黙らざるおえない
 そして唇と唇が離れる
「だめだよ○○、今は私がお話してるんだから、お話遮ったら嫌だよ
 でね眷属の話だけど私、力を調整できなくて殺してしまうかもしれないから痺れ薬を使って痺れさせてるの
 今から血を送るね・・・」
 そういった後に俺の首に口を付け、血を吸う
 そして何か、よく分からないモノが入ってくる、これは・・・
「フラン、ドール様・・・アッァアア・・・・」
 口から言葉がでず、出るのはよく分からないモノのみ
 自分が意識が途切れそうになりながらも意識を保つ・・・
「ズットズットイッショダヨ、○○・・・」
 妖しく、艶っぽくそう言った
「フラン、ドール、サマ・・・」
 自分の意識が途切れる前にそう呟いた
 
                                       HappyEnd?


うpろだ1384

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 目を覚ます。相変わらずの紅色。
 外からの光を受け入れる窓は、カーテンで遮断されていた。
 身体を起こす。メイドが食器を乗せたお盆を近くのテーブルに置いて去っていく所だった。

「おはよう」

 メイドと入れ違いで、レミリアが部屋に入ってくる。
 おはよう、と返してやると、俺のベッドに腰掛けてきた。

「まだ身体動かしづらいでしょう? 私が食べさせてあげるわ」

 レミリアがお盆を自分の膝に乗っける。
 自分でやるよ、と言いながらレミリアのお盆を掴んで持ち上げようとするが、持ち上がらなかった。
 その様子を見たレミリアに笑われたので、大人しくレミリアに任せることにした。
 料理をフォークに刺したかと思うと、俺の方に持ってくる。

「はい、あーん」
「…………」
「あーん」

 気恥ずかしいが、ここまでやってもらって断るのもあれなので、甘んじて受ける。
 口の中で咀嚼して味わう。いつもと違う味だが、いつもよりも美味しく感じる。
 俺の様子を見ていたレミリアが嬉しそうに笑うと、今度は紅茶の入ったカップを俺の口に持ってくる。
 カップに口を付けて中身を少し飲むと、すぐに離され、今度はレミリアがその紅茶を飲んだ。


 違和感。
 いつもと何かが違う。
 遮断されたカーテン。
 身体が動かない自分。
 同じ紅茶を飲む人間と吸血鬼。
 お盆を掴んだときに見た、自分の血の気の無い、白い手。


 カーテンから微かに漏れた光に、指先を当てる。
 あ、っと驚いたようにレミリアが声を上げる。
 焼けるような痛みを感じた後、光に当てた指先がさらさらと気化していく。
 光から避けると、しばらくしてから生えてくるように、元に戻った。
 これが意味することを理解するのは、簡単だった。
 俺をこうしたであろう、

「どういう……こと、だよ?」
「あら、言ってなかったの?」

 もう咲夜ったら、と口を尖らせた後、俺を見て嬉しそうな顔でこう言った。
 貴方は私の眷属になったのよ、と。
 その言葉を聞いて、ある出来事を思い出す。


  ――嫌だ……俺は人間でいたいんだ!
 『そうよ、もっと恐怖なさい。そうすれば、貴方の血は極上の物になる』
 『でもね、貴方が悪いのよ。私に時間をくれ、なんて言って外に逃げ出そうとするから』
 『ちゃんと時間を与えてあげた私の想いを無碍にして逃げ出したんだから……』


 絶望感が心を満たしていった。
 俺は人間を辞めた。辞めさせられた。

「ぅ……ぁ……」

 何も見えない。
 血色が混じった肉料理も。
 紅茶という名の人間の血も。
 吸血鬼の狂気を携えた瞳すらも。

 何も、見たくない。

「大丈夫よ、安心して」

 耳障りな息が耳にかかる。

「自由になりたかったのでしょう?」

 そうだった。でもお前のせいで、もうなれない。

「あなたは、もう自由なのよ」

 嘘をつくな、勝手なことを言うな。

「私の眷属になるという事は吸血鬼になるという事。つまりは妖怪の頂点に立つということ」
「誰も、あなたを蔑まない。外に出ても、吸血鬼というだけで、大抵の人妖はあなたをみんな敬う」
「私だって、あなたと一緒になれて嬉し――」

「うるさいんだよ、もう話しかけ――っ!?」

 我慢の限界を迎えて罵声を浴びせようとした瞬間、肩に激痛が走った。
 レミリアが肩に置いていた手に力を込めて握ったらしい。
 見ると、悲しそうな表情で俺を見ていた。

「○○、痛いでしょう? 私も痛いのよ」
「自分から、やってる癖に……!」
「○○が分かってくれないからよ。本当はもう自由だって事に」
「俺の求めてた、自由と違う……」
「じゃあ聞かせてもらおうかしら。あなたの求める自由を」
「この紅魔館から抜け出す事――ぐあぁっ!」

 肩に乗せた手に、更に力が込められた。バキボキと嫌な音がはっきりと耳まで届いた。

「そんなの、自由じゃないわ」
「――っ、――っ!」

 肩の骨が折られた痛みとショックのせいで声が出ない。

「それはまやかしの自由よ。ここを出た所で、待っているのは絶望だけ」

 愛しそうに肩を掴んでいない手で俺の頬を撫でてくる。
 目が合う。いや、目を合わされる。
 現実を見ていない。
 幻想しか見ていない。
 濁りきった紅い瞳。
 絶望が、恐怖に塗り替えられる。

「あなたは、私と一緒にいることが一番の自由なの」
「それが――あなたの運命なのよ」

  そうか、そうだったのか。
  俺は運命を操られていたのか。
  だから、だからだから。
  ここから逃げられなくなっていたのか。
  もう逃げられないのだろうか。
  むしろ、今考えたところで、すべてむだなのかもしれない。
  かのじょのけんぞくになったじてんでおれはもう――ひかりにあたることはできない。

 骨まで砕かれた肩を、申し訳為さそうに撫で摩ってくる。
 愛しそうに目を細めて頭を撫でられる。
 甘えるようにほお擦りされる。
 求めねだるようにキスされる。
 抵抗する気力は、もう無い。

「ふふ、物分りが良いわね、○○。あなたのそういう所が、とても好きなのよ」

 瞼から溢れる涙も、きっと嬉しくて泣いていると勘違いされるのだろう。
 左目はレミリアが拭ってくれた。右目は自分で拭った。
 自分の涙に色は無い。血のような紅色ではなく、無色透明の透き通った物だった。
 これが、俺が人間だった最後の証のように思えた。

うpろだ1488

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「ねぇ○○、芋虫から蛹になって蝶になるのよ」
「はぁ?それがどうかしたんですか?」
唐突に意味不明な話を降られた、彼女は何を言いたいのやら
「蛹になるとね、一度身体をどろどろにして蝶の体に作り変えるのよ、芋虫と蝶じゃ生活圏も食性も違うからね」
「・・・?」
解からないがいつもの雰囲気ではない、あの桜を見る時のような眼だ
「凄いわよね、身体を溶かして再構築、死んで生まれ変わるようなものじゃ無い?」
「何を・・・言いたいんですか?」
少し嫌な感じがして、悪寒を感じて、
「貴方も蝶になりたくはない?」
やはりそう来たか、と思った
人間である俺と亡霊である幽々子様では寿命が違う、違うというか寿命があるのかも疑わしい
「私のために死ねる?」
私のために、それは反則だろう、断るものも断れない、でも・・・
「幽々子様・・・私は」
どっ、という鈍い衝撃が、背中に・・・
後ろを振り返れば見慣れた顔があった
「よ、う夢、なんで」
「・・・」
意識がとぶ、肝臓か腎臓か、内臓を刺された俺はあっけなく命を落すのであろう
最後に幽々子をみた
「この閉じた箱庭で永遠を」
そこで俺の意識は途絶えた

8スレ目 >>319 (幽々子3より移転)

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「ところで、○○、何で今日はあの魔理沙と話し込んでいたのかな?」

「な…どうでもいいだろ」

「よくない。私の時計では23分52秒も話していた。あの盗っ人、今度は人の彼氏まで手をつけるつもりかしら」

「アリス、誤解だって。魔理沙とはそんな話はしていない」

「あなたは魔理沙を知らないからそう言えるのよ。少し興味を持ったらどんな事をしてでも持って行くわ。人に断りもせずにね」

「○○は騙されているのよ。あの女の言うことは信じちゃダメ。ニコニコしている裏でどんな事を企んでいるか」

「ああ、かわいそうに私の大切な○○。魔理沙に騙されているなんて。大丈夫私があの女の事なんて忘れさせてあげる」

「もう私のことしか考えなくていいから。何 も か も 忘 れ て ね ?」

 アリスは一方的にそのような事を言い続ける。しかし目がやばい。なんと言うか…廃人とか、そんな人の目だ

「ア、アリス何を言って……」

「そうだ、○○を私の人形にしちゃいましょう。私の事しか考えられない様に、私としか話せないように、私だけを愛するように」

「……ひ、ひぃぃぃぃぃぃ!!」

 俺は走った。今のアリスはまともじゃない。本気で人形にされかねない。

「あら、どこ行くの? 鬼ごっこ? いいわ、すぐ捕まえてあげる」

 とはいっても、所詮アリスとは能力が違う。ただの人間に逃げ切れるはずがなかった。

「ウフフ、つーかまえた!」

「放せ!」

 必死に抵抗するが、容易に抑え込まれてしまう

「さぁ、私の家へ行きましょうか」



_______________




「アレ、オレハ?」

「おはよう○○。よく眠れた?」

「アア、オハヨウアリス」

「嬉しい! そうだ、○○に色目を使っていた魔理沙は、殺しておいたわ。森の最も奥に始末したから安心してね」

 アレ、ナニカタイセツナコトヲワスレテイルヨウナ……
 ナンダッケ?オモイダセナイ……

「もう、また考え事しているの?いつもそればかり。○○の悪い癖よ」

「ゴメンネ、アリス。デモ……」

「私たちは昔からここに住んでいたでしょ。あの悪い魔法使いが私にひどいことしたのよ。○○のおかげで助かったのだから」

 ソウダッケ?

「ひどい! ○○は私が嘘をついているというの!」

「チ、チガウヨアリス。アリスハダイスキダヨ」

「本当に?」

「ホントウダヨ」

 チュ。

「も、もう…○○はずるいんだから…」

「これからもよろしくね…○○」

___________________

 アリスの日記
 ●●月△△日

 どうやら、まだ人間だった頃の記憶があるみたい。
 完全に記憶は消したはずなのに。でも、逆に考えると、まだまだ私は○○をいじれるということ。そのうち、
 ○○の心さえも私の虜にしてあげる。今は……その時の事を楽しみにしていよう。私は、○○無しでは生きられないのだから。
 それに人間を辞めて、人形となったことで私さえも驚くほど強くなった。
 もしかしたら、力関係が逆転して私が嫁に貰われてしまうかも……それも楽しみだ。

避難所1スレ目>>25

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ほら、あなたのことをぎゅってするじゃない。

そうするとね、必然的に厄があなたにも溜まるわけ。

でも大丈夫、貴方の厄は私が吸い出してあげる。

……あら、どこにいくの? 危ないわよ?

まったく、すぐ目を離すと厄まみれのまま帰ろうとするんだから。

それじゃ里の人間達にも厄がいってしまうじゃないの。

…そうだ、私のリボンをこうして、こう結べば……。

ふふ、これでもう私と離れられないわね。

大丈夫、貴方は私とずっと一緒なんだから……。

ずっと、ずぅっと守ってあげる。


避難所1スレ目>>28
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